交互に視点が変わります。
『まぁ、取り次ぎはごゆるりと。私も気長に待たせていただくつもりで、それなりの準備をして参りましたからねぇ。』
キャスターがそのインスマウス顔と呼ばれる異形を愉悦に歪ませる。
キャスターは何を勘違いしたのか、セイバーを生前の盟友ジャンヌ・ダルクと思い込み、つけ回していた。
そして今、ここアインツベルン城にまで侵入してきたのだ。
千里眼の魔術を見破り逆探知するという離れ業を見せ、セイバー達にそんな言葉を伝えてきたのだ。
無論、始まりの御三家の一つとして聖杯に並々ならぬ思いをよせるアインツベルン家の拠点が、無防備であるはずがない。実際、侵入こそされたが周囲には結界が張られその内部にはアイリスフィールの指示一つで発動する魔術的な罠に加え、切嗣によって仕掛けられた近代兵器による罠もある。
それらがその威力を発揮しないのは、キャスターと共にある存在のせいだった。
(人質とは。)
怒りを押し殺すためにセイバーが奥歯を砕かんばかりに噛み締める。
キャスターの周囲に数十人ものまだ幼い子供たちが虚ろな瞳で囲んでいた。
精神干渉系の魔術で操られているのだろう。
罠を発動すれば、キャスターに手傷を負わせる事が出来るだろう。
しかし、それは子どもたちを犠牲にすることと同義だった。
こちらの思いを見透かしたように再度笑みを浮かべたキャスターが指を鳴らすと、途端に子どもたちは夢から覚めたように正気に戻ってキャスターに怯え始める。
『さぁさぁ坊やたち、鬼ごっこを始めますよ。ルールは簡単。この私から逃げ切ればいいのです。さもなくば―――』
『ひぃっ……』
言い終わらない内にローブの内から最も近くに居た一人の少年に向け手を伸ばす。
キャスターの標的となってしまった少年は怯え竦んだまま動けない。
(まさか……!?)
セイバーの高い直感スキルは、キャスターのクラスとは思えないその太い腕から最悪の結果を叩き出す。
同じ想像をしたのであろうアイリスフィールが息を呑んで目を見張る。
「やめろ――――!」
セイバーが悲鳴じみた叫びを上げた。
次の瞬間、映像に漆黒の影が躍った。
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教会からのキャスター討伐の号令を受け、バーサーカーは町を跳び回っていた。
路地などに潜む水魔を倒しつつキャスターの主従を探す。
そんな時、こんな夜更けに一人で歩く少年を見つけた。
キャスターの主従が子供を狙い徘徊する冬木市でその姿はあまりにも危険だった。
「キミ……っ!?」
少年の正面に降り立ち家へ帰るよう促そうとすると少年の瞳が虚ろなことに気が付いた。
そのまま正面にいる自分が見えないかのように直進し横に避けると何事もなかったように歩いていく。
間違いなく何らかの魔術で操られているのだろう。
気絶させて交番にでも送り届けることも考えたが、キャスターがその場にいないことが気にかかった。
(魔術だけかけて後は自分の足で歩かせている?)
確かに一人一人攫うよりも効率的だ。
なら、
(この少年を追っていけば子供たちが集められている場所が分かる。)
そう考え少年を目で追える位置に移動し距離を取りながら尾行する。
しかし、少年が向かったのは予想外の場所だった。
(確かここは他のマスター、アインツベルンの拠点)
霧がかかる森の前で四方八方より子供たちが集まっていく。
そんな時、サーヴァントが現れた。
恐らくあれがキャスターなのだろう。
あの人間モドキに負けず劣らずだ。
その異形も纏う空気も。
そして、集まった子供たちを付き従え森の中へ歩き出すキャスターを追いかけ自身も森の中へ踏み込んだ。
幸いこの霧のおかげでばれることもなく尾行することに成功していた。
突然、キャスターが足を止め、喋りだした時は気づかれたかと思ったが。
どうやら、この拠点の人たちに話しているらしいと分かりほっとした。
キャスターが会話に夢中になっている内に距離を詰める。
少しづつ近づきもう少しで必殺の間合いに入るという所で子供達が戸惑いの声を上げ始める。
(魔術を解いた?なんのために?)
少し戸惑いながら必殺の間合いに入り首を刈り取ろうとブラックブレードを振り上げ。
「ふっ!」
少年の頭を握り潰さんとするその手に振り下ろした。
「なっ!」
キャスターを少年から引き離すことには成功したが振り下ろしは避けられてしまった。
しかし、追うことはせずに子供たちを庇える位置に移動する。
「くっ、狂犬ふぜいが神聖なる我が儀式を邪魔するかー!」
キャスターが怒声をあげる。
それに子供達が怯え、悲鳴を上げ私の周囲に集まってくる。
(この森の中に散らばってしまうよりはましだけど、これは。)
身動きが取れない。
守りやすい自身の背後に集めようにも他のマスターに見られているこの場で言葉を発するのはせっかくのアドバンテージを捨てることになる。
でも、
(カリヤ。)
(どうした?バーサーカー。)
カリヤと念話を繋げる。
視覚の共有は行っていたから状況はわかっているだろう。
(ごめんね。)
(問題ないさ。バーサーカー。)
私は見ず知らずの子供達のためにせっかくのアドバンテージを捨て、まだ見せて無い武装を使い、決して多くはない魔力を消費しようとしている。
そのことを謝罪するとカリヤ続けてこう返した。
(子供達を見捨てるなんて選択肢は無い。安心しろ魔力は俺が気合で何とかするさ。)
その軽口が嬉しくて自身がマスターに恵まれたことを感謝した。
「皆、私の後ろに固まって伏せて!」
子供達にそう伝えると皆今にも泣きだしそうな顔でこちらを見上げた。
「大丈夫。皆守って見せるから。」
そう言って微笑いかける。
不安なんて感じさせないように。
すると全員が頷き私の後ろに隠れ地面に伏せる。
「ほう。狂犬かと思えば、狂犬の皮を被っていただけでしたか。喜びなさい。あなたもジャンヌのための贄にして差し上げましょう。」
「お断りだよ。そんなの。」
その言葉を皮切りにキャスターは本に手を当て詠唱を始め、私はブラックロックカノンを呼び出す。
この世界に顕在したのはまったくの同時。
水魔はこちらに飛びかかり、私はブラックロックカノンで迎え撃った。
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森の中を駆け抜ける。
バーサーカーが乱入した所でようやくキリツグが戦闘を許してくれた。
恐らく彼の中では冷徹な計算があるのだろうけど、そんなことは思考の外に置きただ子供たちの無事を願いながら駆ける。
しかし、願いも空しく、けたたましい轟音がここまで届く。
(せめて、一人だけでも!)
生き残っていてほしい。
そう思いながら辿り着いた場所にあった光景は予想外のものだった。
向かってくる水魔に対し激しい攻撃を加えるバーサーカー。
これはまだ解る。
解らないのはそのバーサーカーが子供達を背に守るように戦っていることだった。
頭が混乱する。
しかし、体は直観に従いバーサーカーの死角から這い寄る水魔を切り捨てていた。
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背後から水っぽい音が聞こえ視線だけ向けるとセイバーが立っていた。
それと同時に今まで執拗に攻撃を仕掛けてきていた水魔が動きを止めた。
「あぁ、ジャンヌ。よくぞいらっしゃいました。」
「その口をすぐに閉じろ外道。」
「あぁ、ジャンヌなんとつれない。しかし、これも神の・・・。」
一人で熱をこめて話をしているキャスターを無視しセイバーに話しかける。
「セイバー。」
「なっ、あなたはバーサーカーなのでは」
「今は話している暇は無い。あなたとキャスターの関係は」
「……あちらが一方的に別人と勘違いしているだけです。」
「そう。」
あの言動から察するに相当大事な人だったのだろう。
そのセイバーに似た人は。
それなら、
「セイバー、あなたに頼みがある。」
「なんですか共闘なら歓迎しますが。」
それも頼みたいことだがそうではない。
「子供達を逃がして欲しい。」
「なっ、私は戦えます!」
「けど本調子じゃない。」
そう言ってランサーの宝具を受けたセイバーの左手を見る。
「ですが、」
「あなたの意地よりも子供達の安全が重要。」
「……わかりました。しかし、どうするつもりですか?あの男は二手に分かれた所で私を追ってきますよ。」
「解ってる。だから、こうする!」
そう言いながらセイバーにブラックブレードを振るった。
セイバーは皮一枚で回避し、頬から血が流れる。
「いきなり何を「キエェーーーーー!ジャンヌの顔に傷をつけるとは、許しませんよ!」……なるほど。」
「あとはお願い。」
「……わかりました。子供達を逃がしたらすぐに助力に向かいます。武運を。」
「そちらも。」
セイバーにそう返すと走り出す。
背後からキャスターの怨嗟の声と夥しい数の気配が追ってくる。
それに対して攻撃を加えつつ子供達に被害が出ない場所までキャスターを誘導した。