The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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第11話 流花 -後編-

「……戻ってきましたか」

 

 地上に戻ってきたオレを出迎えた、トゥードの第一声がそれだった。

 

「もう少し心配してくれてもいいんじゃないか?」

 

「マスターならば恐らく戻ってくると予想していましたので」

 

 全く、信用されてるんだか、されてないんだか。まぁいいや。こうして"新しい仲間"も得たことだしな。

 

「紹介するよ、オレの新しい仲間、ミナだ」

 

 オレとリームの後ろに控えていた少女を前に出す。

 

 黒い、長い髪はそのままロングに伸ばした、どこと無く和風人形のような雰囲気を持つ少女。和服が似合いそうだと個人的に思う。

 

「ふむ、今生では少女の姿か。さては此度の主は"ろりこん"というものかの?」

 

「んなわけねーだろ! つーかそもそもオレは小学生だかんな!」

 

「ふふ、冗談じゃ」

 

 けらけらと笑うミナ。爺さん言葉があれだが、こうして笑う姿はとても美人で様になっている。まぁ、美人なのはリームやトゥード、センも同じなんだけどさ。

 

「マスター、お戯れはそのぐらいにしたほうが良いかと。目の前の大陸が崩壊を始めているように見えます」

 

 トゥードの言う通り、目の前の大陸――まぁ、花なんだが――は徐々にその形を崩し始めていた。今まで栄養を無理矢理流し込んでいたミナがいなくなったことで、急速に枯れ始めてきたのだろう。

 

「それじゃあ行くか。まずは頂上に向かう! リーム、もっかい行くぞ! ユニオンアップだ!」

 

「またぁ~? 少しは休ませてよ~」

 

 そう言いつつも、速やかに準備を整えるリーム。合わせて、トゥードもセンを肩に乗せ、移動の準備を始める。

 

「儂はどうすればよいかの?」

 

「お前はオレが運ぶよ、ミナ」

 

 リームと合体し、身体を浮かせたままミナを抱える。トゥードの方も準備が出来ていることを確認すると、遥か上空目掛けて、矢のように飛び出す。

 

 凄まじいGが身体に襲ってくるが、リームが発動した魔法防御がオレをミナごと包み込み、Gによるダメージを無効化している。トゥードはというと、空中で時々足を着きつつ、高く跳躍することでオレのスピードに合わせているようだ。多分オレ、今音速超えてると思うんだけど、そうなるとトゥードはスキップ(正確には違うが)でマッハに到達していることになる。どんなチートだよオイ。

 

「……どうしましたかマスター? 信じられないものを見たような顔をして」

 

「…………いや、何でもない。っと、そろそろ頂上だ!」

 

 全開で飛ばしたお陰で、落ちた時よりも早く頂上付近の空中に到達出来た。上空に到達すると同時にリームとの合体を解除する。

 

「トゥード、セン、ミナ! 行くぞ! アームドオンッ!!!」

 

『我、汝に力与えん』

 

 オレの身体が、赤い鎧に包まれる。本来なら飛行手段を持たず、滞空も不可能なこの形態。間もなく落ちるのは必然。

 

 先程までは、の話だが。

 

『よし、儂の力を使え! 親父殿!』

 

「頼むぜミナ! 腰部鎧【グラウンドブースター】、機能解放!」

 

 ミナの存在を認識した鎧が、オレの意思に応えて新たな機能を解放する。その力が宿るのは、腰に装備された、二基のブースター。

 

 ブースターから凄まじい勢いで魔力粒子が放出され始め、オレの身体を引っ張っていた重力の手を振りほどく。

 

「凄いすごい! コータが浮いたぁ~!」

 

 両手を叩いて喜ぶリーム。

 

『だが親父殿、長くは持たないぞ! 上昇するにも滞空するにも、儂達の魔力だけではせいぜい数分が限界だ!』

 

 元々、グラウンドブースターは加速及び姿勢制御用の装備。その使用はその名が表す通り、地上での活動が目的とされている。今は緊急事態のために空中での姿勢制御に用いているが、正直出力が足らない。

 

「だったら速攻で終わらせるまでだ! ミナ、"アレ"を使うぞ!」

 

『"アレ"か、承知!』

 

 ミナにより、グラウンドブースターが展開し、内部に格納されていた物が取り出せるようになる。

 

 そもそも、グラウンドブースターは姿勢制御用ブースターとされているが、その機能は内部に格納されたものが放つ高濃度の魔力を長時間放置しておくと危険であるため、その魔力を放出する必要があるから装備された機能だ。なので、正確にはグラウンドブースターは、"高濃度魔力噴出による加速及び姿勢制御器型、武装収納庫"ということになる。

 

 そして、その収納されている武装こそが、オレの新たな武器。

 

「アグニ! ルドラ!」

 

 二丁拳銃、アグニとルドラ。

 

 共に魔法によって作られた拳銃だけあって、アグニもルドラも見た目からして、通常の拳銃とは異なる外観をしている。

 

 まず、アグニ。一見すると自動式拳銃を思わせる見た目だが、銃身後部に回転式拳銃を思わせるシリンダーを装備している。大口径で、威力も高そうだ。ただし、その分通常の自動式拳銃より撃つのに時間がかかってしまうのが欠点か。

 

 次に、ルドラ。こちらはアグニとはまた違い、拳銃は拳銃でも、マシンピストルに似ている。ただし、銃口と弾倉は上下に二つずつあり、同時射撃も連射も自由自在。上下に伸びた弾倉は、さながらクロスボウを思わせる。発射速度は非常に速いが、小口径であるため、威力には欠ける。

 

 オレは手を背中に回し、右手で左側ブースター内に収納されたアグニを、左手で右側ブースター内に収納されたルドラを掴み、引き抜く。グラウンドブースターから引き抜かれたことで安全装置が解除され、アグニとルドラが"起きる"。

 

「まずはルドラ(こっち)だ!」

 

 ルドラの引き金を引いた瞬間、まさに弾幕と呼ぶべき弾丸の群れが現れる。数は、100。その向かう先は、あの魔法防御。

 

 ルドラの弾丸が次々にヒットする。たちまち巻き起こる爆風。

 

「ダメだよコータ、効いてない!」

 

 が、リームの言う通り、魔法防御はびくともしない。とはいえ、ルドラの弾丸の威力はエクスドリルよりも小さいので、当然の結果だと言える。

 

 だが、この期に及んで無意味な行動を取るほど、オレはバカではない。ルドラにもアグニにも、ただの拳銃には無い魔法的能力が存在している。

 

「まぁ見てなってリーム!」

 

「え……あれ? 弾丸が……」

 

 リームも気づいたようだ。ルドラの弾丸が、魔法防御に突き刺さったまま、その場に維持されていることに。ルドラの弾丸はちょうど、円を描くように配置されていた。

 

「んで、今度はアグニだッ!」

 

 アグニを構え、ルドラの弾丸が描く円の中央に向けて弾丸を放つ。万物を食い荒らす意思の塊は、魔法防御にぶつかると、激しく火花を散らす。

 

「ぶち抜けぇぇぇ!!!」

 

 オレの意思、それが伝える指示がアグニの弾丸に伝わる。次の瞬間、アグニの弾丸周辺で凄まじい爆発が起き、魔法防御の一部を剥ぎ取り、吹き飛ばしてしまった。

 

「凄い! あの魔法防御を壊しちゃった!」

 

 リームが驚き、オレと魔法防御の方を交互に見る。

 

 アグニの弾丸は強力だ。だが、さしものアグニも、強力さでいえばエクスドリルには敵わない。だが、アグニとルドラ、二つの銃の特性と能力を駆使すれば、エクスドリルで突破出来ない防御も突破出来る。

 

 アグニとルドラ。この二つの拳銃が放つ銃弾には、それぞれ"空間爆発"と"空間爆縮"の力を発動させることが出来る能力がある。細かい理論はすっ飛ばして、まぁ平たく説明すると、文字通り『空間を一気に拡大させる効果』と『空間を一気に縮小させる効果』ってとこだな。

 

 さっきの事を説明すると、円形に設置したルドラの弾丸で空間爆縮を行い、魔法防御に使われている魔力を引っ張り、引き延ばす。そこにアグニの弾丸を打ち込むことで魔力に綻びを作り、駄目押しの空間爆発で押し込んで完全に破壊したのだ。

 

 さらに、空間爆発と空間爆縮を使えば、こんなことだって出来る。

 

 再び、アグニとルドラから大量の弾丸を放つ。アグニとルドラより放たれた弾丸は真っ直ぐに魔法防御の元に飛ぶ――かに見えた。

 

 そこにオレの意思が干渉し、空間を変化させる力を働かせる。その瞬間、弾丸は一直線に飛ぶことを止めた。

 

 アグニの弾丸は鋭角的に、ルドラの弾丸は曲線状に軌道を描きながら、その弾道を変化させて飛んでいったのだ。

 

 これも、空間爆発と空間爆縮を応用した技だ。弾丸のすぐ脇の空間、そこを、アグニでは空間を爆発、ルドラでは空間を爆縮させることで弾丸の動きを制御している。ちなみに、正確に表現するなら、アグニは弾丸すぐ側の空間を爆発させることで弾丸を横に押し出すため、カクカクした軌道になり、ルドラは弾丸すぐ側の空間爆縮させることで爆縮した側に引き寄せるため、曲線を描くようになっている。ルドラはボールを投げた時の変化球に近い理論だろうか。

 

 これを使えば、オレの意識が及ぶ限り弾丸は相手を追い続けるようになる。いわゆる、誘導弾ってことになるな。

 

 オレの指示に従って軌道を変化させた弾丸は、先程とは違う場所にぶつかり、破壊していく。気づけば、あれだけ強固だった魔法防御が、今や見る影もないほどに破壊されてしまっていた。

 

「今だ、リーム!」

 

「うん!」

 

 トドメと言わんばかりのリームの魔法が、花の魔法防御を凍らせてしまう。間もなく吹いた風によって無惨に砕け散ってしまった。

 

『マスター、あれは……』

 

 そこでトゥードが、魔法防御の中にあったものを見て、驚愕の感情を見せる。

 

 あれだけ強固な魔法防御によって守られていたもの、それは花の"種"だった。彼女が言っていた、子供達だ。

 

 そう、実はこの魔法防御、彼女が無意識の内に作っていたものだったのだ。自分の大切な子供達を流れ込む魔力の危険に曝さないために、敢えて流れ込むエネルギーを魔法防御に変換することで。あれだけ巨大な花だったにも関わらず、種が普通の花の種と同じ程度なのも、その影響だろう。尤も、そのせいで種を作るのに時間がかかってしまった上、魔法防御に使うだけではエネルギーが余ってしまっていたのだが。その余ったエネルギーは、自分が成長するのに使っていたのだろう。

 

 だが、不本意ながらオレと関わったことで子供は無事、種となった。もう魔法防御は邪魔でしかなかった訳だ。それを砕いた今、ようやくあの種たちは誕生したと言えるだろう。

 

 花の元に行き、中心に出来ていた種、三つ全てを取る。花にしては少ない気もするが、きっとその分、丈夫な"花"が育つことだろう。

 

「さて、最後の仕上げだ。ミナ」

 

『いいのだな?』

 

「あぁ。このままでいるよりは、きっといいはずさ」

 

 ミナが自分自身が持つ能力を発動させる。すると、徐々に、徐々に花の崩落が収まり、修復されていく。それだけに留まらず、花の表面に生えていた植物は伸びたり、縮んだりを繰り返しながら、少しずつ消えていっていた。

 

 最終的には巨大花すらも小さくなり始め、全てが終わった時、そこには巨大な花の姿など影も形もなく、ただ小さな花が遥か眼下の地上に鎮座しているだけだった。

 

 あの巨大花の、"巨大花としての"、最期だ。

 

 ミナの能力、それは『あらゆる"流れ"を自在に操れる能力』だ。水や風の流れは勿論、人の流れを操作して特定の場所に人間が集まるようにしたり、お金の流れを操作して自分のところにお金が来るようにしたり。"時間"もまた流れと言えるため、時間操作だって可能だ。今は、花の時間を巻き戻すことで花が崩壊しないようにしつつ、花が過剰に吸収していたエネルギーを大地に返していた。

 

 元、巨大花である小さな花があるであろう大地を眼下に見ながら、思う。

 

「あんな無茶苦茶な姿で死ぬなんてオレが許さねぇよ。花なら花らしく、普通に精一杯咲き誇って、普通に生きてからにしてくれ。死ぬのはそれからだって、遅くないだろ」

 

 気づけば、目の前に広がる景色も、以前見た時とは違って、どこか活力に満ちているように感じた。

 

「よかった……うまくいって」

 

 何だか、初めてかもしれない。こんなに、全てが"良かった"で終わったのは。ちょっと、自己満足の部分もあるけどさ。

 

『ところで、いいか? 父上』

 

「なんだ? セン」

 

『つい先程グラウンドブースターの噴射が止まったのだが、対処しなくていいのか?』

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「忘れてたアァァァァァァァァ………」

 

 凄まじい勢いで落ちていくオレ達。このままだと地面に激突必至だ。

 

「トゥード、合体解除! センとミナを頼む!」

 

「了解」

 

 素早く合体を解除したトゥードは、同じく合体を解除したセンとミナを抱き抱え、空中で足を踏ん張って、何とか止まる。

 

「コール・アームズ! ロケット! 武装召喚《リアライズ》!」

 

 両腕に、宇宙に向かって飛ぶ、あのロケットを武装召喚《リアライズ》し、燃料を噴出して減速しようとする。しようとした。

 

「って痛い痛い痛い!」

 

 だが、当たり前ながらそんな無茶苦茶のことをしたせいで両腕が引きちぎられん勢いでGがかかる。慌てて武装召喚《リアライズ》を解除するが、間もなくまた落下が始まってしまう。

 

「何かないか何かないか……そうだ、パラシュート! コール・アームズ、パラシュート!!」

 

 ユビキタスサークルよりパラシュートを武装召喚の要領で背中に呼び出す。何とかベルトを締め、パラシュートを開くことが出来た。危機を脱した実感に、思わずため息が洩れた。

 

  

 

  

 

 

 森の中に咲く、小さな花。その側には今、三つの小さな芽がある。それぞれには誰かが名前が付けたのか、名前の書かれたプレートが刺さっていた。

 

 プリム。

 

 ミカ。

 

 ライラ。

 

 三つの小さな芽はいずれ、プレートを追い越し、大きく育つだろう。そして、綺麗な花を咲かせることだろう。

 

 小さな芽たちを見守るように、小さな花はそこで静かに咲いていた。

 

 彼女の名前は、フローラ。花を見守る花。

 

 彼女はいつまでも、いつまでも、その場で咲き続けていた。

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