Fate/Grand Order : error/mission 作:変種第二号
『過去の英雄、偉人たちが蘇るなんて馬鹿馬鹿しい?
確かにそう、普通なら取るに足らない御伽噺だと一笑に付すでしょう。
兄さんも、きっとそう言う筈よ。
此処が
私たち兄弟が此処に存在しなければ、ね』
「先ずは、こうして誰1人として欠ける事なく、無事に再会できた事を喜びたい」
襲撃者の撃退と再度の人類史への異常発生から6時間後。
其処彼処に破壊の跡が目立つカルデアの、その幾つかの部屋に分かれて集まった多くの人員が、ディスプレイ越しにダ・ヴィンチの言葉に耳を傾けていた。
しかし彼女の発言に、喝采を上げる者は居ない。
ダ・ヴィンチ自身も分かりきっていた事である為、気に留める事もなく発言を続ける。
「監査官と正体不明の兵力による襲撃は、各員の奮闘により退けられた。心より感謝する―――だが、問題は其処からだ」
食堂にはダ・ヴィンチを始めとして、全てのサーヴァントがマスターと共に集っていた。
再召喚されたばかりの彼等には、何よりも情報が必要だったのだ。
だがそれは、ダ・ヴィンチを始めとするカルデアに残った人員にとっても、同様の事だった。
「今、分裂した各人類史に何が起こっているか……既にジェニシスを通して見ているとは思う。だが、此方で確認できた内容を改めて報告させて貰う」
新たに表示される3つの大型ディスプレイ。
其処に映し出された光景に、多くの者の表情がより一層に険しいものへと変わる。
天空から降り注ぐ砲火の雨によって焼き払われてゆく街々、核爆発によって消し飛ばされる大都市、瀑布と化して押し寄せる蟲の壁に呑まれゆく人々。
其々に異なる3つの地獄、その光景が其処にあった。
食堂の其処彼処から上がる呻き。
「何という事だ……」
「あの蟲……やっぱり、マスター達を襲ったのと同じ……」
「都市が空に……神秘の秘匿はどうなっているの?」
幾重にも交わされるそんな呟きを断ち切る様に、ダ・ヴィンチは新たな画像を其々のディスプレイ上に表示してみせる。
蒼天を埋め尽くす空中都市、高速かつ自在に宙を翔ける巨大な空中戦艦、総数20隻以上もの空中戦艦による大艦隊。
内2つに見受けられるシンボルは、生者であるマスターや職員たちにとっては見知ったものかそれに近いものであり、また近現代に出自を持つサーヴァント達にとっても彼等が良く知るものに似ていた。
遠い過去を生きた世代のサーヴァントであっても、最初の召喚時に座から得られた近代の歴史に関する知識により、それらが何を意味するものかは理解している。
だが、それに対して抱く感情は、各々が生きた時代によって大きく異なるものであった。
「ナチスとは……まさか、こんなものまで目にする事になるとは」
「……星が1つの星条旗なんて見た事ないな。僕の頃だって40個近くはあったぜ」
本来ならば最低でも13の星が連なっている筈のそれに、盾のシンボルの中央に唯1つの白い星のみが鎮座する、アメリカの象徴たる奇妙な星条旗。
2つのディスプレイ上に表示されていたのは、各々に異なる国家のシンボルであった。
「細かい事はまだ何も解っちゃいない。とにかく、確認されたこれらのシンボルと例の全方位通信の内容からしてだ。空に浮かぶ都市とハーケンクロイツを掲げた空中戦艦、この2つの勢力が其々アメリカとナチスに由来する事はほぼ確実だろう。問題は……」
「その都市がどういうカラクリで宙に浮いているのか、70年も前に滅んだ連中がどうして空飛ぶ巨大戦艦なんて非常識な代物を運用しているのか、って事だろ?」
「……それだけじゃないよ」
クーフーリンの発言に、ダ・ヴィンチの表情が苦虫を噛み潰した様に歪む。
この6時間に亘ってジェニシスが収集した情報、それらは呼び覚まされる度に彼女と職員たちの精神を鑢の様に削り取っていた。
「結論から言っておこう。キメラの戦艦らしき代物も、あの空に浮かぶ都市もナチの空中戦艦からも、魔力は……全く観測できていない」
瞬間、ざわめきが消えた。
静まり返る食堂。
やがて、一つ二つと声が上がり始める。
「……本当か?」
「観測機器の故障なんじゃ……」
「周辺の大気は?」
「同じだよ。都市や要塞そのものも、その周囲の大気や直下の地表、上空に至るまで……魔力の痕跡は『一切なし』だ」
「……要領を得んな、ダ・ヴィンチ。何が言いたい?」
核心を突く様に放たれたゴルゴーンの言葉。
ダ・ヴィンチは軽く息を吐き、続ける。
「お手上げって事さ。あのナチの戦艦だって、馬鹿みたいに大きな推力偏向式のジェットエンジンが幾つも付いている事は確認できたけれど、あそこまで巨大な代物を宙に浮かばせられるとは到底思えない。あれだけのデカブツ、数十万……いや、優に100万tは超えているだろう。どう考えても、ジェットエンジンの推力だけで浮かばせられる代物じゃない」
「都市の方は?」
「何がどうなっているやら、全く理解できないよ。申し訳程度に気球や、風車みたいにレトロなプロペラが下部で幾つも回転しているのは確認できた。とはいえ、やっぱりこれらも都市を宙に浮かべられる様な代物じゃない。あんなものが、魔力も無しにどうやって浮かび続けているのか……」
溜息を吐くダ・ヴィンチ。
彼女の言葉を受けて、天草とセミラミスが何やら小声で言葉を交わし始めたが、どうやら彼女の宝具である
確かに、彼女の宝具は変則的な方法で確立させた巨大空中構造物ではあるが、その浮揚には魔力が用いられている。
そもそも魔力なしでは浮かび上がるどころか、構造を維持できずに自壊してしまうだろう。
今回の件については、あまり参考にならない。
続けて、ダ・ヴィンチは3人のサーヴァントの名を呼ぶ。
「テスラ、エジソン、バベッジ。科学の叡智、その極致に最も近いであろう君達に訊きたい。君達の持つ知識で、あれらと同じものを造り上げる事は可能だろうか?」
その3人の名が呼ばれるであろう事は、多くの者が予見していた。
現代科学すらも一部凌駕する程の叡智を有し、英霊となった今なお発明に明け暮れる、ただ科学によって神代最高位の魔術師にも匹敵する賢者へと到った3人の天才。
彼等ならば眼前の『未知』を解明してくれるのではと、英霊たちですら期待していた。
だが、テスラとエジソンは険しい表情で考え込んでおり、バベッジは沈黙したまま同様に思考に沈んでいる。
それはまるで、受け入れがたい事象を前に苦悩しているかの様だった。
やがてテスラが、重々しく口を開く。
「……不可能ではない」
「じゃあ……」
「だが、それはあくまで『聖杯』のバックアップあってこそのものだ。悔しいが、現行の科学のみであれ程のものを浮かべる方法となると、私には想像も付かない」
「認めるのは癪だが、私もこの素っ頓狂に同意だ。というか、どんな理論を以ってしても、現行人類の科学力では何かしら穴が開く。其処を補強する何かが必要だろう」
「同じく。聖杯か、或いは他の神秘か。足りぬ理論を穴埋めする、科学以外の方面からのアプローチが必要だろう」
それは、事実上の敗北宣言だった。
ナチの巨大戦艦、空中都市。
それらがどうやって浮かんでいるにせよ、彼等の知る科学的理論だけでは到底、実現不可能だと。
他ならぬ科学の申し子たる3人が、それを認めたのだ。
その事実は、他の面々に少なからぬ衝撃を与えるものだった。
「……やはり『聖杯』なのではないか? それならば宙に浮く事の説明も付こう」
「じゃあ何で魔力が放出されてないのよ。あれだけの事をしてるんだから、全く検知できないなんてあり得ないでしょ」
『聖杯』ならば、あれらを宙に浮かべる事も不可能ではない。
難しい事でもないだろう。
だが、それならば必ず魔力は検出される筈。
ところが現実には、その痕跡が全く存在しないのだ。
神代の大魔術師から賢者に至るまでが混在するカルデアとはいえ、大本となる神秘の存在を否定されてしまっては推測すら儘ならなかった。
「取り敢えず、あれらがどうやって空に浮かんでいるのかという点については、一先ず此処までにしておこう。それでだ、分離した3つの人類史が、今どうなっているのかという点についてだけれど……これまた、あの戦艦やら都市の存在に集約される。先ずは、これを見てくれ」
ダ・ヴィンチの言葉と共に、新たな映像が表示される。
其処に映し出された光景は、そのいずれもが異様なものだった。
「何、あれ……」
呆然と呟く、ジャンヌ・ダルク・オルタ。
基本的にあらゆる事柄に対し斜に構えた態度を崩さない彼女をして、絶句する程の光景が其処にあった。
雪と氷に閉ざされた花の都パリ、その中心に聳え立つ奇怪な金属の塔。
雲を突き抜け、バベルの塔もかくやとばかりに天空彼方へと延びている頂上の先、その上空には空間中に巨大かつ奇妙な『穴』が空き、その闇の中には無数の星々の光と幾つかの巨大な『惑星』が浮かんでいる。
塔の周囲に悠然と浮かぶ幾つもの巨大な影は、メキシコ湾を初めとして世界各地に集結、各国主要都市へとウィルスキャリアーを射出していたものと同じ、キメラの空中戦艦だ。
炎に包まれ崩れ落ちる高層ビルの残骸、嘗て上海と呼ばれた大都市の末路。
銃弾に引き裂かれ、砲弾に砕かれ、業火に焼かれた、原形すら留めぬ無数の死体が地平までをも埋め尽くす中、恐らくは一次大戦前のものであろう古い装いの兵士たちに銃口を突き付けられ、着陸した何隻もの飛行船へと家畜の様に追い立てられる生存者たち。
地上の其処彼処に建てられた監視塔には星1つの星条旗が掲げられており、その至る箇所に据えられている兵士を模した像は単なる彫像などではなく、古めかしいマキシム機関銃を備えた
何処までも無機質な灰色の建造物、同じ色の汚染された大気に覆われるワシントンD.C.の広場。
其処に在るべき
剥き出しとなった、本来ならばエイブラハム・リンカーンの像が鎮座する筈の台座には、航空機搭載型と思しき巨大な爆弾の碑が据えられ、その隣には『
3つの人類史、各々あまりにも異様な光景。
一同の前に映し出されていたそれは、変わり果てた2017年の世界そのものだった。
あと数時間で2018年となる世界。
次から次へと映し出される世界各国の光景は、しかし何処も彼処も似た様なものだ。
「これは……こんな事って……!」
氷河期を迎え全てが凍り付いた世界に立ち並ぶ金属の建造物、あらゆる生命が死に絶えた大地の上空に浮かぶ異形の戦艦群。
空に浮かぶ都市から放たれる無数の砲火に蹂躙される地上、国籍も人種も性別も問わず家畜同然に扱われる人々。
全世界に余すところ無く翻る
「これは……まさか、そんな……!」
「何の冗談だ……!?」
そして、皆が理解する。
其々の人類史、その光景の意味するところを。
異星よりの侵略者によって人類が滅び去り、地球という惑星そのものを奪われ終焉を迎えた人類史。
空中都市と其処から現れた兵士たちによって、地上に済む人々が例外なく虐げられ搾取され続ける人類史。
ナチスが連合軍ばかりか全世界に勝利し、自ら以外の全てに対し弾圧と
それらいずれもが、本来の人類史を否定する、悪夢の人類史であると。
人理焼却をも超える冒涜、人理改竄の結果であると。
「うそ……これって、氷河期? どうやってこんな!?」
「あれは亜米利加の兵か? 何にせよ胸糞ワリィ光景だな」
「第三帝国……仮にもローマの末裔を自称する者が暴虐の徒とは、何という体たらくか……」
食堂に詰めた英霊たちの間から零れる、幾つもの声。
ある者は異変に驚き、ある者は非道に憤り、ある者は愚行を嘆く。
声は、止まるところを知らない。
「海が白い……まさか、全球凍結を起こしているのか?」
「全球凍結? 地球全体が凍り付くという、あの?」
「だとすると、人間どころかあらゆる生物が死滅している可能性が高いですね……」
極寒の世界と化した地球、人類絶滅という結末に愕然とする者たち。
「あの都市は何なの? 例の放送といい、合衆国に関係があるのは確かでしょうけど」
「しかしエレナ、あの都市は真っ先にワシントンを爆撃していた。民間人も無差別に殺傷している。余程の敵意がなくば、あそこまで無慈悲な虐殺ができるとは思えん」
「カルナ君、君は些か人間を美化しすぎだと思うがね。特に理由が無くとも、人は殺戮の熱狂に酔えるものだ。だが……あの攻撃は些か……」
嘗て自らたちが守らんとした国家、その類縁と思しき都市の蛮行に困惑する者たち。
「欧州戦線は瓦解したの? フランスは……パリはどうなったの!?」
「ドイツに負けたという事は、つまりブリテンも……いや、まさか……そんな馬鹿な事が……」
「あの石碑……アメリカに核を落としたのか、ナチスが!?」
髑髏の軍に敗北したであろう故国を思い、焦燥に駆られる者たち。
「悪夢だ……どれもこれも……」
「……それよりも先ず、おかしな事があるでしょう」
衝撃的な光景に、皆が重要な事柄を見落とし続ける中―――或いは、敢えて触れないのか―――ステンノが、それを指摘する。
「アレらが現れたのは『6時間前』なのよ? 何故、どの人類史も此処まで歪んでしまっているの?」
彼女の言葉通りだった。
人類史の分裂、即ち異常性物体の出現と世界各地への無差別攻撃は、僅か『6時間前』に起こった事だ。
だというのに分裂した其々の人類史は、元の世界など見る影も無く歪められ、全く異なる歴史を歩んだ果ての2017年12月31日と化していた。
これはどういう事か。
「もう少し早く指摘して貰いたかったんだけどね……さっきも言った様に、此処で話はあの戦艦やら都市に戻るんだよ」
一旦、全ての映像が消え去り、其々のディスプレイにキメラとナチスの空中戦艦、異様な星条旗はためく空中都市が表示される。
それらを背に、ダ・ヴィンチは告げる。
「先程、魔力は全く検出されていないと言ったが……あれは、アレらはただ其処に存在しているだけの、そんな単純な代物じゃない。あれは―――」
其処で何故か、彼女はその先を言い淀んだ。
その視線が向かうのは、自らを掃除屋と卑下する2人の男と、救国の聖女とその姉妹たち。
唐突に視線を向けられた彼等、彼女等がその素振りを訝しむのを余所に、何処か気不味げに視線を逸らし。
「―――あれは『守護者』だ」
椅子を蹴倒して立ち上がったのは1人や2人ではなかった。
愕然とする者、憤怒を燃やす者、唯々呆然とする者。
堪らずといった体で咆哮したのは、摩耗した弓兵だった。
「馬鹿なッ!」
あらゆる絶望と拒絶を詰め込んだかの様な、アーチャー・エミヤの絶叫。
彼に隣り合う様にして席に着いていた騎士王が、常に凛とした空気を纏う彼女らしからぬ悲壮な面持ちで彼を見つめ、次いでダ・ヴィンチへと向き直る。
まるで、今しがた放たれた言葉を否定して欲しいと、そう縋るかの様に。
エミヤの家族もまた彼を、そして席に着いたまま呆然とするアサシン・エミヤを痛まし気に見つめていた。
唯1人、同じエミヤの名を持ちながら一家から離れた食堂の壁に寄り掛かる銃使いだけが、特に感慨も無さげにその様子を一瞥し、興味が失せたのか視線を逸らす。
そして、黙っていられなかったのは、聖女も同様だった。
「在り得ませんっ! あれが……あれが『抑止力』の産物だなんて! 絶対に在り得ない筈ですッ!」
「ちょ、ジャンヌ……!」
「落ち着け、バカッ!」
食って掛かるかの如き勢いで立ち上がり叫ぶジャンヌを、アストルフォとモードレッドが抑えている。
本来ならば真っ先に窘めるであろうジャンヌ・オルタは、妹ともいえるオルタ・リリィと共に呆然自失の体だ。
他にも幾人もの英霊たちが、在り得ないと言わんばかりの表情でダ・ヴィンチを見つめていた。
信じ難い、とでも言いたげに声を振り絞ったのは、ラーマだ。
「……あれが『抑止力』の遣わした『守護者』だというのか? 滅びた国家の軍に、存在しない旗を掲げる都市……果ては宇宙からの侵略者だぞ?」
「『抑止力』とやらは良く解らんが、アレがその具現だとしてじゃぞ? それが世界を塗り替えている事と、どう関係があるんじゃ」
「それ以前の問題だよ。あれが『守護者』だというのなら『アラヤ』がそれを良しとした事になるんだよ? 曲がりなりにも人間である方はともかく、あのバジリスクの出来損ないみたいな化け物が『守護者』だなんて、随分と性質の悪い冗談じゃないか。それとも『ガイア』が遣わしたものだとでも?」
則天武后、キルケーが続く。
何処か敵の脅威の度合いを低く見るかの様なキルケーの物言いに、カルデアに於いては古参となる英霊たちの内には顔を顰める者も居た。
彼女達を始めとする第七特異点以降にカルデアに参じた英霊たちは、話こそ耳にしてはいるものの1951年の特異点に於ける出来事、即ちキメラとの交戦については多くを知らない。
或いは詳細な記録に目を通してはいるものの、それほど実感が湧かないという者が多かった。
中には物珍しげにマスター達の身体を観察する者や、立夏に付き纏っては彼の極めて特異なサーヴァント、アヴェンジャー『ワールライダー』について調べようとする者なども居た。
だが今に至るまで、得られた有用な情報はほぼ皆無である。
そんな事から、現世の人類を圧倒的に超越するテクノロジーで武装した異星からの侵略者という存在は、英霊という極めて高位の神秘に属する彼等をして、余りに現実感に乏しいものだった。
だが、当時を知る者たちからすれば、その脅威は筆舌に尽くし難いものだ。
その古参の者たちからしても、キメラが『守護者』であるなどという仮説は、あまりに受け入れ難いものだった。
「『アラヤ』にせよ『ガイア』にせよ、キメラを受け入れるとは思えんな。人類を滅ぼしている時点で『アラヤ』からすれば論外であろうし、地球を氷漬けにして他の生物まで絶滅させているのなら『ガイア』も許容はできんだろう」
「……ナチとあの都市は、許容されるの?」
「『アラヤ』は霊長の『抑止力』だ。あれらが人類という種全体にとっての繁栄と保存を齎すものであると判断されれば、それも在り得ない話ではない……だがな」
マリーの疑問に其処まで答え、スカサハはダ・ヴィンチを睨み据える。
そして、言い放った。
「英雄個人ではなく『兵器』やら『軍』そのものが『守護者』となるなど、到底考えられない。それが近代の存在ならば尚更の事……たとえ、異常な技術によって生み出された代物だったとしてもな」
ダ・ヴィンチの推測を、スカサハは真っ向から否定する。
如何に強力な兵器であれ、無敵の軍隊であれ、飽くまでも英雄としての格を有する『個人』でなくば『抑止力』との契約は成り立たない。
しかも、この瞬間に正規の人類史を改竄しているのは神秘が薄れた近現代の、それも個人の武勇など取るに足らない要素と成り果てた、近代兵装に身を包む個性すら希薄な兵士達。
とても神秘の際たるもの、その一端である『抑止力』と結び付くものではない。
多くの者も、スカサハと同意見なのだろう。
ちらほらと頷く者の姿も見える。
だが、ダ・ヴィンチは美しい双眸を僅かに細め、そんな彼等を鋭く睨むと、決定的な事実を告げた。
「正確には『守護者』の様な『何か』だ。アレらがやっている事は単なる攻撃や虐殺じゃない。あの都市や戦艦は人理に対する『改竄装置』そのものであり―――」
指を鳴らし、ディスプレイを指すダ・ヴィンチ。
皆の視線が、其処に表示される異形へと向いた事を確認し、続ける。
「―――恒久的に展開しつつ、世界そのものを自らの理で塗り潰しながら移動し、恐るべき早さで際限なく拡大し続ける『固有結界』とでも呼ぶべき代物なんだ」
食堂に満ちる沈黙。
やがて、徐々にざわめきが増し行く中、先ずアルジュナが先陣を切った。
「ダ・ヴィンチ女史。貴女は先程、アレらが『守護者』の様なものであると言った筈ですが」
「ああ、言ったさ」
「しかし貴女は今、アレらを『固有結界』だと言った。これはどういう事です?」
「そのままだよ。アルジュナ、そのままだ。アレは周囲を呑み込みながら其処にある1つの確定した『世界』そのものだ。他の世界を呑み込み、塗り潰し、自らの理で上書きしてしまう……他の『固有結界』と異なるのは……何とも性質の悪い話だが……そのままでは、上書きされた世界は『永久に元には戻らない』って事だけどね」
愕然とするアルジュナ。
馬鹿な、との声もが何処からか漏れ聞こえる中、ダ・ヴィンチは続ける。
「世界中に存在するキメラの建造物や戦艦と、メキシコ湾上空の艦隊は別物だ。世界中に翻る星条旗と、あの空中都市も別物だ。世界中に溢れ返るナチと、あの空中戦艦も別物さ」
「つまり……?」
「6時間前に現れたアレらは、彼等本来の人類史からやってきた『抑止力』の遣い、つまり『守護者』だ。あの通信でも言ってたじゃないか。全ては、彼等の世界にとって『偽り』に他ならないこの人類史を、其々の人理の下に『正しい』西暦2017年の在り方へと修正する為に。人理を含めたこの世界の全てを破壊し、否定して、自分達が歩んできた歴史で上書きしているのさ」
最早、言葉も無かった。
人智を超えた、悪魔の所業。
多くが言葉を失い、その恐るべき事実に戦慄している。
そんな中で、場違いなまでに冷静な声が上がった。
「なんで?」
「……?」
「キメラはともかく、なんで他の世界も、魔力も用いずにそんな事ができるの? あのアメリカ軍の偽物やナチスは、何処からどうやって、そんな手段を手に入れたの?」
立香だった。
金色となった瞳、縦に割けた瞳孔でダ・ヴィンチを見やり、首を傾げる彼女の声は冷静そのものだ。
幾人ものサーヴァント達が、そんな彼女を気遣わしげに見やっている。
だが、その視線に幾分か剣呑な光が混じっている事に、ダ・ヴィンチは気付いていた。
その穏やかならぬ感情の理由も、それの向く先が立香自身でない事も、彼女のみならず皆が理解している。
立夏の傍に控える、サーヴァントならぬ生身の人間たち。
旧
それが、今や古参のサーヴァント達に替わり、特異点に於いて常に立香の傍に控える者たちだった。
他の誰よりも立香に頼りとされ、そして事実、サーヴァント達さえも寄せ付けぬ戦果を齎してきた9名の兵士たち。
彼等と立香には、ある共通点があった。
金色の瞳と、爬虫類の如き縦に割けた瞳孔。
彼等はつまり、あの1951年の特異点に於いて立香と共にキメラウィルスに感染し、同様に遺伝子変質を遂げた者たちなのだ。
肉体の変質により下位のサーヴァントにも準ずる程の身体能力を手に入れ、回収されたキメラの武装を復元・発展させた試験兵装で身を固めた彼等は、手足の如く立香の意の儘に動いた。
その人間離れした連携能力と、サーヴァントとすら互角に交戦可能となった戦闘能力で、彼等は第七特異点以降の戦場を立香と共に、誰よりも近い場所で駆け抜けてきたのだ。
立香自身はサーヴァント達を蔑ろになどしてはいないが、彼女と分隊との間に立ち入り難い強固な繋がりを見出した彼等からすれば、それまで共に戦ってきた思いとも相まって面白いものである筈がない。
そんな彼女が今、何処か冷たい光を宿した瞳で、ダ・ヴィンチを静かに見つめていた。
不意に、その背に薄ら寒いものを覚えたダ・ヴィンチはしかし、そんな感覚を馬鹿馬鹿しいと切って捨てる。
万人から天才と認められる彼女とて人の子だ。
これまでの立香との付き合いは、これ以上ない程の密度で以って彼女の内に刻まれ、確かな絆として息衝いている。
それを否定するかの様な感覚など、受け入れられる筈もなかった。
不愉快な感覚を振り払おうとする様に、彼女は立香の疑問に答える。
「現時点では全く分からない。寧ろこっちが訊きたいくらいだよ。魔力を極力用いずにあんなものを浮かべて、なおかつ他の人理にまで干渉する方法。誰でも良い、そんな方法に心当たりでもあるかい?」
応える声は無かった。
当然の事だ。
世界が神秘に満たされていた神代ならばともかく、それが薄れに薄れた近代で大衆に隠し様もないあんな代物を浮かべれば、秘匿されて然るべき残り僅かな神秘さえも忽ちの内に失われるだろう。
それこそアガルタ、シェヘラザードが企んだ暴露による神秘の喪失、その再現だ。
そうなれば本末転倒、宙に浮く戦艦も都市も、瞬く間に地に墜ちる事となるだろう。
しかし現実に、アレらは魔力を些かも露見させる事なく宙に浮かび、秘匿するどころか常軌を逸した搭載兵装の火力で以て世界を破壊し尽くしている。
都市の方は何ともいえないが、ナチやキメラの空中戦艦は、どう見ても幻想や集合意識を基に発生したものではない。
明らかに人の手、或いはキメラによって設計され、建造されたものを基に『抑止力』と同様の修正力によって再現されたものだ。
一度はそういった神秘とは無縁のところで創造され、世界に産声を上げている筈なのだ。
「ナチもキメラも、実際にあれを造って空に浮かべた事は間違いない。魔力が検出されない以上、それを顕現させたものが何であるかは解らないが、世界の『ズレ』を修正する為に遣わされたものであると見て間違いないだろう」
「此方の世界こそが本来の人理から歪められたもの、と看做されたという事ですか」
「だろうね。そして、その修正の為に『守護者』としての役割に近しい存在として選出されたのが、あの戦艦やら都市という事だろう」
それは即ち、単にそれらを破壊するだけで事態が解決に向かうものではない事を意味している。
誰もがその事を理解した。
アレらが修正力の結果として顕現したものであるのならば、その基軸となっている世界が存在する筈だ。
そして恐らくは、分裂し上書きされた各人類史の過去、いずれかの時点に歴史を歪ませた『特異点』が存在する筈。
人理修復を通じてのこれまでの経験から、理解の及ぶ者はそう思考した。
それを裏付ける様に、ダ・ヴィンチが続ける。
「アレらは各々が別の人類史の産物で、この世界の西暦2017年に於いてはどうあっても存在し得ないものだ。だから、元の世界に於いてほんのちょっとばかり歴史が変わるだけで、アレらがこの世界に現れたという結果は崩れ去る可能性が高い。だから我々は、彼等の歴史に積極的に干渉する必要がある」
「レイシフトか?」
「そうだ。彼等の歴史に於いて、アレらの誕生に至る重大インシデントをピックアップし、介入して改竄する。彼等の世界による、私達の世界に対する『人理改竄』を阻止する為、その結果に至る過程を破壊する……つまり、彼等の歴史を『否定』するんだ」
此処とは異なる歴史を歩んだ世界、その道程を『否定』する。
その発言に対する反応は、様々だった。
眉を顰める者、思考に沈む者、当然と構える者、無感動な者。
人理焼却という災厄を阻止した身でありながら、他の人理を『否定』するという行為に、思う所がある者は多い。
だが、やらねばただ滅びを待つばかりである事も、誰もが理解している。
だからこそ、ある者は苦悩し迷い、ある者は然るべき事と受け止めているのだ。
やがて、エレシュキガルが問い掛ける。
「……もう、特異点の特定は済んでいるのよね? 何時なのかしら」
「うん、それなんだけど……どれも近代以降だ。これから順を追って説明する」
そう言ってまず拡大したディスプレイは、ワシントンD.C.上空に浮かぶ空中都市のもの。
ホワイトハウスにはためく星条旗には、盾のエンブレム中央に星1つのみ。
「先ずはこれだ……特異点は西暦1912年、アメリカ合衆国メイン州ポートランド。シバによると、この時点から人理の歪みが極大化している。ただ、この人類史は特に不安定な観測環境である為か、実際にレイシフトしてみない事には何が起こっているのかさっぱり解らない。危険だが、事前情報は殆ど無いという事になる」
「1912年……はて、何があったか……」
「清王朝の滅亡、中華民国の成立じゃな。他は知らん」
「タイタニック号の沈没事故もこの年よね」
「大正元年でもあるな」
思い思いに関連し得る事柄を述べるも、そのどれもがポートランドという土地に結び付かない。
収拾が付かなくなる前に、話題を切り替えるダ・ヴィンチ。
「此処については一先ず置いておこう。次はナチの戦艦が来た世界だけど……」
ディスプレイに表示される欧州の地図、その一角が拡大される。
フランス北西部、イギリス海峡に面した沿岸部一帯。
「幾つか特定できた中で、最も早期の特異点が此処だ。1944年6月6日、ノルマンディー」
「『D-Day』か……!」
呻く様に呟く天草。
嘗て現界していた際の記憶からか、その場に居た訳ではなくとも当時の状況は聞き及んでいるのだろう。
其処で起きた出来事が、人類史に於いてどれだけ重要であるかも承知している筈だ。
「そう、連合軍による欧州解放を目的としたオーバーロード作戦、その序盤となるノルマンディー上陸戦。正式名称ネプチューン作戦発動のその日だ。全世界がナチに支配された歴史、連合国とドイツの趨勢が引っ繰り返った作戦の発動日。何が起こったかなんて、実に解り易いだろ?」
「連合軍は上陸に失敗した、という事ですか……」
「大方、そう見て間違いないだろう。それでだ、最後のキメラなんだけど……」
其処でダ・ヴィンチは、僅かに眉を寄せた。
僅かに声の調子を落とし、続ける。
「連中、此方の予想より遥かに格上の技術を持ってる。以前の特異点で回収された資料から1930年代前半頃の発生が確認されているけど、恐らくはジャミングによるものだろう、過去の観測が全くできない状況だ」
「シバが無力化されているんですか?」
「物の見事にね。今、スタッフも『増設区』も総出で対策を探っているけれど、一朝一夕にはいかない問題だ」
其処でディスプレイを閉じ、一同を見回すダ・ヴィンチ。
その視線が『分隊』に護られる様に席に着く立香を、次いで離れた箇所で多くのサーヴァント達の中へと紛れる様に、マシュと隣り合って座る立夏を捉える。
2人の周囲のサーヴァント達、その内の数名は時折なにか言いたげに彼等を見やるものの、すぐに視線を逸らす事を繰り返していた。
マシュは何も言わず立夏の隣に腰を下ろしているが、彼女からマスターへと何かを語り掛ける事も、視線を向ける事もない。
まるで人形の様だが、それは立夏が死の淵を彷徨った例の一件以降、作戦時に於いては常態化したものだった。
『分隊』に守護された立香だけでなく、立夏もまたマシュや英霊たちとの関係性に変化が生じているのだ。
その事に思う所もあるダ・ヴィンチだったが、今はそれを忘却し2人へと語り掛ける。
「以上の点からマスターの2人には、先ず1912年のポートランドに向かって貰いたい。あの空中都市の誕生に至る経緯、またはそれを阻止する手段を見付けて欲しい」
「向こうの戦力は、どんなものが予想されるの?」
「恐らくは当時の軍事力相応だろう……と言いたいところだけど、何とも言えない。あの都市や戦力を見るに、どうも当時のデザインが未だ活きている様に見える。それが曲がりなりにも現代まで続いている事から、何らかの技術革新があったのかもしれない」
「敵対するサーヴァントについては?」
此処で初めて、立夏が言葉を発した。
ダ・ヴィンチに固定され微動だにしない彼の瞳は、何処か作り物めいて見える程に熱というものが感じられない。
多くのサーヴァントやスタッフが感じているだろうそれを、彼女もまた立夏の瞳に対し覚えていた。
彼が逃れ得ぬ死の淵から、不可解な復活を遂げた日。
新たなる
そんな不吉な感覚を振り切り、ダ・ヴィンチは答える。
「それも不明だ。出るとすればアメリカに所縁のある英霊だろうけど……」
「……オイ、何でこっちを見る?」
ある1人へと集中する視線。
その中心で顔を顰めているのはコロンブスだ。
とはいえ、当人も何故自分が注目を浴びるのかは自覚している様で、溜息をひとつ零すと意見を述べ始めた。
「奴隷って点で俺が思い浮かんだんだろうが、その可能性は低いと思うぜ。あの通信を聞いただろ? ありゃあ強烈な『アメリカ例外主義』って奴だ。幾ら俺でも、そんな偏った思想なんざ持ち合わせちゃいねぇよ」
くだらない、とでも言いたげに鼻を鳴らすコロンブス。
当人の意志による召還は無さそうだと、一先ずはダ・ヴィンチも納得する。
「そうだね。あの通信の主義主張といい、彼らが世界各地で行っている虐殺や奴隷化といい、正にアメリカ例外主義と白人至上主義、優生学が入り交じった思想と見受けられる。ある意味、ナチ以上に厄介だ」
「……この特異点、マスターや東洋、中東系の皆にとっては鬼門なんじゃないの? 見付かっただけで碌でもない事になりそう」
アストルフォの意見も尤もだった。
この世界本来の歴史的にも、あの空中都市から発せられた通信からしても、明確に非白人と判る面々にとっては危険が大きい。
戦力的にはサーヴァントと、当時からすれば一世紀ほども未来の兵器で武装した小隊である為、特に不利という事はないだろう。
だが、如何なる未知数の脅威が潜んでいるか、知れたものではない。
作戦は入念に練る必要があった。
「その事も含めて、皆の意見を聞きたいんだ。先ず―――何だ!?」
ダ・ヴィンチの言葉を遮ったのは、突如として鳴り響き始めた警報だった。
戦闘に特化した英霊たちが瞬時に武装、警戒態勢へと移る。
『分隊』も先の戦闘から携行していたキメラ・テクノロジーを用いた火器に手をやり、立夏と立香は騒ぐでもなく周囲に視線を回らせていた。
其処に、ジェニシスのアナウンスが響き渡る。
『警告。居住区内に複数の時空歪曲点発生を検出。人型の動体、総数48体を確認。居住区外部へと移動中』
「ちょっと、まさか!」
「攻め込んできただと! 一体どうやって!?」
突然の襲撃。
想定外の事態に、更なる緊張が奔る。
居住区からこの食堂までは、距離にして300mも離れていない。
もう少しばかり足を延ばせば、管制区もすぐ傍だ。
そしてこの場には、予期せぬ形で再召喚された英霊たちの関係者、完全な非戦闘員を含む彼等が大勢居るのだ。
「不味い……非戦闘員はカウンター側へ! 万が一にも……」
『侵入者の武装判明。拳銃、短機関銃、散弾銃、小銃、ロケットにて武装した兵士および、火器不携帯と思しき甲冑装着者を確認』
「……はぁ?」
再度、ジェニシスのアナウンス。
その中に含まれていた単語に、戦場慣れした英霊たちは違和感を覚える。
侵入者の武装、拳銃に短機関銃、散弾銃に小銃、対装甲目標用であろうロケット。
其処までは解る。
「『甲冑』ですって……?」
だが『甲冑』とは何だ。
火器を携帯せず『甲冑』を身に纏った敵兵。
それは、一体?
「散れ!」
鋭い叫び、燕青だ。
その声に反応する者、声よりも早く行動に移っていた者、全く反応できずに遅れる者。
動けた者が取った行動は、同じものだった。
戦えぬ者を護る事。
盾を構え、後方に位置する全ての者の為に遮蔽物となる、レオニダスを始めとする防御に特化した者たち。
速さを活かし、安全圏と思われる場所へと非戦闘員を抱えて飛び退く者たち。
咄嗟に結界、防御壁を展開し、襲い来るであろう攻撃に対する防御と、退避と反撃の為の時間を稼ごうとする者たち。
剣を、槍を、弓を、杖を、銃を。
ありとあらゆる排除の意思を向け、敵を排除せんとする者たち。
そんな彼等の中央に―――
「―――えっ?」
「うおぉッ!?」
宝具を展開する猶予は無かった。
だが、英霊たちが手にするそれは、長きに亘る人類全ての幻想の集約。
生半な攻撃では傷ひとつ付きはしない―――
「ぐ!?」
「きゃあッ!?」
受け止めんとした盾に、鎧に、壁に。
打ち落とさんとした剣に、槍に、旗に。
次々に接した、その人の胴ほどもある火球は。
神秘の結晶たるそれらを弾き、溶かし、打ち破って、食堂の中央付近へと着弾する。
そして次の瞬間、着弾地点を中心に大量の火焔と、融解した構造物が噴火の如く爆発した。
「がッ!?」
「うあああっっ!?」
「熱……ッ!」
容赦なく周囲を呑み込む火焔、降り注ぐ溶解した床の一部。
英霊とはいえ、苦痛を感じない訳ではない。
だが明らかに今、彼等は単なる苦痛を超えて、本来ならば決して負う筈のない傷を受けていた。
魔力など欠片も感じられない火焔、ただ溶けただけの鋼材。
それらが触れた肌が、肉が、骨が。
確かに焼け爛れ、蝕まれているのだ。
「雑種が!」
無論、反撃は激烈だった。
ギルガメッシュを始めとする幾人かの英霊、その攻撃が食堂の一画の壁、既に溶け落ち穴と化した其処へと殺到する。
爆音と振動、数多の神秘が炸裂する光。
それが済んだ時、立ち籠める粉塵の向こうに生命ある者など居よう筈もない。
だと、いうのに。
『劣等人種め……!』
確かに聴こえた。
極小規模ながら人智を超えた破壊の痕跡、その中に立つ影。
金属と金属が擦れ合う耳障りな異音、噴き出す圧縮蒸気の甲高い音。
「馬鹿な……」
呆然とした声は、誰のものか。
粉塵の中、影は一瞬にして紅蓮の炎を纏い、一歩一歩こちらへと向かってくる。
そして、苦痛すら忘れて息を呑む一同の前に『それ』は姿を現した。
『神に逆らう蛮族の分際で……!』
怒りと憎悪に満ち満ちた声、広大な食堂の全てを呑み込む程に圧倒的な熱。
無数の、最上級の神秘の矢をその身に受け。
「これは一体……?」
『浄化してやるぞ、ケダモノどもが!』
「駄目、退がってッ!」
理解を超える光景に、呆然としたのも束の間。
マルタに肩を掴まれ、後方へと引かれるダ・ヴィンチ。
その眼前で『甲冑』は両腕を頭上に掲げる。
その手の中に生じる、紅蓮の渦。
圧倒的熱量を誇ると一目で理解できるそれは、見る間に直径1m近くにも膨れ上がる。
その様は明らかに神秘の類であるにも拘らず、やはり一切の魔力が感じられない。
英霊たちの理解をも超える現象を生み出した甲冑の敵は、しかしそんな彼等の驚愕など知った事ではないとばかりに、膨れ上がった火球を投げ付けんと身を仰け反らせる。
全身から吹き出す業火が更に激しさを増し、離れているにも拘らず英霊たちの肌を焼き始めると同時。
甲冑から放たれた声は、自身を除くその場の全てを否定せんばかりの敵意と、強烈なまでの自己陶酔に満ちていた。
『偉大なる
【回収された
『数日前、ランドルフ教授のメモを覗き見した。
内容は危険な『古代技術』に関する事や、地下に危険な何かが待ち受けている可能性についてだ。
こういう発掘現場は何度も見てきた。
だからこそ、考古学に疎い私でも解る事がある。
この世の裏側には得体の知れない『何か』が幾つも潜んでいて、外に這い出て世界を破滅させる時を、ずっと待ち続けているのだと。
それを深淵より解き放ってしまうのが我々でないと、誰が言い切れる?』
【同時回収された映像記録媒体の内容】
『炎上するヨーロッパの田舎町』
『その上空にて同じく炎上する数隻のドイツ空軍
『爆発炎上しながら墜落するツェッペリンと火達磨になって落下する無数の人影』