翌朝、俺は一人寂しく廊下で目を覚ました。
固くて寒くてろくに眠れなかったけどね。
取り敢えず、壁に寄りかかって胡座をかいて目をつぶって、こう、色々考えたわけですよ。
これからどうしようって。
んで、すっかり忘れていたんですが、思い出したんですよ。
あの二人をくっつけないと、世界がヤバイのを。
大体あの自称女神様も適当過ぎるよ!
期限が何時までとか、その後どうなるとか一切説明無いんだもん!
あー、もう‼
この扉が一晩の過ちを犯した二人が手をつないで出てきて、すべてが解決してくれないだろうか?
と、願いを込めて部屋の扉を睨んでいると相棒であるサイト君が何だかブスッとした顔で出てきた。
手には籠を持っておるですよ?
「おはよう、どったの?それ。」
「………おはよう。何かこれ洗濯しろってさ。」
「………下着まで?」
「そうだよ。下着までだよ。あいつ、着替えまで俺にさせようとしたぞ?どうなってんだこの世界。」
おおっと、ここで悲報。サイト君、ルイズさんに男として見られてない。
結構不味いんでないのコレ?
世界、滅んじゃうかもよ?
いや、この世界の倫理観がカバガバで会ったその日にメイグラブが一般的なのかもしれない………ビッチだらけの即ハボ学園!
………んなわきゃぁないか。
てか、当のサイト君は、今の状況をどう受け止めてるんやろう?
ルイズ嬢が不満たらたらなのは昨日一日でよくわかったけれども、俺と同じく使い魔として召喚された彼は………
ちょっとさぐってみようか。
「でもさぁ、俺達のご主人が美少女でよかったやん。これで横綱見たいな顔の奴がご主人様やったら俺発狂してたかも。」
「確かに可愛いけど………あの性格は無いだろ。うん、無いわ。てか、聞いてくれよ。昨日あのあと大変だったんだからな?………はぁ、その前に取り敢えずこの洗濯物洗っておくかなぁ。」
「オッケー、手伝う手伝う。で、何処で洗うんすか?」
「………どこだろう?」
………取り敢えず誰かに洗い場の場所を聞くことから始めよう。
おお、ちょうど良いところにメイドが居る。
「あ、ちょっと、すいませんそこなメイドさん………メイドさんやないかい!」
「えっ?な、何ですか?え?男の人!?ここ女子寮ですよね?えっ?えっ!?」
「ちょっと、サイト君サイト君!メイドさんやで!リアルメイドさんやで!喫茶店で気軽に会えるあれとは違う、スカートロングで俺達に過剰な媚を売らないメイドさんやで!」
「いや、興奮しすぎだって。」
………冷静な突っ込みありがとうございました。
「サイト君、メイド嫌いなん?」
「いや、嫌いじゃない。ほんとならメイドさんに対して俺もきゅんきゅんしたいけど、お前のはしゃぎっぷりを見てたら、何か冷静になった。」
おぉぅ。しまった、俺の行動が一人の純朴な少年の感動に水を射してしまったか………
ごめんネ?
「あー、騒がしくてごめんな。俺は平賀才人。昨日、ルイズって女の子に使い魔として召喚されたんだ。んで、こっちは鈴木佐藤。俺と一緒に召喚されたんだよ。」
「おっす、おら佐藤だぁ。」
「は、はぁ。よろしくお願いします。」
「俺と佐藤、ご主人様の命令でこれからここに住むことになったから、ちょくちょく顔を合わせると思うんだ。これからよろしくな?」
「あ、私はシエスタっていいます。サイトさんとサトウさんですね………でも、使い魔さんって人間でもなれるんですね?私、人間の使い魔って初めて見ました!」
まぁ、ルイズ嬢とかコッパゲ先生の様子を見るに人間が召喚されたのは前例の無いことの様ですし?
でも、この子何やら純朴そうでこう………からかい甲斐がありそうでやんす。
「………ククク、お嬢さん、果たして我々が本当に人間だと思うのかネ?」
「………えっ?」
「そう、我々はオークの国から召喚された極悪非道なオークさんなのだよ。どのくらい非道かというと、目をつけた農村の女の子に対して真摯に結婚前提のお付き合いをお願いし、ご両親には手土産キチンと挨拶に伺い、最終的に村の外へ連れ去って幸せにしてしまうと言う………」
「おい佐藤。そのオークの極悪非道な所は何処だよ?」
「そうだったんですか!?私、オーク鬼って、女の子を浚ったり、子供を食べたりするって聞いていたから、そんなに優しいオーク鬼さんが居るって知りませんでした!」
「いや、シエスタ違うから。俺と佐藤は人間だから。ってか、居るのかよオーク。間違っても、オークに手を降って挨拶とかしちゃダメだぞ?多分危険だから。」
「えっ?じゃあさっきのって?」
「こいつの冗談だよ。よくわからない事を言うし、するんだよコイツ。」
むむむ、サイトめ、一人だけ常識的なムーヴをしおって。相対的にシエスタ嬢の好感度が上がって見えそうで許せん!
株さげたろ!
「よくわからないとか酷いこと言うじゃないか!一緒にキュルケ嬢のおっぱいガン見した仲じゃないか!?」
「なっ!てめぇ!」
「ふん!嘘だとでも言うのかね!?君はあの勇壮なるmt.キュルケに対して夢中になる価値がないとでも言うつもりかね!?」
「………くっ、クソ!俺も男だ、あの霊峰に対して嘘はつけねぇ!」
サイト君のノリが良くて大変結構!
「………。」
そして無言のジト目を俺達に繰り出す、黒髪メイドのシエスタさんである。
「………で、お願いがあるんじゃよシエスタさんや。」
「な、何ですか?サトウさん。」
………そんなに警戒しなくても良いじゃん。胸を庇うように言わなくても良いじゃん?
「俺達これからご主人様の洗濯物を洗わなきゃいけないんだけど、水場の場所を教えてくんない?」
「うわっ!つめたっ!」
ひんやりとした朝の空気のなか、地下から産直直送汲みたて地下水で、洗濯物を手洗いする男二人。
あのあと、シエスタさんにここへと案内してもらい早速お仕事に取りかかりました。
「うーむ、文明人たる我々に相応しくないなぁ。」
とかいって、ご主人様の下着を弄ってみたりする。
清潔感のある白でありまして、大変結構!
「ぶつくさ言ってないで、手を動かそうぜ?」
「かーっ!真面目か!サイト君真面目か!?」
「いや、そんなに真面目なつもりじゃないけどさ。ぶっちゃげ、こんなに冷たい水に触れる作業なんて、とっとと終わらせたい。」
「………せやな。」
仰ることも大変ごもっともなので、洗濯を再開する。
しかし、どうなってんだこの世界。昨日は気づかなかったけど、おかしいぞ。
建物なんかは、これ見よがしに中世でござい!と主張しているのにこの洋服なんかは明らかに中世レベルのそれじゃない。
このパンティ、生意気にもゴムなんぞ使ってやがる。
っていうか、生地の手触りが良すぎる。
化繊ではないとしても、絹ぐらいは使ってそうだ。
中世ヨーロッパって、下着なんかはもっとごわついててもよさそうなものなんだけどなぁ。
その疑問をサイトにちらっとこぼすと
「あー、何か魔法でどうにかしてんじゃないのか?」
との返答。
その可能性もあるか。
「よっし、終わり。さて、とっとと部屋に戻ってコイツを干しちまおうぜ?」
「こっちも終わったでげす。」
「何だよその口調。」
「………趣味かな?」
とか、グダグダやりつつも戻ってきましたルイズ部屋!
「戻って来ましたわよご主人様!さぁ、さっさとこの扉を開けやがれ下さい!」
部屋の前で大声!
「………うるさいわね、そんな大声出さなくても聞こえてるわよ。」
うーん、ご主人様はどうやら不機嫌なご様子。こんな素晴らしい朝にもったいない。
ここは使い魔らしく、ご主人様に元気を出してもらわなくては。
「ルイズゥー!朝だよ!?起きるよ!?起きて学校行くよ?」
と、朝隣から自分をお越しに来る幼馴染み的なボイスで呼び掛ける。
我ながら、惚れ惚れするようなアニメ的女声。当方、声帯模写には自信がござる。
「気持ち悪いわね、どこからんな声出てんのよ?」
「魂からかな?」
「すげぇな、お前の魂どうなってんだよ?っと、ルイズ。言われた通り洗濯は終わらせたぞ?これって部屋干しで良いのか?」
「ん、御苦労。水場の近くに干す場所があるんだけど、まぁ今日は良いわ。明日からはそっちに頼むわ。」
「了解だ。」
「うーむ、何やらお二人とも、長年連れ添った夫婦がごとき雰囲気。ぶっちゃげ、寂しいぞぅ?俺も混ぜてよって、サトウはサトウは可愛らしくおねだりしてみる!」
「懐かしいな。何だっけそれ、とあるなんちゃらだったかな?」
「?よくわからないけど、とっとと食堂に行くわよ?昨日は色々あって食べられなかったから、流石にお腹がすいてんのよ。」
「………ご主人様の爆弾テロのせいですよね?」
「うっさいわね、サトウは。」
さぁ!んで、ちょっと賑やかに食堂に向かう俺達三人。
道中も特に何事もなく学園の食堂に到着!
うむ、実に豪華な食堂である。あれである、学園長辺りが新入生に不思議な帽子を被せ、帽子による寮の組分けが行われそうな雰囲気の食堂だ。
だが、そこで俺とサイトは驚愕の現実に直面する。
「………あんたたちは、床よ。」
ご主人様の無慈悲な一言。
そして並べられた、スープとパン。
周囲の人間は、皆さん朝からそんなもん喰うのかよ!?ってくらい豪華な物を食べている。
そんな中、俺とサイト、スープとパン。
見ろよ、隣のサイト君なんて絶望の表情で朝食を見つめたまま動かないぞ?
「えっと、ご主人様。コイツは何でございましょうか?」
「何って、あんたたちの食事よ。良いから、ちゃっちゃと食べなさいよ。」
「えぇ………」
「何よサトウ。文句があるなら食べなくても良いのよ?」
いや、これはひどいっすよ。パンは見るからに硬いし、スープは具が入ってない。
ほら、サイト君なんていつかアヒンアヒン言わせてやるテメェ!
って顔で、ご主人を見てるじゃないですか。
困難じゃいつか、使い魔に下克上されちまいますぜ。
直訴じゃ!お武家様に直訴するしかないんじゃ!
「ルイズ様!我々の待遇改善を要求します!」
俺は大声でさけんだね。周りにおもいっきり聞こえる様に。
何人かが何事かと此方を見る。
「ち、ちょっと、声がおっきいわよ!」
「声が大きくもなりますぞ!見なされ!あそこの席を!豚でさえ席に座り、豪華な食事をとっとるではないですか!」
と言って、近くの席のポッチャリ系男子を指差す俺。
………確か昨日授業でご主人をからかった生徒。
………マリコルヌとか言う彼だ。
「ばっ!ちょっ!止めなさい!」
「いいえ、止めませんぞ!大体ご主人様、今朝から何やら不機嫌なご様子でしたが、我々が一体どんな罪を犯したと言うのですか!ははぁん、解りましたぞ!さてはご主人様、生理が始まりましたな!?いけません、いけませんぞ!だからといって使い魔に八つ当たりするとは!?」
「ななな!何て事を大声で言ってるのよ!大声で!」
「えっ?ゼロのルイズが触れてはいけない女の子の期間中だって!?」
「あの使い魔に可愛そう。」
「え?何で僕は途中で使い魔にディスられてんの?」
徐々に、周りも俺の起こした騒ぎに興味を示し出す。
サイト君は悲しみの表情でパンをモソモソやっとります。
ちょっと物分かり良すぎない?この子。
「い、いい加減にしなさいよ、サトウ。」
「だったら、我々に最低限文化的な食事を!我々、非政府組織『使い魔の夜明』は圧政には屈しない!ですよね!使い魔代表ブタのマリコルヌ殿!」
「誰がブタのマリコルヌだ!このやろう!失礼にも程があるぞ!」
「キェェェェ!ブタがシャベッタァ!」
「き、貴様ァ!使い魔の分際でぇ!」
………おかしいな、何故俺はマリコルヌ君と怒鳴りあってるんだろう?
「貴族を侮辱した罪!その身で償え!!」
と、マリコルヌ君が逆上して杖を振りかざしたぞう!?
「ちょっと!マリコルヌ!いくらなんでも!」
慌てて止めに入るルイズ嬢。
「我慢できるかぁ!」
そしてぶんと杖が振られた。
その杖の先から巻きおこる突風。
「おっふぅ!!」
直撃した俺は見事に吹っ飛ばさた。
他の席に座っていた貴族様を巻き込んで。
「いったァ!ちょっと何すんのよマリコルヌ!」
「ルイズ!使い魔の手綱も握れないのかね!!」
「あぁっ!僕の使い魔が!ジャン・ルイが食われた!」
「ベイルアウト!ベイルアウト!」
最早、そこに秩序はなかった。
一人の使い魔が起こした革命の炎は、周囲を巻き込み混乱を平和な食堂へ撒き散らしていった。
いつのまにか、朝食をひっくり返し、その顔に更なる絶望を浮かべる平賀才人。
鬼の形相で、馬乗りになって俺を殴り続けるご主人様。
修羅のごとく、周囲と戦う事に何故かなっているマリコルヌ。
………後日聞いたところ、彼はこの事が発端でラインメイジに成長したとか。
まぁ、そんな状況を収束に向かわせる存在がやって来たのだが。
「一体何の騒ぎじゃこれは!ええい、静まらんか!サイレント!」
白髪長髪、豊かなお髭。何だかテンプレ的な賢者の装いのおじいさんが、叫ぶやいなや魔法を使う。
するとどうしたことか、周囲から音が消えた。
「全く、メイドが慌てて呼び止めるから何かと思えば、一体どうしてこんなことになっておるんじゃ。」
「………!!……!」
ルイズが、何やらその老人に対して叫んでいるが、何故か声が聞こえない。
「はぁ、魔法を解くから落ち着いて状況を説明するんじゃぞい?」
コクコクとうなずくルイズ。
そして、何事か呟いて杖を振る老人。
よほど高位の人間なのだろうか、先程までの混乱は収まり皆さん老人に注目している。
「………オールドオスマン。恥ずかしながら私の使い魔が粗相をしでかしまして、ちょっと折檻をしていたところですわ。サイレントを解いていただき感謝致しますわ。あのままですと、使い魔の悲鳴が聞こえないままでしたので。」
「ヒェッ」
底冷えするような表情と声とで、説明になっていない説明を行うルイズさんである。
オールドオスマンなる人物が、悲鳴を漏らすほどには迫力があった。
「では、私は使い魔の躾に戻りますので。」
「う、うん。ぼどほどにするんじゃぞ?」
「………で、そこの君は一体どうしてそんなに暴れておったのじゃ?」
「朝食をとっていたところ、唐突にミス・ヴァリエールの使い魔に侮辱されましたもので。失礼します、オールドオスマン、この身を焦がす怒りはまだ収まりそうにありませんので、ミス・ヴァリエールの躾の加勢をしてまいります。」
「ヒェッ!」
底冷えするような(以下略
「だ、誰かまともに説明できる者は居らんのか?ちょっと、そこのこぼれたスープを虚ろに見つめている少年で良いから、ワシに何が起きたのか説明してくんない?」
「実は………」
と、暗い表情のまま事のあらましを老人に説明するサイト。
その説明が終ると、
「君は苦労人じゃのう。取り敢えず、ミス・ヴァリエールと使い魔二人はこれから学園長室に来なさい。サイト君と言ったか、温かい食事を用意するから君も一緒に来てくれんか。」
ともあれ、こうしてこの場の混乱は一端収まったのであった。