The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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第13話 再会 -前編-

「さて、と。こんなものかぁな」

 

 何か作業を終えたらしいホルクスが、何かの前で一息つく。

 

「僕の目的を果たすにはもう少し時間が欲しいからぁね。とりあえず、コイツには頑張って貰おうかぁな」

 

 ホルクスの目の前にあるもの――鏡ありすが眠る墓は、ホルクスの魔力によって禍々しい光を放っていた。

 

 

 

 

 

 オレの手の中で震える、アグニとルドラ。その力を何とかして支配しようと構える。

 

 理論的には間違ってないんだ、いけるはずだ。

 

 オレと一体化し、荒れ狂う魔力の制御をするトゥードも、どこか苦しげな様子に感じる。

 

 今回こそは、今回こそは。

 

「合体だぁーっ!」

 

 ――――ガキンッ、ガキッ!

 

「……やっぱり無理だよコータぁ」

 

『そもそも、合体機構の存在しない二挺の魔導拳銃を合体させるほうが無理なのでは?』

 

「んなこと言ってもなぁ。あの正体不明な奴はやってたわけだし。出来なきゃおかしいんだけど……」

 

 そう、オレが今試していたのは、ナツハを手に入れたあの戦いで、オレを助けてくれた謎の人物がやっていた、アグニとルドラの合体だ。

 

 ミナやトゥードいわく、アグニとルドラに合体機能は無いらしいが、事実としてやっていたわけだから、何らかの方法はあるのだろう。だが、その方法が分からない。あの強力な攻撃が使えるなら、きっとこれから先の戦いにも役立ってくれたはずだけど……。

 

 このままでは進展が無いと判断し、一旦トゥードとの合体を解除する。

 

「マスター、詳細不明の事態であることは間違いないですが、今はあのブレラなる者達の方が問題かと」

 

「そうだな……」

 

 トゥードの言う通り、そっちのほうが今の所重要度は高い。ひとまず、アグニとルドラの合体については置いておこう。

 

「確かあの人達が最初に現れたのって、吼太の話しじゃ……その、ありすちゃんが死んだ日なんだよね」

 

「あぁ」

 

 忘れたくても忘れられるもんか。アイツらはありすを殺したんだ。アイツらがしたことを、オレは絶対に赦せない。

 

 でも、憎しみだけで戦うのもいけない。それは他でも無い、ありすに教わったことだ。情けない話だよな。転生して、精神年齢は遥かに上をいっているはずのオレが、本当の意味で9歳のありすから、そんな当たり前のことを教わるなんてさ。

 

 だからオレは決めたんだ。もう誰ひとりとして、理不尽な死に曝させないって。

 

「そして、マスターが力を欲しはじめたのもその時から。そうですね」

 

 力を求めたオレは、トゥードの武装を解放するべく、封印に対応した精霊を探すことになる。

 

「あぁ。そしてオレ達は最初に、センと出会った」

 

 あの砂漠は今思い出しても暑苦しいな……。生物の気配もしなかったし、まさに飢えた惑星だったな。そういや、ホルクスとまともに戦ったのはあの時だけか。確かに強かったが、センが仲間になっていたオレ達の敵じゃなかった。

 

 センの存在により解放された装備、ドラゴンソニックの刃は奴の魔法防御をいともたやすく貫き、センの能力"始まりと終わりを操る能力"はホルクスの強力な水の槍を無効化してしまった。

 

「と、なると次は儂じゃな」

 

 そう、次に仲間になったのはミナ。ミナがいた世界は、センがいた世界とは真逆の、植物に支配された世界だったな。あの世界で出会ったのは、大陸かと思ってしまうほどに巨大な"花"。そして、その花はあろうことかオレの遺伝子を使って子供を作ってしまったらしい。今でも信じられない話だが、事実、種は出来ていたんだから仕方ない。

 

 で、そんなに巨大な花が生まれた理由。それこそがミナの能力、"流れを操る能力"だ。それにより、本来は使うはずのないほどのエネルギーを、体が崩壊しないように流し込まれていたのだ。特に、子供を守るという、母親と本能が具現化した魔法障壁には、なおのこと強いエネルギーが流れ込んでいた。なんたって、あまりにエネルギー流し込みすぎて自力の解除が不可、そのせいで中の種を出すことが出来なかったんだから。しかし、ミナの協力と新たな武装、グラウンドブースターと二挺拳銃のアグニとルドラの力のおかげでなんとか解決することが出来た。

 

「そして、この間ようやく妾を見つけたというわけか」

 

 この間は遺跡のようなところへ精霊探しに行ったんだが、正直な話、前半部分は思い出したくない。あんな恥ずかしいこと、二度としない。

 だが、それだけで終わったわけでもない。道中では巨大な亀に会い、そいつを仲間にするべく目下交渉中。敵の親玉であるブレラが現れたり、謎の人物がアグニとルドラを有り得ない使い方で使ったり、いろいろなことが起こった。

 

 ナツハとは、ブレラとの戦いで偶然出会った形だ。ナツハの能力、"形状を変化させる能力"によって変形したツワモノスラスターは、強力な武器になった。勿論、ナツハのおかげで解放されたツワモノスラスター自体も、加速ユニットとしてはとても優秀。

 

 しかし、そう楽観視出来るわけでもない。あの戦い、オレはその場にあったもう一体の精霊を助けられず、奪われてしまった。しかも、それだけでなく、まだ見ぬ最後の精霊すらも。

 

 奴らが何を企んでるのか知らないが、出合い頭に人を殺すことを厭わない奴らだ。恐らくまともな話じゃないだろう。

 

 だったらオレ達が止めるしかない。魔法使いである、チート魔導師であるオレ達が。

 

 

 

 

 

 腑に落ちない点はいくつもあります。

 

 私、フォルティトゥードは長き時を生きてきた精霊。それ故、よほどのことでなければ知らないことはありません。

 

 しかし、この時代ではあまりにも不可思議なことが起こりすぎている。魔法使いの常識を覆しかねない程に。

 

 "魔法を使えない魔法使い"の存在、"本来、記憶喪失になること自体が出来ないにも関わらず、記憶喪失になった精霊"の存在、"単体ではその力を発揮出来ないはずの感応種精霊を集める、精霊を持たない魔法使い"の存在、"使用出来ないはずの装備を扱うことが出来る、謎の人物"の存在。

 

 そして何より気になるのが、"魔法を使えない魔法使いに反応する、大量の魔力粒子"。イレギュラーな存在や現象がこれだけ集まることには、なにか作為めいた意思が感じられる。誰かの、掌の上で踊らされているような……。

 

 しかし、それなら踊りながらこちらの目的も果たすまで。道化には道化なりの立ち回り方があります。

 

 当面はあの魔法使い集団から精霊を取り返すこと。それは私にとっても、何よりマスターにとっても有意義なことです。

 

 尤も、マスターが、私達全ての精霊と適合しているとまでは思っていません。現時点での5体同時契約ですらとても珍しい事例なのです。さらに2体加えた7体同時契約など、無理難題もいいところ。出来るわけがありません。

 

 実際、マスターにはその旨を伝えてあります。もうこれ以上、精霊との契約を行わないように、と。精霊との契約は本来、非常に危険なものです。マスターのように何人も何人も行うようなことではないのです。

 

 それでも、相手に渡しておく理由はありませんから、奴らから精霊を取り返すことに変わりはありません。

 

 ……しかし、いざとなった場合、力を求めるマスターは精霊との契約を行おうとするでしょう。マスターは、そういう人間ですから。もしその時は、私がマスターを止めねばなりません。そう、私が……。

 

 

 

 

 

 最早、吼太にとっては惰性になりかけている学校。知った知識の繰り返しに過ぎないそれは、吼太にただひたすら退屈な時間を齎していた。しかし、それも今となっては関係なかった。既に夏期休暇へと突入したことで、街はより一層の賑わいを見せていた。

 

「やっぱ学校がないっていいなぁー。心なしかのんびり出来る」

 

 街をのんびり歩きながら、誰となしに言う吼太。その吼太の耳に、なにやら噂話が入る。

 

 ――ねぇ聞いたことない? 最近流行ってるあの噂

 

 ――あぁ、あれでしょ? "死人が生き返って夜の街をさ迷っている"ってやつ。あれ怖いよねー

 

 ――俺も聞いたことあるな。でも、確かそれって結局ただの噂だろ?

 

 ――それが、見ちゃったんだよね私。金髪の女の子。ちゃんとは見えなかったんだけど、なんだかふわーっと浮いてたし、あれは間違いないよ

 

「……くっだらねぇ。幽霊なんかいるわけないだろ――」

 

 話に対して常識的なツッコミをいれる吼太(まはうつかい)。その彼の視線の中に、何かが写った。

 

 金色の長い髪をたなびかせ、滑るように移動する少女。遠目に見てもその姿は、歩いている人間のそれには見えなかった。

 

「…………あ」

 

 

 

 

 

「それで私達を呼んできた、と」

 

「う、うん……」

 

 トゥードの腕を、所在なげに握りしめた吼太が答える。顔を赤くして恥ずかしそうにするものの、決してその手を離そうとはしない。

 

 時刻は既に夕暮れ時。

 

「ぐふへへへ。幽霊を怖がってるコータかぁいいよ~。まさに萌えっ! 胸にきゅんきゅんきちゃう!」

 

「リーム、女性としてその笑い方はどうなんだ?」

 

「いやいやセン。あぁいった個性を好む殿方もおると聞くぞ。たしか、"びっちもえ"とか言ったかの」

 

「ミナ、それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」

 

 ミナのどこか天然染みた、というより間違った発言にツッコミを入れるセン。リームはリームで、幽霊など知ったこっちゃないような反応だ。

 

 その一方で、ナツハは吼太以上にあちこちを頻繁に見回している。その様子は明らかに異質なものだった。

 

「……どうしましたナツハ様?」

 

「ひゃっ!!? こ、こここ怖くなんかないぞ! 本当だぞ!」

 

「はぁ」

 

 ナツハの反応の真意が掴めていないらしいトゥードは、似合わない間の抜けた声を出す。

 

「でもコータ、なんで僕たちまで呼んだの? 魔法使いが相手ならともかく、幽霊が相手じゃ、僕らでも戦えるか分からないよ?」

 

 リームが聞くと、吼太は先程とは打って変わって神妙な顔付きになる。

 

「どうしてかは分からねぇんだけど、気になるんだ。あの女の子。なんだか、見たことがあるような……」

 

 そう答えた吼太の顔は、何か"ろくでもない"ことを予感している、そんな表情をしていた。

 

「っと……みんな、ここがあの女の子を見かけた場所だ」

 

 吼太が、今だ賑わいを見せる街の一角を指差す。

 

「で、確かあの女の子はあっちに向かって行ったんだ」

 

 吼太の指が、件の少女の動きを再現するかのように動き、別の方向を指す。その先にあったのは、吼太にとって忘れられない場所。

 

「コータ、あっちって確か……」

 

「そう、ありすが眠ってる墓地の方角だ」

 

 

 

 

 

 天導山霊園。天導山の麓にあるここは、凪波丘の公衆墓地であり、ありすの墓がある場所でもある。既に日も沈み、辺りは不気味な雰囲気に包まれていた。

 

「マスターの意見が正しいのであれば、ここがその女性の向かった先になりますね」

 

「この辺りは住宅も目立った施設も無い。天導山に入るにも、こちらからでは遠回りだ。こちらの方に来たならば、目的地はここしかあるまい」

 

 トゥードとセンが冷静に状況を分析し、結論を出す。

 

「……やけに嫌な雰囲気だな。寒気がする」

 

「さ、さすがに僕も少し怖くなってきたかな~……なんて」

 

「こ、こ、こ、怖くなんかない! 怖きゅなひ!」

 

 厳しい表情を浮かべる吼太とリーム。ナツハに至っては、顔は引き攣り、涙すら滲んでいる。

 

 と、その時だった。

 

 立ち並ぶ墓石のすぐ側を、"何か"が通過する。

 

「ひぃっ!」

 

 いち早くそのことに気づいたナツハが、短く悲鳴を上げる。

 

「みんな!」

 

 吼太の掛け声に、その場にいる全員が互いに背中合わせになる。全方位を警戒するが、先程の何かは見えない。

 

「まさか本当に幽霊か?」

 

「なかなか面白い。儂らの魔法が通じるか試してみるのも一興じゃ」

 

「しょんなこと言ってる場合かあっ!? だ、だって幽霊が! お化けがぁ!」

 

 最早泣き崩れるのも時間の問題かというナツハに対して、余裕綽々といった様子のセンとミナ。

 

「で、出てこいよ化け物野郎! 全員ぶん殴ってやるぜ!」

 

「マスター、足が震えています」

 

「これは……あれだ! 武者震いだ!」

 

 およそ2名が阿鼻叫喚と声を張り上げているそこに、歩み寄る一つの影。

 

「やぁやぁ。元気かぁい?」

 

「っ、テメェは!」

 

 吼太たちが声のしたほうに顔を向ける。そこにいたのは、ブレラの部下の一人であるホルクスだった。

 

「ようこそ、ようこそ。紳士淑女の皆さぁん。今日は僕が開催するパーティーにご出席頂き、真にありがとうございまぁす!」

 

 やけに仰々しい動きで吼太たちを歓迎するホルクス。対し、吼太たちの表情は――特に、吼太、リーム、トゥードの三人の表情には激しい、或いは静かな敵意が滲んでいた。

 

 しかし、それも当然だろう。外ならぬホルクスは、ありすを殺害した張本人。この場は、ありすが眠る墓地。反省したならばまだしも、今だ人を殺したことを何とも思っていないようなホルクスが立ち入ることなど、赦せるはずもない。

 

「トゥードォッ!!!」

 

『我、汝に力与えん』

 

「アームドッ、オンッッッ!!!」

 

 一瞬で鎧を身に纏った吼太は、ツワモノスラスターを使って一気に接近し、ホルクスに肉薄する。

 

「ここに、入ってんじゃねぇぇぇーーーッッッ!!!」

 

 既に振りかぶられたその腕は、間もなくホルクスの頬を捉えたはずだった。

 

 しかし、ホルクスは全く動じる事なく、合図を出す。その瞬間、辺りを包む暗闇から現れた"何か"が、ホルクスを攻撃せんとしていた吼太を突き飛ばしてしまう。

 

「ぐぁっ!」

 

『一体何が……!』

 

 吼太の中からトゥードが暗闇から現れた存在の正体を探る。

 

 そこにいたのは、黒いスーツに身を包んだ、正体不明の存在。体型から男性であることは確かだが、それ以上の情報は読み取れない。

 

 見れば、周りには既に何人もそれと同じような姿形をした存在がいた。やはり個性のようなものは感じられず、見ただけではどれがどれだか判別がつかなかった。

 

「驚いたかぁい? コイツら、まぁまぁやるだろぉう?」

 

 仕掛けが成功したと笑顔を浮かべるホルクス。その笑顔に宿る狂気は、間違いなく吼太たちに対する害意そのものだった。

 

「コイツらは精霊。そう精霊なのぉさ」

 

『馬鹿な! 男性型の精霊など、精霊の基準から離れている!』

 

 信じられないとばかりにトゥードが声を張り上げる。

 

「そうなのか、トゥード?」

 

『はい。精霊はまず間違いなく、女性型しか存在しません。ですから、男性型の精霊など、有り得るはずが――』

 

 そこで、トゥードの言葉に口を挟む形で、ホルクスが割り込む。

 

「それはあくまでも"今までは"、の話ぃさ。新しく開発されたこの魔霊種精霊は、今までの精霊とは違い、基本的に男性型ばかり。また、単体での戦闘能力も優れている。並大抵の魔法使いでは手も足も出ないくらいにぃね。しかも、未知の魔力粒子を使って作り出されているから対策も取りづらく、また量産も容易。確か、売り手は"汚れたマナ"とか言っていたかぁな」

 

 魔霊種精霊、と呼ばれた存在達が再び戦闘体勢に入る。しかしそこに、意思のようなものは一切感じられない。さながらそれは、機械のように無慈悲で冷酷だった。

 

「尤も、売り手曰くまだ未完成らしいけどぉね。一定以上の衝撃でマナに戻ってしまうとか。まぁつまり、僕をこの場から退かせたいなら、まずコイツらを倒すことだぁね。――行け!」

 

 ホルクスの言葉を合図に、魔霊種精霊が次々に吼太に向かって飛び掛かる。吼太はグラウンドブースターを吹かし、体勢を立て直しつつ、後退して回避する。

 

 しかし後方で待機していた他の魔霊種精霊が、何やら黒い球体型の魔力を打ち出し、吼太を攻撃してくる。回避運動をとるも、魔力塊を避けきれずに、鎧の中心に魔力塊が直撃してしまう。よほど凄まじい威力だったのか、頑強なトゥードの鎧に皹が入ってしまう。

 

 追撃が来るかと思われたが、意外にも魔霊種精霊たちはそれ以上の行動を取ろうとはしなかった。

 

「冷静になれ。我等の融合を待たずして戦うには、奴は些か強敵だ」

 

 吼太の側にやって来たセンが言う。

 

「そうじゃな。そしてそれはきっと、あの精霊らしからぬ精霊も変わりまいて」

 

「だがしかぁーし! 妾達全員の力があれば、あんな"うぞーむぞー"、恐るるに足らずッ!!!」

 

 続けてミナが言った言葉に、相手が幽霊でないと知って元気を取り戻したナツハが返した言葉は、現状をとても分かりやすく説明していた。

 

 散り散りでは足らないが、集まれば足る。今の吼太なら、決して勝てない相手ではない。

 

「コータ」

 

 さらに、リームが一歩前に出て、吼太の手を取る。

 

「コータが怒る気持ちは分かるよ。でも、やっぱりそれだけじゃダメ。頭は冷静に、気持ちは熱く。コータはそういう人でしょ?」

 

「リーム……あぁ、そうだったな」

 

 吼太が、セン達に向けて手を差し出す。その手を取り、セン達は吼太と合体する。

 

「さて、仕切り直しといこうか!」

 

 吼太はその手にアグニとルドラを持ち、更にドラゴンソニックを装備する。現時点で可能な、まさに完全装備だ。

 

「チート魔導師、吉谷吼太! 止められるもんなら止めてみなァ!」

 

 ツワモノスラスターを全開で稼動させ、手近な魔霊種精霊の懐に飛び込み、肘鉄を浮かせるように打ち込むと、同時にドラゴンソニックを十字に振り抜き、魔霊種精霊を斬り裂く。甚大なダメージを受けたことで、肉体の維持が不可能になった魔霊種精霊は、魔力粒子となって霧散する。

 

 ようやく接近してきていた敵の存在に気づき、先程の魔力塊を放とうとする魔霊種精霊。しかし、それよりも先に吼太は次の行動に移っていた。

 

 アグニとルドラを自身の左右に向け、連続で引き金を引く。その数、計12発。放たれた弾丸は刹那の時の後、周囲にいた、魔力塊を発射しようとしていた魔霊種精霊12体の頭部を正確に撃ち抜いた。

 

 吼太はそのまま身体を左に回し、背後の魔霊種精霊をルドラで撃ち抜く。身体を反転し終え、アグニをルドラに重ねるように構え、さらに弾丸を連射する。瞬く間にその数を減らしていく魔霊種精霊達。

 

 さらに、背後から迫っていた魔霊種精霊に対し、左右のツワモノスラスターをそれぞれ前後に吹かすことで瞬時に反転し、その勢いのままに回し蹴りを喰らわせる。弾き飛ばされた魔霊種精霊は、その後飛んできた槍型のドラゴンソニック――トライデントに打ち抜かれ、四散する。

 

 魔力糸によって操られているドラゴンソニック・トライデントは、吼太の腕の動きに合わせてその形を変え、通常形態である剣型――カリバーに変化する。吼太はカリバーとなったドラゴンソニックの刃を、魔力糸を引いて振り回し、周囲にいた残りの魔霊種精霊達を一気に搦め捕り、宙に投げ飛ばす。空中で動きの取れない魔霊種精霊達に、逃げることなど許されるわけもなく。直後に放たれたアグニとルドラの一斉射によって跡形も無く消し飛ばされた。

 

「きゃー! すごいすごいコータ!」

 

「この前、映画で見た戦い方を真似してみたんだが、案外上手くいったみたいだな」

 

『マスターの戦闘スタイルに合っていたのでしょう。素晴らしい戦果です』

 

 一方的な殲滅。今の吼太は、並の魔法使いを遥かに超える戦闘能力を持っていた。それは、小学三年生としては明らかに異質な強さだ。

 

 しかし、そもそも吼太は転生者。精神的な面では成人男性相応と言っていい。それ故の、判断能力の高さ。それは、子供ならではの脳機能の高さと相俟って、凄まじい能力を発揮していたのだ。それは、身体的不利を覆してしまうほどの。

 

 未熟な肉体を成熟した精神でカバーする。今の吼太の実力は、最早ホルクスが相手であろうとも、易々とは倒せないだけの存在になっていた。

 

 加えて、吼太の未熟な肉体は未熟なだけあり、伸び代を多く秘めている。一分、一秒、死闘を生き延びるたび、吼太は更なる強さを手に入れていくのだ。

 

 そのことを感じ取ったのか、ホルクスの顔が僅かに歪む。今はまだ、しかしいずれは。ホルクスにとって、吉谷吼太という存在は、最早看過出来るものではなくなっていた。

 

 いつ追い抜かれるか。一年後? 一日? 一時間? 一分?

 

 ――或いは、今?

 

 だがそれでも、ホルクスには切り札があった。魔霊種精霊よりも強力な、吉谷吼太にとってはこれ以上ない、最後の切り札が。

 

 

 

 

 

「いやぁ、お見事お見事。まさかここまでとは思わなかったぁよ」

 

「負け惜しみか? そいつは結構だが、もう勝負は見えてるぜ」

 

 吼太がアグニとルドラの銃口をホルクスに向けながら言う。

 

「まぁまぁ、そう結論は焦らないほうがいいんじゃないかぁい?」

 

 ホルクスがそう言った瞬間、辺りの様子が一変した。

 

 暗いながらも、綺麗に星を見せていた夜空が、みるみる雲に覆われていったのだ。雷雲らしく、雲の中では時折稲光が見える。

 

 その次の瞬間、稲光は吼太に向かってその牙を剥いた。

 

 凄まじいエネルギーを持つ雷が、吼太に向かって落ちたのだ。

 

 雷は、限りなく光に近い速度を持つ。それはつまり、どんなに鍛えていようとも、人間では対応出来ない速度だということ。雷を感知する、その時には既に、雷はその猛威を振るっているのだ。

 

「がぁぁぁぁッ!!?」

 

 為す術なく雷を受けてしまう吼太。雷の威力はあまりに凄まじく、大きなダメージに耐え切れず、その場に倒れ伏し、さらにはトゥードとの合体すら解除されてしまう。

 

「く、そ……一体何が……」

 

 身体中にダメージを感じながら、今にも崩れ落ちそうな身体に鞭打ち、何とか起き上がる吼太。

 

 その、今でも闘志を失わぬ赤い瞳が捉えた。

 

 ホルクスの背後に控えていた、その少女を。

 

 

 

「なん……で……」

 

 その少女の持つ金色の髪は、あまりに見覚えがなくて。

 

 

 

「なんで……お前が……」

 

 その少女が持つクリアブルーの瞳は、あまりに見覚えがなくて。

 

 

 

「なんでお前がそっちにいるんだ……ッ」

 

 しかし、その少女の顔立ちには、あまりに見覚えがありすぎて。

 

 

 

 今の吼太には、叫ぶことしか出来なかった。

 

「ありすーーーーーッッッ!!!」

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