デート・ア・ライブ 風見サンフラワー   作:文々。社広報部部長 シン

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 深い眠りの中に居た。

 何も考えなくていい。

 心を()()()ままでいい。

 傷つき壊れそうな心を必死に繋ぎ止めなくていい。

 優しい姉と優しい両親、家族といれれば(夢が見れれば)それでいい。

 本当はこんなことしても意味がないのはわかってる。

 でも、もうこれ以上傷つきたくない。

 決して戻ることのない日常(永遠の夢)の中で微睡んでいたい。

 できるならばこの命が終わるまで―――

 

 コンコン

 

だが、そんな()はいとも容易く壊されてしまった。

 『はぁい、お休み中に失礼するわよー?あなたが六喰ちゃ──』

 「封解主(ミカエル)(セグヴァ)

 

 誰も踏み込めるはずのないこの空間に響く暢気な声。その腹立たしい声を遮るように外部からの情報を()()()。どうやってここを嗅ぎ付けたかは分からないが、これでまた誰にも干渉されずに…

 

 『―――あーあー、お、通ったわね。もう酷いのではなくて?話も聞かずに切るなんて。私とのつながりを断ったみたいだけど残念、私からは逃げられないわよ』

 

  「…むん?どうやら面倒くさい客のようじゃの、封解主(ミカエル)(セグヴァ)が効かないとは」

 

 『そんな眉間に皺を寄せないの。かわいい顔が台無しよ?』

 

 重たい瞼を上げ、声がする方を睨みつける。いつぶりに目開けただろうか。ぼやけている視界が徐々に鮮明になっていくと声の出元が見えてくる。

 「!…なんじゃ、その気味が悪い姿は。変な動きをしてみよ、むくは全力を以ってうぬを叩きのめそう」

 空間を縦に引き裂いて広げ、縁をリボンで結ばれている穴から無数の眼がこちらを覗いていた。ソレから素早く距離をとり臨戦態勢に入った。ソレに出現させた封解主(ミカエル)の先を向け、いつでも『封解主(ミカエル)(シフルール)】』を使えるように体中に魔力を循環させてから警告する。

 『あら、そんな真っ直ぐ敵意を向けられたら少し遊んであげたくなっちゃうじゃない。でも、今日は止めときましょう、五月蝿い狐に怒られちゃうからね。だから警戒しないで?』

「…そんなに胡散臭い言葉をむくが信じると思うか?」

 『仕方ないわね』

 そう言うと謎の声の気配が遠ざかっていく。暫くするとソレから白旗?(端にケモノ耳がついたナイトキャップがくくりつけられているもの)を持った腕が現れ、ひらひらと振りだした。降参のつもりなのだろうか。その腕に対して(セグヴァ)を掛けようとするが、ソレの中に腕を引っ込めて避けらる。

 『もう、酷いじゃない。いきなり攻撃してくるなんて。こちらには戦う意志はないって言ってるじゃないの』

 「変な動きをしたぬしが悪かろう。言ったじゃろ?全力を以って叩きのめすと」

 『私はただ六喰ちゃんとお話をしたいだけよ』

 「それならまずうぬの姿を見せるのが先じゃろう。話をするときは目を見て話せと親に教わらなかったかの?」

 親と言葉を発した途端ソレが閉じ、気配も消える。あたりを見回すがソレらしきものは見当たらない。

 「…貴女が親とは笑わせるわね、星宮六喰」

 「ぬっ…!?」

 周りを警戒していたにも関わらずずっとそこに居たかのようにように隣から女が話しかけてきた。

 「ふんッ!」

 鍵を横薙ぎに払うが手応えはなく、女はソレが元あった位置に居た。

 大きなリボンを巻いたナイトキャップから流れる金髪は赤いリボンで何本にも結われている。妖艶な雰囲気を醸し出す紫のドレスは大きく開いた胸元から豊満な胸を強調させている。シワ一つない真白なドレスグローブには日傘が握られ、肩を支点にしてクルクルと回している。そして顔にはお祭りの屋台で売られている安っぽい狐の面がつけられていた。

 「やっと顔を見せる気になったかと思えば狐の面とは」

 「仕方ないのよまだ顔を見せるわけにはイケナイの。そんなに()()を昂ぶらせて大丈夫かしら?」

 その言葉を聞き、先程から感じていた違和感の正体が解った。いや、気づかされた。

 ()()()()()はずの感情が出てしまっているのだ。

 「うぬはむくに何をしたのじゃ?宇宙空間(ここ)で喋れていることもおかしい!それに何故名前も家族のことも知っている!」

 「質問が多いわねぇ。一つ目、私の力を使った。二つ目、特別な結界を張らしてもらった。そして最後、交渉には相手にメリットを提示させなきゃいけないわ。相手が何を欲しているか知る必要がある。それには情報が必要、だからあなたのことを調べたの。隅から隅までね。これでいいかしら?」

 女は面倒くさそうに言うと、手に持っていた日傘を閉じて手元に開いたソレにつっこむと代わりに扇子を取り出しパタパタと煽ぎだした。

 この相手は本気で叩かないとマズい。本能がそう叫んでいる。『封解主(ミカエル)(シフルール)】』を開放しようとするが、無数に現れたソレから伸びた腕に手足体を掴まれ拘束されてしまった。振りほどこうとするが、精霊である自分よりも圧倒的に強い膂力で押さえつけられて全く体が動かない。

 「くっ、離すのじゃ!むくに乱暴する気じゃろう、エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

 「違うわよ!どこで覚えたのよそんな言葉!?今まで貯めてた感情が爆発してるんじゃないかしら!?ま、まあいいわ。話を本題に戻します」

 「ふむん……。いいじゃろう」

 「いや、いきなり真顔に戻らないでくれる!?めっちゃ怖いわよ!情緒不安定なの!?」

 めっちゃツッコミをいれてきたが、手足の拘束は全く緩まなかった。女の気を逸らして拘束を緩くする作戦も失敗に終わり、抜け出すことを諦めて女の話に耳を傾けることにした。

 「おほん……あなたにはこの女と戦って貰うわ」

 渡された写真には向日葵畑の中に立つ緑髪赤眼の女が写されている。

 「ふむん…?戦うだけでいいのかの?」

 「構わないわ。それに、負けても報酬は払うわ。まあ、できるのなら殺してしまってもいいわ。できるなら、ね」

 「むくもなめられたものじゃな。して?報酬は何を貰えるのじゃ?」

 「ふふふ…せっかちね。じゃあ少しだけ()()させてあげるわ」

 そう言うと女は扇子を閉じ、指を鳴らした。

 

 パチン

 

 とても心地よい夢、お父さんとお母さんとお姉ちゃんでピクニックに行く夢。川沿いの桜並木を歩き、近くの自然公園でお弁当を食べた。私が作ったおにぎりは形が歪で美味しそうには見えなかったけれど、みんなは美味しいと言ってくれた。帰りはみんなで手を繋いで帰る。何も変哲のない日常の夢だった。

 

 「……!!なっ、何じゃ今のは」

 「あら、おはよう。いい()は見れたかしら?」

 女はソレに座りながらお茶を飲んでいた。狐の面の上からどう飲んでいるのか分からないが啜っている。

「…(これ)が報酬なのじゃな?」

 「察しがいいわね。そうよ、あなたがその女と戦ってくれれば夢を見せてあげる、それが報酬よ。倒してくれたのなら()()()見させてあげてもいいわよ」

 自分が求めていたものが目の前にある。この写真の女を殺せば、ずっと。

 「……ふむん。うぬの名はなんと言うんじゃ?」

 「うーんと、そうねぇ…。簡単に〈ヴァイオレット〉とでも名乗っておきましょうか」

 「ゔぁいおれっと、じゃな。分かった。うぬの提案、受けようではないか」

 「そう、やってくれるのね!報酬は必ず払うわ。頑張って倒すのよ、六喰」

 と、頭をなでてきた。まるで我が子を撫でるかのように優しく手触られる。やがて手が離れると「あっ…」と声を漏らしてしまう。

 「それじゃあ、私はこれでお暇させていただくわ」

 そう言ってヴァイオレットはソレの中へ消えていった。手足の拘束も消え、自由になった。

 先程撫でられた場所に手を置き口を開く。

 「…これは、報酬を追加してもらうしかないようじゃ。──よし、封解主(ミカエル)(ラータイプ)

 封解主(ミカエル)を呼び出し空間を開く。目標は写真の女。女には悪いが消えてもらう。これは()のためなのだから。

 そうして、開いた空間の狭間から転移した。

 




お久しぶりです。
本当はもう少し書くつもりでしたが、字数が多くなったので投稿しました。
六喰ちゃん鬱ルートとハッピールートどっちがいいか悩んでますが、皆さんはどちらがみたいでしょうか?(まあ、ハッピールートでも鬱展開は出てきますが)

またぼちぼち書いていくのでよろしくお願いします。

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