ウルトラマンオーブ Another Century's Episode   作:ルシエド

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 Ntmanさんの『ウルトラマンオーブ最終回記念MAD』がカッコよくてずっと見てました。オリジンサーガも上質であと半年は寂しい思いをしなくていいという、とても幸せな現状

 というわけで、最終回です


銀河の光が、我を呼ぶ!

 この宇宙の、この地球の、この国の、ある軍事施設。

 本来ならば銀河や澄春を守るべき立ち位置にある自衛隊の彼らは、ウルトラマンとキングベムラーの戦いを見ながら、動くことができないでいた。

 

「せめて、巨人の援護を!」

 

「ダメだ。巨人が味方である確証は無い。

 我らはまだ巨人とコンタクトを取ったこともないのだ。

 せめて、彼が我々と意思疎通できる存在であることが分かれば……」

 

 謎の怪獣と謎の巨人。

 今日までの日々で巨人が怪獣から街を守ってくれていたことは、戦いの分析から既に推測されている。だが、まだ推測なのだ。

 人類はまだ、ウルトラマンと言葉を交わしてさえいない。

 "まだ人類に牙を向いていないだけ、怪獣と戦う理由があるだけ"という仮説と想定を捨てられないのだ。巨人を信じ、裏切られた場合、一番割を食うのは一般人なのだから。

 

 ウルトラマンの心を知らない人類は、まだウルトラマンと共闘できる段階に無い。

 

「光の巨人は現状、敵であるとは認定しない。

 敵と認定するのは怪獣群、そしてあのキングベムラーだけだ。

 それが、私の権限で可能な最大限の歩み寄りであると認識してほしい」

 

「……くっ」

 

 心情的にはウルトラマンの味方をしたくても、彼らはウルトラマンの味方になれない。

 ウルトラマンも怪獣も諸共に排除すべし、という過激派を抑える以上のことは不可能だ。

 せめてウルトラマンとコミュニケーションを取れれば違うのだろうが、それも叶わず。

 

 その時、オーブオリジンが降臨し、地平線の彼方にまで聖剣の光が眩く差した。

 

「なんと……美しい」

 

 目を焼かぬ光。

 思わず見つめてしまう光。

 目を奪われ、心奪われる心の光。

 その光を見た誰もが、あの光の巨人は敵ではないのだと理解した。

 駆けつけたい、あの光を支えたい、そう思うも秩序を守る彼らは動けず。

 

「我らはこの光を見ても、沈黙を守らなければならないのか……」

 

「風祭さん……」

 

 歯痒い思いで、彼らは遠くからでもハッキリと見える巨人の背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 聖剣の巨人。

 暗黒の王。

 光を纏い、闇を纏い、両者は壊れた街の中で対峙する。

 

「ほう……三流が、二流程度には見れるようになったな」

 

「お前の言う通り、名乗ることが恥知らずになりそうな未熟者だが……俺も、ウルトラマンだ」

 

「足掻くがいい、二流のウルトラマンよ。我が手にかかる栄誉を与えよう」

 

「要らねえよ! ガイさん!」

『ああ!』

 

 キングベムラーの念力が迫る。

 体重五万トン前後のオーブを軽々と持ち上げ叩きつけていたことからも分かるように、この念力は強固な金属ですら容易に捩じ切る必殺の技だ。

 捕まれば、勝機が永遠に失われかねない。されど、ウルトラマンが退くものか。

 

 腰だめに構えられた聖剣の鍔で、水の紋章が青く輝いた。

 

『「 オーブウォーターカリバー! 」』

 

 0から1を創る奇跡、1から100を生み出す奇跡が、大量の水を生み出した。

 オーブとキングベムラーの間に現れたそれが、念力を遮る壁となる。

 念力を飲み込む激流となった水塊は、そのまま破壊力を伴いキングベムラーへと襲いかかった。

 

「水か」

 

 王はその水に、無造作に火を穿くことで対処した。

 オーブが生み出した水は小さな湖を生み出せるほどの量があったが、キングベムラーが吐いた火は、それを一瞬で蒸発させる。

 キングベムラーはオーブの必殺技を無造作に消し飛ばし、またしても小型怪獣を生産し始めた。

 一呼吸ほどの時間に生み出されたそれは、飛行能力を付加された硬質な小型怪獣、総数13。

 

『「 オーブウインドカリバー! 」』

 

 蒸気で風景が歪む世界の中で、聖剣の鍔より風の紋章が緑に輝いた。

 

 吹き荒ぶ大気。

 逆巻く緑の防風。

 吹き上げられた風は全ての高熱蒸気を吹き飛ばし、飛行していた小型怪獣のバランスを崩し、空気の刃で全ての怪獣を切り刻んだ。

 

 が、当然ながらキングベムラーだけは切り刻めない。

 

「そうか、お前が……ノストラが語っていた、聖剣のウルトラマンか」

 

 キングベムラーは先の戦いのように片手を上げて、オーブの周囲を囲むようににまたしてもエネルギー弾を放つ暗黒の孔を開いた。総数は同じく108で、威力もまた絶大なまま。

 オーブは今度は攻撃のためでなく、防御のために聖剣の鍔で土の紋章を山吹色に輝かせた。

 

『「 オーブグランドカリバー! 」』

 

 地面に突き刺した聖剣が、地面と融合しながら地に立つ光線を解き放つ。

 光線とも土とも言える山吹色の衝撃が、周囲からの攻撃を全て防ぎ切る。

 何とか防御したオーブだが、まだ決定的なダメージを与えてすらいない。

 まだ時間操作、瞬間移動、シャッター、物理無効化砂状化能力、闇の吸収能力等の無尽にも思える能力群は、攻略法さえ見つけていないのだ。

 攻めなければならない。

 ティガダークが教えてくれた弱点の傷がどこにあるかさえ、まだ判明してはいないのだから。

 

(カラータイマーも……)

 

 点滅する胸の輝き。戦える時間も、残り30秒と少ししか無い。

 

(―――捨て身で攻める!)

 

 聖剣の鍔で、火の紋章が赤く輝いた。

 

『「 オーブフレイムカリバー! 」』

 

 水、風、土に続く、四属性目の聖剣の力が振るわれる。

 熱に強い怪獣でさえ一瞬で蒸発させる熱量が、炎の波となってキングベムラーを飲み込んだ。

 

「ぬるい。これで火のつもりか? 火とは……こう吐くのだ!」

 

 だが、効かず。

 キングベムラーは反撃に、口部から火を吹いた。怪獣の吐いた火が、邪悪な力によって作られた絶大な業火が、聖剣によって生み出された火を吹き飛ばし、直進する。

 吐かれた火はキングベムラーの狙った通りの軌道を通って、ビルなどを消滅させながら地球外にまで飛んで行き、月に着弾し細く深いクレーターを作り出す。

 

 だが、キングベムラーが狙ったオーブそのものには、当たってはいなかった。

 

「何?」

 

 オーブカリバーから出した炎は、オーブの意志で自在に操作することが出来る。

 それを利用し、オーブは熱と大気を使って光を異常屈折させ、蜃気楼に近い現象を起こして自分の位置を誤認させたのだ。

 炎は囮。オーブはこれで攻防一回分の時間を稼ぎ、その時間を使って聖剣最大最強の一撃を放つ準備を進めていたのである。

 

「ここだ!」

 

 火、水、土、風。四つの紋章が光り輝き、五つ目の光の紋章が最後に輝いた。

 聖剣が虹の光を纏い、オーブカリバー最強最大の攻撃が放たれる。

 

『「 オーブスプリームカリバー! 」』

 

 クレナイ・ガイの記憶では、この技で倒せなかった敵はほとんど居ない。

 倒せなかったのは一部の規格外だけだ。

 ルサールカで暴走させてしまった時は、数千平方kmの範囲の物が破壊に巻き込まれ、目に見える範囲のほぼ全てが燃え尽き、山向こうの家屋のガラスが割れ、本来の威力の一部だけでマガゼットンが吹き飛ぶという桁違いの威力の片鱗も見せていた。

 

 なのに―――

 

「発想はいい。小細工もいい。だが、我を傷付けるには到底足りん」

 

 ―――倒せない。

 

「く、そ……嘘だろ……!?」

 

 オーブスプリームカリバーは、確かにキングベムラーに当たっていた。

 なのに、倒せない。

 虹色の光線は命中した後、キングベムラーの体の表面を這うように動かしていた。

 なのに、倒せない。

 オーブカリバーは光の聖剣。闇の力と違い、キングベムラーには効果的なはず。

 なのに、倒せない。

 

 体の表面の七割には光線を当てた。だが残りの三割に弱点があるのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それさえ分からない。

 

「ここが限界か。二流のウルトラマンにしてはよく頑張ったな」

 

 キングベムラーの体から闇が吹き出す。

 "闇の支配者"にカテゴライズされる宇宙人・怪獣・邪神が持つ、それぞれの特性を内包した闇の攻撃だ。闇は凄まじいスピードで、オーブオリジンへと襲いかかる。

 オーブは後ろに跳んで、そこから飛んで回避……しようと、したものの。

 

『銀河!』

 

「足が、凍っ―――」

 

 足が氷で地面に接着させられている、と気付いた時にはもう遅く。

 オーブの体は闇に呑まれ、強大な闇はオーブの体を蝕んでいく。

 海水に侵食される岩の沿岸のように。

 風に風化させられる石の像のように。

 虫に食われ端から枯れる木のように。

 染み込む闇は、オーブの体を足の先から徐々に石化させ始めていた。

 

「せ、石化攻撃!?」

 

『嘘だろ!? くっ、解除……できない……!』

 

 形態変化も不能。光を吹き出させるも無駄。聖剣を当ててみてもまるで効果がない。

 

 このままでは全身が石化するのも時間の問題だ。それはイコールで、死を意味する。

 

『くっ、こいつは……!』

 

「諦めるなガイさん! 生きてりゃどうにかなる! 死ぬまでは諦めるな!」

 

『―――』

 

 どうすればいい、と表情を歪めたガイを、横合いから銀河が叱咤する。

 それを聞き、ガイは目を見開いた。

 

『……』

 

 今日、始めて。

 たった一回ではあるものの、銀河がガイを叱咤し、その心を支えた。

 ウルトラマンに支えられ、ガイにいつだって助言を貰って成長してきた銀河が、今日この場面で初めて弱気になりかけたガイを支えたのだ。

 それは成長の証。

 今日までの日々が刻んだ成長。

 ウルトラマンが銀河に心を貸した日々が、何一つとして無駄でなかったという証明だった。

 

 ガイはそこに、『守るべき価値のあるもの』と、『希望』を見た。

 

『悪いな銀河。ここまでだ』

 

「え?」

 

 ガイは、銀河を()()()()

 

『命を助けたってだけで、こんなとこまで付き合わせちまって、悪かった』

 

 二人は一つの命を共有していた。

 それを銀河に与え、単独の命を得た銀河は光の球に包まれオーブから排出される。

 闇に抵抗する命も、闇を押し返す光も失ったオーブは、一瞬にして全身が石化した。

 

「……大きいことだろ」

 

 オーブから分離させられた銀河は、光によって地上に運ばれる。

 けれども、その手はオーブに向かって必死に伸ばされていて。

 全身が石になってしまったオーブ(ガイ)は、銀河の求めに応えない。

 

「"命を助けられた"って、大きいことだろ!

 命の恩人のために、命かけてやろうって思えるくらいには、デカいことだろ!」

 

 キングベムラーがオーブに歩み寄り、その巨大な尾を振り上げ、横薙ぎに振るう。

 

 尾は周囲のビルを砂糖菓子の如く砕きながら、石化したオーブを粉砕した。

 

「ガイさああああああああああんっ!!!」

 

 尊敬するクレナイ・ガイの死に、叫ぶ銀河。だが、その声に応える者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光に包まれ、ゆっくり地に落ちていく銀河。

 他の誰もが気付かなくても、遠くからそれを見ていた澄春だけは、それが砂上銀河であると理解できていた。

 

「た、大変!」

 

 彼女は走る。

 壊れた街を走る。

 キングベムラーを全く恐れずに走る。

 "力や闇を恐れて見るべきものを見失わない"という彼女の心の美点に従い、走る。

 

「砂上くん!」

 

 そうして彼女は、倒れている銀河を発見した。

 彼に怪我が無いこと、意識が朦朧としているだけで命に別状が無いことを確認し、脳へのダメージも想定して澄春はひたすら声をかける。

 揺らさず、声をかけ続ける。

 やがて銀河は正常な意識を取り戻すが、彼が真っ先に言及したのは彼女ではなく、剣だった。

 

「剣……せい、けん、を……」

 

「剣?」

 

 澄春は彼に言われて周囲を見渡し、岩に刺さっていた剣を見つけた。

 

「あ、あれですね! ちょっと待っててください!」

 

 剣が刺さっている岩はよく見ると、石化され砕かれたオーブの破片の一つだった。

 そこに聖剣オーブカリバーが刺さっている。

 澄春は彼のため、彼に望まれた剣を引き抜こうとするが……

 

「ぬ、抜けない……!」

 

 抜けない。岩に刺さった聖剣は、ピクリとも動かなかった。

 澄春はぜえぜえ言いながら、無い腕力で必死にそれを引き抜こうとする。

 そうこうしている内に、澄春に起こされた銀河が復帰して彼女に歩み寄ってきた。

 

「サンキュー、澄春。もういいぞ」

 

「あ、砂上くん! あ、えと、その……さっきのは……」

 

「俺があの巨人……ウルトラマンだったって話か」

 

「……はい」

 

 二人の間に、しんみりとした空気が流れる。

 ウルトラマンという呼称さえ澄春は今知ったのだが、あの巨人の今日までの戦いであれば、彼女もよく知っている。

 彼がそれを秘密にしていたことも、今日知った。

 澄春は"秘密を知ってしまった申し訳無さ"に少し表情を暗くして、彼の言葉を待った。

 

「まあそれはどうでもいいから、お前は避難所に戻ってろ。起こしてくれたことは感謝する」

 

 なのだが、この空気を銀河はバッサリ蹴り飛ばした。

 

「ええ!? こういう流れって、こう……

 正体バレから、"黙ってて悪かった"とかになって、ラブロマンスになる流れでは!?」

 

「一人でやってろ。俺は気が向いたら参加するから」

 

「絶対参加してこない物言いじゃないですかー!」

 

 ブーイング代わりに口笛吹く澄春だが、まるで吹けていない。

 そんな彼女を見て笑い、銀河は彼女の肩に手を置いた。

 

「避難所に行っててくれ、澄春。必ず帰るから」

 

 彼がウルトラマンと知った以上、それが彼を危険な場所に行かせるのだと分かっていても、澄春は止められない。止めたくても止められない。

 "行かないで"と言いたくても言えない。

 "一緒に逃げましょう"と言いたくても言えない。

 澄春に背を向ける銀河は、何かを守るため、そして譲れないもののため、ここに居るのだから。

 

「……待ってますから! 約束ですよ!」

 

 澄春が背を向け、その場を駆け去る。

 銀河が手を伸ばし、聖剣の柄を掴む。

 キングベムラーもまた、聖剣を掴む彼の存在を認識した。

 

「その目。まだ諦めていないのか」

 

「ああ」

 

「貴様は持っているようだな。光の者が、奇跡を起こすために必要なものを」

 

 どんな強い光よりも。

 聖剣の放つ光よりも。

 ウルトラマンという肩書きよりも。

 自分と同じサイズの巨人よりも。

 

 ガイの心が持っていた、そして今銀河の心が持っているもの……『諦めない心の光』の方を、キングベムラーは脅威に見ていた。

 

「どうやら、我は殺す相手を間違えたようだ。貴様を真っ先に殺すべきであった」

 

 闇が放たれる。

 巨人を石化させた闇が広がる。

 その闇が、情け容赦無く少年を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 闇の中、少年は聖剣から手を離さない。逃げもしない。

 なのにその体は石化もしない。

 彼が最初に手に入れた二枚のカード――彼が日々手入れしていた祠から現れたレオとネクサスのカード――が光を放ち、彼を闇の魔の手から守っていた。

 カードが、彼に語りかける。

 

「レオさん……?」

 

『ここはお前の故郷だ。お前が守らなければならない』

 

 レオの言葉は、故郷を失い、仲間を失った者からのエール。

 

『強く在れ。俺の力も、お前の故郷と友を守るだろう』

 

 ネクサスもまた、レオに続いて言葉をかける。

 

『諦めるな』

 

「……ネクサスさん」

 

『光は絆だ。他のウルトラマンからガイへ。

 ガイから君へ。我々から君へ。受け継がれる度、再び輝く』

 

 それは、諦めない者へ向けられるエール。

 レオとネクサスこそ、逆境に強き心を知るウルトラマンだ。

 真の逆境にこそ、彼らから貰った心は強く輝く。

 

 この宇宙において、ウルトラフュージョンカードはどこかの宇宙からこぼれ落ちた力の欠片。

 ゆえに、この言葉はゲン(レオ)姫矢(ネクサス)からの言葉でもある。

 最初から最後まで、この二人は力を貸してくれていた。

 

『自分を信じろ。その勇気が、お前の力となる』

 

 レオの言葉に、銀河は奮い立つ。岩に刺さった聖剣を握る手に力がこもる。

 すると、レオとネクサスに続き、他のカードも勝手に動き始めた。

 宙に浮かび、力を放ち、少年をキングベムラーの闇から守るカード達。

 

『耳を澄ませて、声を聞いて。オーブは君を待っている』

 

 カオスヘッダーの一部、カオスウルトラマンが少年に呼びかける。

 

『心で感じるんだ。大切な物は、いつだって心で感じるものなんだから』

 

 ムサシ(コスモス)の力の欠片が、少年に呼びかける。

 

『未来への足音は、未来を信じる者なら聞こえているはずだ』

 

 ショウ(ビクトリー)の声が、少年に呼びかける。

 

『闇を恐れてはダメだ。嫌いなもの、苦手なもの、それが襲いかかって来ても、どうか勇気を』

 

 ゼアスが優しく、少年に呼びかける。

 

「揺らぐな。強く意志を持て」

 

 溝呂木が、ぶっきらぼうに少年に呼びかける。

 

「その心こそが、勝利に繋がる鍵となるだろう」

 

 ティガダークとイーヴィルティガが、力強く少年に呼びかける。

 

 足が石になって来た。

 石になりかけの血液が全身を巡り、いくつもの血管を詰まらせている。

 今すぐにでも死にそうだ。

 苦しい。

 辛い。

 そんな思考が頭の内側を駆け巡り、少年の膝を折ろうとする。

 

 けれども彼が膝を折らないのは、最初の戦いの時、ガイが戦う彼にくれた言葉を覚えているからだ。光の戦士が心に持つべきものを覚えているからだ。

 

―――諦めるな、立ち上がれ!

 

「もう一度だ」

 

――前を見ろ、敵を見ろ!

 

「あと一度でいい」

 

―――限界を超えろ! 今はお前も光の戦士、ウルトラマンだ!

 

「最後の一回。

 全力の一回。

 ここで燃え尽きたっていい!

 ここで力が尽きたっていい!

 ここで命が尽きたっていい!

 いつまで寝てんだ! さっさと目覚めろ! 覚醒しやがれ! ―――オーブオリジンッ!!」

 

 闇の中。

 光に守られ、彼は岩に突き刺さった聖剣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 死の闇の中、揺蕩っていたガイは差し込む光に照らされて、目を覚ます。

 

「……ん……」

 

 自分は死んだはずだ。なのに、終わっていない。ガイは不思議に思いながら、光の方を見た。

 

(呼んでいる)

 

 光に導かれるように、ガイはそちらへ向かう。

 

(何が呼んでる?)

 

 光が彼を導く。黒き王の闇に飲み込まれた時も、ガイを呼び戻したのは人の光だった。

 

(誰が呼んでる?)

 

 意識すらはっきりしていないガイは、光に無意識に導かれ、光によって徐々に正気を取り戻していく。

 

(誰を呼んでる?)

 

 その光は、今までずっとガイに導かれていた、けれども今この時だけはガイを導く少年の光。

 

「銀河が、俺を……呼んでいる」

 

 "戦わなければならない"。ガイは心を奮わせて、走り出す。

 

「これは、俺の光じゃない。俺の光はさっきの戦いで使い切った。なら、この光は……!」

 

 そして、体ごとぶつかるようにして、自分を導いてくれていたその光を掴んだ。

 

 

 

 

 

 聖剣を抜いた銀河が、光を掴んだガイが、叫ぶ。

 

「―――光よっ―――!!」

 

『銀河の光が、我を呼ぶ!』

 

 巨人は、蘇る。

 

 

 

 

 

 光と共に復活した光の巨人を前にして、人々は歓喜の声を上げ、キングベムラーは忌々しさを言葉に滲ませた。

 

『「 俺達の名はオーブ! ウルトラマンオーブ! 」』

 

「……しぶとさだけは、一流だと認めてやろう!」

 

 だが、王の言葉には眼前の敵を認める響きもあった。

 キングベムラーが火を吐いて、オーブがそれを跳んでかわす。

 

「ガイさん、今なら!」

 

『ああ、行くぞ!』

 

 ガイが異常なほどに光り輝いているカードを二枚引っ掴み、オーブが跳躍の頂点に達したその瞬間に、新たなフュージョンアップを解放する。

 

『レオさん! ゼアスさん! 真っ赤な力、お借りします!』

 

 オーブの左右に、現れる二人の赤きウルトラマンのヴィジョン。

 空中で二人のヴィジョンがオーブに重なり、オーブは変身完了と同時に飛び蹴りを放った。

 

《 フュージョンアップ! クリアシーザー! 》

 

 赤き流星が、時間操作を伴い凄まじい速度と威力で地に落ちる。

 キングベムラーは、それを真正面から受けて立った。

 オーブが蹴り、王が受け止め、蹴りは弾かれて王も弾かれる。

 衝突の衝撃で両者は一気に後退し、オーブは弾かれた後軽やかに着地した。

 

「今までで一番強烈な蹴り、であるな」

 

 これでもまだ余裕を崩さない、キングベムラー。

 だがウルトラマンオーブも怯まない。

 

『コスモスさん! カオスヘッダーさん! 分かり合った二人の力、お借りします!』

 

《 フュージョンアップ! コスモケイオス! 》

 

 コスモス・エクリプスと、カオスウルトラマンカラミティのフュージョンアップ。

 秩序と混沌、対になる両者は奇跡的なバランスで闇と光の両立を実現した。

 星砕きの域にあるキングベムラーのエネルギー弾による攻撃を、オーブは全身を光にすることで回避。キングベムラーの背後を取り、その背中に必殺の光線を放つ。

 

『「 ダブリューム光線! 」』

 

 二人のウルトラマンの必殺光線を、両腕から同時に放つという大技だ。

 だが、闇を吸収する力場と闇を盾とする力場を同時に展開し、キングベムラーは背を向けたままその攻撃を防ぎ切る。

 光だけなら防がれる。闇だけなら吸収される。

 そう考えての混合攻撃だったのだが、キングベムラーには通用しない。

 

「一流なのはしぶとさだけか?」

 

 キングベムラーは瞬間移動し、オーブの腹に向けて拳を振るう。

 

「く……!」

 

 オーブは反射神経ではなく、"敵が消えたらその瞬間決め打ちして腹か顔を守る"という事前に決めていた作戦の結果として、その攻撃を防御した。

 銀河が防御し、その隙にガイが次のフュージョンアップを叩き込む。

 

『ネクサスさん! 溝呂木さん! 神域の力、お借りします!』

 

《 フュージョンアップ! ウルティノイドノア! 》

 

 黒銀二色の神秘の形態、ネクサスとメフィストのフュージョンアップがキングベムラーを押し返す。一歩分の距離が出来、キングベムラーはシャッターを展開。

 シャッターごと体当たりするという豪快な技を仕掛けてきた。

 だがそれに対し、オーブは()()()()()()()という脳筋戦法で対抗する。

 

『「 ぶっ飛べぇっ!! 」』

 

 その拳は炎を纏い、規格外の物理的破壊力を持って、シャッターを粉砕しかの王を殴り飛ばすという快挙を遂げた。

 

「む」

 

 拳はキングベムラーに直撃し、キングベムラーを百m単位で吹き飛ばしたが、キングベムラーはノーダメージのようで難なく着地していた。

 けれども、少し驚いた様子が見える。

 流れを一気に引き寄せたこのタイミングで、ガイが一気に勝負を仕掛けた。

 

『押し切るぞ銀河! イーヴィルさん! ビクトリーさん! 借り受ける力、お借りします!』

 

《 フュージョンアップ! イーヴィクトリー! 》

 

 かつて意志を持っていた巨人から、巨人の力だけを借り受けた二人の人間が成った巨人の力が、妙なシナジーを生みながら融合する。

 ビクトリーの力をイーヴィルティガの力で安定させ、精神世界で全てのカードを上方に放り投げるガイ。そのカードの全てが、オーブリングの力を通し、ビクトリーの武器へと変わっていった。

 

《 ウルトランス! ウルトラマンレオ! ウルトラマンゼアス!

  ウルトラマンコスモス! カオスウルトラマンカラミティ!

  ウルトラマンネクサス! ウルトラマンメフィスト!

  イーヴィルティガ! ウルトラマンビクトリー! オーブオリジン! 》

 

 オーブ含む九人分の力が、そっくりそのまま武器へと変わりオーブの周囲に浮いている。

 それが一斉に、キングベムラーへと攻撃を仕掛けていった。

 

「凡百のウルトラマンの力ではない。が」

 

 だが、通じない。

 キングベムラーはオーブを先程殺した闇を吐き出し、全ての武器を石化させた。

 石化させられた武器が地面に落ち、街に突き刺さっていく。

 

「手品のタネは尽きたか?」

 

「ぐっ……」

 

「お前は結局、我に一度もダメージを与えてはいないのだがな」

 

 そうだ。

 事ここに至るまで、オーブはキングベムラーに小さなダメージさえ与えられていない。

 ベムラーの王は、とことん圧倒的だった。

 多彩な能力もさることながら、その皮膚の強靭さが反則にもほどがある。

 

 キングベムラーは火を吹いて、爆炎と爆煙にオーブが飲み込まれていく。

 

「うぅらぁっ!」

 

《 覚醒せよ! オーブオリジン! 》

 

 その炎と煙の中から、体表が僅かに焦げたオーブが飛び出してきた。

 聖剣の一閃と、王の腕が衝突、拮抗する。

 腕と剣で鍔迫り合いが行われるという異常な光景。だが、これも現実なのだ。

 

『弱点はどこだ!』

 

(全身ぶっ叩くしかねえだろガイさん!)

 

 すっ、と剣を引き、カチ上げるように剣を振り上げる。

 オーブカリバーがキングベムラーの下顎に当たったが、切れた様子も砕けた様子もない。

 石化の闇、口からの炎、強烈なパンチが一斉に飛んで来たのを見て、初見殺し気味なそれらを後ろに跳んでオーブは回避する。

 

「光は闇に消し去られる。それが宇宙の法則なのだ!」

 

 キングベムラーの圧倒的な攻撃が、絶え間なく飛んでくる。

 

 ウルトラマンオーブは、未だ突破口を見つけられてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あたしの兄と父は自衛隊の人です

 

 祠を回ってカードを探していた時、まだビクトリウムエクリプスにもなっていなかった時、風祭澄春は砂上銀河にそう言っていた。

 澄春の兄は戦闘機のパイロット。

 澄春の父は、今自衛隊がウルトラマンの味方をするかしないかを決められる立場にある。

 そんな澄春の父親に、電話がかかってきていた。

 

「……これは」

 

 風祭家は古風な家だ。古風な父親の下、少し変わった決まり事をいくつも持っている。

 澄春の敬語口調はそれが原因であり、他にも風祭家には"家族間では余程の有事でもない限り電話をかけてはならない"というルールがあった。

 普段の連絡はメール等を使い、有事にだけ電話を使うというわけだ。

 だからこそ、澄春の父親はこのタイミングで娘が電話をかけてきたことに、多少なりと身構えていた。

 

『ウルトラマンを! 私の友達を、ウルトラマンを助けてください!』

 

 だが、電話で伝えられたメッセージは予想の斜め上を行っていた。

 

「落ち着きなさい、澄春。ウルトラマンとは何だね?」

 

『あの光の巨人です! 私の友達が、あの巨人に変身しているんです!』

 

「!」

 

 澄春は割とバカの部類に入るが、その行動は考えなしでも正解であることが多い。

 彼女は頭ではなく、心で考える。ゆえにバカなのだ。

 この行動は、間違いなく正解だった。

 

「澄春は、あの巨人と友達なんだね?」

 

『そうです!』

 

「よし、分かった。ならあの巨人とコミュニケーションは取れるかい?」

 

『大丈夫です! ちょっとしたお願いなら聞いてくれる人ですし!』

 

「分かった。なら―――」

 

 そして澄春と違い、澄春の父はバカではない。

 リスクを恐れないくせに、頭はとても良く回る、そんな人だった。

 

 

 

 

 

 父の助言を受け、澄春は避難所のテントに駆け込んでいく。

 

「え、な、なんだね君は!?」

 

「放送機材の力、お借りします!」

 

 そしてそこに居た人を押しのけて、放送機材を手に取った。

 この放送機材は、避難誘導にも使えるものだ。

 一時的にであれば、街の中に避難誘導のアナウンスを流すことさえも可能である。

 それを使って、澄春は街中に声を響かせる。

 

『聞こえていますか! 私の友達の、ウルトラマンさん!』

 

 一人で千の怪獣さえ凌駕する火力を出してくるキングベムラーの攻撃、それに耐えていたオーブが、澄春の呼びかけに反応する。

 

『あの時私に聞かせてくれたメロディーを!

 もう一度、ここで聞かせてください!

 私とあなたが友達だってことが分かれば! きっと、それで繋がる希望があります!』

 

 それを聞き、オーブは彼女の方を向いて頷く。

 

 オーブは聖剣を盾として攻撃を防ぎながら、聖剣を楽器として音楽を奏で始めた。

 

 

 

 

 

 人々は見た。

 自衛隊は見た。

 少女の呼びかけに応え、聖剣で音楽を奏でるオーブの姿を。

 

 本来ならばオーブニカにて奏でるはずの音楽が、聖剣で奏でられている。

 だが、その考え方は違う。逆なのだ。ガイが奏でるあの音楽は、聖剣が元より持っている退魔の音楽なのである。

 なればこそ、聖剣で奏でる音楽こそが正しいカタチであると言える。

 

「剣から……聖剣から、音楽が……」

 

 人の呼びかけに、音楽で応える。

 もはや、ウルトラマンが味方であることを疑う者は居なかった。

 これはガイが銀河に伝え、銀河がカオスヘッダーと分かり合うために使った音楽でもある。

 音楽は、宇宙共通のコミュニケーションツールだ。

 遠い星から来たウルトラマンの心でさえ、音楽は人の心に伝えてくれる。

 

「風祭さん」

 

「皆まで言うな。分かっている」

 

 元より、キングベムラーが再襲来の時間を指定してくれたお陰で、自衛隊はいつでもスクランブル含む戦力展開が瞬時に行える段階だ。

 皆が号令を待っていた。

 "巨人を守れ"という命令を待っていた。

 澄春の父が、皆が待っていた令達を行う。

 

「総員に告ぐ! 『ウルトラマン』を援護せよ!」

 

 澄春の父は、この後にどんな責任を取らされると今知ることができるとしても、自分がこの瞬間にこの選択をするだろうという確信があった。

 後悔はしないはずだという、確信があった。

 

 

 

 

 

 オーブがとうとう猛攻に耐えきれず、膝をつく。

 胸のリング状のカラータイマーが青色を失い、赤く染まって点滅を始めていた。

 

 澄春の言葉に応えて音楽を奏でていられたのも、ほんの短い時間だけだったようだ。

 その後すぐに防戦一方となり、キングベムラーに痛めつけられてしまう。

 即死級の技を無数に持つキングベムラー相手に"痛めつけられた"で済む時点で尋常なウルトラマンではないのだが、それは何の慰めにもなりはしない。

 

「くっ……ぐっ……!」

 

『踏ん張れ銀河! ここが正念場だ!』

 

「ああ、分かってるさ……!」

 

 聖剣を杖代わりにして、なおもオーブは立ち上がる。

 弱々しい様子で聖剣を構えるオーブを見て、キングベムラーは鼻で笑った。

 その体を、強烈な尾の一撃で真っ二つにしようとしたキングベムラーは――

 

「……何?」

 

 ――その顔に、戦闘機のミサイルを食らっていた。

 

 自衛隊の援護だ。自衛隊が、ウルトラマンの援護をしている。

 名もなき人々が、生身ではウルトラマンの万分の一の力さえ持たない戦士達が、戦うため守るため今の自分を選んだ大人達が、ウルトラマンを助けるために戦いを挑んでいる。

 戦闘機で、ヘリで、戦車で、車両で、自分の足で、彼らは戦場に向かう。

 "見えないだろうな"と思いつつ、澄春の兄が戦闘機でオーブの横を通り過ぎながら親指を立てたら、オーブの目がしっかりとそれを捉えていた、なんて珍事もあった。

 

(ガイさん……これは)

 

『ああ。お前の……俺達の味方だ』

 

 人を守るために自衛隊になったのだ。なら、巨人を守ったっていい。

 

「羽虫が」

 

 キングベムラーはこういうのが嫌いだ。弱者の結束、弱者のでしゃばり、弱者の思い上がり。

 嫌いで嫌いでしょうがない。

 ゆえに、火を吹いてその全てを焼き払おうとする。

 

『「 オーブフレイムカリバー! 」』

 

 瞬間、火の紋章が輝いた。

 聖剣から火が吹き上がり、先の戦いではキングベムラーの炎に負けた聖剣の火が、今度は一方的にキングベムラーの炎を焼滅させる。

 

「させねえよ、暴君サマ。悪党のクソみたいな暴力から人を守る……それが、今の俺の使命だ!」

 

「熱量が上がった……だと?」

 

 パワーが上がっている聖剣の一撃に驚くキングベムラーに、地と空より煙幕弾が叩き込まれる。

 オーブの視界は塞がらず、キングベムラーの視界だけが一方的に塞がれた。

 

『今だ銀河!』

「援護ありがとよ!」

 

『「 オーブグランドカリバー! 」』

 

 大地に突き立てられた聖剣が、地面を伝い大地を裂く山吹色の一撃を放つ。

 輝く土の紋章が美しい。だが、これまでのグランドカリバーとは比べ物にならない威力のその一撃さえも、キングベムラーの表皮を抜くには至らなかった。

 

「鬱陶しい」

 

 王は煙幕を吹き散らし、またしても瞬間移動する。

 視界から消えたキングベムラーに、オーブは急所をガードしようとするが、その時自衛隊から届いたメッセージがあった。

 

『光を追え、ウルトラマン!』

 

 機械越しの声。それを信じ、オーブは彼らの光を追う。

 戦場には既に、命をかける覚悟を決めた部隊員達が散らばっていた。

 その部隊員達の手には、強力なレーザーポインターが一つ握られている。

 彼らはそれを使い、"自分の視点から見えるキングベムラーの現在位置"を、赤い光によって常時指し示していた。

 

 レーザーポインターが向けられる位置は常時動く。

 そして、キングベムラーを指し示した時点で止まる。

 ゆえに、瞬間移動してもキングベムラーの位置は明白だった。

 数十数百という数の目が、キングベムラーの移動先を見張っているのだから。

 

「喰らえっ!」

 

 オーブは振り向きざまに聖剣を振るって衝撃波を放つ。

 七時の方向距離500m。レーザーポインターの光を追えば、自分の目でキングベムラーの位置を確かめるまでもない。

 自衛隊員の瞬時の反応、それに対するオーブの超速反応により、聖剣の衝撃波はキングベムラーの胸に直撃した。

 

「……光」

 

 キングベムラーはぼそりと呟き、目を細める。

 

「ならば、弱者から死ぬがいい」

 

 キングベムラーは空に暗黒の孔を開け、そこから暗黒のエネルギー弾を降り注がせる。

 空より降り注ぐは、黒い雨。

 対し、輝くは水の紋章。

 

『「 オーブウォーターカリバー! 」』

 

 人々の想いを受け、人々の希望を力に変え、聖剣は加速度的に力を増していく。

 聖剣から放たれた水が、大地と空の間に海を創った。

 降り注いでいく黒い雨も、海に受け止められればその向こうには行けやしない。

 

『分かるか銀河。お前が皆を守っている。皆がお前を守っている。これが――』

 

 聖剣を掲げるオーブの中で、ガイが呟く。

 

『――この生き方ができるのが、本当のお前なんだ』

 

 その声がまた一つ、銀河とオーブを強くした。

 

「そうだったな、ウルトラマン……お前達の強さの源は、これだったか」

 

 賞賛のようなそうでないような言葉を吐くキングベムラーに対し、自衛隊はありったけの火力をぶち込む。

 ミサイル、爆弾。榴弾やらロケットやら。地対空も空対地も対戦車も対艦も何もかもがまぜこぜだ。今使用できる火力をありったけ放っている。

 しかし、キングベムラーは砂状化してそれを回避……したかに、見えた。

 

『「 オーブウインドカリバー! 」』

 

 オーブの聖剣が、風の紋章を輝かせる。

 風の紋章は先の攻撃で大量に拡散された水を巻き込みながら、キングベムラーを拘束するように球状の風壁を作り上げる。

 風壁は外から内へと入るものを素通りさせ、内側から外へと出ようとするものを許さない。

 叩き込まれたミサイル等は、風の壁の内側で無数の爆発を引き起こす。

 

 それは言うなれば、壊れないビンの中に敵と爆弾を入れ、爆発させるようなものだった。

 

「つっ!」

 

 全ての爆発が終わり、風の壁が消え、キングベムラーが初めてこれまでとは違う声色を出す。

 どうやら"痛くも痒くもない"というわけにはいかなかったようだ。

 とはいえ、顔にハエが勢いよくぶつかって来たくらいのダメージでしかないだろう。

 カラータイマーの点滅もある。もはや、オーブにも十分な余力はない。

 

「ガイさん!」

 

『諸先輩方! この数秒に、全ての力お借りします!』

 

 ガイは全てのカードを高く放り投げる。

 放り投げたカードの全てはオーブリングを通過し、全ての力がリードされた。

 

《 オールフュージョンアップ! 》

 

 この世界の、特別なカードだからこそできること。

 砂上銀河と融合している、イレギュラーな状況の今だからできること。

 ()()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()フュージョンアップ。

 体が盛大に悲鳴を上げたが、ガイも銀河もそれを無視した。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 ビクトリーの武器複数具現、ゼアスの時間操作と亜空間操作でキングベムラーの能力を潰す。

 エクリプスとカラミティで多様な技を連打する。

 ビクトリーの助力を得て剣の腕を引き上げ、メフィストとレオの助力を得て殴る蹴る。

 それでもどうしようもなければネクサスの分解光線、イーヴィルによって全員分の力をマルチに再配分した基礎能力で乗り切った。

 

「くははっ……どちらが先に果てるか、競おうではないか、ウルトラマン!」

 

 何度攻撃を当てても、キングベムラーは怯まない。

 だが、体のどこかを庇っているフシはあった。

 弱点はある。どこかにある。暗黒の皇帝の傷に由来する弱点がある。

 けれど、どこにあるかが分からない。

 

「ぐあっ!」

 

 殴り飛ばされ、オーブは地面を派手に転がる。

 戦車や戦闘ヘリが煙幕弾をキングベムラーに撃ち込んでくれたお陰で追撃はなかったが、オーブは急いで立ち上がる途中、奇妙なものを見つけた。

 

(石化した……オーブカリバー?)

 

 それは、自衛隊参戦前の攻撃で石化させられた、イーヴィクトリーがオーブオリジンのカードからウルトランスで作り上げた聖剣だった。

 聖剣のコピー。ウルトランスで作られた武器は時間経過で消えるはずなのだが、石化させられたこれは消えていなかったようだ。

 

 それを目にした銀河の脳裏に、天啓が降りる。

 

「光よ! 奇跡くらい―――起こしてみせろッ!!」

 

 オーブオリジンが石化した聖剣を握る。

 銀河の光に触れたそれが、内から眩い光を放ち、石化を内側から打ち破った。

 右手に本物の聖剣を、そして左手に新たな聖剣を。

 二本の聖剣を、八人のウルトラマンの力を借りているオーブが掲げる。

 

『聖剣が二本!?』

 

「行くぜ、ガイさん!」

 

 そうして、無理無茶無謀を(とお)した倍加の一撃が、放たれた。

 

『「 ダブルオーブスプリームカリバーっ!! 」』

 

 二本の聖剣から放たれた光の奔流が、複数人のウルトラマンの力を変換した虹色の輝きが、キングベムラーの全身を包む。

 

「む……くっ……!?」

 

 ここに来て初めて、キングベムラーが苦悶の声を漏らした。

 傷はない。二本の聖剣の光でも、かの皮膚に傷は付けられない。

 だが、希望が見えた瞬間だった。

 虹色の光は全身を包もうとするが、疲労とダメージのせいでムラができてしまっている。

 されど、ウルトラマンに足りない所があるのなら、人がそれを補えばいい。

 

「撃てええええええっ!!」

 

 虹の光の隙間に、人間がありったけの火力を叩き込む。

 ムラが出来ている位置は徐々に動いていたが、日々の訓練のおかげか、人類の援護射撃は的確にオーブの攻撃の隙間をカバーしてくれていた。

 そして、全身への大火力攻撃が、ダメージの積み重ねが、ようやく実を結ぶ。

 

「! 見えた!」

 

『ああ、あれが弱点だ!』

 

 ベリッ、とキングベムラーの胸の真ん中で何かが剥がれ、傷が露出する。

 そこが弱点。ティガダークが教えてくれた、唯一突ける弱点だ。

 ここまで攻撃しなければ見つけることもできなかったというのだから、キングベムラーがどれほど本気でそれを隠していたのかが窺える。

 

「認めよう、貴様らの力と光を……だが勝利までは譲らんっ!」

 

 キングベムラーの全身から、闇が吹き出す。

 この地球を丸ごと吹き飛ばすほどのエネルギーを内包した闇だ。

 闇は聖剣の光がなければ即座に地球を消し去ってしまうと想像できるほどの圧力で、聖剣の光を押し返してくる。

 

 これでは、ダブルカリバーの力をもってしても闇を抑え込んで、キングベムラーの動きを止めるのが精一杯だ。

 傷にまで光を届かせる余裕がない。

 オーブの両手と全リソースはダブルカリバーに持って行かれていて、これをやめて傷に攻撃を叩き込もうとしても、一瞬早く地球が吹き飛ばされてしまうだろう。

 

「あと、一撃……あと一撃、撃てれば……!」

 

 人も、ウルトラマンも、誰もが諦めない。

 諦めず攻め続ける。諦めず立ち向かい続ける。

 けれども、人の兵器ではその傷さえ貫くこと叶わず、キングベムラーには敵わない。

 

『何か……何かないのか……!?』

 

 その時。

 ヴィジョンでしか現れていなかった二人のウルトラマンが、光を得て実体化した。

 レオが右手の聖剣を、ネクサスが左手の聖剣を、それぞれ受け取る。

 

『誰かが起たなければならない時が、俺の時にもあった。

 誰かが行かなければならない時が、俺の時にもあった。

 苦しくとも辛くとも、立ち上がらねばならない時が……お前も、よく頑張った』

『それだけできればいい。それができれば英雄だ。よく立ち続けたな、銀河』

 

 それは、モネラ星人を前にした人々の祈りが、ティガの人形を本物のウルトラマンティガに変えたような奇跡。

 人々の祈り、諦めない戦士達の想い、銀河とガイの強い意志とその光が、カードから生まれたヴィジョンに実体を与えたのだ。

 少ない時間に大きな奇跡。二人のウルトラマンに二本のカリバーを任せ、オーブはキングベムラーの傷を真っ直ぐに見る。

 

「ガイさん!」

『銀河!』

 

『「 うおおおおおおおおおおおおっ! 」』

 

 右手と左手。シンプルに組まれた十字から、オーブは光の必殺光線を放った。

 

「バカな、この我が、暗黒の王が―――!」

 

『「 オリジウム光線! 」』

 

 真っ直ぐに伸びた光線が、王の傷に直撃し、貫通。

 

 そのままキングベムラーの胸の中央を、背中まで綺麗に貫いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸に大穴が空いたキングベムラーが、自嘲気味に笑い出す。

 もはや、その命も風前の灯火だ。

 

「……くっ、くくくっ、分かっていたことだ。

 最後には光が勝つ。光が闇を照らす。

 ウルトラマンとは、弱者を守り心の光を力に変える、宇宙に選ばれたものなのだと……」

 

 キングベムラーは、かつてウルトラマンキングに敗北したベムラーである。

 遠い昔に、地球という星でウルトラマンに負けたベムラーと同じように。

 そのベムラーが負け、敗北を糧に成長し、決して諦めぬ心の果てに力を手にしたのがこのベムラーだった。

 そして今、ベムラーの王は、聖剣のウルトラマンに討ち果たされた。

 

「この宇宙の理は、適者生存。

 悪は滅びる。正しき心が残る。

 暗黒の皇帝は滅び、ウルトラマンの一族が残った。

 他者を愛する光の者達こそが、宇宙に愛された光の理を体現している」

 

 空を見上げ、キングベムラーは崩れる己の体ではなく、聖剣の一撃の余波で雲が吹き散らされた青空と、そこに輝く夕陽の光を見つめていた。

 

「……思えば……それを認められぬがゆえの、数十万年であった……」

 

 キングベムラーは、最後にウルトラマンオーブを見やり。

 

「さらば、ウルトラマンよ」

 

 自分を打ち倒したのがウルトラマンであったことにどこか満足しながら、光の粒子に砕けて消滅していった。

 後には、死体さえ残らない。

 

『終わったな』

 

「ああ」

 

 街から歓声が上がる。

 夕陽を背にするオーブは、夕陽の風来坊として、この地球も救ったのだ。

 変身が解除され、"人の姿に戻った銀河とガイ"が、初めて会ったあの祠の前で向き合っていた。

 それは、同化しているこの二人には、本来ありえないようなこと。

 

「お前と出会ったのは、本当に運命ってやつだったのかもしれないな。

 俺という岩から聖剣を引き抜く時、俺を蘇生させるという奇跡まで起こしやがって。

 おかげで俺が何かしなくても、お前は同化解除後も生きられるようになってるだなんてな」

 

「ああ、あれやっぱりそういうのだったのか」

 

 ガイが銀河に命を与えて逃し、銀河は聖剣を引き抜く復活の奇跡でガイを復活させた。

 ゆえに、彼らには今それぞれの命がある。

 なのだが、キングベムラーを倒すため――ガイを助けるため――必死だった銀河は、この時まで自分がやらかしたことを自覚さえしていなかったようだ。

 

「キングベムラーは倒した。しばらくはこの宇宙も平和になるだろう」

 

「そっか。じゃあ……ガイさん、帰るのか?」

 

「ああ。俺にも、俺が守るべき地球がある」

 

 別れの時だ。銀河は泣きそうな気持ちを、必死に顔に出さないようにする。

 

「ありがとう、ガイさん。導いてくれて」

 

「それはこっちの台詞だ。お前にあんな戦いする義務無かっただろうに、随分助けられた」

 

「当然のことをしただけだっての。ガイさんは命の恩人だろ?」

 

「なら俺も、当然のことをしただけだ。俺はお前より、少しばかり大人だったんだからよ」

 

 二人は申し合わせたかのように、同時にポケットからハーモニカを取り出す。

 銀河のハーモニカも、ガイのオーブニカも、奏でるメロディは同じ。

 ゆえに、二つの音色はとても綺麗なハーモニーを生み出していた。

 ガイの方が上手くて、どこか物悲しい。

 銀河の方が下手で、どこか明るい印象を受ける。

 この二人らしい、少しだけ違う曲調のハーモニーであった。

 

 曲が終わり、二人は自然とハーモニカを口から離す。

 

「忘れるなよ、そのメロディを」

 

 ガイは笑った。出会いも別れも、悲しみだけではないと、彼は知っている。

 

「一曲しか教わらなかったけど、きっと一生忘れない」

 

 銀河も笑った。別れがどんなに悲しくても、泣きたくても、今は泣きたくなかった。

 最後に、自分の情けない姿を見せたくなかったから。

 最後には、自分の立派な姿を見せて送り出したかったから。

 最後くらい、成長した自分の姿で、本当の自分の笑顔で、彼に礼を言いたかったから。

 

「この地球は、お前に任せた。お前が守るんだ」

 

「ああ」

 

「だがどうしようもなくなった時は俺を呼べ。その曲を奏でろ。必ず駆けつける」

 

「ああ、ありがとう」

 

「お前に会えてよかった。砂上銀河」

 

 ガイはオーブカリバーを掲げ、オーブオリジンとなって宇宙へと飛び去っていく。

 銀河の手の中には、ガイが残していってくれたウルトラマンのカード達。

 オーブが飛び去りその姿が見えなくなった頃、銀河の手の中のカードに、透明な雫が一つ、また一つと、ぽたぽたと落ちていった。

 太陽が去った後に、少年の瞳から小さな雨が降る。

 

 さすらいの太陽は、人を照らして闇を照らして、心に暖かさを残して去って行った。

 

 ウルトラマンという太陽は、宇宙(そら)に帰ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掛け値なしにいい出会いがあったと、ガイは思っていた。

 

「さて、キングベムラーの追跡戦で落としたカードも拾ってかないとな……」

 

 ガイが銀河にも言っていたが、ガイが本来愛用するカードは九枚。

 オーブオリジンのカードを除外して、八人分のウルトラフュージョンカードがある。

 なのだが、それはキングベムラーとの戦いで全て落としてしまっていた。

 それも回収しながら、オーブは元の宇宙に戻らなければならない。

 

「カードの位置は……ん?」

 

 今のガイが持っているカードはキングベムラーを倒した時に排出された、『ウルトラマン』のカードしかない。

 なのだがカードを確認すると、もう一枚カードが増えていた。

 『ウルトラマンティガ』のカードだ。

 

『礼を言う』

 

 どこからともなくティガダークの声が聞こえてきて、ガイは苦笑してしまう。

 なんと義理堅いことか。あのティガが銀河の先祖であるなら納得だ、とガイは笑う。

 ウルトラマンは地球生まれのウルトラマン。

 ウルトラマンティガは人が巨人に変身する、地球生まれのウルトラマンだ。

 両者の出自は全くの逆で、ゆえにこういった別の宇宙では、時にティガ等のウルトラマンの遺伝子を受け継ぐ銀河のような人間が見つかることがある。

 

 奇縁もあったものだ。

 ガイは、ウルトラマンとティガの力を借りて変身する巨人だった。

 そんな彼が"ウルトラマンが地球で初めて倒した怪獣"を、"ティガの子孫と共に倒す"だなんて、これを奇妙な縁と言わずなんと言うのか。

 まして、ガイは知りもしないことだが、今回の地球でガイがティガの子孫と共に倒した怪獣は、そのことごとくが初代ウルトラマンが地球で戦った怪獣達だったのだから。

 

「そこに何の意志が介在する余地もなく、強いて言うなら運命……ってか」

 

 カードを探し、ガイは人間体で聖剣の力を借りて飛ぶ。

 これが一番速く確実な上、エネルギーも節約できるからだ。

 なのだが、カードを探して飛んでいたのに、見つけたのは宇宙人だった。

 宇宙空間で首を傾げるガイだが、その手の中に八枚のカードがあるのを見て、目の色を変える。

 

「おい、そいつを渡せ」

 

「あん? なんだてめえ。俺をナックル星人ジャブート様と知って突っかかってんのか?」

 

「俺の名はガイ。クレナイ・ガイ。銀河の風来坊さ」

 

「知らねえなあ。へへっ、このカードの価値を分かってんのか?

 ウルトラマンだけじゃねえ、黒き王の力まである!

 こんだけありゃ間違いなく俺も冴えないチンピラ卒業だ! 渡すもんかよぉ!」

 

「ったく、身の丈に合わない我欲に負けるとロクな目に合わねえぞ」

 

 ガイは呆れて、二枚のカードを取り出した。

 

「ウルトラマンさん!」

 

《 ウルトラマン 》

 

「ティガさん!」

 

《 ウルトラマンティガ 》

 

「光の力、お借りします!」

 

《 フュージョンアップ! スペシウムゼペリオン! 》

 

 リードしたのは、銀河(とも)と共に最後に戦った戦いで得たカードと、銀河(とも)のご先祖様が礼にと渡してくれたカード。

 二つの光が一つになって、宇宙を照らす。

 

「お、お前! ウルトラマンだったのか!? クソ、ぶっ殺してやる!」

 

「俺はオーブ。闇を照らして、悪を撃つ!」

 

 さすらいの太陽は、新たな場所と人を照らすため、今日も宇宙をさすらうのだった。

 

 

 




終わりです

 しばらく後に銀河の曲を聞いてこの地球に駆けつけたガイさん
 だけどそこに銀河は居なくて、親切な少年に助けられて銀河探しと怪獣退治始めて
 コスモスみたいな感じに伝説のウルトラマン的にオーブのことが語り継がれていた世界に戸惑いつつも、いつまで経っても銀河が見つからなくて
 その内「風来坊には優しくしろっていうのが先祖代々のウチの家訓です」とか言ってた親切な少年が、ボロッボロのハーモニカで例のメロディーを奏でたりして
 「あれからとても長い時が経ってたんだ」「宇宙によって時間が流れる相対速度は違う」「銀河はもう死んでるんだ」とちょっと落ち込むガイさん
 その後に銀河の遺言書を見つけて読んで涙ぐむガイさん
 ラストバトルでオーブオリジンに変身したガイさんを見て少年が「夢で見た、光の巨人!」とか言うんですよ

 そういうのもいいなあとわたくし思うわけです

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