体を優しく撫でられている感覚があった。
「……ん」
神隠しの森の中。
「ウルリケ様、起きたようですよ」
白猫が言った。
「よかったわ、森の中で倒れていたから…。ピクシードラゴンも大丈夫よ」
白いドレスの女性が微笑んだ。
「私は、ウルリケ。この子は、エルブリオよ」
「私は、ヨシュア。リューリク様の臣下です。ピクシードラゴンの方は、ゾーファです。助けていただきありがとうございました」
「グル!」
「よろしくね」
「よろしく」
かたい握手を交わした。
「ところで、どうしてここに?」
ウルリケが穏やかに尋ねた。
「我が王・リューリク様が邪悪な
ヨシュアは、周囲を見回した。
「ソフィア様がいない…!ソフィア様を見ていませんか!?」
「いいえ、見ていないわ」
しばらく黙ったあと、なにかひらめいたようだ。
「もしかしたら、闇の魔女・ティタニラが狙っているかもしれない…」
―ティタニラ…神隠しの森に住む闇の魔女。
彼女は、2000年も昔に生を受けた。
強大な魔力を持っていながら、その器たる体の寿命が短かった。
だんだんと老いていく自分の体。
そんな彼女の前に悪魔が現れた。
「永遠に美しく若々しくいられる方法…『不老不死』の魔法を教えてやろう」
悪魔と契約したティタニラは、早速その魔法を使った。
その魔法は、他人の体を乗っとるというもの。
乗っ取った体の使用期限が来ると、次の体を探した。
それ以来、その犠牲となった女性は数知れず。
人々は、彼女の住む森をこう呼ぶ。
『神隠しの森』と。―
「あなた達の手助けをするわ!まず、ティタニラからソフィア王女を救わなきゃ!」
「でも、不可視の壁が…」
ウルリケは、呪文を唱えた。
パキン…
何かが割れるような音がした。
「これで行けるわよ」
ウルリケ達は、走った。
――――――――――
ティタニラの住む洞窟の中。
「離して!」
「嫌じゃよ。騒がしいのう。お前もこのようにしてやろうか?」
ティタニラは、黒い布を取り払った。
たくさんの黒水晶柱。
中に妖精やゴブリン、魔女が囚われていた。
「!?」
ひときわ大きい水晶柱にの中にリューリク王が閉じ込められていた。
「リューリク王…。彼に何をしたの!?」
ティタニラは、薄く笑った。
「ゼルファルスに頼まれたのさ。『リューリクを幽閉するかわりにお前の望みを叶えてやろう』とな。ゼルファルスが完全に王位に着くのは、次の新月…
「!?」
「今の体の使用期限は、次の新月の夜のあとに来る夜明けまで…。それまで水晶の中にいてもらおう!」
ティタニラの言葉が響き渡った。
バリッバリバリ!
ソフィアの足元から水晶が現れた。
次第に体を拘束する。
「嫌よ!」
ソフィアの体が白く輝いた。
その光も黒い水晶に侵食される。
体が完全に水晶に包まれとき、白い光が消えた。
「…………」
水晶の中のソフィアは、目を開いたまま動かない。
「わしの体となるまで、あと少しじゃよ」
「ティタニラ!そこまでよ!」
洞窟の入口にウルリケが立っていた。
「ソフィア様!?それに、リューリク様!?」
ヨシュアの目には、虚ろな器と化したソフィアとリューリクが映った。
(大丈夫…私が必ず助けるから)
ウルリケが念を送った。
「ええい、お前達も捕らえてやる!」
ウルリケの周囲に黒水晶が成長していく。
「安心せい、お前の体も必ず使ってやろう」
「ウルリケ殿!」
ヨシュアは、思わず叫んだ。
体が水晶に飲み込まれていく。
ティタニラは、笑った。
「グルルー!」
ゾーファが火を吹いた。
「無駄じゃ!わしの
ウルリケの顔にまで水晶は、侵食していった。
ティタニラは、勝ったと確信した。
完全に覆う直前、ウルリケの口許が笑った。
中からまばゆい光がもれた。
「―魔法でできたものは、魔法で壊すことができる―。―
声と同時に水晶が割れた。
「くそっ、あと少しだったのに…!」
「ティタニラ、水晶柱からみんなを解放しなさい!でなければ…」
ウルリケの手に光輝く剣がいつの間にか握られていた。
「私があなたを封印する!」
「わしを傷つけたら、どうなるのか知ってるのか!?―魔法使いを傷つけた魔法使いは、悪魔と化す―。魔女の規則じゃぞ!」
ティタニラの手に黒曜石でできた盾が現れた。
「あなたこそ、大事な一文を忘れているわ!」
「違う!わしの記憶は、間違っておらぬ!」
ウルリケは、『魔法使いの誓い』と呼ばれる文章を読み上げた。
曰く、
―汝、汝と同じとするところの者を傷つけることなかれ。
汝、いかなる悪とも契約することなかれ。
汝、当に悪と契約せし者を封印すべし。―
「あなたは、遥か昔に悪魔と契約して、禁忌の魔法を手に入れた。でも、契約を交わした瞬間、あなたは魔女ではなくなったのよ!そして、私には堕落した魔女を封印する義務がある!」
言葉が終わらないうちに動いた。
カツーン
パリーン
ガシャーン
「すばやい…」
「そうかね?」
ティタニラは、ウルリケの背後に回った。
「キャッ!」
「ウルリケ殿!」
ヨシュアは、助けようとした。
「ダメよ!これは、魔女の使命、あなた達を傷つけることなんてできないわ!」
ウルリケは、立ち上がると、再び剣を構えた。
「ハァァァ…!」
カツーン
光の剣が
パキン…
「ここは…」
「リューリク様!」
「くそっ…。しかし、王位を奪還するには、娘が必要だろ?渡さないぞ」
ティタニラは、ソフィアを背にした。
「取引をしようじゃないか。リューリクを置いていくなら、娘を解放する。拒否するなら、娘の命はない」
ウルリケは、しばらく黙っていた。
そして、
「わかったわ…。応じましょう」
「ウルリケ殿!?」
「仕方ないわ…」
リューリクをティタニラに引き渡した。
ティタニラは、リューリクに目を奪われていた。
パキン…
「なんじゃ!?」
「リューリク王もソフィア姫も返してもらうわ!」
ウルリケは、ソフィアを閉じ込める
「ヘヘ~ン、偽者だと思わなかったのかな!?」
ティタニラに引き渡したリューリクは、エルブリオが変身したものだった。
「お前ら…許さぬ!」
ティタニラは、禍々しい魔方陣を作り出した。
「光の剣よ!闇に囚われし者を封印せよ!」
ウルリケは、ティタニラに向けて剣を凪いだ。
消える魔方陣。
「アァァァ…!」
ティタニラの体は、砂のように崩れていった。
あとに残ったのは、黒真珠。
「――――――」
ウルリケは、真珠を拾い上げると、何か呪文を唱えた。
黒真珠は、空間の歪みの中に消えた。
「ソフィア様、この方は、ウルリケという魔女です」
「ウルリケさん、助けていただきありがとうございました」
「お礼なんて…ねぇ…エルブリオ」
「そうだな」
ソフィアは、ウルリケにお礼を言うと、リューリクの元へ行った。
「あなたがリューリク王ですね」
「いかにも。あなた様にとってはこれが『はじめまして』ですな、ソフィア姫」
ソフィアとヨシュアは、これまでの経緯を話した。
「ゼルファルス…。こうしてはいられぬ!ルテフォへ戻らねば!」
「私が転移魔法を使いましょう」
―