兄貴が少ない荷物をまとめ出ていってから、桜ちゃんと彼女、ブラック★ロックシューターも降りてきたのだが。
「どうしたんだ。それは?」
「…………離れたくないみたい。」
まるでコアラの子供のように彼女にしがみ付く桜ちゃんの姿があった。
とりあえず寝てる間に家政婦が来て、作っていった朝食を食べさせる。
自身は食事を飲み込むことも出来ないので点滴を腕に刺す
その後、食べてるときは行儀が悪いということで桜ちゃんは下ろした。
そこには臓硯の分と兄貴の分もあったが、自分は食べられないし、桜ちゃんはそんなに食べられない。
そんな訳ですこしでも魔力の足しになるようにということで彼女が食べることになったのだが。
もっきゅもっきゅもっきゅ。
そんな効果音がつきそうな感じで彼女は朝食を無表情のままかなりのスピードで完食した。
米粒一つ残らなかった。
「えーっと、美味かったか?」
「…………食事って初めてだったから。」
「食事が初めてってどう言うって、こら、勝手に乗っちゃ駄目だろ。」
食事が終わった桜ちゃんが彼女の膝によじ登っていた。
「…………別に良い。」
「そうか?」
彼女は膝に乗った桜ちゃんの髪を手で梳きながら言った。
「それでお互いの疑問を解消したいと思うんだが…………。」
そこまで言って、桜ちゃんを見る。
「…………サクラちゃん一旦降りて。」
(ヒシッ!イヤイヤ)
彼女がそう言うと桜ちゃんはしがみ付き首を横に振る。
「いい子だから。」
「…………わるいこでいいもん。」
正直驚いた。
間桐の家に来る前から桜ちゃんは少し大人し過ぎるくらいの娘だった。
そんな桜ちゃんが会って一日も経たない相手に我が儘を言ったからだ。
「…………。」
「…………。」
彼女は無理やり下ろすようなことはぜずにじっと桜ちゃんと目を合わせる。
桜ちゃんもそんな彼女の視線から目を逸らさない。
「…………おねがいきいてくれるならどく。」
「お願い?」
「きょう、おやすみするときもいっしょにねて?」
「うん、良いよ。」
「…………じゃあ、どく。」
桜ちゃんは膝から降り、そのままドアに向かう。
「おへやにいるから、おはなしおわったらおしえて。」
「うん、終わったら部屋に行くから」
「まってるから。」
そういうと廊下に出て歩いていき階段を昇っていく音がした。
「…………悪いな。」
「別に謝られることではない。」
「そうか。じゃあ、お互いに質問していくとしよう。」
話を元に戻し、お互いの疑問点について質問しあっていった。
・
・
・
「すごい話だな。」
「…………こっちも驚いた。」
ブラック★ロックシューター。
確かに人の名前とは思えないし、異名にしても聞いたことがないとはおもっていたが。
「本当に人じゃないとはな…………。」
異世界である虚の世界。
そこで戦う現実の世界に住む少女達の負の感情から生まれる思念体。
その思念体であるブラック★ロックシューター。
幾人もの強敵との殺し合い。
自身を否定するもう一人の自分との闘い。
そして、敗北。
その後、虚の世界を放浪していたら召喚されたらしい。
他のサーヴァントとは違い、座に存在する英霊のコピーではなく。
もともと思念体という霊体に酷く近しい存在である本体がそのまま召喚されたらしい。
故に睡眠で効率的に魔力の消耗を抑えたり、食事で魔力を生成することができるらしい。
召喚以前は十分な力は供給されていたので行う必要も機能も存在しなかったらしい。
…………少し申し訳ない。
「ところで話を聞いてると召喚されても良かったのか?」
その少女の負の感情を目の前の彼女が請け負っていたなら居なくなった事でその少女に問題は無いのだろうか?
「あの子は自分で痛みを知りたいといろんな色を見てみたいと言った。なら、私がいない方がきっと良い。」
その言葉からはその少女への想いと少しの寂しさが感じ取れた。
「…………そうか。でも、何で召喚に応じたんだ?叶えたい願いも無いんだろ?」
「悲鳴が聞こえたから。」
「悲鳴?」
よくわからない。
「そうどこからか悲鳴が聞こえた気がした。その悲鳴の主を捜してたら…………。」
「召喚された訳か。」
その問いに対して頷くブラック★ロックシューターを見て、たぶんその悲鳴の主は桜ちゃんなのではないかとおもった。
桜ちゃんもブラック★ロックシューターが自身を助けにきた存在だと無意識にわかっているからここまで懐いているのではないかと。
「カリヤには叶えたい望みはあるの?」
「そうだな。本当は桜ちゃんを救うために参加するつもりだったんだが、ブラック★ロックシューターのおかげでもう助けられたからな。」
「そうなんだ。」
「新しい願いはあるけどな。」
自分の生の延長。
しかし、一度は捨てた命だ。
そこまでの執着は無い。
「それは聖杯でないと叶えられないの?」
「あぁ、たぶんな。それに俺には参加する理由もある。」
そして、聖杯より自分に取っては優先すべきこと。
「理由?」
そして、話したのは桜ちゃんが養子であること、桜ちゃんが受けた仕打ちのこと、故に時臣に何で桜ちゃんを養子に出したのか尋ねたいという事を。
「真正面から会いに行ってもあいつは顔も見せないだろう。だけど、聖杯戦争に参加してれば会う機会もあるだろうしな。」
「…………。」
話を聞き僅かに眉を顰める彼女に改めて頼む。
「そのためには君の助けが必要だ。手を貸してくれるか?」
「もちろん。」
そう言い彼女は手を差し出してきた。
俺はその手を強く握り返した。
「ところで君のクラスは何なんだ?何か飛ばしてたしアーチャーか?」
「…………?あなたが普通に呼んでた?」
「呼んでたって…………。」
それって、
「…………君はバーサーカーのクラスなのか?」
「うん。」
クラスも解らないのでもともと呼ぶ予定だった。
バーサーカーと呼んでいたのだが。
「え?でも、普通に話してるよな?」
軽く困惑してしまう。
なぜなら、バーサーカーで呼ばれたサーヴァントにはクラス固有スキルとして、狂化が付与される。
その影響でステータスの上昇と引き換えに理性を奪われ会話なども出来なくなる筈なのだ。
その事を彼女に伝えると。
「…………なるほど。それで私が召喚されて少しおかしくなったのかも。」
「…………?どういうことだ。」
今までの行動を見てもおかしいと思える場所がなかったので聞き返す。
彼女は自分がもともと感情といえるものが存在しなかったということ。
それがこの世界にきてから生まれたことを伝えてきた。
「だから、その狂化のせいで私に感情が生まれたのかもしれない。それに、狂気なんてモノも私には無かったから狂化がかかってないのかもしれない。」
「問題はあるのか?」
せめて、時臣と話せるまでは戦わなくてはならないのだ。
「まず、精神干渉系魔術や魅了に抵抗するスキルがランクダウンしてる。それに、狂化してないからステータスの上昇は無い。でも、狂化出来ないわけじゃない。」
スキルの弱体化にステータスの上昇は無しか。
俺みたいな素人が勝ち残るには彼女に頼らざる負えないからきついな。
でも、狂化が出来ない訳じゃない?
「狂化のやり方は?」
「令呪を使って命じれば、多少変則的だけど可能。」
「変則的?」
「うん。単純なステータスの上昇ではない。詳細は使ってみないと。」
詳細不明だが、令呪を消費する以上試すことはできないな。
「つまりは、三回しか使えない切り札ってとこか?」
「その認識で正しいと思う。けれど、令呪を別の場面で使ってしまえばさらに減る。」
そう言われ自身の手の甲に刻まれた令呪を掲げてみる。
「本当にこの令呪は大事にしないとな。その点、サーヴァントがブラック★ロックシューターで良かったな。」
「どうして?」
どうしてって。
「もしも、ブラック★ロックシューターほどの優しいサーヴァントじゃなきゃ。きっと、命令を聞かせるために使っちまっただろうからな。」
「…………ん。」
そういうとブラック★ロックシューター真っ白な頬が少し赤らんだ。
「私も、私もカリヤみたいな他人のために必死になれる優しいマスターで良かったよ。」
そして、頬をわずかに赤らめたまま返してきた。
「あぁ、ありがとう。」
予想だにしない返答に思わず頬が熱くなった。
「…………。」
「…………。」
は、話が途切れてしまった。
「…………聞きたいことはもう無い?」
「あ、あぁもう大丈夫だ。ありがとう。」
なんとか言葉を返すがどもってしまった。
「じゃあ、サクラちゃんと一緒にいるから。」
「あぁ、頼む。」
「あと、普段はバーサーカーでいいよ。呼びづらいだろうから。」
「わかったありがとう。」
そう言うとブラック★ロックシューターは階段を昇っていってしまった。
「…………優しいマスターか。水で顔洗ってくるか。」
とりあえず、頬の熱を冷ますため洗面所に向かった。