やった!
これからもよろしくお願いします。
「兄上、お話があります。」
「……。お前、急に帰ってきたかと思えば…。」
俺は煌の大火の事件で傷ついた身体を癒した後に、鬼倭王国へと戻った。
煌での家は大家になんとか適当に言って借りたものだが、もう借りるのは限界が来ていた。
煌ではスパイ対策に、煌の民以外の入国、居住を制限しており、身分がはっきりしない者は暮らすことができない。
そんな中、あの大火の一件が起こり、しかもそれを敗残兵の仕業だとしたせいで、国内の警備はかなり厳重になってしまった。
鬼倭人である俺は東洋系の顔付きをしているし、白雄は煌出身だから良いのだが、レイはアクティアの生まれで、金髪だ。
なんとかやり過ごすのも難しくなり、俺の回復を期に、とりあえず鬼倭に三人で行くことにしたのだ。
これからのことだが、粗方目処はついている。
まず、白雄だが、俺たちと行動をすることになった。
傷が癒えて、意識が戻ってすぐの頃こそ、『玉艶を殺す』とか『紅徳にこの国を任せられない』とかと騒いでいたが、俺の説得で、どうにか落ち着いてくれた。
今、煌の王宮に戻るのはあまりに危険だ。
死んだことにはなっているものの、死体はもちろんだが見つかっておらず、玉艶や組織は誰かに助けられたと踏んでいても不思議はない。
助けた人物が俺ということにも、もしかしたら気付いているのかもしれない。
そんな状況から、白雄は俺たちと行動を共にすることを決めた。
白雄も俺も組織にとっては邪魔者だろうから、お互いを守るという約束もした。
そうなってくると、問題は身の振り方である。
なんとか組織から白雄を匿いつつ、組織、ないしは煌の内部に近づき、組織の野望を阻止する。そして紅玉を守る。
そのためにはー…。
「…煌に仕える?」
「そうです兄上。煌の内部、そしてその奥に潜む組織の闇に触れるには、煌の一将軍になるのが一番。」
兄上、鬼倭王国の次期国王である倭健彦に世界中で暗躍する組織のこと、そして俺が彼らから世界(と紅玉)を守りたいという意志を明かした。
兄上も世界の異変には気付いていたようで、俺の意志には同調してくれた。
「しかし、わかっているだろうが、お主は鬼倭の王子。そう簡単に出す訳にはいかないし、煌もすぐに受け入れるとは思えんぜよ…。」
「…煌の偉い方、いや、練紅炎には認めてもらえるネタ元ならあります。」
「…それはお主が連れてきた、火傷の大男のことか?」
……しまった。気付いていたか。
白雄が生きているということは、いつでも組織から狙われる可能性がある以上、知る人は少ない方が良い。
兄上まで巻き込んでしまうのは、情けないことだ。
「…まぁ、あの男が何者かはワシは知らんが、奴がネタだということはわかったぜよ。」
「兄上…。」
きっと白雄を兄上は知っているし、この大火の後、金属器使いが煌から連れてきた、火傷だらけの男…。
兄上が知らないはずはない、気を遣わせてしまったのだ。
「お主が欲しいのは、煌帝国軍につく、表向きの理由、というわけだな?」
「はい…!」
「……、わかった。少し父上と相談してこよう。」
…やった!
まずは、何とかなりそうだ。
兄上にはもう感謝してもしきれない。
屋敷の兄上の部屋の畳の上で、俺は深く頭を下げた。
「…それにしても乙彦。お主は大きくなったのぉ!」
「?…はぁ…。」
「ちょっと前までは、小さい体でいつも勉学や稽古ばかりして、鬼倭の男としてどうなのかと思っておったが…」
「…」
「…急に迷宮を攻略したいと言って旅に出て、そしたら金属器と仲間と一緒に帰ってきて、世界を救うと言いだしおって…」
「…」
「ワシの知らん間に、お主は大きい男になったぜよ…!」
「兄上…!」
そう言うと、健彦は俺の肩をポンと叩いて部屋を出ていった。
思えば、健彦には迷惑をかけてしまっていたのかもしれない。
いつも俺のワガママを許し、この国を任せたなんて、無責任な事を言っても、笑って受け入れてくれた。
前世の記憶があったから、何となく彼に信頼できず、やりにくいこともあった。
しかし、やはり兄弟なのだ。
前世の記憶があろうとなかろうと…。
◇◆◇
ー煌帝国・洛昌ー
「お久しぶりです。乙彦殿。」
洛昌の中心に位置する、本殿。
一部は大火で焼けてしまったが、迅速な消火と対応で全焼はまぬがれ、今となっては完全に復旧している。
そんな本殿の、応接間。
俺は煌の未来を担う二人の人物と会っていた。
「お久しぶりです。紅明様、紅炎様。」
「フン…。」
この偉そうな態度を取っているのが、練紅炎。
二つのジンを宿しているが、まだ若い。次期皇帝に最も近しい人物だ。
「紅徳帝への面会は来週ですが…私たちにお話とは?」
彼は練紅明。
煌の第二皇子で、非常に頭が切れる。
実際、まだ彼は16歳くらいだが、数々の戦をその頭脳で作り上げた戦術や戦略で切り抜けたという。
ぜひとも味方に引き入れたい。
「…先日の大火の一件は、残念でしたね。」
「その話か。…それは聞き飽きている。」
紅炎。
先の大火の事件は彼が迷宮に行っている間に起きたこと。
彼の後悔の念は想像できるくらいだ。
しかし、白雄は生きている。
それを伝えなければ。しかし、
「…自分も、両殿下には小さい頃から良くしてもらっていたので、今回の件は…許せませんね。」
「…!、そうですか…。」
紅明が反応した。
言葉をかなり選んだが、組織についての情報をお互い知っているということは示せたか。
既に組織は煌の内部にいる。
どこでこの会話が聞かれているかもわからないから、組織についてはっきり話すことはできない。
安全策をとるのだ。
「今回の件を受けまして、鬼倭としても動こうという話になったのです。これは紅徳皇帝に見せる書簡です。」
「拝見します。」
書簡を紅明に渡す。
紅炎は椅子に座って興味なさそうにしている。
本当に興味がないのか?
「…乙彦殿、これは…?」
「えぇ、鬼倭と煌は同盟を締結することになったんです。」
ーーー
『…同盟!?』
『そうぜよ。ずっと前から話はあったんだが、何かきっかけがなくて困っていたところだったぜよ。』
『…俺に煌の皇帝を説得しろ、ってことですか?』
『それは違うぜよ、乙彦。お主にやってもらうのはー…』
ーーー
「…同盟の補償として、あなたが煌帝国軍に?」
「はい。」
同盟の代償として、煌の傘下に下る。
鬼倭としては金属器使いの乙彦を失うのは損害ではあるが、強大な軍事力を持った煌を味方につけることのメリットは大きい。
同時に乙彦が煌の内部に入ることができるため、どの勢力にも利益になる。
「煌と鬼倭で軍事的な協力関係を作り、その代わりに金属器使いであるあなたを…。えっ!!?金属器使い!?」
「はい。でもあなたたちの敵じゃないですよ。」
この言葉が意味するのは一つ…組織に力を借りて迷宮を攻略したのではないということ。
金属器使いは軍隊一つに匹敵するほどの力を持つ。
軍事大国煌は、その力を欲しがるだろう。
「…!!」
「…フン。俺を味方につけて父上との同盟締結を有利に進めたいのか知らんが、俺はお前が信用ならん。乙彦。」
「!…紅炎様…。」
やはり、この程度で話を聞く男ではなかったか…。
だが良い。
これくらいの条件で手を組むくらいの甘い男なら、ここで手を切っていた。
ここまでは計画通りだ。
「まぁまぁ、兄王様…。」
「…わかりました。また来ます。今日はありがとうございました。」
俺は紅炎に手を伸ばす。
紅炎も俺の手を取り、握手をした。
ここまでは計画通りだ。
俺は、二人に一礼をしてから、その場を去った。
◇◆◇
『第一級特異点の一人が、我らの国と手を組もうとしていますねぇ。』
『シンドバッドですか?』
『いいえ。もう一人の方です。』
『倭乙彦…。邪魔ですね。』
『しかし、うまくいけば彼をこちら側に引き込めるかもしれません。』
『そうですね。』
『そうですね。』
『我らはこの世を暗黒に染めるのみ。』
『『『『我らが父の作られし、真なる民の共同体。』』』』
『『『『アル・サーメンの、アジェンダのままに。』』』』
◇◆◇
しかしながら、この屋敷にももう組織の連中が大勢いるとは。
彼らの規模と行動力は、桁違いだな。
そういえば、白龍は俺のことを覚えているのだろうか。
もしそうだとしたら、そこら中にいる組織の奴らに、白雄の安否と俺が匿っていることがバレて、一発KOだな。
万が一に備えて、彼と会ったとき、どうするかを考えておいた方がいいな。
「きゃっ!!」
「おっと!」
そんな事を考えながら歩いていたら、人とぶつかってしまった。
いかんいかん。俺としたことが。
これだから歩きスマホはいかんのだ。
「これは失礼。お嬢さん、大丈夫ですか?」
「え…えぇ、へいき、です。」
俺とぶつかった女の子は、パタンと後ろに倒れてしまっていたが、けがはないようで、スッと立っては、着物のホコリを払うような仕草を見せた。
その女の子は、背が俺の半分くらいで、豪華な服を着ていて、髪が赤かった。
まぁ、ここは煌の城なのだから、小さい女の子がいるならそれは貴族の娘か皇女な訳だが…。
………。…皇女?
「…し、失礼ですが、あなた、お名前は…?」
赤く長い髪。
その髪型には見覚えがあった。
二本のおさげをなびかせ、サイドの髪を上でまとめていた。
まるで、天女のようだ…。
「…私(わたくし)は、煌帝国第八皇女、練紅玉…です。」
練紅玉。
捜し求めていた俺の、姫だった。
全国一億人の紅玉ファンの皆様、お待たせしました。
健彦とイサアク、どっちがヒロインなんだと困っていた方もいたかもしれませんが、安心してください。
ヒロイン紅玉でましたんで。