ウルトラマンオーブ Another Century's Episode   作:ルシエド

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 人の心の闇夜を照らす光の戦士


二人で一人の―――

 街は大きな混乱の渦に飲み込まれている。

 今やキングベムラーのせいで、世界中が大混乱に陥っていた。

 特にウルトラマンが敗北し、24時間後にキングベムラーがまた来ると宣言していたこの街の混乱は、他の国や地域の比ではなかった。

 

 街は既に日常を失い、都市機能は完全に麻痺。

 人々は街の外に逃げようとして渋滞に呑み込まれ、迂闊な逃亡を選ばなかった人々は近隣の学校などの避難所に寄り合っていた。

 そんな避難所の仮設テントの中から、砂上銀河が足早に出て来る。

 何故か、その表情はとても穏やかなものだった。

 

『これで一区切りか?』

 

「ああ。……親父とお袋と、こんなに話したのも久しぶりだ」

 

 先程まで、銀河はここに避難して来た両親と、仮設テントの中で話していた。

 人は死の際になると、普段話せないことも話せるようになるという。

 "これが最後になるかもしれない"という意識が、人に腹を割らせるのだ。

 この状況は、疎遠になった親子を素直にさせる劇薬としては十分すぎた。

 

 子から親に歩み寄り、親子が本音を語り、最後に両者が少しだけ歩み寄る。

 それで終わり。疎遠ではなくなったが、仲直りとまではいかない。

 銀河は一度の事件で親の信頼を失ったのではない。何年も間違い続けて、何年も問題を起こし続け、何年も親の信頼を裏切り続けたのだ。

 それは、一度の会話で解消されることではない。

 信頼を裏切り続けた時間と同じだけの時間をかけなければ、取り戻せない信頼なのだ。

 

 銀河と親の関係は、今日までマイナスだった。

 だが今日、マイナスはゼロに戻った。

 まだ何一つとしてプラスではない。だがゼロから始めて、ここからまた積み上げていくことを、彼は許されたのだ。

 

『一時の誤解で失われた信頼なら、一時の弁明で取り戻せることもある。

 だが長い時間をかけて失われた信頼が、一瞬で戻ることはない。

 ここからだ。お前の家族の信頼は、ここからお前が丁寧に積み上げていかないと、な』

 

「……基本的に、信頼は積み上げるのに時間がかかるのに、一瞬で吹き飛ぶもんだしな」

 

『そのくせ、積み上げなきゃ価値はない。

 無ければ力を借りることもできない。

 信頼なんてものは、積み木で作る城みたいなもんだ』

 

 自分に対する信頼も、他人に対する信頼も、一瞬で失われてしまうものだ。時間をかけて失われることもあるものだ。

 銀河は時に時間をかけて、時に一度の大事件を起こして、他人から自分に対する信頼を、自分自身を信じるという信頼を失っていった。

 他人から信じられることも、自分を信じることも、彼は久しくしていなかった。

 

「おかえりなさい」

 

「よう。こっちは上手く行ったぞ」

 

 避難所の学校の昇降口で待っていた澄春が、彼に声をかける。彼女は彼に頼まれ、彼と両親の会話を聞かないように遠くから見守り、話を終えた彼を迎えていた。

 

 何故自分なのか、と澄春は頼まれた時彼に聞いた。

 お前が見てると思った方が肩の力が抜ける、と彼は答えた。

 そっか、と彼女は少し嬉しそうに微笑んだ。

 心の中の本音を、彼は口にしなかった。

 あなたの役に立てるなら喜んで、と彼女は承諾した。

 

 かくして、彼は彼女に遠巻きに見守られながら親との関係を改善してみせた、というわけだ。

 

「ひゅー、頑張りましたね、砂上くん」

 

「もうその吹けてない口笛に安心感すら感じるな」

 

「もう! 毎回毎回吹けてないってバカにして! じゃあ砂上くんは吹けるんですか!」

 

 銀河は無言でハーモニカを取り出す。そしてちょっと驚く澄春を尻目に、その辺りの壁に寄りかかってガイ直伝のメロディを奏で始めた。

 静かで、心を落ち着けるメロディ。

 澄春に聞かせるためだけに奏でられるメロディが、不安と恐怖でピリピリしていた避難所の空気を和らげていく。

 彼の奏でる音楽が、周囲の視線を集めていく。

 

 周りを全く見ていない銀河はそれに気付いてもいない。

 周囲の反応に気付いているのは、ガイと澄春だけだ。

 目の前の少女に聞かせるために気持ちを込めた音楽で、銀河は無自覚に周囲に安らぎを与える。

 演奏を終え、銀河は最後に口笛も吹いた。

 

「ハーモニカが吹ける。まあ口笛も吹けるんだが」

 

「な、なんですと……!?」

 

「で、お前はいつ口笛が吹けるようになんの?」

 

「あぐぅ」

 

 少年のからかいの笑顔。風祭澄春はなんだか無性に負けた気がして、「このままではいけない」という気持ちに突き動かされるまま、どこかへと走り去っていく。

 

「また明日! また明日披露しますから!

 今日頑張って、明日ちゃんと成功させますから!

 だから明日、また聞いて下さい、砂上くん! 約束ですよ!」

 

 澄春の背中が見えなくなってから、銀河はマイペースに屋上に上がっていく。

 二人が消えた後には、音楽で視線を集められた人々の、『微笑ましい中学生の青春』を見守る生暖かい視線だけが残されていた。

 

「明日、だってよ」

 

 先の澄春の言葉を思い出し、上機嫌に笑いながら銀河は階段を上っていく。

 

「あいつ、明日が来ることを疑ってすらいないんだぜ」

 

『疑いようもなく明日を信じてるのさ。ああいう強い女は、そう多くない』

 

「だろうな。俺ですら不安だってのに、大したもんだ」

 

 ガイにも覚えがある。

 "本当に強い女性"というのは、何故か時々本当に本質を突いたような言葉を口にする者なのだ。

 

「24時間経過。……さて、来るかな」

 

 空が割れる。

 屋上に辿り着いた彼の視線の先で、キングベムラーが降臨する。

 空は暗黒の王の力の影響か、絵の具で染めたような灰一色の曇り空。

 街には避難のために人影も見えず、太陽光が届いていないため薄暗い。

 光が闇に薄められたその光景の中心に、キングベムラーは降り立った。

 

『こいつが最後の戦いだ。キングベムラーさえ倒せれば、この宇宙にも平和が戻る』

 

「分かりやすくて最高だな。勝てばよし、負ければクソだ」

 

『勝つぞ!』

 

「ああ!」

 

 最後の戦い。ゆえに、二人は声を揃えて変身する。

 

『「 ネクサスさん! 」』

 

《 ウルトラマンネクサス 》

 

『「 レオさん! 」』

 

《 ウルトラマンレオ 》

 

『「 逆境に負けない心、お借りします! 」』

 

 青い光に包まれた銀河が雲の上まで飛翔し、赤い光に包まれて、雲を突き破り地に落ちる。

 

《 フュージョンアップ! ジュネッスシーザー! 》

 

 かくして、赤き巨人はキングベムラーの前に立ちはだかった。

 

「塵芥のウルトラマンか。まさか生きていようとはな」

 

「売られた喧嘩は買うぞ? てめえを塵芥にしてやるよ」

 

 赤い拳を握りしめ、ジュネッスシーザーが飛びかかる。

 

「……今ここに居ない、色んなウルトラマンさん達の代わりにな!」

 

 始まる戦い。キングベムラーはオーブの流儀に合わせて動き始めた。

 互いに距離を詰め、申し合わせたかのように接近戦。

 両者の手足が縦横無尽に跳び回る。

 直線、曲線。鋭角、鈍角。巧遅、拙速。両手足が空に様々な軌跡を刻む。

 キングベムラーは桁違いの身体能力を活かした、豪快な一撃を巧みに繰り出す格闘スタイル。

 ジュネッスシーザーはレオの格闘技を下敷きに、銀河と溝呂木の技を織り交ぜた理想的な格闘スタイル。

 

 ただ殴り合うだけの技比べなら、両者の実力は拮抗していた。

 

「たった一日で、随分と練り上げてきたものだ。

 このスケールでの戦いにもそれなりに適応してきたか」

 

「その余裕、すぐに剥ぎ取ってやる!」

 

 技で上回るオーブの拳が、一瞬だけキングベムラーを明確に上回り、その拳がキングベムラーの頬をかすめる。

 堅固な皮膚にはかすり傷一つ付かなかったが、その一撃が意識を変えた。

 この一撃により、キングベムラーはオーブをようやく『敵』として認めたようだ。

 

「―――四流が、三流程度にはなったか」

 

 踏み潰す虫に本気を出す人間は居ない。

 だが大きな害虫であれば、人は少しなら本気を出すだろう。

 キングベムラーの心境は、まさしくそれだった。

 

「よかろう。終わりを見るがいい」

 

 キングベムラーが片手を上げる。

 すると、その背後に暗黒の穴が無数に開いた。

 その数、合計108。その一つ一つから、直撃すればウルトラマンのカラータイマーを粉砕するだけの威力を持った、暗黒のエネルギー弾が放たれる。

 オーブは高い身体能力で横っ飛びし、町外れの山中へと逃れたが、放たれたエネルギー弾は自動追尾機能を持っていた。

 凄まじい速度で、跳躍直後のオーブに向かって殺到する。

 

《 フュージョンアップ! ヘイトダーティ! 》

 

 銀河は戦闘に集中し、ガイは力の制御に集中する。

 今の二人がそうすれば、戦闘の最中にノータイムで姿を変えることも容易であった。

 

 オーブはゼアスとイーヴィルの形態に変化。

 時間を巻き戻し、時間を遅らせ、亜空間に飲み込んでエネルギー弾を消去する。

 能力を併用した中距離戦にシフトしようとしたオーブだが、そこで『敵の体から無数に生えてくる小型怪獣』の姿を目にし、己の目を疑った。

 

 キングベムラーが、たった一人で怪獣軍団を生み出している。

 

「怪獣の生産能力!? くっ」

 

 怪獣はオーブの身長の半分ほど。だが、既に20体が生産されていた。

 このままでは数に押し切られる。

 オーブは特殊能力使用をゼアスの力、それ以外をイーヴィルの力に任せ、ヘイトダーティの全能力で数を減らそうとするが……そこで、背後からの攻撃に後頭部を強打されてしまう。

 

「づぁっ……! 何が……!?」

 

 見ればオーブの背後で、先程キングベムラーの背後に開いていた暗黒の穴が開いていた。

 

『ギンガ、あれは空間攻撃だ! 距離も角度も射線も無視してくるぞ!』

 

「気合いでかわしてやる!」

 

 後頭部に大威力攻撃を食らったことで、意識が飛びそうになる。

 だが、銀河は歯を食いしばってそれに耐え、時空の操作とバランスの良い形態の長所を活かして、敵の猛攻に懸命に耐えた。

 周囲全てから、怪獣が群がってくる。

 周囲全てから、暗黒のエネルギー弾が飛んで来る。

 攻撃をかわし、攻撃を食らって転がり、光線を撃って怪獣をぶち抜き、怪獣を盾にしてエネルギー弾を防ぎ、泥臭く彼は食らいつく。

 

「こんなものに手こずる程度の力しか無いのか」

 

 だが、キングベムラーは一切容赦しなかった。

 包囲攻撃にズタボロになっていくオーブに自ら接近し、周囲からの攻撃を必死にかわしていたオーブの腹を、強烈に蹴り込む。

 かわせるはずもなく、オーブは派手に吹っ飛んでいった。

 

「がっ!?」

 

『瞬間移動に……時間操作!?』

 

 ガイは、この展開を予想していた。

 キングベムラーの参戦を予想していた。

 ゆえに銀河が必死に攻撃を捌いている間も、キングベムラーへの警戒は緩めていなかった。

 

 だと、いうのに。

 キングベムラーは『瞬間移動』で接近し、周囲の時を遅くしていたオーブに『時間操作』を行い、等速にした上で蹴り飛ばしてきたのだ。

 これでは、警戒していても防げるわけがない。

 最初の戦いでヘイトダーティを捕まえた時も、おそらくはこうして時間を操ったのだろう。

 

「所詮は三流。王の頂には届かぬ」

 

 腹を蹴られ、フラフラと立ち上がるオーブに、キングベムラーが生み出した怪獣と暗黒のエネルギー弾が迫り来る。

 

『 ビクトリーさん! コスモスさん! 』

 

《 フュージョンアップ! ビクトリウムエクリプス! 》

 

 銀河が息を整えている間、銀河の"体を使う力"が一時的に失われたことを逆に利用し、ガイがオーブの体を動かす。

 

《 ウルトランス! ネクサス・アロー! メフィスト・クロー! 》

 

 無理矢理に得た体の主導権。それゆえ単純な動作しかできないが、今はそれで十分だ。

 オーブは武器を操る形態に変わり、左手にネクサスの弓、右手にメフィストの爪を形成。

 二つの武器を前に向け、そこで体の主導権が銀河に戻る。

 

「ダークレイン・シュトローム!

 アローレイン・シュトローム! 倍乗せだ!」

 

 光と闇。対になる分解光線が、二つの武器から放たれる。

 キングベムラーが出した圧倒的な数に対し、こちらも圧倒的な数で対抗しようという脳筋理論。だが、それは大正解だったようだ。

 分解の属性を持つ光線が全てのエネルギー弾、全ての小型怪獣を消し飛ばし、更にその向こうのキングベムラーへと群がるように飛ぶ。

 

「必死に足掻くものだ」

 

 だが、キングベムラーはそれを容易く透明な壁で防いでしまう。

 

『バリア……いや、シャッターか!?』

 

 光線ではまず砕けない光の壁。

 その壁を解除しないまま、キングベムラーは瞬間移動を行う。

 そうしてオーブの背後を取り、その脳天に強烈な肘打ちを叩きつけた。

 

「うぐぁ!?」

 

 だが、銀河も只者ではない。

 銀河は()()()()()()()()()()()()()という、人間離れしたカウンターを仕掛けていた。

 喧嘩漬けの日々が彼に与えた、人外じみた技能である。

 

「遅い」

 

 だがキングベムラーは、攻撃を見てから時間操作を実行。

 時の流れを遅くし、振るわれたメフィストの爪を悠々とかわし、オーブの背中を蹴り飛ばす。

 

「づぅっ!」

 

 蹴り飛ばされた角度が悪い。このままでは地球外に飛んで行ってしまう。

 想定外の危機に見舞われたオーブだが、その体を念力で掴み止める者が居た。

 蹴り飛ばした本人、キングベムラーだ。

 

「さて、お前を痛めつける姿を見せれば……地球人は、どう反応するだろうかな?」

 

 キングベムラーは、オーブを念力で掴んだまま、地面に強烈に叩きつける。

 叩きつけた後空高く持ち上げ、また地面に叩きつける。

 そして持ち上げ、また叩きつけていた。

 

『ギンガ! おいギンガ! しっかりしろ!』

 

「……っ……ガイさん、ブライト、ダークネスを……!」

 

『分かった!』

 

 体は既に死にかけだ。だが心はまだ死んでいない。彼らの目はまだ死んでいない。

 

《 フュージョンアップ! ブライトダークネス! 》

 

 メフィストとカオスウルトラマンの力を使い、オーブはその力の総量を一気に引き上げる。

 そしてキングベムラーの念力による強力な拘束を、空中で力任せに引きちぎった。

 

「ほう」

 

 戦いの流れを引き戻さなければならない。

 そう考え、オーブは空に浮かんだまま、全力の一撃を迷いなく放った。

 

『「 ダークレイ・カラミューム! 」』

 

 メフィストとカオスウルトラマンカラミティ、上級の闇の巨人二人が全力を込めた一撃。

 キングベムラーは右腕に闇の渦を作り出し、それを―――()()()()()

 

「―――!?」

 

「闇の力も使っているのであれば、喰らうは容易い」

 

 サンダーブレスターも、ブライトダークネスも、この王に攻撃を撃ったならその結果は変わらない。闇の力が含まれているならば、この王はそれを容易に喰らうだろう。

 

「返すも容易い」

 

 キングベムラーは吸収だけに留まらず、なんと吸収したものをそっくりそのまま返すという器用な技まで披露してきた。

 オーブはティガダーク戦で覚えた闇の盾でそれを受け流すが、直撃を避けられただけで衝撃は盾を貫通し、オーブを地に叩き落とす。

 

 ここでとうとう、カラータイマーが点滅を始めてしまった。

 

「うっ、ぐっ……!」

 

 またペースを握られる。マズい。

 そういった思考から、満身創痍のオーブは瞬時にキングベムラーとの距離を詰めた。

 だが拳が当たった瞬間、キングベムラーの体が"砂状化する"。

 

「!?」

 

「所詮は二流にもなれん三流か」

 

 物理攻撃が無効化されている。

 これでは剣で切っても、拳で殴っても意味がない。

 間違いない。これは、()()()()()()()()だ。物理攻撃無効化能力だ。

 

(こいつ、一体、どんだけ能力を持ってやがるんだ……!?)

 

 闇は吸収され、物理攻撃は無効化される。そんな状態で、オーブはキングベムラーのエネルギー弾を胸に食らってしまった。

 

「かっ――はっ――」

 

「これが『(キング)』を名乗るということだ。

 ウルトラマンも、ゆえに一人しかこの称号を名乗ることはない。

 王族でさえ、『キング』の単語は名乗りはしない。

 黒き王ベリアルが、侮辱のために名乗ったことがある程度の話だ。

 ……昨今の生温いウルトラマンは、それさえ忘れてしまったのか?」

 

 エネルギー弾に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、転がされるオーブ。

 その頭を、キングベムラーが凶悪に踏みつける。

 

「ぐっ!?」

 

「遠き昔、我は光の者に敗れた。

 敗北の屈辱、勝者への尊敬、その両方を覚えたものだ。

 我を倒したあれはウルトラマンのキングとなり、我はベムラーのキングとなった。

 ……悲しいことだ。貴様のような弱者がウルトラマンを名乗るか。

 我が巨人の王であったなら、弱者がウルトラマンを名乗ることなど、許さなかっただろうに」

 

「……はっ、弱者が成長しないと思ってるお前が、ウルトラマンの王になんてなれるかよ!」

 

 オーブはキングベムラーの足を殴り、足を弾いてなんとか脱出。

 距離を取って構えるが、いくつ能力を持っているのかも分からないキングベムラーは、今度は自分の体を四つに増やしていた。闇の塊を素材にした分身生成である。

 一つ一つが体のサイズも、戦闘力もそのままという大反則。

 

(分身!?)

 

 四体のキングベムラーが、一斉に口から火を吹いた。

 オーブは闇の力を巨大な盾として防ぐが、盾ごと押されて後退る。

 このままでは、オーブ諸共にこの街の避難所全ても、キングベムラーの吐いた火に飲まれて灰になってしまうだろう。

 

『く……この、ままじゃ……!』

 

 光の力も尽きかけだ。

 人の力も尽きかけている。

 精神世界のガイでさえ、立つ力を出すこともできず膝をついている。

 

「ダメなの、か……!?」

 

 銀河の意識が薄れる。

 敗北の予感が迫る。

 死の実感が近寄ってくる。

 

(―――俺達は―――ここで―――負け―――)

 

 ここで終わりか。銀河とガイの思考に、その一文がよぎった瞬間。

 

「頑張ってー!」

 

 どんな喧騒や爆音の中でも、子供一人の声を聞き分けられるウルトラマンの聴力が、風祭澄春の声を聞き届けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心の風景が切り替わる。

 心に流れる時間は、現実の時間とは別のものだ。

 ただぼんやりと、無限の時間が流れるその場所で、銀河は無形の思考を行う。

 

「そういや、なんで……

 親父とお袋は、避難所で俺が謝った時……

 『昔の銀河に戻った』、なんて言ったんだろう……」

 

 途切れかけた意識が、記憶を辿るという形で、復活しようとしているようだ。

 

「それが、『本当のお前』だったってことじゃないのか?」

 

「……ガイさん」

 

「人は変わる。本当の自分を見失うこともある。

 本当の自分は変質し、欠け、膨らみ、色を変え、何かに覆われ……

 けれど、いつだってそこにある。

 闇に堕ちても、外道に落ちても、本当の自分ってのは残ってたりするもんだ」

 

 クレナイ・ガイも。

 ジャグラス・ジャグラーも。

 砂上銀河も。

 かつて、本当の自分を見失ってしまった者達だ。

 

「ギンガ。お前は壊す者だった」

 

「……」

 

「だけど始まりのお前は、壊す者を許さない者だったはずだ。

 お前が嫌った『悪』は……他人の何かを壊すもの。

 笑顔を、幸せを、優しさを、大切なものを、平和を、壊すものだったんだろう?」

 

「……」

 

「壊す者を壊す以外に、それを止める方法をお前は知らなかった。

 何かが悪に壊されている現実が、お前は耐え難かった。

 だから壊した。壊される前に壊した。壊された後に壊した。

 そうしている内に……悪と同じことをしている自分も、悪だと思うようになった」

 

「……」

 

「自分が正義であるか、悪であるかも分からなくなり。

 それが正しいことであるとも、間違っているとも言えなくなり。

 守るということと壊すことの境界を見失い、本当の自分を見失った」

 

 銀河は人の心の闇を照らさないまま、悪を撃ち続けた。

 その歪みは、もう彼の目にもちゃんと見えている。

 

「今なら見えるはずだ、ギンガ。本当のお前が」

 

 街で困った人が居れば、手を差し伸べずにはいられない。

 街で悪を見れば、拳を握らずにはいられない。

 理不尽に痛めつけられている人を見捨てられなくて。

 理不尽に栄えている悪が許せなかった。

 暴力以外に悪を倒す方法を知らず。

 暴力ではない、悪を倒す道を知った。

 

「近くで見てきた俺には、よく見えてたぞ。

 暴力を使わず人を助けた時の方がいい顔をしている、本当のお前を」

 

「……!」

 

「何せ、今の俺達は同化した状態、二人で一人のウルトラマンなんだ。隠せるもんかよ」

 

 そして、力で壊すのではなく、光で照らすことをよしとする巨人と出会った。

 

「もう、力で破壊することだけに頼らなくていい。

 お前はもう、力の正しい使い方を知ったはずだ」

 

 逆境に負けない心を。

 星のように大きな心を。

 自分と向き合う心を。

 光と闇、その両方を見つめ受け入れる心を。

 この少年は、『彼ら』から貰った。

 

「今のお前に見えているそれが、本当のお前だ。砂上銀河」

 

「―――」

 

 銀河の体から、光が溢れ出す。

 

「これ、は……」

 

「お前の光だ。人間・砂上銀河の光だよ」

 

 EXレッドキングを倒した時、手に入れたカードが光を放つ。

 ガイが使えないと断じたそれは、『ウルトラマンオーブ オリジン・ザ・ファースト』のカード。ダークティガが言っていた、赤い巨人のカード。

 言うなれば、ウルトラマンオーブ第一形態のカードだ。

 そのカードが、ギンガの光に触れることで、別のカードへと姿を変えた。

 変化したカードは、オーブリングの力を通して、『聖剣』へと更に姿を変える。

 

 

 

 現実世界で、キングベムラーは見た。

 

「……何?」

 

 闇の巨人と化したオーブのカラータイマーから、『剣の柄』が生えている。

 オーブはその柄に手をかけて、胸から剣を引き抜いた。

 

 

 

―――銀河の光が、我を呼ぶ。

 

 

 

《 覚醒せよ! オーブオリジン! 》

 

 

 

 ガイが吼える。

 

「そうだ……他者を信じ、己を信じる者に、聖剣は応える!」

 

 一つになった銀河とガイが、共に輝く聖剣を掴んだ。

 

 オーブが変わる。姿を変える。カタチを変える。

 光に包まれたオーブが聖剣を一振りすれば、オーブを包んでいた光とキングベムラーの炎がまとめて両断されて、分身体はその全てが退魔の輝きに消し去られる。

 

「……なんだと!?」

 

 この戦いが始まってから初めて、キングベムラーの声に焦りの色が混じった。

 

『「 俺達の名はオーブ。ウルトラマンオーブ! 今は、二人で一人のウルトラマン! 」』

 

 かの巨人の名は、『オーブオリジン』。

 

 オーブの真の姿にして、聖剣に選ばれしウルトラマン。

 

『「 これが、本当の俺だ!! 」』

 

 力が未熟でも、心が未熟でも、たとえ自分を見失おうとも、最後には正しき光の戦士になれる者を見定める聖剣―――オーブカリバーが、強く清らかに輝いていた。

 

 

 




 次回、最終回

 神BGM『オーブオリジン』は2016/12/29に発売したCDアルバム「GO AHEAD~すすめ!ウルトラマンゼロ~」に収録されていますよ(ステマ)

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