遊戯王ARC-V107シンクロ次元タキオン伝説 作:ふぁみゆ
『これで終わりだ!ジャックアトラス!!』
ここはコモンズ地区のとあるガレージ。無骨なコンクリート性の冷たい灰色の床に3人の子供たちが足を伸ばして座り、ある一点を見つめている。子供たちの視線の先にあるのは現代ではあまり見られない立方体をしたブラウン管性のテレビ。ところどころ錆がついており、すっかり色褪せてしまっているが、液晶画面は鮮明に映像を映し出していた。
放送されているのは広いサーキットと2代のバイク、そしてバイクの周りを飛ぶモンスターとカード。そう、バイクで走りながら行われるデュエル、ライディングデュエルの試合。ジャック・アトラスvs氷室 仁のデュエルだ。デュエルは終盤に差し掛かっている。現在は氷室のターンのバトルフェイズだ。氷室のライフは3000、フィールドには攻撃力1800の《マシンナーズ・ギアフレーム》と攻撃力2700の大型モンスター、《マシンナーズ・フォートレス》がいる。一方ジャックはライフポイントは4000あるものの、フィールドにモンスターは一体もおらず伏せカードが2枚あるのみ。氷室のモンスターの総攻撃を受ければジャックの負けが決まってしまう。テレビの前の子どもたちはその様子を緊張した面持ちで見つめていた…
『《マシンナーズ・フォートレス》でダイレクトアタック!!』
氷室はジャックへの攻撃を宣言。支持を受けたマシンナーズフォートレスが右肩のキャノン砲をジャックに向けて、狙いを定める。しかし、ジャックも黙ってはいない。マシンナーズフォートレスが引き金を引く前に伏せカードを発動した。
『リバースカードオープン!《皆既日食の書》!このカードの効果でフィールド上に存在するすべてのモンスターを裏側守備表示にする!!』
攻撃態勢に入っていた《マシンナーズ・フォートレス》も後ろで控えていた《マシンナーズ・ギアフレーム》も裏側守備表示になり、その姿を消す。
守備表示になったモンスターは攻撃ができない。そのため、氷室のモンスターは全て攻撃不能となった。フィールド全てに影響を及ぼす強力な速攻魔法、《皆既日食の書》。たがこのカードは効果が強力な分、大きなデメリットがある。
「ちっ、ならば、このままエンドフェイズに入るぜ。」
「《皆既日食の書》を発動したターンのエンドフェイズ時、この効果で裏側表示になった相手のモンスターを全て表側表示にする。そして、この効果で表になったモンスターの数だけ、相手はカードをドローすることができる。」
《マシンナーズ・フォートレス》
DEF.1600 ☆7
《マシンナーズ・ギアフレーム》
DEF.0 ☆4
姿を消していた二体のモンスターが氷室のフィールドに再び姿を現す。そして、氷室はカードをニ枚、デッキからドローした。これで氷室は次のターン、使えるカードが増えて、次の自分のターンでの切り返しの手段が豊富になった。
「俺はこれでターンエンドだ!」
「俺のターン!!」
ジャックはデッキの一番上からカードを一枚ドローし、ビシッ!と、手にとったカードを掲げる。スタンバイフェイズを挟み、メインフェイズに突入。ジャックは早々に動き出す。
「相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、《バイス・ドラゴン》は手札から、特殊召喚することができる!ただし、この効果で召喚した《バイス・ドラゴン》は攻撃力が半分になる!」
《バイス・ドラゴン》
ATK.1000 ☆5
「さらに!手札から、《ダーク・リゾネーター》を攻撃表示で召喚!」
《ダーク・リゾネーター》
ATK.1300 ☆3
ジャックのフィールドに二体のモンスターが並んだ。一体は、大きな口を持つ紫色のドラゴン。もう一体は音叉を右手に持った小さな黒い悪魔だ。その小さな黒い悪魔、《ダーク・リゾネーター》はチューナーモンスター。それを見た氷室は、何かに気づいたようにハッとした表情になる。
「合計レベルは…8!」
「レベル5の《バイス・ドラゴン》にレベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!」
《ダーク・リゾネーター》は右手の音叉を鳴らすと、3つの光の輪に変身する。そして、その3つの輪が一列に並ぶと輪の中に《バイス・ドラゴン》が入り込む。すると、今度は《バイス・ドラゴン》が小さな5つの星に変身し、光の輪と平行に一列に並んだ。
「王者の鼓動、今ここに列を成す!天地鳴動の力を見るがいい!シンクロ召喚!!」
星の列に一筋の光が差し込み、その光が輪の中で広がる。そして、広がった光の中から新しいモンスターが姿を現した。
紅蓮の炎とともに姿を現す、赤黒いの翼、3本の角、逞しい両腕に鋭い爪を持った悪魔のような姿の真紅のドラゴン…
轟く咆哮を上げて、氷室に向かい合った。
「我が魂!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!!」
ATK.3000
どんなデュエルでも凄まじい活躍を残すジャックのエースモンスター、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。その力はこの世界の誰もが知っている。それゆえに、氷室は気づいていた。今、自分がピンチに陥っておることに。
(落ち着け、まだ大丈夫だ。たとえ、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》に俺のモンスターが破壊されても、《マシンナーズ・フォートレス》は手札の機械族モンスターをレベルの合計が8になるように捨てることで墓地から特殊召喚ができる。さっきの《皆既日食の書》のおかげで、手札コストは潤沢にある。奴のエースモンスターが出たとはいえ俺の絶対的優位には変わりないはずだ!!)
頭を冷やし、冷静に考え、状況を把握する氷室。
一方、ジャックは、華麗なハンドルさばきでターンバックし車体を氷室に向かい合わせる。
「さぁ、バトルといこう!!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《マシンナーズ・ギアフレーム》に攻撃!アブソリュートパワーフォース!!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が右手に灼熱の炎を灯す。そのまま翼を広げて《マシンナーズ・ギアフレーム》へ急接近。炎を灯した右手の掌底を叩きつけた。
守備力0のギアフレームでは耐え切れず、破壊されてしまう。
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果発動!このカードがバトルを行ったダメージステップ時、相手の守備表示モンスターを全て破壊する!覇者の一喝にひれ伏せ!デモンメテオ!!」
紅蓮のドラゴンは、強烈な熱風を巻き起こす。守備体制を取っていた《マシンナーズ・フォートレス》はその熱風に巻き込まれて破壊されてしまう。これで、氷室のフィールドにモンスターはいなくなったが、ジャックのフィールドにも攻撃できるモンスターはいない。本来ならば、ジャックにできることはもう残っていないはずだ。しかし、ジャックのバトルフェイズは、まだ終わってはいなかった。
「リバースカード!オープン!《破壊神の系譜》!!」
前のターン、2枚あった伏せカード。その二枚目をジャックが発動させる。そして、その効果を受けた《レッド・デーモンズ・ドラゴン》は突然活力を取り戻し、再び咆哮を上げる。
「このカードは相手の守備表示モンスターを破壊した時に発動できる、自分のモンスター一体を指定し、そのモンスターはこのターンバトルフェイズ中、二回の攻撃が可能になる!俺が指定するのは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!!」
「なっ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》がもう一度攻撃ができるだと!?」
氷室の残りライフは3000、そして、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の攻撃力は3000
「たっぷりと楽しませてくれた礼だ!貴様には我らの牙の餌食となる、栄誉を与えよう!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》でダイレクトアタック!アブソリュートパワーフォース!!」
自分を守るモンスターがいなくなり、無防備になった氷室に、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が牙を向く。炎の右手が、超スピードで疾走する氷室のバイクを捉えた。ドラゴンの攻撃を受け、氷室のライフがゼロになる。その瞬間、氷室のバイクがスチームを上げ、バシュン!という音を立てながら急停止し、進まなくなった。
対して、ジャックは速度を維持したままサーキットを走り抜ける。そして、走りながら右手の人差し指を天に掲げる。
『キングは一人!この俺だ!!』
こうして、テレビ中継されていたライディングデュエルは、デュエルキング、ジャック・アトラスの勝利に終わった。
緊張した面持ちでテレビを見ていた3人の子どもたちも、緊張を解き、談笑を始める。
「やっぱり、ジャックはすごいや!!」
「レッド・デーモンズ・ドラゴン、かっこよかった…」
「どんなに追い込まれても最後には必ず勝つ姿、憧れるなぁ〜!」
思い思いのことを言い合ったあと、子供の一人が後ろを振り返る。視線の先には丸いメガネをかけた長い銀髪の少女が椅子に腰掛けて、編み物をしている。その少女に子どもたちが話しかける。
「なぁ、マリー姉ちゃんもそう思うだろ?」
「ん?」
マリーと呼ばれた少女は子供に呼びかけられてからゆっくりと顔を上げる。どうやら、テレビも見ておらず、話もあまり真剣に聞いていなかったようだ。子どもたちの質問に答えるまでに少し間が空いてしまう。
「…あぁ……、雑魚だったでしょ?相手。あれじゃジャックもつまんないでしょうね…」
それだけ言うと、マリーは再び編み物を続けるために視線を下に落としてしまう。マリーの言葉に子どもたちは戸惑い始める。まだ、子供なのでジャックの相手を務めた氷室の強さがよくわかっていないようだ。
「相手…弱かった?…」
「分かんないけどマリー姉ちゃんが言うならそうなんじゃねぇの?」
「マリー姉ちゃんもユウカ姉ちゃんもデュエル強いもんな〜、いやぁ〜、憧れるなぁ〜!」
すると子どもたちの後ろでガラガラと硬い音を立てて、ガレージのシャッターが開く。そして、このガレージに住んでいる少女。ユウカが、一人の少年を背中に抱えながら入ってきた。
「おかえり!ユウカ姉ちゃん!…?」
「おかえり…、その人だれ?……」
子どもたちはユウカを歓迎するも、すぐに彼女の背負っている少年を見て、疑問を持つ。それはユウカの帰りに気づき、再び顔を上げたマリーも同じだ。ユウカは迎えてくれる子どもたちに笑顔を向け、答える。
「ただいま。外で気絶してるのを見つけたの。ほっとくわけにはいけないからとりあえず連れてきたわ。悪いんだけど、ちょっと道を開けてちょうだい。」
子どもたちが道を開けたのを見てからユウカは子どもたちの間を歩いて行き、その先にあるソファの上に少年を寝かせた。その様子を見て、マリーはユウカに心配そうに声をかける。
「ユウカ、大丈夫なの?あなたこの前も倒れてる人を助けたじゃない。薬も食料も余裕があるわけじゃないんでしょ?」
「でも…だからと言って放ってはおけないわ。」
ユウカは少しだけ、笑いながら答えた。その笑顔には彼女の持つやさしさと少しの自嘲が見て取れる。その顔を見てやれやれとマリーは肩をすくめる。ユウカは昔からこういう子だ。こうなったユウカにはもう何を言ってもダメだろう。そのため、マリーは何も言わずユウカの選択を受け入れた。
「さぁ、ジャックの試合も終わったでしょう?子供はもう寝る時間だよ。マーサおばさんのところに帰りな。」
「えぇ〜、もっと遊びたいよ〜!」
「ダーメ!早く帰らないと、またマーサに叱られるよ!」
「は〜い…」
マリーの注意を受けて、子どもたちは渋々、ガレージを出てマーサのところへと帰っていった。マリーがふとユウカの方を見てみると、ユウカはテレビを見つめている……
テレビでは、ジャックのインタビューに入っていた。
『当然だ!キングが最初から本気でかかったら、一瞬だ!キングのデュエルは、常にエンターテイメントでなければならない!!』
「ジャック…」
テレビの中のジャックは、インタビュアーのマイクを乱暴に奪い取り、高らかに叫ぶ。それを、ユウカはもの憂げに見つめ、ただ、呟く。かつて、共に過ごした友の名前を…
「…ユウカ、やっぱりフレンドシップカップに出場する気はないの?あなたのデュエルの腕ならきっと…」
マリーがユウカに話しかける。しかし、ユウカは、その話の途中で手をつきだしてマリーを制した。なぜなら、その続きは分かっているからだ。だから、ユウカは最後まで聞かずにマリーの言葉に答える。
「確かに、フレンドシップカップに出れば、ジャックと戦えるかもしれない。でも、今の私では、きっとジャックを満足させることはできないわ…。こんな風に、いつまでもコモンズで燻っている私ではきっと…」
言いながら、ユウカは思い出す。昔、ジャックが突如、フレンドシップカップに出場すると言い出した時のことを。その時のジャックの瞳には強い光が宿っていたのを今でも覚えている。そんなジャックをユウカは止めた。ジャックが敗北した時のことを考えてしまい、応援する気にはなれなかったからだ。その時からジャックとの間には大きな差が開いていたのかもしれない。失敗を恐れて、前に踏み出せなかったユウカと、リスクを承知でも先にあるきだしたジャック。その結果、ジャックはキングとなり、コモンズの人々の希望の光になった。
だが今の自分はどうだろう。今も何もできずにただ、このコモンズでひっそりと暮らしている。そんな自分が、ジャックに届くなんて、彼女には考えれなかった。
「…無理しないでね、ユウカ。あなたが無理をして倒れたりなんかしたら、子どもたちも、マーサおばさんも、もちろん私だって悲しむんだから…」
「………ありがとう、マリー。」
その後、マリーは編み物を片付けて、外に出て行った。マリーを見送ってから、ユウカは拾った少年の介抱を始める。一先ず、脈拍、呼吸、皮膚色を一通り診て、健康に異常がないことを確認すると少年に布団を掛けて、その様子を見守り始めた。
「しばらくしたらこの人も目を覚ますだろうけど、起きた時に混乱したら行けないよね。一応、私は起きておいたほうがいいんだろうな…」
工具を持ち、外に止めてあったバイクをガレージの中に入れると、寝ている少年を起こさないように、なるべく静かに壊れたバイクの修理を始めた。
夜のガレージ。には、カチャカチャという機械いじりの音だけがいつまでも響いていた。
遊戯王ARC-V