Fate/Grand Order : error/mission   作:変種第二号

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error/01 未確認職員

 

 

 

「おはようロマニ、今日も早いね。施設の様子はどうだい」

 

「おはよう。まあ、いつも通りだよ。特にこれといって『新たな』異変はない」

 

「ああ、そう。いつも通りか」

 

「そう。いつも通り……『異常』だらけだよ」

 

 

人理継続保障機関フィニス・カルデア。

今やその施設内部でしか用いられていない標準時刻で、現在6:15と少し。

朝の挨拶として交わされる言葉はしかし、どちらの声も色濃い疲労と諦観を滲ませていた。

彼等、ロマニ・アーキマンとレオナルド・ダ・ヴィンチ。

今やカルデアの実質的二大司令塔となってしまった彼等は、何よりも優先して対応すべき人理焼却という人類史にとっての危機以外に、悩ましい問題を抱え込んでいた。

 

 

「例の職員達の事だけど……やっぱり今すぐどうこうはできないね。敵対的な行動を取っている訳でもなく、寧ろ特異点の解消には非常に協力的だ。彼等の異常な戦闘能力の高さは、君も目にしただろう?」

 

「その時点でおかしいとは思わないのかい? 彼等は英霊ではなく、況してや魔術師でもないんだよ? にも拘わらず彼等はレイシフト先で、或いは此処で、サーヴァントや幻想種を相手に真っ向から殴り合い、挙げ句の果てに滅ぼしまでしてみせた。これが異常でなく何だというんだい」

 

「解ってる、解ってはいるんだよ。けど、だからといって彼等と積極的に敵対する必要はないだろ」

 

「……まあ、いいさ。それで『外』の様子は?」

 

「こっちも相変わらずだよ。観測可能な範囲だけでも20を超える『何か』が蠢いてる。空でも、地表でもだ」

 

「この分だと大気圏外にも居るかもしれないね」

 

「考えたくないなあ……」

 

 

思わずといった体で弱音を零し、力なく手で目を覆いつつ、背凭れに体重を預けるロマニ。

一方のダ・ヴィンチもまた、溜息と共に椅子へと腰を下ろした。

 

 

「全く、どうしてこんな事になったんだか……彼等の用いる技術ときたら、この私でも理解できないときた」

 

「蒸気王に発明王、テスラ博士は? 結構なハイテンションで解析を試みていた筈だろ?」

 

「結果はあまり思わしくないみたいだね。魔術的アプローチという事で、メディア王女や孔明……エルメロイⅡ世も解析を始めたけれど、こっちはテスラ達以上に混乱しているよ」

 

「何か妙な魔術組成でも見つかったかい?」

 

「逆だよ。何も見つからなかったんだ」

 

 

今度こそ、ロマニは両の掌を宙に向けた。

お手上げだ、と。

 

 

「どうかしてるよ……確かに、科学は此処100年ばかりで劇的に進化したさ。しかし、だからといって科学のみで人理焼却なんていう、科学文明の叡智の外側に位置する現象に対峙できるほど振り切れちゃいない筈だ」

 

「第四・第五特異点の様に、例外的な干渉により時代に見合わない特異な発達を遂げた世界もあるだろうさ。だがそれでも、純粋な科学が神秘に対して優位を獲得する事は想像し難いね。不可能ではないだろうが、そんな事が起こるとすれば今よりも遙か未来の話だ」

 

「たとえそれを成し遂げたとしても『世界』からの干渉はどうなるんだい? 『世界』の法則を半ば無視し、魔術無しで神秘に真っ向から抗う彼等。人理焼却なんていう人類史そのものを消し去る一大神秘現象を前に、難なく抗っている外の巨大移動物体、それも明らかな人工物。それこそ『世界』からの修正対象になったっておかしくないだろ? 下手をすればアラヤだって動きかねない」

 

「さあてね。推論は幾つか用意できるけれど、どれが的を射ているかまではさっぱりだよ。本来は『世界』の根幹そのものが全く異なる時空に存在している筈のものなのか『世界』に自身の存在を誤認させているのか、或いは……『世界』そのものを凌駕したか」

 

 

『世界』を凌駕する。

その言葉を境にして、部屋に満ちる沈黙。

時折響くのは、ロマニが冷めかけたコーヒーを啜る音だけだ。

暫しの後、口を開いたのはダ・ヴィンチだった。

 

 

「ロマニ、やっぱり調査は加速させるべきだ。このままではいずれ、取り返しの付かない何かが起こる……そんな気がしてならないんだ」

 

「君が直感頼りとは珍しい。外は吹雪だけれど、レイシフト先は雨かな?」

 

「からかわないでくれ、私は真剣だよロマニ。皆にも協力を仰ごう。場合によっては……」

 

「止めた方が良いよ、それ」

 

 

ロマニはダ・ヴィンチへと、一枚のハードコピーを手渡す。

受け取り、瞬間的に文面へと視線を奔らせると、彼女は目を瞠った。

 

 

「これは……何時の間にこんな!?」

 

「アサシンの件なら昨日だよ。『増設区』で一日中何かをしていたと思えば、日付が変わる頃にはそうなっていた。全く無茶苦茶だ」

 

「そんな単純な言葉で済むものか! 知ってるだろう、彼女の毒がどんなものか! それを無効化するなんて……!」

 

「違う、無効化じゃない。彼女は『切り替える』事ができるようになったんだ」

 

「切り替え?」

 

「多種多様な毒をその身に宿し、色香を用いて多くの命を奪ってきた『山の翁』としての彼女の肉体。ごく普通の町娘として生まれ落ち、ごく普通にあの年齢まで成長した、一切の穢れを知らぬ清らかな乙女としての肉体。その双方を任意に『切り替えられる』様になったのさ」

 

 

想像を超えた報告の内容に、呆然と言葉を失うダ・ヴィンチ。

そんな彼女を余所に、ロマニは言葉を続ける。

 

 

「彼女だけじゃない。今日にもマタ・ハリ、ゴルゴン三姉妹にメディア王女、聖女に女王に大王……選択の余地など無い生涯を歩んだ彼女たちに『IF』の可能性を具現化した肉体を与え、彼女たち自身の意志で随時、現行のそれと切り替えられる様に『改変』を施す事になっている。勿論、彼女たちの自由意思でね」

 

「馬鹿な……」

 

「希望、渇望、好奇心……理由は様々だけれど、嘗て諦め、座へと祀られてなお叶う筈などなかった願いが、思いも寄らない形で実現するんだ。自らの在り方を自らの意思で決められる、過去にも他者の意思にも縛られない真っ新な肉体と魂の獲得。望まぬ道を歩まされた過去を持ちながら、これを喜ばない者が居ると思うかい?」

 

「……切り替えられるという事は、つまり今までの肉体や自身の積み上げた歴史を否定している訳ではない。故に然程抵抗なく受け入れられている訳か。男性陣のサーヴァントはどうなんだい?」

 

「今のところ希望者は居ないね。時間が経てばどうなるか解らないけど、彼等の望みは自身の肉体や在り方とは別な事が多いから」

 

 

そうしてロマニは、展開したウィンドウに指を奔らせ、幾つかの画像を表示する。

其処に映し出されるのは、穏やかな表情を浮かべる男女や、彼等にじゃれつく幼子たち、或いは傍で微笑む青年や少女。

それぞれが別の、しかし同様に幸福に満ちた『家族』の肖像。

歴史の中に埋もれて潰え、彼等にとっては二度とは見ること能わぬ筈であった、何よりも眩く尊い光景。

 

 

「見てごらんよ、彼等の幸せそうな顔……永遠に失われた筈の最愛の人、我が子との再会。奪われ踏み躙られ、二度とは戻らない筈だった時間を、再び一緒に歩む事ができる『奇蹟』。これに否定的な見解を持てる人物が、このカルデアにどれだけ居ると思う?」

 

「っ……」

 

 

言葉に詰まるダ・ヴィンチを横目に見やり、ロマニは深々と溜め息を吐く。

彼の目に宿るのは、戸惑いと躊躇い、羨望と苦悩が混じり合った混沌の色。

 

 

「ヘクトール、ブーディカ、ラーマにシータ、ブリュンヒルデ……他にも『彼等』に対して並々ならぬ恩義を感じている人物は多い。そんな中で『彼等』に対する疑惑を表明し、更に此方への協力を求めたとなれば『彼等』を『信奉』する者たちを敵に回しかねない。万が一そうなれば、カルデアは魔術王の手によってではなく、内部抗争によって瓦解する事になる」

 

「……其処までかい?」

 

「サーヴァントだけじゃないよ。彼等の幸福を当人たちと同じか、それ以上に喜んでいる2人の『マスター』も黙ってはいないだろうね」

 

 

それに、とロマニは続ける。

何処か自嘲の滲む、力無い声。

 

 

「恩を感じているのは、僕らだって同じだろう?」

 

「……!」

 

「逃れ得ない筈の『運命』から僕らの『娘』を救ってくれたのは、他ならぬ『彼等』なんだから」

 

 

再びの沈黙。

今度こそ、どちらも言葉を発しようとはしなかった。

否、口にすべき言葉が見つからなかったと言うべきか。

そんな中、警告音と共に無機質なアナウンスがカルデア内部に響き渡る。

 

 

『警告。KPリアクター、炉心出力上昇。間もなく第1安全限界ラインへ。リアクター管理スタッフは直ちに管制室へ』

 

「……相変わらず不安定な技術だ。出力自体は他の追随を許さない程に優秀だけど……」

 

「おまけに肝心のコア技術については、担当スタッフ以外にはブラックボックスときている。あの分厚い隔壁と外殻の内側で何が起きているのやら」

 

 

言いつつ椅子から腰を上げるダ・ヴィンチ。

ロマニもそれに続く。

 

 

「些か安定性に欠ける点に目を瞑れば、発電量は申し分ないよ。おかげでカルデアの電力事情も随分と余裕ができた。レイシフトの規模も以前とは段違いだ」

 

「それ自体が異常だという点にも目を瞑れば、だろう?」

 

「まあね」

 

「レフによる破壊工作が実行された時点で『彼等』が本当にカルデアに在籍していたスタッフかどうか、確かめる術は最早ない。人員のデータは全て喪失しているし、ラプラスもトリスメギストスもこれらの問題を優先対処すべきものとは認識していない。違和感を覚えているのは私達や元から居た職員のみだ。一部は外部機関や企業から出向していた人員だと解ってはいるけれど……」

 

「冬木の特異点から彼等が戻って以降、明らかに知らない顔が増えている。施設外部からの侵入者という可能性は限りなく低い。なら、他に考えられる可能性は限られる」

 

「特異点、或いは異なる時間軸を有する並行世界からの闖入者か……」

 

 

ロマニはダ・ヴィンチを促し部屋を出る。

向かう先は食堂だ。

今頃はエミヤを始めとする料理好きの英霊達が、惜し気もなくその腕を振るっている事だろう。

特に、嘗て失われた家族との再会叶った者達は、その家族に振る舞う為か料理に掛ける気合いが半端ではない。

結果として多くの者達の舌を喜ばせる事にはなっているが、其処に到るまでの経緯を知っている者としては、料理の充実を素直に喜ぶ事は憚られた。

 

しかし、だからといって食事を抜く事は、少なくとも人間であるロマンにとっては百害あって一利なしだ。

ダ・ヴィンチにしても、本来ならば必要ないとはいえ、食事が齎してくれる多幸感はストレスの軽減に役立つ。

故に2人は、一時も消えぬ疑惑に頭を悩ませながらも、連れ立って朝食を摂りに向かうのだ。

そんな彼等の内心の苦悩を嘲笑うかの様に、新たなアナウンスが流れる。

 

 

『おはようございます。カルデア・サポートシステム【ジェニシス】が6:30をお知らせ致します。本日のレイシフト予定地は1951年イギリス。イングランド、ノース・ヨークシャー州ヨーク。先発調査隊メンバーは8:30までに第2ミーティングルームに集合して下さい。なお、当システムに関する異常を感知した場合、直ちにシステム管理スタッフまでご連絡下さい』

 

 

 

 

 

『より良い未来の為【サイバーダイン・コーポレーション】はグランドオーダーへの更なる貢献を果たして参ります』

 

 

 

 

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