「グガァァァ!」
「…………っ!」
いつものように相手を粉砕する勢いで弾を連射する。
しかし、急速に力が抜ける感覚が身体を襲い、片膝をつく。
と言ってもすでに人間もどきは残骸としか言えない有様だ。
(…………ここまでやれば十分だろう。)
そう思い、この異常の原因を調べる。
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どうやら、今の自身はその力の源を地面に伏せっている彼に依存しているらしい。
しかも、困ったことにその量はいつも行っていた戦闘をするには少なすぎる。
どうするべきかと考えていると、
――――残骸(ぞうげん)が蠢いた。
かろうじて残っていた臓硯の形が崩れ、蟲が溢れ出る。
そして、周囲の暗がりからも蟲達が現れる。
「なっ!へぶっ!?」
足元の彼が声を上げながら起き上がろうとするが、危険なので地面に伏せさせる。
周囲を囲む蟲達の背中がまるで蛹が羽化するように割れ羽を持った蟲達がそこから生まれる。
「くっ、そいつらは翅刃虫!牛の骨すら噛み砕く肉食蟲だ!」
足元の彼が私にそう呼びかける。
今の状況でこの助言は有り難かった。
本来ならブラック・ロック・キャノンで掃射してしまえば終わりだ。
しかし、力の使用に上限が出来た以上無駄弾は撃てない。
その上、自分も頑丈さ、治癒力には自信があるが力に限りがある以上攻撃を受けることはさけたい。
――――攻撃を受ける前に迅速に潰す。
自身に向かってくる蟲達をブラック・ロック・キャノンを振るい落としていく。
蟲を殺すにはブラック・ブレードよりもブラック・ロック・キャノンを鈍器として扱った方が効率が良い。
さらに蟲達が固まっているところに単発で叩き込む。
これをひたすら繰り返した。
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そして、蟲達はある程度数が減った所で襲ってこなくなった。
すると少し遅れて足元の彼が「もう大丈夫だ。」と言ってきた。
「どういうこと?」
まだ、蟲から視線を外さずに尋ねる。
「今じゃもうこの蟲達は俺の制御下だ。」
それはなんというか。
「…………もう少し早くして欲しかった。」
現状、可能な限り消耗は避けるべきだ。
ならなんで戦わせたんだと足元に視線を向ける。
「悪かったな。俺の魔術じゃあ糞ジジイ。あぁ、君が攻撃した爺さんの制御下にある蟲達は操れなくてな?どうやら、君の攻撃で爺は死んだみたいだから操れるようになったんだ。」
「そう。」
あの人間モドキは思った以上に相当しぶとかったようだ。
今まで、戦ってきた相手も自分も大概しぶといが流石に頭を切り落とすか、心臓を破壊されれば倒れた。
さてと、
「うぉっ!」
ブラック・ロック・キャノンを消して、彼の首と膝の下に腕を回し持ち上げる。
――――いわゆる、お姫様抱っこである。
「ちょっと待て!なんで、俺は抱き上げられてんだ!?しかも、こんな体制で!」
せっかく、運んであげているのにうるさい。
「正直現状を把握しきれていない。色々と話を聞かせて貰いたい。」
明らかにここは虚の世界ではない。
恐らく、あの子が暮らす現実世界だろう。
何故自分がこんな所に居るのかわからないし、悲鳴の主であるサクラちゃんのことも聞かなくては。
「なるほどってなんで俺が抱き上げられてんだかの説明になってないぞ。」
…………本当にうるさい。
「さっきまでの様子から動けないと判断した。それともここで話す?」
周囲には蟲達の死体が足の踏み場もないほど散らばっている。
自身のしたことは言え正直気持ち悪い。
「確かにそれはごめんだな。そっちの階段を登ればここから出られる。」
彼も私の視線の先にあるものを見て、理解したらしく出口を指さしてくれる。
ありがたいと思いながら足を進める。
最初の内は彼が持ち方を変えてくれ!と訴えてきたが怪我人はこう運ぶものらしいと答えると静かになった。
階段を昇ってる間、彼も静かになったので私は思考に耽っていた。
(許せない?気持ち悪い?ありがたい?)
これらの存在は知っている私の大切な彼女の持つ感情というものだ。
――――私たちには本来感情が無い。
私を含め、数人感情に似たようなモノを持った住人を見たことはあるが純粋な好悪程度だ。
一人例外もいるがあれは例外中の例外だ。
ストレングス。
あれは現実世界の彼女の大切な子と入れ替わっていたらしい。
あの子と一緒に過ごしていたという点では多少羨望の念がある。
…………思考を元に戻そう。
さっきあの人間もどきと戦う時に抱いたもの。
あれは
――――怒り。
今までの戦いであんな風に戦ったことは一度だけ。
ここに来てから私は大きく変わったようだ。
原因は不明。
彼には色々話して貰わなくては。
んっ?彼?
…………そうだった。
今まではそんな必要がなかったので気づかなかったが・・・。
「出たぞ。」
私を思考の海から出したのは彼の言葉だった。
「名前。」
「えっ?」
「名前教えて?」
今までは知る必要がなかったから気づかなかったが、いつまでも彼ではおかしい。
そんな思いから彼にすぐ名前を聞いた。
「俺の名前か?俺は雁夜。間桐雁夜だ。」
「カリヤ?」
「あぁ、そうだ。」
彼はカリヤという名前のようだ。
かりや。カりヤ。カリヤ。
「君の」
「ん?」
「君の名前は?」
…………私の名前を訪ねているようだ。
よく考えると私を今まで名前を名乗ったことが無かった気がする。
住人同士で名乗ることもなかったし、大切な彼女とは元からお互いに名前を知っていた。
彼は私のハジメテとなるようだ。
「…………私の名前は」
そう答えようとした時
「キャアアアアア!」
悲鳴が響き渡った。
・
・
・
一瞬逡巡する。
手元の怪我人と聞こえた悲鳴どちらを優先すべきか。
「行ってくれ!」
しかし、その迷いは
「行って桜ちゃんを助けてくれ。」
「…………。」
怪我人の願いで断ち切られた。
「…………うん。わかったよカリヤ。」
カリヤを床に寝かせ、走る。
そして、角を曲がりカリヤが見えなくなった所で脚に力を込めてーーー飛ぶ。
床を壁を天井を建築時の想定を超えた力で蹴り、移動する。
そのため家の中が悲惨な状況になっていくがその破壊と引き換えに更に加速していく。
そのスピードのまま階段を飛び越し、悲鳴の聞こえた二階へと上がる。
そして、この真夜中に唯一明かりのついた部屋に飛び込み。
少女を壁際まで追い込んでいた蟲をブラック・ブレードで貫いた 。
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目の前に信じられない光景が広がっていた。
間桐家の中で絶対の権力者として君臨していた臓硯が。
俺を、桜ちゃんをさんざん弄んできた魔術師が。
あの数世紀は生きている妖怪爺が。
――――目の前で身体に風穴を開けて無残な姿を晒していた。
それを行った自身のサーヴァントを見上げる。
相変わらずその表情は呼び出した時からほとんど変わらない。
しかし、僅かに眉を顰めたその姿は考え事でもしているのだろうか?
そんな時、視界の端で何かが動いた。
そちらに目を向けてみると
――――臓硯の形が崩れ蟲が溢れて出てきていた。
「なっ!へぶっ!?」
驚き、身体の痛みも忘れて起き上がろうするとバーサーカーに足蹴にされた。
…………それからの光景はまさに圧巻の一言だった。
バーサーカーに向かって行った蟲達は一切触れることすら出来ずに潰されていき、距離をとった蟲達も固まりになった所をバーサーカーに撃ち落とされる。
その間に俺に出来たのは最初の蟲の説明と最後に動きが鈍った蟲達を制御下においただけだった。
正直役に立った気がしない。
その後、バーサーカーと二三会話を交わすといきなり抱え上げられた。
せめて、背負うなりしてくれと頼んだが怪我人はこう運ぶものだと言われ、自身の感情以上の反論を持たない俺は沈黙するしかなかった。
そんな自分の状況から逃避すべく目の前の自身のサーヴァントについて考える。
(爺の指定した通りの詠唱をしたからクラスはバーサーカーの筈だ。)
しかし、バーサーカーに与えられるクラス別スキルである狂化の影響でバーサーカーのサーヴァントは理性、言語能力が奪われるらしい。
会話が成立する所をみると違うらしい。
(そう言えば、爺が7騎のサーヴァントはクラスの重複は無いって言ってた気が…………先に呼ばれたか?)
それだったら、バーサーカーとして呼んだのに会話が出来るのにも頷ける。
(だったら、クラスは何だ?一番ありえそうなのはアーチャーだが。)
色々考えたが本人に聞くのが一番早いと思い顔を上げると丁度地下から出る所だったので声を掛ける。
そして、色々と話を聞こうとした時、先に名前を訊ねられた。
「俺の名前か?俺は雁夜。間桐雁夜だ。」
「カリヤ?」
「あぁ、そうだ。」
すぐに答えると彼女はまるで飴玉のように俺の名前を口の中で転がした。
何だか気恥ずかしくなり空気を変えるべく彼女の名前を尋ねる。
すると彼女は軽く目を見張り「私?」とでも尋ねそうな顔をしていた
「私の名前は」
しかし、目線を逸らさず少し見ていると彼女は口を開き、そこまで答えた所で悲鳴が響いた。
それは桜ちゃんの声だった。
桜ちゃんの悲鳴が聞こえた時、バーサーカーは素早く悲鳴が聞こえた方と俺に視線を向けた。
その視線ですぐに俺か悲鳴の主どちらを優先すべきか迷っているのがわかった。
もしかしたらそんなことをせずともすぐに判断し、桜ちゃんを助けに向かったかもしれない。
しかし、この時は口を挿まずにはいかなかった。
その後の行動は早かった。
俺を床に寝かすと駆けていき、角を曲がり俺から姿が見えなくなった瞬間。
轟音が鳴り、木片が壁にぶつかるのが見えた。
俺を傷つけないように力をセーブしていたようだ。
――――いい奴なんだな。
桜ちゃんの安全とそんなこと思いながら俺の意識は闇に包まれた。