The Fantasic Story 〜其は不屈の夢物語〜   作:なっぺ

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はい、コラボです! ……遅筆は最早私の持病になってしまったようだ。

コラボ相手はXENONさん! 作品は「魔法少女リリカルなのはViVid~守りし者~」になります!


幕間
番外編 コラボ 恥血


 「今、コータに足りないのは色気だと思うんだよっ!」

 

 きっかけは、リームのその一言だった。

 

 「…………男の色気ってヤツか?」

 

 「ううん、女の子の方の色気」

 

 「だと思ったよチクショウ!」

 

 薄々感づいていたが、それでも認めたくなかったらしい吼太が、せめてもと声を張り上げる。無論、リームはまるで堪えていない。

 

 「いえ、男性であるマスターに、それは間違っていますよリーム様」

 

 「トゥードぉ……」

 

 いつもと変わらず、冷静に淡々と言うトゥードの姿に、吼太は大きな安心感を覚える。

 

 彼女なら大丈夫、彼女なら吼太の尊厳を守りつつ、リームを納得させることが出来るはず。それだけ、吼太はトゥードを強く信じているのだ。

 

 「マスターは男性ですので、この場合は女の子の色気ではなく、男の娘の色気が適切かと思われます」

 

 「なるほど!」

 

 「信頼が裏切られた!?」

 

 吼太は忘れていたのだ。

 

 「……?」

 

 トゥードという女性は、基本的に事実しか言わない。例え、その事実がどれだけ非現実的で、どれだけ常識と掛け離れていようと、そしてその事実がどれだけ望まれぬものであろうとも、彼女はそれを何等不思議がることなく、淡々と口にするのだ。

 

 そして、それは暗に、「吼太に男らしさなど、欠片たりとも存在しない」ということを示していた。

 

 「いいんだいいんだ。今はこんなちんちくりんでも、大人になればオレだって逆三角形のイケメンになれるはずなんだから……」

 

 「失礼ながらマスター、マスターのお父上を見る限りでは、あまり現状とは変わらない可能性があります」

 

 「人の夢を潰して楽しいかコンチクショウ!」

 

 「事実を申し上げただけです」

 

 トゥードは"にべ"もなかった。

 

 そこに、、フリルがちりばめられたかわいらしいミニスカートと白の清潔感溢れるノースリーブを持ったリームが、溢れんばかりの笑顔でやってくる。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 吼太の(男の)本能は告げていた。ここで逃げなければ、確実にヤられると(女装的な意味で)。

 

 「自由目指して戦略的撤退ッ!」

 

 「アイスバインド!」

 

 素早い動きで、脱兎の如く逃げ出した吼太だったが、リームが抜き打ちで放った氷の束縛が吼太の足を取り、吼太を盛大に転ばせる。

 

 「マスター」

 

 頭から倒れ、悶絶する吼太を見下ろしたトゥードが、トドメの一言を放った。

 

 「人生、諦めが肝心ですよ」

 

 

 

 

 

『どうだ、タカヤ?』

 

 「やっぱり難しいかも。こんなことは初めてだし……」

 

 吼太が住む街、凪波丘。その地をとぼとぼと歩く少年が一人いた。

 

 ――いや、一人という表現には些か語弊があるだろう。

 

 顔立ちは一見すると少女のようで、それも周囲の人間よりも整った顔立ちと、絹のように柔らかな、それでいて艶やかな長い黒髪は、周りの人間の目を無意識に引いてしまうほどだ。敢えて彼の魅力を落としている場所を挙げるならば、特徴的なデザインの黒ぶち眼鏡に似た眼鏡が、顔を多少隠してしまっていることだろうか。

 

 だが、その眼鏡が喋っているとは、周りにいる人間は思わなかっただろう。そもそも、人の通り自体が多く、少年の容姿に目が向くことはあっても、その話の内容にまで意識がいかないこともあっただろう。

 

 少年の名はタカヤ・アキツキ。この世界、この次元とは異なる場所、ミッドチルダより来た人間だ。

 

 「しかし、ここは何処なんだろう……? キリク、どう?」

 

 タカヤが自身にかけている眼鏡――魔導身具キリクに聞く。

 

『恐らく、魔戒道を抜けるタイミングを間違えたんだろう。それも大分な。とにかく、ここがミッドチルダじゃあねぇのは確かでぇ。……それにしても、見たことのねぇとこだぜ。地球…………にしちゃあ、妙な空気を感じるしなぁ』

 

 「妙な空気……?」

 

 タカヤがキリクに問い掛けたその時、空間が"止まる"。

 

 「これは……封時結界!?」

 

『似てるがこれは違ぇぜ。……タカヤ、上だ!』

 

 キリクが言う言葉の意味を理解する前に、タカヤの身体が弾かれるように飛びのく刹那、全身が漆黒に染まった精霊――魔霊種精霊がその腕を振り下ろす。

 

『ホラー……じゃあねぇみたいだな。だが、愉快な話をしに来てくれたってぇわけでもなさそうでぃ』

 

 「相手が何であろうと、それが人に闇を……陰我を齎すならば、僕は其の陰我を断ち斬るまでだ」

 

 そう言い、タカヤが自身の得物を取り出そうとした時だった。

 

 

 

 歪む。ゆがむ。ユガム。

 

 時空間が歪み、渦巻き、捩切れる。

 

 そこから現れたのは、銀に輝く螺旋の槍(ドリル)

 

 間もなく、ドリルに引きずられるようにして現れた赤い"竜"は、魔霊種精霊をその螺旋の一撃にて貫き、跡形もなく消し去った。

 

 

 

 "竜"の姿が明らかになる。その"竜"は人と同じ姿形をしていた。黒いマントをたなびかせ、右手に構えたドリルを鈍く光らせ、凛と立つ戦士。

 

 ただの人間からすれば、その姿はただの異形にしか見えなかっただろう。だが、タカヤはただの人間ではなかった。

 

 彼は人知れず、闇を狩る戦士。魔界より森羅万象に宿りし闇――陰我を門と現れし者、魔獣ホラーに立ち向かう戦士。

 

 魔戒騎士。それが、タカヤ・アキツキの持つ、もう一つの姿。

 

 そして、タカヤは目の前にいる竜の戦士の姿に、まるで似ていないはずであるのに、何故か自身に――魔戒騎士に近い雰囲気を感じていた。

 

 竜の戦士がタカヤの方に振り返る。

 

 「大丈夫か?」

 

 「あ……うん」

 

 得物に伸ばした手を戻さずに、タカヤは答える。

 

 目の前の存在に魔戒騎士に近い雰囲気を感じていたが、あくまでそれはタカヤの直感に過ぎない。

 

 魔戒騎士が装着する鎧は、ホラーを相手に自身のみで勇敢に立ち向かった黄金の狼に倣い、その全てが狼の意匠を取り入れている。対し、目の前にいる戦士が纏う鎧が持つのは、竜の意匠。つまり、魔戒騎士ではない。

 

 魔戒騎士同士の決闘は禁じられているのだが、魔戒騎士ではない目の前の存在にはそれは通じない。

 

 何より、空間を引き裂き現れたこの存在が、例えタカヤ自身に襲い掛かっていた魔霊種を倒したといっても、タカヤの味方である保障は何処にも存在しないのだから。

 

 タカヤが警戒を緩めずに竜の戦士を見つめる。

 

 「…………あー、そのー……あんまり睨まないでくれると嬉しいんだがー……」

 

『マスター、その姿では警戒されるのも無理はありません。合体を解除してください』

 

 「………………それだけは勘弁して……今、見られたら、多分恥ずかしさで死ぬ」

 

 どういう訳か、挙動がおかしくなる竜の戦士。鎧から別の声がすることから、何かしらの別意識があるようだが、どうやら竜の戦士は鎧を脱ぎたくないらしい。

 

『えー? あれかわいいから大丈夫だよー!』

 

『というか、恥では死なんだろう』

 

『分からんぞ? ショック死の可能性がないとは言い切れんしの』

 

『うだうだ言わずに脱ぐのがよいぞ父君』

 

『恥ずかしさでショック死……どんな感じなんだろう。ワクワクする』

 

『もうおしごとおわりー! ねたいー』

 

 堰を切ったように、竜の戦士の鎧から様々な声が発せられる。その様子には、流石のタカヤとキリクも驚きを隠せないらしく、上手く口を挟めないでいた。

 

『仕方ありません、強制解除します』

 

『おっけー、僕も戻るよー』

 

 「あ、ちょっ、お前ら!?」

 

 竜の戦士の意見を聞かぬまま、竜の戦士の鎧と身体は淡い光に包まれ、その形を変えていく。

 

 やがて、そこに現れたのは――――

 

 

 

 ノースリーブとミニスカートあちらこちらを破かれ、全身のほぼ7割の素肌を晒した、少女の姿だった。

 

 「あ……あぅ……」

 

 「あわわわ……」

 

 そして、少女とタカヤは互いに見つめ合い――

 

 「……ブハァッ!!!」

 

 間もなく、タカヤは盛大に鼻血を吹出しながら、その意識を手放した。

 

 

 

 

 

 「ん…………」

 

 目を醒ましたタカヤは、自身の額に冷たい何かが乗っていることに気づく。

 

 「目を醒まされましたか」

 

 近くから放たれた声を、視線で追う。やがて、自分が寝ている場所がベッドであること、そして自分の近くにある椅子で、女性が本を片手に座っていることに気づく。

 

 女性は、読んでいた本を閉じると、タカヤが寝ているベッドの脇の棚に置いてある洗面器に、タカヤの額に乗っていたタオルを入れ、十分に水分を染み込ませる。

 

 「失礼します」

 

 女性はタオルを程よく絞ると、再びタカヤの額にタオルを置いた。

 

 「ありがとうございます」

 

 「いえ、お気になさらず」

 

 女性は微笑みを浮かべることなく答える。

 

 タカヤの目が改めて女性を捉える。タカヤ自身、普段から見目麗しい女性が側にいるが、彼女はタカヤの周りにいる女性たちに負けず劣らずの美貌を持ち合わせていた。すらっと伸びた足、一般的に見ても十分に大きな胸、それに反するように細く括れた腰。体型もまた、美女と呼べるそれと言えた。

 

 「あの……貴女は? それにここは……? あと、僕の荷物は何処に?」

 

 「申し遅れました。私はフォルティトゥードといいます。トゥードとお呼び下さい。ここは私達が身を寄せている家で、私達のマスターの家族が住む家です。荷物は棚の近くのかごに入れてあります」

 

 女性――トゥードは矢継ぎ早に出されたタカヤの質問に、正確に答えていく。

 

 「それと、キリク様は別に預からせていただいていました。お返しします」

 

 トゥードが胸のポケットから眼鏡――タカヤにとってはよき兄貴分であり、相棒である魔導装具、キリクを取り出す。

 

『ふぃ~、最高の感触だったぜぇ。感触、張り、柔らかさ、どれも最高級でぇ。アンタのおっぱいも、中々のもんだぜ』

 

 「お褒めいただき、ありがとうございます」

 

 本当にそう思っているのか、はたまた実は怒っているのか。無表情に返答するトゥードからは、窺い知れなかった。感情に乏しいわけではなさそうなので、どうでもいいと考えているのかもしれない、とタカヤは感じていた。

 

 トゥードはキリクをタカヤに手渡す。

 

『よう、タカヤ。さっきは災難だったなぁ』

 

 「さっき? ……あ」

 

 キリクに言われたことでさっき――鼻血を出して倒れた時のことを、その時見た少女のことを思い出してしまう。

 

『タカヤ、またぶっ倒れるなよ?』

 

 「ごめん、自信ないかも……」

 

 顔が真っ赤に染まったことで悟られたのだろう、キリクがタカヤに呆れた口調で言う。

 

 と、そこで部屋のドアが開く。

 

 「あ、目覚ましたんだ。よかった」

 

 どうやら、少女のようだ。金色の髪と碧眼が特徴的で、年齢はタカヤよりは下、小学生辺りらしい。

 

 「びっくりしましたよ。トゥードがいきなり家に来て、『申し訳ありませんが、お手伝いをお願いします』って言われて、コータの家に来たら喋る眼鏡はいるし、意識なくした人は寝てるし、コータは部屋の隅でぶつぶつ言ってるしで……」

 

 困ったような表情を浮かべ、少女は言う。

 

 「申し訳ありません、ありす様。おかげで助かりました」

 

 「いいよ、家にいてもやることなかったし。あ、私は鏡ありすです。よろしくね。えーと……」

 

 「タカヤです。タカヤ・アキツキ」

 

 タカヤが自分の名前を名乗る。

 

 「じゃあタカヤさんですね!」

 

 ありすが笑顔で言う。

 

 トゥードとは違う、しかし整った顔立ちのありすに微笑まれ、思わず顔を赤くしてしまう。

 

『タカヤ、残念だがあの嬢ちゃんには先約があるぜ』

 

 「……あの、キリク。何の話?」

 

 本当に不思議そうに言うタカヤ。

 

『いや、何でもねぇ』

 

 ――しかし、あの坊主もタカヤに負けねぇくらいの鈍感みたいだしなぁ。ありすの嬢ちゃんも前途多難だろうな。

 

 と、そこで再び部屋のドアが開く。今度現れたのは、赤い髪と赤い瞳の少女。恥ずかしがっているのか、覗き込みはするが、部屋に入ろうとはしない。

 

 その、ほんのり赤く染まった顔を見たタカヤの脳裏に、また鼻血を出した時の光景がフラッシュバックする。

 

 「っく…………」

 

 間一髪、鼻血を出さずに済んだようだが、そのせいで、部屋を覗き込む少女が、あの時の少女だと認識してしまったタカヤ。

 

 「あれ? コータなんで隠れてるの?」

 

 「いや……あの……」

 

 元々朱に染まっていた少女の顔が、さらに赤く染まる。あまりに初々しいその反応に、逆にタカヤ自身が恥ずかしくなってしまう。

 

 ――でも、名前……コータ? 男の子みたいな名前だ。

 

 そう不思議がるタカヤを尻目に、ありすが少女に話しかける。

 

 「んー……話は一応聞いてるけどさ……そんなに恥ずかしい?」

 

 「恥ずかしいに決まってんだろ! まったく……」

 

 一向に入ろうとしないコータだったが、部屋の内部ばかりに注意を引かれすぎていたのだろう。自分の後ろから忍び寄っていた人物に気づくことが出来なかった。

 

 「――どーんっ!」

 

 「どわぁっ!?」

 

 後ろから誰かに押されたのか、よろけながら部屋に入ってくるコータ。その後ろから、青い髪の少女が現れる。

 

 「もぉ~、コータったらそんな乙女みたいな反応してたら思わず押し倒したくなっちゃ……ありゃ? お客さん?」

 

 少女はコータばかりに目がいっていたからか、たった今タカヤに気づいたようだ。

 

 「もう、失礼だよリームちゃん」

 

 「あははは~……すみません」

 

 苦笑いを浮かべるリーム。だが、タカヤはそれとは全く異なる点に興味を示していた。

 

 「リーム……って……」

 

『ほぉ……珍しいこともあるもんだなぁ』

 

 

 

 

 

 「……ってことは、タカヤのおばあちゃんも"リーム"って名前なんだね。奇遇~」

 

『案外、名前以外も似てるかもしれねぇぜ』

 

 キリクが金属で出来た自身の身を、キシキシと軋ませながら言う。

 

 「そうなの?」

 

 ありすがキリクの話に食いつく。

 

『"好き"の種類は違うが、どっちも好きな相手には全力で当たるって辺りがな』

 

 「な、なんだか照れ臭いね」

 

 他人に指摘されるのは流石に恥ずかしいのか、リームが照れた様子を見せつつ笑う。

 

 「しかし、貴方方があの魔戒騎士だとは……」

 

 トゥードがタカヤとキリクを見ながら言う。

 

 「トゥード、知ってんのか?」

 

 「噂話程度ですが、その武勇は聞き及んでいます。お会いできて光栄です」

 

 「あ、どうも」

 

 今までいないタイプの人間だったのか、トゥードの反応にどことなく困惑した様子を見せるタカヤ。

 

 「…………なんつーか、流石だなお前」

 

 「伊達に長生きはしていませんので」

 

 コータの言葉に、トゥードが特になんてことないかのように答える。

 

『俺も一応聞いたことがあるぜ。不屈の勇気を与える鎧っていやあ、数あるワケありの鎧の中でも、一際すげぇもんだってよ』

 

 「そうなの、キリク?」

 

『あぁ。ホラー絡みの話がないのが不思議なぐれぇに、ドロドロな話があったりするんだぜ』

 

 キリクが楽しそうにその身を軋ませる。

 

 しかし、キリクの言葉に、タカヤと吼太は首を傾げる。

 

 「ドロドロって?」

 

 「粘っこい? ……えーと、片栗粉の話じゃないよな?」

 

『……お前らって奴ぁよ』

 

 流石のキリクも呆れてしまったのか、ぐうの音も出ないらしい。

 

 「……もしかしてタカヤさんって……」

 

『流石に嬢ちゃんたちには分かるか』

 

 「まぁ、僕らも悩んでるしねぇ。アプローチが上手くいかないって」

 

 リームがため息をつきながら言う。ありすも思うところがあるのか、リームと同じような表情を浮かべている。

 

 しかし、そこでリームの顔が何か思い付いたかのように変わる。

 

 「……だったらぁ~」

 

 リームがキリクに何かを耳打ちする。

 

『なるほどなぁ。そいつぁ面白ぇ』

 

 「ふっふっふ~……たまには仕返ししたいもんね~」

 

 後にありすは語る。

 

 あの時のリームは、相当悪い人間の顔をしていた、と。

 

 「コータぁ~、ちょっと下にジュース取りにいきたいから手伝って~」

 

 「お~う」

 

 リームがコータを伴って部屋から出ていく。タカヤはといえば、身体が十分休まったことを確認するように、腕を軽く回している。

 

 「ん、もう大丈夫かな。でも、どうやって帰ろうか」

 

 「それでしたら心配はないかと」

 

 帰る方法を考えるタカヤに、トゥードが言う。

 

 「次元を超える程の転移であれば、何等かの痕跡というものが必ず存在します。その痕跡を辿るようにルートを設定した転移魔法陣を設置すれば、帰還は可能と思われます」

 

『一度魔戒道に戻っちまえばこっちのもんよ。今回みてぇなことはそう滅多に起こることじゃあねぇからな』

 

 トゥードの説明に、キリクが補足を加える。

 

 意図せぬ次元跳躍が発生した地点を特定し、キリクの協力を得ることで、魔戒道と吼太の世界を転移魔法で繋ぐ。トゥードとキリクの、蓄積された知識があるからこそ、実現が可能な方法だ。

 

 「じゃあ帰れるんだね。よかった」

 

 「キリク、トゥードさん、痕跡を見つけるのにはどれくらいかかりそう?」

 

 タカヤがキリク達に、どれだけ時間がかかりそうなのか聞く。流石に数年単位とは言わないだろうが、あまり時間がかかるようならば、いろいろと考えなければならないからだ。

 

 「それでしたらもう特定は済んで――――」

 

『どんなに急いでも、数時間はかかるな』

 

 「……キリク様? 一体どういう――――」

 

 何故か意図的に時間を引き延ばそうとしているキリクに、違和感を感じてしまうトゥード。しかし、キリクはトゥードとは目線を合わせようとはしない。

 

『つーわけで、俺達には少しばかり時間がある。その時間を異世界間交流に使うのも乙だが、どうせならもっと有意義に使おうじゃあねぇか』

 

 「有意義…………?」

 

 キリクの言葉の真意を掴みかねるといった様子のありす。しかし、彼女がそれを理解する前に、不意に部屋の外が騒がしくなる。

 

 「――――っ! ――――っ!」

 

 「――!」

 

 どうやら、およそ二人が騒いでいるらしい。言い争っている、というには二人の声には温度差が見られる。しかし、部屋を跨いでいるからか、その内容まで聞き取ることは出来なかった。

 

 やがてその騒ぎは、タカヤたちのいる部屋の前までやってくる。

 

 「だからいやなのにぃぃぃ!」

 

 「もう~、往生際悪いよコータ。でも、抵抗するコータを無理矢理、ってこんなシチュエーションにドキドキしてる僕もいる……!」

 

 どうやら、騒ぎの元はコータとリームらしい。内容からすると、抵抗するコータにリームが何かをする、或いはしたようだ。

 

 タカヤたちが不思議に思っていると、間もなく部屋のドアが開く。

 

 「っ!?」

 

 瞬時に、鼻を抑えるタカヤ。鼻血が出てしまう危険性を察知したのだ。そして原因は、ドアの向こう側にいたコータにあった。

 

 タカヤが倒れた時と同じように、顔を真っ赤に染めたコータ。問題は、その身体にあった。

 

 一般的な服に比べ、身体にぴっちりと張り付く特異な形状。白色一色の、一見すれば清純さを感じさせる色合い。

 

 しかし、その服はいたるところが破かれており、火照りほんのりと朱く染まった肌が露出してしまっている。肩から胸部辺りにかけてはとりわけ酷く、片腕で覆っていなければ胸が容易く露になってしまうだろう。

 

 「あ……あんまじろじろ見んな……」

 

 「っ! ご、ごめん!」

 

 タカヤが慌てて視線を逸らす。だが、その行動をリームが強い声で否定する。

 

 「タカヤは見なきゃダメ! これはタカヤのためなんだから! タカヤの鼻血癖を直すためなんだから!」

 

 欲情でドロドロに濁った目で、タカヤに負けない量の鼻血を出しながら言ったところでまるで説得力が無いのだが、既にいっぱいいっぱいのタカヤはその言葉を聞いて驚いた表情を見せる。

 

 「僕の……ため?」

 

『あぁそうだぜ。タカヤ、お前は少しばかり女に耐性がなさすぎだ。今まではよかったかもしれねぇが、これから先に問題になる可能性だってある』

 

 そこで一度切り、キリクが言う。

 

『もしこの先、何かの形でハニートラップ……色仕掛けをお前に仕掛けてくるホラーがいたらどうするつもりだ?』

 

 「ホラーが……色仕掛け?」

 

 途端に胡散臭そうな表情に変わるタカヤだが、キリクは至って真面目に続ける。

 

『何もホラー自身がやるたぁ限らねぇ。誰か関係のない人間を操っちまえばいいんだしな。……そんなことになって、呑気に鼻血噴いていたら、魔戒騎士の名折れだぜ?』

 

 「それは……っ!」

 

 キリクの言うことも尤もだ。そう、タカヤは思った。

 

 陰我を断ち、ホラーを浄化するのが魔戒騎士。それがおめおめとホラーの罠にかかっていては、世話がないだろう。

 

 タカヤは決意する。自分の見て見ぬ振りしてきた弱み(はなぢぐせ)を治すことを。

 

 ちなみに、キリクの話は、実際にどうなのかはさておき、色仕掛けに関しては全くの出まかせだったのだが、既にいっぱいいっぱいだったタカヤがそれに気づくことはなかった。

 

 タカヤがベッドから立ち、コータを正面から見据える。

 

 タカヤの視線を感じたコータは、胸を隠す腕を身体に押し付けるようにする。

 

 恥ずかしさに満ちたその顔は、隙間から覗く柔肌は、男女問わず見とれてしまうほどに美しく、儚げで、そしてどこか淫靡だった。

 

 鼻から血が溢れそうになるのを、精神を落ち着けて堪えるタカヤ。こちらも恥ずかしいのか、顔が赤い。

 

 「…………手……どけなきゃ……だよな……タカヤのため……だもんな……」

 

 吼太の腕が少しずつ、少しずつ身体から離れていく。

 

 それは、油の切れた機械人形か、悲劇に出会った人の刹那の視界か。

 

 ――或いは、男を誘い、味わわせ、堕落させる悪女か。

 

 そのいずれにも似た、その腕を見たタカヤの身体に、抑えがたい衝動が襲う。

 

 欲情ではない。そうタカヤは感じていた。目の前の少女に対して、興味はあったとしても、それ以上はない。

 

 ――しかし、それもあくまで、理性が解析し、処理する情報の一つに過ぎない。

 

 視界に入る柔らかな肌は、鼻腔に感じる甘い匂いは、鼓膜を震わせる弱くありながら強い鼓動は、その全てが。

 

 コータから発せられるあらゆる情報が、タカヤを深い深い奈落へと誘おうとする。

 

 「……ハァッ……ハァッ……」

 

 タカヤは気づかない。無意識の内に自分の呼吸が荒くなっていること。そして、脈拍が早くなっていることに。

 

 そして、コータの腕がとうとう胸から離れ――――

 

 「ダメーっ!」

 

 ――――る瞬間に、どういうわけかリームが魔法を発動し、タカヤを氷の中に閉じ込めてしまった。

 

『……っていやいやいや! それじゃ意味ねぇだろ!?』

 

 タカヤの鼻血癖を治すため、という目的で一連のことをしていたというのに、他でもない立案者であるリームがタカヤを止めてしまったのだ。流石のキリクも、これには驚いたらしい。

 

 「だって! タカヤってばケダモノの目してたもん! あのままじゃきっとコータの処女が散らされてたもん!」

 

『いや、処女とかそういう問題じゃあねぇから!』

 

 「コータのハジメテはねこそぎ僕が貰うの! だから見逃せなかったんだよ!」

 

『話が成立しねぇ!?』

 

 「ず、ずるいよリームちゃん! コータのハジメテは……その……私が……」

 

『頼むからアリスの嬢ちゃん、話をこれ以上ややこしくしないでくれ……』

 

 キリクが悩ましげに言う。きっと、精神的な寿命が数年は縮んだことだろう。

 

 「……なぁ、これ……オレ、着替えさせられ損だよな……」

 

 「そうかもしれませんね」

 

 喧噪から離れた場所で、コータは呆然と立ち尽くし、トゥードにいたっては我関せずとばかりに紅茶を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 「これに入れば帰れるんだね」

 

 タカヤが目の前の魔法陣を見ながら言う。タカヤからすれば、初めて見る術式によって描かれたそれは、どこか機械的な印象を受ける、タカヤの世界の魔法とは違い、神秘的な趣をしていた。

 

『既に準備は完了しているぜ。……嬢ちゃんたちともここでお別れだな』

 

 キリクが、普段よりも僅かに鈍くその口を動かす。

 

 「しかし、永久の別れではありません」

 

 「会いたくなったらすぐ会える……って訳じゃないですけど……きっと、また」

 

 「もしかしたら、今度は僕らがそっちに行っちゃうかもね」

 

 トゥード、ありす、リームの三人が笑顔で言う。それは別れに悲しむのではなく、いつかの再会を願ってのものだ。

 

 「じゃあ、またなタカヤ」

 

 「うん、じゃあまたね、コータ」

 

 コータがタカヤに握手を求め、タカヤはそれに応える。

 

 しばし繋ぎ合わせた手を通し、互いの思いを交わすと、どちらからともなく手を離す。

 

 そしてタカヤが魔法陣の中に入ると、魔法陣に刻まれた術式が稼動を始める。光の粒子が魔法陣から立ち上り、タカヤの姿がゆっくりと消え始める。

 

 最後に、コータがタカヤに呼び掛ける。

 

 「今度は、男同士! 腹割って話そうぜぇ!!!」

 

 「…………え!?」

 

 タカヤが驚きの表情で振り返るが、タカヤの口が開く前に、その身体はこの世界から消えていた。

 

 「タカヤ、最後に何か驚いてなかったか?」

 

 「えっと……あのねコータ」

 

 間もなく、事情を理解した吼太の顔が羞恥とやり場のない怒りに染まることになる。が、それはもう少しあとの話。

 

 

 

 

 

 「……キリク。吼太って本物の男なの?」

 

『本物だ』

 

 「そう勘違いしている女の子じゃなくて」

 

『本物だ』

 

 「冗談だよね?」

 

『本物だ』

 

 吼太の言葉を信じられないタカヤは、いつまでもキリクに聞き続けていた。




はい、そんなわけで克服は完遂できませんでした~。まぁ、仕方ないね。向こうに戻ってから、タカヤラバーズに頑張ってもらうしかないね。

ちなみに、タカヤも吼太も男の娘なんですが、個人的には以下のように考えています。

タカヤ:男の娘だけど、服装とかを気をつければなんとか男に見える。

吼太:骨格レベルで女の子に見えかねない。遺伝子と股間だけが男。

なので、タカヤは最後まで気づかなかったんですね。仕方ないね。だって吼太はこの作品随一のお色気キャラだし。←

あ、一応注釈しとくと、流石にタカヤは吼太に劣情催したりしていませんよ。流石にね。



余談ですが、個人的に吼太とキリクの口調の調整が大変でした。どっちも江戸っ子口調なんで。楽しかったですけどね。

ではではこの辺で! 次回もお楽しみに!
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