遊戯王ARC-V107シンクロ次元タキオン伝説 作:ふぁみゆ
このあとしばらくは忙しくなるので投稿間隔が開くかもしれません。少しお待ちください
それでは、スリップストリームでついて来い!
ある日の夜。冷たい夜風を浴び身体を震わせながら、銀髪の少女マリーはコモンズと街を歩いていた。その手には何かが入っているため膨らんでいる紙袋がある。夜とはいえ日が落ちてから間も無いようで、何人かの人が荷物を持って家路へついているのが見える。マリーはそんな人々を横目に見ながらとある家にたどり着いた。コンコン、止めの前の木製のドアをノックする。すると数秒待った後にガチャリという音が響き扉が開いた。そして、目の前に逆だった茶色の髪と黄色い刺青が顔にたくさんあるやや小柄な青年が現れた。
「おぉ、マリーか!久しぶりだな。今日はどうした?」
「久しぶりねクロウ。ほら、最近寒くなってきたから。子どもたちにこれをあげようと思ってさ。」
マリーは目の前の青年、クロウに自分の持っている紙袋の中身を見せた。中にはセーターやマフラーなどの編み物がぎっしりと詰まっている。それを見たクロウは申し訳なさそうにマリーに話し始める。
「いつもすまねぇな。これを売れば結構な金になるってのに、わざわざこっちに周りしてもらって…」
「まさか、コモンズの女が作った編み物なんて、誰も買ってくれないわよ。それにトップスの人間に使ってもらうよりはここの子どもたちに使ってもらったほうがずっと嬉しいわ。」
「まぁ立ち話も何だしとりあえず中入れよ。」
クロウはマリーを家の中へと招待した。早速マリーは家の中へと足を踏み入れる。クロウの住居は木組みの簡素な小屋。壁からは隙間風が入ってきており、とても防寒具を外せるような環境ではない。それでも、外にいるよりは壁がある分幾分か寒さはマシだ。天井には豆電球がくくりつけられており、小さいながらも夜の暗闇の中でも動けるくらいにはあたりを照らしてくれている。マリーはふと、その豆電球の真下にある机の上を見る。机の上にはいつもクロウの家で暮らしている子どもたちが食べ散らかしたお菓子やパンの袋があるのだが、今日はいつもより袋の数が多かった。このコモンズでの経済事情や食料の数を考えるとあまり喜べる話ではなかったが子どもたちが元気に食べ物を頬張る姿を想像したマリーは少し微笑ましい気持ちになる。
「座れよ。そこら辺の椅子適当に使っていいからさ」
「今日はたくさん食べたのね。皆…」
「ん?あ〜。」
来てくれた客人にお茶を振る舞おうと台所へ向かうクロウ。近くにあった椅子に座りながら静かにわらうマリーの言葉にクロウは応える。
「実はさ、また居候が増えちまってよ。」
「え?また子供を拾ってきたの!?」
クロウの言葉に驚くマリー。お湯を沸かしながら茶葉を棚から取り出していたクロウは思わず苦笑いを浮かべる。そして、作業を続けながらもクロウは言葉を続ける。
「仕方ねぇさ。セキュリティに追われてた子どもたちを見たら放っとくわけには行かねぇって。」
「…はぁ、あなただって余裕があるわけじゃないでしょうに…どうして私の知人にはこうもお人好しが多いのかしらね?」
マリーは机に肘をつき、頭を抱えながらもう一人の友達のことを考えていた。つい先日、その友達も道端で倒れていた一人の男を拾ってきていた。そういえば、あの子も放っとけないみたいなことを言ってたっけな?などとぼんやり思い出しながら座る。しばらくするとクロウがマリーの目の前に淹れたてのお茶の入った湯のみを置いた。湯のみからは湯気が立ち上っており、視覚からその熱量を伝えてくれる。その湯のみに手をつければ中にあるお茶の熱さを直に伝えてくれる。夜風を浴びて冷えきっていた体には少々きつい刺激だが、熱いという刺激はだんだんと心地よい暖かさに変わっていく。ゆっくりと持ち上げ、湯のみを口に近づければ仄かに良い香りが鼻腔をくすぐる。そして、一口お茶を口に入れると口の中いっぱいに僅かな苦味と深いコクが広がってきた。さらにお茶の暖かさが夜風に晒されて冷えきった体を芯から温めてくれる。その僅かな時間にとてつもない幸福感に包まれるマリーは素直にその感想を口に出す。
「美味しいわね。さすがクロウ。」
「へへっ、世辞はいらねぇよ。コモンズでも手に入る安物なんてたかが知れてるだろう。」
「でも、安物の茶葉でもこんなに美味しいお茶が淹れられるんだもの。きっとちゃんとしたお茶ならもっといいものが作れるんでしょうね…」
「あぁ、もし手に入れられるんならな」
二人は冗談めかして話しているが実際コモンズの市民では最低ランクの茶葉でなければ手に入らない。今の格差社会ではお茶ひとつ手に入れるのも一苦労なのだ。そんなコモンズが成り上がる方法はたった一つ。フレンドシップカップに出て優勝すること。
「マリーはよ。フレンドシップカップに出場する気はないのか?」
「私?無理よ。私なんかじゃとても勝ち抜くことなんてできないわ。」
「でもお前、あのジャック・アトラスと肩を並べるほどのデュエリストだったんだろ?確か…伝説のチーム、サ」
「やめて」
クロウがフレンドシップカップの話を出してみるも、マリーはあまりノリ気ではない様子。それどころか自分の過去の話をされそうになった途端より、機嫌を悪くしてしまった。マリーはお茶を飲んで一息入れてから今度は同じようなことをクロウに尋ねてみる。
「あなたの方こそ、フレンドシップカップに出場する気はないの?」
すると帰ってきたのは意外な返答だった。
「実は、シンジたちと出場の申請書は出したんだ。」
「!、じゃあ、出場するの!?あなただって分かってるんでしょ!?大会に出場してもし負けたりしたらどうなるか!」
夜だというのに思わず声を荒げてしまうマリー。クロウのフレンドシップカップ出場はそれだけ衝撃的なことだった。落ち着けよ、とクロウはマリーに座るように手で促す。マリーが一旦冷静になったのを確認してからクロウは話を続けた。
「俺だってわかってるさ、もし負けたらどうなるかなんて。でもな、このままじゃいけねぇんだ。このコモンズではなんの罪もない子どもたちが少ない食料を分け合いながら辛いその日ぐらしを続けている。今のままじゃ皆が苦しむだけなんだ。だから、誰かが変えなきゃいけないんだよ。今の世の中を…ま、マーカー持ちの俺が当選されることなんてないだろうけどな…」
そう言って笑うクロウ。最後こそ冗談っぽく笑ってみせたもののその瞳には強い意志が込められていた。それを聞いてマリーは少し複雑な気分になったのか黙って考え始める。そして、ゆっくりとお茶を飲むと立ち上がった。
「ごちそうさま。ありがとう、子どもたちによろしくね。」
そう言い残してマリーは苦労の家を出た。歩きながら、ゆっくりと彼女はフレンドシップカップについて考え始める。彼女のかつての仲間だった男、ジャック・アトラスはフレンドシップカップで優勝しデュエルキングとなった。コモンズの出身でありながらキングになったジャックはコモンズの希望の星になった。しかし、ジャックがキングになっても世界は何も変わらなかった。そして、キングの座にとどまり続けトップスとともに豪勢な暮らしを続けているジャックをコモンズの人々はいつしか、裏切り者と蔑み始めた。
「………どうして、こうなってしまったのかしら」
かつての仲間であるマリーやユウカはジャック・アトラスがどんな人物なのかを知っている。だから、彼がコモンズを裏切ったのだとは思えなかった。そして、ユウカは頂点に立ったはずのジャックをそんな立場に立たせている"フレンドシップカップ"という大会に不信感を抱くこととなる。
「馬鹿馬鹿しいわ。何がフレンドシップカップよ…負けたら強制労働、勝てばコモンズのみんなに蔑まれる。そんな大会に一体なんの意味があるっていうのよ……」
だからユウカはフレンドシップカップに出ようとはしないし、他の人がフレンドシップカップに出ようとすることを快く思わない。だが、あの時一瞬思ってしまった。自分はあの大会のことをどう思っているのだろうかと……
『誰かが変えなきゃいけないんだよ。今の世の中を…』
クロウの言葉が未だに頭の中に残っている。私もユウカもただ都合のいい理由を作って何もせずに立ち止まってるだけなのかもしれない。現にクロウはリスクを承知でフレンドシップカップに出ようとしている。きっと世界を動かしていくのはそういう人間なのだろう。
「……本当にこのままでいいのかな?私は……」
自分だってこのコモンズのこと、子どもたちのことを案じている。彼らのことを本当に思うのなら自分も何か行動するべきではないのだろうか。
そんなことを考えながらマリーはふと、足を止めた。そこはコモンズのゴミ集積所。トップスの人間が捨てたゴミが一度集められる場所。昔はユウカやジャックなんかの仲間たちと共にこの場所でトップスの人たちが捨てたカードを拾い集めていた。何気なくなく立ち止まり、懐かしい気持ちでマリーはその場所を見つめる。
「あら?」
そこでマリーは気づいた。集積所のいり口に1枚のカードが落ちていることに。ゆっくりとマリーはそのカードに近づく。よく見ると黒い枠の全く見たことのないカードだった。
「何かしら…見たことのないカードだけど」
そして、マリーはそのカードに手を伸ばしてしまった…
「!!」
マリーの心になにか黒いものが蠢いた。
遊戯王ARC-V