The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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第12話 急転 -前編-

「…………」

 

 今日も今日とて異世界旅行。今日の行き先は古い遺跡。高さはそれほどじゃないが、広さはかなりあり、雰囲気も中々いい感じ。映画みたいなドキドキが待っているんじゃないか。そう思っていた。10分前までは。

 

 オレは、入口にて"遺跡に"入ることを拒否されていた。具体的に言うなら、透明なバリアのようなもので入口が塞がれていた。

 

 しかし、その一方で、リームやトゥードたちは既に遺跡の中へと入っていた。

 

 その理由は既に分かっている。遺跡の入口辺りに何枚もあった看板、或いは注意書き。トゥードが訳してくれたその言葉は、あまりにもわかりやすく、今の状況を説明していた。

 

『男人厳禁』『女人専用』『男子は帰れ!』『下にしか目がいかないクズが!』『消えろゴリラ!』『女性ウェルカム!』『つーか女以外は死ね!』『昇天してしまえ!』

 

 ……ツッコミ所多過ぎないかなぁ。

 

「コータ、何してるのー? 早くいくよー」

 

「モタモタしないで下さい、マスター」

 

「だから、さっきも言ったけど入れねぇの!」

 

 そんなわけで、今日の異世界探検は序盤で躓きまくってます。

 

 

 

 

 

「しかし、どうしたもんかな」

 

「或いはマスターが去勢すれば早いかと。ちょうど、マスターの顔は女児のそれに近いですし」

 

「ふざけんなバカ。つーかそれでも男は男だろ」

 

 全く、何を言い出してんだこの天然精霊は。だいたい、オレの顔が男らしくないだなんて、そんな冗談はよして欲しい。

 

「だが、そもそも何を以って男と認識しているのか分からなければ、対策の立てようがないのではないか?」

 

 センが言うことも尤もだ。何が原因で入れないのかが分からなければ、どうすれば入れるようになるのかも分からない。まずはその原因を探らねば。

 

 ただ、問題があるとするなら、手掛かりがまるでないことだが。

 

「でしたら、恐らく遺伝子などといった情報から判断している可能性はないと思われます」

 

 トゥードが、何かの確信と共に言う。どうやら、何か掴んでいるらしい。

 

「その理由は?」

 

 先を促し、トゥードに説明させる。

 

「まず先に、私たちは精霊ではありますが、この肉体は人間と非常に近しいものです。が、これはあくまでも近しいだけ。厳密に言えば違う部分が多々存在しています。特に、私のような鎧装種の場合はそれが顕著です」

 

 そう言うとトゥードは、地面に簡易的な絵を描き始めた。ただ、簡易的とはいえその絵は十分に上手く、何が描かれているかは簡単に理解出来た。それぞれ人、トゥードの鎧、そしていつか見せてくれたトゥードのアクセサリー形態を示しているようだ。

 

「私達鎧装種の本質は武装そのもの。つまり、他の形態は仮初のものに過ぎません。よって、私のこの肉体からそういった情報の判断をすることは不可能なのです。尤も、精霊には女性しか存在しませんから、精霊である時点でスルーしている可能性もあります。が、それならばマスターが侵入することは不可能になり、精霊捜しそのものの継続が困難になってしまいます」

 

「それは困るな……。出来れば違う判断規準であってほしいもんだが」

 

 しかし、どうしたもんか。まさかオレが女になるわけにもいかないしなぁ。つーか出来ねぇし。

 

「だったら女装だよ!」

 

 そこで、突然リームがわけ分からないことを言い出す。

 

「リームよ、女装で済むならば事は実に簡単じゃが、何か根拠でもあるのかの?」

 

 ミナが聞くと、リームは先程のトゥードと同じく、自信に満ちた顔で頷く。

 

「確認なんだけど、僕って比較的ボーイッシュだよね?」

 

「まぁな」

 

 ショートカットの髪、少し中性的な顔立ち、スレンダーな体型。加えて、一人称が"僕"。この中では1番ボーイッシュだろう。

 

「そのせいか分からないんだけど、さっき入ろうとしたときに何故かおでこをぶつけちゃったんだよ。何もないはずなのに」

 

 リームが髪をあげて額を見せてくる。成る程、勢いよくはいかなかったからか、あまり目立たないものの、確かにぶつかった跡がある。

 

「もしかしてこれ、見た目がボーイッシュだからってシステムが勘違いしたんじゃないかなーって思って。何も手掛かりなくて悩んでいるくらいなら、やってみようよ」

 

「……確かに、このまま悩んでいても解決しないのは事実だな」

 

「ならばここに、婆殿に持たされた代えの服があるぞい。これなら親父殿でも着れるじゃろう」

 

「そうですね、リーム様、セン様、ミナ様。もしダメだった場合はその時考えればよいでしょう」

 

 ……って、アレー? オカシイナー?

 

 なんでオレが女装する方向で固まりかけているんだろうか。おかしい。これはおかしい。何かの陰謀を感じる。つーか欲望を感じる。

 

 ともかく、ここにいては(主にオレの溢れ出る男気が)危ない。ならば、オレが取る行動は一つ!

 

「明日に向かってダッシュ!」

 

「逃がしません」

 

 オレが逃げ出した瞬間、それを読んでいたトゥードが足払いをかけてきた。そのせいで、オレは盛大に転んでしまう。チクショウ、コイツが無駄に強いのを忘れていた。

 

「諦めが肝心ですよ、マスター」

 

 そうトゥードに告げられた時、オレはオレの何かが終わる音を聞いた。

 

 

 

 

 

「さぁ、行くぞい」

 

「モタモタしている暇はない。あまり時間をかけていては、何が起きるか分からないからな」

 

 迷宮の中、ぼんやりと地面が光る道。そこを先頭になってぐんぐん進んで行くのはミナとセン。その後ろにリームと少女が着いていき、殿をトゥードが勤める形で、一行は進んでいた。

 

 先程まではいなかったはずの少女が身に纏っている衣服は、清潔感溢れる白とシックな黒が合わさったエプロンドレス。袖やスカートの端など、様々な所にフリルがあしらわれており、見た者に可憐さを感じさせる。マイクロミニのスカートと白いニーハイソックスの隙間から見える素肌は、どこか劣情を掻き立てる魅力に溢れていた。顔を俯かせているため表情は疑えないが、顔面がその赤い髪に負けないほど紅く染まっていることは、周りには簡単に分かったことだろう。

 

 少女はスカートを両手で抑え、慎ましやかに歩いて行く。まるでこの場所が舞踏会の会場であるかのように。

 

「遅いですよ、早くしてください」

 

 しかし、ここは古い遺跡の中の迷宮。舞踏会の会場ではない。急ぐ一行にしてみれば、彼女の歩みは少々遅いものであった。

 

 トゥードは特に、今だほとんど進んでいないことに対して思うところがあるらしく、急かすような発言をする。

 

 それに対して、少女は何も答えない。何か、思うところがあるかのように、ゆっくりと歩みを進めるだけだ。

 

「ちょっと、トゥード! まだ慣れてないんだから仕方ないよ。焦らずに行こうよ。ゆっくり過ぎるのも問題だろうけど、焦りすぎるのも問題だと思うよ。大丈夫?」

 

 少女を気遣うように、肩に手をかけるリーム。しかし、この時誰もが気づくことはなかっただろう。リームの顔が、やけにニヤついていたことに。

 

 リームの手がゆっくりと、次第に、なぞるように少女の下腹部に伸びていく。それに気づいた少女は身体を捻るようにして抜け出そうとするが、あまり派手な動きが出来ないために、上手く抜け出せない。

 

「……ぁ……やめ……」

 

「ぬっふっふ~……よいではないか、よいではないか」

 

 それは、痴漢に襲われる少女そのものと言えただろう。ただ、正確にこの状況を表現するならば――

 

「だから、やめろって……!」

 

「いいじゃぁ~ん。はぁ~、コータかわいいよコータ」

 

 痴女に襲われる女装少年になるが。

 

 いわゆるフレンチメイド服に身を包んだ少女(おとこのこ)となっていた吼太は、なんとかしてリームの魔の手から抜け出そうとするが、だがしかし上手く抜け出せない。

 

 これは服が普段と違うこともあるが、何よりスカートの部分に問題があった。

 

「やめ、スカートめくるなぁ!」

 

「ぐふふふふ。かわいいぱんつ見せて~」

 

 そう、吼太が今身につけているのは、女性用下着なのだ。当たり前だが、吼太は女性用下着を着たことなどない上、そもそも女性用下着を男性である自分が着ていることに対して強い抵抗感を覚えている。加えて、下着をスカートの下で露出させているという女性ならではのスタイルに対し、激しく羞恥心が掻き立てられてしまっているのだ。

 

 顔を真っ赤にして抵抗する吼太。しかしそれも、リームにとっては自身を興奮させる材料の一つに過ぎなかった。更に激しさを増すリームのセクシャルハラスメント。

 

 しかしそれは、予想外の形で終わりを迎えることになった。

 

「来たぞ、魔物だ」

 

「長らく放っておかれたせいで、魔物が住み着いておったようじゃ。他にも、そこら中から気配がするしのう」

 

 一行の前に現れた、生物らしからぬ存在。大気中の魔力粒子の影響で変質し、誕生した怪物。所謂魔物だ。

 

 今回現れたのは魔物の中でも低級な存在、ジェル状の肉体からゼラチン質の触手を伸ばす、スライムローパーと呼ばれる魔物だ。空気中の水分が魔力粒子によって変質して生まれたこの魔物は、生物をその触手で押さえ込み、ジェル状の身体で相手を包み込み、そのまま溶かして捕食を行う、危険な魔物だ。しかし、その消化スピードは非常に遅く、三日三晩かけてようやくネズミ程度の大きさのものが消化できる程度。加えて、攻撃や防御に用いられる触手も、力、スピード、耐久性共に低く、並大抵の人間ならば逃げることは容易である。そのため、様々な世界に広く分布しているこの魔物は、戦士や魔法使いといった戦う人間の練習台に宛がわれていることが多い。

 

「スライムローパーですか。数は1。脅威とは言えませんね。早急に片付けましょう」

 

 スライムローパーが触手を伸ばしてくる。しかし、あまりに遅いその攻撃は、トゥードは勿論、センやミナをも捕らえることはなかった。

 

「え?」

 

 ただ、リームに襲われて注意力が散漫していた吼太だけは、反応が遅れてしまい、触手に巻き付かれてしまう。

 

「離せ! このっ!」

 

 身体を捻ってなんとか抜け出そうとしている吼太だが、肉体が小学生であるが故に力が弱いらしく、なかなか抜け出せない。

 

 その間に、スライムローパーの触手から徐々に融解液が溢れ出してくる。粘度の高いこの液体は、繊維質に対して極めて反応し、融解させてしまう。簡単に言うならば――――

 

「……あつっ……ふ、服が!?」

 

 服が溶ける。

 

 一部の服が溶け、肌を露出させてしまう吼太。子供ならではの、水を弾く傷一つ無い肌が晒され、吼太は殊更に危険を感じてしまう。

 

 ちなみに、スライムローパーの触手から融解液が出る理由は、毛皮を持つ生物を襲った際に、先に毛を融解することで効率的に消化を行うためなのだが、今の吼太はそれを知る由もない。

 

「マスター、ふざけてないで脱出してください。攻撃が行えません」

 

「ふざけてないっ! ――ひゃうっ!」

 

 触手が首筋を撫でたことに敏感に反応する吼太。ただでさえ紅かった表情が、さらに紅く染まる。

 

 その様子に反応したのは、外ならぬリーム。

 

「コータの貴重なエロシーンキタァァァーーーッッッ!!!」

 

 目を輝かせて吼太を観察するリーム。助ける気が微塵も無いのは言うまでもない。これには流石のトゥードやセン、ミナも呆れ返ってしまう。

 

「ハァハァ……胸にキュンキュンきちゃうよ~……あぁ、ここにカメラか何かあればッ! どうして忘れちゃったんだ僕のバカっ!」

 

「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 頼むから助け――――もがっ!」

 

 叫ぶため大きく開けた吼太の口に、スライムローパーの太くて大きくてヌラヌラテカテカした触手が侵入する。そのまま、ジュッポジュッポと激しく抽送する動きを始める。だが、あくまでこれは消化活動である。

 

「んぐっ……んん……!」

 

「……これは……」

 

「うむ……これは……」

 

 あまりの状況に、雰囲気に呑まれてしまうセンとミナ。ジッとスライムローパーに弄ばれる吼太を見つめる。

 

「そろそろいい加減にしてください、マスター」

 

 流石に見兼ねたトゥードは、吼太の口に入っているスライムローパーの触手を掴み、一気に引っこ抜く。解放されたことで荒い息を吐く吼太。

 

「かはっ……はぁ……はぁ……」

 

「「「あぁ……」」」

 

「何故残念そうなんですか」

 

 ため息の洩れたリームたちにツッコミを入れるトゥード。トゥードはそのまま、ようやく息が整ってきた、しかし今だに身体が拘束されたままの吼太に手を差し延べる。吼太はその手を掴み、そして叫ぶ。

 

「アームドオンッ!!!」

 

 たちまち吼太とトゥードは光に包まれ、魔力粒子が風となり吹き荒れる。吼太の姿は自身の着ていた、破れかけたメイド服から、炎よりも赤く染まった鎧に包まれた。物理的な体積が増大したことで、スライムローパーの触手はちぎれ飛び、吼太を縛るものはなくなる。

 

「よくもやりやがったな……この粘体生物野郎……」

 

 怒りを露にする吼太は、歩く度に足元を陥没させながら、スライムローパーに向かって突き進む。

 

 危険を感じたスライムローパーはその触手を再び吼太に伸ばすが、不意打ちですらない一撃が通じるわけもなく、逆に伸ばした触手を掴まれてしまう。

 

「礼代わりだ! 喰らっとけやァァァーーー!!!」

 

 吼太は、そのまま触手を大きく振り上げ、思い切り振り下ろす。自身の触手に引っ張られてしまったスライムローパーは、一度空中に浮くと、一瞬で遺跡の床にたたき付けられ、深く床に減り込んだ。死んではいないようだが、当分動けないことは間違いないだろう。

 

「ったく、人をおちょくりやがって」

 

『マスターも油断し過ぎです』

 

「わぁってるよ。オレも甘かった。これから何があるか分からないし、しばらくはこのままで行くぞ、トゥード」

 

『了解』

 

 アームドオンしたまま歩きだした吼太の中で答えるトゥード。しかし、その胸中には全く違うことが渦巻いていた。

 

 ――"また"だ。"また"、あの現象が起こった。マスターが正しいならば、起こるはずがない現象が。

 

 

 

 

 

「こりゃあ……」

 

「今までみたいにはいかないよね」

 

 あれからしばらくの間、歩き続けてきたオレ達。結局、現れた魔物はスライムローパーが数体程度。基本的には一本道で、時折分かれ道があっても片方がすぐに行き止まりになっていたので、迷わずにここまで辿り着けていた。

 

 ――ここまで、は。

 

 辿り着いたのは今までより少し広くなった空間。天井は大きく空いており、抜けるような青空が広がる。そして目の前には、7つの道。まさかこのどれもが精霊のある場所に続いているわけがないし、正解は一つだけだろう。

 

「仕方ない、手分けして探そう。一人一つで、道が続いているようだったり、何か危険があったり行き止まりがあったら引き返すこと。くれぐれも注意していけよ」

 

「しかし、父上。一人一つでは人数が足りなくないか?」

 

 センが言うことも尤もだ。オレ達は全員で4人。一気に7つの道を探すのは無理がある。

 

「まぁ、そこはコイツに頼るのさ。コール・クリーチャー、キマイラ!」

 

 ユビキタスサークルより呼び出したのは、獅子、山羊、毒蛇の三種の頭を持つ怪物(モンスター)。具体的には、ライオンをベースに、山羊の頭がライオンの背中から生え、蛇の身体があたかもライオンの尻尾であるかのように存在している。その異様な姿に、トゥード達がすかさず身構える。

 

「大丈夫、コイツは安全だよ。――じゃあ、キマイラ。早速だがお前のあの特技を見せてくれ」

 

 オレが言うと、キマイラが天に吠え、そして光に包まれる。光が収まるとそこには、ライオン、山羊、毒蛇がそれぞれ独立して存在していた。これがキマイラの特技、分離能力だ。キマイラが分離できるなんて聞いたことなかったけど、コイツは出来るらしい。何故かまでは知らん。

 

「これでちょうど数は7だ。じゃあ、作戦開始」

 

 問題もなくなり、素直にオレの号令に従って進んでいくみんな。さて、オレも行くとするか。

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