明日からランク戦再開ですし、楽しみです
天谷が迅悠一と秘密裏の話をしてから3日後、天谷は天谷隊のメンバーを自分たちの隊室に集めて、例の件について話そうとしていた。
「それで、話って何?」
あまり装飾品はなく、机と椅子、本棚など最低限のインテリアだけがある部屋の中で剣持が天谷に質問をする。
「昨日は招集かけられてたのに行かなくてごめんなさいね。それにしてもわざわざ全員集まるってことは何か大事なことがあるのかしら?」
実は俺は昨日…迅さんに話を聞いた次の日にできれば集まってこの件を話したいと思っていた。これはこの一件が、すぐにでも集まって話すべき重大なことだと判断したからだった。
しかしながら、すぐにすぐ全員が集まれると言うわけではなかった。そのために今日になったのだった。
「まずはわざわざ集まってもらってありがとう。それで早速本題に入るんだけど、もうじきボーダー内での派閥間争いが起こることが分かったんだ」
その言葉を聞いて室内の空気がピリついた。ここまで笑顔で話しをしていた剣持も真剣な表情になって話を聞く。
「それは確かな情報なんですか?」
宇野が挙手して俺に質問する。俺はそれに対して、確かで間違いないと返事をした。迅さんがわざわざ俺に直接話してくることならばそれは避けることのできないことだと思われるからだ。
「どうして起こるって分かったの?情報の出所とか教えてほしいな。そこは確認しておかないといけないと思うの」
柳本さんも俺に質問をする。情報の正確さは重大なことなので、聞かれるのは最もなことだろう。詳しく話そうとすると話が長くなってしまうので、俺は簡潔にまとめて話した。
「これは迅さんのサイドエフェクトで見えた未来だと迅さん本人に言われました。その未来は、城戸司令派が前回俺たちも見た黒トリガーの持ち主、空閑 遊真を襲撃しようとしている…といった内容らしいです」
俺たちは全員が空閑 遊真については知っている。ボーダーには所属してない、所謂ネイバーと呼ばれる人物だった。
空閑がいつからこちら側に滞在しているのかは知らないが、こちらの世界に住んでいる。本来は敵対するはずのネイバーが…。そして、それを発見した三輪隊は早速排除を試みたが、空閑の持っていた黒トリガーの反撃を受けて返り討ちにされたのだった。
「そこは分かりましたけど、なぜ玉狛派は空閑くんを守ろうとするんですか?ボーダーにも入っていないのに?」
「それはそう思うのも仕方ないと思う。けれどもそのネイバーは玉狛支部に入隊することになったんだ。だから玉狛派は全力で彼を守ろうとしているわけだ」
そのことを聞いて三者三様の反応をする。剣持は一番顔に表情が出ていた。それに身を乗り出して俺に確認をしてくる。宇野は顔はいたっていつも通りのようだが、様子からしてやはり驚いているようだった。柳本さんはポカーンとしているようであった。
「それってどういうこと!?ネイバーがボーダーに入隊するってどういうことなの!?」
剣持はグイグイと迫って質問してくる。あまりに迫ってくるので一旦落ち着くように促して、みんなに椅子に座ってもらって話を続ける。
「前代未聞のことで信じるのは難しいことだと思う。俺も流石に信じがたかったから、実際に玉狛に行って書類を見せてもらった。これが証拠だ。」
俺はそう言うと、林道支部長から借り受けた書類を見せる。勿論、個人のプライバシーの関係があるため、
俺は昨日、玉狛支部に招かれ、その書類を見せてもらった。そこには『空閑 遊真をボーダー玉狛支部に入隊することを許可する』と林道支部長のサインが書かれていた。
それに加えて実際に空閑に会って話す機会を得たのだった。
その時の空閑はボーダーととても敵対する意思があるとは思えなかった。元々知り合いであるという補正があるのかもしれないが、やはり空閑は排除しなければならないネイバーとは考えられないと判断したのだった。
そのことをみんなに伝える。みんなしばらく考えているようで室内には暫しの沈黙が流れた。
「天谷の話すこと、信じていいんだよね?」
いつになく真剣な目で舞が見つめてくる。普段の様子からはとても思えないような真面目な雰囲気で、宇野や柳本さんもその様子を固唾を飲んで見ている。
「…ああ、勿論だ。俺は迅さん、空閑が嘘をついているとは思えない。だから俺はこれから起こるであろう派閥間争いを全力で止めに行く。喩え舞や宇野、柳本さんに信じてもらえなかったとしても」
俺は語気を強くして答える。迅さんには言わないように言われているが、迅さんは本気でこの問題を考えている。そうでもなければ、形見の黒トリガーを明け渡すなんて手段を取るとは思えないというのが一番の根拠だ。
「そう、分かった。これだけ本気で言うなら翔の言うことは間違ってないと思う。私も翔のことを信じるよ」
意外にもあっさりと舞は認めてくれた。そのことに驚いていると舞が続けて話す。
「確かに信じられるか分からないところはあるけどさ、ここまで翔が強く言うことって あまりない気がするんだよね。だから、それだけ真剣なことなんだなって思うの。そう宇野ちゃんも柳本さんも思わないです?」
振り返って他の二人にも話を振る。二人もしばらく考え込んでいた表情をずっとしていたが、舞に話を振られたことで考えていたことが全て解決したようで軽やかな表情を浮かべる。
「そうね、言われてみたらそうだと思う。天谷くんがこんなに自分の意見をぶつけることなんてあまりなかったものね。いつもみんなをまとめるように徹してて、そんなことなかったもの」
「私も剣持先輩に言われて納得しました。私も天谷先輩を信じます」
「みんな…ありがとう…本当に助かるよ」
頭を下げて感謝の言葉をみんなに俺は伝える。本当に俺はいいチームメイトを持ったと思う。
嬉しさで少し感極まっていると、3人は今回の作戦について話し始めた。
「とりあえず二つの派閥に戦闘させないように警告をするのがいいでしょうか?」
「多分それがいいと思うわ。それでも引かないなら戦闘も辞さないと言った体制がいいと思う。おそらく戦闘は避けられないと思われるけど…」
「迅さんによると、今日から6日後の夜に城戸司令派の部隊が玉狛支部を出る空閑を狙うらしいです。そこで迅さんはまず撤退してくれないか確認をするみたいです」
俺も迅さんから聞いたことを言っておく。知っている情報はなるべく全員で共有しておきたい。
「なるほど…因みに予想されている襲撃部隊は誰か分かるものなんです?」
宇野が敵の質問をする。やはりそこは気になるものだろう。
「今のところ、太刀川隊、冬島隊、風間隊、三輪隊の面々が確定といったところ、未来によっては別の部隊も入って来る可能性はあるらしい」
「…それは厄介な隊ばかりですね。いくらうちの隊と迅先輩がいてもこれを全て捌くにはかなりきついような気がします」
宇野や柳本さんも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。これが全員厄介な相手であるからだ。
A級8位三輪隊。隊長三輪を筆頭に米屋、奈良坂、古寺と、攻撃手、万能手、狙撃手が二人のバランスの良いメンバー構成をしている。
三輪と米屋の連携はさることながら、狙撃手2位の実力を持つ奈良坂の一撃なども考えないといけないチームだ。
次にA級3位風間隊。攻撃手2位で個人総合ランキング3位の風間さん、聴覚強化のサイドエフェクト持ちの菊地原、万能手の歌川で構成されていて、スコーピオンを使った素早い切り込み、カメレオンを使った隠密戦闘にも強いチームだ。
続いてA級2位の冬島隊。このチームはかなり特殊なチームで、特殊工作員の冬島さんと狙撃手1位の当真さんの二人構成だ。戦術はシンプルに、当真さんを冬島さんがサポートしながらガンガン落としていくスタイルだ。それに仮に当真さんを捉えてもワープで逃げられてしまう。厄介な相手だ。
そして、A級1位太刀川隊。攻撃手1位で総合ランク1位の太刀川さんを隊長でエースにして、射手の出水のシンプルなチームだ。純粋な実力の差を感じさせられる太刀川さんを出水がサポートするスタイルだ。太刀川さんを止められるのはごく一部のものだけだ。もう一人いた気もしたが、気のせいだろう。
「え!?そんな豪華な人たちと戦えるの!?嬉しくない?」
宇野や柳本さんは困った表情をしていたが、戦闘バカの舞は一人興奮していた。こういう時に楽しんでいける舞の楽観的な様子は見習いたくなる。
「舞ちゃんは相変わらずのワクワクしてる様子なのね」
「そりゃ風間さんとかと戦えることなんてそうそうないからね!俄然やる気が出てきたよ!早く話し合い終わらせて6日後のためにランク戦したくなってきた!」
すでに体を伸ばしたりしていて、ランク戦をしてくる気満々らしい。
早く行きたそうでそわそわしている。
「だったら舞ちゃんはランク戦に行ってきたらいいわよ。私たちでとりあえず陣形の確認とか戦い方の確認をしておくから」
「本当ですか?ありがとう!柳本さん!」
柳本さんから許可が下りるやいなや、舞はすぐに出口の扉に向かって走っていく。
「行くのはいいけど、明日また話すから絶対遅刻するなよ?それに明日はしっかり話すから、明日の分もやっとしとけよ?」
「えー!明日ランク戦できないの!?」
「当たり前だ。大事なことなんだから明日話す。それにお前、テストの点の話を聞いたぞ。ランク戦してる暇あるのか?」
今月の最初に期末試験があったのだが、剣持は赤点ギリギリの点数ばかり取っていたのだ。その直前に俺たちが教えたというにもかかわらずだ。
「げっ…熊ちゃんが喋ったのかな…ここは逃げるに限る!」
「あ!おい待て!」
その言葉だけを残して風のように舞は走り去って行った。
宇野は笑っていたが、俺と柳本さんは頭を抱えていた。舞の勉強の不真面目さ、成績の悪さはトップクラスで、将来の太刀川さんと同じ道に進みそうだと忍田本部長も頭を抱えているのだ。
「そんなに舞先輩って成績が悪いんですか?」
「悪いってもんじゃないんだ…。まじで留年しかねないから不安になる…隊員が留年とかシャレにならない…」
「その件も話さないといけないけど、また今度にしましょう。とりあえず今は今度ある戦いについてだけど、少し休憩してから話しましょうか。何か飲み物でも買って来ようと思ってるけど二人ともいつものものでいいかしら?
「「いいんですか?」」
俺と宇野は口を揃えて柳本さんに聞く。
「ええ、もちろんよ。それじゃ買ってくるから少し待っててね」
柳本さんも俺たち3人分の飲み物を買いに部屋の外へと出て行った。室内には俺と宇野が残っているが、柳本さんが飲み物を買いに行ったので、部屋に常時置かれているお菓子を二人で用意して待っておくことにした。
そして、その準備をしている最中に迅さんが話していたことを宇野に伝えておこうと思ったので話すことに俺はした。
「…なあ、宇野?」
「はい、どうしました?」
いいとこのどら焼きの箱を机に置いてから宇野は振り返って不思議そうな顔を浮かべる。
「最近宇野が悩んでいることは知ってる。真面目な宇野だから一人で抱え込んでるみたいだけど、チームなんだ。一人で抱えてなくていいんだぞ?」
「やっぱり先輩にはバレてたんですね」
他のお菓子の準備をしながら宇野は答える。俺も引き続き手伝いながら続ける。
「当然だ。宇野が悩んでるのなら力になる。困ったことがあればいつだって相談に乗るさ」
「そう言ってもらえるだけでとても嬉しいですよ」
改めてこちらを見て感謝の言葉を宇野は話すが、表情はどこか曇っていて、やはりまだ悩んでいるようだった。
「…今回の戦いは宇野にとって大きな転換点になる…って迅さんが話していた。何があるから分からないけど、少しリラックスして次の戦いには行こう。こんなこと言われたら意識しちゃうかもしれないけどな」
「分かりました。迅先輩が言うなら何かあるのかもしれないですね。それでも先輩たちが戦いやすいように全力でサポートしますよ」
その返事をする宇野は先ほどの曇ったような表情は隠れて、いつもどおりの宇野に戻っていた。
「お待たせ、買ってきたよ。…あら?お菓子の準備しててくれたのね!いいとこのどら焼きもある!食べながら話ししましょうか?」
ちょうど柳本さんも帰ってきたので、そこまで話していたことはやめて席に着く。
そこからしばらく、戦う場所の確認、相手の確認など様々なことを話し合ったのだった。
柳本さんは意外と甘い物好き。
因みに柳本さんが買ってきた飲み物は、天谷が炭酸飲料、宇野はオレンジジュース、柳本さんは烏龍茶だったりします。
次回は別作品の投稿+作者テスト週間で少し遅くなる(いつものこと)と思います