世界の引き金を引く者   作:曇天もよう

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えー、一年近く更新しなくてすみませんでした(謝罪)

最近ワートリファンの方と話することが増えて熱が再燃したので、また不定期ながらも再開していきます

今回はリハビリがてら那須さんとの日常回です


那須玲②

冬も本番、それも年末も近づいて来ているこの時期、日の暮れる早さはとても早くなっており、天谷隊が防衛任務を終え、帰路につこうとする頃にはすっかり日の光は消え、夜の暗さが空を支配していた。今回はイレギュラーな事態があったため、更に長くなってしまったというのもあるが…。

 

防衛任務を終えた報告書を書き上げ、提出した後、天谷隊はこれからの動向などを話し合った。黒トリガーを持った空閑遊真という少年、それを味方する迅悠一の存在、その空閑と戦い存在を知った三輪のこと…いろいろと話をした。

具体的にどうするかなどは今すぐに判断するのは時期尚早、そう判断し、追ってまた集まり話そうということになったのだ。

 

 

そしてそんな話を終え、天谷は特にやることもないため、帰路につこうと作戦室から出て出口へと歩いて向かっていた。

時刻は間もなく7時を回ってくる時間帯のため、食堂に人が向かっているのか、帰り道に人は多くなかった。そんな人の気配の少ない廊下を一人歩いていた天谷であったが、廊下の先に見知った人たちが話しているのを見かけたため、その人物たちの元へ駆け寄っていった。

 

「那須に透!こんなところで何しているんだ?」

 

天谷の見つけた人物たち、それは那須に奈良坂であった。那須は廊下のイスに腰掛けるように座っており、奈良坂はその近くで立って話をしていた。二人は顔がとても整っているため、その姿だけでもとても絵になりそうな様子であった。

 

「ん?翔か。今は防衛任務の帰りか?」

 

「天谷くん!今から帰りなのかしら?」

 

「ああ。防衛任務の報告書も出したし、部隊会議も終えて今から帰るところだ。そっちこそ何してたんだ?」

 

「…俺の方も翔と同じさ。もうじきいい時間だし、帰ろうかとここを歩いてたら座ってる玲に出会ったわけだ」

 

天谷と奈良坂は目配せをしてお互いに昼にあったことを那須には晒さないように気をつける。いまはまだボーダー上層部及び、一部の面々にしか知られていないネイバー出現、しかも黒トリガー持ちのことを悪戯に広めるわけにはいかない。もしも知ってしまえば厄介ごとに巻き込んでしまうかもしれない可能性もあったからである。

 

「私は体調が今日は良かったから、個人ランク戦をしに来てたの。それで少し長くしすぎちゃって…。今から帰ろうかなって思ってたけど、少し疲れちゃったからここで休憩してたの」

 

二人が目配せをしたことに那須は気がついていないようであった。それに少しホッとしながらも、違和感が無いように那須や奈良坂との会話を続ける。

 

「あれ?俺らと三輪隊同じだったのか。お疲れ様だ。那須は無茶するといけないってあれほど言ってるのに…リーダーとエースを兼ねてるから苦労してるのは分かっているが、それでももう少し自分の身体を労わらないと」

 

那須には少し強めに注意を天谷は促す。こう天谷が言うのは、かつて一緒に訓練している時に無茶をしすぎて倒れてしまったことがあったからである。そんなことがあってからと言うもの、天谷は那須の体調については本人以上に注意を払うようにしていた。それは上層部からの命令というものもあったが、それ以上に天谷自身が不安に思っていたからであった。

 

「ご、ごめんね…ちゃんと今度からは気をつけるね」

 

「全く那須はすぐオーバーワークするんだから…今度一緒に訓練するからしばらくは個人ランク戦は休みなよ。無茶して倒れたら本当困るから」

 

「…え?今度一緒に訓練してくれるの?」

 

「基本的に防衛任務がない日ならいつでも暇してるからな。ただし体調が万全で、今日から1週間くらいは期間明けてからじゃないとダメだから。蓄積疲労貯めたらいけないからな」

 

「本当!?嬉しい!ちゃんと体調整えるから約束だよ!」

 

いつになく嬉しそうな那須を見て、そんなに訓練できることが嬉しいのかと不思議に思う天谷であったが、こうも喜んでるならいいかと思い相槌を打っておいた。

 

「良かったな、玲。俺からも玲が無茶しないようによく翔には監視しておいてほしい。真面目なのはいいんだが、どうも意固地で無茶したがりな気が出ることもあるからな」

 

「真面目なお前が言うか?」

 

「俺が真面目なのは重々承知してるさ。それよりもこれから翔も家に帰るんだろ?」

 

「それはそうだが。それがどうしたんだ?」

 

「それならいいんだ。俺も帰ろうと思ってたんだが、どうにも用事ができてしまって今から少し作戦室に戻らないといけなくなった。だから翔は玲が帰り道で倒れたりしないように一緒に帰ってもらえないか?」

 

「ん?だったら俺はお前が帰ってくるのを待ってるが…その方が良くないか?」

 

至極当然のように天谷は答えるが、奈良坂は呆れたような表情を浮かべつつも続ける。

 

「翔が良くても玲が良くないだろう。那須隊が夜勤のシフト組んでないのは玲の師匠してるお前なら知ってるだろう?それは女性が夜に出歩くのはあまり快く思ってない玲の両親などの考えがあるからだ。だから帰りが遅れると余計な不安をかけさせてしまうかもしれない。だから少しでも早く送り届けて欲しい」

 

もっともな意見に天谷も納得する。那須隊は全員女性で構成させれているため、夜のシフトは断っていると話は聞いていた。そのため、大いに奈良坂の言うことは納得のいく説明だった。

 

「なるほどな、理解したよ。それで俺はいいが那須はいいのか?」

 

一応那須にも確認を取っておく。もし嫌だと言われたら送っていくのはやめておかなければならないと思ったからである。

 

「わ、私は…一緒に帰ってくれるなら…一緒に帰って欲しい…かな…?」

 

 

那須は天谷と目線を少し逸らしながら答える。那須も納得してもらえているようなので、俺が一緒に帰ることは決まったようだ。

 

「納得いったようだな。それじゃあ翔、頼んだ」

 

簡単に奈良坂は言うと駆け足で三輪隊の作戦室の方向へと向かっていってしまった。

奈良坂が去ってしまったことで、沈黙がこの場を支配する。このままずっと黙っているのも送り届けるのが遅れてしまい、問題になるので、行こうか、と声をかけてボーダーの出口に向かって行くことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

ボーダーの連絡通路を通り、外に出たとき、すでに陽は山の向こうへと沈んでしまい、辺りは夜の闇に包まれていた。ボーダーの連絡通路があるのはすでに人が生活することを放棄した一帯であるため、普通の住宅地と比べても、かなり暗くなっている。街灯はいくらか残っており、灯りはあるが、道はがぼんやりと見え、空に瞬く星が綺麗に見える程度であった。

 

「もうすっかり暗くなってしまってるな…」

 

「そうね…もう年末も近づいてきてるもの。こんな時間ならもう暗くて仕方ないわ」

 

「そりゃそうか…それにしても今日は空に雲がないみたいで月や星が綺麗に見えるな」

 

黙って帰るのはどうかと思うので他愛もない話をする。こう気の利いた話をできるほど口八丁めはないので、星が綺麗だのそういった話をすることしかできないが、しないよりはマシかと思い続ける。

 

「…そうね…このまま時が止まってしまえばいいのに…」

 

「でも時が止まっちゃったらこうした話することできないぞ?」

 

「…そ、そうね…」

 

「ん?何か違う考えあった?」

 

これまで楽しそうに話していた那須が少し寂しそうな顔を浮かべていたように見えた天谷は質問をする。その顔の変化は僅かなものであったが、天谷にははっきりと見えたのだ。

 

「い、いえ、何もないよ。それよりももう少しで私の家に着くね」

 

「ん、そうだな。意外と話ししてると短いよな」

 

「そうね……どうして私の表情には気づいてくれるのに、言葉には気づいてくれないのかしら…」

 

「ほら、那須の家だ。やっぱり早く感じたな」

 

天谷は那須の家が見えてきたことに意識がいっているようですでに、那須の呟いた言葉にはすでに気づいてなどいないようであった。

 

「はぁ…いつになったら気づいてもらえるのかしら…」

 

那須は朴念仁な想い人に少し溜息をつきながらも天谷の元へ向かって少し重くなってしまった足を動かし、移動するのであった。

 

 

 




次回からはワートリ序盤の黒トリガー争奪戦の本番に入っていきます

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