らき☆すた ~幸せのレシピ~   作:四時

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第二話 挑戦! 3つの課題
幼なじみ集結


 翌朝。トーストをかじりながら、俺は源三郎さんが掲示した課題の意味を考えていた。

 

 納得する味=美味いではないとすると、工夫や料理に対する愛情なのだろうか?

 

 しかし、ゆうやの料理は工夫がされていたし、愛情も少なからず感じていた。

 

 一体、ゆうやの料理にたりないものは何なのだろうか?

 

「おふぁよぉ~……」

 

 Tシャツの裾から手を突っ込みボリボリと腹をかきながらこなたが登場した。

 

「おはよう。どうした、随分と眠そうだな」

 

「う~ん、徹夜でネトゲしてたからねぇ~、1時間くらいしか寝てないんだよ」

 

「もっと寝ればいいだろ」

 

「今日のお昼は友達と遊ぶからね~。この前2度寝して遅刻して怒られたから……気を付けないと。ふぁぁ~~……」

 

 こなたは盛大なあくびをしながらキッチンへと消えていく。おそらく、眠気覚ましのコーヒーでも淹れに行ったのだろう。

 

 やがて、豆の香りが漂ってくると、テーブルに置かれた俺のスマホが振動を始めた。

 

 ディスプレイには『高良みゆき』と表示されている。

 

 俺はスマホを手に取り、通話ボタンを押した。

 

『たくとさん!』

 

 スピーカーから聞こえるみゆきの声は、酷く狼狽している。

 

 みゆきは昨日の別れ際、朝になったらばーちゃんの店に行ってゆうやの手伝いをするとか言っていたが、何かあったのか?

 

「どうした?」

 

『今お婆ちゃんのお店に到着したのですが……、厨房でお兄さんが倒れているんです!』

 

「なんだと」

 

 俺は椅子から立ち上がり呟いた。

 

 耳を澄ませてみると、微かだが受話器の向こうからゆうやの呻き声が聞こえてくる。

 

『うっ……ぐぉぉ……く、くるしぃ』

 

『お兄さん! しっかりしてください! お兄さぁーん!』

 

「……くっ!」

 

 みゆきの悲痛な叫びを聞き、俺は歯ぎしりをした。

 

「俺もすぐにそっちへ行く! みゆきは救急車を呼ぶんだ! いいな!」

 

『は、はい!』

 

 通話を切り、俺は急いでリビングを飛び出した。

 

「ちょちょちょ、たくと! そんなに急いでどこ行くの!?」

 

 開け放たれたリビングの扉の前で、コーヒーカップを手にしたこなたが俺に向かって叫ぶ。

 

「すまん、自転車かりるぞ!」

 

「え? あ、うん……どーぞ」

 

 俺は玄関から駆け出し、自転車にまたがった。

 

 そして、なりふり構わずにペダルを踏んで急加速をする。

 

 なぜだ。なぜこんなにも胸が張り裂けそうなんだ?

 

 運動をしているからではない。それとはまた違った痛みが俺の胸中を駆け巡っていた。

 

 俺はこの痛みを知っている。だが、それを明確に思い出すことが出来ないし、したいとも思わなかった。

 

 今はただゆうやの事が心配で、1秒でも早く店にたどり着く事だけを考えていた。

 

 

****

 

 

 自己最短記録で九喜商店街へと辿り着いた俺の呼吸は酷く荒れていた。

 

 急激な運動からくる酸素不足のせいで目の前が霞むが、それでもペダルをこぎ続け、ようやく店へと到着する。

 

 店前には救急車が停車していて、それを囲むようにして大勢の人が群がっていた。

 

 俺は自転車を乗り捨てると、

 

「すいません! 通してください!」

 

 人の壁をかき分けて店の入り口へと押し進んだ。

 

 やっとの思いで店の出入り口にたどり着くと、担架に乗せられたゆうやが運ばれている場面に出くわした。そのひどく青ざめた顔を見て、俺は背筋がぞっとするのを感じた。

 

「たくとさん!」

 

 ゆうやの傍に立っていたみゆきが泣きそうな声で俺を呼ぶ。

 

「た……たくと……すまねぇ、ドジっちまったぜ」

 

 息も絶え絶えなゆうや。

 

 友人の苦しむ姿を見ている事しかできなもどかしさを感じていると、救急隊員が俺の肩を叩いてきた。

 

「すみませんが、ご友人の方ですか?」

 

「そうです。それで、容体はどうなんですか?」

 

「……それは」

 

 隊員はしばらく押し黙ったあと、

 

「食べ過ぎです。あと、寝不足による疲労も溜まっているようですね。まあ、意識もハッキリしているようですし、大事には至らないでしょう」

 

「……は?」

 

 俺は愕然とした。

 

 もっと深刻な病名がでるかと思えば、寝不足と暴食だと?

 

 大事に至らなかったのは良かったが、それでも何だか釈然としない。

 

 これでは、ゆうやを心配して駆けつけた俺がバカみたいじゃないか。

 

 気づいたら、俺はゆうやの頭を引っぱたいていた。

 

「うごぁ! このやろっ……なにしやがる!」

 

「それで、このバカは入院するんですか?」

 

「てめっ! 無視すんなコラ!」

 

 喚くゆうやを無視して、隊員に問いかける。

 

「おそらく、その必要はありませんね。念のため病院には搬送しますが、胃薬を貰うだけで済むと思います。では、私たちはこれで」

 

「バカにつける薬はないとは思いますが……よろしくお願いします」

 

 俺は隊員に一礼しながらそう言った。

 

「てめぇー! たくとぉー! 帰ったら覚えてやがれー!」

 

 担架の上でゆうやが叫ぶ。なんだ、元気じゃないか。

 

 

 

*****

 

 

 騒動から2時間後、昼食時にゆうやはタクシーを使って店まで戻ってきた。

 

「いやぁー、わりぃわりぃ。迷惑かけちまったな」

 

 処方された胃薬を飲みながらゆうやが言う。

 

「それにしても、なんで暴食なんかしたんだ。まさか、やけ食いじゃないだろうな?」

 

「ちっげーよ! 対ジジイ用の料理をどうするか試行錯誤してたら作りすぎちまってよ。捨てるわけにもいかねーし、全部食ったら急に気分が悪くなったんだ」

 

 ゆうやは食べ物を粗末にする事を極端に嫌っている。シンクに置いてある未洗浄の皿の枚数からみて、おそらく10人前はたいらげたのだろう。

 

「これだけ食べたら気分が悪くなるのは当然だ。で? 源三郎さんを納得させる料理はできたのか?」

 

「それなんだよなぁ」

 

 ゆうやは丸椅子に胡坐をかくと、

 

「どの料理もなんかしっくりこねぇんだよ。心の奥底で何かがひっかかってるんだが、それが何なのか分からねぇ……あークソっ! モヤモヤする!」

 

 源三郎さんの言う『課題の意味』が分からない内は、何を作っても無駄という事か。

 

 俺達が悩んでいると、おぼんを持ったみゆきが厨房から現れた。

 

「お兄さん、たくとさん。お茶が入りました」

 

 みゆきは柔らかな笑顔を浮かべながら俺達にお茶を配る。

 

「おっ! さんきゅーな、みゆき」

 

「お兄さん、お体の具合はもう大丈夫なんですか?」

 

「おう! このとーり、ピンピンしてらぁ!」

 

「そうですか、それはよかったです」

 

 みゆきはおぼんを抱えながらにっこりと笑う。

 

 同時に、ガラガラと音を立てて店の引き戸が開けられた。

 

「ちわーっす、きたよ~」

 

「なっつかしいわねーこの店、久々に来たけど変わってない……って、たく!? あんた、どうして……」

 

「あ、ほんとだ。たっくんだー」

 

 俺は驚いた。何故なら、こなた、かがみ、つかさの3人が立っていたからだ。

 

 こなたはこの店の事を知っているようだったから分かるが、何故かがみとつかさがこの場所に居るんだ?

 

 こなたは眉をひそめながら俺とみゆきを交互に見つめる。

 

「あれー? みゆきさんとたくとがなんでここにいるの? てゆーか、2人は知り合いだったの?」

 

「みゆきとは5年前にこの店で知り合ったんだ。それより、お前らこそ知り合いだったのか?」

 

「あたし達は同じ高校の友達だよ」

 

「なるほど。もしかして、かがみとつかさも、同じ高校の友達ってやつか?」

 

「そだよー……って、つかさ達の事も知ってるの? そういやかがみ、さっきたくとの事を『たく』って呼んでたような……。まさか、2人の間には既にフラグが立っていると!?」

 

 かがみは顔を真っ赤にしてこなたに詰め寄る。

 

「ちょぉーっと待て! それは誤解だっ! あたし達はただの幼馴染! それ以上でもそれ以下でもない関係なんだからねっ!」

 

「えぇ~~……つまんないの。てっきりかがみフラグが立ってるのかと思ったのに」

 

「うるさいっ!」

 

 かがみとこなたが言い合いというか、じゃれ合いをはじめた。

 

「なあつかさ。かがみがさっき『懐かしい』と言ったが、お前達もこの店を知っているのか?」

 

「うん。お父さんがこの商店街の近くにある教会の神父さんと知り合いで、教会に遊びに行った帰りによく寄ってたんだ」

 

「そうだったのか」

 

 感心していると、ゆうやが頭を抱えながら俺の肩に手を置いてきた。

 

「あー、すまんたくと。登場人物が多すぎて、俺は今、何が何だか分からなくなってきている」

 

「分かった。順を追って説明しよう」

 

 

 俺は5年前、こなた達に出会った経緯を説明していく。

 

 

「そんなわけで、こなたは俺が居候している泉家の娘。かがみとつかさは探索の最中に神社で出会った双子、みゆきは俺の恩人であるこの店のばーちゃんの孫ってわけだ」

 

『おー……』

 

 偶然に偶然が重なって巡り合った奇跡に、一同が口をポカーンと開けて驚きの声を上げた。

 

 それにしても、こなた、かがみ、つかさ、みゆきの4人が同じ高校の同級生だったとは。案外、世の中って狭いものだな。

 

「なるほどなぁ、皆たくとの幼馴染だったのか。へへっ、かく言う俺もこいつの幼馴染で、高良ゆうやってんだ。この店の2代目店長になる予定なんで、今後ともよろしくな!」

 

 ゆうやは親指を立ててこなた達に挨拶をした。

 

 高良のワードを聞き、こなたの眉がピクリと動く。

 

「高良? もしかして、みゆきさんのお兄さんかなにか?」

 

「ああ。俺ぁ、みゆきの従兄なんだ」

 

「へぇー。この店を継ぐって事は、お婆さんは引退しちゃったのかな?」

 

「ばーちゃんなら、1年前にポックリ逝っちまったよ」

 

「ありゃ、ごめん」

 

 こなたはバツが悪そうな顔で頭をかいた。

 

 ゆうやはこなたの肩を叩きながら、

 

「まっ、人は生きてりゃそのうち死ぬ。そう気にすんなよ、こなっち」

 

「こなっち? それってあたしの事?」

 

「おう。俺は堅苦しいのは嫌だからよ、ダチの名前を呼ぶときは名前かあだ名呼びって決めてんだ」

 

「ダチって……あたし達、まだあって間もないじゃん」

 

「ダチのダチなんだから、もうダチみたいなもんだろ。ちなみに、双子の姉がかーさんで、妹はつかっちゃんな。俺の事は気軽に『ゆうや』とか『ゆうくん』って呼んでくれや」

 

 フレンドリーというか、馴れなれしいというか。ゆうやは誰に対してもこうなのだ。

 

 かがみは自分のあだ名が不満なのか、眉を吊り上げながら、

 

「ちょっと! 何であたしのあだ名がかーさんなのよ! これじゃあ、あたしがお母さんって呼ばれてるみたいじゃない!」

 

 不満を口にした。そんなかがみに、こなたも加勢する。

 

「そうだそうだ! かがみには、もうかがみんっていうキュートなあだ名があって、本人も気に入ってるんだぞ!」

 

「そう、あたしにはかがみんっていうキュートな……って、こなたぁ! かがみん呼びは恥ずかしいからやめろってあれほど……」

 

「そうだったのか。じゃあかーさんは無しで、俺もかがみんって呼ぶわ。よろしくな、かがみん」

 

「うわぁー! やめろぉー!」

 

 かがみは顔を真っ赤にして、ぶんぶんと頭をふる。

 

 俺はそんなかがみの肩に手を置き、

 

「落ち着けよ、かがみん」

 

「かがみん言うな! かがみんはやめろ! かがみんはやめてぇー!」

 

 恥ずかしがり屋なかがみの叫びが店内に響く。

 

 その後、抵抗もむなしく、かがみのあだ名は『かがみん』に決定した。

 

 よかったな、かがみん。

 

 

 

 

 




リメイク前の主人公はゆうやでした。
なので、作中でも無意識のうちに『ゆうや』と呼ばせてしまいます。
気づいたら速攻なおします。すみません。

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