皇さんとの戦いから数日。僕と霞はあれからさらに訓練に打ち込んでいた。僕も霞もあの一件で、自分はまだまだ力不足だという事がよく分かったからだ。
霞の動きは甲赫なのにどんどん早くなっていく。とりあえず、普通の人の速さ(人間の事)位には動けるようになっていた。腰も深く入っていて、重い一芸がより重くなったようだ。
僕はと言うと、身体が大分筋肉質になり、多少、動きが早くなった程度だ。霞と違って、僕はまだ姿勢が完璧には出来ない。それでも今では、低級の喰種なら倒せるのだが……やはり赫子が出せないというのはかなりの問題だろう。
(どうして…?輝影が僕の身体で出せるんだから、僕に出せない筈がないのに…)
すると黒坂さんが僕等から距離を取り、
「今日はここまでにしよう。この後にやる事があるんでね」
と言った。
「それで黒坂さん、やる事って何ですか?」
僕が聞いてみると黒坂さんは笑って、
「君達の
と言った。この時、僕は何故か怯える事はなかった。それよりも、喰種と人間の戦いに対する、深い悲しみの様なものしか湧いてこなかった。そして僕は前々から気になっていた事を彼に聞いてみた。
「黒坂さん、白鳩はどうやって喰種と戦うんですか?赫子でしか喰種はダメージを負わないし、身体能力だって比べ物にならないのに…」
僕がこう言うと、黒坂さんは、
「白鳩には『クインケ』という武器があるんだ。これが彼等のトランクの中身で、このクインケは僕達喰種のRC細胞を特殊な金属で加工して作られる。だから僕等にダメージを与えられるんだ」
と答えてくれた。この後、僕と霞が何も言えなくなった事は言うまでもないだろう。
(そんな…死んだ喰種から赫子を奪って使うなんて……そんなの間違ってる!)
すると黒坂さんが、
「それで、どんな仮面が良いかな?出来る限り、望み通りに作ろうと思うんだけど」
と聞いてきた。すると霞が、
「あの、私の赫子は顔も覆えるのでいらないんじゃ…」
と聞いた。しかし黒坂さんは、
「いや、万が一、赫子を出す前に顔を見られたら終わりだ。絶対に必要だよ」
と言った。すると霞は、
「じゃあ……とにかく丈夫な物をお願いします。デザインは私には分からないので」
と言った。
(当然、僕も分からないからな…どうしようか…)
そんな事を考えている内に黒坂さんが、
「時雨君は?」
と聞いてきた。僕は正直に、
「すみません、思い付かないです…」
と言うと、黒坂さんは笑って、
「難しく考えなくて良い。自分の好きな物で」
と言ってくれた。それじゃあ……
「じゃあ、波をイメージして欲しいです」
と言った。何故なら水が波打っているのを見ると何だか安心するからだ。すると黒坂さんは僕達の頭のサイズを図った後、
「じゃあ、楽しみにしてて」
と言い残して、部屋に籠ってしまった。僕と霞は顔を見合わせ、この時間を訓練に使おうと思った。すると、折木さんが、相手をしてくれる事になった。
折木さんは羽赫で訓練場を飛び回っている。久しぶりに見た彼の赫子だが、やはり動きがとても早い。まだまだ追い付く事は出来ないが、精一杯追い掛ける。
(このままだと、いくら時間があっても足りない…そうだ!)
「霞!その場から動かないで!」
「分かった!」
霞にその場で待機してもらい、僕は全力で折木さんを追い掛けた。当然、彼は逃げるが、僕は彼の進行方向の壁まで行き、そしてその壁を駆け上がり、彼に殴りかかってた。折木さんの速度ではもう、僕を避ける事は出来ない。このままだと、僕は羽赫の格好の的になってしまうが折木さんの後ろには……
「はああああああ!」
霞が走ってきていた。僕は折木さんの速度を考えて、彼をこの状況に追い込んだのだ。そして、霞の拳が折木さんに当たった。
(よし!上手くいった!)
僕が喜んでいると下から、
「お兄ちゃん!」
という霞の声が聞こえた。理由はすぐに分かった。折木さんの飛ばされた方向に僕がいるのだ。僕は空中では動けない。
(……痛くありませんように)
次の瞬間、轟音と共に折木さんと僕は、壁にぶつかった。ヤバい、意識が薄れていくのが分かる。しかも折木さん、完璧に気絶してるし…
「お兄ちゃん!しっかりしてー!?」
(そういえば…どんな仮面が出来るんだろ…楽…しみ…だな…)
そうして僕は、意識を失った……