黒岩さんが聖杯戦争にinしました   作:BOX

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凛ちゃん視点&黒岩さん視点&葵さん視点&黒岩さん視点




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「……ふぅ。」

 

 凛は警察の目を逃れるために路地裏に隠れながら安堵の息を漏らした。

 彼女は魔術師の名家・遠坂の当主である遠坂 時臣の娘だ。

 それゆえに、彼女はこの冬木で何が起こっているのか知っていた。

 父も参戦している7組の魔術師と英霊による戦争。

 

 ――――聖杯戦争。

 そして、それを知るからこそ彼女はこの危険な冬木に乗り込んだ。

 その理由は彼女の親友であるコトネという少女だった。

 その親友であるコトネが二日に渡って学校を欠席した。

 それは、今現在、ニュースを騒がせる一つの事件を連想させた。

 ……相次ぐ子供達の失踪事件。

 捕まらない犯人、その不可解さ。

 魔術師による戦争である聖杯戦争が絡んでいるという予想を立てるのは非凡な 少女である凛にとって当然な事だった。

 魔術師が相手となると、警察にコトネを助ける事は難しいだろう。

 なんの力も無い少女ならどうしようもなかっただろう。

 大人に全てを任せただろう。

 しかし、彼女もまた見習いながらも魔術を修めている一人だった。

 故に避難していた禅城の屋敷を抜け出して、手持ちの小銭で電車に乗り、冬木の町に戻ってきた。

 そして、その類稀なる才能で殺人鬼から大事な友人であるコトネを助け出すことに成功した。

 

(お母様に怒られるだろうな。)

 

 路地に隠れたまま、屋敷に戻った時の母の雷を幻視する。

 そんな時、背後に何かが落ちてくる音がした。

 それと共に背後から感じる異様な気配に背筋が凍った。

 遠坂凛はまだ子供であり、魔術師として見習いだった。

 故に知らなかった。

 その身に宿る強い魔力は魑魅魍魎を引き寄せるということを。

 ――――自身はそういったものにとって最高の糧(エサ)であるということを。

 

「う……あ…………。」(怖い怖い怖いこわいこわいこわいコワイコワイコワイ。)

 

 自身に向けられたむき出しの本能。

 激しい反応を見せる魔力針。

 この状況下でたった一人であるということ。

 それらによって彼女の心は折られてしまった。

 無力な少女に成り下がった彼女は背後から這い寄る気配に怯え震えるしかなかった。

 

 ――――新たな気配が背後に降り立つまで。

 

 ナニカの断末魔の悲鳴に水っぽい音、頬を濡らす生温かいナニカ。

 彼女はそのナニカを恐る恐る手で拭うとその手は真っ赤に染まっていた。

 少女の精神は限界を迎え、強制終了(シャットアウト)された。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 一人の少女を保護してやって欲しい。

 そうカリヤから要請があったのはキャスター捜索二日目の夜だった。

 キャスターの拠点を探すために使い魔を使う。

 そうカリヤに提案されたのは今朝のこと。

 正直、一人で探せる範囲はたかが知れている。

 だから、その提案は有難く。

 今夜からさっそく使い魔を放ってもらっていたのだが。

 

「どうしたの?」

 

 詳しく話を聞くと使い魔を飛ばし、キャスターの姿を探しているときに知っている少女の姿をを見つけたらしい。

 その少女の名は遠坂凛と言い、サクラちゃんの姉であり、遠坂時臣の娘であるらしい。

 

(もし、他のこの戦争の参加者に見つかって、更にそいつが凛ちゃんのことを知っていたら人質にされるかもしれない。そうじゃなくても、今の冬木は危険なんだ。)

 

 だから、保護してほしい。

 そう頼まれる。

 自身としてもサクラちゃんの姉を助けるのに異論は無い。

 キャスター捜索は中断し、カリヤの誘導に従ってそのリンちゃんの元に向かった。

 そして、リンちゃんの姿を発見し、その背後に迫る海魔を貫いた。

   ・

   ・

   ・

「カリヤ。どうしよう。」

 

 気絶したリンちゃんを抱え、ビルの上を移動する。

 黒い髪、黒い服であるので夜闇に紛れて幸いにして見つかることはない。

 

(あー、少し刺激が強かったな。)

「……そういわれても困る。」

 

 海魔の形状から押さえ込むことも出来ないし、その場で対処するしかない。

 それに正直あの海魔の姿を直に見るのどっちが刺激が強いかと聞かれたら答えに窮する。

 

「どうするの?」

(……その少し先に公園がある。そこに向かってくれ。)

「了解。」

 

 カリヤの誘導に従い、公園に向かった。

   ・

   ・

   ・

「着いた。」

 

 深夜の公園は静まり返っていた。

 ここ最近多発する凶悪事件の影響で冬木の町では厳戒態勢がしかれているのだ。

 そんな物騒な時に夜間出歩こうという物好きはいない。

 故に誰に見つかることもなくリンちゃんを抱えて地面に下り立って移動することが出来た。

 

(じゃあ、ベンチに寝かせてあげてくれるか?たぶん少しすれば迎えが来る。)

「うん、わかった。」

 

 そっとベンチに横たえると何かから身を守るように体を丸める。

 それを見ながら立ち去ろうとすると。

 

 ぎゅっ!

 

(……何だかデジャブ。)

 

 いつの間にかパーカーの裾をリンちゃんに掴まれていた。

 本当にサクラちゃんと姉妹なんだなと変に納得してしまう。

 

(……しょうがない。)

 

 カリヤに多少遅くなることを伝えてからベンチに腰かける。

 膝の上にその小さな頭を乗せ、頭を撫でる。

 すると、硬くなっていた身体から力が抜けて行った

 

「怖い思いさせてごめんね。」

 

 そう呟き、迎えが来るまでの間ずっと頭を撫で続けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 凛の母親であり、時臣の妻である遠坂葵は車を飛ばして冬木の町へ向かっていた。

 最近、友人が学校を休んでいて落ち込み気味の凛がちゃんと眠れているかを寝室に確認しに行くとその場に凛はいなかった。

 その後、凛の残して行った書置きを見つけてすぐに車に飛び乗ってきたのだ。

 自身は魔術師ではないが、魔術師の妻である彼女はここ最近の子供たちの失踪事件に魔術が絡んでいるだろうとは予想していた。

 確かに魔術絡みの事件で警察の活躍は期待できない。

 だからといって、自分でなんとかしようとまさか凛が自分たちの言いつけを破り、単身冬木に乗り込むなど予想していなかった。

 

(それに多分その子はもう……。)

 

 早く見つけないと凛は取り返しのつかない心の傷を負ってしまうかもしれない。

 そう思うと逸る気持ちが抑えられなかった。

 冬木に辿り着いたがどこを探せばいいのかわからなかったので、凛が行きそうな場所を虱潰しに探すことにした。

 まず、手始めに自宅近くの公園に向かった。

   ・

   ・

   ・

 人気も無く真っ暗な公園で見つけたのは、この寒い中薄着でベンチに腰掛ける黒髪の少女。

 そして、その少女の膝の上で眠る。

 

「凛!」

 

 思わず娘の名を呼んでしまう。

 すると、今まで凛を見つめていた少女の青い瞳がこちらに向く。

 その容貌はどこか人間離れした美しさを感じた。

 そして、眠る凛を抱き上げるとこちらに近づき差し出してきた。

 

「……凛っ!」

 

 腕の中の娘を存在を確かめるように強く抱きしめる。

 少女は私達の様子を少しの間眺めた後、私の脇を通り立ち去ろうとした。

 

「待って!」

 

 その離れていく背中を呼び止める。

 凛を助けてくれたことは感謝しているが色々と不審な点が多すぎる。

 何故、凛を助けてくれたのか?

 何故、この公園で私を待って居たのか?

 ――――何故、凛の持つ魔力針があなたに反応しているのか?

 

「あなたはサーヴァントなの?だとしたら、あなたのマスターはだれなの?」

 

 この魔力針は凛が夫に貰ったと見せてきたので知っている。

 冬木市では家の外では自宅しか指さなかったらしく。

 禅城の屋敷ではよく眺めていた。

 

「……。」

 

 目の前のサーヴァントはその言葉に足を止めて、視線を中空に漂わせる。

 そして、こちらに振り向かず喋りだした。

 

「マスターからの伝言。」

 

 ……?伝言?

 

「……ここにリンちゃんを連れて来たのは、あなたなら必ずここに迎えに来ると思っていたから。」

 

 この公園の事を知っている。ということは知り合いの誰か?

 

「サクラちゃんの事は心配しなくて大丈夫。今はちゃんと笑えているから。」

 

 桜のことを知ってる?まさか、嘘でしょ。

 

「必ず、君達がサクラちゃんと一緒に笑える未来を命に代えても作って見せるから。」

 

 ……カリヤくん。

 貴方はあんなに嫌ってた間桐の家に戻ったというの。

 

「だから、貴方はもう泣かなくていい。貴方が泣く姿を見るとつらいんだ。」

 

 桜のために、凛のために。

 

「だって、貴方は――――俺の初恋の人だから。」

 

 ――――私の為に。

 

「……これで終わり。」

 

 止めていた足を動かし彼女は夜闇に姿を暗ました。

 私は凛が起きるまで涙を流し続けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「今日は感覚共有をしないでキャスター捜索をしたい。」

 

 そう頼んだのは何故なのだろう。

 ……本当はわかってる。

 

「……他人の口から告白なんてさせないで欲しい。」

 

 胸がもやもやする。

 カリヤと上手く喋れない。

 ここまで感情に振り回されるのは初めてだ。

 今までは行動を後押しすることはあっても、行動に支障をきたすことはなかった。

 

「私に心は不要?必要?」

 

 今までは深く考えなかった。

 そういう習慣が無かったということもあるが特に問題が無かったからというのが大きい。

 もしも、これ以降も支障が出るようなら

 ――――()()の使用も視野に入れるべきか。

 

「今までは無くとも問題は無かった。」

 

 感情など無くとも虚の世界で戦い勝利してきた。

 

「サクラちゃんを救うためには必要だった……と思う。」

 

 しかし、感情が無ければサクラちゃんとここまで仲良くなれなかった筈。

 

「どうしたら……っ!」

 

 強く邪悪な魔力の波動を感じた。

 この感じは。

 

「……キャスター。」

 

 一旦、この思考を頭の片隅に追いやり魔力の源に向けて加速した。

   ・

   ・

   ・

 辿り着くと川の中に巨大な海魔が出現していた。

 

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