遊戯王ARC-V107シンクロ次元タキオン伝説 作:ふぁみゆ
早朝、コモンズ区画の海沿いの場所で二人の人間がデュエルをしていた。
一人は小柄ながらも肉づきがしっかりしており、紫のメッシュが入った短い黒髪を持つ少女、不動ユウカ。相対するは白いロングコートを羽織った長身の男ジャック・アトラスだ。
現在、ユウカのバトルフェイズ。ユウカはライフポイントこそ残り1000と少ないもののフィールドには攻撃力2300のモンスター《ジャンク・ウォリアー》。一方ジャックは伏せカードがニ枚あるだけでモンスターはなし、残りライフは2000。戦況はユウカが圧倒的に有利だった。
(ここで攻撃すれば、勝てる…)
伏せカードが気にならないわけではないが今のジャックに大した手が打てるとは思えなかったためユウカは勝利を確信していた。これで、ジャックを止めることができる。そう考えながらユウカは攻撃を宣言した。
「《ジャンク・ウォリアー》でダイレクトアタック!!」
《ジャンク・ウォリアー》が背中のブースターを吹かせながら、拳を構えジャックに突撃する。だがその瞬間どこからともなくジャンクウォリアーに鎖が伸びてきた。鎖はジャンクウォリアーの両腕と両足に絡みつき、ジャンクウォリアーの動きを止めてしまう。さらに鎖に捕まった。ジャンクウォリアーは力が吸い取られたのかぐったりと項垂れた。
何が起こったのかとユウカがフィールドを確認すると、ジャックは一枚目の伏せカードを発動していた。
「トラップカード、《デモンズチェーン》、発動!!このカードがある限り、ジャンクウォリアーは攻撃できず、その効果は無効となる!」
「くっ、ターンエンド……」
「俺のターン!」
《ジャンク・ウォリアー》が攻撃不能になったため、ユウカに攻撃できるモンスターはいない。手札にも使えるカードは残っていなかったため、何もできなくなったユウカはターンエンドを宣言した。そして、ジャックのターン。ジャックは自分が不利だというのに全く動じてはいなかった。
「トラップ発動!《リミット・リバース》!!墓地のレベル4以下のモンスター 《レッド・スプリンター》を攻撃表示で特殊召喚する!」
《レッド・スプリンター》
ATK.1700 ☆4
「さらに、手札からチューナーモンスター《インフルーエンス・ドラゴン》を召喚!」
《インフルーエンス・ドラゴン》
ATK.300 ☆3
「《インフルーエンス・ドラゴン》の効果発動!自分フィールドのモンスター一体をドラゴン族にする。この効果で《レッド・スプリンター》をドラゴン族に変更!」
これにより、ジャックのフィールドにはモンスターが二体。そして、そのうちの一体はチューナーモンスター。シンクロ召喚の準備が整ったジャックは右手を高く掲げてシンクロ召喚を宣言した。
ユウカも思わず身構える
「レベル4の《レッド・スプリンター》にレベル3の《インフルーエンス・ドラゴン》をチューニング!」
《レッド・スプリンター》と《インフルーエンス・ドラゴン》が光輪と星になり、光の道を形作る。この世界では見慣れた召喚演出…。二体のモンスターが作りだした光の道から新たなモンスターが姿を現した。
大きく隆起した筋肉を持つ青いドラゴンがユウカの《ジャンク・ウォリアー》に向き合い、威嚇するかのように咆哮をあげた。
「現れろ!《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!!」
《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》
ATK.2400 ☆7
「ここで、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!!これは…」
「バトル!《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》で《ジャンク・ウォリアー》に攻撃!轟かせること王者のごとし!キングストーム!!」
ジャックの青いドラゴンがユウカのウォリアーに灼熱の炎を吐き出す。その炎に飲まれたジャンク・ウォリアーは跡形もなく消滅した。そして、ドラゴンの攻撃の余波がユウカに襲い掛かった。
「きゃあああああああ!!」
がばっ!とそこでユウカは起き上がった。体中汗まみれになっており、心臓の鼓動は速い。ユウカは辺りを見回す。今いるのは自分が住んでいるいつものガレージ、そこに敷かれた布団の中に自分はいる。海沿いの場所でも外でもない、ましてはデュエルなんかしていない。ユウカは理解したさっきまでのは夢だったんだと…
(私はまた…あの時の夢を…)
「おい、大丈夫なのか?」
また、同じ夢を見ていたんだななどとぼんやりと考えていると隣から声がかかった。振り返れば長い金髪を靡かせた青い瞳の少年が心配そうな表情でこちらを見つめていた。少年の名はミザエル、先日ユウカの前に突然姿を現した少年だ。
「ずいぶん、うなされていたようだが…。そうだ、水を」
「大丈夫!大丈夫だから…」
ユウカはゆっくりと立ち上がる。そして、気分を変えるためにぐっと背伸びをする。そうして、一呼吸おいたのちミザエルに振り返り声をかける。
「心配かけてごめんね。朝ごはんにしよっか」
そのまま、机に古びたカセットコンロとやかんを置いただけの簡素な台所へと向かった。
さて、当たり前のようにミザエルがユウカのガレージにいる理由だが、話は先日のミザエルとセキュリティの男、カウテールとのデュエルのすぐ後までさかのぼる。あのあと、ユウカは引き続きミザエルの落としたカードを探そうと提案したのだがミザエルがそれを遮った。その理由をユウカが聞くとミザエルは「そもそもこの世界にはないかもしれない」という、ものだった。
「どういうことなの?」
「いや、突拍子もない話でいきなりでは信じられないかもしれないが…どうやら私は、違う世界、違う次元に来てしまったようなんだ…」
「違う、次元?」
訳も分からずユウカが首をかしげているとミザエルがエクストラデッキから何枚かのカードを取りだし、ユウカに見せた。ミザエルが取りだしたカードはいずれも黒い枠で囲まれているものでユウカにはなじみのない物ばかりだ。
「モンスター・エクシーズ、このカードに見覚えはあるか?」
「いや、見たことない物ばかりだわ…。そもそも黒い枠のカードなんて…」
「そうだろうな、しかし、私のもといた世界では知らない人はいないくらい有名なカードなんだ。」
それを聞いたユウカはデュエルの時にミザエルが《No.107銀河眼の時空竜》を召還した時のことを思い出した。あの時レベル8のモンスターを並べると言うミザエルの行動の意味をあの場にいる全員が理解できなかった。周りのその周りの反応にミザエル自身が驚いていた。今思えば、自分が当たり前だと思っていることを誰も知らなかったのに驚いていたのだと言うことがユウカにも理解出来る。
「それだけではない、この次元で当たり前のように行われていたシンクロ召喚だが私のいた世界では使う人間はいなかった。ここに来た事情も事情だったしな…。だから探したとしてもこのあたりにあるとは限らないしそもそもこの次元にはないかもしれない。あてもなく探すわけにはいかないからな…」
そう語るミザエルの表情は暗く、肩はわなわなと震えている。父に託された、ナンバーズを守ると言う使命を果たせず悔しいようだ。ユウカの手前声には出さないが今すぐ叫びたいくらいに悔しいのだろう。その目はわずかにうるんでいる。ユウカもミザエルのわずかな変化を感じ取ったのかミザエルをねぎらうように声をかける。次元を超えてきたというとんでもない話を聞かされたのだがその話はすんなりと受け入れることが出来た。ミザエルのデュエルを実際に目の当たりにしたからあまりあり得ない話だとは思えなかったようだ。
「そっか、でも絶対に見つからないって決まった訳じゃないし、探せばきっと見つかるよ。私も気にかけておくからさ」
「あぁ、すまない。」
そこでユウカは思った。今の彼に行く宛はあるのだろうか?
次元を超えてきたというのが本当かどうかは分からないが、彼がこの街やこの世界のルールについて驚くほど知らないのは事実だ。さっきだって、コモンズとトップスのことを知っていればトップスの人間に楯突いたりしなかっただろう。そんなミザエルがこの超階級社会であるシティで暮らしていけるとは思えなかった。
本当なら、他人であるユウカが気にすることではないのだが、彼女には…そんな世間知らずなミザエルを放って置くことはできなかった。
「ねぇ、ミザエルくん…行く宛はあるの?」
「今はない、が、なんとかするしかないだろうな」
「そうなんだ。じゃあ、私の家に来ない?」
「何?」
唐突に出たユウカの提案にミザエルは驚いてユウカを見る。全く臆することもなく恥ずかしげもなくユウカは提案をした。
「なぜそんなことをそこまで世話になるわけにはいかないだろう。それに君には私にそんなことをする義理はないはずだ。」
ミザエルはユウカに負担をかけまいと思い、その提案を断った。しかし、それを聞いてもなおユウカは譲らない。
「義理ならあるよ。だって私を助けるためにセキュリティとデュエルしてくれたじゃない」
「あれは君だけのためにやったわけじゃない。それにそれを言うなら、私は命を救ってもらっている。」
「でも、ミザエルくんはこの世界のルールとか全然知らないでしょう?さっきだってそのせいで揉め事になったりしたし」
「それは…」
「そんな人を放っておくことは出来ないわ。というか、そんな人を追いだすなんてどんな悪人よ…。だから、あなたを置いておくのは私の為でもあるのよ。」
やれやれと肩をすくめながらユウカは笑う。それを聞いてミザエルは少し考え始める。実の所行く当てのないミザエルにとっては願ってもない話だった。それにユウカの言葉には強い意志を感じる。恐らくミザエルが何を言っても彼女は引き下がらないだろう。そうなればミザエルの出す答えなど一つしかない。
「分かった。ユウカ、すまないがしばらく世話になる」
「ありがとう。これからよろしくね、ミザエルくん」
こうしてミザエルはユウカとともに暮らすことになった。特殊な出自のミザエルは他人の家で過ごしたことなど一度もない。どうしていいか分からずに戸惑ってしまう。ひとまずずっと立っているわけには行かないのでちゃぶ台の前に置かれた座布団に腰を下ろし一服。少し冷静になったところで先ほどのユウカの言葉を思いだす。そういえば彼女は朝食を用意する、みたいなことを言っていたのではなかったか?
それに気づいたミザエルは勢いよく立ち上がる。
「私は何をやっているのだ!居候の身でありながら何の手伝いもせず飯が来るのを待つなど!!」
なにか手伝いをしなければ!とユウカの向かった台所に向かおうとする。しかし時すでに遅し、台所に行ってからわずか三分弱でユウカは今日の朝食二人分を持って戻って来てしまった。
「はい、出来たよ…。あら、座って待っててくれても良かったのに」
「!」
ユウカが持ってきたのはこのシティで最も有名なカップラーメン《ピリ辛レッド・デーモンズ・ヌードル》。お湯を入れてから三分で出来るお手軽なインスタント食品だ。この世界で有名なカップラーメンだが、別の世界からミザエルにとっては馴染みのない食べ物。見た目もそうだが、たった三分でここまで食欲を刺激する芳醇な香りと具だくさんな食べ物が作れると言うことが信じられなかった。
「あんまりいいものではないけど、冷めないうちに食べて」
「え、あ、ああ…」
手渡された割りばしで麺を掴む。そして、掴んだ麺を口に加えてから、ずずっと音をたててすする。ゆっくり咀嚼して飲みこんでから一言。
「うまい!」
口に入れた瞬間からピリリとした辛みが舌を刺激する。その辛さが麺の甘みを引き立て、辛さと甘さ、そして具材の豊富な味によるコンボがミザエルに強い幸福感を与える。何よりここまで美味しい物が経った三分で出てきたことに驚きを隠せない。とにかくミザエルは夢中で麺をすする。
「そんなに気にいったんだ…」
ミザエルの様子をユウカはほほえましい気持ちで見つめる。正直、カップラーメンで満足してもらえるとは思ってなかった。それどころか、こんな安物を出したら不機嫌になってしまうのではないかとさえ、考えていたくらいだ。だがミザエルは嫌な顔一つせず、それどころかこんなに美味しそうに食べてくれた。
そんな中、ユウカのガレージの扉を誰かが叩く。
「?、こんな朝早くにだれだろう?」
ユウカはカップ麺をすするミザエルを残して、扉を空けた。
遊戯王ARC-V