ユグドラシル最終日に、玉座の間でゲーム終了の時を迎えたモモンガ(鈴木悟)は、ログアウトが出来なくなった事や、ゲームのNPCが意思を持ったかの様な言動に困惑を覚えつつも、現状を把握する為に行動をとった。
NPCのセバスを偵察に出し、ナザリック内の設備や自分のスキル、アイテムを確認する。魔法の実験を兼ねて訪れた第六階層に、最強クラスのNPCである階層守護者を終結させ、その忠誠を確認していた。そして偵察に出していたセバスの報告を受け、ナザリック地下大墳墓がユグドラシルとは別の世界に移転したのか?との認識を持つ事になる。
「ナザリックの周辺1キロ四方は草原です。小動物を見かける位で、人型や大型の生物、モンスターの類は見られませんでした。」
「ナザリックの周辺は毒の沼地だったはずだが…やはりナザリック地下大墳墓ごと他の世界へ移転したのか?」
理由は解らないが非常事態だ。ここが何処なのかも不明だし、もっと多くの情報が必要だろう。モモンガがナザリックの警戒レベルを上げる必要性を感じている間にも、セバス報告を続ける…
「この周辺はバハルス帝国の南部で、スレイン法国との国境に近い地域。ナザリックから少し北にトブの大森林と呼ばれる広大な森林が広がっております。南西へおよそ10キロの位置にカルネ村という開拓村がある模様で、カルネ村から南に20キロ程の位置にエ・ランテルという城塞都市があるとの事です。」
「!?!?…ずいぶんと詳細な報告だが、僅かな時間でどうやって其処までの情報を入手したのだ?」
モモンガは困惑する。いきなり周辺地域の詳しい情報が入手出来てしまった。セバスが偵察に出ていたのは1時間程だ。北にあるという森林の事はともかく、いや国や街の名前なんてどうやって知ったんだ?
「それが数か所で看板を発見いたしました。それに周辺の地図が描かれておりました。地名については現地のものと思われる文字と、我々の知る文字(日本語)が併記されておりました。」
「はぁ!?何だそれ?いや、うむ…ご苦労だったなセバス。そうだ、その看板を持ってくる事は可能か?」
「モモンガ様がお望みでしたら、直ちに行って参ります。」
~ナザリック地下大墳墓第九階層 モモンガの自室~
「日本語が使われているという事は、やはりユグドラシル2の可能性も捨てきれないのか?いやしかしNPCの言動は…うーむ、というよりこの「バハルス帝国へようこそ!」とか「バハルス帝国観光協会」とか「亜人の方も歓迎!」って何だよ!?この辺りに何か観光名所とかあるのか?やはり他にもプレイヤー、それも日本人が居るのか…」
セバスが持ち帰った看板を見ながら、モモンガは思い悩む。やはりこの世界がゲームとは考えにくい。NPC達は間違い無く意思を持っていた。
「この世界にプレイヤーがいるのは間違いない。それなら接触して見るべき。そして無暗に敵対するべきでは無い。まずはこのカルネ村に行ってみるか…」
デミウルゴスの進言で、ナザリックにはデフコン2が発令されている。これは最高度に準じた防衛体制で滅多に発動される事はない。ちなみにデフコン1が発令されたのは過去に1度のみ、あの1,500人からなるプレイヤー連合が攻めて来た時だけだ。
周辺の情報収集に、遠隔視の鏡や魔法を使ってみる事を考えていたが、プレイヤーの存在が示唆されているので、対策無しに使う訳にはいかない。モモンガは幾重もの防御、阻害魔法で対策を施したうえで、遠隔視の鏡を起動させる。
カルネ村はアニメやゲームで見るようなファンタジー世界の農村だ。住民はほとんどが人間だが、リザードマンやゴブリンの姿も見られる。彼らは村に定住しているわけではないのだろう、買出しにでも来たのか大きな荷物を抱えている。さすがにアンデッドやモンスターは見られないな…と思っていたら、そこには畑を一心不乱に耕すスケルトンの姿が!!さすがファンタジー世界だ!とモモンガは感心する。辺境にある村だからだろう、村を囲う石造りの塀が見られ、何人かの兵士の姿も確認できる。
これ以上は自分で直接確認するしかないだろう。一人で行ってみるのも良いかと思ったが、NPCの忠誠ぶりから観て、かなりの反発が予想される。それにモモンガはアンデッドのオーバーロードだ。この姿でいくのは流石に不味いかも知れない、いやリザードマンやゴブリンがOKなんだから…ある程度考えを纏めたモモンガは、守護者統括のアルベド、第7階層守護者デミウルゴス、そして家令であるが階層守護者と同格のセバスを自室へ呼び出した。
モモンガから説明を受けたNPC達は、主人自らが情報収集の任に赴く事を告げられ、自分達が主人の役に立てない事にショックを受ける。
「そのような事にモモンガ様の手を煩わせる訳にはまいりません。適当なシモベを派遣するなりすれば良いのではありませんか?」
「デミウルゴスの言うとおりです。それにモモンガ様に万一の事があってはいけません!」
「私もお二方の意見に賛成です。僭越ですが先程と同様に、私がプレアデスを同行して行ってみるのはどうでしょうか?」
予想通り全員がモモンガ自ら動く事に、拒否というか憚りがあるようだ。上司の腰が軽すぎるのは、確かに部下にとってあまり気分が良くないだろう。しかし情報収集は絶対に必要だ。それにNPCやシモベに任せるには致命的な問題がある。
「お前達の意見はわかった。しかし問題点がある。まずデミウルゴスよ、私は今のナザリックのおかれた状況において、情報収集を非常に重要視している。であるからこそ私自らが赴かねばならないと思っている。」
「アルベド、私の事を心配してくれるのは嬉しい。もちろん一人で行くなどせず、護衛を連れていく。」
「セバスよ、お前の意見は充分検討に値するが、問題もある。」
上司として部下の意見を無碍に扱ってはいけない。モモンガは結論を述べる前に、各人の意見にフォローをいれる。
「お前達を含むNPCやシモベは、あくまでナザリック地下大墳墓を守る為に創造された存在だ。先程のセバスに命じた事は例外として、今までナザリックの外に出た事がないお前達に任せるには問題がある為だ。これはお前達の能力に不安や不満があるのではない。もちろん今後はお前達の力を当てにさせてもらうつもりだが、今回は範を示すとう訳ではないが、私が自ら赴く事にした。」
モモンガの冷静で的確な判断、そして部下を思いやる慈悲深さに彼らは感嘆の念を禁じえない。
「デミウルゴス、護衛として隠密に長けた部下20名による部隊を編成してくれ。さらに万一に備えた強襲部隊を編成し地表部で待機させるのだ!」
「アルベド、私が不在時はお前がナザリックの最高責任者だ。任せて問題はないな?」
「セバス、側仕えを命じる。プレアデスから…ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマの3名を連れて行く。」
「準備が完了次第、出発する!それでは各員準備に取り掛かれ。」
こうしてモモンガはこの世界への第一歩を踏み出したのだった。