遊戯王ARC-V107シンクロ次元タキオン伝説 作:ふぁみゆ
ユウカが扉を開けると目の前にはメガネをかけ温かそうなマフラーを巻いた少女、マリーがいた。マリーはいつもと同じようにユウカに笑顔を向け、挨拶をする。
「…、朝早くにごめんなさい。知り合いからね。美味しそうなパンをもらったから良かったら一緒にどうかな?と思って」
見ればマリーの手には紙袋が握られていた。紙袋は中にある何かに押し広げられて、膨らんでいる。恐らくその中にはパンが入っているのだろう。友達が持ってきてくれたご馳走、ユウカはとても食べたかったのだが残念な事に朝食はもう用意してしまっていた。
「ごめんなさい、実は朝ご飯はもう用意してしまってて…。あ、でもせっかく来てくれたんだから入って。コーヒーくらいは用意するからさ。」
「ええ、なら、お邪魔するわ。」
そういって、ユウカはマリーをガレージに招き入れた。ガレージに入ったマリーはすぐにユウカの家の居候を見つける。ミザエルは麺をすすり終えたカップ麺のスープを一生懸命飲んでいた。静かにマリーはガレージにいる少年についてユウカに尋ねる。
「ねえ、あそこにいる彼って、もしかして…。」
「ん?ああ、まだ紹介してなかったわね。彼はミザエルくん、身寄りがないから、うちで引き取ることにしたの」
その会話に気づいたミザエルがカップ麺をちゃぶ台に置き二人の方へ行く。そして、マリーに頭を下げる。
「ミザエルだ。その、よろしく頼む。」
マリーはそんなミザエルを見下ろすとゆっくりと軽く頭を下げてミザエルに声をかける。
「ユウカの友達のマリーよ、よろしくね。」
マリーはミザエルに右手を差し出す。握手を求めているようだ。ミザエルもそれに応え自分の右手でマリーの右手を掴む。するとその瞬間ミザエルは右手に違和感を感じた。マリーの手に触れた途端、ミザエルの右手に何か電流のようなものが走る。なんだ?と目を見開くミザエル、しかし違和感は一瞬の物だった為気のせいかと思い握手の後手を引っ込めた。マリーが嬉しそうな表情でミザエルを見ていることに気づかずに…。
「さ、マリーもそこら辺に座ってて」
ユウカはそう言い残すと再び台所へ戻る。ちゃぶ台の前にはミザエルとマリーだけが残された。ミザエルは腰を下ろして胡坐をかく。マリーもゆっくりと腰を下ろし膝を曲げて座った。ミザエルはそのままカップ麺のスープを飲み始める。やはり相当気にいったらしくスープをすするミザエルの表情は本当に嬉しそうだ。するとマリーがミザエルに声をかける。
「宛てがないんですって?あなた、一体どこから来たの…」
「どこから来たか…。すまない、その、事情が複雑でなんと説明すればいいのか…」
マリーの当たりさわりのない質問にミザエルは口ごもってしまう。次元を超えてきたなんて話を突然しても信じてもらえるはずがない。むしろ、変な人だと思われてしまうだろう。
マリーはそこからさらに追求したりせず「ふ―ん」とだけ言ってその後は深く追求しようとはしなかった。ミザエルはマリーが気を使ってくれたんだと思い申し訳ない気持ちになる。しかし、マリーは唐突にこんなことをミザエルに言った。
「じゃあ、大変だったでしょ?文化も風習も違うでしょうし…」
「な!?」
ミザエルはその話に少し違和感を感じた。自分は次元が違うと言う話どころか遠くから来たことすら話していない。確かにこの次元に来てからデュエルや文化の違いからいさかいを起こしたりもしたが、なぜ彼女がそれを知っているのだろうか…。
マリーを怪しむミザエル。マリーはそんなミザエルにさらに話かける。
「まあ、そのおかげで私は力を手に入れることができたわけだけどね…」
「!?、なんだと!?」
「マリー、お待たせ。」
マリーの言葉にミザエルは驚く。そしてすぐに聞き返すのだがタイミング悪くユウカが戻ってきてしまった。マリーはミザエルの言葉には答えずにユウカの方へ向き直る。ユウカに心配をかけるわけにはいかないのでミザエルもそれ以上追求はできない。
ユウカはちゃぶ台の上に3人分のコーヒーを置いてから自分も席に着く。マリーも袋からパンを出しちゃぶ台の上に広げる。
「いつも悪いわね。何かあったらこっちにも持ってきてもらって」
「なに言ってるのよ。困った時はお互いさまっていつも言ってるのはユウカじゃない。」
「そうだっけ。あ、ミザエルくんも食べて…」
「え、ああ、すまない。」
パンを食べながら三人は談笑を始める。ミザエルは先ほどのマリーの言葉が引っかかているのかややぎこちなく相槌をうつ。パンを食べながらみんなで何気ない会話を交わす。すると、マリーがこんなことを言いだした。
「そういえば、もうすぐね、フレンドシップカップ。」
「………。」
その言葉を聞いたユウカの手が止まった。突然の様子の変化に驚き、その原因となった単語を気にしてしまう。
「フレンドシップカップ?何かの大会か?」
「あら、ミザエル君それも知らないんだ。」
フレンドシップカップはトップスとコモンズの交友の証として一年に一度開かれている大会だ。コモンズの出身であっても平等に出場機会が与えられ、優勝すればデュエルキングの称号が与えられる。コモンズにとっては夢のような大会でこの次元の人なら知らない人はいない。
ミザエルもマリーから大まかな大会の概要を聞き内容を理解する。
「そうか、ならばコモンズのデュエリストは多くの人がその大会を目指しているというわけか…。」
「違う!」
ミザエルが考えたのはごく一般論。デュエリストであれば大きな大会で結果を残したいと思うのは当然のこと。おまけにコモンズに人ならば大会で優勝すれば今の生活を大きく変えることが出来る。ならば、誰もが大会を目指しているというミザエルの考えはデュエリストとしては当然の考えだ。しかし、その言葉をユウカは明確に否定する。いつもは落ち着いているユウカが声を荒げてしまうほどに。
「あの大会はそんな夢のような大会じゃない…。あの大会に優勝しても…、ジャックは…。」
思い詰めるようにうつむくユウカ、ミザエルはどうしていいか分からずにうろたえる。そんなミザエルにマリーが説明を始めた。
「フレンドシップカプで負けた人は地下の施設で強制労働を強いられるの。コモンズでもトップスでも関係なくね。日の当たらないくらい地下で死ぬまで働き続けることになるわ…。」
「強制労働だと…。デュエルに負ければ全てを失うことになるとでも言うのか?」
「ええ、その通りよ。あなたは知らないでしょうけど…、このシティにはね、敗者が全てを失うのが当然だって言う考えが深く根付いてしまっているの。それに、コモンズの場合勝ってもただでは済まない…。」
マリーはガレージの壁に視線を移した。ミザエルがマリーと同じ方を見て見るとそこには一枚のポスターが張られていた。
デュエルキング ジャック・アトラス
白いジャケットを着た長身の男がカードを片手に堂々と立っているポスター。そこにはフレンドシップカップ三連覇と書かれている。
「今のデュエルキングはね、私達の仲間だったのよ。」
「!」
「彼が優勝した時には私達もとても嬉しかったわ。でも、優勝してキングになったことで彼はコモンズの人々からさげすまれることになってしまったの。コモンズを捨てた裏切り者だってね…。もちろん彼はキングになったからと言ってコモンズをないがしろにするような人じゃない…。」
真剣な表情でミザエルはマリーの話を聞く。そのままマリーは話を続けようとするのだがそこでユウカが口を開く。
「でもフレンドシップカップに出たことでジャックはコモンズとトップスの間で板挟みになってしまったの。ジャックはコモンズの人からもトップスの人からも疎ましがられることになってしまって…。」
気持ちを落ち着かせる為に珈琲を飲み干すユウカ
「勝ったら強制労働、負けたら一人ぼっち、あの大会はそういうものなのよ。」
「…、まさかこの次元がそんなことになっていたとは…。その現状を変えようとするものはだれもいないのか?」
「…、おかしいと思っている人はたくさんいるだろうけど、世界を変えるだなんて…」
この次元の現状を知ったミザエルはその状況を憂う。部外者でありながらもどうにか出来ないかと思案するも出てきたのはあまりにも他力本願な意見。口に出しながらミザエルはナンバーズの守護も出来ず新しい世界の問題にもなんら解決策を見いだせない自分が恥ずかしくなる。
そんなミザエルの気を知らずにユウカはただ何となく質問に答える。すると、二人のやり取りを聞いていたマリーが声をあげた。
「心配しなくてもいいよ。私が世界を変えてあげるから」
「マリー!?それってどういう…」
驚いたミザエルとユウカが同時にマリーの方を見る。マリーは珈琲を口にして平静を保ったまま言葉を続ける。
「そう、フレンドシップカップに出ようと思っているのよ。私…」
「マリー!?何を言っているの!?」
マリーからの突然の申し出。ユウカはすぐに反対の声をあげる。
「本気なの!?あの大会に出ればどうなるか、あなただって分かっているでしょう!!」
「ふふふ、そう大きな声を出さないで…。大丈夫私は負けないわ。」
ニタリ、とマリーが笑う。妖艶でどこか邪悪さを感じさせる笑い。その表情にミザエルだけでなく普段のマリーを知っているユウカでさえ、言葉を失った。
「私はね、力を手に入れたの…。誰にも負けない、無敵の力をね…。だから、もう大丈夫。歯向かうものを全て倒し、私がこの世界を変えてあげる。」
マリーはゆっくり立ち上がり出口へ向かって歩き出す。
「ご馳走さま。珈琲、ありがとね…。」
そのまま、ガレージを出て外へ出て行った。
「待て!!」
「!、ミザエルくん!?」
ミザエルがすぐにマリーを追いかける。ユウカもミザエルが動いたのを見てから急いで外へ出る。しかし、外にはすでに二人の姿はない…。
まだそんなに遠くへは行っていないはずだがユウカは二人の姿を見失った。ならば二人はこの付近の路地裏に入ったはずだ。そう、あたりをつけたユウカは二人をさがして歩き始めた。
「二人とも、一体どこに…、あれは…。」
しばらく、細い路地を歩いていると一枚のカードが落ちているのを見つける。そのカードを拾い上げるユウカ。
「このカードは!」
そこに落ちていたのはミザエルの《No.107銀河眼の時空竜》のカードだった。
「急がないと!」
嫌な予感を感じたユウカはカードを持って慌てて走りだした。その時ユウカは気づいていなかった。手に取ったタキオンドラゴンのカードが唸り声をあげていたことに…。
遊戯王ARC-V