The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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第11話 流花 -前編-

「へぇ~、センちゃん、って言うの?」

 

 センを膝の上に乗せ、燈がセンの髪を弄りながら言う。

 

「うむ、今日から世話になるぞ、祖母上様」

 

「あらやだ、吼太ったらお嫁さんを貰う前に子持ちになっちゃったのね~」

 

 そう、何故か楽しげに言いながら、センの髪をリボンで縛る燈。別段髪が長い訳ではないが、それでも弄り回さない理由にはならないらしく、あれでもない、これでもないとセンを様々な髪型に変えていく。

 

「母さん、言うことそこ!? 他に気になるとこあるでしょ!?」

 

 見かねた吼太が燈に向かってツッコミを入れる。センはと言えば、髪を梳かれるのが気持ちいいのか満更でもない表情で身体を預けている。

 

「母さんは気にならないの!? そりゃあ連れてきたのはオレだけどさぁ、だからって――」

 

「だって吼太が連れて来たんだもの」

 

 ぴしゃり一言。それで吼太の言葉を封じてしまう燈。

 

「勿論、私だって最初はビックリしたわよ。でも、世界で1番大切な私の息子が、この子を住まわせてくれって言ってるんだもの。きっと何か、言えないけどそうしなきゃいけない理由があるってことでしょ」

 

 それに――と言葉を繋げる燈。

 

「話せるようになったのなら、吼太はちゃんと話してくれる。そんな子だって信じてるから」

 

「母さん…………」

 

 

 

 

 

「……で、本音は?」

 

「ぶっちゃけ、理由より吼太とかわいい女の子がここにいることのほうが重要ですもの~。ねぇ、もしかして他にも来たりするの?」

 

「え? う、うん。一応上手くいけばあと四人増えるかも」

 

「やーんもう、楽しみー!」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 そんなことがあった昨夜。さて、今日も今日とて異世界旅行なわけだ。

 

「随分と生活感溢れる場所にある転移ゲートだな」

 

「やっぱりそう思うよね」

 

 センの正直な感想に、リームが苦笑いを浮かべる。

 

「さぁ、行きましょう」

 

 そして、その転移ゲートを設置した張本人であるトゥードはというと、特に何か反応したわけでもなく、普段通りの態度だ。たまには違う表情を見せて欲しいもんだけどな。

 

 まぁ、特に問題もなかったので、普通にゲートに入る。魔法陣の光に包まれ、行き着いた先は――

 

「砂漠の次はジャングルか」

 

 湿度の高い空気、これでもかと生えている木々。何処からどう見てもジャングルだな。

 

「暑いぃ~~~……」

 

 リームの言う通り、確かに暑い。熱帯地域なんだろうけど、それにしても暑い。ただ、それだけにしては何かおかしいような……。気のせいか?

 

 ともかく、まずは周辺の調査だ。誰か人間か、そうでなくても意思の疎通が出来る奴がいたら嬉しいんだけど……。いない場合は流石に面倒だ。

 

 というのも、センの場合とは違い、ここはジャングル。どこを向いても似たような景色なのは砂漠も変わらないが、砂漠とは違って見通しが悪い。加えて、木の根や木葉などが地面を完全に覆っており、物が入り込んでしまえば見つけるのは難しいだろう。探すことが困難であることは、容易に想像がつく。

 

 そうなると、現地の情報を持っている人間がいることがベストなんだけど……。

 

「ここに留まっていても仕方ありません。マスター、ここは先に進むべきかと」

 

「……だな。リーム、セン。あまり離れて行動しないように。逸れたら迷子になるぞ」

 

 そう言い、とりあえず目の前に向かって一歩を踏み出す。

 

 その瞬間だった。

 

「うぉうっ!!」

 

 片足を何かに取られたオレは体勢を崩し、滑るように"下"に落ちていく。

 

「コータ!」

 

 オレを助けるために来たのだろう、リームが飛行魔法を使いながら手を差し延べてくる。オレは迷うことなくその手を掴む。

 

「ユニオンアップ!」

 

『我、汝に力与えん』

 

 リームと合体したことで、リームの飛行魔法がそのままオレに効果を及ぼすようになる。既に慣れた空中浮遊の感覚に、安心感を覚える。

 

『よかった……大丈夫コータ?』

 

「お陰でな」

 

 リームが来なかったらどうなっていたか……。本当に助かった。

 

「マスター、無事ですか?」

 

 トゥードも、センを肩に担いだ状態で空中を駆け降りてくる。その表情は珍しく少し慌てたもののような――いや、そんなわけないか。

 

「しかし、これはなんだ……?」

 

 オレが歩いていた場所は、確か地面の上だったはずだ。なのに、ありゃあどう見ても――

 

「なんで……地面の下に"雲"があるんだ!?」

 

 雲があるってことは、普通に考えればここが空ってことになる。勿論、地下に雲が出来ないわけじゃない。だが、眼下に広がる景色は、地下というには空間的に余りに広すぎる。加えて、周囲にはあって然るべきはずの"地面"が見当たらない。

 

「マスター、恐らくここは――」

 

 そう。あの地面が地下でないならば、答えは一つ。

 

 ここは、地上の遥か上。空中にある大地ということだ。

 

 

 

 

 

「トゥード、どうだった?」

 

 差し当たって辺りの状態をまとめる必要が出てきたオレ達は、トゥードに一人で周辺の探索とマッピングへと行ってもらっていた。何故トゥードを、それも一人で行かせたかといえば、単純な消去法だ。まず、オレやセンは飛行が出来ないから、移動に時間がかかる。よって除外。リームは飛行は出来るが直接戦闘が苦手なので除外。オレとトゥードの合体は移動力が無さすぎなので除外。オレとリームが合体した場合は大丈夫に思えるが、隠密行動が必要になった場合に困る。そういったわけで、トゥードの単独行動に決まった訳だ。

 

「そうですね……一先ず、この場所が地上より遥か高い位置にあることは間違いありません」

 

 やっぱりか。リーム達も頷き、その言葉に理解を示す。

 

「ただ、この場所は浮遊している訳ではなく、巨大な支柱に大陸が乗っているような形になっているようでし。……ここがどういった場所なのかは依然不明ですが――」

 

 そこで言葉を区切ったトゥードは、即席で書いたのであろう、地図を取り出し、その中心を指差す。話の流れからしてこの"浮かぶ大陸"の地図なのであろうその形は、綺麗に円を描いていることが分かった。

 

「この地点に、強力な魔法防御を確認しました。何かがある可能性は高いでしょう。他の行き先が決まらないのであれば、この地点を目指すのがよいかと思われます」

 

「だな。リームとセンもそれでいいか?」

 

 オレが言うと、二人が頷いて同意する。

 

「僕はいいよ」

 

「我も構わんぞ」

 

「よし、じゃあ距離もあるし、コイツに運んでもらうとするか」

 

 オレはユビキタスサークルを指輪からベルトへと変化させ、その中心に意識を集中させる。目の前に現れたのは、異形を喚び出す門。

 

「コール・クリーチャー! アーモン!」

 

 銀河にも似た門から、巨体が現れる。まず現れたのは三本の巨大な角。続いて、その角を支える頭。やがて現れる身体には機械的な部位も見えるその生物は、以前初めてアーマーフォームになった際に戦った、あの巨大生物だ。

 

 あの戦いの後、この巨大生物を従えていた男は、気がつくや否や逃げ出してしまった。必然的に残される巨大生物。残されたコイツを放置する訳にもいかず、とりあえず裏山に移動させて、餌とか与えたりしてみたら予想外なことに懐いてしまったんだ。んで。そのまま仲間になったと。コイツのパワーは他の召喚獣と比べても目を見張るものがあるから頼りになるし、ユビキタスサークルの中にはいって貰えば隠しやすい。結果としてはいい感じだ。

 

 ちなみに、名前のアーモンは、アーティフィシャル・モンスター――人工の怪物を略したものだ。人工と付けたのは機械とかが付いてたから。安直とか言うな。

 

「ちょいとお前の脚を借りたいんだ。頼めるか?」

 

 オレが聞くと、アーモンはその巨大な首をゆっくり頷かせる。こう見えてアーモンは、あまり角を使いたがらない。どうも、この角は"後付け"らしく、常に違和感があるらしい。いつか外してやりたいな。

 

「よし、皆、アーモンの背中に乗れ!」

 

 オレに続き、リーム達がアーモンの背中に乗る。

 

 全員が乗ったことを確認すると、アーモンは最初はゆっくりと歩みはじめる。早く走ることも勿論可能だが、そんなことをすればオレ達は簡単にふるい落とされてしまう。それでも、そもそもの歩幅が違うオレ達とアーモンでは、同じ歩くという行為でもスピードが段違いだった。

 

 ゆっくりとアーモンの背中で揺られながら、オレは周りの風景を眺める。すると、次第に違和感が何だったのかが分かってきた。この場所は確かに沢山の草花があり、自然に満ちた光景だ。しかし、自然に満ちた場所ならば当たり前のようにあるはずの物がなかったのだ。

 

 それは、動物。哺乳類や爬虫類は勿論、空には鳥もおらず、花はあっても虫はいない。およそ動物と呼べるような存在がいなかったのだ。

 

 植物しかいない、空の大陸。ならばここは何故、"生きている"のだろうか。

 

 植物と動物は相互に依存しあう関係を持っている。植物を動物が食べ、植物を食べた動物の糞尿や死体といったものはやがて植物が成長する土壌になる。植物から栄養をもらった虫が花粉を運び、植物は広く繁殖する。だが、動物のいないこの場所では、植物はやがて死滅するだけのはずなのだ。しかし、現にここには植物が満ち溢れている。何故、こんな矛盾が……?

 

「コータ、見えてきたよ!」

 

 リームに言われ、前を見てみれば、そこには何やら巨大な繭のようなものが見えた。あれが恐らくは中心なのだろう。

 

 全員が降りた後アーモンを送還し、その繭に近づいて行く。が、途中で見えない壁に阻まれ進めなくなってしまう。恐らくはこれが魔法防御なのだろう。

 

「トゥード、この魔法防御は破れそうか?」

 

 オレが聞くと、トゥードは神妙な顔になる。

 

「難しいですね。現状、我々の持つ最も威力の高い攻撃方法はエクスドリルによる刺突ですが、それでも貫けるかどうか……」

 

「分からないんならやるしかないだろ。リーム!」

 

「あいあいさー! 『我、汝に力与えん』」

 

「ユニオンアップ!」

 

 オレの身体にリームが合体し、オレに力を与えてくれる。漲る力を感じながら、オレはユビキタスサークルからドリルを取り出し、エクスリングを合体させる。

 

「うおりゃアアアアッッッ!」

 

 裂帛の叫びと共に突き出したエクスドリルは、魔法防御に阻まれ激しく唸りを上げる。凄まじい回転をするドリルが火花を散らすが、これは魔法防御が削れているのか、はたまたエクスドリルが削れているのか。

 

「くぅ……!」

 

『硬い……!』

 

 リームも自身の魔力をエクスドリルに送ってパワーを上げているが、それでも貫けない。

 

 魔法防御とエクスドリルがぶつかり合うことによって生まれたエネルギーは徐々に蓄積され、やがて巨大な爆発となってオレ達を吹き飛ばしてしまった。あまりの爆発に、リームとの合体が解除されてしまう。

 

「くぁっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 地面にたたき付けられるオレとリーム。それそのものはたいしたことはない。が、問題は目の前の魔法防御だ。

 

「痛た……まさかドリルの先っぽも入らないとは……」

 

「相当に硬い魔法防御だな。これを破るのは骨が折れるぞ、父上」

 

 センが魔法防御を観察しながら言う。確かに、これはかなり難しそうだ。

 

 最も威力がある攻撃がエクスドリルによる刺突なら、必然的にそれより威力の低いドラゴンソニックによる攻撃は効かない。後はリームの凍結やセンの特殊能力だが……。

 

「コータ~、凍らせて砕こうと思ったら、魔法が効かないよ~……」

 

「我もだ。魔法防御に強制的に終わりを付加すれば無効化出来るのだが、よもやここまで魔力が強いとは……」

 

 センの言うとおり、魔法どうしのぶつかり合いでは、魔法に魔力をどれだけ篭められるかが重要になる。相性による補正もあるが、そういった補正が無ければ、結局魔力の多い魔法が優先して発動される。非常にシンプルな話だ。

 

 しかし、リームやセンの魔法が効かないとなると、本格的に打つ手がなくなってしまう。エクスドリルをアーマーフォームで使えれば或いは……と言いたいが、トゥードいわく憑依種由来の力を持つエクスドリルはアーマーフォームと相性が悪いらしい。なのでこれも却下。もし魔法防御に流れ込んでいる魔力が減れば、リームやセンの魔法が通じるのだけれど……。

 

 そこまで考えていた、その時だった。

 

「……コータ、沈んでる! 沈んでるよ!」

 

「え?」

 

 リームに言われ、しかしまさかそんなことがあるわけないと下を見たら。

 

 既に下腹部辺りまで地面に沈んでいました。

 

「って待てぇぇい!? なんじゃこりゃあ!?」

 

「コータ、僕の手を掴んで!」

 

 リームが、先程落ちた時のように手を伸ばしてくる。だが、沈むスピードは予想外に速く、オレはリームの手を掴むことなく、地面の底へと潜っていってしまった。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 気がつけば、オレは何処かうすぼんやりと明るい、奇妙な空間にいた。どうやら、潜ってきたオレはこの場所に落ちてきたらしい。

 

「っ……怪我しちまったか」

 

 右手が真っ赤に染まっている。痛みは右肩からしているので、そこから流れているようだ。一先ず、傷口を左手で圧迫して止血する。幸い、見た目ほど酷くなかったのか、血は直ぐに止まった。

 

「しかし、ここは何だ? あの大陸の地下って訳にしては何だか暖かいし……」

 

 状況を把握するべく周りを確認する。戻るにはさっきの場所から上に登るか、側面に穴を掘ってそこから方向転換するしかないようだが、天井はかなり高いから届かない。なら側面の壁か。

 

 試しにドリルを突き刺してみる。ドリルの先端は予想外にも上手く刺さった。これなら……!

 

「どわっ!? なんじゃこりゃ!」

 

 しかし、物事がそう都合よく進む訳ではないようで、ドリルを回転させはじめた瞬間、突如としてドリルの刺さっていた穴から大量の水が間欠泉のごとく噴き出してきた。回るドリルが結果的に水を掘り進む形になったために吹っ飛ばされることこそなかったものの、このままドリルで進むのは無理そうだ。ドリルの回転を維持したまま、ゆっくりと後ずさると、不思議とドリルの空けた穴は徐々に塞がっていき、やがて元通りになってしまった。

 

 他の方法を探すしかないと悟ったオレは、とりあえず、何処かに抜け道がないか探してみることにした。

 

 そして、早速行動し始めた、その時。

 

 

 

 ――…………し…………。

 

 

 

「ん……?」

 

 何か、声みたいな音が聞こえたような……。

 

 

 

 ――も……し……。

 

 

 ……やっぱり聞こえる。

 

 エクスドリルを構え、周囲を警戒する。リームやトゥード、センがいない今、襲われるのはちょっとキツイが、贅沢は言っていられない。オレはこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。

 

 

 

 ――もし…………。

 

 

 

 徐々に、はっきりと聞こえはじめる声。ただそれは、声の主が近づいて来ているというよりかは、オレの耳がその声に慣れていっているような、そんな不思議な感覚だった。

 

 そして、ようやく声が完全に聞き取れた。

 

 

 

 ――もしもし。

 

 

 

「……電話ですか?」

 

 ――違います。

 

 

 

 

 

「それ本当なのか!?」

 

 ――はい。信じていただけるかどうか、心配なのですが……。

 

「信じるも何も、他に情報が無いからなぁ……。だけどビックリだ。まさかここが、とてつもなく巨大な"花"だったなんて」

 

 そう、"声"の主の正体は、この大地――ではなく、この"花"の意思そのものだと言うのだ。

 

 だからといって、別にこの花は元からこんなに巨大だったわけではない。本来はごくごく普通の、小さな一輪の花であり、その頃はまだ意思も無かったらしい。

 

 だがある日、自分に意思があることに気づき、同時に自分が凄まじく巨大な存在になっていたそうだ。

 

 ――そして私は、花としては異常な程に永い時を過ごしてきました。幾多の命が生まれ、死んでいくのを見てきました。しかし私は、もうそれを終わりにしたいのです。ですが、私にはそうするために二つ、やり残したことがありました。

 

「やり残したこと?」

 

 ――はい。私が何故ここまで特異性を獲得したのか。その理由と、もう一つは子孫を残すこと。

 

 成る程。これだけ知性を獲得したんだから、自分が何故こうなったのか知りたいのは当然の感情だし、子孫を残したいのは知性に関係なくある感情だ。

 

 ――尤も、片方はもう達成しましたけど。私と貴方のかわいい、かわいい子供達。

 

 

 

 

 

「………………はい?」

 

 いや待て。今、彼女(女かどうかは知らないけど話し方は女っぽいし、女でいいだろ)は何て言った? 片方を達成した。これはいい。問題はその後だ。彼女とオレの……子供達?

 

 おかしい。どう考えてもおかしい。まず、オレは人間で彼女は花だ。仮に愛し合うことがあったとしても、子供が出来るかどうかはまた別問題だ。愛があるなら種族とかいろいろ乗り越えられるとか、そういうことは関係ないんだ。つーか百歩……万歩、億歩譲って子供が出来るとしよう。いつオレはそういう行為をした?

 

 ……ハッ、まさか気絶してた時に!?

 

「アンタ、さてはショタコンの強姦魔か!? 返せ! オレの純潔を返せ!」

 

 ――何故そうなるんですか!? 確かに出てた血液から、ちょっと遺伝情報を拝借したりはしましたが、それ以外には何も……。というか、そもそもこれには訳が……

 

「十分じゃねぇかぁぁぁ!? あぁ、まさかこの歳で子持ち……しかも、植物姦なんてことになるとは……」

 

 帰りたい……。純粋なあの頃に帰りたい……。

 

 ――落ち着いて下さい!

 

「無茶言うなアンタも! 帰らせろ! せめて今すぐ帰らせてくれ!」

 

 ――だから、そもそも私が無理矢理にでも今、子供達を作る必要があった訳を聞いて……ッッ!

 

 不意に、周囲が凄まじく揺れ動き始める。右と左が激しく逆転し、上下の感覚が曖昧になる。ただ事ではない状況に、オレの頭の中も泣き寝入りの態勢から切り替わり、状況の確認に移り出す。

 

 ここは花の中、恐らくは中枢。場所としては花びらの中が妥当だろう。もしそうならば、この場所はかなり高い場所にあるはずだ。それがここまで揺れるなら、逆に地上ではまだそこまで大きい揺れではないはずだ。ただ、心配なのは、万が一この揺れがさらに巨大になって襲ってきた場合だ。早めに行動を考えなければ。もたもたしてたら手遅れになりかねない。

 

 ――とうとう、始まってしまいましたか。

 

「アンタ、この現象に心当たりがあるのか!?」

 

 ――私が巨大な花だということは先程も話しましたね。そして、これだけ巨大な花が今なお生き続けている。……生存に使われるエネルギーは、途方もなく大量に必要であることは、容易に想像がつくでしょう。

 

「……っ! まさか!」

 

 オレの直感を肯定するように、花の意思は話し続ける。

 

 ――この大地、もっと言えば、この星が持つエネルギーは、既に尽きかけており、今も尚、死に向かって進んでいるのです。私も、自分に出来る限りのことをしましたが……。

 

 クッソ、そういうことか!

 

 星そのもののエネルギー……もっと言えば、星が持つ生命が尽きかけている。それはつまり、生物が生存するのに必要なエネルギーが、もうこの星には無いってことだ。だから自然が溢れていた花の上にも、動物がいなかった。地上も多分、ちゃんと観察すればあちこちに枯木があることに気づいたことだろう。この場所がまだ影響の少ない理由は、この花にはまだエネルギーがあるからなんだろう。

 

 星だって勿論、抵抗力は持っている。だが、それすら押さえ付け、この花にのみエネルギーを送り込む何かが、今この星を滅ぼそうとしている。

 

 ――花は、その花を散らす時に初めて子供を残せます。ですが私が子供を残したいと思った時この大地には、最早私と子供を作れるだけの生命力を持った生命体がいませんでした。貴方の協力が無ければ私は、星が死んだ後、子供を残すことも出来ずに間もなく死んでいたでしょう。尤も、今の状況では出来た子供も生き延びられは、しないのでしょうね。

 

「そういうことか……」

 

 だが、マズイ状況であることに変わりはない。とにかく、今はこの星にある謎を解かないと精霊も探せない。最悪、精霊を捨てて逃げ出さなければ、オレやリーム達も危ない。

 

 でも、だけど、そんなこと出来るはずない。見捨てられない、ほっとけない。オレの力で誰かを助けられるなら、助けるんだって、そう決めたんだ。

 

 理不尽な出来事で、無限大に拡がる未来を奪うことは、例え神様だろうと許されないのだから。

 

 そうだろ? ありす。

 

「なぁ、頼む! アンタがそうなった原因、何か心当たりはないか!?」

 

 ―すみません、詳しくは何も……。

 

 クソッ、せめて何があったのかさえ分かれば……!

 

 ただの花が、ここまで大きくなった理由。花の頂上にあった、謎の魔法防御。そして、精霊。繋がりがありそうだが、点と点ばかりで線にならない。だいたい、星一つ分のエネルギーが集束されているのに、何故この花は今にも枯れそうになっているのか。いくらこの花が大きいとはいえ、そこまでのエネルギーが必要な理由なんて……

 

 ……いや、待て。もしかしたら……!

 

「なぁ、一つ聞きたいんだが、恐らくこの直上、花の中心に何か重要なものがあったりしないか?」

 

 ―もしかしたら、それは――のことですか?。

  

 

 ……点が繋がった!

 

 オレが確信すると同時に、目の前に巨大な穴が出来る。どうやら、ここから出られるようだ。

 

 ―行って下さい。小さき方。そして出来るならば、私の名前を覚えていて下さい。私の名は――――

 

 

 

 忘れねぇ。アンタの名前。救ってやるさ、アンタの子供も

 

 

 

 

 

 真っ暗な穴を真っすぐ走り抜ける。今は一分一秒の時間が惜しい。星に残された時間がどれだけなのかは分からないが、さっきの地震からして、そう遠くはないはずだ。

 

 真っ暗な穴が不意に光に包まれる。オレは走る勢いのまま、光の中へと飛び込んだ。

 

 光が目に慣れてくると、そこが空中であると気づく。が、ある意味これは予想通り。花の下に落ちた後、横に抜けたんだから当然だろう。

 

 そして、彼女達なら、オレがこうして出てくることを予想していたはず。

 

「リーム、トゥード、セン!」

 

 彼女達の名前を全力で叫ぶ。間もなく、トゥードがオレの側に走り寄ってきた。センも肩に乗っている。

 

「ご無事ですか、マスター」

 

「なんとかな。それより、今は着地が優先だ。いくぞトゥード、セン」

 

 オレが言うと、二人が魔力粒子を光と変え、身を包みはじめる。やがて、その光はオレをも飲み込み、巨大な光の繭へと変わる。

 

『我、汝に力与えん』

 

「アームドオン!」

 

 繭が散り、オレの身体が赤い鎧に包まれる。身長も伸びているはずだが、生憎ここは空中なので、その実感は無い。

 

 とにもかくにも、まずは減速しなければ。このままの速度で落下したらただでは済まない。

 

「ドラゴンソニック・トライデント!!」

 

 両腕のドラゴンソニック。その爪状武器――ネイルを、槍型のトライデントに変化させる。そして、トライデントをドラゴンソニック内の領域に一旦収納し、腕を腰溜めに構える。

 

「いっけぇぇぇ!!!」

 

 腰溜めに構えた拳を突き出すと同時に、収納されていたトライデントをパイルバンカーのように、"空に向かって"射出する。

 

 元々、鈍重なこの鎧を纏ったオレを吹き飛ばせるだけの反動だ。空に向かって放とうとも、その反動の威力は変わらない。オレの身体は凄まじい勢いで、トライデントを放った方向の反対――巨大花の茎のほうに飛んでいく。

 

 だが、勿論それだけではない。オレはトライデントを再びネイルに変え、その強靭な爪を茎に突き立てる。すると、茎を引き裂く力がオレの落下速度を軽減し始めた。

 

 やがて、地面にたどり着くと同時に合体を解除する。目の前の茎に刻まれた傷痕を見ると痛々しいが、全体から見るときっと小さなものなのだろう。傷痕をゆっくりと撫でる。

 

「……これぐらいは、勘弁してくれよな」

 

「マスター、一体誰に話しているのですか?」

 

「今は気にしなくていい、後でゆっくり話すさ。ちょうどリームも来たみたいだしな」

 

 上空からふよふよとリームが飛んでくる。こうして見ると、人が飛んでいるのを見るのは中々不思議なもんだな。見方によっちゃあ、トゥードがやってる空中走破よりも不思議な気もする。

 

「コータぁ~ッ!!」

 

「どわぁっ!?」

 

 リームが空中からそのままオレの元に飛び込んでくる。だが、思い出してほしい。オレの身体は小学生相応。対しリームは中学生後半から高校生ぐらいに見える身体だ。そんな身体の持ち主が空中からそのまま突っ込んでくる。

 

 そう、オレが潰れるのも当然だろう。

 

「よかった~、よかったよ~コータぁ~」

 

「リーム様、そのくらいにしたほうがよろしいかと。マスターが気絶してしまいます」

 

 間一髪、頭を抱きしめられたまま気絶しそうになっていたオレを救出してくれたトゥード。リームは慌てて、少し顔を赤くしながらオレを解放する。

 

「ふぅ、さて。次はお前の力が必要だ、リーム。頼むぜ」

 

「おっけー! 『我、汝に力与えん』」

 

「ユニオンアップ!」

 

 リームがオレと一体化し、身を包むマントが特徴的な戦闘形態に変わる。オレはドリルを取り出すと、腕のエクスリングと合体させ、エクスドリルを完成させる。

 

「トゥード達はちょいと待っていてくれ。行くぞ、地中旅行の始まりだ」

 

『ふぇ、なんで?』

 

「行きゃあ分かる! エクスドリル!」

 

 エクスドリルはオレに応えるかのように、凄まじい回転を始め、唸りをあげる。それはあたかも、狩りの前の獣が自身を鼓舞するべく、空に向かって吼えているかのようだった。

 

 オレはエクスドリルを地面に向け、穴を掘りはじめる。たちまち、エクスドリルの空けた穴は大人一人が悠々入れるほどに拡がり、更に下へと誘う。

 

 そのまま、エクスドリルで掘り進むと、次第に周りの音が無くなっていく。こうして無心に穴を掘るのも、何だか悪くない。

 

「っと、適当に掘ってるだけじゃダメだよな」

 

 土の機嫌を見つつ、周りの土に無理が生じない範囲で、時々方向修正しながら掘り進んでいく。下手に掘ると落盤しかねないため、周り道もする。そんな時間がしばし流れて。

 

 次第に目的の場所に近づいてきたことが分かったのだろう。リームも何やら反応している。

 

『これ、センちゃんの時と同じ……?』

 

「あぁ、そうだ」

 

 植物が大地からその栄養を吸収するのは、根っこ以外に無い。そして、今あの花は栄養が過剰に与えられた結果、あれだけ巨大になっている。とはいえ、普通なら過剰に栄養を吸収したとて、あれだけ巨大になることはないだろう。つまり、この辺りのプロセスに何かがあることになる。そして、その何かは、土の中にあるはずだ。

 

 オレのその推測を裏付けるかのように、目の前に根っこで作られた球状の繭が現れる。ここまでくれば、オレでもその奥に何があるか、感じ取ることが出来た。

 

 オレは根っこで出来た繭を、慎重に掻き分けて中に入る。そこにあったのは、センと同じような、本だった。

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