The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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はい、というわけで本格的に物語が動きはじめる第01話になります!

バトル増し増しですので、楽しんでいただけれると幸いです。

……やめて! 技量が足らないとか言わないで! 痛いほど自覚してるから!

とにかく、吼太の始まりの物語、どうぞ。

※この話は改稿後の話になります。


第01話 開幕

 あれからさらに5年。オレの日常はさほど大きな事件もなく過ぎていった。見た目的な認識の違いはあったけど、たいした問題ではなく、おおむね平和に暮らしていた。唯一不満があるとするなら――――

 

 「吼太ぁ、次はこれ着ようか! 大丈夫よ、ただのお洋服だからっ!」

 

 「幼児用妊婦服とか聞いたことないよ!! 第一、オレは男!!」

 

 ――毎日毎日、母親の着せ替え人形にされていることぐらいだ。

 

 身体が出来ていなかった最初の頃こそ諦めて着替えさせられてはいたけど、動くようになった後でまで玩具になるつもりは無い。

 

 「外に遊びに行ってきまぁぁぁす!!!」

 

 「あっ、車に気をつけてね~!」

 

 事後承諾の形で家から逃げ出す。家の中にいたら逃げ切れねぇんだよ。

 

 とりあえず、外をのんびり歩きはじめる。もうなんだかんだで体は9歳、普通に外で歩いていても何か言われることは無い。いや、休日だってのがあるけどさ。平日の昼間っから子供が歩き回ってたら補導されるし。

 

 そうそう、学校だけど当然通っている。暇ではあるけどな。転生なんていうから、もしかしたらアニメや漫画のキャラクターがいたりするのかと思ってたけど、実際は姿の似た人物すらいやしなかった。残念。まぁ、相変わらず髪やらはカラフルだけどさ。

 

 「っと……」

 

 考え事をしていたせいで、誰か大人にぶつかってしまったみたいだ。

 

 「すみません、ちょっと考え事をしていて……」

 

 顔を上げて、相手を見る。そしてビックリしてしまう。ぶつかってしまった相手が、かなりのイケメンだったのだ。なんとなく、鋭い雰囲気がする。が、テレビとかで見たことはない。まだ仕事が少ない、駆け出しアイドルなのかな? 或いはアイドルではない? だとしたらもったいない。せっかくイケメンに生まれたのに。

 

 オレに気づいたらしいイケメンは、下を向いて、そして――――

 

 「…………見つけた!」

 

 何かを向けてきた!? 身体を捻るが、やはり9歳児の身体じゃ無理がある。それでも、身体の小ささを活かして、なんとか"何か"を避ける。

 

 地面に倒れた衝撃で皮の裂けた膝の痛みを我慢しつつ、すぐに状況を確認する。先程までオレがいた場所はクレーターのように刔られており、その側には右腕が悪魔か怪物のように変化したイケメンがいた。

 

 誰が見ても分かる、異常事態だ。ただ、分からないのは、さっきのイケメンの言葉だ。まるで、オレ本人を探していたみたいな……?

 

 「何すっとぼけたツラしてんだよ? いくら見た目がガキだからって"中身"が"中身"だ。遠慮なんかしないぜ」

 

 「何の話だよ!? だいたいお前は誰だ! なんでそんな気持ち悪い腕してんだ!?」

 

 「ハッ、知らないならそれでいいさ! オレが欲しいのはテメェの命だからな!!」

 

 物騒すぎだろ!? チクショウ! オレはこんな無茶苦茶なイケメンに狙われたくなんかねぇよ!!

 

『お困りのようですね』

 

 「ベスか!?」

 

『状況を説明して差し上げたいのですが、少々その方が邪魔ですね。時間を止めましょうか』

 

 瞬間、イケメンの動きが止まる。バケモンみたいな片腕を振り下ろした体勢がどことなくシュールだ。それだけじゃなく、空をたゆたう雲も、駆け抜ける鳥も、或いは大量の車の洪水も、完全に止まってしまった。時間が止まったっつうのは嘘じゃないらしい。

 

 「……で、状況を説明してもらおうか」

 

『では、説明致しましょう。まず、そこの異形の片腕――確か、名前はオーガハンドでしたか。それを持つ青年はあなたと同じ存在……つまりは、転生者です』

 

 「転生者……?」

 

 転生者っていうと……オレがオレである意識が芽生えたあの時にベスが言っていたが……。

 

『転生者、というのはまぁ読んで字の如く転生をした者です。……が、以前説明致しました通り、あらゆる生命体は輪廻に従い転生をしています。対し、ここで言う転生者とは、輪廻から外れた転生を行った転生者という意味で用いられます』

 

 「なんかややこしいな」

 

『以前、別な名称を流行らそうとしたんですが、定着しなくて』

 

 流行りものなのか? 転生者って名前。

 

 「で、その転生者がなんでオレを狙うんだ?」

 

『別に吼太さんを狙っている訳ではないですよ。ただ、転生者の間で流れている噂と、転生者のみが持つ特異性が重なったせいで、転生者は同じ転生者を常に狙っているんです』

 

 噂に特異性ねぇ。オレはそんなの聞いてないけど。

 

『転生者というのはかなりの高確率で、何らかの通常の人間が持ちえない特殊な能力を保持しています。例を挙げるなら、その方の腕を異形の怪物の物に変える力でしょうか』

 

 「なんか、日常であんまり役に立ちそうにねぇ能力だな」

 

『戦闘が多々ある場所に転生する方もいますから。この方もそういった場所から時空を越えてやって来たのかもしれませんね』

 

 「なんでまたそんなこと……」

 

 明らかに意味無いじゃんか。早く帰れ。

 

『その目的こそ、自分以外の転生者です。流れている噂にも関連しているのですが、その噂の内容は、"転生者は、自分以外の転生者を殺害することで、殺した転生者の力を受け継ぐことが出来る"というものです』

 

 なんじゃそりゃ!? それじゃあ、コイツはマジでオレを殺そうとしてたってのかよ? てっきり、タチの悪い冗談かと……。

 

 ――――ん? 噂……?

 

 「ベス。もしかして、"噂"ってことはまさか……」

 

『はい、そんな事実はありません』

 

 やっぱりかよ!! マスコミに操られる一般市民かっての!? 噂をそんな簡単に信じるなよ!?

 

『尤も、能力を受け継がせる方法が無い、と言ったら嘘になりますが』

 

 「そうなのか?」

 

『えぇ。血液を直接身体に取り込ませれば、能力を相手に与えることが出来ます。適合するかはその人次第ですけどね。ちなみに、相手は転生者でなくても大丈夫ですし、能力を与えても元の人物から能力が失われることはありません。或いは、転生者の血液が体内に入った際、器となる存在の形質のせいで能力が変質してしまい、新たな能力が生まれることもありますね』

 

 つまり、転生者が輸血なんかしたら、どっかの誰かに能力が宿るなんてこともあるのか。

 

『なお、そこの彼は血液の話は知りません。馬鹿ですよね。ハハハハハ』

 

 笑い事じゃないからな。結局、オレの命は危ないままだからな。

 

 つっても、今頼れる相手はベスしかいない訳で。

 

 「なぁベス、オレには何か能力は無いのか?」

 

『分かりません。私個神からは能力を与えてはいませんが、転生者なんてイレギュラーな存在ですからね。持っていてもおかしくはありません』

 

 無責任だなチクショウ! 結局、状況は進展してないし!!

 

 「ならせめて今すぐ武器かなにかをくれよ! このままじゃミンチ確定だ!!」

 

『そう言うと思っていました。……何か、生まれた時から持っている物、ありませんか?』

 

 生まれた時から…………えーと……。

 

「ないぞ?」

 

『嘘つかないで下さいよ』

 

「いや、ついてねぇよ」

 

 嘘ついて1番困るのはオレなのに、なんでつかなきゃいけないんだよ。

 

『おかしいですね……確か餞別に持たせたはずなのに………………あ、持たせ忘れてました』

 

 ……このクソ神、いつか思いっきりブン殴ってやる。

 

『では、今送りますね。はい』

 

 気づいたら、オレの手の中には指輪があった。特殊な紋様の、金属製の指輪だ。大人用だからか、今のオレの指にはかなり大きい。

 

「これで相手を殴れってか? 出来たら苦労しないだろうな」

 

『神の道具(物理)じゃないですから。それは"ユビキタスサークル"。以前、とある人物から温泉に行った時のお土産として貰ったものです』

 

 温泉のお土産……。コイツは本当にオレを助ける気があるのか? さっきから馬鹿にされてる気しかしない。

 

『馬鹿にはしてますが助ける気もあります』

 

「馬鹿にしてんのはわざとかよ!? あと心を読むな!」

 

 チクショウ! こんなふざけた性格の神様の助けを受けなきゃなんないなんて……!!

 

『話を戻しますよ。それを指に嵌めて、指輪に意識を集中させてください』

 

 指輪を中指に嵌め、言われた通りに意識を集中させる。すると指輪が光り輝き、巨大化した後、腰に巻き付く。

 

「おぉ!? なんか変身とか出来そうなベルトになった!?」

 

『出来ませんけどね』

 

 …………出来ないのか。

 

『そのユビキタスサークルは、それ単体ではさしたる力はありません。ですが、ユビキタスサークルは、それを介して次元や時空を越えてあらゆるものを呼び寄せることが出来ます。武器しかり、動物しかり、どんなものを呼び寄せるかはあなた次第です。呼び寄せられるものは装着者の実力に依存するので、今の吼太さんではたいしたものは呼び寄せられないでしょうけど……まぁ、そこの彼を倒せるだけの力は出せるでしょう。使い方は、既にあなたの頭に流れ込んでいますね?』

 

「ッ、あぁ……!!」

 

 脳が焼け付きそうだが、何とかなりそうだ。

 

『最初ですから、とりあえずランダム召喚を試してみましょうか。――そろそろ時間停止も限界のようです。頑張って下さいね』

 

 その瞬間、ベスの気配は消え、イケメンが動きはじめる。

 

「……何かの道具。それがお前の能力か?」

 

「さぁな」

 

 思わずハッタリかましちゃったけど、大丈夫……なのか? なにせあの駄神がくれたもんだしなぁ。

 

「…………まぁいい。どのみちお前を殺せば手に入ることに変わりはないからな!」

 

 しかし、イケメンにとってはそんなこと知るわけもなく、巨大な腕――オーガハンドをこちらに伸ばしてくる。勢いはそれほどでもないが、当たればやはり死は免れないはずだ。

 

「チッ、やるしかないか! コール・アームズ【ランダム】!」

 

 オレが叫んだ瞬間、目の前に銀河にも似たゲートが現れ、迫って来ていたイケメンの右腕による攻撃を弾き飛ばす。

 

「いいの出てきてくれよ……!」

 

 そしてオレは、その銀河の中心に右手を伸ばす。銀河の中心に潜む、無限の可能性の一端を。

 

 

 

 ――――掴んだ!

 

「うおりゃああぁぁぁ!!!」

 

 銀河から腕を引き抜く。光の粒子が霧散し、現れたのは――――右手を包む巨大な銀色の槍。螺旋を描く穿孔武器。

 

「ドリル!?」

 

 そう、ドリルだ。長さはおよそ50cmだろうか。なかなか重いが、持てないほどではない。持っているオレにしか分からないだろうが、ドリルの中には掴むためのグリップもある。ドリルの根本には装飾なのか、大きな宝石が四方にあしらわれた、リングが付いていた。

 

 …………で、これ……どう使うんだ? ユビキタスサークルの使い方は頭に浮かんだけど、出てきた武器の使い方は教えてくんなかったんだよなぁ。

 

「まぁ、やるしかないか!」

 

 覚悟はさっき決めたんだ。やると決めた以上、やるしかないだろ!

 

 その次の瞬間だった。腕に猛烈な"うねり"を感じた。何かに反応し、起動したドリルが回転し始めているのが原因だ。

 

 あたかもそれは、オレの覚悟に反応しているかのように。凄まじい回転で逆に腕がちぎれそうに痛い。でも、やるなら今しかない!!

 

「うおぉぉぉぉぉッッッ!!!」

 

 回転するドリルを前に構えて、全力で走り出す。幸い、ドリルが空気を掘り進んでいるのか、その切っ先は自分でも驚くほどピタリと正面を向いていた。

 

「ぐ……させるか!!!」

 

 イケメンがその怪物の腕でオレのドリルを受け止める。

 

 ――――いや。

 

「そんなっ!? 止めきれない……ッ!!?」

 

「当然だッ! 戦う覚悟を決めたからな! 一度進み始めたドリルを……オレをッ! 止められると思うなァァァ!!!!!」

 

 ドリルが、オーガハンドを砕いていく。

 

「う……うわぁぁぁぁッッッ!?――――」

 

 やがてドリルはイケメンを掠るようにして、オーガハンドを破壊しつくした。

 

 ダメージを受け、イケメンが地に膝を着く。腕も、人間のものに戻っている。

 

 「ぐ……キサマ……!」

 

 「残念だったな。出直してきやがれってんだ」

 

 しかしイケメンはまだ負けてないと思っているらしく、再び意識を片腕に集中させて、オーガハンドを発現させる。

 

 「ガキの身体の割にやるじゃないか。だが、所詮、今の一撃はマグレに過ぎん。お前も、二度三度とマグレが起きると思ってはいるまい?」

 

 「なんなら何回でも起こしてやるぜ?」

 

 オレが言うと、機嫌を悪くしたらしいイケメンがオーガハンドをもう片腕にも出す。

 

 ――二本とかアリかよ。

 

 口角は引き上げながらも、冷や汗が止まらない。

 

 しかし、その時だった。

 

 イケメンの、切り離された(・・・・・・)左のオーガハンドが宙に浮く。

 

 オレも、イケメンも、気づかぬ内に起こったそれは、間もなく放たれたイケメンの悲鳴により、ようやく現実味を帯びる。

 

 「う……うあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

 血の滴る、片腕の在った場所を抑えながら、路地裏に逃げていくイケメン。そこでようやく、イケメンの後ろにもう一人人間がいたことに気づいた。

 

 ――いや、あれは本当にニンゲンなのか?

 

 開いた瞳孔、震える腕、上がりっぱなしの口角。明らかに、正常な人間とは思えない。辺りを飲み込むような闇色の髪は、地面に着いてしまっている程に長い。

 

『これは驚きましたね』

 

 「知ってんのかベス?」

 

 "ソイツ"は切り離されたオーガハンド――ただし、本体から切り離されたからか、既にその形は人間の物に戻っていたが――を拾いあげ、その断面を舐めはじめる。

 

『彼はある猟奇的殺人鬼の転生者です。貴方も知っているでしょう? ジャック・ザ・リッパー……切り裂きジャックですよ』

 

 …………?

 

『いやはや失礼、バカな貴方には分かりませんでしたか。いやはや、実に失礼』

 

 よし、訳が分からんが後でベスを殴る量を三倍に増やそう。

 

『じゃあ、貴方でもわかるように、簡単に現状を説明しましょう。目の前にいる狂った女性も転生者。能力は、手にした刃物の強化といったところですか。――あと、筋力強化が"追加されました"』

 

 ……追加された……まさか!?

 

 「血液を媒介にした能力の伝授か!」

 

『その通りです』

 

 目の前のジャックは、形容しがたい叫びを辺りに響かせる。

 

 「チッ、近所迷惑だろうが!」

 

『どうします? 相手は筋金入りの殺人鬼……先程のイケメンとは経験値が違いますよ』

 

 「だからって見逃してくれるわけでもないだろ! やるしかねぇ!」

 

 既に、ジャックの虚ろな瞳はオレを捉えている。オレが転生者だから獲物にした……というよりは、たまたま見つけた獲物が転生者だった、ってとこか。

 

 「キヒィッ!」

 

 ジャックが数本のナイフらしき刃物を投げ付けてくる。

 

 「ヤバッ!?」

 

 頭を下げると、背後の塀に刃物が刺さる。……いや、これメスか?

 

 続けて放たれるメスの雨。慌ててその場から逃げ出す。

 

 ヤバイヤバイ! 一本一本ならともかく、こんな何本も刺さったら間違いなく死ぬってこれ!

 

 「ドリルじゃ取り回しがキツイか! コール・アームズ! えーと……バックラー!」

 

 小型の盾を取り出し、構える。小型とはいえ、それは大人基準の話であり、まだ身体の小さいオレには十分大きな盾だ。

 

 だが、バックラーは現れた瞬間に、大量のメスが突き刺さり、破壊されてしまう。辺りに、バックラーの破片が散らばる。

 

 「じゃ、じゃあコール・アームズ! 煙幕弾!」

 

 煙幕弾を地面に投げ付け、辺りに煙幕を発生させる。これなら、多少は目くらましになるはずだ。

 

 「あとは……コール・クリーチャー、鎌鼬!」

 

 ユビキタスサークルより現れたのは、小さなイタチ。しかし、その尻尾は磨き上げられた刃そのものだ。妖怪、鎌鼬。風に乗って、視覚に囚われぬスピードで相手を切り付ける妖怪だ。

 

 「鎌鼬、足止めを頼む」

 

 オレが言うと、鎌鼬は返事の代わりに煙幕の向こう側へと走っていった。

 

 「よし、今の内に……網とかならなんとか拘束できるか……?」

 

 あれだけ刃物を持っているんだ。気絶、無力化してから放置してれば、警察が何とかしてくれるだろ。というより、他に出来ることないしなぁ。殺すなんて論外だし、精神的に屈服させるとかも、頭の回らないオレには厳しい。

 

 「なら……コール・アームズ、投網!」

 

 しかし、そこで予想外の出来事が起きる。

 

 「……出ない!?」

 

 そう、ユビキタスサークルが起動しないのだ。さっきまではいとも簡単に、様々な存在を呼び出していたそれは、何故か急にうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

 やり方は間違っていない。なら、なんで?

 

『あ、はいはい。言い忘れていました』

 

 事の推移を見守るためか、今まで黙りこくっていたベスだったが、忘れていた何かを思い出したらしい。急に話し掛けてくる。

 

『それ……ユビキタスサークルですが、使用には若干の制限があるんですよね』

 

 ……はい?

 

『同時展開に数的制限があるんです。具体的には、武器や防具……道具の類いは一度に3種類まで。生物は一度に1種類までです。現在は道具がドリル、壊れたバックラー、煙幕弾で3種類。生物は鎌鼬で1種類。使用制限ギリギリですね』

 

 「おい、聞いてないぞ!?」

 

『使い方はユビキタスサークルに入ってますけど、それも基本的なことだけですしねぇ。今みたいな注意事項に関しては、別途取扱説明書を――――』

 

 「お前ぜってー助ける気ねぇだろぉぉぉ!!?」

 

 くっそ! なら壊れたバックラーを送還して!

 

 ユビキタスサークルに手を触れて、送還の意思を伝えると、辺りに散らばっていたバックラーの破片が光の粒子に変わって消えていく。

 

 「よし! これで!」

 

 しかし、そこでオレは気づく。辺りに散らばっていたバックラーの破片が光の粒子となったのを見ることが出来た。この事実が、煙幕の効果が無くなっていることを示している、ということに。

 

 じわり、じわり。

 

 恐怖が足元からゆっくりと上ってくる。蝕む、喰らう、支配する。周りの景色がどんどん白黒になっていく。

 

 ……もう、死ぬのかな、オレ。

 

 

 

 煙の向こうに、血塗られた瞳が、見えた。

 

 

 

 ……いや、違う。

 

 アイツを恐れているのはオレ自身だ。アイツを恐怖の対象に仕立て上げているのは、オレ自身じゃないか。

 

 だったら、オレが本当に怖がっているのはアイツじゃない。

 

 オレが怖がっているのは、オレの中にいる今までの自分ッ!

 

 それを壊すのは、今だッ!

 

 ――破壊スル

 

 破壊する。この状況を!

 

 付けっぱなしだったドリルが、再び回転を始める。さっきまでとは違う、より荒々しいうねりを感じる。

 

 今なら分かる。どこを衝けばいいのか。どこを衝けば、この状況を、自分の死への道を破壊出来るのか。

 

 ジャックが有り得ない身のこなしで動きはじめる。手に入れた新たな力、筋力強化で身体を無理矢理動かしているんだろう。今のオレじゃ、ついていくことは出来ない。

 

 尤も――

 

 「そこだァッ!」

 

 ――ついていくこと自体が必要ない訳だが。

 

 オレが回転するドリルを、自分の左後ろ斜め上に突き出す。そのドリルは正確に、奇襲を仕掛けようとしていたジャックの手に持ったメスのみを貫く。

 

 それだけじゃない。ドリルが掘ったのは金属製のメスだけでなく、空気もだ。強烈な気流が発生したそこは、一瞬だけだが、あらゆる者を吹き飛ばす竜巻と同等の働きをしたのだ。

 

 人間が巻き込まれて、まともにいられる空間ではないそこにまんまと突っ込んでしまったジャックは、一瞬で意識を飛ばされ、数m先の地面に転がり落ちた。

 

 ピクピクと身体を震わせているから、死んではいない。というより、死なさないようにした。

 

 殺す必要はない。能力もいらないから、血を奪う必要もない。また襲ってくるかもしれないけど、その時は――――

 

「その時は、その時だ。何度でも返り討ちにしてやる」

 

『あのドリル一つ使いこなせていない方が大口叩きますね』

 

「うるさいよベス……」

 

 ドリルを、ユビキタスサークルより再び現れた銀河の渦に投げ込みながら、ベスの言葉に突っ込む。事実だろうけど悔しいんだよ。

 

『あぁ、そうそう。先程の怪物の腕の方は転生者の中では雑魚中の雑魚です。切り裂きジャックさんはもう少し強い方ですが、転生者の中には、一人で宇宙や世界をどうこうする力すら持つ人すらいます。まぁ、そういった方と会う可能性は、ツチノコに会うぐらい低いとは思いますがね。噂は割と信じられていますから、これからも貴方を狙う転生者は現れるでしょう。頑張って生き延びて下さいね』

 

「へーへー。まぁ、ぼちぼちやってくよ」

 

 何だか分からないけど、何かドデカイ事態に巻き込まれていく予感がする。でも、何とかしてみよう。なんだかんだで掴んだ命だ。無駄に散らしたくない。

 

 それに――――なんだか少し楽しみな自分がいる。さっきの戦い、たぶんオレは楽しんでいた。血が騒ぐ、って奴なんだろうか? ドリルを出したのも、ドリルを回せたのも、頭のどこかで出来るって感じていた気がする。ドリルなんて非現実的な武器、使ったのは初めてなのに。

 

「…………なんなんだろうな」

 

 この時のオレはまだ気づいていなかった。この世界で戦う相手は、転生者だけではないことに。自分のいるこの場所が、どれだけ魔の者を引き寄せるのかを。

 

 オレはまだ、知らない。

 

 

 

 ――――誰か、助けて……。誰か……。僕は……まだ…………――

 

 ――――私は……マスター……貴方のために……――

 

 

 

『物語は動きはじめました。後はあなた次第ですよ。吼太さん』




はい、そんなわけでメイン武器であるドリルが出たわけですが。

ドリル、いいですよね。鈍く光る螺旋、いいですよね。

これからは基本的に、吼太のメイン武器はドリルになります。ユビキタスサークルはその補助ですね。

……メインヒロインのありすが出せませんでしたが、次回からはちゃんと出てきますからね?

ちなみに、最後に出た二つの台詞は、これから先に出てくる、メインキャラクターのものになります。私の以前の作品を知っている方にはバレバレですかね?

ではではこの辺で! 次回もお楽しみに!
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