悲鳴が届いた。
普通なら耳に届かない声無き心の悲鳴が。
その悲鳴に彼女は足を止めた。
すると、次の瞬間彼女の姿は消えていた。
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冬木市深山町にある洋館「間桐邸」。
どこか寒々しさを感じさせるその館に広大な地下室があると知る者は数少ない。
無数の蟲が蠢き腐臭漂うその空間には強い決意に満ちた力強い声に満ちていた。
「――告げる」
聖杯戦争という儀式がある。
万能の釜「聖杯」をめぐって行われる七人の魔術師と召喚された七人のサーヴァントによる戦争。
「汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」
サーヴァントとは使い魔にされた英霊のことだ。
英霊とは、生前偉大な功績をあげた人間がその死後その偉業に対する信仰を得て精霊と同格の存在になった存在。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
輪廻の輪より外れ一段上に昇華され、「座」と呼ばれる時間軸を超越した場所におさまっている英霊。
そんな存在をもちろんただで召喚できる訳がない。
降霊の際はクラスという枠に押しこめ英霊を召喚する。
「誓いを此処に。我は常世統ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
クラスはイレギュラーを除き、「セイバー」「ランサー」「アーチャー」「ライダー」「キャスター」「アサシン」「バーサーカー」の七クラス。
召喚の際触媒を用いればその触媒に所縁のある英霊が召喚され、用いない場合は召喚を行うマスターに似た英霊が召喚される。
「されど汝は眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」
本来呼び出すサーヴァントのクラスは指定できない。
しかし、アサシンなら呼び出される英霊がハサン・サッバーハのうちの一人として特定されるため。
また、バーサーカーのクラスなら重複しなければ召喚の詠唱に二節加えることで指定可能だ。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
ゆえに本来なら円卓の騎士所以の触媒と狂化の二節から狂うことを望んだ円卓の騎士ランスロットがバーサーカーとして呼び出されるはずだった。
しかし、この召喚では別のものが触媒となった。
それはこの場所に染みついた二人の人間の思いだった。
それは、祖父への恐怖だった。自身の境遇への悲哀だった。自身の心を守るための絶望だった。
それは、少女への悔悟だった。元恋敵に対する憎悪だった。今も想う初恋の人への恋慕だった。
恐ろしいまでの狂おしい想い。
それが触媒となる。
呼び出されるは取って置きのイレギュラー。
呼び出されるは感情無き戦闘者。
――――呼び出されるは負の感情を否定するために戦い続ける一人の少女。
この召喚は呼び出された者、呼び出す者、双方の運命を変える出会いになるのだが、それを知る者はまだ誰一人としていない。