今日もいつも通りに学校が終わり、僕はコーヒーを買って飲んでいた。最近、何故か
(それと最近、朧と霞がご飯を食べた後、やたらすぐにトイレへ行くようになった。一体どうしたんだろう?)
心配だ……体調を崩してなければ良いんだけど……そんな事を考えながら、僕は一人、帰り道を歩いていた。
家に着くと何故か電気が付いていない。今日はこの時間には、家に全員がいるはずなのに……
妙な胸騒ぎがする。僕は少し不安を感じながらも家の中に入ってみた。そして、リビングの方へ手探りで向かうと、何かの液体に滑って転んでしまった。
「痛っ!うう……何だこのヌルヌルしたの……?」
僕は転んだ痛みに耐えながらも、引き続き電気を付けるためにスイッチを探した。
「よし、あったあった……っ!うわぁぁぁぁぁ!!!」
明かりを付けて床を見た瞬間、僕は恐怖のあまり悲鳴を上げてしまった。さっき僕が滑って転んだのは、床全体に広がる程の大量の血だったのだ。
そして、その血が流れてくる中心に目を向けると、そこには変わり果てた両親の姿があった。
「父さん……母さん……っ!朧と霞は!?まさか……」
僕は、側に朧と霞がいないか、血のこびりついた床を歩きながら、必死に探した。
すると突然、二階で物音がした。この時の僕は恐怖で色々な感覚が麻痺していたのだろう。そして、この後起きた事がこれから先も自分を
僕は二階に物音の原因を調べるために登ってみた。どうやらさっきの物音の原因はどうやら朧の部屋にあるようだ。ドアが少し開いていたのでそこから覗き込んでみると、肩からは羽の様な、腰の辺りから触手の様な何かを生やして高笑いをしている朧の姿があった。
扉に寄りかかってみていたため、扉が
本当に朧かどうかを確認しようとドアに近付いたせいで音を立ててしまい、中にいる朧?に気付かれてしまった。
「誰だ!?……何だ兄貴かよ」
「朧…?本当にお前なのか…?目が真っ赤じゃないか…それにそれは…?」
朧の左目は赤黒く変色しており、腰と肩から生えている何かについて聞いてみた。すると朧は、
「ああ、これか?これは『
朧は嬉々として僕にそう語る。僕は信じたくないが、拭いきれない疑問を朧にぶつけてみた。
「お前が父さんと母さんを……?」
朧が、自分の弟が、両親を手に掛けたという可能性を否定して欲しかった。
「ああ、一体赫子でどこまで出来るのか試したくてな」
しかし、彼は自分がやった事だと認めた。それを認めてなお、薄ら笑いを浮かべている弟に対して、僕は自分の中の怒りを抑える事が出来なかった。
「ふざけるなよ!そんな理由で家族を……父さんと母さんを……人は殺したら生き返らない!ゲームとは違うのに……っ!まさか霞も!?」
僕の発言を聞きながらも、朧は薄ら笑いを崩さない。
「怒るなよ、兄貴らしくねぇ。そうしてやろうと思ったんだが、逃げられちまったんだよ」
この時、朧は顔に浮かべていた薄ら笑いを崩して、怒りの形相を浮かべた。
(良かった、霞だけでも生きていてくれれば……今は、こんな状態の朧を外に出す訳にいかない!)
「さぁーて、じゃあ霞を追い掛けるとするかなぁ~」
朧は、必死で怒りの形相を抑え、表情を薄ら笑いへと戻した。
「待てよ!行かせないぞ!」
僕が朧に掴み掛かると、次の瞬間、僕は朧の腰から生えている触手のような赫子に吹き飛ばされた。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!うう…」
その触手のような赫子の表面は、
「自分が喰種になっちまった事にも気付かずに、この3ヶ月の間、生活してきた兄貴に、一体何が出来るってんだよ!?
いいかぁ、俺達三人はもう人間じゃねぇんだよ!そして、喰種の強さってもんは赫子に依存する!やっとの事で今日、自分が喰種だって知った様な兄貴が、俺を止められる訳がねぇんだよ!!」
「……っ!それでも……それでも僕はお前を止めなくちゃいけない……!これ以上、お前に罪を犯させる訳にはいかないんだから……!」
僕は、朧の身体にしがみついて、動きを止めようとした。しかしこの時、僕はまたもや、朧には赫子がある事を忘れていた。
僕は、朧に生えている羽の赫子に全身を貫かれた。身体から、大量の血が流れているが、少しずつ止まりつつある。
「くっ……おおおおお!!!」
朧の表情が、少しだけだが、怯えが含まれた時、
「っ!俺の、邪魔をするなぁー!!!!!」
彼は叫びを上げ、僕は朧から生えている触手のような赫子に腹を貫かれる。
「ぐぅぅぅぅぅぅ!!!」
朧が僕の腹部から赫子を抜くと、臓物の一部が体外へ露出した。しかし、僕は執念だけで、朧の身体にしがみついていた。
「くそっ!何で離さねぇ!?腹に穴開いてんだぞ!?」
「お前に…霞を追わせる訳にはいかない…」
「ああああああ!!!」
次の瞬間、僕は朧の触手のような赫子にメッタ刺しにされて、意識が途絶えた。最後に見たのは、
「弱けりゃ何も守れないんだよ……」
と言って、夜の闇に消えていく朧の姿だった……
僕が目を覚ますと外は明るく、もう朝になっていた。昨日、朧に開けられた腹部の穴は少しだけだが小さくなっていた。
(お腹減ったなぁ……何か食べないと……ん?リビングの方から美味しそうな匂いが……)
僕は、その匂いに釣られる様に、リビングへと向かった。しかしリビングには、父さんと母さんの遺体しかないはず……そう思いながらも、空腹には逆らう事は出来なかった。
その通りだった。リビングには父さんと母さんの遺体しかない。という事は……
(僕は、死体の匂いに釣られたって言うのか……?気持ち悪い……嘘だ嘘だ嘘だ!)
とりあえず、父さんと母さんの遺体が腐らないよう、冷凍庫にあったドライアイスで埋めておいた。
(きっと何か食べられる物があるはずだ……)
そう思って僕は、冷蔵庫に入っていた卵を使って、自分の好物のオムライスを作った。そして、食べようと口に入れた瞬間、激しい吐き気に襲われた。
「うぇぇぇぇぇぇ!!!どうして……っ!」
僕は朧に言われた事と学校の授業の事を思い出していた。
「喰種が食べられるのは人間だけ……」
「俺達三人はもう人間じゃねぇんだよ!」
「そ、そんな……馬鹿な事って……人間から突然だなんて……」
人間から突然、喰種に変わる訳がない。僕は、その
「ぐぇぇぇぇぇぇ!!!うっ……畜生……!」
僕は無理にでも何かを食べようと思い、冷蔵庫の中にある物を片っ端から食べていった。しかし、口に入れる度に激しい吐き気に襲われるため、飲み込む事が出来ずに、そのまま吐き出してしまった。
僕は急に怖くなった。自分が人間ではなくなってしまった事への、恐怖。昨日負ったはずの傷の回復の早さ、それが、僕がもう人間とは違うという事を思い知らされてしまった。
(本当に僕は人間じゃなくなってしまったのか……?)
コーヒーや水は変わらず飲めたけれど、それだけでは腹は膨れない。僕は自分が人間ではなくなってしまったという、覆しようのない事実が恐ろしくて泣き出してしまった。
いつの間にか泣き疲れて寝てしまっていた。そうして僕は、眠りから覚める度に増幅されていく恐怖を感じながら何日も過ごした。何故こんな事になったのかと考えもしたが、恐怖と朧を止める事が出来なかった自己嫌悪に邪魔をされ、思考は少しもまとまらずに只々時間だけが過ぎていった……