遊戯王ARC-V107シンクロ次元タキオン伝説 作:ふぁみゆ
ミザエルが目を覚ますと、そこは見知らぬガレージだった。カチャカチャという、鉄材か何かをいじっているような音が聞こえてくる。視界に入るのは棒状の白い光を放つ蛍光灯と無骨なグレーの天井と壁。空気はやや埃っぽく、淀んでいるようだ。
「あら?気がついた?」
カチャンと、何かをおいた音の後、機械をいじる音が無くなり、代わりに少女の声が聞こえてきた。ミザエルが少しきしむ体をゆっくりと起こして座り、声のした方を振り返ると、そこにはやや筋肉質の黒い髪をした少女がいた。少女の瞳は少し赤みがかかっており、乾いている。目の下には黒い隈ができており、あまり寝ていないのが遠目にもわかった。この少女は路上に倒れていたミザエルを助けてここまで連れてきた、不動 ユウカだ。
「ここは、どこだ?……」
一先ず、周りの状況を理解するためミザエルは目の前の少女に尋ねてみる。自分をここに連れて来てくれたかもしれないのに、少々不躾な質問だったかな?とミザエルはやや後悔する。しかし、ユウカはそんなことは気にすることなく、嫌な顔一つせずに答えた。
「ここは、コモンズにある私の家。まぁ、家と言っても、見ての通りガレージなんだけどね…。君はトップスの人なのかな?」
「コモンズ?トップス?すまない、なんの話かわからない。それは地名か何かか?」
"コモンズ"に"トップス"、聞いたことのない単語に戸惑うミザエルはユウカに聞き返すのだが、ユウカもまた、ミザエルの言葉に戸惑っている。少し、考えこんだような仕草の後、ユウカはミザエルにこう尋ねる。
「もしかして、記憶喪失とかなのかな?この世界のこととか忘れてたりする?」
「……いや、そんなはずはない。」
この世界の体制について何も知らないような様子のミザエルに、ユウカは悪意なく尋ねるのだが、嘘をつくわけにはいかないと、ミザエルはその言葉を否定する。
そしてミザエルはどうやら、このあたりでは知っていて当然のことらしい、と考えた。このままでは埒が明かないと思ったのか今度はミザエルから質問をする。
「なら、今度は私から尋ねるが、ここはハートランドからはどのくらい離れているんだ?」
「ハートランド?」
今度はユウカのほうが聞きなれない単語に首を傾げる番だった。ミザエルからすれば"ハートランド"は当然知っているはずの単語のようだ。しかし、ユウカは違うらしい。相手が常識だと思っていることを自分が知らずら自分が常識だと思っていることを相手が知らない。このことからミザエルは簡単な仮説を立てた。
「どうやら、そうとう遠いところまで来てしまったようだな。やれやれ、困ったものだ…」
ミザエルの言葉にユウカもハッとなる。まぁ、ミザエルの仮説は簡単なもので、『文化や風習が全く異なるほど遠くの国にやって来てしまったため、相手の言っていることがお互いに分からないのだろう。』というもの。少々強引ではあるが一応理にかなってはいる。ユウカの反応を見るに、恐らくユウカも同じことを考えたのだろう。一先ず、状況が理解できたため、ミザエルは立ち上がる。しかし、その時、ガチャン、バラバラと何かが落ちる音が立ち上がったミザエルの耳に入った。床を見るとミザエルのデッキケースとカードがバラバラになって地面に落ちている。どうやら、立ち上がった時に腰に下げていたデッキケースが床に落ちてしまい、その衝撃でケースの蓋が開き、中のカードが飛び出したようだ。
ミザエルは急いでカードを拾い集め始る。それを見ていたユウカも一緒にカードを拾い始めた。
「すまない。」
「いえ、気にしないで」
言葉をかわしてから、カードを拾っていく。ユウカは、ミザエルのカードを見て、少し、違和感を感じていた。拾ったうちの一枚、《星間竜バーセク》というカードを見て、少しだけ考える
(レベル8のモンスターがやけに多いな…こんなデッキが、回るのかしら。それに…この《星間竜バーセク》って、どうやって使うのかしら?レベル9以上のシンクロ召喚?でも、チューナーモンスターはいないし…)
ユウカも、デュエルの知識はあったのだが、ミザエルのデッキの回し方は考えてもわからない。そのため、諦めてカード拾いを再開する。そして、ユウカの手が、彼女の知らない黒い枠のカード、《No.107銀河眼の時空竜》に触れようとした時、ミザエルが突如、声を張り上げた。
「そのカードに触れてはダメだ!!!!」
突然の大声に驚いたユウカは、体をビクッ!と震わせて動きを止めてから、ミザエルを見る。見開かれたミザエルの真紅の瞳。そこからは激しい焦りの色が伺えた。
「ごめん…」
「いや、こちらこそ、いきなり大声を出して済まなかった。ただ、そのカードだけは少し特別でな…」
ミザエルは、ユウカの足元にある《No.107銀河眼の時空竜》のカードを申し訳なさそうに拾った。そして、さっきの態度はやはり良くなかったと思ったのか、今度はカードを拾いながら、会話を始めた。
「君、名前はなんというんだ?」
「私は、不動 ユウカ。」
「ユウカか、私はミザエルだ。……その…どうやら、世話になってしまったようだな…」
「そんなこと、気にしなくても大丈夫だよ」
「そうか、…そう言ってくれるとその…助かるよ。」
同年代の少女と話をしたことがないらしく、うまく話題を見つけられず、時々口ごもってしまっている。その様子をどこか微笑ましそうに見つめるユウカは自分の拾い集めたカードをミザエルに渡す。
「はい、これ」
「ありがとう。」
ミザエルは受け取ったカードを確認するが、一度確認したあと、目の色を変えてもう一度すべてのカードを見直す。それから、ユウカにこう尋ねる。
「落ちていたカードはこれで全部なのか?」
「えぇ、そうだけど…もしかして、足りないカードがあるの?」
「あぁ、ここに"No."と書かれているカードなんだが」
ミザエルは《No. 107銀河眼の時空竜》の名前欄を指差す。ユウカも確認するが、たしかにそんなカードは見ていない。ユウカはガレージの床を見る。しかし、視界に映るのは灰色のコンクリートだけで、カードどころか落ちているものは何一つない。となると、ここに来るまでに落としてしまったのだろうか?
「途中で落としたのかな?とりあえず、ミザエルくんを拾ったあたりまで戻ってみようか。」
「すまない、案内を頼めるか?」
申し訳なさそうにミザエルはユウカの言葉に応える。すると、ユウカは、昨日の夜に修理した白いバイクを指差した。
「あれに…乗るのか?」
「うん、運転は私がするから、ミザエルくんは後ろに乗ってね。はいこれ」
ユウカが予備のヘルメットを投げ渡す。ミザエルはそれをキャッチする。それを確認してからユウカは自分もヘルメットを被ってからエンジンをかけはじめた。ユウカがヘルメットを被ったのを見てから、ミザエルもそれを真似てヘルメットを被る。それからどうすればいいのかわからずユウカを見ていると、ユウカは一人分の座席の前半分にだけ座り後ろ半分のスペースを開ける。
「さ、後ろに乗って」
「え、あぁ…」
やや戸惑いながら同じ座席に座るミザエル。自然とユウカに密着する形になってしまう。同年代の少女との同席に若干恥じらいを感じるミザエル。だが、ユウカは一切動じずにスロットルを捻る。激しい爆音と共にバイクは発進し、ガレージの外へと飛び出していった…
二人はバイクでコモンズ区画の路上へと来ていた。ユウカがミザエルを見つけた時には夜だったためあたりは暗く何も見えなかった。しかし、今は周りの様子がはっきりと見渡せる。もし、カードが落ちているのならすぐにわかるだろう。
早朝の寒空の下をバイクで走っていたため、降りたミザエルはその寒さに体をぶるっと奮わせる
「ミザエルくんを、拾ったのはこの辺だったんだけど」
バイクから降りたユウカはヘルメットを外してあたりを見るも近くにはカードは落ちていないようだ。ミザエルもヘルメットを外したあと、近くにカードがないのを見るとあるきだす。そんなミザエルにユウカは尋ねる。
「ミザエルくんは、どっちから来たか覚えてる?もし、覚えているなら、来た道をたどっていけば見つかるんじゃないかな?…」
確かにそのとおりだ、とミザエルは思うもののどの方角から来たのかなんてミザエルに分かるはずがない。何せ、ドラゴンの背中に乗り、光に包まれた後気づいたらあのガレージにいたのだ。正直にそんなことを言っても信じてもらえるとは到底思えない。そのためミザエルはユウカの問に曖昧に応えるしかなかった。
「分からないんだ。あの時はあまりにも状況が切迫していたからな…」
「そう、なら、このあたりをとりあえず探してみましょうか?」
そう言って、歩き始めるユウカ。そんなユウカをミザエルは制止する。
「なぜ君まで探そうとする?私はここまで送ってくれとは言ったが、カードを探してくれと言った覚えはないぞ。それに、君には私を手伝う義理はないし、手伝うメリットもないはずだ。」
「なぜって…別に理由なんかないわよ。困った時はお互い様じゃない?」
「だが、それでは君に申し訳ない。」
「そんなの気にしなくていいって、ほら、せっかくここまで来たんだから一緒に探そう」
結局ユウカはミザエルのカードを探すのを手伝うことになり、先に歩いて行ってしまった。見ず知らずの自分を助けてくれた上に自分がなくしてしまったカードを探してくれるユウカ。そんなユウカにミザエルは大きな借りを作ってしまっていると感じ、いたたまれない気持ちになる。
(ここまで大きな借りを作ったのは生まれて初めてだな。大き過ぎて一生かかっても返せるか分からんぞ…)
少し頭を抱えた後、今そんなことを考えても仕方ないかとミザエルも歩き始める。だが、その時…
一人の男がミザエルとすれ違った。何気なくその男を見るミザエル。すると、その男は路上のゴミ捨て場の前で立ち止まりバラバラと数十枚ほどのカードを捨てる。
「なっ!貴様!!」
それを見たミザエルは一人のデュエリストとして、カードを捨てるという行為が許せず、男に向かって叫ぶ。男もその声に驚いて振り返る。そして、ミザエルを見ると横柄な態度を取りミザエルと向かい合う。
「せっかく自分の元にきてくれたカードを乱暴に投げ捨てるとはどういうつもりだ!?貴様、それでもデュエリストか!!」
「何だお前?クズカードを捨てて何が悪いんだよ?コモンズがいっちょ前に俺に説教かよ?」
「今度はカードをクズ呼ばわりか!こいつ!!」
「!、うわぁ〜!」
ミザエルはデュエルをするために距離を取ろうと少しだけ男の体を押す。すると、大した力で押されてないのに男はわざと大げさに倒れあたかもミザエルに突き飛ばされたかのようなポーズを取った。それを見たミザエルは少し戸惑ったものの、すぐに頭を切替えデュエルディスクをその手に持ち男にデュエルを申し込もうと構えた。
「どうしたの?…!」
騒ぎを聞きつけて戻ってきたユウカはその光景を見て驚く。男がそれなりに良さ気なスーツを着ていることからトップスの人間であることがわかったからだ。そして、コモンズの人間がトップスの人間に楯突いたらどうなるのかを…
「てめぇ、やりやがったな!!」
「文句があるのなら今すぐここで私とデュエ…」
男は勝ち誇ったかのようにミザエルを見た。そして、構えるミザエルを無視して今度は携帯電話を取り出す。それを見たユウカは急いでミザエルの手を引っ張る。
「逃げるよ!」
「な、なぜだ!?」
理由がわからず困惑するミザエルを強引に引っ張りバイクに乗り込む。急いでミザエルを後ろに乗せると、ヘルメットもつけずにバイクを発進させた。
遊戯王ARC-V