The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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第14話 突入

 場所はオレの家。そこでオレ達は、決戦に向けてのミーティングをしていた。そう、ブレラ達との決戦のための、だ。

 

 「では、今まで彼らが現れた場所……特に、私の精霊に関係しない、この凪波丘の地で現れた場所を整理しましょう」

 

 トゥードが凪波丘の地図を広げる。地図の東側には海が広がり、あの事件が起こった海水浴場や統土岬がある。南には天導山と、その麓を包むように存在する天導樹海。オレ達の住む住宅街は統土岬と天導山の二つを線で結んだ中間辺りだ。

 

 「最初に現れたのが、統土岬から程近い海水浴場、次からは天導山から近い、ありす様が眠っていた霊園。これらはこの近辺に存在する"竜脈"の直上にあります」

 

 「竜脈ってーとあれか? 風水とかで言ってる、気の流れとかいう」

 

 オレの言葉にトゥードが頷く。

 

 「この世界では"気"とされていますが、厳密には私達が魔力と呼ぶものと同質……つまりは、魔力粒子で間違いありません。そして、竜脈の直上には時折、魔力粒子が大量に噴出する竜穴が存在します。この近辺で言えば、この家、統土岬、そして恐らくは天導山にも」

 

 なんとなく話は読めた。以前、精霊探しのための転移魔法陣を設置する際に、設置出来る場所はこの家か、統土岬か、天導山のどれか、と言っていた。つまりは、竜穴のある場所が、トゥードの転移魔法陣を設置出来る場所だったってことだ。

 

 「え? でもこの家の下に穴なんて無いはずだけど……」

 

 そう、昔からこの家に通っていたありすが言う。

 

 正気を取り戻したありすは、一先ずオレの家に、家族には内緒で匿うことにしていた。理由としては、やはり家族に逢わせるにはまだありす自身の心の整理がついていないし、更には生き返ったこと自体あまりに突拍子もない話であるため。魔法のことも話さなければならないし、そう簡単に事は進まないことは予想できることだ。

 

 あと、ありす自身も魔法に関わった者として、この街に住む者として、得体の知れないことを仕出かそうとしているブレラ達を放っておけないんだそうだ。で、そっちに集中したいから、今はありすの家族にはまだ黙っておく、と。

 

 勿論、オレは反対した。散々命を弄ばれたんだ。もう関わらずに、出来るなら平和な日常に戻ってほしい。だが、ありすの決意の篭った瞳を見たら、何も言えなくなってしまった。全く、情けないったらないよ。

 

 「説明が不足していましたね。この場合の竜穴とは物理的な意味での穴ではなく、竜脈から濃密度の魔力粒子が噴き出している地点を指します。魔力粒子が満ちているということはつまり――」

 

 「その地点のいずれかならば、大規模な魔法も可能、というわけだな」

 

 トゥードの言葉を引き継ぐ形でセンが言う。

 

 「いかに精霊の助けがあったとはいえ、竜脈の近辺でしかないあの霊園で、死者を蘇らせるだけの力が使われたのです。竜穴上ならばさらに大規模な……それこそ、何が起きてもおかしくはありません」

 

 「この日本がどうなるか、で済めばいいほうじゃろうな」

 

 「マジで!?」

 

 ミナの言った言葉に過剰な反応を見せるナツハ。つーかナツハ、お前キャラ変わってないか?

 

 「地球が爆発する衝撃で死ぬのも悪くない……でも、真空に放り出されて窒息死も捨て難い」

 

 この物騒なことを言っている、ありすのと比べると若干黄色っぽい金髪ツインテールの少女は、この間仲間になったカンナの人間態だ。どうもコイツは自殺癖……というより、自殺が趣味のような感じらしい。実際、今日の朝起きたらカンナの胸から包丁が生えてたという事態に遭遇した。

 

 「縁起でもないこと言わんでくれカンナ」

 

 「分かったとーさま。私も状況は理解してる。ただ自殺衝動が抑え切れないだけ」

 

 「抑えろバカ」

 

 カンナの頭を小突く。

 

 「痛い。死ねない」

 

 「だから死ぬなっての。……っと、話の途中だったな。確か、竜穴の上なら大規模な魔法が使える、だっけ? それは分かったが、それと奴らに何の関係が?」

 

 オレが聞くと、トゥードが地図のいくつかの地点を順に指差していく。

 

 「簡単に秘匿出来るような小さなことならば、ありす様の悲劇の時のように、僅かな可能性を潰す必要が無い。相応に大規模な何かをしようとしていることは明白です。そして、それには竜穴の上が最適。私がいた統土岬、この家は候補から外せます。つまり……」

 

 トゥードのしなやかで長い指が、天導山を指差す。

 

 「……奴らがいるのは、天導山のどこかにある、竜穴。その、直上と推測されます」

 

 

 

 

 

 人は疎か、生物の気配すらしない、天導山中腹に空いた横穴。ここは、あまりに斜面が急であり、また周囲の岸壁も崩落しやすいという理由から、立ち入りの禁止されている場所である。

 

 そこに、各々の手段で降り立った吼太達を出迎えたのは、大量の魔霊種精霊だった。

 

 「コイツらは!」

 

 「どうやら当たりのようですね」

 

 トゥードが、近寄ってきていた一体の魔霊種精霊を蹴り飛ばしながら言う。

 

 「コータ、エクスドリルだと壁が崩れやすいよ。ここは私に任せて!」

 

 「任せたぜありす!」

 

 ありすの放つ雷が、魔霊種精霊達を一挙に破砕する。塵すら残さず消え失せるその威力を見て恐怖を抱いたのか、残った魔霊種精霊の動きが鈍る。

 

『なら僕も! 凍てつけ!』

 

 吼太と合体した状態のリームが、全てが凍てつくような吹雪を作りだし、前方にいた残りの魔霊種精霊を纏めて凍り付かせる。

 

 「トゥード!」

 

 「了解、マスター」

 

 吼太の声に応じたトゥードは、凍り付いた魔霊種精霊に手刀を浴びせ、次々に切り裂いてしまう。

 

 「すごいのう」

 

 「我々の中で1番の実力者だからな。魔法さえなければあの程度の敵は造作もないだろう。ましてや、リームによって凍らされていたわけだしな」

 

 センが言う通り、トゥードはこの中では最強と呼べる実力を持っている。それは、永い時を生きてきたが故の経験からくるものであり、その観察眼は全てを見通す。敵の動きも、敵の弱点も、トゥードは一瞬で見抜いてしまうのだ。

 

 「さぁ、中に進むぞ」

 

 ユニオンフォームを維持したままの吼太が言う。

 

 内部には要所要所で明かりが灯り、この場所に人の手が入っていることが窺えた。だがこのような危険な場所に来る人間などそうはいない。ほぼ間違いなく、ブレラ達がいるという結論に、吼太達は達していた。

 

 特に分かれ道もなく、一本道を真っすぐ進む吼太達。罠の一つでもあるかと思われていたその道には、たったの一カ所として罠の仕掛けられた場所はなかった。

 

 「随分と不用心だな」

 

 「道が崩れやすいということもありますが、それにしても……ですね。この場所に誘い込むこと自体が罠の可能性もあります。注意して進みましょう」

 

 やがて、道を進んでいった吼太の前に、コンサートホールのように大きな空間が現れる。

 

 「周囲の土が新しい。しかも、相当しっかり固められてやがる。まるでコンクリートだ。これは、自然に出来たもんじゃねぇな」

 

 「コータ、そんなこと分かるの?」

 

 ありすに聞かれた吼太が、右手に付けたドリルを左手の甲でコツンと叩く。

 

 「コイツを使ってる内になんとなく、な。……さぁーて、大ボスの登場みたいだぜ」

 

 何やら幾何学的な模様が辺り一面に広がっていく。そして、この空間の中心に光が集まり、その中からブレラが現れる。

 

 「よもやここまで嗅ぎ付けられるとは……やはりあの時、始末するべきだったか」

 

 「"もしも"の話なんかに、こだわりなさんな、ってな。ここに現れたってことは、こっちを排除しに来たんだろ?」

 

 ブレラの周囲に風が巻き起こる。それは、吼太の問いが正しいことを示していた。

 

 「リーム、ありす、みんな。気ぃ引き締めろ。ここで決着を付けるぞ」

 

 吼太が言うと同時に、全員がそれぞれの形で戦闘体勢に入る。

 

 しばしの静寂が場を支配する。互いの手の内を読み合っているのだろう。今この瞬間は、先に手を出した方が敗北する。

 

 だがしかし、ただ見ているだけではこの場が収まることがないのまた事実。故に、どちらもが狙っていた。"自身を優勢にする事の出来る一手"を。

 

 刹那、双方は全く同時に動き出した。

 

 「エクスドリルタイフーンッ!」

 

 「ハァッ!」

 

 ドリルの生み出すエネルギーの螺旋と、目に見えない一撃とがぶつかり合い、辺りに凄まじい暴風が吹き荒れる。

 

 「トゥード!」

 

『我、汝に力与えん』

 

 発生した衝撃波に隠れるようにして、瞬時にアーマーフォームに切り替える吼太。

 

 「ランページ・デュアル・ブーメラン!!」

 

 両肩の巨大噴出器、ツワモノスラスターをブーメラン型に変形させて、ブレラに向けて投げ付けた。以前、ブレラの魔法防御を破壊した実績を持つ攻撃だ。今回も間違いなく通用する。そう判断しての行動だった。

 

 しかしそこで不可思議な現象が起こる。凄まじい回転を見せながらブレラに迫っていたツワモノスラスターが、不意にその軌道を変化させ、ブレラを避けるように周囲の壁に激突したのだ。

 

 「なんだありゃ! 手品かなんかか!?」

 

『妾の力が手品如きに負けるか! しかし、あれは……?』

 

 吼太の言葉にツッコミを入れつつ、同時に状況を訝しむナツハ。

 

 「分からないか? なら、"鎧"に聞けばいいだろう」

 

 ブレラが言うと、吼太の中にいるトゥードの雰囲気がわずかに変化する。それを敏感に感じ取った吼太が、不思議そうな表情を浮かべる。

 

『……今まで、私達が手に入れた、私の欠片とも言える感応種精霊は、四体。それぞれ、始まりと終わりを操る力、流れを操る力、活力を操る力、既存の形を変える力。そして、残る一つは、"力を自在に強化する力"。しかし、あれは……そうか』

 

 トゥードが、何か得心のいった雰囲気を浮かべた。

 

『マスター、恐らくブレラ様が張っているのは、風の結界。ブレラ様は、風の適性を持っている魔法使いです。そして、その力の強化に精霊を使っているものと思われます』

 

 「その通りだ。私は風の適性を持つ魔法使いだ。あの精霊のおかげで強力な風の結界を使えるようになった。尤も、契約は出来なかったがな。……ついでだ。もう一つ教えてやろう――――」

 

 ブレラの周りに、四色の光が現れる。赤、青、緑、黄の四色の光からは、凄まじい魔力が吹き荒れていた。

 

 「私は、風のみならず、四種の魔法全てを扱うことが可能。四色魔術士、ブレラ・ファロメオとして、その道では有名だ」

 

 「チッ、厄介だな……」

 

 現代の魔法界隈の情報を持たない吼太たちに、その二つ名がいかほどの影響力があるのかを知る術はなかったが、ブレラが強敵であることは痛いほどに理解していた。

 

 本来、一つの種類だけでも持っていればいい方の魔法適性を四種類全て。しかも、限定的ながらトゥードの精霊の力まで得ている。同じ四種類の魔法適性を持つトゥードは、過去唯一、全力のエクスドリルを破壊している。また、ブレラはトゥードと違って正真正銘、人間の魔法使い。それを踏まえれば、その実力は計り知れないことが分かる。

 

 吼太が笑顔を浮かべる。しかしそれは、この状況を楽しんで浮かべた笑みではなく、恐怖をごまかすためのもの。気概だけでも強く持とうとする、吼太の小さな抵抗の証だ。

 

 「しかし解せねぇな。四種類の魔法適性のことじゃねぇ。ありすの時もだったが、感応種にしろなんにしろ、精霊の力は契約しねぇと操れねぇはずだ。しかも感応種なら制約はさらに多い。それを、精霊と契約すらせずに扱える? ……いくらなんでも、都合が良すぎるんじゃねぇか?」

 

 そう、吼太が言う。感応種精霊はいわば他の精霊への追加アイテムだ。つまり、単体では使用不可能。ましてや、契約もしてない精霊の力を操るなど、まず間違いなく不可能であるはずなのだ。

 

 吼太の言葉に、ブレラが高笑いを上げる。

 

 「ハッハハハハ! そうだな、わからんだろう。私とて最初は信じられなかった。だから、教えてやろう」

 

 ブレラが取り出したのは、何やら魔力の気配を感じる二つの石版。

 

 「私は、ある遺跡で発見した。この二枚の石版――古代の魔導書を。そして、契約し、手に入れたのだよ。忠実かつ有能な二人の手下を」

 

 「二人……?」

 

 「二人の手下って……まさか!」

 

 不思議がるありすの傍で、いち早くブレラの言葉の意味に気づく吼太。

 

 「ザンク・ローサスとホルクス・ワンゲー。あれらは、精霊……或いは、それに近しい存在だ」

 

 「なっ…………」

 

 ブレラの言葉に動揺を隠しきれない一同。

 

 彼等は魔力や戦闘能力も高く、また精霊の域を超えた独自行動能力を持っていた。明らかに、精霊の定義に当て嵌まらない。

 

 「まぁ、信じる信じないはお前たちの勝手だ。だが、信じなければ説明はつくまい」

 

 とはいえ、通常の精霊とは様々な点が違いすぎるからか、感応種精霊との契約は行えなかったようだがな、とブレラが付け足す。

 

 それに、合点がいった態度を見せるトゥード。

 

『少々突飛な内容ですが、聞いたことがあります』

 

 「知ってんのかトゥード」

 

『はい。詳細は不明ですが、遥か昔に、"戦精霊"の制作が為されていた、と。ただ、私も実物を見たのはザンク様方が初めてです』

 

 吼太は改めてブレラが持つ石版を観察する。見たこともない文字が書かれたそれは、確かに大昔の魔導書と言って差し支えはない。本のように大量の文字が記載されているわけではないが、恐らく、中の文字には元々あまり意味は無いのだろう。そう結論付ける。

 

 「さて、お話もここまでだ」

 

 ブレラの周りに漂う四色の光が、それぞれ火、水、風、土の塊へと変わる。

 

 それは、一つ一つはとても小さな塊。しかし、そこに込められ魔力は、都市一つを破壊し得るだけの破壊力を秘めていた。

 

 「チッ……」

 

 いかにフォルティトゥードの鎧が頑強といえど、中の人間はそうはいかない。直接のダメージは防げようとも、衝撃は硬い装甲を摺り抜け、鎧内部の肉体にダメージを与える。

 

『マスター、このままでは……!』

 

 「わあってる! だけど、今回ばかりは何も手段が……!」

 

 「コータ、あのワープするドリルでまた精霊を奪うのは?」

 

 「ダメだありす! 位置が特定出来てねぇ以上、エクスドリル・クローズインパクトは使えねぇ」

 

 「こ、こうなったらコータと最後の思い出作りを」

 

『自重してください、リーム様』

 

『凄まじい魔力だ……。我々の魔力では手も足もでないか』

 

『一巻の終わりかのぅ』

 

『何発目で死ぬかな。楽しみ』

 

『言ってる場合かぁっ!?』

 

 最早収拾がつかないほどに騒ぎ立ててしまう吼太達。人数が多いだけに、やたら姦しい。それには、流石のブレラも僅かに気圧されてしまうほど。

 

 「こうなったら破れかぶれだ!」

 

 吼太がアグニとルドラを取り出す。何をするのかとトゥード達がそちらに注目する。吼太は、そんなトゥード達の視線など気にも止めずに、アグニとルドラに意識を集中する。

 

『マスター、まさかアグニとルドラの合体を? あれは不可能だと分かっているはず――』

 

 「不可能かどうかはオレが決めんだよ! 何度も言わせんな。それに、何もしないまま死んでなんて……堪るもんかよぉぉぉーーーッッッ!!!」

 

 その時だ。

 

 アグニとルドラが光を放ったかと思えば、その銃身同士が重なり合い、溶け合うように連結し、一つになったのだ。

 

 「ッシャア!」

 

 「なんかもう、コータ何でもありだね」

 

 「うん、僕も思ってた」

 

 ガッツポーズをする吼太の傍で、呆れを通り越し、感心してしまうありすとリーム。

 

 「名付けて、アグニ&ルドラ、ブラフマストラモードだ!」

 

 合体し、形状が変わったアグニとルドラ。アグニを基準に、ルドラをアグニの銃身の後ろに備えたその形状は、まさに以前ブレラと戦った際に会った、謎の人物のそれと同一のものだった。

 

 「……"それ"か。だが、今回は前のようにはいかんぞ!」

 

 ブレラが四色の魔力塊を吼太たちに向けて飛ばす。一つでも着弾を許せば、戦闘不能は疎か、死亡すら有り得る。

 

 しかし、吼太は冷静に飛んでくる魔力塊に狙いを定める。

 

 全てを一撃では撃ち落とせないと判断した吼太は、静かにブラフマストラアグニを1番近くに寄ってきていた、右上の赤い魔力塊に照準を合わせ、引き金を引く。

 

 放たれた弾丸は、正確に魔力塊の中心を撃ち抜き、内部でその魔力を爆発させる。魔力塊は、四散し、魔力粒子となって消え去る。

 

 続いて、左下の黄色い魔力塊。右下の緑色の魔力塊、左上の青色の魔力塊。次々に魔力塊を落としていった。

 

 「何だと!?」

 

 「見たかブレラ! これが火事場のバカ力ってやつだ!!」

 

『それは違うかと』

 

 トゥードに冷静にツッコミを入れられつつも、ブレラを気圧すことに成功した吼太。そのせいか、大きな隙が場に生まれる。

 

 

 

 ――ようやくか、ひやひやしたぞ

 

 

 

 不意に声がする。一同が声がした方を向くと、そこには以前の戦いで現れた、謎の人物が立っていた。

 

 「アンタは……」

 

 「まだ"不完全ではある"が、まぁいいだろう。お前に、贈り物だ」

 

 謎の人物が手に持っていた何かを吼太に渡す。

 

 「これは……」

 

『奪われていた……私の、精霊? これを何故貴方が――』

 

 「向こうに落ちていたのを拾った。今のお前ならば、これを……そして、"フォルティトゥードの全て"を使いこなせるはずだ」

 

 「トゥードの、全て?」

 

 謎の人物はそれだけ言うと、黄金の懐中時計を取り出して、この場から去ろうとする。

 

 「あ、おい待てよ!」

 

 「忘れるな吉谷吼太。オレが前に言ったことを」

 

 そう言うと謎の人物は、時計の針を動かして、その場から掻き消えるように消えてしまった。

 

 

 

 

 

 あの時、"アイツ"が言っていたこと……。

 

 

 

 ――未来を、間違えるな

 

 

 

 「……しゃらくせぇ! 考えんのは後だ!」

 

 手にした精霊を掲げ、契約の準備に入る。

 

『マスター……』

 

 「何も言うなよ、トゥード。あいつは敵じゃねぇ。悪い奴じゃねぇんだ。だったら、信じてみてもいいはずだ」

 

『……その性格、直さないといつか後悔しますよ』

 

 「しねぇさ。オレには自信がある」

 

『根拠は何か?』

 

 「無いに決まってんだろ! 敢えて言えば、勘だ!!」

 

 「「無茶苦茶だ……」」

 

 ありすとリームが呆れ、トゥードがため息をつく。全く、失礼な奴らだ。

 

 魔導書が輝き、オレの意思に呼応し始める。

 

 「やらせん!」

 

 ブレラが攻撃してくるが、もう遅い。契約のために張られたバリアが、ブレラの強力な魔力の弾丸からオレ達を守る。

 

 そして光が強まり、精霊が顕現する――

 

 

 

 「……ふぁー。だる」

 

 「…………は?」

 

 精……霊……?

 

 いや、待て待て。確かに手の中にあった魔導書がなくなり、今までいた奴が現れた。だから、コイツは精霊だろう。

 

 見た目は淡い金髪の……多分、少女だ。これでオッサンだったら別の意味でビックリだったが、多分間違いない。

 

 ……何故"多分"なのかって? それはだな。

 

 「なんッ……で! 布団が一緒に出てきてんの!?」

 

 「ぱぱうるさーい」

 

 布団の中から髪だけを出して抗議する、名前未定の精霊。そうだ、名前を決めなきゃだった。

 

 「ほら、名前つけるから布団から出な」

 

 「やー!」

 

 妙に抵抗する名前未定の精霊。仕方ないので、無理矢理布団を剥がす。

 

 「あ、かえして~」

 

 「寝るな戦え! ほら行くぞ"キサラ"!」

 

 キョトンとした顔でこちらを見つめる名無し美少女改め、キサラ。五人目の感応種精霊にして、新たな仲間。

 

 「……キサラ?」

 

 「キサラ。お前の名前だ」

 

 「んー……わかった。すこしだけがんばる」

 

 キサラが光と変わり、オレの身体に溶け込む。同時に、脚部を覆う鎧に強い魔力が宿る。

 

『……永い時を生きてきましたが、私の機能五つを解放出来る人間が、マスターが現れる時が来ようとは。私の力、存分にお使い下さい、マスター!』

 

 「応よトゥード! お互い、本領発揮といこうぜ! キサラ、脚部鎧【イノセントセイバー】、機能解放!!!」

 

『はーい』

 

 脚部の鎧、イノセントセイバーから溢れ出す魔力が、全身を包む。

 

 「ぐっ、契約を許してしまったか……。だが!」

 

 ブレラから大量の魔力弾が放たれる。キサラのバックアップが無くなったはずなのだが、まるでそんなことは関係ないと言わんばかりだ。

 

 「鈍重なその身体ではこれだけの弾丸は避けられまい! 威力はその鎧を破壊して余りある。お前は、終わりだ」

 

 まさに、壁のような弾幕。今までの自分ならば、避けられなかっただろう。

 

 

 

 

 

 ――今まで、なら。

 

 オレは軽い足どりで、魔力弾の弾幕を回避する。

 

 「何!?」

 

 先程までとはまるで動きが違うことに、驚いて目を見開くブレラ。

 

 「すげえ身体が軽い! 鎧が無い時より速く動けるくらいだ!」

 

『とーぜんだよ』

 

 キサラが若干だるそうに言う。

 

 解放されたイノセントセイバーの能力は、APF――Anti Physical Field。これは、既存の物理法則とは違う、独自の法則で身を包む能力だ。これにより、重い者は軽く動き、軽い者は重く動くようになる。つまり、オレは重い鎧を着ながらも、素早く機敏な動きが出来るようになっていた。

 

 オレを包む異界の法則は、オレ自身の意思で自在に操作出来る。だから、接近してきた敵の攻撃に対して、ベクトルを逆にして反転して跳ね返すとか、未知のエネルギーを作り出すとかも可能だ。尤も、あくまでこれも魔法なんで魔力が足りる限り、という制限がついてはいるが。

 

 とにかく、速く動けることは疑い無い真実だ。これならば、ドラゴンソニックの"使いこなせなかった二つの刃"も使いこなせるはず。

 

 「さぁ、反撃開始といくぜ! ドラゴンソニック・カトラス!!!」

 

 オレが言うと、魔力が腕に集まり、紙のように薄い刃が顕れる。カトラスは、徹底的に軽量化をした、高速戦闘用ドラゴンソニックだ。鈍重な動きしか出来なかった今までは到底使いこなすことが出来ない武装だったが、イノセントセイバーのおかげで、使う場面が回ってきてくれた。

 

 ツワモノスラスターとグラウンドブースターを最大出力で動かし、一気に加速する。

 

 「な、速――――」

 

 ブレラが言い終わる前に、既にオレの攻撃は終了していた。何百、何千という斬撃が叩き込まれ、ブレラの全身が傷だらけになる。一発あたりのダメージは小さいが、これだけやられたらただでは済まないだろう。

 

 ツワモノスラスターで加速、グラウンドブースターで姿勢制御を行いつつ、イノセントセイバーで細かい姿勢制御や加速時のG対応を行う。これによりオレの機動力は、地上限定ながら亜音速まで達した。

 

 「安心すんのはまだ早ぇぜ! ドラゴンソニック・ツルギ!」

 

 刃が魔力に包まれ、ドラゴンソニックの形状が変化する。顕れたのは、右手に美しく綺麗な麗剣。左手には、それがちょうど収まりそうな鞘。そう、日本刀セットとでも言うべきものだ。

 

 「なんつーか、なんで魔法の世界に日本刀があるんだ? まぁ、いいか。ここは日本人らしく、居合斬らせてもらおうか!」

 

 刀を鞘に入れ、腰溜めに構える。

 

 「嘗めた真似を!」

 

 ブレラが少し前に放った、四色の魔力塊を再び作り出し、こちらに向けて放つ。

 

 ぐんぐん迫ってくる魔力塊。

 

 まだだ。まだ早い。

 

 さらに迫る。

 

 まだだ。まだ堪えろ。

 

 最初の魔力塊が、あと1mもない距離まで近づく。

 

 まだだ。

 

 

 

 

 

 ――今だ!

 

 「ハァァァァァッ!!!」

 

 鞘から、刀が一筋に走る。

 

 次の瞬間、全ての魔力塊は真っ二つに別れ、爆発する。

 

 「ぐ……!!」

 

 己の攻撃を悉く破られ、焦りを顔に出すブレラ。

 

 「さぁ、終わりにしようぜ!」

 

 ドラゴンソニックをツルギから通常形態のカリバーに戻し、ツワモノスラスターで一気に接近する。この一撃で、ふざけたこの一連の事件を終わりにする!!

 

 

 

 「――させんっ!」

 

 

 

 腕が持ち上がる感覚。そして襲いくる、腹部の激痛。

 

 "何者か"によってカリバーごと腕を打ち上げられ、がら空きになった腹部に何か打撃を喰らったのだろう。そう理解したときには、それを行った何者かが、ブレラに肩を貸しているのが目に入っていた。

 

 「ご無事ですか、主よ」

 

 「ザンクか……すまないな。この体たらくだ」

 

 「何をおっしゃいますか。私がいなかったばっかりに、このような賊の侵入を許してしまいました。……後は私にお任せを。見事、あの者の首を取ってみせましょう」

 

 ザンクが刀を抜き、こちらに向き直る。

 

 「任せたぞ、ザンク」

 

 ブレラが奥に撤退していく。追いたいのは山々だが――

 

 「三度(みたび)…………ようやく、決着を付ける時が来たようだな、少年」

 

 ――そうもいかないようだ。

 

 「オレとしちゃ、何も言わず、何もせずに帰ってくれるならそれで手打ちにしてもよかったんだが」

 

 「こちらにも譲れぬ物があるのだ。……分かっていて言ったのだろう?」

 

 「まぁな」

 

 オレが言って、はいそうですかと帰ってくれる連中には到底見えなかったからな。

 

 「さぁ、始めようか」

 

 「じゃあ、始めようぜ」

 

 

 

 「「――決闘/ケンカを!!」」

 

 

 

 

 

 「ぐ……まさか、全ての精霊を手にするとは……だが、こちらにも負けられん理由がある……!」

 

 ブレラの手が、胸にかけられたロケットに伸びる。

 

 ロケットの中にあったのは、笑顔の女性と子供が写った写真。

 

 「もうすぐだ……もうすぐ叶う。ナギナミオカの力を手に入れて……私の悲願を……"帝国"に奪われた――」

 

 

 

 ――――ザシュッ

 

 ブレラの胸から、細剣の刃が生える。

 

 薄れゆくブレラの視界が最後に捉えたのは、踏み潰された、彼の妻子が写った写真とロケットだった。

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