Fate/Grand Order : error/mission   作:変種第二号

3 / 8
error/03 人類没落

 

 

「状況を確認するよ……」

 

 

カルデア居住区で最も大人数が集まれるスペースである食堂には、現在この施設に身を置く全てのサーヴァントと、カルデアの正規スタッフ達が集結していた。

その表情には一様に、負の陰が色濃く滲み出ている。

特に、最後にマスター達と共にあったサーヴァント達に至っては、今にも自ら命を絶たんばかりの憔悴振りが見て取れた。

そんな彼等を前にして、ロマニは必死に冷静を装いつつ続ける。

 

 

「皆も知っての通り、最後のレイシフトが行われたのは2日前。特異点は西暦1951年のイギリス、ノース・ヨークシャー州。先発隊はヨーク郊外にレイシフト、其処に拠点となるキャンプを構築して調査を開始した」

 

「そんな近代にソロモンが?」

 

「いや……」

 

 

エミヤからの問いに、ロマニは苦虫を噛み潰したかの様な表情で言い淀む。

訝し気な視線が集まる中、彼は続けた。

 

 

「……そもそも今回の特異点は、人理焼却とは全く別の案件としてカルデアス上に発生したものなんだ」

 

「どういうこと?」

 

「5日前、僅か2秒にも満たない時間だけれど、シバによるカルデアス観測が中断したんだ。すぐに復旧したけれど、観測が再開された時には、複数の特異点が発生していた」

 

「同時多発的に発生したというの?」

 

「そうだよ。これまでにない現象だし、どういった経緯で発生したのか、それ以前にそのメカニズムすら不明だ。ただ、今までの特異点とは明確に異なっている点がある。これらの特異点は、其処から分岐してゆく人類史を『個別に』観測可能で、其々が異なる歴史を歩み始めるんだ」

 

 

どよめきが起こる中、ロマニはホログラムスクリーンを展開する。

表示されたカルデアスの3Dモデル、回転するその映像上に現れた幾つもの赤い光点。

世界各地に点在するそれらの内、グレートブリテン島の中程に『York』との地名と共に表示された光点が点滅していた。

 

 

「全ての特異点が人類史にとって危険だと判断された訳じゃない。正直なところ、トリスメギストスも判断に困っているみたいだ。だけど、人類にとって極めて危険な改変が齎されそうなものだけをピックアップしても、これだけの特異点が同時に発生しているんだ」

 

「じゃあ、今回のレイシフトも……?」

 

 

瞬間、ロマニの表情が歪んだ。

抑え切れない悔恨と、此処ではない何処か、或いは自分自身へと向けられた怒り。

一段と低い声で、彼は続ける。

 

 

「……僕達は、脅威の程を見誤った。ヨークの郊外にレイシフトした後、近代という事もあって魔術的・科学的なカムフラージュを施した拠点を設けた上で、周辺の状況を探ろうと考えたんだ。でもヨークは……恐らくは激しい戦火によって破壊され、人影が絶えた廃墟でしかなかった」

 

「其処で何があったというのだ?」

 

 

ロマニは無言で、手元の端末を操作する。

次々に出現するスクリーン、其処に表示される映像。

爆撃でも受けたかの様に崩れ落ち、廃墟となった市街地を往く先発隊、そのアーマーに搭載されたカメラによる映像だろう。

市街に人の気配はまるで無く、至る所に存在する爆発の後と無数の弾痕だけが、嘗て在った戦いの激しさを物語っていた。

だが、それらの映像の内の幾つかに、何かしらの影が映り込んだ瞬間、食堂の所々から戸惑いの声が上がる。

 

 

「待て、今の残骸は?」

 

「冗談だろ……」

 

「ドクター……確認だが、もう一度レイシフト先の西暦を言って貰えないか?」

 

「……1951年だよ」

 

 

多くのサーヴァントは、その問いが何を意味しているのかを理解できていない。

だが、アーチャー及びアサシンのエミヤ達、そしてテスラやエジソン、バベッジといった技術系に造詣が深い面々は、自身達が眼にしている物の異様さに唖然としていた。

それは彼等のみならず、カルデアの正規職員、及び同席していた増設区の人員も同様だ。

信じ難いという表情で映像を見遣る彼等、その中で最も身近に居たアーチャーのエミヤへと、痺れを切らしたモードレッドが問い掛ける。

 

 

「なあ、何だってんだよ? 何か変なモンでも映ってたのか?」

 

「……ああ、年代的に有り得ない物がな」

 

 

そう言うと、エミヤはスクリーンの1つを指差した。

其処には、煙を噴き上げる黒々とした残骸へと歩み寄り、何事か慌てた様子で周囲を見回す映像が映し出されている。

 

 

「あの残骸がどうかしたか?」

 

「あれは航空機の残骸だ。事故か、或いは撃墜されたのかは解らんが……」

 

「航空機って、現代の人間が空を飛ぶ為の機械でしょ。別に60年ちょっと前なら、もう飛んでたっておかしくないんじゃないの?」

 

「唯の航空機ならば、そうだ。だがあれは……」

 

「『ティルトローター』だ。推力を生むローターを機体に対し水平から垂直にまで自在に傾け、垂直離着陸能力と高水準の巡航速度を両立した、従来型航空機とヘリコプターの良いとこ取りの機体」

 

 

言葉を引き継いだのは、アサシンのエミヤだ。

彼は常から鋭い眼光をより一層に剣呑なものへと変え、映像の中の残骸を睨み据えていた。

 

 

「この残骸から見ると、ローター周りの形状はベルの実験機に……いや、米軍のオスプレイに近い。史上初の実戦配備されたティルトローターに、だ」

 

「それは何時の事です?」

 

「初飛行は88……いや、89年。運用開始は2005年だった筈だ」

 

「ついでに言えば、ティルトローターの機体構造があの残骸のレベルにまで洗練されたのは70年代も後半に至ってからだ」

 

 

ジャンヌの問いにアサシンが答え、更にアーチャーのエミヤが捕捉すると、食堂は沈黙に包まれた。

更に表示された映像には、また別のティルトローターの残骸が映し出されており、先程のものとは微妙に異なるデザインである事が見て取れる。

残骸は1つや2つではなく、恐らくは2種類の機体が十数機、何らかの攻撃を受けたらしき痕跡と共に墜落していた。

コックピットに残された、辛うじて原形を留めた死体。

それらを調査していた隊員の報告が、音声記録として食堂に響き渡る。

 

 

『こっちは英国陸軍だ……向こうは合衆国海軍……ステイツからの援軍か?』

 

『このカービンに付いてる奴……M203? まだ51年だろ!?』

 

「つまり、技術が進み過ぎてるって事? 本来の1951年では在り得ない程に?」

 

「そうだよ。おまけにこの機体、80年代相当の航法支援COMや、HUDとそれに連動した機首機関砲の射撃管制システムまで搭載していたんだ」

 

「無茶苦茶じゃないか……」

 

 

エレナとロマニの遣り取りを聞き、お手上げといった様に天井を見上げ、或いは額を手で押さえる2人のエミヤ。

しかしロマニは、彼等の思考に休む暇を与えなかった。

 

 

「……この残骸を調査し、市街地の更に奥へ向かった時だ。調査隊は突如、未確認の武装勢力から攻撃を受けた」

 

「どんな?」

 

「物陰からの一斉射撃だよ。当然、調査隊の面々も即座に遮蔽物に隠れて、反撃を開始した。同行したマスターも、サーヴァント達もだ。でも……」

 

 

一旦、全てのスクリーンが閉じ、再度大型のスクリーンが展開される。

其処に映し出された光景に、一同は一瞬ながら我を忘れて呆けた。

 

 

「相手は、普通じゃなかった」

 

 

ロマニの言葉にも、返される声は無い。

誰もがスクリーンに、其処に映し出される光景を前に呆然としていた。

 

 

「こんなものが居るだなんて、想像もしなかった。先発隊の面々も同じだろう。見ての通り、攻撃の激しさは尋常じゃなかった」

 

 

画面を埋め尽くす光弾、光弾、そして光弾。

明らかに銃弾とも魔力弾とも異なるそれらが、濃密な弾幕となって先発隊へと襲い掛かっていた。

廃墟の壁を、車両の残骸を、荒れ果てた石畳を。

全てを削り、穿ちながら、弾幕は更に密度を増す。

先発隊の面々は墜落したティルトローターの残骸に身を隠し、時折身を乗り出しては果敢に反撃していた。

共に身を隠している者達の中には2人のマスターの姿もあり、その周囲では同行していたサーヴァント達が何事か言葉を交わしている。

そして数秒後、サーヴァント達は弾幕の密度が薄れた瞬間を狙い、マスターの護衛としてマシュとブーディカを残し、残骸の陰より飛び出していった。

襲撃者を叩こうというのだろう。

 

 

「当然サーヴァントの皆も、実験小隊も即座に反撃に移った。けれど……」

 

 

ロマニの言葉も終わらぬ内、飛び出していった筈のサーヴァントの内2人が、再び残骸の陰へと飛び込んでくる。

アルトリア、そしてアルトリア・リリィ。

何故か引き返してきた彼女達の顔は苦悶に歪み、其々が腹部と肩を押さえていた。

その手の下から上がる白い煙、徐々に装束へと拡がりゆく赤い染み。

セカンドマスターである立香が、慌てた様に彼女達へと身を寄せる。

ファーストマスターである立夏とマシュ、ブーディカも何が起こったか理解できていない様だ。

それは、映像を目にしている食堂の面々も同様だった。

 

 

「喰らったのか? いや、それにしてもあの負傷は……?」

 

「何発貰った……1発? 馬鹿な、それだけで……!」

 

 

映像の中、吐血し頽れるアルトリア。

慌ててその身体を支えた立香に、ほんの1発貰っただけだと告げるが、それにしては傷が深すぎる。

彼女ほどの対魔力を持つサーヴァントが、僅か1発の被弾でこれ程の負傷を受けるとは、俄には信じ難かった。

此処で映像を一時停止し、ロマニが続ける。

 

 

「矢避けの加護は何ら意味を為さなかったそうだよ。因みにあの光弾は……どうも、超高熱のイオンバースト弾らしい」

 

「イオン……なに?」

 

「イオンバースト。プラズマと言った方が解り易いかな。これを力場で凝縮し、銃弾として撃ち出しているんだ」

 

「……完全にオーバーテクノロジーではないか!?」

 

「これだけじゃないよ、問題は此処からだ……各自、目を離さずに見てくれ」

 

 

ロマニからの念押しに、多くの者が首を傾げる。

しかし直後、再び動き出した映像を前に、否が応にもその意味を理解せざるを得なかった。

 

 

『マシュ、リリィを! ブーディカは2人を……危ない!』

 

『先輩!?』

 

 

一瞬の事だった。

残骸の隙間を縫う様にして投げ込まれた、球状の何か。

握り拳よりも二回りほど大きなそれが、マシュの足元へと落下したのだ。

よりにもよって彼女の身体と、彼女が持つ『盾』の間に。

その球体が何であるのか、その場で真っ先に理解したのは、カメラを装着している隊員。

そして、彼よりも遥かに近い位置、マシュ達の傍に居た立夏であった。

 

カメラの装着主が、銃を放り出して駆ける。

だが、間に合わない。

立夏が咄嗟にマシュと、彼女の側に居たリリィを突き飛ばす。

直後、球体は弾かれた様に地面から跳び上がり、立夏の眼前で表面に無数の『杭』を生やし―――爆発した。

 

 

「なッ……!?」

 

 

腕で頭を庇ったのだろう、カメラの視界が塞がれる。

次にその闇が晴れた時、撮影者である隊員の腕には、親指ほどもある太い金属製の杭が深々と突き刺さっていた。

視界が下がり映し出された腹部からも、杭の底部が突き出している。

苦痛に呻く隊員。

そして、再び視界が上げられた時、其処に映し出された光景は衝撃的なものだった。

 

突き飛ばされ地面に倒れ込んだまま、呆然とそれを見上げるマシュとリリィ。

少し離れた場所では、我に返ったアルトリアとブーディカ、立香がそれを目掛けて駆け出している。

遅れて上がる、彼女達の絶叫。

彼女達の視線の先、其処に現出したあまりにも残酷な光景。

 

 

「そんな……」

 

 

左腕と左膝下を引き千切られ、右脇腹を抉り飛ばされ。

更に、胴に打ち込まれた数本もの金属杭によってティルトローターの残骸へと磔にされた、藤丸立夏の姿。

その左頬は杭によって大きく抉られ、顎は骨格の一部が露出していた。

彼の瞳は酷く虚ろで、零れ出す血は止まる様子が無い。

誰の目にも、致命傷である事は明らかだ。

だが無情にも、彼の身に降りかかる災厄は、それだけに止まらなかった。

 

彼が縫い付けられた、ティルトローター機体胴部の残骸側面。

その反対側に当たる機内の壁に、奇妙な発光点が生じたのだ。

磔にされたままの立夏には、マシュとリリィが縋り付いている。

光点は見る間に大きくなり、やがて白く輝く発行体となって壁面を貫通した。

だが不自然な事に、貫通した筈の機体側面には穴が開いていない。

機体を貫通した光弾は直進して機内の金属製ラック、恐らくは歩兵用の装備を掛けておく為のそれに着弾すると、着弾点ごと発光し始める。

此処で光弾の特性に、幾人かが気付いた。

構造物を貫通する、何らかのエネルギー弾。

その弾道上には、磔にされ動く事の出来ない立夏と、彼に縋り付くマシュとリリィ。

 

 

『離れろ!』

 

 

咄嗟に叫ぶ隊員。

だが、彼女達は突然の叫びに、此方へと振り返ってしまった。

意味を理解していたところで、彼女達が立夏の傍を離れたとは思えないが、しかし致命的な隙を生む一瞬であった事は否めない。

 

果たして、ラックを貫通した光弾は立夏が張り付けとなっている機体側面、その裏側に着弾。

その瞬間に、彼は自らを待つ運命を悟ったのだろう。

そして、彼に縋り付いて叫ぶマシュとリリィの身体が、確実に巻き添えとなる位置に在る事も。

直後、立夏に残された右腕、その手の甲が赤い光を発し、彼女達は弾かれた様に彼の身体から距離を置く。

それが2人の意志に基づく行動でない事は彼女達が上げる悲痛な叫びからも明らかだ。

そして―――

 

 

「そんな……!」

 

 

光弾が、背面から立夏の身体を貫いた。

 

 

「マスター……ッ!」

 

 

食堂の其処彼処から零れる何かを堪える様な呻き、抑え切れなかった悲鳴。

そして、それら全てを呑み込まんばかりの、マシュとリリィ、ブーディカと立香の絶叫。

立夏の身体が大きく跳ね、しかし彼を残骸へと縫い止める杭に阻まれ、遂には脱力する。

弾き飛ばされた体勢から再度、立夏へと駆け寄ろうとする2人、堪らず彼の元へと向かおうとしたブーディカと立香の眼と鼻の先で。

 

 

「いや……!」

 

 

さらに残骸を貫通してきた4・5発の光弾が、立夏の全身を貫いた。

 

 

「こんな……こんなのって……!」

 

「……クソッ!」

 

「……これが、立夏くんの身に起こった事だよ」

 

 

幾人もの絶叫と、銃声と跳弾音。

サーヴァント達と隊員達の声に混じり響く、如何なる獣とも付かぬ異様な無数の唸り声。

激しい動きと共に乱れる映像をスクリーンごと閉じ、ロマニは硬い表情で言葉を紡ぎ出す。

 

 

「立夏くんの容態だけど……左腕の上腕部中程から先、左脚の膝下から先を失っている。腹部右側面の傷は、周辺の筋肉や大腸の25%と共に抉り飛ばされている。突き刺さった杭は右上腕部、右胸、左肩、左大腿部、右下肢に各1箇所、右大腿部2箇所、腹部3箇所。何れも除去には至っていない。そして……全身に重度の火傷を負った事に伴い、細胞の壊死が広がりつつある。ただ、これは通常の熱による火傷だけが原因じゃない」

 

「どういう事?」

 

「あの光弾、あれは……あれもまた、未知のエネルギー制御技術によって力場に固定された、強力なパルス放射線で形成された銃弾だったんだ」

 

「放射線……? 放射能を射出しているのではないのか?」

 

「違う。放射能ではなく、放射線そのものを力場で凝縮し、それを射出しているんだ。解析では、力場の形成と維持にはナノマシンが用いられている可能性が高い、という事だけれど……」

 

「それが物体を貫通する理由なの?」

 

「ああ。力場は無機物を通過する際に、周囲の構造物からエネルギーを奪っている。力場が消失するまでは、弾は何かを貫通する度に放射線の威力を増していくらしい」

 

「じゃあ、マスターは……」

 

「……弾は3回、残骸を貫通した。その分、放射線の強度は高まっていた筈だ。彼は、それに全身を焼かれた」

 

「なら、彼は……」

 

 

項垂れるロマニ。

その意味が解る者は絶望し、解らぬ者も不吉な予感を感じ取っていた。

そして、無情な宣告が響き渡る。

 

 

「先日のアナウンス通り、重度の放射線被曝を受けている。手は尽くしているけれど、肉体の壊死は止まる様子がない。表皮は熱により全身にⅢ度の熱傷を受けている。不幸中の幸い……とも言えない程度の事だけれど、火傷の御陰で杭による出血は強制的に止められた。ただ、杭と傷口が癒着してしまっていて、彼の現状を鑑みるに外科的な方法での除去は不可能だ」

 

「被曝の度合いは……どの程度なのだ!?」

 

「……40Sv以上だ」

 

 

その答えに、思わず立ち上がり問い掛けたテスラが、椅子へと力なく腰を落とした。

次いでエジソンが、此方も常の覇気が全く感じられぬ声で問う。

 

 

「魔術……宝具による治療は、試したのだろうな」

 

「勿論。でも……表皮の火傷を少しばかり癒すのが限界だったんだ。DNAの欠損までは、神代の大魔術でもどうしようもなかった」

 

「ねえ……つまり、どういう事なの? マスターはどうなるの?」

 

 

専門用語ばかりが飛び交う遣り取りに、先ず痺れを切らしたのはアストルフォだった。

だが、その問い掛ける声は微かに震えていた。

他のサーヴァントの多くも、同じ疑問と予感を覚えているのだろう。

皆、一様に固唾を呑んで回答を待っていた。

そんな一同を見回すと、ロマニは唇を血が滲む程に噛み締め、此方も震える声で答えを返す。

 

 

「彼は……立夏くんは……2日も保てば良い方だ。今、この瞬間に死んでもおかしくはない」

 

 

複数の耳障りな音。

椅子を蹴倒して立ち上がった幾人かが、血走った目でロマニを睨み据えていた。

立ち上がらずとも彼を睨む者、呆けた様に微動だにしない者、項垂れて微かに身を震わせる者。

食堂には、負の感情が渦巻き始めていた。

だが、ロマニは止まらない。

此処で止める訳にはいかなかった。

 

 

「皆、話はまだ終わっていない……立夏くんについては、一先ずは此処までだ。次は立香ちゃんの容態について説明するよ」

 

「彼女も……彼女も、被曝を?」

 

「違う。先ずは、これを見て欲しい」

 

 

再び展開されるスクリーン。

カメラの前には、切断された機体の一部に磔となったままの立夏、であろう白煙を上げる人型の肉塊と、それに縋り付いて泣き叫ぶマシュの姿。

少し離れた位置では同じく取り乱すリリィを、アルトリアとブーディカ、更にベディヴィエールがどうにか落ち着かせようとしているらしい。

ビリー、ロビン、トリスタン、アタランテの4人のアーチャーが周囲を警戒し、離れた場所ではクー・フーリンとランスロット、ラーマの3人が制圧した敵の展開地点らしき場所を実験小隊の隊員と共に調査していた。

画面には映ってはいないが、この場にはランサーのアルトリアやヘクトール、フィンとディルムッドも居た筈だ。

他のクラスとしてはメドゥーサに牛若丸、玉藻にジル・ド・レェ、サンソンと荊軻にジャックなど、かなりの数のサーヴァントが同行していた。

先程の奇襲では各員が分散していた為、弾幕によって分断されたまま合流が叶わなかった様だ。

この大人数によるレイシフトも『増設区』の科学者達による成果の1つであった。

だが今回、その利点は何ら益を齎さなかったらしい。

 

 

「サーヴァントと実験小隊による反撃により、敵は約25分後に沈黙。此方の被害は立夏くんが意識不明の重態、サーヴァント6名と実験小隊5名が骨折、銃創を負う等の重傷。他、軽傷多数。立夏くんとマシュは、この後すぐにカルデアに帰還、医療班が受け入れた……問題は此処からだ」

 

 

スクリーン中の映像、その場面が少しばかり飛ぶ。

ティルトローターの残骸の前、集められた金属塊。

黒々としたそれらは、実験小隊の面々が手にしているものとは明らかに異なる、見た事も無い銃器だった。

恐らくは、敵が使用していたものだろう。

それらを手にした隊員やビリーが、何らかの意見を交わしている。

立香は未だ立ち直れないリリィをブーディカと共に慰めているらしく、他のサーヴァント達は軽傷の者は周囲の警戒、重傷の者は一所に集まり回復を待っているらしい。

 

 

『畜生……7月だってのにやけに寒いな……敵の死体は?』

 

『あれで全部だ。お前、もう見たか? あの化け物ども―――』

 

『北西、高速飛翔物接近!』

 

 

対空警戒を促す声と同時に、カメラの装着主は手にした銃を空へと向ける。

夕刻の空、淡い光と薄闇の境に浮かび上がる様に、計6つの黒点が在った。

徐々に大きさを増しゆくそれらは、明らかに此方へと接近してきている。

その形状は、明らかに。

 

 

『……ミサイル!?』

 

『迎撃しろ!』

 

 

分隊長からの指示が飛ぶや否や、無数の銃弾が宙へと放たれる。

幾重にも轟く銃声、ロケットモーターの噴射音。

弾幕の中、携行型発射器より放たれた白煙を引く地対空ミサイルと、アーチャー達が放った矢と宝具が、接近してくる飛翔物へと着弾する。

そして、爆発。

飛翔物は空中にて完全に破壊された、かに思われた。

しかし。

 

 

『……敵ミサイル4基、健在! 来るぞ!』

 

 

有ろう事か、宝具と地対空ミサイルの直撃を受けてなお、敵の大型ミサイルは6基中4基が辛うじて原形を留めており、ミサイルとしての機能を喪失せずに急速接近中であった。

爆炎を突き抜けて迫り来るそれを、再度撃ち落とさんと構えるアーチャー達の姿が見えるが、最早どうあっても間に合わない事は明白だ。

しかし、着弾地点がある程度離れている事を見抜いたか、ヘクトールの声が飛ぶ。

 

 

『残骸だ! 身を隠せ!』

 

 

直後、いずれも100mほど離れた地点に、計4基の大型ミサイルが着弾。

凄まじい衝撃に映像が激しく揺れ動き、地面と空とを交互に映し出す。

どうやら、耐え切れずに転倒したらしい。

撮影者が漸く身を起こすと、其処彼処で同じ様に立ち上がろうとしている隊員やサーヴァントが映り込む。

そして、数棟の崩壊した家屋の先には、地面に突き立てられた異形の『槍』の姿が在った。

 

 

「爆発しない……?」

 

 

訝しむ誰かの声の通り、その『槍』の正体は飛来した大型ミサイルだった。

その全長は15m程も在るだろうか。

機械部品が剥き出しとなり、三重のギアの様なリングが未だに回転している。

剥き出しの金属部品やロケットエンジンが付いている事から機械である事は明らかなのだが、無機物か有機物か判別が困難な昆虫の羽根にも似た耐熱シールド、血管にも見えるケーブル類などの存在が、このミサイルが人類の手による創造物でない事を雄弁に物語っていた。

 

 

『大丈夫ですか!?』

 

『こっちは問題ない、それより負傷者を!』

 

『不発か? それともガス……おい、何だアレは?』

 

 

次なる脅威は、既に目に見える形で迫っていた。

廃墟の向こう、ミサイルの着弾点付近に淀む黒い靄。

サーヴァント達もそれに気付いたのか、各々の得物を構えて迎撃態勢を取る。

 

 

『来るぞ!』

 

『撃て、撃ちまくれ!』

 

『マスター、私の後ろに!』

 

 

しかし、直後に襲い掛かってきた黒い津波は、英雄たる彼等であっても防ぎ切れるものではなかった。

炸裂する閃光。

アルトリアが放ったエクスカリバーの光だ。

次いで各々の宝具が炸裂するものの、全方位より襲い来る黒い壁の全てを滅し尽くすには至らない。

宝具の光を、矢を、銃弾を、斬撃を。

全てを呑み込み、黒が押し寄せる。

それは一瞬にして、サーヴァントと唯人の区別なく、その場に存在する誰も彼をも呑み込んだ。

 

 

『ガアッ……げ、グゲェッ……ガ……!』

 

『いや、嫌っ……ひ、キャアアァッ……ギ、ゲフッ、ぐッ……!?』

 

『マスター、立香!? 駄目、駄目駄目駄目ッ! 立香ぁっ……ゲ、ホッ……あが、ぎァ……!』

 

『畜生、畜生! 何だコイツ等、何なんだ畜生、畜生ッ! ご、がぁ……ゲ……!』

 

 

それは『蟲』だった。

無数の甲虫らしき『蟲』が、黒い津波となって先発隊の面々を呑み込んだのだ。

迫り来る『蟲』を撃ち、切り裂き、吹き飛ばす面々だったが、無尽蔵とも思える数による圧殺には抗う術が無かった。

隊員は銃を放り出し、身体に纏わり付く『蟲』を必死に叩き落としていたが、やがて断続的な呻き声を発すると地面へと倒れる。

倒れ伏した彼のカメラに映り込むのは、此方を向いたまま同じく地面へと倒れた立香の姿と、彼女に縋り付く様にして『蟲』どもを必死に払い除け続けるブーディカとリリィ、ベディヴィエールの姿。

そして―――

 

 

「いや……そんな……」

 

「立香……!」

 

 

そんな彼等の努力を嘲笑うかの様に、立香の口腔へと潜り込む幾匹もの『蟲』だった。

 

 

「もう良い、消せッ!」

 

 

叫びにも似た声で促したのは、ダビデだった。

ロマニは映像を止め、スクリーンを消す。

食堂に下りる沈黙。

口元を押さえ蹲る者、激情を堪えるかの様に微かに震える者、訳が解らないとばかりに呆然とする者。

その全てを見回し、ロマニは報告を再開した。

 

 

「この後、無事だったサーヴァント達の手で、先発隊の面々はカルデアへと帰還した。ただ……サーヴァントを除き、現時点まで意識を取り戻した者は1人も居ない」

 

「あの『蟲』が原因か?」

 

「恐らくね。彼等は未知の『ウィルス』に感染している」

 

「ウィルス?」

 

「ああ。あの『蟲』はウィルスのキャリアーだったんだろう。口腔から侵入し、食道を喰い破って体内各所に入り、其処でウィルスを撒き散らすんだ」

 

「じゃあマスターも、それに……」

 

「立香ちゃんも、C(チャーリー)分隊の隊員も全員だ。ただ、サーヴァントは感染対象とは成り得なかったみたいでね。口から食道、体内まで侵入はされたけど、ウィルスへの感染は認められなかった」

 

「ウィルスの特性は? マスターはどうなった!?」

 

 

額を押さえ、軽く息を吐くロマニ。

もう一方の手は固く握られ、微かに震えている。

 

 

「……生きてるよ。だけど相変わらず、意識は戻る様子がない。おまけにこのウィルスは、彼女達の遺伝子構造を変質させているんだ」

 

「変質って……アイツは、立香はどうなるんだよ!?」

 

 

叫ぶモードレッド。

他の者も、同じ疑問を抱いているのだろう。

固唾を呑んで、ロマニの言葉を待っている事が窺える。

そんな彼等を前に、ロマニは腐心して自らの感情を殺し、なるべく平静を装い答えた。

 

 

「彼女は……彼等は『人間ではない何か』に変化させられつつある。外見に変化は見られないが、遺伝子レベルでは全く別の何かに」

 

「何かって何だよ!」

 

 

端末を操作し、幾つかのスクリーンを展開するロマニ。

其処に表示された物を見るや、幾つもの呻きにも似た声が上がる。

 

 

「これは……?」

 

「何と醜い……」

 

「人じゃない……幻想種? いえ、でもこんな生物は見た事が……」

 

 

蛇の様に上下へと大きく裂けた唇も頬も無い口、其処に並ぶ長く巨大な牙。

瞳孔も何も無く黄金色に輝く左右3対、計6個もの目らしき器官と、その間に並ぶ鼻孔らしき小さな2つの穴。

死人の様な灰色の肌には、装甲らしき金属構造物が直接ボルトで打ち込まれている。

更に、胸部や腹部からは金属と樹脂によって構成されているらしきホースやケーブルが肉の下より露出、背面に直接癒着していると思しき謎の機械装置へと接続されていた。

手は人間のものと酷似しているが、しかし指先の鋭さは獣のそれだ。

下半身は材質不明の戦闘服らしき物を纏ってはいるが、剥き出しの足首から先は如何なる獣とも人間とも異なる異形そのもの。

この場の誰もが目にした事の無い、無銘にしてあまりにも悍ましい生物の死体が、其処に在った。

 

 

「……先発隊が回収していた英国陸軍の資料によると、この怪物は『キメラ』と呼称されているらしい。1930年代にロシアでの爆発的な増殖が確認され、欧州各国と極東列強国の軍事力により、長らくロシア国内に隔離されていたみたいだ。49年に周辺各国への侵攻を開始し、瞬く間に封鎖線を突破。僅か数週間でヨーロッパ全土の国家を陥落させ支配圏に置くと、翌50年にはドーバー海峡の下を掘り進みイギリス本土へと上陸。英国軍が壮絶な迎撃戦を展開したみたいだけれど、これも僅か3ヶ月で敗戦したと記されている」

 

「待て、ちょっと待て……ヨーロッパを、数週間で? どうやって?」

 

「数の暴力と圧倒的な科学力、そしてウィルスの力だ。『キメラ』とは1908年、シベリアで起きた『ツングースカの爆発』を機に、ロシア帝国内で猛威を振るい始めた『キメラウィルス』に感染した人間が、変異の果てに辿り着く姿なんだ」

 

「なら……人間なのか、アレは!?」

 

「元人間だ。どういった変態過程があるのかは不明だけれど、キメラは各地に改造センターを建造しているらしい。其処に感染した犠牲者を運搬し、キメラにとって有用な種を『開発・生産』しているそうだよ」

 

「……キメラにとって、人間は『資源』なのね」

 

「『資源』かつ『敵』という事だろうね。彼等は隕石と共に地球へと訪れた、外宇宙からの侵略者だよ」

 

「宇宙戦争か……では、あのティルトローターも?」

 

「キメラの兵器をリバースエンジニアリングして得た技術が使われているんだろうね。人類はキメラの異常な科学力の出処を、ずっと探っていたみたいだ。ただの感染者が、何処からあんなオーバーテクノロジーを持ち出してきたのか、何処でそれらを生産しているのか。調査の結果は……キメラは生産設備を『掘り起こしている』というものだったらしい」

 

「掘り……つまり、元からこの星に在ったという事か!?」

 

「そうだよ。人類に気付かれる事なく、圧倒的なテクノロジーの結晶とそれらの生産設備が、ずっと太古の昔より地中に眠っていたんだ。キメラはそれらを掘り起こし、再稼働させて軍事力を生産している」

 

「……立香は……彼女は、そのキメラになるのか?」

 

「……映像にあった様な調整されたキメラになるには、改造センターでの処理プロセスを経る必要が在るみたいだ。それが無い場合、感染者がどうなるのか……現時点では、全く解らない」

 

 

今度こそ、言葉を発しようとする者は居なかった。

空気さえも止まってしまったかの様な錯覚。

現実を受け入れた者も、未だ受け入れられない者も、どちらにとっても今は時間が必要なのだろう。

だがロマニは、そんな時間さえも残されていない事を知っている。

だからこそ、彼は止まってしまった空気を切り裂くべく、残酷な言葉を紡ぐ。

 

 

「立香ちゃんは生きている。意識が戻らずとも、人でない何かになりかけていようとも、サーヴァントとの契約は断たれていない。すぐに容体が急変する可能性が低い事も、僕達の方で確認済みだ。だから……」

 

「『何時まで保つか知れない立夏と契約しているサーヴァントは、彼が死ぬ前に立香に乗り換えろ』か?」

 

 

ロマニの言葉を遮る様にして割り込んだ声は、アンデルセンのもの。

周囲からの視線が集中する中、彼は手元のタブレットに視線を落したまま、何処か虚ろに続ける。

 

 

「アンデルセン……」

 

「ああ、人理を救う為ならそうすべきだろうさ。先の無いマスターなんぞ見限って、意識すらなくとも生きてはいるマスターと再契約しろと、お前の立場だったなら私だってそう言うだろうさ……だがな」

 

 

タブレットをテーブルに置き、アンデルセンはロマニを見遣る。

その眼は獰猛な感情に満ち、視線は真っ直ぐにロマニを捉えていた。

否、彼だけではない。

同じく爆発しそうな感情を乗せた視線が、食堂の至る所からロマニへと注がれていた。

しかし、それらを遮るかの様に、美しい声が響く。

 

 

「提案したのはロマニじゃない、私だよ」

 

「……ダ・ヴィンチ」

 

 

徐に立ち上がったのは、ロマニに並ぶカルデアの司令塔、レオナルド・ダ・ヴィンチだった。

再契約について提案したのは自分だと名乗り出るが、向けられる声は変わらず冷え切っている。

 

 

「……それで? マスターが死に掛けているから、今の内に乗り換えろと……その提案に首を縦に振る者が、此処に居るとでも?」

 

「このままでは、最後の聖杯を前にしてカルデアの戦力は半減する。そんな事態を座して待つ訳にはいかない」

 

「なら、その天才的頭脳とやらを活かして、一刻も早くマスターを救うべきではないのか。彼はまだ生きている。心の臓腑が止まってもいない内から、奴が死んだ後の事を考えろというのか」

 

「たとえそうなったとして、私は立夏のサーヴァントです。立香もまた大切な友人ですが、だからと言ってマスターの鞍替えをするつもりはありません」

 

「同感だな」

 

「あの子の命尽きるならば、私は座に帰るだけよ」

 

 

アンデルセンとオジマンディアスの言葉に続き、次々に上がる賛同の声。

いずれも立夏と契約しているサーヴァントのものだ。

無論、彼等とて人理修復の重要性や、現状ではロマニとダ・ヴィンチの提案が最善である事については理解している。

だが、だからといって納得できるかと問われれば、それは別問題だ。

彼等の多くは、マスターである立夏との間に育まれた深い絆によって結ばれ、立夏と共に戦いたいとの思いで特異点へと赴いてきた。

その立夏が死に掛けている今、カルデアに留まる為に他のマスターと再契約すべきと促されたところで、首を縦に振る筈もない。

寧ろ、マスターが死したならば座に戻るのが道理であると考える者も多い。

 

無論、彼等とて進んで座に戻りたいという訳ではない。

新たなる生を約束され、嘗て望んだ肉体を手に入れ、或いは失われた筈の家族を取り戻し、また或いは永劫に亘り自らを縛る筈であった呪いの軛より解き放たれた。

俄には信じ難い話ではあるが、座に戻ったところでこれらの恩恵が消える事はない。

その変化については彼等自身が、座から齎される情報により事実であると確認している。

望外の報酬を既に得て、なおかつこのカルデアにて新たに結んだ絆、英霊同士やマスター、職員達とのそれも在るのだ。

全てを終えた後、現世にて彼等と共に歩む未来を夢見る者は多い。

しかしそんな彼等であっても、その夢の中心に位置する立夏が生死の瀬戸際を彷徨っている中、マスターの鞍替えを行うつもりなど毛頭なかった。

そもそも立夏が死んでしまえば、後には不完全にして不格好な夢の残骸しか在りはしないのだから。

 

 

「立夏の命ある間は死力を尽くそう。しかし彼が逝ったならば、我々は座に戻るのみ」

 

「そうね……それが道理よね……」

 

「だが……!」

 

『ドクター!』

 

 

堂々巡りの議論。

今にも始まろうとしたそれを遮ったのは、突如として響き始めた警報と、召喚システム・オペレーターからの呼び掛けだった。

 

 

『召還システムが……フェイトが異常動作を!』

 

 

■   ■   ■

 

 

彼等が其処へと辿り着いた時、既に召還は完了していた。

新たなサーヴァントが喚ばれたのだ。

しかし、駆け付けた彼等が目にしたのは、予想だにしなかった光景であった。

 

 

「これは……」

 

「死んでいる、のか?」

 

 

召喚サークルの中央、其処に横たわっていたのは、血塗れの人間。

俯せとなっている為に顔は確認できないが、褐色のジャケットにジーンズという出で立ちの、恐らくは成人男性だろう。

エミヤが銃を構えつつ近付き、その身体を仰向けにする。

 

 

「……酷いな」

 

「銃創か?」

 

「ああ。30発近く喰らってるな……恐らく即死だろう。貫通痕を見るに、至近距離から5.56mmの一斉射撃を受けたらしい」

 

「死後……少なく見ても3日以上経っているみたいだね……って、これやっぱりサーヴァントじゃないぞ!? 本物の死体だ!」

 

「何で人間の死体が!?」

 

「この指は……?」

 

 

死体の右手を取り、観察するデオン。

その人差指は付け根の程近くから断たれ、収縮した筋肉の内から骨が露出していた。

見れば、左手の薬指もまた同様に断たれている。

 

 

「さあな、さっぱりだ。IDが在ったぞ……『マイルズ・アップシャー』……フリーのジャーナリストか」

 

 

ジャケットの内ポケットより見付かったIDカードには『Miles Upshur』との名前。

更に死体の傍には、破損したハンディカムが放り出されていた。

ダ・ヴィンチがそれを拾い上げ、ディスプレイを覗き込む。

 

 

「……駄目だ、完全に壊れてる。データを吸い出して解析してみよう。管制室、本当にサーヴァントが召喚されたのかい? 此処には死体しかないんだが」

 

『間違いありません、召喚されたのはサーヴァントです』

 

「ジェニシス、観測結果は?」

 

『サーヴァントの召喚を確認。契約対象1stマスター、藤丸立夏』

 

「立夏!?」

 

 

誰もが弾かれた様に、部屋の出入り口へと目を向ける。

在り得る筈がないと理解はしていても、それを望んでしまったのだ。

立夏の意識が戻ったのか、と。

果たして、其処に立夏の姿は無かった。

動ける筈もないのだから、当然の事ではある。

それでも落胆の色を隠せない一同の胸中は、続くジェニシスのアナウンスによって凍り付いた。

 

 

『サーヴァント、現在位置を探知。フェイト管制区、召喚サークル中央』

 

 

背筋を襲う悪寒。

召喚サークルの方向から響く、何かが擦れ合う様な音。

咄嗟に振り返った一同の目の前で、ソレは徐々に姿を現しつつあった。

 

 

「……今度は何だってんだ」

 

 

渦を巻き荒れ狂う黒。

その渦の中心に、人型の靄の塊が浮かび上がる。

人型の黒い靄。

それ以外に形容しようがないそれは、次の瞬間には霧散して消えた。

室内に響く、焦燥の滲むオペレーターの声。

 

 

『不明サーヴァント、反応消失! ……いえ、施設内を移動しています! 速い!』

 

「何処だ! どこへ向かっている!?」

 

『ダクトの中を移動しています! この方向は……医療区!?』

 

「……くそ! 立夏だ、立夏の所に向かってる!」

 

 

エミヤの叫びに、多くの者がマスターの下に駆け付けんと走り出す。

だが、其処に響いた新たなるアナウンスは、彼等の足を強制的に止めるだけの力を持っていた。

 

 

『2ndマスター藤丸立香、意識の回復を確認』

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。