エ・ランテルの混乱を収束させたジルクニフは、部下にエ・ランテル周辺の開拓村の掌握を命じた。帝国の官吏が代官として派遣された事によって、村々の混乱は最小限に抑えられた。大幅減税と、軍の定期的な巡回による安全保障によって、住民からの完全な支持を得たジルクニフは、周辺国家にエ・ランテルとリ・レエブン(レエブン侯領地)の帝国への編入を通知した。リ・エスティーゼ王国以外の周辺国はこれを承認、王国は遺憾の意を表明し、帝国軍が駐留するエ・ランテルへの抗議の使者を出したが、都市へ入ることすら出来ずに門前払いされ、周辺国への調停を依頼する文書は全て黙殺された。
~リ・エスティーゼ王国の王宮会議~
「エ・ランテル割譲については仕方ないでしょう。」
「左様ですな。エ・ランテルには2万の帝国軍が駐留している。これを攻め落とすのは困難、陛下がエ・ランテル奪還の為に出兵するとしても、我ら諸侯軍に参加する予定はない。」
これが貴族派閥を中心とした大多数の意見であった。六大貴族にしてみれば、王の直轄だったエ・ランテルなど、自分達には関係ないと考えている。かえって王の力を削げて好都合だとさえ考えている。
「リ・レエブンについては捨て置けませんな。レエブン侯の裏切りを看過したままでは、王国貴族として沽券にかかわる!リ・レエブンの兵力は領軍1万と帝国軍の増援が約5千。これを討伐する為に、我らのような心ある貴族が立ち上がるべきではないか?」
逆にレエブン侯の領地に対しては、殆どの貴族が出兵を表明している。都市での略奪、領地の接収を目論んでいるためだ。六大貴族筆頭とされていたレエブン侯を、忌々しく思っていた貴族は多い。彼らは自分達の領地から吸い上げている利益が減り続けて、只でさえ不満に感じているのに、豊かなレエブン侯の領地が妬ましかったのだ。
「それにしてもレエブン侯め!あやつが卑劣な売国奴だったとは!?ガゼフと懇意にしていたのはこの為だったか!」
「レエブン侯もガゼフも、ランポッサ陛下が特に頼りにされていた忠臣、その2人が反旗を翻すなど、このウミノリ伯の目をもってしても読めなかった。」
「ガゼフは王国に伝わる五宝物を身に付けていたそうでないか!だから平民如きに、由緒ある装備は分相応だと前から言っていたのだ!」
「ラナー王女の行方はまだ判明していないのか?近衛兵は何をしていたのだ!」
「王都を任されていたのはザナック王子ではなかったですか?これはザナック王子の責任問題に…」
「お、俺は悪くねェ!悪いのはラナーを守れなかった兵どもだ!」
「レエブン侯じゃ!レエブン侯の仕業じゃ!」
議論の内容は、聞くに堪えない罵倒、責任転嫁と自己弁護の言葉のみで、建設的な意見は何一つ出てこないという現状に、ランポッサ三世は…
「そうだ、これは夢なのだ…わしは今、夢を見ておるのだ。目が覚めれば、帝国軍は撤退していて、ラナーもガゼフもレエブン侯も帰ってくる…帝国からの賠償金と、周辺国からの義捐金で赤字は解消され…」
宮廷会議でエ・ランテル割譲とレエブン侯討伐軍の派遣が決定された。派遣軍は第一王子バルブロを大将、ボウロロープ侯を副将として、率いる諸侯軍は5万人の大軍である。
~レエブン侯討伐軍本陣~
「百獣騎士団壊滅!ククロ・コダイーン・グワアアー男爵、討ち死に!」
「カインガリ伯爵より伝令です!『おれは しょうきに もどった!』…これはいったい!?」
「大変です!ヤムチャヘターレ子爵と配下の軍が逃亡したと報告が入っております!」
本陣へ続々と齎される、討ち死に・裏切り・逃亡の報告にボウロロープ侯は大混乱に陥る。制止を振り切って突撃したバルブロ王子も行方不明だ。レエブン侯の軍が本陣に迫ってくる…
「ええい、こうなっては仕方ない。撤退…いや後方へ向けて突撃するのだ!」
王国歴216年下火月29日、リ・レエブンへ出兵した討伐軍は、4万の死傷者(死亡3万)、1万の行方不明者、5千の捕虜を出し、大将のバルブロ王子までもが虜囚の身となる大敗を喫した。5万の軍勢のうち無事に王都へ生還できたのは1割未満という、史上稀にみる大敗北であった。
レエブン侯はバルブロ王子の解放条件として、王国金貨1万枚を要求したが、王国側は財源不足を理由に返答を保留。その後の交渉で王国側より支払の分割や代物弁済が提案されたが、レエブン侯側はこれを拒否。バルブロ王子の身柄は、帝都アーウィンタールにある重犯罪者専用施設の『ローゼンゲフェングニス』に移された。
王国の成立が13英雄が活躍した200年前の頃だったので、帝国歴と王国歴を修正しました。