兎のペットは死神猫   作:心があくタイプの人

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今回、アズくんの毛色がわかります。


3話 血塗れのオレ達と現実

「エイナさああああああああああああんっ!」

 

エイナの名を叫びながらギルドに飛び込むベル

 

「うわああああああああああああ!?」

 

血で真っ赤になったベルを見て悲鳴をあげるエイナ・チュール。

叫ぶエイナに(かま)わず自分の要望を伝えるベル

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださああああああいっ!」

 

(カオス)

 

*──*──*──*──*

 

「ベル君、キミねぇ、返り血を浴びたならシャワーくらい浴びてきなさいよ……」

 

「すいません……」

 

ダンジョンを運営管理する『ギルド』

そしてその窓口受付嬢 エイナ・チュール

 

受付嬢の他にベルの攻略アドバイザーもしている

 

彼女はヒューマンとエルフのハーフだ

しかし、ハーフといっても流麗(りゅうれい)で知られるエルフの容貌(ようぼう)を色濃く反映しているし それでいて、意外と人懐っこく仕事人然としながら親しみやすいともっぱらの評判で ベルもエイナに担当してもらってすっかり浮かれていた口だ

 

**───*─*─*───**

 

ここはギルド本部のロビーに(もう)けられた小さな一室。

ベルとエイナはお互いに椅子につき、テーブルを挟んで向かい合っていた

 

オレ?オレはベルの膝の上で(くつろ)いでる

 

体を洗ってさっぱりしたオレ達の前で、エイナはこれみよがしに溜息(ためいき)をついた。

 

「あんな生臭くてぞっとしない格好のまま、ダンジョンから街を突っ切って来ちゃうなんて、私ちょっとキミの神経疑っちゃうなぁ

ネコちゃんもせっかくの真っ白な毛が台無しになるところだったねぇ」

 

にゃー(ホントにな)

 

「そ、そんなぁ アズまで…」

 

ベルの(まなじり)に涙が若干(じゃっかん)浮かび上がる

 

エイナは苦笑してベルの鼻をちょんと指で押さえると「今度は気を付けてね?」と微笑(ほほえ)んだ

 

ベルは大げさに首を縦に振る

(風圧がすごい)

 

「それで……アイズ・ヴァレンシュタイン氏の情報だったっけ?どうしてまた?」

 

「えっと、その……」

 

ベルは顔を赤く染めながら一部始終を語った。

 

普段通っているダンジョンの2階層から一気に5階層まで下りてみたこと。

足を踏み入れた瞬間いきなりミノタウロスに遭遇(エンカウント)して追いかけ回されたこと。

追い詰められたところを、【剣姫(けんき)】アイズ・ヴァレンシュタインに救われたこと。

動揺しながらも何とかお礼を言おうとしたけど、手を差し伸べられた瞬間 頭が真っ白になりーー膨れ上がった羞恥(しゅうち)緊張(きんちょう)によって混乱をきたしてしまいーー全速力で逃げてしまってきたこと。

 

耳を傾けて聞いていたエイナは、話が進んでいく内に表情を険しくしていく。

 

「──もぉ、どうしてキミは私の言いつけを守らないの!ただでさえソロでダンジョンにもぐってるんだから、不用意に下層へ行っちゃあダメ!冒険なんかしちゃいけないっていつも口を酸っぱくしていってるでしょう!?」

 

「は、はいぃ……!」

 

ソロ、という言葉に抗議の声をあげようと口を開いたが、今回 自分が全く役に立たなかったのを思い出し項垂(うなだ)れる。

 

(やっぱり、魔法は使えなきゃな…)

 

 

──『冒険者は冒険しちゃいけない』──

 

これは攻略アドバイザー、エイナ・チュールの口癖。

文字だけ見ると矛盾しているように感じるが、つまりは『常に保険をかけて安全を第一に』という意味だ

 

特にベルのような駆け出し冒険者は(きも)(めい)じておかなければいけないらしい

一番命を落とすケースが多いのだとか。

 

5階層でLv.2にカテゴライズされるミノタウロスと遭遇(エンカウント)するなんて誰にも予想できない。

あのモンスターは少なくとも15階層以下の迷宮に出現するのが一般見解(いっぱんけんかい)

 

エイナに言わせれば『ダンジョンは何が起こるかわからない』ってことだろう

実際、神ですらわからないのだから

 

「はぁ……キミは何だかダンジョンに変な夢を見ているみたいだけど、今日だってそれが原因だったりするんじゃないの?」

 

「あ、あはははっ……」

(正解。)

 

あのジジイがハーレムとか教え込むから…

 

もともと、ベルが冒険者になろうとしたのはまだ見ぬ美女美少女との巡り会いーーそれこそ英雄譚(えいゆうたん)に出てくる運命の出会いのようなーーに憧れていたからだ。

(まこと)に不純な動機だ。

 

「あの、それで、ヴァレンシュタインさんのことを……」

 

ベルが話を(うなが)

 

「う~ん……ギルドとしては冒険者の情報を漏らすのはご法度(はっと)なんだけど……」

 

「教えられるのは公然となっていることだけだよ?」と前置きしてからエイナは語り始めた

 

 

 

本名、アイズ・ヴァレンシュタイン。

【ロキ・ファミリア】の中核を(にな)う女剣士。

剣の腕前は間違いなく冒険者の中でもトップクラス

たった一人でLv.5相当のモンスターの大群を殲滅(せんめつ)したこともあり、冒険者の間でついた、もうひとつの渾名(あだな)が【剣姫(けんき)】をもじった『戦姫(せんき)

 

神様達の間でもその名前は知れ渡っており、『アイズたんマジ無双』とまで称賛(しょうさん)されているらしい

 

下心を持って近寄ってくる異性は軒並(のきな)玉砕(ぎょくさい)、あるいは粉砕(ふんさい)

ついこの間にはとうとう千人斬りを達成……。

 

「え~と、他に何があったかなぁ。あの容姿であの強さだから、話題は()きないんだよね」

 

「あ、あの、冒険者としてじゃなくて……趣味とか好きな食べ物とか、後は今言った最後みたいな情報を……」

 

ベルが顔を赤くしながらおずおず言う

エイナは目をニ、三度(またた)かせた

 

「なぁに、ベル君もヴァレンシュタイン氏のこと好きになっちゃったの?」

 

「いや、その……ぇぇ、はい……」

 

「あはは、まぁ、しょうがないのかな。同姓の私でも彼女には思わず溜息ついちゃうし」

 

苦笑してエイナは優雅に紅茶を飲む

その姿はエルフとあって気品に(あふ)れている

その後少し考え込んで、ヴァレンシュタイン氏と付き合っている人というのは耳にしたことがないと言った

 

それを聞いてガッツポーズするベル。

 

(そんなにか)

 

「趣味とかそこまで踏み入った話は流石(さすが)に聞いたことない……って、ダメダメ、これ職務にてんで関係なし!恋愛相談は受け付けてないって!」

 

「そ、そこを何とか!」

 

「だーめ!ほら、もう用がないなら帰った帰った!」

 

立ち上がり、オレ達を追い出すように部屋の退出を促すエイナ

オレは置いてきぼりを食らう前にベルの肩に飛び乗った

 

 

ギルド本部のロビー前に全員で出る

 

「ああ、エイナさんのいけず……」

 

「あのねぇ……キミは冒険者になったんだから、もっと気にしなきゃいけないことが沢山あるんだよ?」

 

「うっ……」

 

にゃにゃ(そのとおり)」ウンウン

 

「アズぅ…」

 

ベルが深く頷くオレに恨みがましい視線を向けてくるが、知らん

事実 今のベルにヴァレンシュタインに惚れている暇は無いのだ。ヘスティアも居ることだし

 

「キミはもうロキ以外の神から『恩恵』を授かったんでしょう?【ロキ・ファミリア】で幹部(かんぶ)(つと)めるヴァレンシュタイン氏にお近付きになるのは、私は難しいと思う」

 

「……はい」

 

「……想いを諦めろなんて言いたくないけど、現実だけはしっかり見据(みす)えておかなきゃ。じゃないとベル君のためにもならない」

 

少なくとも今は冒険者として頑張れ。

エイナは言外(げんがい)にそう言った

オレも賛成だ、金が貯まったら惚れる余裕も出来るだろう

 

若干へこんでいるベルを見ながら困った顔をしながら、エイナはギルド職員として事務的な対応をした

 

換金(かんきん)はしていくの?」

 

「……そうです、ね。一応、ミノタウロスに出くわすまでモンスターは倒していたんで」

 

「じゃあ、換金所まで行こう。私も付いてくから」

 

ベルに気を使っているのがまるわかりだ

ただでさえベルは駆け出しで、ソロなのだ

こんなに良くしてもらって…頭が上がりそうにない

 

それから換金所へ向かい、本日の収穫を受け取った

ゴブリンやコボルトを倒して手にいれた『魔石の欠片』全て合わせて二四〇〇ヴァリスほど

いつもより少ない収入だが仕方ない。

ベルがヴァレンシュタインから逃げたため、普段より短い時間しかダンジョンへもぐっていないからだ

 

オレ達の食費を考えると、何とかアイテムの補充ができるぐらいしか無いな

 

「……ベル君」

 

「あっ、はい。何ですか?」

 

帰り際、出口まで見送りにきたエイナに呼び止められる

エイナは逡巡(しゅんじゅん)する素振りを見せながら、思い切ったように口を開いた

 

「あのね、女性はやっぱり強くて(たよ)りがいのある男の人に魅力(みりょく)を感じるから……えっと、めげずに頑張っていれば、その、ね?」

 

「……」

 

「……ヴァレンシュタイン氏も、強くなったベル君に振り向いてくれるかもよ?」

 

エイナの(はげ)ましの言葉を聞いたベルの顔は見る間に緩んで満面の笑顔になった

 

勢いよくその場から駆け出したかと思ったら

すぐに振り返り エイナに向かって叫ぶ

 

「エイナさん、大好きー!!」

 

「……えうっ!?」

 

「ありがとぉー!」

 

 

……やれやれ、うちのご主人様は単純だなぁ

 

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