lost days-失われた日常-   作:AZΣ

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風邪で意識が朦朧としている中に書いております、私です……皆さんも夏風邪にはお気をつけ下さいね……

久しぶりの更新、どうぞ!


14話-コクリア

あの捜査官が車を走らせて数時間は経っただろうか、僕は車が止まったのを感じて目を覚ました。

 

「折木さん、ここは……?」

 

僕が彼に質問をすると、彼の口からは予想通りの言葉が出てきた。

 

「恐らく、『コクリア』に着いたんだ。これから何をされるか想像は付くが、出来るだけ、素直に……」

 

「おらぁ、早く出ろよ! ったく、面倒くせぇ……なんで俺がこんな……」

 

折木さんの言葉が終わらない内に、外からの催促があった。いつまでもここにいる訳にはいかないので、僕達は覚悟を決めて、輸送車の扉を開けた。

 

外に出ると、奥に白い巨大な建物が見えた。恐らくあれが『コクリア』なんだろう。

 

そして、次に感じたのはまるで夏に食べ物を腐らせてしまった時のような、()えた臭い。喰種の人間よりも優れた嗅覚が、今日程恨めしいと思った事はない位の酷い臭いだ。

 

 

(うっ……何だ、この臭い……鼻が曲がりそうだ……)

 

吐き気に(もよお)されながら、僕が周りを見ると、霞は僕と同じ状態だったけれど、折木さんと栞はそこまで影響を受けてはいないようだった。

 

(純粋な喰種とここまで差があるのか……初めて喰種が(うらや)ましいと思える……)

 

捜査官の先導に大人しく従って進んでいく内に、段々と臭いが強くなる。それでも、長く生きるためには進むしかない。

 

やがて建物の前に着いた。捜査官の彼からしたら、面倒だが少しの時間だったはず、しかし僕にはその数分が遥かに長く感じられた。

 

足音を響かせながらゲートを通ると、内部が巨大な事が改めて分かる。彼の姿を見ると、あまりここに来る事に慣れていないのか、周りを(うかが)っている。

 

僕達が彼に付いて、ゆっくりと受付に向かって歩いていると、僕達が来る事を事前に知っていたのか、受付の前に一人の男が現れた。

 

その人は僕よりも多少背は低いが、筋肉質な身体をしているのがすぐに分かった。そして、服は局員である事を誇りにしているような制服を着ていた。

 

そして彼は、僕達を連行してきた捜査官に文句を言っていた。

 

「おい、更祠貴(さらしき)ぃ! 何故お前は喰種どもに(かせ)も抑制剤も打ってないんだ!?」

 

何故僕達を自由にさせているのかが、あの人には理解が出来ないようだ。当然だ、力ならば遥かに喰種の方が上なのだから。

 

なのに彼は僕達を縛らない。何故なら、僕達が自分に勝てる訳がないという、絶対の自信を持っているからに他ならない。

 

これはあくまで僕の予想だけれど、大体当たっているのだろう。

 

現に僕達は、逆らう事も出来ずにここにいる。

 

「皆がお前のように、簡単に喰種を倒せると思うなよ! 本来、我々は弱い生物なんだ! この化け物め!」

 

「うっせーなぁ~、黒鉄(くろがね)……そんなに怖えなら捜査官なんて止めちまえよ……」

 

「……この(くず)め、お前が喰種だったらここで殺してやるのに」

 

散々口論をした後、受付にいた黒鉄という男は更祠貴にこう吐き捨てて、注射器を五本、ポケットから取り出した。

 

臭いの原因はこれだ……饐えた臭いが段々近付いてくる。

 

正直逃げたかったが、そんな事をすれば、僕達を連れてきた更祠貴に、この場で全員が皆殺しにされるだろう。なので僕達は抵抗出来ずに、その針を刺された。

 

本来なら、喰種の皮膚は金属など通さないはずだが、これもクインケなのか、すんなりと刃が血管まで届いた。

 

そして、中の液体が僕の身体に入ってきた時、強い脱力感と吐き気に襲われた。

 

必死で立とうと思っても、足が細かく震え出す。何とか壁にすがりついて立っているけれど、今にも倒れそうだ。

 

(これが、ヒトの身体か……もう忘れてたな、ヒトってこんなに弱いのか……)

 

「で、こいつらのレートは?」

 

抑制剤を注射した黒鉄が、更祠貴にそう問い掛ける。

 

「知らねぇよ。とりあえず、俺の一撃を避けたんだからSレート辺りで良いだろ」

 

「安易に決めやがって、全く……」

 

彼の問いに更祠貴は軽く応じる。本当は物凄く怒っている事が、端から見ている僕にもよく分かる程のレベルなのだが、この場は更祠貴に従うようだ。

 

「ほら、用は済んだだろう。もう行け、この屑が」

 

「はっ! その屑に頼るしかねぇCCGはどうなるんだよ? もうそろそろ終わりなんだろうなぁ!」

 

そう言い残し、高笑いをしながら、彼は去っていく。

 

そして黒鉄は、僕達の手足に枷を嵌めて、牢屋(ろうや)に連れていく。抑制剤の効力で、もう誰も赫子が出せない状態では、逃げる事など不可能な事は分かりきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

その後僕達は、黒鉄の後に付いていき、エレベーターに乗った。(しばら)く乗っていたが、やがて下まで着いたようだ。

 

エレベーターを降りて僕達が歩き出すと、上の階よりも床を踏む足音が大きく反響して、何とも耳障りな音に聞こえた。

 

そしてさらに下から叫び声のようなものが聴こえてくる。それが、この場所の異質な雰囲気を、より引き立てているように僕には思えた

 

暫く歩いて、僕以外の皆が独房に入れられた。比較的弱い喰種でも、協力すればこの房を破れるかも知れないので、皆独房に入れているようだ。

 

「ここだ」

 

黒鉄が足を止め、僕も止まった瞬間、僕はその扉に押し込められた。

 

「うぐっ……!」

 

急な事ですぐに反応が出来ず、僕は冷たい地面に叩きつけられた。その時には扉はもう閉まり、僕は閉じ込められた。

 

ここに来てしまった時点で分かっていた事だが、完全に隔離(かくり)された事を実感して、恐怖を感じ始めた。

 

(これが、本当の一人……これが、孤独……)

 

今までは、自分の周りには、いつも必ず誰かがいた。家族でも友達でも、とても憎い奴でも。

 

「うううう……()()……悲鳴が欲しい……」

 

僕が考えていると、突然隣の部屋から、聞いた覚えのある声で(うめ)く人がいた。

 

(あの人は死んだはずなのに……でも、この声は……)

 

「もしかして、(すめらぎ)さんですか……?」

 

僕が声を掛けるとその呻き声はピタリと止み、押し殺したと思われる笑いが聞こえてきた。

 

「ああ~、時雨君……君とこんな形で再開出来るなんてぇ……まるで夢のようだよ……」

 

やはりこの声は皇だった。彼には散々な目に遭わされたので、よく覚えている。そして、このまとわりつくような気持ちの悪い声も。

 

「僕をここに追いやった君が……いいや、そんな事はどうでもいい! ああ、早く君の悲鳴が聞きたくてたまらないよ……」

 

相変わらず、彼は悲鳴に執着(しゅうちゃく)しているようだ。

 

こんな彼でも、話していれば多少は気が紛れるので、もう少し話していようと僕が思った瞬間、足音が再び響き始めた。

 

すぐに僕達は会話を止め、耳を澄ませる。足音が段々こちらに近付いてくる事と、この音の数からして、恐らくは二人だという事が分かる。

 

姿を見ようと、僕は鉄格子の側に身を寄せる。やがて姿を見せたのは二人の男だったが、前を堂々と歩く男の顔を見た瞬間、僕の身体は強い恐怖に支配され、呼吸を忘れた。

 

 

何故なら、その男の顔は、僕や霞、そして朧の身体を(いじ)って喰種へと変えた、科学者の顔そのものだったからだ。

 

他人の空似かも知れないという期待を持ちながらも、彼の斜め後ろに付き従っている男の方に目をやる。

 

その男は2mを優に越える身長で、真っ白な服に顔まで包んでいた。

 

(まさか沈黙(サイレント)……?でも匂いが……)

 

この建物全体から香る抑制剤の臭いや効果で、鼻が利かなくなっているとしても、明らかに彼等から香るのは普通のヒトの匂いだった。

 

彼等は独房を一つ一つ覗いているようで、やがて僕の房の前で足を止めた。

 

少しの間、周りを見ていたが、視線を僕の方に向けると、科学者らしき男は満足そうに(うなず)いた。

 

そして彼等は、来た道をゆっくりと戻っていった。彼等が戻っていくのを見届けると、肺が今まで忘れていた呼吸を始め、僕は激しく咳き込んだ。

 

「げほっ、げほっ! まさか……他人……? それにしては似すぎてた……一体……」

 

時間はまだある。僕はそう思い、彼等が本当に僕達の人生を壊した奴等なのかを、あの()まわしい記憶を振り返って確かめる事にした……




今回出てきた捜査官の名前だけを書いておきます。

更祠貴(さらしき) 飛鳥(あすか)

黒鉄(くろがね) 龍彦(たつひこ)

時間がある時に、人物紹介に詳しい事を追加していきますので、よろしくお願いします。

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