遊戯王ARC-V107シンクロ次元タキオン伝説 作:ふぁみゆ
目一杯スピードを上げて、ユウカはバイクを走らせていた。後ろに乗るミザエルはまだバイクのスピードに慣れていないため固く目を閉じていた。やがて、徐々に慣れてきたミザエルはゆっくりと目を開いてから運転をしているユウカに聞こえるように大きな声でユウカに話しかけた。
「どうして逃げなければいけないんだ!言っておくが、私は何も悪いことはしていないぞ!私はただ!」
「えぇ、そうかもしれない。でも、この街では正しいか正しくないかは二の次なのよ!」
「なんだと!?それはどういうことだ!!」
ユウカの言っていることが全く分からない。どんなことでも正しい方の意見が通り、間違っている方が修正を受ける。そんな当たり前の価値観より優先されるものがデュエル以外にあるなど、この街のことを知らないミザエルからすれば、考えられないことだ。そんなミザエルにユウカが説明を始める。
「この街は特権階級層のトップスと貧民層のコモンズに分けられているの。そして、身分階級はトップスがコモンズの上に位置する。下位のがトップスの人間に楯突くことは許されないの。たとえそこにどんな正当な理由があったとしてもね!」
「馬鹿な、そんなことがまかり通るなど…」
そして、二人の耳に大音量のサイレンの音が聞こえてくる。この街の治安維持組織、セキリュリティの車のサイレンだ。1台や2台ではない何台もの車両が二人の乗るバイクに迫ってきているのが聞こえてくるサイレンから分かる。慌ててユウカは車の通れない細い路地に逃げ込む。車は通れないため追ってはこなかったものの何台かの白バイが後ろにつけてくる。
ガリガリと車体を壁にこすりつけながら細い路地を猛スピードで駆け抜けていくユウカ。しばらく行くと路地の出口が見えてきたのだが…
「っ!しまった…」
出口には太い道路を回り込んできた何台ものパトカーがすでに待ち構えていた。ブレーキをかけてバイクを急停止させるユウカ。するとパトカーから一人の男が降りてきた。
「ったく、コモンズのクズが、手間かけさせてんじゃねぇよ。」
出てきたのは身長が190cmほどあり、筋骨隆々のガッチリした体型の男。男は堂々とした態度でユウカとミザエルに近づいてきた。諦めたようにバイクから降りるユウカ。ミザエルもユウカに続き降りるが、彼は鋭い目つきで男を睨みつけている。
「コモンズのクズが、いっちょ前にDホイールか?で、トップスの人間に楯突いたバカはどっちだ?」
そこで、ミザエルはユウカの静止を振り切り前に出る。戸惑うユウカをよそにミザエルはセキュリティの男を睨みつける。
「確かに、私はあの男と揉め事を起こした。だが、ただデュエルを申し込もうとしただけだ。何も悪いことはしていない。」
「悪いことはしていないだと!?はっはっは!!てめぇらみたいなクズ共がトップスの人間と揉め事を起こすこと自体が、十分悪いことなんだよ!分からねぇのか?えぇ!?」
ミザエルの返答にセキュリティの男は怒ったのか、ミザエルの胸倉を掴みあげて威圧する。ミザエルはこの反応で確信した。先ほど、ユウカが言っていたことは本当なんだと…そして思った、そんなことが認められていいはずがないと。
セキュリティの男以外に何人かのセキュリティが二人を拘束するために降りてきて、男の背後に立つ。そして、男は二人に最後の通告をした。
「まぁいい、話はセキュリティでゆっくり聞かせてもらわないとな。ついでにそっちの女もだ。逃亡を助けたおかげで立派に拘束する理由ができたからな。ついでにそのDホイールの出処も聞かないとな。」
ユウカは諦めたように前に出る。そんなユウカをセキュリティの男たちが連れて行こうとしたその時だった。
「おい!お前…」
ミザエルがセキュリティの男を呼び止めた。なんだと振り返る男にミザエルは言い放つ。
「私と…デュエルしろ!」
そうして、ミザエルは自分のデュエルディスクを自身の左腕にセットした。それを見た男はさもおかしそうに、大声で笑い出す。
「はっはっは!コモンズのクズが、俺とデュエルだと!?お前、本気かよ?」
「当然だ!私が勝ったら、今日のことは全て無かったことにしてもらう!」
デュエルの結果が全てだというデュエリストだからこそ通る無茶苦茶な道理だが、この世界では非常に有効な交渉の手段だ。周りのセキュリティは「そんなこと、許されるはずがないだろう!」と言い始めるが、それを男は止めた。
「いいだろう。だが、俺が勝ったら、大人しく捕まってもらうぜ。」
男も左腕にデュエルディスクをセット。こうしてユウカが心配そうに見つめる中二人の身柄をかけたミザエルと男のデュエルが始まった…
「…ミザエルくん、どうして………」
「「デュエル!!」」
ミザエルvsカウテール
LP4000 LP4000
先行はセキュリティの男こと"カウテール"。先行はドローすることができないため即座にメインフェイズに入る。
「俺はフィールド魔法《サベージコロシアム》を発動する。このカードが存在する限り、お互いの表側表示のモンスターは必ず攻撃しなければならず、攻撃をしなかったモンスターはそのターンのエンドフェイズ時に破壊される。そして、バトルを行ったモンスターのプレイヤーはダメージステップ時に300ポイントライフを回復する。」
ミザエルとカウテールの周囲の景色が変わる。現れるのは厳かなコロシアムだ。
「俺は、モンスターを裏側守備表示でセットして、ターンエンド。」
「私のターン!ドロー!」
おとなしめの1ターン目をカウテールが終え、ミザエルのターンに入る。ミザエルはドローフェイズにデッキの一番上からカードをいちまいドローしてメインフェイズに入った。
「手札から《神獣王バルバロス》を自身の効果によりリリース無しで召喚する。ただし、この効果で召喚した神獣王バルバロスは攻撃力が1900になる!」
《神獣王バルバロス》
ATK.1900 ☆8
ミザエルが召喚したのは赤い槍を持ち、長い黄金の鬣を持つ獣人。しかし、その表情には覇気がなく体もやせ細っていた。バルバロスはコロシアムの雰囲気に押されているのか、目の前にいる正体不明のモンスターに攻撃しようと体をわなわなと奮わせる。
「フィールド魔法、《サベージコロシアム》の効果で《神獣王バルバロス》は攻撃しなければならないか…ならばバトルだ!《神獣王バルバロス》で守備表示モンスターに攻撃!!」
ミザエルの宣言を受けて、バルバロスが走り出した。バルバロスはその赤い槍を掲げ上げ、正体の見えないモンスターに振り下ろす。すると、ガキィン!!と激しい金属のぶつかる音が響きわたった。バルバロスの攻撃が相手モンスターの持つ巨大な盾に受け止められたのだ。正体の見えなかったそのモンスターは大きな盾を持った戦士。戦士はバルバロスが怯むのを静かに見つめる。
「守備モンスターは《ビッグシールド・ガードナー》守備力は2600だ。《神獣王バルバロス》の攻撃力1900との差、700ポイントのダメージを受けてもらうぜ!」
「くっ!」
《ビッグシールド・ガードナー》
DEF.2600 ☆4
ミザエル
LP4000→3300
「だが、安心しな。《サベージコロシアム》の効果で攻撃を行ったお前はライフを300ポイント回復する。」
ミザエル
LP3300→3600
ライフポイントの減少は最小限で済んだものの、カウテールのモンスターを倒すことはできなかった。つまり、カウテールはフィールドに残った《ビッグシールドガードナー》を使い、さらに強力なモンスターを呼び出せるということだ。しかし、ミザエルはその結果を予想していたのか、あくまで冷静に次の行動に移る。
「カードをニ枚セットして、ターンエンドだ。」
「俺のターン!ドロー!」
ミザエルが全く動じていないのに少し違和感を感じながらもカウテールは当初予定していた行動に移る。
「お前に見せてやるよ、セキュリティのシンクロ召喚をな!!」
「シンクロ召喚?」
「俺は、手札から、チューナーモンスター《ナイトエンドソーサラー》を召喚!」
《ナイトエンドソーサラー》
ATK.1300 ☆2
「そして、レベル4の《ビッグシールドガードナー》にレベル2の《ナイトエンドソーサラー》をチューニング!」
カウテールの召喚したモンスター《ナイトエンドソーサラー》が2つの光の輪に変化する
そのリングの中に《ビッグシールドガードナー》は入った。するとビッグシールドガードナーは4つの星に変身する。
「シンクロ召喚!」
そして、一列に並んだ4つの星に光が走る。その光が輪の中で広がる。強烈な光の道の中から新しいモンスターが姿を現した。十手を右手に持った荒々しい戦士がミザエルのバルバロスを睨みつける
「現われろ!ゴヨウプレデター!!」
《ゴヨウプレデター》
ATK.2400 ☆6
「シンクロ召喚だと!?なんだ、このモンスターは!?」
現れたモンスターにミザエルは驚いた。チューナーモンスターとチューナー以外のモンスター一体以上をリリースして召喚するシンクロモンスター。白い枠に囲まれたそのカードをミザエルは見たことがなかったのだ。だが、そんなミザエルの反応は他の人たちには意外なものであったようだ。
「ミザエルくん、もしかして君は…」
「はっはっは!!威勢よくデュエルを申し込んできたからどんな実力者かと思えば、お前、シンクロ召喚も知らない素人かよ!!」
「なんだと!?」
シンクロ召喚はこの世界では一般的に行われている召喚法。この世界でデュエルをしていればよく目にするものだ。ミザエルのようなシンクロ召喚を知らない人物というのは初心者としか考えられない。そのため、ユウカの表情は絶望に染まり、カウテールは勝利を確信する。
「だったら、何も知らない初心者君にはモンスター効果もきっちり教えてやらねぇとな。いいか、この《ゴヨウプレデター》はただのモンスターじゃねぇ、戦闘で破壊した相手モンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する効果を持っている。つまり、お前の《神獣王バルバロス》をこの《ゴヨウプレデター》で破壊すれば俺は《神獣王バルバロス》のコントロールを得ることができるのさ!?」
「なんだと!?」
強力な効果にミザエルは驚いた。相手のモンスターのコントロールの奪取。しかもその対象は《神獣王バルバロス》だ。もしこの攻撃が通れば破壊された神獣王バルバロスはリリース無しで召喚した時の効果を失い、攻撃力が3000に戻ってしまう。
「どうやら、理解できたようだな。自分が今どういう状況なのかが。さぁ、攻撃力3000のモンスターをいただくとするか!行け!ゴヨウプレデター!神獣王バルバロスを攻撃!」
カウテールの指示を受けて《ゴヨウプレデター》が十手を持って突撃を始める。それを迎え撃とうと槍を構える《神獣王バルバロス》。戦力の差は歴然。このままではバルバロスはバトルに負けて捉えられてしまう。ゴヨウプレデターの十手が振り下ろされる。だがその時、ミザエルが動いた。
「シンクロモンスターか。確かに強力な効果だ。お前が推してくるのも頷ける。だが、モンスターの力を過信し過ぎたな!俺にはまだ伏せカードが残っているぞ!リバースカードオープン!!」
それを待っていたと言わんばかりにミザエルがデュエルディスクのボタンを押す。そして、ミザエルが伏せていたカードが表示された。
「速攻魔法!《禁じられた聖杯》を発動!!」
突如として、バルバロスの背後に黄金の輝きを持つ聖杯が現れた。速攻魔法《禁じられた聖杯》、その効果をミザエルが説明する。
「このカードはフィールド上のモンスター一体の攻撃力を400ポイントアップさせる代わりにその効果を無効にする魔法カード!」
「《ゴヨウプレデター》の効果を無効にしてバルバロスが奪われるのを防ぐつもりか!?」
「そんなのただの悪あがきに過ぎないぞ!!」
そのデュエルを見ていたセキュリティ達が慌て始める。しかし、ミザエルの狙いは別にあった。同じくそれを見ていたユウカもどうやら、その狙いに気づいたようで表情に光が戻りはじめていた。
「いや、違う…これは…」
「このカードの対象は…神獣王バルバロスだ!!」
ミザエルが効果の対象に選んだのは《神獣王バルバロス》。ミザエルが宣言すると聖杯がバルバロスから黒いオーラのようなものを吸い出した。すると、バルバロスの全身の筋肉が隆起しはじめる。くすんでいた鬣が金色に光り始める。そして、力を取り戻したバルバロスは、それを周りに示すかのように高らかに咆哮を上げた。
「これにより、神獣王バルバロスの効果は無効となり攻撃力は元々の3000となる。さらに、禁じられた聖杯の効果により、さらに攻撃力は400 ポイントアップ!!」
「な、なんだと!?」
《神獣王バルバロス》
ATK.1900→3400
バルバロスが本来の力を取り戻したことで二体の力関係が逆転する。ミザエルを初心者呼ばわりして完全に侮っていたカウテールも流石にこのコンボには驚いた。
「返り討ちにしろ!神獣王バルバロス!!」
振り下ろされた十手をバルバロスは片手で掴む。そして
そのまま握った手に力を入れて、十手をへし折った。驚いたゴヨウプレデターは後ろにとびのこうとするもその前にバルバロスが胸ぐらをつかんで引き寄せる。ゴヨウプレデターの顔面に頭突きをかますバルバロス。これには思わずゴヨウプレデターも怯んでしまう。そのすきにバルバロスがゴヨウプレデターに槍を突き刺した。ゴヨウプレデターは破壊され、カウテールにダメージが発生する。
「ぐぉぉぉぉぉっ!?」
カウテール
LP4000→3000
さらにサベージコロシアムの効果でセキュリティのライフは変動…
カウテール
LP3000→3300
「こいつ、素人なんかじゃねぇ、本物のデュエリストだ…」
「さぁ、まだ貴様のターンだ。デュエルを続けるがいい」
今の戦闘で完全に優位に立ったミザエル。それでも彼は決して気を抜かない。カウテールの次の攻撃に備え、構えた。
遊戯王ARC-V