Fate/Grand Order : error/mission   作:変種第二号

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【並行人理世界にて回収された蓄音機(ボックスフォン)の音声記録より】



『黒人を解放したと讃えられるリンカーン大統領は、彼等を何から解放したというのか。
日々の糧からだ。
額に汗して働く事の貴さからだ。
生涯面倒を見てくれる裕福な白人の庇護からだ。
衣類や、雨露を凌ぐ為の住居からだ。
では、手に入れた自由を使って黒人たちが何をしたか。
それは『フィンクトン』に足を運べば分かるだろう。





白人を除いて、生まれながらに自由な動物など居はしない!
そして、我々以外の創造物の世話を焼く事は、白人に課せられた使命なのだ!』



error/08 『Welcome to Columbia in 1912』

 

 

 

『―――素晴らしい音楽でした。では此処で、今日の預言者のお言葉を……』

 

「起きろ、おい!」

 

「う……」

 

 

軽く叩かれる頬の感覚に、彼女は目を覚ました。

微かに開かれた瞼の隙間から差し込む、眩い光。

全身を包む温かさと、背中に感じる石畳の硬さ。

日差しの中に居るのだと、すぐに理解できた。

眩しさに目を擦りながら、声の主に尋ねる。

 

 

「此処は……?」

 

「目を覚ましたか。此処は不味い、移動するぞ」

 

 

先ず視界に飛び込んできたのは、見知った顔だった。

アマゾネスの女王、ペンテシレイア。

彼女が差し出した手を掴み、牛若丸は身を起こした。

そして周囲を見回し、此処がカルデアの食堂でない事を認識する。

雲ひとつない蒼穹、石造りの街並み、看板やポスターに溢れる英字。

食料品を売っているらしき店先の棚に置かれたラジオからは、仰々しい文面を読み上げる視界の声が漏れ聴こえてくる。

 

 

「これは……レイシフトしたのか?」

 

「ジェニシスの警告どおりにな。私も詳しくはないが、見たところ例の異なる人理での1912年とやららしい。どうにも都合よく人気は無いが……隠れるぞ。先程の話の通りなら、東洋人であるお前が此処に居るのは不味い」

 

 

そう言って移動せんとするペンテシレイアに、牛若丸は違和感を覚えた。

人の事を言えたものではないと自覚してはいるが、この色濃い戦闘狂の一面を持つ女傑が自ら身を隠そうなどとは。

一体、どういう風の吹き回しか。

 

 

「この恰好では目立つ、適当な所で服を調達せねば」

 

 

極めて理性的に今後の行動を策定するペンテシレイア。

その様に違和感を抑え切れなくなり、牛若丸は問い掛ける。

 

 

「アマゾネスの女王よ、何故そこまで慎重になっておられる? 失礼だが、戦場どころか普段の貴女としても弱気に過ぎる様に思えるが」

 

 

これだ。

彼女はバーサーカーのクラスとして現界した身ではあるが、平時かつ幾つかの禁忌に触れなければ、極めて理性的な人物ではある。

しかし、アマゾネスの女王として身に付いた誇りと、自らの力に対する自信からか、常にそれを用いての問題解決を良しとする傾向があった。

だからこそ今の様に、自ら進んで身を隠そうとする振る舞いには、何処かしら違和感を覚えたのだ。

そんな牛若丸の戸惑いを察したのか、ペンテシレイアは溜息混じりに答える。

 

 

「貴様も確かめてみろ、身体の異変を」

 

「異変……?」

 

 

言われ、何の事かと首を傾げたところで、気付く。

身体が重い、鈍い。

前進に絡み付く重力の鎖、長らく気にも留めていなかったそれ。

だが、この感覚には覚えがある。

これは、まさか。

 

 

「これは、この身は……」

 

「英霊としてのそれではない、だろう?」

 

 

ペンテシレイアの言葉に、愕然とする牛若丸。

そして、確信する。

これはまるで、生前の身体だ。

英霊として人々の幻想により昇華された肉体能力ではなく、彼の時代に於いて戦場を駆け巡った生前の生身の身体。

人としての上限にまで迫る迅さを持ちながらも、何処までも物理法則に縛られた身体。

 

 

「戻っているのか……!?」

 

「此処が奴らの人理に基く世界だというのなら、何があってもおかしくはない。我等の道理が通用する世界ではないのだろう」

 

「……大丈夫なのですか?」

 

 

その問いは、ペンテシレイアの身を案じるが故に零れたもの。

純粋な人間であった牛若丸とは違い神代の人物、その身に神の血を引く彼女には、異なる理の下で何が起こるか知れたものではない。

牛若丸の意図を察したのか、戦神アレスの血統である女王は忌々しげに答えを返す。

 

 

「思い通りにならん身体というのは厄介だな。今の私は、只の人間より少しばかり膂力に優れているに過ぎん。宝具は使えるだろうが、一度放ってしまえばそれきりだろう」

 

「お互い、命があるだけ儲けものだったかと。先程のエルキドゥ殿や段蔵殿を見る限り、下手をすればレイシフトと同時に事切れていたやもしれませぬ」

 

「確かにな」

 

 

言葉を交わしつつ、やはりと牛若丸は確信する。

ペンテシレイアの狂気が、明らかに薄らいでいる。

バーサーカーとしての特性が弱まっているのだ。

となれば、自身のライダーとしての特性も失われていると考えるのが自然、サーヴァントとしての機能を維持できているかも怪しい。

このまま此処で呆然としているのは危険だ。

 

 

「とにかく服を……あれは?」

 

「どうした?」

 

「いえ、これは……」

 

『―――以上、本日の預言者のお言葉でした。では続きましてお待ちかね、我等が巨匠アルバート・フィンクの新曲《神のみぞ知る》の、ラジオ初公開と―――』

 

 

移動しようとして、ふと違和感を覚える牛若丸。

風に乗り、鼻腔を擽る鉄の匂い。

 

 

「……血の匂い?」

 

「おい、何だ」

 

「此方に何か……」

 

 

言いつつ、建物と建物の間にある狭い路地へと踏み入る。

ペンテシレイアと共に進む事、数十秒。

それは、其処にあった。

 

 

「……ふむ」

 

「処刑か」

 

 

路地の突き当り、血に染まった煉瓦の壁と路面。

散乱する薬莢と一面に穿たれた弾痕、折れた木製の警棒。

蜂の巣にされた死体と、頭蓋を叩き割られた死体、それらの山だった。

死体のいずれもが纏うのは、灰色混じりの青い軍服。

 

 

「酷いな」

 

「この服……此奴等、カルデアに攻め込んできた連中と同じ所属か。誰に殺られた?」

 

「『あれ』だろうな」

 

 

ペンテシレイアが指すのは、死体の血で壁面に書き殴られた赤い文字。

『THE FOUNDERS WILL BLEED !!!』と書かれたそれ。

 

 

「読めますか」

 

「何とかな」

 

「何と書いてあるので?」

 

 

其処でペンテシレイアは暫し沈黙し、文字列を目で追う。

やがて、静かに声を発した。

 

 

「『ファウンダーズ(創設者たち)に死を』……といったところか」

 

「『創設者』……あの都市の?」

 

「だろうな」

 

「抵抗勢力が居るという訳ですか。これは幸先が良い」

 

 

言いながらも、死体を物色する牛若丸。

死体の数は14体、内3体が女性だった。

その内2体は拘束された上で頭部を鈍器で叩き割られたらしく、所々が血塗れではあるが軍服そのものの状態は良好だ。

 

 

「この仏にはもう必要ない、我々で頂きましょう」

 

「名案だ」

 

 

四苦八苦しながらも死体から軍服を剥ぎ取り、これまた着慣れないそれに苦労しながら身に纏う2人。

細かい使い方は解らないものの、死体に埋もれていた自動拳銃を拾い、念の為に携帯する。

そうして一頻り互いの格好を確認すると、ペンテシレイアがゴーグル付きの仮面を差し出した。

 

 

「これは?」

 

「死体が身に付けていた。東洋人のお前は特に、素性が露になると不味い。これで顔を隠せ」

 

「かたじけない」

 

 

礼を言い仮面を付ける牛若丸、ペンテシレイアもそれに続く。

濃い血の匂いがしたが、元よりそんな物に動じる胆力の2人ではない。

彼女たちが連れ立って路地を抜けるとほぼ同時に、其処彼処に設置されたレトロな造形のスピーカーから、ノイズ混じりの音声が放たれた。

 

 

『皆さん《偽りの羊飼い》がコロンビア市内を逃走中です! 万が一、貴方がたの奥様やお子様がその毒牙に掛かる様な事があれば、取り返しが付きません!』

 

()()()()()()……?」

 

『だから行動するのです! 愛する家族の為に!《預言者》の為に! さあ!』

 

 

その放送の内容を理解できた事から、どうやら言語の翻訳については心配しなくても良さそうだと安堵するも、聴き慣れない名称に首を傾げる2人。

『偽りの羊飼い』とは、一体何を指す名称なのか。

 

 

「解らん事だらけだ……そもそも此処は何処だ、ポートランドとやらなのか?」

 

「『コロンビア』というのは、あの都市の事では? ともかく、あの都市の建造に繋がる時と場所である事は間違いないでしょう。あの連中が既に居るという事は、この時点でそれなりの勢力になっているという事でありましょうな」

 

「全く、厄介な事に……」

 

 

ペンテシレイアの言葉が途切れる。

その視線は彼女達が居る通りの突当り、欄干の先に拡がる空へと向けられていた。

 

 

「どうされた?」

 

「……何か、おかしい」

 

 

そうして、アマゾネスの女王は足を進める。

その後を追う牛若丸もまた、進む先にある道端の欄干、その先の空を見つめた。

この場所は丘の上なのか、欄干の先には蒼穹と僅かな雲しか見えない。

だが近付くにつれ、その違和感の正体に牛若丸も気付く。

 

 

『―――午後1時過ぎ《ヴォックス・ポピュライ》のメンバーと思われる男が、恐るべき凶行を演じました。フェスティバルを訪れていた善良な市民に向けて突如銃を乱射、更には駆け付けたコロンビアの警官数名を負傷させたのです。平和な催しは一転、血の惨劇の舞台に―――』

 

 

位置がおかしい。

雲の位置が、どうにも腑に落ちないのだ。

地平の彼方に位置するにしては、細部の凹凸まではっきりと視認できる。

距離が近いにしては、位置があまりに下に過ぎる。

その雲は、近いが故の明確さと、遠いが故の低さ、矛盾する要素を内包していたのだ。

脳裏に疑問を抱きつつ、ラジオから聴こえる声を余所に2人は歩を進める。

 

 

『―――ここ数日はより過激な行動に出ており、各地では見慣れない黄色人種やアイルランド系、北欧系と思われる過激派の目撃例が―――』

 

 

やがて欄干にまで辿り着いた2人は、そのまま絶句した。

凍り付き、眼下に広がる光景を呆然と眺める。

暫しの後、如何にか息を吐く牛若丸。

 

 

「……成る程。此処は恐らく、ポートランドとやらなのでしょうな」

 

「……だろうな。そういえばダ・ヴィンチは、ポートランドの何処とまでは言っていなかった」

 

「ですな」

 

 

諦観を滲ませて呟く2人。

彼女達の眼前に広がるのは果てしなく続く空と、地平線まで続く陸地。

但し、その地表は酷く遠く、遥か眼下に広がっていた。

そして、彼女達の目に映る奇妙な物体。

 

 

「ポートランドの『地上』だとは、一言も口にしていなかった」

 

 

 

 

 

自らが立つ地面の下、遥か高空に浮かんだ都市の基部。

その其処彼処に備えられた星条旗模様の気球、ゆっくりと回転する無数の巨大なプロペラ。

 

 

 

 

 

「此処はポートランドの『上空』という訳か。よりにもよって敵地の只中とは……やはり『コロンビア』とはこの都市の名であり、この時代には既に存在していたという事でしょうな」

 

「ああ……だが、本来ならば有り得ん事なのだろう? この時代の人間に、こんなものを築き上げる術など無い筈だ」

 

「これだけの規模、1年や2年で造り上げられるものとは思えない。一体何時から……」

 

「おい、其処の2人!」

 

 

自身らが既に空中都市に居るという事実に動じつつも、疑問を述べてゆく2人。

そんな彼女達へと声を掛けたのは、先程の死体とほぼ同じ格好をした男、この都市の兵士らしき人物だった。

僅かに緊張する彼女達に、小走りに駆け寄ってきた兵士は続ける。

その肩に掛けられたベルトの先には、装飾の施された短機関銃。

肩に掛けたままである事から、此方を警戒している訳ではなさそうだと判断する。

 

 

「第4小隊の連中か? 避難誘導は終わったぞ、こんな所で何をしてるんだ」

 

 

どうやら2人が纏う軍服、その本来の持ち主と顔見知りという訳ではない様だ。

途端、加速する牛若丸の思考。

彼女が有する戦の才の一片、窮地に於ける咄嗟の機転だった。

レイシフト後に目覚めてから、まだ30分と経っていない。

その短い時間に集めた情報の欠片を繋ぎ合わせ、この場を切り抜けるに相応しい言葉を選んで組み上げてゆく。

 

 

「……『偽りの羊飼い』に呼応する連中が出た。小隊は壊滅、何とか逃げ出してきたところだ」

 

「な……」

 

「隊の仲間は、他の連中に知らせろと、私達を逃がしたんだ……『ヴォックス・ポピュライ』の一派が、この近辺に潜伏している」

 

「ヴォックスが!?」

 

 

ペンテシレイアの返しに、牛若丸は内心で舌を巻く。

『ヴォックス・ポピュライ』

先程、店先のラジオから僅かに漏れ聴こえた名だ。

放送の内容は一部しか聴き齧ってはいないものの、この『コロンビア』にとって好ましからざる勢力であり、武装しているらしき事だけは理解できた。

その情報と牛若丸が口にした『偽りの羊飼い』の名、そして部隊が壊滅したという事実を織り交ぜて、この兵士に信じ込ませる事に成功したのだ。

2人が各々、順に2つの情報を小出しにしただけで、この兵士にとっての真実を造り上げてみせた。

アマゾネスの女王は言葉を交わすでもなく、牛若丸の意図を瞬時に汲み取り、更に後押しする情報を咄嗟に付与してきたのだ。

これが女戦士の国を率いた女王の風格かと、牛若丸はペンテシレイアに対する評価を更に上方修正した。

 

 

「奴等は何処に!?」

 

「あの路地の先だ。まだ生きている者も居るかもしれない、私は戻る」

 

「ならば私も」

 

「な、待て!」

 

 

兵士を置き去りに、これ見よがしに拳銃を見せ付けて駆け出す2人。

慌てた様子で兵士が後に続いている事を確認し、彼女達は視線を交して頷く。

そして路地の突き当りに着くと、死体の山の前で立ち竦んでいる様に見せ掛けて佇み、兵士の到着を待った。

2人に遅れること暫し、息を切らせた兵士が短機関銃を手に到着し、眼前の光景に息を呑む。

 

 

「これは……畜生、ヴォックスめ!」

 

 

仲間達の末路、凄惨な光景に憤りを隠せない様子の兵士。

呆然と2人の間を擦り抜け、死体の山の傍らに膝を突いて、胸元から取り出したロザリオを手に短い祈りを捧げ始める。

そんな彼の頬に当たる、冷たい金属の触感。

 

 

「おい、貴様」

 

 

そして放たれる、先程とは打って変わって感情の色を感じさせない、ペンテシレイアの声。

不穏な冷たさと声色に身を凍り付かせる兵士へと、牛若丸は無慈悲な宣告を投げ付けた。

 

 

「其奴らの仲間になりたくはないだろう? ならば我等の問いに答えよ」

 

 

 

■   ■   ■

 

 

 

予言者(プロフェット)、ファーザー『ザッカリー・ヘイル・カムストック』……ねぇ」

 

 

手にした伝記の表紙を閉じ、多分に呆れの入り交じった溜息を吐く。

彼にとってそれ程までに、その本の内容は胡散臭い代物だった。

 

 

「この爺さん、何かヤバい薬でもキメてたんじゃないの?」

 

「……それ、外で言うんじゃないぞ。此処じゃ問答無用で撃ち殺されかねん」

 

「見上げた信仰心だよ、全く」

 

 

言いつつ、伝記をカウンターへと放る。

代わりに側へと立て掛けられていた小銃を取り、安全装置(セーフティ)を解除してコッキングレバーを引き、銃床を肩に当てて構えた。

壁に飾られた白髪、白髭の男性画に照準し、銃を下ろす。

 

 

「……これ、下でも出回ってるのか?」

 

「いいや、世界広しといえどコロンビアだけだろうさ。『フィンク・マニファクチュアリング』のオリジナルだよ」

 

()()()()……『ジェレミア・フィンク』だったか」

 

 

表情を歪め、彼は再び小銃を傍らに立て掛けた。

じっとそれを見つめ、呟く。

 

 

「一度、行ってみるべきかな……そのフィンクって奴の所に」

 

「止めとけ。奴さんの居所はフィンクトンの更に先、工場の奥の奥だ。辿り着く前に新聞より薄くプレスされちまう」

 

 

タバコを燻らせながら告げる老人に、彼―――ビリー・ザ・キッドは胡乱げな目を向ける。

その視線を受けた老人は、何処か気まずげに視線を逸らした。

 

 

「今の僕がどんな存在か、説明はしただろう? それでも無理だっていうのかい」

 

「……ああ、無理だ。この街自体もそうだが、フィンクの庭は魔境だ。侵入、脱出。試みた人間は幾らでも居るが、生きて成し遂げた奴は1人も居ない」

 

「僕の仲間が居てもか」

 

「お前さんの仲間が人外じみてるってのは解るが、それでも無理だろうよ。『ハンディマン』にかかりゃカエルみたいに潰されちまう」

 

 

煙草の火を揉み消し、カウンターの下から何かを取り出す老人。

それは、巨大なリボルバーだった。

銃身を持ち、グリップをビリーへと差し出す。

上下を逆さまに持つ事も、グリップを手前に向けて持つ事も、老人はしなかった。

最低限の警戒すら放棄したその様に、ビリーは複雑な表情を浮かべる。

 

 

「……もっと用心しなよ」

 

「今更だろ。それに、お前さんには俺を撃つ権利がある……少なくとも、俺はそう思ってる」

 

「済んだ事だよ、もう言わないでくれ」

 

 

差し出されたグリップを握るビリー。

手から腕、肩へと伝わる、ずしりとした重さ。

思わず顔を顰める。

 

 

「『ネイビー』……じゃ、ないな。何だコレ?」

 

「そいつもフィンクの製品だ。威力は折り紙付きだが、扱える奴はそう居ない。それでもハンディマンとやり合うには力不足だ」

 

 

その、金色の地金が剥き出しとなった箇所に装飾が施された巨大な中折れ式リボルバーは、一見するとビリーが知る物に良く似ていた。

コルトM1851パーカッションロック式リボルバー、通称『ネイビー』

だが、記憶の中のそれよりも二回りほど大きく、相応に重い。

ラッチを解除してシリンダーを覗き込めば、予想に反して雷管設置用のニップルは無く、異様に大きな薬室の穴が並んでいた。

つまり、カートリッジ式だ。

カルデアで実験小隊の面々から借り受け試し撃ちした、或いは暇潰しに端末で目にした銃器の記憶を辿るビリー。

そして、該当する弾薬に当たりを付ける。

 

 

「……S&W?」

 

 

ビリーの記憶が確かならば、薬室の大きさはS&W社の『.500』弾に相当するものだ。

だが、この時代にそんな代物がある筈はない。

『.500S&W』弾が実用化されたのは21世紀になってからだ。

 

 

「人間なら軽く挽肉にできる代物だがね、奴を仕留めるには何発撃ち込めばいいやら」

 

「其処までかい?」

 

「一度だけ見たんだが、あれはまさにブリキの化け物だ。騎兵隊程度じゃ手も足も出んだろう」

 

 

どうやらこの都市には、カルデアに攻め込んできた炎を操る甲冑、あれ以上の化け物が潜んでいるらしい。

新たに判明したあまり嬉しくはない事実に、溜息を吐くビリー。

リボルバーをカウンターに置き、老人を見つめる。

 

 

「なあ、何で僕を手助けしてくれるんだ? アンタは今やこの街の住民だろうに、何で異邦人……それも『預言者』サマに喧嘩を売ろうとしてる人間に」

 

「知ってるだろうが、下じゃ俺はメヒコの連中とつるむ機会が多くてね。当時は見下してたもんだが……」

 

 

此処ではない何処かを見る様に視線を宙に彷徨わせながら、深く椅子へと背を預ける老人。

その瞳には、年齢よりも更に年経た人間の如き疲れと諦観が滲んでいる。

そして、何者かへと向けた怒り、確かな嫌悪も。

 

 

「……此処での扱いを見りゃ、誰だってこうなる。まともな人間ならな」

 

「……ま、この時代の人間には難しいだろうけどね。アンタは時代を先取りした人間といえるかもよ」

 

「そんな大層な人間じゃない。只の腰抜けさ、俺は。人質を取って友人を撃ち、その経緯を本にして売って、小金を稼いでいたろくでなしだ」

 

 

深い後悔に満ちた、懺悔の如き言葉。

時計の振り子が時を刻む音だけが室内に満ちる。

やがて、ビリーは呟いた。

 

 

「だから……反体制派に肩入れしているのかい? ヴォックス・ポピュライに」

 

 

ビリーがカルデアからこの都市にレイシフトしたのは3日前の事だ。

カルデアとの連絡は繋がらず、しかも異なる人理に干渉した為か、顕現までの時間に差異が生じているらしい。

再会した仲間の内、最も早い者では半月程も前に顕現していたらしく、独自に調査および現地勢力との接触を図っていた。

自然、彼等が目を付けたのが、この都市『コロンビア』の支配者層に抗う抵抗勢力だったのだ。

 

ヴォックス・ポピュライ(人民の声)

それは、強烈な白人至上主義―――より正確には在コロンビア、アメリカ系白人至上主義―――の下に虐げられ、奴隷以下の家畜として搾取される他国民および有色人種。

使い捨ての労働力として下界より徴用され、人としての最低限の尊厳さえ奪われた彼等により構成される、指導者である黒人女性『デイジー・フィッツロイ』に率いられたコロンビアの体制破壊を目指す反乱勢力である。

フィッツロイの、彼等の最終的な目的は、コロンビア労働階級の解放と地上への帰還だ。

だが、これまで畜生以下の扱いを受け、比喩でなく『死ぬまで』働かされ続ける他ない彼等の憤怒と憎悪は、現体制からの解放だけで済むものではなかった。

 

1日16時間労働、休暇なし、病欠等の制度なし。

得られる報酬はコロンビアの通貨『シルバー・イーグル』ではなく、フィンク・マニファクチュアリング社内のみでしか使用できない特殊トークン(貨幣)

作業の遅れ、事故による操業中断、機材の不調によるラインの停止。

その全てに対し返されるのは、労働者への罵声と『見せしめ』の為の、複数人による警棒を用いての死ぬまでの殴打。

集団でストライキでも起こそうものなら、返されるのはマキシム機関銃による銃弾の雨か『ハンディマン』の機械の腕によるプレス。

 

労働者の家族たちは汚染された劣悪な都市の最下層に押し込められ、常に飢餓と疫病と犯罪に侵され、毎日の様に数十人、時には100人以上が死んでゆく。

痩せ衰え木乃伊(ミイラ)の様になった死体が其処彼処に転がり、病気に掛かった子供は一切の治療も許されずにただただ死を待つばかり。

子供の一食分にも満たない量の食料を巡って乱闘から銃弾の応報までが起こり、その食糧でさえも腐敗していない物の方が少ない。

ほんの少しでも待遇改善を訴えようものなら、貧民街の奥に要塞の如き威容を構えるコロンビア警察、フィンクトン本署から湧き出た警官―――という名の、重武装の兵隊―――たちによる容赦のない弾圧が始まる。

首謀者であろうとなかろうと、目に付いたものは捕らえられ、執拗な暴行の後にギロチンにも似た曝し台に繋がれ、そのまま餓死するまで住民への見せしめとして晒し者にされるのだ。

『押収品』と称し、数少ない生鮮食品や、漸く栽培に成功した野菜の苗木までもが根こそぎ奪われ、しかもそれらは食されるでもなく曝し台の前に積み上げられたまま放置され、餓えた住民達に腐敗してゆく様を見せ付けるのだ。

飢餓に追い詰められ、自分の為、或いは腹を空かせた子供たちの為に『押収品』へと縋ろうとすれば、待っているのは『取り調べ』と称した半ば娯楽交じりの拷問、それによる衰弱死か牢獄内での餓死の果てに焼却炉へと放り込まれる未来だけ。

このコロンビアに於いて労働階級とは即ち、旧アメリカ系白人を除く全ての人種、他国の人間で構成されるものであり、徹底的に使い潰し壊れれば放り捨て、足りなくなれば地上から補充するだけの消耗品、それ以外の何ものでもないのだ。

 

だからこそ、彼等の憎しみは底が見えない。

今でこそごく少数だが、既に先鋭化した一部の構成員たちはファウンダーズ(創設者たち)の兵隊に対する拉致監禁、拷問と殺害を繰り返している。

つい先日には、ファウンダーズ系住民の乗る区画間連絡船を襲い、乗客乗員26名全員を生きたまま空中へと放り出して『処刑』した。

遂に彼等は、非戦闘員までも標的とし始めたのだ。

 

ビリーは、指導者であるフィッツロイの思想は更に過激なものだろう、と睨んでいる。

彼女は元々、コロンビア指導者であるカムストックの屋敷に勤めていたメイドだという。

だが今や、ファウンダーズ界隈ではヴォックス・ポピュライ指導者という肩書とは別に、忌わしい異名が彼女に付き纏っている。

 

『カムストック夫人殺害犯』

ファウンダーズの憎悪を一身に浴びる事となった、最悪の犯罪者としての異名。

そして彼女曰く『身に覚えの無い』事件の主犯としての肩書だった。

 

ヴォックス内部では既に既成事実と化しているが、カムストック夫人を殺害したのは、フィッツロイ曰く夫であるカムストック自身であるという。

ある日、夫婦の寝室から激しく言い争う声が漏れ聴こえ、その翌朝にベッドで物言わぬ骸と化した夫人を見付けたのだと。

警察の取り調べも司法の介入も無く、ただ黒人であるというだけで犯人と断定され、その場で処刑されかかったところから決死の思いで逃げ出したという。

そして、フィンクトンに逃げ込んだ彼女は、其処で地獄を目の当たりにした。

何も知らず、只々メイドとして過ごしてきた少女は、今までの自分がどれだけ恵まれた環境に居たか、そして多くの労働者たちが如何なる諦観と慟哭の時を過ごしてきたかを学んだのだという。

そして彼女は、それまで組織立った活動からは程遠い、精々がストライキレベルの活動しかできなかった労働者たちを纏め上げ、コロンビアの体制をも揺るがしかねない一大抵抗勢力を築き上げたのだ。

 

ビリーは一昨日、フィッツロイと直接に顔を合わせている。

顔馴染みであったこの店の主人と、先に顕現し彼女の信用を得ていたアタランテの紹介によって、面会が叶ったのだ。

その際に見た彼女の目、その深淵に潜む(くら)い狂気に、己の背を奔った怖気をビリーは今でも覚えている。

フィンクトンに暮らす子供達の惨状に激昂し、フィッツロイの思想に傾倒しつつあるアタランテは気付かなかったのだろうか、或いは気付いてなお子供たちを救う為に目を瞑っているのだろうか。

あれは、体勢の打倒、労働者の解放で済むタマではない。

もっとおぞましい、救い様の無い惨劇を渇望する者の目だった。

今は武器が不足している為に、抵抗活動は小規模なものに止まっている。

だが、この店の主人によれば、数日中にもフィンクトンの中国人ガンスミスから、大量の銃器がヴォックスに齎される手筈となっているという。

その時にこの都市で何が起きるか、ビリーは半ば確信じみたものを抱いていた。

 

 

「……牧場主時代からの知り合いが居てな。アイルランド人だったが……見る影も無かったよ。あの筋肉の固まりが、枯れ木みたいに痩せ細っちまってたんだ」

 

 

呟く老人の声は弱々しい。

それは、あまりに悍ましく、無慈悲な現実を目の当たりにしたが故のものだろうか。

 

 

「気の良い奴でな、人懐っこくて所帯も持ってたんだ……だが、奴の息子はフィンクの工場で倒れ、リンチを受けて半身不随、おまけに頭を割られた後遺症でイカレちまった。女房はそんな息子に何とか食い物を持ってこようと、警察の押収品に手を出してな……警官どもに玩具にされて、挙句にゴミ溜めに捨てられてたそうだ」

 

「……ソイツ自身は?」

 

 

無言のまま、老人はカウンターの下に手を伸ばし、手にした物の一部を覗かせる。

ショットガンのグリップだ。

そして、言い放つ。

 

 

「『予言者に、フィンクに血の報復を』……彼の遺言だ」

 

 

ビリーの背に奔る怖気。

老人の目は、あのフィッツロイと同じ(くら)さを湛えていた。

生前からの知己だが、こんな目は始めて見る。

何かを、誰かを呪い、恨み、死を願う者の瞳。

アウトローとしての多少利己的な面はお互い様だったが、これ程までに他者へと負の念を向ける彼を目にした事は無かった。

居た堪れず、視線を逸らすビリー。

そのまま、カウンター上に置かれていた愛銃サンダラーの弾、傍らに立て掛けておいたカービンとその弾薬を足下のバックに入れる。

其処に、声が掛かった。

 

 

「ソイツも持ってきな、()()()()()。お前さんの腕なら、ハンディマンの心臓にブチ込む事なんぞ朝飯前だろう」

 

 

言いつつ、老人は弾薬の紙箱をカウンターに滑らせる。

それはカウンター上に置かれていた、先程のリボルバーの側で止まった。

その様を横目に捉えつつ、ビリーはからかい混じりの口調で言い放つ。

 

 

「その名で呼ばれるのは久し振りだ。もうキッドとは呼ばないのかい?」

 

「言ったろ。俺にはもう、その権利は無い」

 

 

それだけを言うと、老人は手にした新聞を広げ、もうビリーを見る事はなかった。

その様に、ふと少しばかりの寂しさの混じった笑みを零すビリー。

彼もまた老人に背を向け、バッグを担ぐ。

そして、別れの言葉を放った。

 

 

「達者でな……『ギャレット』」

 

 

本来ならば、この年の4年前に死んでいる筈の男の名。

歪んだ歴史の果て、異なる人理の下の1912年に於いて、この空に浮かぶ都市で銃砲店を営む老人。

悪漢ビリー・ザ・キッドを仕留めたアメリカ西部開拓史上に残る名保安官であり、最後は土地に関するトラブルから、皮肉にもビリーの時と同じく待ち伏せによって人生の幕を下ろされた男。

旧友『パット・ギャレット』に、ビリーは別れを告げた。

ドアに付けられたベルを鳴らし、店を後にする。

その背に掛けられた声を、彼は確かに聞き留めていた。

 

 

「死ぬなよ、キッド」

 

 

 

■   ■   ■

 

 

 

「モニタリングはまだか!?」

 

「駄目です、常時接続が確保できません! 断続的な受信で精一杯です!」

 

「精一杯で済むか! 炉心出力は!?」

 

「67%、なおも上昇中!」

 

「遅い!」

 

 

鳴り止まない幾種もの警告音の中、苛立ちに任せコンソールを叩く。

その際に前進に奔った激痛に、思わず呻くダ・ヴィンチ。

彼女は強制レイシフトに巻き込まれる事はなかったが、同時に発生した膨大なエネルギーの放射と衝撃波を浴び、全身の3割近くに重度の火傷を負っていた。

だがそれでも、彼女には休んでいる暇など無い。

レイシフトに巻き込まれた2人のマスターとマシュ、そしてサーヴァントと彼等の関係者、分隊との連絡が付かないのだ。

彼等がレイシフトを果たした事は確認済みだが、カルデアとの時間軸の同調が為されていない為に、対象人理への到達時間には大幅な乱れが生じている事が予測された。

なればこそ1分1秒でも早くカルデアとの時間軸同調を確保し、此方から支援するなり増援を送るなりせねばならないのだが、その為の魔力が不足しているのだ。

既に秘匿していた凝集魔力は使い果たし、魔力炉心たる『プロメテウスの火』は未だ凍結からの完全な再稼働を果たしておらず、最大出力には程遠い。

このままではレイシフトメンバーとの通信確保さえ、何時になるか知れたものではなかった。

 

 

「マーリン、どうにかならないか!」

 

『無茶言わないでくれ、僕も限界さ!』

 

「炉心出力68%!」

 

 

埒が開かなかった。

出力が70%を超えて暫くすれば、上昇率は更に減衰を始める。

そうなれば、必要出力への到達も遅れる事となるのだ。

どうにもならない状況に、ダ・ヴィンチは歯噛みする。

『増設区』からの通信を示すウィンドウが展開されたのは、その時だった。

 

 

『ダ・ヴィンチ所長、宜しいでしょうか』

 

「何だい、他の用件なら後にしてくれ! 今は……」

 

『単刀直入に申します。シバ、カルデアスへの魔力供給を()()供給にシフトして頂きたい』

 

 

瞬間、管制室が静まり返る。

今、彼等は何と言ったのか。

 

 

「……もう一度、言って貰えるかい」

 

『シバ及びカルデアスの維持を電力で行う事を具申しております』

 

「馬鹿も休み休み言え!」

 

 

激昂した。

この状況で、できもしない事をぶち上げる科学者連中に、ダ・ヴィンチは我を忘れんばかりに怒声を張り上げる。

他のスタッフはといえば、手元こそ休む事なく動き続けてはいるものの、唖然とした様子を隠そうともしない。

それ程までに『増設区』からの提案は現実離れしたものだった。

 

 

「魔力も無しにどうやってカルデアスを維持するというんだ!? そんな事が可能なら初めからプロメテウスの火など用意しない! 幾つの原子炉をどれだけの期間稼働させた分の電力が必要か知っているのか!?」

 

『此方の炉心ならば可能です』

 

「君たち御自慢の炉心の能力は厭というほど知ってるさ! 大した技術だが、それでも到底足りないね! そもそも電力のみでカルデアスを回そうなんて、世界中の原子炉を独占しても……」

 

「カルデアス、機能回復! 全観測機器が正常復帰、精度最高値!」

 

 

数瞬の思考停止、後に愕然とするダ・ヴィンチ。

全ての警告音が止まり、出力不足と各種センサーの機能停止を訴える赤や黄のホログラムブロックが、残らず消失していた。

機能の正常復帰を示す表示と、特異点の情報パネルを伴って自転するカルデアス。

人理観測機能、完全復旧。

 

 

「何を……したんだ?」

 

 

天才故、即座に現状を理解したダ・ヴィンチ。

しかし、それを瞬時に受け入れられるかと問われれば、それができる程にまで人間性が希薄な訳ではなかった。

カルデアスは故マリスビリー・アニムスフィアが心血と天文学的な財力を注ぎ込み完成させた、科学と神秘、人類の叡智と人ならざる神秘の奇跡的な融合の果てに生み出された、文字通り唯一無二の至宝だ。

それを、未だ得体の知れない―――彗星の如く現れた、巨大多国籍企業だとしても―――単なる一企業が生み出した、純粋な科学からのみ成る技術力で以って掌握されるなど、到底に受け入れ難い事象だった。

カルデアスの消費電力を単体で賄える程の発電量を有する炉心、それだけでも疑う余地なく人類史に新たな産業革命を引き起こす、時代を遥かに超越した革新的技術である。

否、もはや次元が違うと言い表すべきか。

 

カルデアスの維持には、言うまでもなく魔力炉心『プロメテウスの火』から齎される魔力、即ち『マナ』が用いられている。

電力は副次的なシステムの維持に用いられているに過ぎず、にも拘らずプロメテウスの火を励起させるには最新鋭加圧水型原子炉(P W R)3基分もの電力を要するという、まさに金と電気を喰らい尽くす底無し胃袋の怪物だ。

今回の査察に面して一旦は炉心の火を落とし、しかし今こうして迅速に再稼働できたのは、偏にダ・ヴィンチがマーリンの協力の元バックアップとしての大容量エーテルバッテリーを作成し『増設区』の協力の下に隠匿していた事、ジェニシスによる完全自動管制による再稼働プロセスの超高速処理があってこそだ。

だが、プロメテウスの火より齎される魔力でのカルデアスの維持までを含めた、全てのシステムを電力のみで賄うとなると、話は違ってくる。

魔力炉心の励起だけで3基もの最新型PWRが必要だったというのに、カルデアスそのものの維持となると全世界の原子炉を総動員して、それでも不可能と断言できるだけの電力が必要となるのだ。

ダ・ヴィンチのみならず、真剣にそれを検討したエジソンとテスラ、更に神秘側のオブザーバーとして参加したエレナとパラケルスス、メディアと孔明の6人までもが不可能であると断言した。

電力だけでカルデアスの維持管理を行うという案は、荒唐無稽と言う他ないと。

 

だが、彼等はそれをしてみせた。

よりにもよってカルデア正規スタッフ面々の目前で、今この瞬間に。

一向に上がらないプロメテウスの火の出力を嘲笑うかの様に、別系統から供給されたと思しき膨大な電力によって、カルデアスは一瞬の内に安定した。

そして、魔力炉心からの供給量を示す値は、今や完全に『0』となっている。

カルデアス、電力供給単体にて稼動中。

 

 

「そんな、何時の間に……こんな……」

 

 

呻くスタッフ。

その顔にはうっすらと汗が浮かび、動揺と得体の知れない事象に対する恐れが明確に浮かんでいる。

当然の事だ。

カルデアスが電力のみで稼動しているという点、それが示すところはひとつ。

全世界の原子炉を合わせた以上の出力を誇る発電システムが、このカルデア所内に存在しているという事実である。

考え得る候補は1つだ。

 

『KPリアクター』

レイレナードより齎された、詳細不明の発電システム。

カルデアにとって完全なブラックボックスであり、元から備わる3基のPWRを完全に無用の長物と化した代物である。

グランド・オーダーの最中から常軌を逸した出力を示してはいたが、此処にきて従来のシステムとは次元の異なる発電能力を露にしたという事か。

 

だが、皆が戦慄しているのは、発電量という点のみではない。

それ以前の問題だ。

物理的に有り得ない、不可能である筈なのだ。

カルデアスに電力を供給するシステムなど、()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

「改変、したのか? カルデアスを、システムを勝手に? 何時の間に!」

 

『改良は第五特異点の修復中に完了しました。事後報告となった点についてはお許し願いたい』

 

「そういう事じゃない! 一体どうやって、何の為に……!」

 

『エネルギーソースを魔力のみに依存することはリスク、及び重大なインシデントに繋がる可能性が大きいと、当社チームは判断しました。よって万が一の事態に備え、供給系統とカルデアスの見直しを行ったものです』

 

「馬鹿言うな、1秒だって途切れる事なくモニタリングされていたんだぞ。どうやって……」

 

『申し訳ありませんが、機密に係わる点についてはお答え致しかねます』

 

「戯言を……!」

 

 

ふざけた物言いに激昂し掛ける女性スタッフ。

先方は悪びれる様子など欠片も無いが、人理焼却という人類史そのものの危機を回避する為の作戦の最中に於いて、作戦の基幹システムであるカルデアスを無断で改変したと言っているのだ。

彼女のみならずカルデア正規スタッフであれば誰であれ激昂するであろうし、サーヴァントの面々も一様に良い顔はしないだろう。

危険因子と看做して、独自に排除に掛かる者さえ居るかもしれない。

おまけにこの状況で、機密に係わる事には答えられないとほざく始末。

人理焼却の最中もそうだったが、本来の人類史が消失したに等しい現状では寄る辺(本社)存在意義(市場)、本来の生存競争の相手(競合他社)など存在しない事を、彼等は理解しているのだろうか。

 

 

「歴史を丸ごと上書きされようって時に機密だって!? 正気か君たちは、今は外部の指揮系統なんて存在しないんだぞ! 作戦が失敗すれば……」

 

『これは本社……いえ、『アライアンス』の意思と思って頂きたい』

 

 

アライアンス(同盟)

その名称を言い放つ際に、通信の向こうで相手が言い淀んだ事を、その場の誰もが察知していた。

それを聞いた一同も、各々に複雑な、或いは僅かに不快げな表情を浮かべる。

 

人理修復作戦『グランド・オーダー』完遂後、人理継続保障機関フィニス・カルデアは『買収』された。

恐らくそうなるであろうとは、作戦中から想定されていた事態だった。

買収元が何処となるかも明確で、グランド・オーダー完遂に大きく貢献してきた『増設区』の1チーム、その派遣元である『Rayleonard(レイレナード)』による買収に落ち着くと半ば確定していたのだ。

予想外といえば、レイレナード単体による買収ではなく、彼等と密接な関係にある新興企業『Akvavit(アクアビット)』との共同買収という流れになった事、それ位だろうか。

 

スウェーデン・ストックホルムに本社を置く、このエレクトロニクス特化企業は近年、北欧から欧州全体へと市場支配の規模を広げつつあり、特に電子製品の性能に関しては競合他社を大きく引き離している。

バルト三国を含む北欧諸国の防衛分野への進出が著しく、更に北大西洋条約機構(NATO)の装備更新に大きく関与した事で一気に軍事企業としての地位を高めた。

この企業の出現に危機感を覚えた欧州各国の老舗軍需産業企業群は、ドイツ系財閥の号令の下に統合軍事企業『Rosenthal(ローゼンタール)』を結成。

中東から欧州市場への参入を狙う、同じく新興のイスラエル系統合軍事企業『OMER Science Technology(オーメル・サイエンス・テクノロジー)』を巻き込み、真っ向から競合する構えを見せている。

因みにイギリス産業界はこの呼び掛けに応える事なく、自国内の財閥が中心となり『Bernard and Felix Foundation(B F F)』を結成しており、大陸側の多くの老舗メーカーから顰蹙を買っているものの、一行に気に留める様子は無い。

とはいえ、発起人たるドイツ国内でもローゼンタールから距離を置き、イタリア系の一部企業と共同で独自の軍事企業共同体を構築しようとする動きがあり、アクアビットを除く大陸側欧州軍事企業の全てが協調している訳ではない。

 

ともかく、このアクアビットの台頭を発端として、欧州軍事市場が激動の時代を迎えている事は確かだ。

しかも、この動きに触発されたのか日本やインド、アメリカでも産業界での統合の動きが加速しており、世界は人類史上初ともいえる規模での超巨大非国家主体組織が乱立する時代を迎えつつあるという観測さえ出始めている。

因みに、ロシアは国営企業への管理強化を通じた保護へと舵を切り、当の企業群から反発を受けている真っ最中だ。

中国も中央の各派閥や軍区同士の利権闘争が絡む事によって技術者の流出を招いており、更に党からの独立を目論む企業と政府との衝突も重なって国家全体の疲弊を加速させている。

古くから続く名家を中心とした、各国行政を巻き込んでの財閥間統合の動きも欧州で起こったが、此方は急激な統合の動きに対応できず混乱、更に経済活動の妨げになると判断したアクアビットとローゼンタールの工作により瓦解してしまったらしい。

 

そんな国際情勢の中での、巨大新興企業2社によるカルデアの共同買収。

時計塔、アトラス院は人理修復後の混乱の中で形式的な報告要求をしたのみ、彷徨海は相変わらず我関せずの姿勢。

聖堂教会も、後に国連に便乗する形で査問を求めたが、結局はその国連が何らかの理由で査問を取り止めた為に、単独で代行者を派遣する事となってしまった。

そして、誰もが問題なく進むと考えていた中、想定外の事態が発生する。

新たな組織が、買収に名乗りを上げたのだ。

それは、各地域の経済界で勢力図の再編が進む中、技術力や資本の不足によって統合の流れから弾かれ、或いは注目されるべきものを持ちながらも大手による買収の網から零れて機会を失った、中小企業や衰退企業の集合体。

其処に、経営統合後の指導者となり得る独自の主力企業を欠く南米、将来的に単なる資源供給地帯と成り下がる事態を恐れるアフリカやオーストラリア、統合計画を阻まれた中国やロシアの企業群が参画した、先進技術および革新技術の調査・開発を目的とした非国家主体経済的共同体。

その名は、実に単純かつ簡素なもの。

 

 

 

 

 

Foundation(財団)

前触れも無く突如として現れた彼等は、新たにカルデアの買収に名乗りを上げたのだ。

 

 

 

 

 

この、全く予期しなかった巨大組織の登場とカルデア買収交渉への参入に、レイレナード及びアクアビットは大いに混乱した。

財団に対しあらゆる方面から調査を行ったものの、その発生経緯に関する情報収集は芳しくはないらしい。

らしい、というのもカルデアの面々には限定的な情報しか齎されておらず、更に教会や協会、ホームズやモリアーティでさえ有用な情報を掴めなかった為だ。

レイレナードやアクアビットもそうだったが、財団の創設には奇妙な点が多々ある。

何よりも、各地の勢力統合の中心となった組織、或いは人物の姿が全く見えてこないのだ。

ただ、どんな手品を使ったものか、結集した各組織の財力を自由に動かし、財団は瞬く間にレイレナードに並ぶ買収元の有力候補となった。

これに危機感を覚えたらしきレイレナードは買収額を釣り上げたものの、財団は問題なくこれに対抗。

幾度かの応報の後、これ以上の消耗戦は無為と判断したレイレナードが共同買収への参画を呼び掛け、財団がこれに応じた。

更に、買収に興味を示しながらも資本の不足により事の推移を見守っていた企業群が、共同買収への参画に名乗りを上げたのである。

 

ジェニシスの開発元である『Cyberdyne Systems Corporation(サイバーダイン・システムズ)

サイバーダインと先進医療技術開発で提携する『Murkoff Corporation(マーコフ・コーポレーション)

幻想種のみを選択的に15秒前後で絶命させる強毒性ウィルスを生み出した『増設区』の研究チーム、その派遣元である『Gentek(ジェンテック)

北米に於ける次世代インフラ管制システム開発競争、その雄にしてサイバーダインとも関係浅からぬ『Blume Corporation(ブルーム・コーポレーション)

 

他多数の企業が、共同買収に参画する事となった。

主な決定権を有するのはレイレナード、財団ではあったが、参画企業が激増した事もあり、カルデアの運営に於ける利害調整機関が設けられる事となったのだ。

それが『アライアンス(同盟)』である。

アライアンスはカルデアの運営そのものに注文を付ける事はなく、各社が所内にチームを派遣する、或いは研究をアライアンス内の他社のチームに委託すると、正式にダ・ヴィンチを新所長として就任させた。

そして、今に至る。

 

 

「……この状況でも企業間で腹の探り合いかい。それで空飛ぶ都市やらナチスに対抗できるとでも?」

 

『アライアンス一同、カルデアの任務への協力は惜しみません。しかし、その為に核心技術の中枢を明け渡す事は、各社ともに致しかねるとご承知願いたい』

 

「それで私達の知る人類史が永久に失われてもかい。歴史が元に戻らなかったら、君たちの給料を支払う会社だって跡形も」

 

『トロントの()()と通信が繋がりました』

 

 

ダ・ヴィンチの言葉を遮る様に放たれた言葉は、今度こそ管制室の空気を止めた。

誰かが息を呑む音が、いやに大きく響き渡る。

それ程までに、信じ難い言葉だった。

 

 

「……本社?」

 

『我々、レイレナードの本社施設です。有事に備えてシェルター構造を取っており、今回の人理改竄に於いても磁場により外界から隔離されております』

 

「まさか、人理焼却も」

 

『残念ながら、連絡を取る事までは叶いませんでした。しかし、データのフィードバックは昨年の4月に完了しており、こうしてネットワークの確立を……』

 

 

続く言葉は、殆ど耳に入らなかった。

否、入ったところで大して価値のある情報ではなかった為、自然と淘汰されたというべきか。

だがそれだけでなく、ダ・ヴィンチの頭脳を以ってしても理解の及ばない事象が相次ぎ、余計な情報を遮断する必要性があったという面もある。

 

魔術協会でもない一企業が独自に人理焼却に抗い、人理修復中のカルデアに探知される事もなく存在していた。

それだけでなく、人理改竄が為されたこの状況下に於いても自らの存在を保ち、しかもカルデアとの通信を可能としている。

これは、性質の悪い冗談だろうか。

 

 

『……以上の様に、各州の拠点も健在です。カウントダウンパーティーが開催されていた事は不幸中の幸いで、社員とその家族も多くが拠点内に』

 

「……そうかい、そりゃあ良かった」

 

『ブランドンの食料プラントからの各拠点への供給を考慮すれば、リソース面での耐久限界はほぼ考慮せずとも良いでしょう。しかし生存者の精神面、経済的疲弊を考慮すれば5年程度が限度と』

 

「供給?」

 

 

此処で、ダ・ヴィンチは違和感を覚えた。

ブランドンとは確か、カナダはマニトバ州の都市であった筈だ。

其処に食料プラントがあり、豊富な食料を得られるとして、どうやって各拠点へと供給するのか。

まさか、拠点間の移動方法があるとでもいうのか。

 

カルデアそのものが陥落する事態に備え、ダ・ヴィンチたちも切り札を用意してはいた。

虚数潜航艇『シャドウ・ボーダー』

アトラス院が構築した虚数観測機『ペーパームーン』を搭載した、簡易型異動拠点ともいえる装輪重装甲車だ。

ペーパームーンを利用した虚数空間への潜航機能『ゼロセイル』を有するこの車両は、レイシフトの実証成功と同時に見向きもされなくなった未完成の代物であり、長年に亘って格納庫の隅で埃を被っていただけだった。

それを、ダ・ヴィンチとホームズを中心に幾人かのサーヴァントが協力し、潜航後の自律移動こそ不可能なものの緊急脱出手段として一応の完成に漕ぎ着けたのだ。

そして、その存在が必要とされる事態が訪れない事を願いつつ、ただ静かに隠匿されるべき車輌であった。

 

運が悪かったのだろうか。

或いは『造設区』の連中に目を付けられたのが運の尽きだったのか。

各研究チームによって過剰な程の実験兵装を搭載されたシャドウ・ボーダーは、完全自律制御にて第七特異点、バビロニアの地へと送り込まれた。

空間歪曲によって確保された内部空間一杯に複数種のジェネレーターと弾薬を積み込み、並み居る魔獣を蹂躙。

撃ち殺し、轢き潰し、焼き尽くし、消し飛ばした。

多大な戦果にも拘らず、ウルク市民の評判、及び賢王たるギルガメッシュからの評価は辛辣なものだったが。

 

比喩でなく心が無い機械という事実は、特定の状況下では実に有効に作用するものだ。

英雄とはいえ多くのサーヴァント達でさえ、元は庇護すべき対象であった人々の成れの果てであるラフムへの攻撃を大なり小なり躊躇する中、無人のシャドウ・ボーダーは一切の躊躇も容赦も無く、それらを駆逐していった。

管制室に詰めるスタッフが、状況の推移を見守っていたサーヴァント達が、余りの容赦の無さに思わず視線を逸らす程の虐殺劇。

吹き荒れる銃弾と光学兵器の嵐に、尾を引く無数のミサイルの排煙、一帯に散布される対幻想種用有毒ガスと高次分解性ウィルス。

荒れ狂う陸の戦艦と化し、距離を問わずにあらゆる形の死を撒き散らす、金属の死神。

カルデアにとってのノアの箱舟にならんとの願いを込められた車両は、得体の知れない科学者たちの手によって強大な殺戮機構と化したのだ。

よりにもよって、僅かとはいえティアマト(人類悪)に修復困難な手傷を負わせた際など、ダ・ヴィンチとロマニが共に椅子を蹴倒して立ち上がった程だった。

そして先日、聖堂教会査問官と民間軍事会社、所属不明サーヴァントによる襲撃を受けた際にも、シャドウ・ボーダーは自律反撃を行っている。

格納庫周辺設備の甚大な被害と引き換えに、数百名もの敵兵を瞬く間に殲滅したのだ。

大した損傷も無い事から、一方的な攻撃に終わったのだろう。

装甲の温度がほぼ絶対零度にまで低下したという記録には首を傾げたが、恐らくは敵サーヴァントによる攻撃だろうと推測されている。

ともあれ、人理が改変された中で拠点から拠点へと移動する手段など、このシャドウ・ボーダー以外には存在さえ危ぶまれるものだ。

だが、先程の『各拠点への供給』という言葉の意味するところが、ダ・ヴィンチの思考と一致するところならば、どうか。

答えは、すぐに齎された。

ただし、彼女の予想を大きく裏切る、そして更なる驚愕を齎す言葉によって。

 

 

『ところで所長。ひとつ、弊社からカルデアへの提案があるのですが』

 

「何だい」

 

 

嫌な予感を覚えつつも、ダ・ヴィンチは先を促す。

続けられた言葉は、今度こそ彼女の思考を完膚なきにまで凍結させた。

 

 

 

 

 

『弊社()()()()による、都市と空中戦艦に対する()()()()を提案いたします』

 

 

 

 

 

 




異聞帯(ロストベルト)にて回収された日記の断片 管理No.002】



『―――襲撃は第一歩から頓挫した。
 所員の脱出を阻止する為に、格納庫を無力化すべく攻撃を開始した直後、コンテナの陰から機銃掃射を受けた。
 猟兵たちは一瞬の内に壊滅し、彼女の宝具は装甲を凍らせる事はできても銃座を止めるには至らなかった。
 何とも情けない事に、カルデアの人員を殲滅する為に侵入した僕たちは、逆に所内を逃げ回る羽目に―――
 
 (中略)
 
 ―――アナスタシアの容態は良くない。
 サーヴァントとはいえ、腹部を内部から爆破されたのだ。
 傷は回復してきているとはいえ、霊基の損傷まではそう簡単に癒せない。
 だが、肉体や霊基の傷だけが問題なのではない。
 精神的な傷が尾を引いている。
 信じ難い程に非情な奴等だ。
 恐らくは、彼女の最期がどの様なものだったかを承知の上で、態々銃を見せ付けてから発砲したのだ。
 彼女が銃に対して深刻な心的外傷を持っている事を見越した上で、あの特殊弾を―――
 
 (中略)
 
 ―――異聞帯は完全に隔離された様だ。
 此方から観測できる範囲の汎人類史では、信じ難い事だが都市が空に浮かび、ナチスやエイリアンが我が物顔でのし歩いている。
 そして僕たちは汎人類史を否定するどころか、異聞帯ごと切り離された上で弾き出され、こうして自らの支配域の環境に苦しめられている。
 一方でどういう訳か、雷帝は深い眠りに落ちたまま、一行に目覚める気配を見せなくなった。
 それどころか『神』でさえ音沙汰が無くなる始末だ。
 まるで、何かに怯えているかの様に。
 だが何に?
 『神』ともあろう存在が、何を恐れる?
 ベリルが言うには、あのエイリアンどもを恐れているのではないかという事だ。
 奴等は何か『神』と関わりがあるのだろうか、それとも―――』
 
 
 
 
 
異聞帯(ロストベルト)にて回収された日記の断片 管理No.014】
 


『―――エイリアンどもの襲撃が止んで2週間になる。
 だが、状況は何ら好転していない。
 雷帝も本能的に危機感を覚えているのか、オプリチニキの補充は幾らでも利くが、戦力として数えるのはもはや無謀だ。
 ()()どころか、魔獣に至るまで数は減る一方。
 僕も片腕を失い、アナスタシアももはや戦場で通用する戦力ではない。
 何より、彼女をあんな場所に送り出したくない。
 あんな、生命の価値が何ら意味を持たない場所に―――
 
 (中略)
 
 ―――ヴォーダイムとの連絡が途絶えた。
 信じ難い。
 ヒナコに次いで2番目だ。
 オフェリアは錯乱しているが、他の面子も内心では動揺しているだろう。
 ヴォイドはどうだか知らないが、以前の負傷が治る様子は無い。
 そして、ペペのあの報告。
 正体不明な巨大な『塔』の存在と、其処から湧き出る異形の兵器たち。
 もしあれが本当なら、エイリアン共を殲滅した機械兵器どもの出処が判明した事に―――
 
 (中略)

 ―――今のところ攻撃を仕掛けてくる様子は無いが、城の周りをうろつく馬鹿みたいに巨大なヘリに、アナスタシアは怯えている。
 クレムリンの離宮にも匹敵する巨体が、多い時には5機以上も群がってくるのだ。
 ローターの振動だけで内装が揺れ、外装が剥げ落ちている。
 攻撃は控えているが、したところで通用するとは思えない。
 奴等の兵器を攻撃した事はあるが、恐らくは魔術も宝具も全く効いていなかった。
 大型魔獣用の砲弾もあっさりと跳ね返された。
 奴等の目的は何だ?』





異聞帯(ロストベルト)にて回収された日記の断片 管理No.■■■】
 


『神は間違えている。
 汎人類史を滅ぼすのは、エイリアンでも僕たちでもない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 人は■によって滅びるのだ』



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