モンスター愁悔所 作:ボックスティッシュ
飛竜種、牙獣種、獣竜種。魚竜種、蛇竜種、鳥竜種。さらには古龍種の姿も。其処にはありとあらゆる種族のモンスターがいた。
それは人間たちにとってまさに地獄のような光景だろう。此処にいるモンスターたちが一斉に人間の住む場所を襲えば、人間の世界は崩壊する。それだけの力が此処に集まっていた。
そんな此処は、モンスターの楽園とでも呼んでいい場所。人間の力を遥かに凌駕したモンスターたちの集まる、おどろおどろしい空気で溢れた場所なのだ。……本来ならば。そう。本来ならば、だ。
此処に集まっているモンスターたちが一斉に人間たちと戦えば、間違いなくモンスターは勝利を手にすることができるだろう。
しかし、それはできないのだ。だってそういう設定だもん。そのようにこの世界はできているのだ。
どれだけ多くのモンスターがいようと、人間と戦えるのは一度に2頭が限界。それ以上は同時に戦うことができない。
そうだというのに、人間たちは最大で同時に4人もモンスターに襲いかかってくる。ずるい。
誰かが叫んだ。
「どっちがモンスターだよ!」
しかし、そんな叫びが人間たちに届くことはなく、何事もなかったかのように消えていった。
人よりも遥かに強大な力を持つモンスター。その力を使い人間の世界を蹂躙する。此処はそんなモンスターたちの集会所。
そんな場所だというのに――この場所は何時だって悲壮感で溢れていた。
此処はモンスターたちが抱えたやり場のない怒りや悲しみ、そんな気持ちでいっぱいの集会所。
そんな集会所で繰り広げられる日常を言葉にしていこうと思う。
◆ ◆ ◆
誰がそう呼び始めたのかは分からないが、いつの間にかこの集会所は“愁悔所”などと呼ばれるようになった。最初はただの自虐ネタだと皆笑っていたが……いつの間にか笑うものもいなくなった。
それほどにモンスターたちは追い込まれていたのだ。人間――ハンターたちによって。
「サングラスをください」
そんな言葉を落としたのは空の王者と呼ばれる火竜――リオレウスだった。
その大きな翼を使い空中戦を得意とし、口からは炎を吐き出すこともできる。雌火竜と比べて体力は少ないものの、その火力は高くこれまで何人のハンターをなぎ払ってきたのか分からないほどの実績を持つ。
そんなリオレウスですら、そろそろ限界だったのだ。
その名の通りレオレウスは空中戦を得意とするが……ソレが仇となってしまった。
それもこれも、閃光玉と呼ばれる道具がいけない。閃光玉から出る強烈な光りはモンスターですら目眩を起こす。そんな強烈な光りを飛んでいる時に受ければ、もう地上へ叩き落とされるしかない。それを良いことに、リオレウスと戦うハンターたちはまるで鬼のように閃光玉を投げてくる。酷い時は目眩状態になっていない時の方が少ないくらいだ。
じゃあ、飛ぶなって話だが、ぶっちゃけ飛ばないとレオレウスは弱い。自慢のブレスも出している最中は隙だらけだし、他の攻撃は出が遅く火力もない。それに空の王者なんて呼ばれるくらいだからやっぱり飛びたい。
それに、例え閃光玉で空中から叩き落とされなくなったところで……
そして、そうこうしている間に、レオレウスはクエストへ出発していった。
どうやら、火竜の紅玉を求めているパーティーがリオレウスを乱獲しているらしい。多分、3分くらいで帰ってくることになるだろう。
飛竜種の代表と呼んでも良いリオレウスですらそんな状況。むしろ、レオレウスはまだ良い方なのかもしれない。他のモンスターから会長なんて呼ばれるラージャンなど、連戦に次ぐ連戦で目が死んでいるのだし。
とはいえ、モンスターたちだって、ただただ黙って狩られているわけではないのだ。ハンターにボコボコにされた経験を活かし、それを改善することだってできている。
しかし問題なのは、それ以上に人間の適応力が高かったことだろう。
人間は――ハンターはモンスターを遥かに超えるバケモノだった。
MH4となり増えたギルドクエストという新しいクエスト。
通常のクエストではただ蹂躙されるだけであったモンスターがその限界を超え、甘ったれた防御力のハンターなどは一発でベースキャンプへ送ることができるほどの火力を手に入れた。
そのことをモンスターたちは喜んだ。もうただただ狩られるだけではなく、今度は此方の狩る番が来たのだと。回避性能+3とかいう理不尽すぎる能力に絶望していたモンスターたちも、この時ばかり喜んでいた。
しかし、そんな喜びも長くは続かなかった。
そんじゃ、今日もハンターどもを蹴散らして来るわ。なんて笑いながらクエストへ向かっていったラージャン。
そんなラージャンが1分後、両角を砕かれ、落とし穴にハマったまま帰ってきた。
愁悔所に広がる衝撃。その時、何が起きているのか理解できたモンスターはいなかっただろう。ギルドクエストはモンスターたちにとって唯一の心の支え、最後の砦だった。
そんな最後の砦ですらもう崩壊しかかっている。
そして、休む暇などなく次のギルドクエストへ向かっていくラージャン。
その時からだろう。ラージャンの目から光が消えたのは。
怒涛の20連戦を終え、漸く休むことのできたラージャンの話をまとめると、ハンターを見つけたと思ったらいつの間にか寝てしまっていた。そして、当たり前のように爆弾で叩き起こされ、さらに今度は痺れ罠によって身体が痺れ始めた。なんとかシビレ罠を破壊したら、次は麻痺弾による痺れで動けない。その間、ひたすら貫通弾で打ち抜かれ続けたせいで朦朧とする意識の中、どうにか痺れていた身体を動かし、怒り状態へなるためバックステップ。
そして、その場所には落とし穴が。
もう笑うしかなかったとラージャンは言っていた。
落とし穴へハマった後は捕獲玉を投げられそれでクエスト終了。その間、1分もかからなかったそうだ。
そんなラージャンの話を聞いたモンスターは戦慄した。ギルドクエストができたことで自分たちは完全に優位なったと思っていたのだ。しかし、それもただの夢幻として消えてしまった。
それでも、そんなラージャンの話を聞いてもモンスターたちにはまだ希望が残っていた。
ラージャンが完全にハメられたのは、罠による影響が強い。
じゃあ、そもそも罠の効果を受けない古龍種ならばハンターに勝つことができるのだろう。モンスターたちはそんな希望を持っていた。
そんなモンスターたちからの希望を一心に背負い、鋼龍――クシャルダオラが立ち上がった。
古龍の良心などと馬鹿にされ、閃光玉を使われればボコボコにされるし、風の鎧を貫く貫通弾には本当に弱いが……俺ならハメられない、と自信満々に言葉を落としたクシャルダオラ。
いくらハメられなくても既にボコボコにされているのだし意味ないじゃん。とかそんなことを他のモンスターたちは思わないでもなかったが、もうそんなことはどうでも良かった。一切の攻撃を許されないハメはモンスターにとって最大の屈辱だったのだ。
モンスターたちの希望を背負い、その背中に多くの声援を受けるクシャルダオラ。
「……あとは、頼んだぞ」
まだ目の焦点が合っていないラージャンがクシャルダオラに向けて、小さな小さな言葉を落とした。
そんなラージャンの言葉に対し、クシャルダオラは尻尾を挙げて応えてから、ギルドクエストへと向かっていった。
滅龍弾の速射を顔面に受け続け、何もできずにクシャルダオラが帰ってきたのは、その2分後のこと。
◆ ◆ ◆
気がつけばハンターたちはバケモノになっていた。
別に自分たちが驕っていたわけではないと思う。自分たちはいつだって全力でハンターと戦ってきたのだから。
詰まるところ、あのハンターたちが異常なのだ。
此方がどんなに策を練ろうが、どれだけ強大な力を手に入れようが、アイツらは平気でそれを乗り越えてくる。
挙げ句の果てには、金冠マラソンとか言って乱獲はされるし、防具縛りとか言って舐めプもされる。これじゃあどっちがモンスターか分からない。
しかし、モンスターたちにはそんなハンター共に抵抗できるだけの力がないのだ。黙ってただ狩られるだけではないが、アイツらの成長速度には適わない。
そんなんだから、モンスターだって愚痴のひとつや二つくらい溢したくもなる。
これはそんなお話だ。
続く! のかなぁ