東方書迷録   作:SunoA

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みんなは年末に浴衣とか着ますか?





第6話〜年越し〜

「涼まだー!?早くしないと遅れるよー!」

 

「わかってるって!」

 

掃除が終わって、天子が帰って、萃香と仮眠をとってその後。

 

がっつり寝過ごしました。

 

時刻は午後11時。年明けまであと1時間しかない。

 

「ほんと何で起こすって言いながら自分も寝過ごすかなぁ」

 

「だからごめんって……」

 

まさか自分も寝過ごすなんて思ってなかったんだよ。思いの外俺も疲れてるのかも知れない。それもこれも殆どは天子の所為な気がするけど。あの天人め。いなくなってまで迷惑をかけるとは。

 

「言い訳はいいから早くして」

 

「あっはい」

 

そうです全部言い訳ですすいませんでした。

 

「よし、オッケー」

 

軽く身支度を済ませて萃香の方を向く。

 

「遅いよ」

 

膨れっ面で文句を言いながらも機嫌は良さそうな萃香はどこか楽しそうだ。やっぱりお祭りごとだし楽しみなんだろう。

 

「にしても動きにくいねこれ」

 

そう言って慣れない浴衣をきた萃香が身体を捻る。折角のお祭りなんだしと紫が持ってきたらしい。

 

「まぁ折角持ってきてくれたんだから今日だけでも着ときなよ」

 

「でもやっぱり動きにくい……」

 

まぁ慣れない格好ってのは違和感あるよね。一応自分も着ているけど不快感とまでは言わないがやはり違和感がある。

 

「まぁ雰囲気を楽しむって意味も含めてさ。似合ってるよその浴衣」

 

赤と白の金魚が描かれている黄緑色を主体とした浴衣は萃香の無邪気な可愛らしい雰囲気を更に引き立てていた。

 

「……なんか涼に褒められると気持ち悪いね」

 

「普通に酷くない?」

 

なんで素直に褒めたのに気持ち悪がられるのか。まぁ確かに普段褒めたりすることなんてそうそうないけど。そう考えると俺も萃香に褒められたら同じ感想を抱くかも知れない。

 

「まぁでもありがと」

 

そういって萃香は照れ臭そうに笑う。

ほんと素直じゃないんだから。

 

「じゃあ行きますか」

 

「うん、そだね」

 

そんな軽いやりとりをして、すっかり暗くなった空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------

 

着いた頃には博麗神社は人で埋め尽くされていた。

道には屋台がずらりと並び、浴衣や着物をきた人達で鮮やかに彩られていた。

 

「ここにこんなに人がいるのも新鮮だね」

 

萃香がそんな言葉を漏らす。確かに普段だと人がいる事の方が珍しいから、こんなにたくさんの人々で埋め尽くされてるのはなかなかに新鮮な風景だと思う。

 

「あ、漸くきた!おっそいわよあんた達!」

 

そんな声に振り返るとそこには楽しそうな天子がいた。両手に袋を下げて頭にお面をつけてりんご飴を食べている姿から祭りを満喫していることがよくわかる。

 

「悪い悪い、寝過ごしちゃってさ」

 

「なんで寝過ごすのよ!ありえないでしょ!」

 

ほんと面目次第もございません。

 

「まって下さいよ総領娘様〜」

 

そんな声と共に遅れて衣玖さんもやってきた。

 

「遅いわよ衣玖」

 

「総領娘様が早過ぎるんですよ……」

 

その声は明らかに疲れていた。多分あの後ずっとこの我儘娘に振り回されていたのだろう。ご苦労様です。

 

「天子もあんま衣玖さんに無理させちゃ駄目だぞ?」

 

「させてないわよ。衣玖の体力が無さ過ぎるだけ」

 

「お前が元気過ぎるんだよ」

 

こいつのテンションにずっと付き合える奴なんてそうはいないだろう。そのうち衣玖さんが倒れるんじゃないかと心配になってくる。

 

「大丈夫ですよ、もう慣れてますから」

 

そう言って衣玖さんは笑ってみせた。でもそれは笑顔では無くどちらかといえば苦笑いだけど。

 

「ほら、衣玖もこう言ってるじゃない」

 

「よくみてみろ。苦笑いでしょうが」

 

少しは労ってあげなさいよ。

 

「まぁいいわ、私達は次にいくからまた今度ね」

 

「次?」

 

「次は守谷の屋台を周りに行くのよ」

 

…………こいつ正気か?

そんだけ色々回って買ってまだ足りないのか?あ、衣玖さんが凄い絶望的な顔してる。そのうち見捨てられるんじゃないかこいつ。

 

「それじゃあまたね!」

 

そう言って天子は凄い早さで飛んでいった。

 

「あ、待って下さいよ総領娘様〜!そ、それではお先失礼しますね、良いお年を!」

 

「あ、うん良いお年を。頑張ってね」

 

「はい、頑張ります!」

 

そう言って衣玖さんも天子の後を追いかけて飛んでいった。従者っていうのも大変だなってのを痛感した。咲夜とかもこんな感じなのかなぁとか思ってみたり。

 

 

 

 

 

 

---------------

 

「これは進むこともままならないな……」

 

本殿に着くと更に人で溢れかえっていた。列の先頭では各々の願いを秘めた参拝客達が小銭を投げ入れて手を合わせている。その横にも長蛇の列が出来ており、そこでは霊夢が御守りや破魔矢、熊手などを売っていた。あの霊夢が働いている姿なんて久々に見た気がする。

とはいえこのままでは全然進まないので手っ取り早く飛んでいくことにした。こんな時飛べるって便利だよね。

縁側まで飛んでそこで着地する。ここまでは普通の参拝客ははいってこれないからね。

 

「あら、漸くきたわね」

 

そこでは紫、萃香、幽々子が一足先に酒盛りをしていた。紫は睡蓮の花が描かれた薄紫の、幽々子は白い百合の花が描かれたピンクの浴衣に身を包んでいて、2人の妖艶な雰囲気を際立たせていた。

てか着いた辺りから萃香の姿が見えないと思ったらこんなとこにいたのね。

 

「ほらほら〜まずは御一献♪」

 

そう言って幽々子が徳利を渡してくる。もう大分出来上がってる感じだ。一体いつから飲んでたことやら。

 

「てか今日は妖夢はいないの?」

 

いつもは一緒にいるのに。

 

「妖夢なら霊夢の手伝いをしてるわよ〜」

 

「あーなるほど」

 

確かにあの客数を霊夢1人で捌くのは流石に無理があるもんね。

 

「ほらほらそんなことはいいから〜。飲んで飲んで♪」

 

あっ、ちょっとくっつくな。色々当たってるでしょうが。どんだけ飲んだんだよ。てかこんなに酒癖悪かったっけこいつ。凄く鬱陶しい。

 

「まぁ飲まないことには始まらないわよ?」

 

「そうそう」

 

紫と萃香がニヤニヤしながらそんな声をかけてくる。畜生人ごとだと思って面白がりやがって。

 

「わかったわかった飲むから一旦離れろ」

 

「はーい♪」

 

漸く幽々子が離れる。今の一瞬でどっと疲れが増した気がする。

 

「はい、どうぞ」

 

紫がお酒を注いだ徳利を渡してくれる。

 

「ん、ありがと」

 

それを受け取ると一気に飲み干す。

 

強いアルコールの香りが鼻を抜けた後に喉が焼けるような感覚が走る。

 

「おーいい飲みっぷりだね〜」

 

「まだまだあるわよ〜♪」

 

あっちょっとそんな一気に注がなくていいから。そんなに飲めないから。年末だからってハメを外し過ぎですよ。

 

「あ、」

 

その時、ゴーンゴーンと金の音が聞こえる。

 

「もう年が明けたみたいね」

 

時間は深夜0時。

それは年の終わりを告げると同時に、新たな年の始まりを祝福する音。

 

「「「「明けましておめでとうございます」」」」

 

みんなで新年の挨拶。やっぱりこういう事はしっかりしないとね。

 

「今年もよろしくね〜」

 

「こちらこそ」

 

「今年も美味しいものが食べれるといいわね〜」

 

「お前はそれしかないのか」

 

新たな年の始まり。今年も1年頑張って行きましょう。楽しいことも辛いこともあると思いますがそれも御一興。それでもどうか、今年も良い年であります様に。




衣玖さんが過労死してしまわないか心配になります。

それではまた次回

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