The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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はい、第一章最終更新です! お待たせしました!

いよいよラストバトルです! 決着つけますよ〜! そのせいかなかなか長めになりました。分割はしてませんが。

今回はエピローグもありまして。そちらはこの話が更新されてから一時間後に更新されます。後書きはそちらで纏めて書きます。

多分!←

それでは、お楽しみ下さい!


第16話 意思

 「ありす、リーム、トゥード……セン達も。みんな、もう少しだけ力を貸してくれ。奴は、必ずオレがぶっ飛ばすッ!!!」

 

 オレの言葉に呼応するように、皆の闘気が高まっていく。きっと多分、魔力も高まっているんだろう。

 

 だが、それだけの気迫を以ってしても、ホルクスは全く小揺るぎもしない。まるで、オレ達などそこらの小石にすら満たない存在なのだというかのように。

 

 「貴様……主に何をした」

 

 ザンクが、オレと相対している時とは比べものにならない殺気を放つ。だが、やはりホルクスは涼しい顔を崩さない。

 

 「たいしたことではなぁいよ。ちょっと刺しただけさぁ。まぁ、もう虫の息だけどぉね。流石の四色魔術士も、不意打ちには弱かったみたいだぁね」

 

 ホルクスが手に持ったブレラを投げ飛ばす。それを、急いでキャッチするザンク。

 

 「マスター。あのままでは危険です。早急に回復魔法が必要かと」

 

 「分かってる。カンナ、キサラ! ブレラに回復魔法を頼む」

 

 「あいあいさー」

 

 「だる~い」

 

 各々の返事を返し、回復魔法を掛けはじめるカンナとキサラ。それを、信じられない様子で見つめるザンク。

 

 「……何故、敵である我が主を……?」

 

 「んなこたぁ聞いたってしゃあねぇだろうよ。そんなことより、オレは目の前のバカを片付ける。いいな?」

 

 一瞬呆気に取られたザンクだが、直ぐさま表情を引き締め、コクリと頷く。

 

 さて、ようやく分かってきたぜ。ホルクスって野郎が、どれだけ捩曲がった根性をしているかが。

 

 「ふふふ、そうカリカリしないでぇよ。それに、それを言うなら我が主の方が実にバカだぁよ。だって……帝国を滅ぼすと言いながら、その"帝国の生み出したもの"を使ってたんだから」

 

 「どういうことだ?」

 

 ザンクがブレラを抱き抱えながら問う。

 

 「フフフ……」

 

 ホルクスは不気味に笑いながら、まるで舞台に立つ役者のように仰々しい身振り手振りを交え、語り始めた。

 

 

 

 

 

 きっかけはいつのことだったか。確かブレラ(あるじ)に会って間もない頃だったか。

 

 僕は悩んでいた。僕の崇高な目的を果たすためには、力が必要だ。それも、四色魔術士たる我が主よりも強大な、力が。

 

 だが、そんな力がおいそれと手に入るなら、苦労はないだろう。抑え切れぬ気持ちをなんとかして押さえ込んで、旅に出る準備をしていた。

 

 そんな時だ。

 

 僕にコンタクトを取ってきた人間がいた。確か、女性だったか。そいつは自分のことを、"帝国"の手の者だと名乗った。

 

 信じるわけではなかった。私や主が住むこの街は、帝国のすぐ側にありながら、太陽の恵み、その力で帝国の進攻を幾度となく阻止してきたのだ。今更、帝国の者が一人だろうと侵入出来るとは思えない。

 

 だが、その後でそいつが言ったことは私にとっては興味引かれる内容だった。

 

 ――ナギナミオカと呼ばれる地に行けば、天を震わす程の力を手にすることが出来る。

 

 最初は半信半疑だった。強力な力を持つ土地はいくつかあるが、ナギナミオカなど聞いたことが無かったからだ。

 

 だが、その後独自に調べていくと、過去に何度か、その力を以って起こした偉業を知ることが出来た。

 

 曰く、刻を捩曲げた。

 

 曰く、命を創り出した。

 

 曰く、天を震わせ、地を揺るがした。

 

 もし、これが本当ならば。これだけの力が本当に手に入るならば。

 

 僕はもう一度、帝国の者とコンタクトを取った。ナギナミオカについての情報を得るために。

 

 帝国の者はやはり、街の中で見つかった。帝国の者は、ナギナミオカの情報と引き換えに、ある条件を提示してきた。

 

 ――それが、帝国により太陽が破壊され、街が滅ぼされる三日前のことだ。幾度となく失敗してきたはずの街への進攻を、いともたやすく成功させて。まるで、街の防衛の要が太陽であることを知っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)かのように。

 

 

 

 

 

 「…………まさか」

 

 話を聞いていたザンクが、愕然とする。まるで抽象的なホルクスの話の意味が、理解出来てしまったが如く。

 

 「お前が、教えたのか…………」

 

 「…………あぁ、そうぅさ」

 

 ホルクスが、やはり意地悪く嗤う。

 

 「何故、そんなことを……」

 

 信じられない、と言わんばかりの表情を見せるザンクに、ホルクスは自身の動機を言う。

 

 「君が好きだから、愛しているからぁさ」

 

 

 

 瞬間、静寂に包まれる。

 

 

 

 「……え? 何? "コッチ"系?」

 

 「そういう世界の人なんだ……」

 

 「そっちには僕、興味ないなぁ」

 

 「違う! 私は断じて違う!」

 

 吼太、ありす、リームの若干引き気味な反応に、若干苛立ちを匂わせながら否定するザンク。

 

 「まぁ、そこについては後でゆっくり語り合おうぅよ、ザンク。……さて、その後も帝国の奴は力を貸してくれた。実験で生み出された新種の精霊……魔霊種を売ってくれたりねぇ。実に、実に有益だったぁよ。何より、この力を、ナギナミオカの力を手に入れることが出来たんだからぁねっ!!!」

 

 ホルクスの力強い言葉と共に、溢れ出す魔力が衝撃波となり、周囲に放たれる。

 

 「危ねぇ!!」

 

 吼太が、エクスドリルを構え、ザンクとブレラの前に立つ。エクスドリルで衝撃波を掘り抜こうというのだろう。

 

 間もなく、衝撃波が吼太を襲う。荒れ狂う衝撃波はエクスドリルよりも、それを支える吼太の腕を、身体を蝕んでいく。

 

 「無茶だ親父殿!! 精霊の力も無しにそんなこと!」

 

 「だいたい、そいつらは敵であろう! 何故!!」

 

 ミナとナツハが叫び、吼太に呼び掛けるが、吼太はそれに笑うばかりで一向に動こうとはしない。

 

 「へへっ…………敵だった奴だろうが何だろうが、オレにとっちゃあ変わらねぇのさ。理不尽な悲しみは、もう誰にも味わわせたく、ないんだ!」

 

 吼太の腕から、血が噴き出す。耐え切れなくなった毛細血管が、徐々に崩壊していっているのだ。しかし、今はまだその程度で済んではいるが、このまま出血が続けば吼太の腕は潰れ、やがて死に至ることは確実だった。

 

 「リームちゃん!」

 

 「分かった!」

 

 ありすとリームが吼太の前に飛び出し、魔法防御を張る。加えて、魔力を自身の限界まで練りはじめる。溢れ出す魔力が辺りを包むが、それもホルクスのそれとは比べ物にならないほど、小さい。

 

 「ぐ……オレだって…………ぁ……?」

 

 ありす達に負けじと再びエクスドリルを構えようとする吼太。しかし、不意にその体勢が崩れ、地面に倒れ伏せてしまう。

 

 「「コータ!」」

 

 ありすとリームが、吼太を呼ぶが、吼太は応えない。魔力の集中のために動けない二人の代わりにと、センが吼太に駆け寄る。

 

 「……大丈夫だ、息はある。だが身体に無理しすぎている。これ以上は命に関わるぞ」

 

 センが告げる。

 

 ブレラとの戦い、そしてザンクとの戦い。それだけでなく、吼太が戦いはじめてからの幾度となく巻き込まれてきた戦い。いずれも、一歩間違えば死んでしまうような、危険な戦いばかりだった。

 

 当然、小学生の身体で耐え切れるものではない。今や吼太には、許容範囲を大幅に上回る疲労が蓄積されていたのだ。

 

 「くっ……今、回復魔法を使う! ミナとナツハも手伝ってくれ!」

 

 センが回復魔法を掛けはじめる。それを見たミナとナツハも加わるが、それでも吼太に蓄積された魔法はそう易々とは癒されない。

 

 それでも吼太は苦しげに、しかし二人を安心させるべく笑顔で言う。

 

 「オレは大丈夫だ……それより、今は奴を!!」

 

 明らかに大丈夫ではないはずだというのに、そんな時でもありす達を、そしてホルクスの齎す被害を心配している。吼太の言葉が、二人に届く。

 

 「コータ……」

 

 ありすが思わず魔力の集中を解いてしまいそうになる。だが、それはトゥードの手がありすの手に置かれたことで、阻止される。

 

 「往きましょう。マスターの意思に、応えるために」

 

 トゥードの言葉に決意を固める二人。今度こそ全ての神経を魔法に集中し、魔法を完成させる。

 

 

 

 「現れよ、三界の宝珠! 天の怒りよ、極天の雷となりて邪を打ち払え!!」

 

 

 

 ありすの詠唱と共に魔力が集束され、空中に三つの魔力の塊が現れる。その三つの魔力球は高速で回転を始め、やがてその中心にエネルギーを蓄えていく。そして、臨界まで高まったエネルギーは、巨大な雷となってホルクスへと降り注いだ。

 

 「今更、こんな攻撃で!」

 

 ホルクスが自身の直上に魔法防御を張る。以前より遥かに強力になったホルクスの魔法防御は、ありすの雷をも防いでしまう。

 

 だが、しかし。エネルギーの最大値はいつであろうと一定であるように、魔力もまた、一定以上の量は発揮出来ない。それは、ナギナミオカの力を手に入れたと豪語するホルクスとて例外ではない。

 

 「リームちゃん……今ぁッ!」

 

 ありすが限界まで魔力を絞り出し、苦痛に顔を歪めながら呼び掛ける。

 

 

 

 「来たれ、来たれ、来たれ! 大いなる輝きよ。白夜の大気よ! 全てを凍てつかせ、眼前の道をも砕いて散らせッ!」

 

 

 

 リームが自身の制御出来るギリギリの魔力を込め、魔法を発動する。辺り一面を凍て尽くすかの如く現れた吹雪は、ホルクスの放つ衝撃波と正面からぶつかり、その勢いを一気に減退させる。

 

 「くっ……だが、その程度で何とか出来るとでぇも?」

 

 「確かに僕の魔法は"その程度"だよ。でも、その僅かな力だって、道を作ることが出来る!」

 

 リームがそう言った瞬間、リームの正面に迫っていた衝撃波が真っ二つに切り裂かれる。

 

 「な!?」

 

 「隙有り、です。ホルクス様」

 

 ホルクスが驚き、注意がそこに向いたその時。ホルクスの死角に潜り込んでいた、衝撃波を切り裂いた張本人――トゥードは、強力無比な衝撃波を切り開いた、その手刀を、今度はホルクスに向けて振るう。

 

 一撃。骨まで至らずも、その一撃はホルクスの身体に無視出来ないダメージを与えた。

 

 完全なる死角から攻撃を受け、ホルクスの顔が、先程までより大きく歪む。

 

 「ぐぅぅぅッ! 小癪な真似を……」

 

 「まだ終わりではありませんよ」

 

 トゥードが直ぐさまホルクスの側から飛びのく。瞬間、天より降り注いだ雷がホルクスを包み込んだ。

 

 リームの最大級の魔法、トゥードの不意打ち。それらが、ホルクスの注意を引き寄せ、ありすへの注意を逸らした。それにより、ホルクスの直上にてありすの魔法と火花を散らしていたホルクスの魔法防御が弱まり、突き破られてしまったのだ。

 

 「ぐああぁぁぁっ!」

 

 ありすの強力な雷が、ホルクスの身体を襲う。その雷は、ホルクスの身体を灼き、多大なダメージを与える。やがて雷はその威力の全てを伝え終え、消え去る。

 

 全身で雷を受け止めたホルクスは、間もなく地に倒れ伏した。

 

 「や、やった……」

 

 ありすの身体が崩れ落ちる。あまりに大量に魔力を使いすぎたため、体力を消耗したのだ。

 

 リームもまた、肩で息をしつつも笑顔を浮かべる。トゥードは余裕そうに見せているが、それでも息は多少荒い。

 

 それは、間違いなく勝利と言えただろう。

 

 

 

 

 

 ――その次の瞬間の出来事さえ、無かったならば。

 

 

 

 「なるほどなるほど。流石はここまで来ただけはあるぅね」

 

 倒したはずのホルクスが、次の瞬間には光の粒子となって消え去る。

 

 「どういうこと……?」

 

 ありすが、肩で息をしつつ言う。大量の魔力を一度に使ったからか、その表情は苦しげなものになっている。そしてそれは、リームも変わらない。

 

 「知りたいかい? 僕の手に入れた力の正体を」

 

 そう言いながら、ホルクスが再び、見るものに不快感しか与えない、歪んだ笑顔を浮かべて部屋の奥から現れる。

 

 「なら教えてあげよぉう。これがナギナミオカの力で手に入れた力……"転生者の力"さ!!」

 

 刹那、魔力――――正確には、関係のない魔力粒子が反応してしまうほどに大量のSP因子――が辺りを圧倒し、何かの形を為す。

 

 現れた形は、ホルクスのそれと、全く同じもの。新しく現れたホルクスは間もなく目を開き、もう一人のホルクスと全く同じ声色、イントネーション、声量で話し出す。

 

 「「そう、これが僕の手に入れた力…………この世に紛れ込み、長い間世界の裏側で暗躍してきた存在、転生者だけが持つと言われる、魔法ではない未知の力! 僕に発現したそれは、あらゆる生物の偽物を、自身の下僕として創り出す能力! 言うなれば、『絢爛贋物(アートフェイカー)』!!!」」

 

 「絢爛(アート)…………贋物(フェイカー)……」

 

 「「ふふふ、さしもの不屈の勇気を与える鎧(フォルティトゥード)も驚いているようだぁね。尤も、さっき試した限りじゃ純粋な精霊は生物じゃないから対象外みたいだけどぉね。尤も、僕らは例外の例外みたいだけど……さぁて、問題」」

 

 ホルクスは、言う。

 

 「「この場にいる生物って、だーれだ」」

 

 

 

 

 

 ホルクス達のそばに、新たな人影が形作られていく。

 

 まず現れたのはザンク。次にブレラ。そして、吼太、ありす。四人の虚ろな存在が、現れる。

 

 「そんな!」

 

 「あれだけ強かったザンクやブレラだけじゃなくて、コータや、ありすちゃんまで……!」

 

 ありすとリームの顔が絶望に染まる。ただでさえ苦労した二人に加え、頼れる仲間であったはずの二人が敵になったようなものなのだ。その絶望感は計り知れない。

 

 とはいえ、普段通りなら負ける要素はまずなかった。いかに強力といえど、偽物は偽物。本物のコピーでしかないそれに、本物が負ける理由はないからだ。

 

 だが、吼太は気絶しており、ありすも先程の一撃で魔力をほとんど使い切っていた。リームもまた疲労が激しい。ありすに比べれば多少は戦えるが、だからといって戦況を覆す力はない。トゥードもまた戦える状態にはあるが、しかし、やはり焼け石に水といったところだ。

 

 更に言えば、ザンクやブレラは直前までの戦いの影響が残っている上、そもそも共闘関係を築けるかすら定かではない。

 

 今のありす達には、一切抵抗のしようがなかったのだ。

 

 「終わりだね」

 

 ホルクスがにんまりと笑う。

 

 

 

 

 

 「――――ハッ、待てよコノヤロウ……!」

 

 不意に、ありす達の後ろから声がする。ありす達の後ろに注目するホルクス。

 

 そこに立っていたのは、まだ息の荒い、しかし自身の両の足で立っている吼太だった。

 

 「何が終わりだ? まだまだ始まったばかりじゃねぇか……!」

 

 「復活が予想より早いぃね。でも、ボロボロの君一人じゃ、僕にも、この偽物達にも敵わないぃよ。……せっかくだ。君から消してあげよぉう。…………行け!」

 

 ホルクスの号令に従い、ザンクとブレラ、そしてホルクス自身の偽物が動き出す。

 

 が、吼太とありすの偽物だけは何故か微動だにせず、そこに立ち尽くしていた。まるで、命令を実行する意思すらないかのように。

 

 「あれは一体……?」

 

 動かない偽物を疑問の篭った目で見るトゥード。しかし、その顔はすぐに他の偽物に向く。

 

 「今はこちらを優先すべきですね」

 

 偽物達は、ブレラとホルクスは魔法を、ザンクは剣技で吼太に襲い掛かる。

 

 「マスター!」

 

 しかし、トゥードが直ぐさま吼太の前に立ったことで、偽物達の攻撃は間一髪防がれる。あまりの力に、トゥードの魔法防御がゴリゴリと削れていく。しかし、その一方で、トゥードはホルクスの本体への注意を――いや、未だ動かない吼太とありすの偽物への注意を逸らせずにいた。

 

 「……おかしいぃね」

 

 ホルクスが、偽物の吼太を突きながら呟く。

 

 彼の能力は、自身に絶対服従の偽物を創る能力。ならば、吼太やありすの偽物も動くはず。しかし、現実には動いていない。

 

 何かイレギュラーが発生しているのか。そう考えたとき、ホルクスはあることを思い出した。

 

 ありすは、外ならぬホルクスが、墓地に特殊な魔法をかけて蘇らせた存在。転生者の能力を得るための実験の一環として行ったことだったのだが、もしかしたらそれが関係しているのではないか。

 

 そして、吼太の偽物もまた動かないということは、吼太もまたそれに近しい存在であるということになるのではないか。

 

 つまり。

 

 「…………吉谷吼太ぁ。君、転生者?」

 

 

 

 

 

 「…………あぁ、そうだ」

 

 オレはホルクスの言葉に、ただそれだけ答える。

 

 恐らく、ありすもリームも、驚いた表情を見せているだろう。当然だ。ありすと同じような存在が、もう一人いた。それも、これだけ近くに。オレだって、同じ立場なら驚いていただろう。

 

 「へぇ、つまり君は仲間を騙していたわけぇだ。転生者であることをひた隠し、日常に紛れ込む異形! 実に罪深いとは思わないかぁい!? そんな君が、仲間を裏切った君が僕を非難する資格なんて――――」

 

 「――――黙れよ」

 

 一言。その言葉に込められた強い意思に気づいたホルクスの口が、止まる。

 

 「確かにオレは転生者であることは隠していたよ。必要ないと思っていた、なんてことはただの言い訳に過ぎないさ。言うべきだったんだろうな」

 

 怒りはない。オレの中には、今怒りは必要ない。

 

 「……でも、さ。やっぱりオレはオレなんだよ。転生者かどうかなんて関係ない。オレは、どんな存在だろうとオレなんだから。オレは今、確かにここにいる。此処で命を、オレの命の物語を紡いでいる」

 

 今なら分かる気がする。何故、オレがこの世界に転生したのか。

 

 神様(ベス)が選んだんじゃない。オレが、オレ自身がこの世界に転生することを選んだんだ。理不尽な悲しみから、世界を守るために。

 

 「大方オレを動揺させて何とかしようって魂胆だったんだろうが、当てが外れたな! ホルクス!!!」

 

 ユビキタスサークルから、エクスドリルを取り出す。エクスドリルはオレの意思に応えるように激しく回り始める。

 

 エクスドリルの回転は臨界を超えてなお、加速を続ける。その回転は空気だけでなく、魔力粒子を、SP因子を引き寄せ、光を放ちはじめる。

 

 「マスター!」

 

 トゥードが魔法防御を一瞬の内に解除し、その場から撤退する。

 

 魔法防御を破るべく奮闘していた偽物達は、不意に魔法防御が消えたことで、大きく体勢を崩す。

 

 「エクスドリルッ、タイフーンッッッ!!!」

 

 魔力粒子すら飲み込んだエクスドリルタイフーンが、偽物達に襲い掛かる。体勢の崩れていた偽物達は、避けることも叶わず、エクスドリルタイフーンに飲み込まれた。

 

 

 

 

 「――チィッ!」

 

 思い通りに事が進まず、舌打ちをするホルクス。本来ならば、ここで吼太が動揺した隙に、トゥードの防御をかい潜って吼太を殺し、総崩れになったところを偽物を使って殲滅するつもりだったのだ。

 

 せめてもと、ありす達を見る。先程の話は他の面々にも聞こえていたはず。ならば、多少なりとも動揺しているはず。それを利用すれば殲滅は可能だと、そう考えたのだ。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 「コータ、転生者だったんだ。お揃い……」

 

 「知らなかったなぁ~。……けど、やっぱりコータはコータだ!」

 

 ありすは何故か喜び、リームは吼太がやはり自分の知る吼太だと安心し。

 

 「……一応、聞き出してはいましたので」

 

 何てことはない、とトゥードは反応を示さず。

 

 「ほう、転生者か。我が父上もなかなか数奇な運命を辿っているようだな」

 

 「まぁ、だから何じゃ、という話ではあるのう。特に問題は無かろうて」

 

 「父君がテンセイシャなら妾は精霊だーっ!」

 

 「一度死んでいるのに自殺の良さが分からないなんて、変なとーさま」

 

 「どーでもいー」

 

 どことなく着眼点がズレている、セン達。

 

 それぞれが、各々の形で事態を受け止めてしまっていた。

 

 「(まさか!? これでは、仲間割れにすら至らない!?)」

 

 ホルクスの表情に、明らかに焦りが見えはじめる。戦況は未だ自分が圧倒的に有利なはずなのに、何故か自身が勝つビジョンが見えない。

 

 ホルクスは、なまじ強くなったが故に感じていたのだ。この場における、真に優位に立つ存在が誰になったのかを。

 

 「おかしいぃ……こんなのおかしいぃ! 僕は力を、運命を自由に出来る力を手に入れたはずなのぉに! 何故、何故こんなに抗う者が現れるぅ!!!」

 

 動揺を隠し切れなくなったホルクスが、ついに自分の心の内を口に出してしまう。

 

 「命を否定し、命を弄ぶテメェには分からねぇだろうな!! オレの命が今、どれだけ燃えているのか! 何故オレ達が、運命に抗えるのか!!!」

 

 吼太が、殊更に強く言葉を放つ。

 

 「ありすが、リームが、トゥードが。センやミナやナツハ、カンナ、キサラが。皆がオレの命を形作ってくれた。だからオレの命は、ここに在る!!!」

 

 吼太の言葉の一つ一つが、ホルクスを追い詰めていく。

 

 「今ならわかる。このドリルで貫かなきゃいけないものが、何なのか!」

 

 吼太の身体に、少しずつ熱い"ナニカ"が芽生えていく。その熱いナニカは、紛れも無く、吼太自身が手に入れたもの。

 

 ――どんな時でも仲間を、命を信じる強い意思。

 

 「テメェが腐った運命を押し付けるってんなら――――」

 

 意思の力は無限大に加速し、吼太の身体に満ちる。ホルクスの創り出す運命を壊し、本当の運命をこの手に掴む。そのための力が満ちていく。

 

 

 

 「――そんな腐った運命なんざ、オレが変えてやらァッッッ!!!」

 

 

 

 溢れる意思の力が、相乗掛合《クロスオーバー》の力が辺りに満ちていく。力はやがて吼太を中心に渦を作り、全てを巻き込んでいく。

 

 「これは……!?」

 

 「すごい……」

 

 ザンクとありすが、思わずといった様子で辺りを見回す。溢れ出した巨大な意思の力が――SP因子が、まるで銀河のように空間に満ち満ちていく。

 

 それと同時に、ザンクとありすの身体に力が漲っていく。それだけに限らず、ブレラの身体の傷すら急速に癒えていく。大量のSP因子が、身体の回復を促進しているのだ。

 

 

 それは、融合(ユニオンアップ)でも、装備(アームドオン)でもない力。

 

 全てを巻き込み進化する、命の意思。

 

 そして、渦の中心――吼太が、告げる。

 

 

 

 「往くぞ…………合体だッ!」

 

 瞬間、部屋の中に光柱が現れる。その数、"7"。

 

 「ふぇ、えぇぇ!? なんか、僕の身体光ってる!?」

 

 「これは……あの時と同じ、強制合体……!?」

 

 リームが、トゥードが自身に起きている事態に困惑を隠せない。

 

 「何かやらかす気だな、父上よ」

 

 「全く、ルール無視も大概にしてほしいのじゃがのう」

 

 「よくわからんが漲ってきたぞー!」

 

 「死ぬ? 死ぬ? 自爆なら大歓迎」

 

 「だーるーいー。やるならはやくしてー」

 

 それぞれの反応を見せるセン達。

 

 そして、渦は集束していくと同時に、光柱の光も強くなる。

 

 

 

 「――――アームドアップッッッ!!!」

 

 瞬間、吼太の相乗掛合《クロスオーバー》の力が爆発したかのように弾け、吼太達をSP因子の、魔力粒子の"卵"に閉じ込める。

 

 「マズっ、イ……!!!」

 

 本能的に危険を察知したホルクスが、瞬時に偽物を再び創り出し、"卵"に向けて一斉に最大の魔法と斬撃を浴びせ掛ける。

 

 

 

 だが、既にホルクスの行動は手遅れだった。

 

 

 

 ――――『『我等、汝に力与えん』』

 

 

 

 "卵"を突き破り、現れた手。それから放たれた、強力な魔法防御が全ての魔法を弾く。

 

 「バカな!?」

 

 いかに魔法防御が強力だとしても、ホルクス、ザンク、ブレラの最大攻撃を一度に防ぐことなど、常軌を逸脱した魔力を持たない限り不可能。しかし、目の前の存在は、その"不可能"を成し遂げた。

 

 やがて、"卵"が完全に砕け、中から一人の魔法使いが現れる。

 

 外見は、吼太がトゥードの鎧を纏った形態であるアーマーフォームに酷似していた。だが、明らかにそうではないと分かる点があった。

 

 その背中に着けた、群青色の巨大なマント。それは、リームが合体した際に現れるものであり、アーマーフォームにはなかったはずのものだった。

 

 加えて、確認すると他にも幾つか違いが見受けられる。

 

 まず、頭部鎧には氷の結晶にも似たユニットが装備されている。また、腕のドラゴンソニックにはエクスリングが装備されており、鎧の各部には所々に青いアクセントが入っている。

 

 何より、飛べないはずであるアーマーフォームの鎧が、宙に浮かんでいることが、何よりその形態がアーマーフォームでも、リームとの合体形態であるユニオンフォームでもないことを示していた。

 

『どうなっちゃったの、僕たち?』

 

『どうやら、この場にいた、マスターと契約している精霊全てと合体したようですね』

 

『ほう、確かリームとトゥードは憑依種と鎧装種で相性が致命的に悪く、無理な合体などすれば肉体の内で魔力が暴走するはずではなかったか?』

 

『恐らく、相乗掛合《クロスオーバー》が影響しておるんじゃろう』

 

『つまり妾達がサイキョーになった訳だな!』

 

『……サイキョーは困る。死ねない』

 

『せーまーいー』

 

 「だぁぁぁぁ、うるせぇよお前ら! 少し黙ってろ!」

 

 頭の中でキャイキャイと騒ぎ立てる精霊達に言う吼太。流石に頭の中で7人もの精霊が会話を交わすことには耐えづらいようだ。

 

 「しかし、これも相乗掛合《クロスオーバー》の力なのか……。ならさしずめこの形態は、"クロスオーバーフォーム"といったとこか?」

 

『クロスオーバーフォーム……まさに今の状態を表すのにピッタリだねコータ』

 

『全体の魔力値上昇。各部、問題ありません。いつでもいけます』

 

 トゥードの言う通り、身体に異常は見受けられない。ならば、とホルクスに向き直る吼太。

 

 「憑依種と鎧装種、感応種の一斉使用!? そんな無茶苦茶が何故成立している!!」

 

 「出来ちまったもんは仕方ねぇだろ! さぁ、いくぜホモ野郎!」

 

 エクスリングとドラゴンソニックが組み合わさった武装……エクスドラゴンソニックからカリバーの刃を伸ばし、空中から地上のホルクスに向かって突進する吼太。

 

 「こ、のっ!」

 

 偽物達に指示を与え、自分の盾にするホルクス。

 

 「邪魔だァッ!」

 

 一閃。

 

 エクスドラゴンソニックの一撃は三人の偽物を、魔法防御ごといともたやすく斬り裂く。

 

 「チィィィッ」

 

 しかし、その隙に素早く距離を取るホルクス。水魔法の準備をしつつも、さらに偽物を呼び出すことも忘れない。

 

 「喰らえ!」

 

 魔力が溜まりきったところで、すかさず放たれる水の槍。

 

『僕に任せて!』

 

 「応!」

 

 吼太が右腕を突き出すと、そこに巨大な氷の盾が発生する。水の槍は勢い激しく氷の盾にぶつかりその身を散らすが、次の瞬間、水の槍が氷の盾に触れている場所から、凍り付いていく。

 

『流石ですリーム様。よろしければ今一度、力をお貸し下さい。マスター、ルドラを』

 

 「応よ! ルドラ!!」

 

 吼太が腰から、魔導拳銃ルドラを取り出し、ホルクスに向ける。放たれる、大量の弾丸。その全ては自在に軌道を変化させ、ホルクスに迫る。

 

 「今更こんなもので!」

 

 ホルクスがルドラの弾丸を防ぐべく、魔法防御を張る。が。

 

『我がいるのを忘れてもらっては困る』

 

 センが能力を発動し、魔法防御を無効化してしまう。これでホルクスは、完全に無防備となった。

 

 「魔法防御がなくても、今の僕なら、ただの弾丸なんかぁぁぁ」

 

 だがしかし、それはただの弾丸ではなかった。

 

『凍てつき封じよ、十字の縛鎖! 彼の者から自由を奪わん! クロス・アイシクルバインド!!!』

 

 「相乗掛合《クロスオーバー》!」

 

 ルドラの弾丸に、クロス・アイシクルバインドの魔法が相乗掛合《クロスオーバー》され、強力な拘束能力が付加されたのだ。

 

 弾丸はホルクスの身体に刺さり、伸びていく十字の氷柱によって完全に身動きを封じる。

 

 「そん、な!」

 

 ホルクスはなんとかして逃げ出そうと身体を捻り、力を込めるが、氷に封じられたホルクスの四肢はびくともしない。

 

『さて、どうやってケリをつける気じゃ? 親父殿』

 

 「当然、ドリルだ!」

 

 吼太がエクスドリルを取り出し、構える。

 

『ならばマスター、この魔法をお使い下さい』

 

 トゥードが魔法を発動すると、鎧の胸部に存在するクリスタルが展開し、中から何やら銃口のようなもの――魔力吸入口が現れる。

 

 加えて、鎧の各部も展開を始め、大量の魔力粒子が噴き出しはじめる。

 

『渾身集束魔法、クライマックスチャージ。残存魔力をただ一撃に込める、まさに一撃必殺の魔法です』

 

 「いいねぇ、オレ好みの魔法だ!!」

 

 エクスドリルを構えた体勢のまま、さらにツワモノスラスターを展開。グラウンドブースターにも魔力を込めていくその様は、今まさに飛び立たんとするロケットのようでもあった。

 

『胸部魔力吸入口より、魔力結晶を更に吸入。各部に魔力を伝達。魔力充填率、臨界を突破』

 

 カンナが淡々と、準備が出来たことを告げる。

 

『えーと、イノセントセイバーはぁ~、めんどくさいからもんだいなしってことで~』

 

『真面目にやれ! ツワモノスラスター、魔力充填臨界突破!』

 

 全身に魔力が満ちたことで、吼太の、鎧の全身から光が放たれる。不必要に溜まった過剰魔力を排出するその姿は、大いなる翼を広げた、竜に等しい。

 

『エクスドリルへの魔力伝達完了! やっちゃえコータ!』

 

 「いってコータ! 私たちの、世界を守って!」

 

 リームとありすが声を張り上げた瞬間、エネルギーが爆発する。

 

 

 

 

 

 「ひっっっっさあぁぁーーーつッッッ!!!」

 

 ツワモノスラスターが、グラウンドブースターが最大出力で解放され、鈍重な吼太の体が一瞬で音速を、光速を超えて加速する。

 

 

 

 「エクスッ、ドリルゥゥゥッ――――」

 

 ドリルが、ドリルに込められたエネルギーが、身動きの取れないホルクスの胴体に叩き込まれる。

 

 

 

 「ストラァァァイクゥゥゥッッッ!!!」

 

 ホルクスを封じ込めていた氷が、余波だけで砕け散り、バラバラになって舞い上がる。

 

 吼太のドリルはやがて空間を掘り抜き、ホルクスに、ドリルに込められたエネルギーのみを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 「コータ!」

 

 宙から降りてきた吼太を迎えるありす。吼太の身体は地面につくと同時に、合体が解除されて、元の小学生の姿に戻る。

 

 それに続き、精霊たちが次々に人間としての姿に戻っていく。

 

 「よかったぁー!」

 

 「どわっ!?」

 

 感極まったのか、吼太に飛びついてくるありす。驚きながらも、吼太はしっかりと受け止める。

 

 「あー、ありすちゃんずるいー。僕もー!」

 

 「だぁぁぁ、抱き着くなぁ!」

 

 リームも抱き着いてしまい、二人もいることで流石に苦しいらしい。しかし、それでも引きはがそうとはしないのは、やはり嫌がってはいないということなのだろう。

 

 「おやおや、そう言って満更でもなさそうじゃないか、父上」

 

 「じゃのう。儂らも肖りたいものじゃ」

 

 センとミナも、何処か羨ましそうな視線を向ける。

 

 「お前らも傍観決め込んでないで助けてくれよ!」

 

 「「断る」」

 

 わいわいきゃいきゃいと、とても先程まで死闘を繰り広げていたとは思えない一同。だが、それは言うなれば、それだけこの全員でいることが心地いいということ。

 

 「父君ー! 次は妾もー!」

 

 「とーさま、私には包丁刺してほしい」

 

 「おぶってー、と~さまぁ~」

 

 「お前らなぁ……少しは感傷に浸らせろよぉ!」

 

 

 

 「…………ザンク」

 

 「気づかれましたか、主」

 

 「……そうか。負けたのだな」

 

 「……はい」

 

 「…………何故負けたのか。彼等を見ていると、何となくだが分かる気がするよ」

 

 「……そうですね」

 

 「やはり、力に頼るようではダメなのかもしれないな。彼等のように、心を強く持ち、何度でも立ち上がらなければ。そうすれば、きっと私"達"の故郷も……いつか、きっっと」

 

 「……どこまでも、お供致します。我が主」

 

 

 

 

 

 

 

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