あれ?ここはどこだろう?何もない真っ白な空間にポツリと浮かぶ美人が見える。
………分かるのはそれだけだった。
自分が何なのかも解らず、思い出せず、その存在は己に問いかけ続けまる。
己は何なのか、名前は?性別は?どんなか見た目か?
考えれば考えるほどわからない。
分からないことが恐ろしい。
確かに、自分は『何か』だった筈なのに。
今では、純白の粘土のようにこれから何になるのかを不安に感じるほどあやふやだ。
自分の足場がガラガラと音をたてて崩れ落ちて行くようなその感覚に、恐怖から心拍数があがるのを感じる。
いや、待ってくれ。
己は少なくとも、心臓の鼓動を『覚えている』。
すなわち、生けるものではなかったか?
そうやって、『自分』を定義する様々な事を一つ一つ思い出す。
どれ程の時間をかけただろうか。
ひょっとしたら、今までの人生よりも長い時間がかかったのかもしれない。
そうして、記憶の海から再浮上した『自我』を認識した時、今度は途方にくれた。
どうしよう。することが無くなっちゃったぞぅ。
「思い出したようですね?」
と、目の前の美人さんが自分に声をかける。
今の今まで、すっかり居たことを忘れていた。
ごめんちゃい。
ところで、ここは何処で、あなたはだぁれ?
「ここは、所謂死後の世界。私は、所謂神様というやつです。」
神様!いきなりそんなことを言われても、信じられないけど、やっぱり信じちゃう。
だって、貴女が美人だから!
「ありがとうございます。」
わぁい!ほめてもその表情は変わらないのね!
もっと、こう惚れ惚れするような笑顔とか、萌え死にせんばかりの照れ顔とか見せてくれても良いのよ?
「あなたをここにお招きしたのは、これから別の世界であることを成してもらうためです。」
しかし女神様、これを華麗にスルー。
ねぇねぇ、ちゃんとおしゃべりしましょう?
コミュニケーションは大切よ?
「………ごめんなさい。今まで、ずっと一人だったので、その、どう対応したものかが良く分からなくて。」
え?何その重いながらも、庇護欲掻き立てるような設定。
何?惚れさす気?自慢じゃないけど、ころっといくよ?
「………あなたには、これから送る世界で、とある二人の仲を取り持って頂きたいのです。」
うん!塩対応!いっそ清々しい!無表情の美人にこんなことされてたら、目覚めてた被虐の快感を再認識しちゃう!
「その二人が、お互いを信頼し、認めあい、愛し合うことで初めて、世界が救われるのです。」
え?そうしないと、その別の世界とやらが崩壊しちゃうの?責任重大じゃないのよ!
「いえ、救われるのは『世界』です。あなたの記憶にある世界も、認識できない平行世界も、今居るこの世界も、あらゆる世界の命運がその二人の関係にかかっているのです。」
待って。ちょっと待って、何がどうしてそうなるの?というか、世界ってそんなに脆いの!?
「ええ、残念ながら、世界はとても脆いのです。」
ホラーですやん。もうこれホラーですやん。
「どうかお願いです。自我のあるもの全ての為に、どうか二人の仲を取り持って下さい。これから向かう、ハルケギニアで………」
え?待って、もっと情報をください!インフォメーション!プリーズ!せめて、誰と誰をくっつけるのかを!!
遠くなってゆく意識の中で、二人分の名前を聞いた。
一人は、『平賀 才人』。
そしてもう一人の名前は、『ルイズ・フランソワ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』
………多分。
だってさぁ、そんな長い名前一発で記憶できるほど頭良くないんだもん。
と、思えば顔面に衝撃を感じる。
思いっきり顔から転んだ様な、何故かつまっていた鼻がこう、一瞬でスッキリするような容赦ない感じのペインだ。
悶絶。超悶絶ですよ。
「ぬあぁぁぁぁぁ。」
みっともなく、のたうち回る。
視界が、黒緑チラッとピンク、そして青と目まぐるしく移り変わる。
拙僧のプリチーな顔のパーツは無事だろうか。
一体誰がこんな事をするんだ!ひどいじゃないか!ひどいじゃないか!
心行くまで転げ回っていると、やがて痛みも引いてゆく。
若干目眩もするが、多分これは顔面の衝撃とは直接的には関係ない。
痛みが引いたことで、まわりを確認する余裕も出てきた。
そして、目の前には………少年と少女が一人ずつ。
その後ろには、謎の発光体と沢山の少年少女が。
ボーイandガールandボーイズandガールズwithハゲ。
そんな彼らが何やらざわざわやってる。
………何だここ。
周りの方々も、こう、揃ってマントをつけてたり、手に棒切れを持っていらっしゃる。杖に見せかけた鈍器を持ってるちみっ子やら、アイルランド人もビックリな赤毛のファンキーねーちゃんも居てはる。
と、近くに居たピンクヘアのパンク少女がこの場で唯一の中年男性に駆け寄り、何かキャインキャイン言い始めた。
何だか審判に抗議するサッカー選手見たいなオーバーアクションである。
何一つ状況を把握できませんよ?
と、とりあえず、現地民から情報を収集しなくっちゃ。
目の前でポカンと周りを見回す黒髪の少年に声をかけてみよう。
「ねぇ、これ………その………何?」
クールかつジェントルを自覚するこの身であっても、この急展開に言語中枢が追い付かないようで、口から出たのはそんな不自由な感じの言葉。
それに対して、黒髪ボーイは若干ひきつった表情で
「さ、さぁ。」
と、答えるのみ。
そんな俺らに、ピンク髪の少女が近寄ってきた。
つい今まで、頭部の緑化事業に失敗したような髪型?の中年さんにくってかかっていた子である。
彼女は、俺たちに良くわからん言語で話しかける。デュ?とかトゥア?とかそんな感じの。
フランスっぽいのかにゃ?
そして、彼女は突然隣に居た少年にチューをした。
羨ましいぞ!何でこいついきなり美少女にチューとかされ、
って、痛い!
「「あただだだだだ!」」
突如手の甲に鋭い痛みが走り、思わず声をあげる。
チューされた少年もどうやら同じ痛みに襲われているようで、手を抱え込んで蹲って悲鳴をあげている。
ざ、ざまぁ見さらせ!
「何なのよもう!ドラゴンとか幻獣とかまで仰望みはしないけど、せめて猫とかカラスとか普通の使い魔がで居てくれても良いじゃない!どう見てもコイツら人間じゃないのよ!」
「うぉ!?」
「えっ?えっ?」
今まで、謎言語で喋っていたピンクガールが突然流暢な日本語を喋り出した。
「しかも何で二人も居るのよ!」
「お、お嬢さん。く、くーるだうん。くーるだうんぷりーず。」
「何故英語?」
テンパり気味の俺に、横の少年から突っ込みが入る。
さっきからの様子を見るに、この少年も状況が良くわかって無いようだ。
こっちサイドの人間だな?
「っていうか、ココ何処だよ!?お前は何なんだよ!?」
「口のききかたに気を付けなさい!私はあなたのご主人様なのよ!これだから教養の無い平民は嫌なのよ!」
な、ナチュラルに平民とか言ってやがる!何だコイツ!
………はっ!
俺は、彼女の言動から気付いてしまった。
このままだと、少年の命が危ない!
「ま、待て少年!礼儀を欠くな!殺されてしまうぞ!」
「えっ!どういうことだよ?」
「この流暢な日本語、ナチュラルに平民とか言葉に出てくる立場………こいつら、サムラーイに違いない!無礼打ちで切り捨て御免されるぞ!」
「………いや、それはない。」
ぬぅ~?違うのか?
と、三人でギャンギャンやっていると、クリリンに近い髪型の中年さんが若干呆れた顔で割り込んできた。
「コルベール先生!やっぱり納得いきません!」
「ミス・ヴァリエール、貴女も解っているでしょう?契約した以上は、その使い魔が死亡しない限り使い魔の最召喚は出来ないのですよ。」
「な、ならコイツらをこの場で………」
と、何やら不穏な事を口走りながら俺たちに視線を向けるピンクサムラーイ。
「ミス・ヴァリエール、滅多な事を言うものではありません!彼らには私から事情を説明します。貴女は少し頭を冷やしてきなさい。」
「………わかりました、ミスタ・コルベール。」
中年さんにさとされて、ピンク髪は俺達から離れてゆく。
その目尻には、涙が浮かんでいるように見えた。
「さて、突然の事で驚いているでしょう。君達を召喚した彼女は冷静では無いようなので、私から今の状況を説明しましょう。あぁ、自己紹介がまだでしたね?私はジャン・コルベール。彼女達の教師をしています。」
「あ、平賀 才人です。」
「鈴木 佐藤です。」
鈴木 佐藤。
鈴木が名字で佐藤が名前。
我ながら変な名前だが、生まれたときからそうなのだから仕方がない。
それを聞いて、隣の黒髪………サイト君は不思議そうな顔をする。
そんなサイト君の表情に、若干戸惑いを見せながらコルベールさんは話を続ける。
「ここは、トリステイン魔法学院。実は今日は、使い魔召喚の………」
と、彼は実に分かりやすくこの状況を説明してくれた。
曰く、ココは魔法使いの学校であり、今日は、パートナーたる使い魔を召喚する大切な儀式を行う日。
曰く、俺達はさっきのピンクガール(ルイズという名前らしい)の使い魔として召喚された。
曰く、使い魔とは主であるメイジの目となり耳となり時に盾となって彼ら彼女らを助ける存在だということ。
うーん、魔法なんてあるんですぅ?
ドッキリとちゃいますぅ?
と、質問したらコルベールさんは魔法を使って見せてくれた。
火が出た、手を突っ込んでみた。
やけどした。
金髪の女の子が魔法で治してくれた。
ふ、ふぁんたじー………
そして、一通り説明を終えた時にサイト君がポツリと呟いた。
「それで………俺達は帰れるんですか?」
その言葉に、コルベールさんは沈痛な表情で答える。
「………申し訳ありませんが、使い魔を送還する方法は………」
お、おおぅ。使い魔召喚は片道切符でござったか。
「そんな!そんな勝手な!帰せよ!!家に………帰してくれよ………」
少年の悲痛な慟哭である。
すっごく暗い雰囲気です。
あ、あかん。こういうの苦手や!
話題変えなきゃ!
「ミ、ミスタ、俺達の、俺達のご主人様であらせられられル、ルイズちゃんについて教えてつかぁさい。」
「え?えっと、彼女、ミス・ヴァリエールは努力家の良い子ですよ。」
「お?じゃあ、とっても優秀だったりするので!?聞いたかサイト少年!ひょっとしたらご主人様に誠心誠意お願いすれば、帰る方法を探してくれるかもしれないぞぅ?何、任せておけ、俺は人にタカったりお願いしたりするのは得意だ!こう見えて俺は日本でも五指に入るほどの土下座リアン、ゲザリスト何だぜ?ちょっと自尊心を擽ってやればあんな小娘ちょちょいの………」
「その………ミスタ・スズキ。申し上げにくいのだが、ミス・ヴァリエールは非常に努力家で、座学については非常に優秀なのだが………その、何故か、魔法の発動が成功しないのですよ。」
「パードゥン?」
「彼女、何を唱えても何故か必ず魔法が爆発するのよ。で、ついた渾名が『ゼロのルイズ』。」
突然、俺達の会話に女性が入り込んできた。
その女性は、真っ赤な髪のおっぱいだった。
彼女を見たその瞬間、俺は雷に打たれた様に動けなくなる。
だって、こう、おっぱい様なのだ。
「ミス・ツェルプストー。学友をその様に呼ぶのは………」
「ミスタ、残念ながらこの渾名に偽りはありませんわ?何もわかっていない彼らに、こう言った大切な事を伝えないのは不誠実に過ぎるのではなくて?」
と、コルベールさんに若干侮蔑の表情を向けながら話しかけるおっぱい。
随分とまぁツンツンした態度だが、俺は彼女をツンツンしたいと思いました。
そして、彼女の言葉に更に顔を暗くするサイト君。
ずっとうつむいたままだ。
「やっぱり、帰れないのかよ………」
「まぁまぁ、サイト君や、そう暗くなる事もあるまいよ。この眺め、素晴らしい景色だぞ?くよくよしても仕方がない。顔をあげてみたまえ、君も男の子だろう?」
「ははっ、佐藤は前向きなんだな、こんな事になってるのに、景色だ………なん………て………」
力なく顔を上げたサイト君の視線が、ある一点で止まる。
その先には、ミス・ツェルプストーのダブルマウンテン。
ほら!やっぱり君も男の子じゃないか!