那須さん誕生日おめでとう!
私は身体が弱かった。
生まれつき病気を持っていた私は外で遊んだことなんてなかった。たまに外へ出かけ外の世界を眺めることは私にとってとても特別なことであった。普段は自宅で過ごし、窓から見える景色を見ていた。窓の外に見える景色はとても身近に存在しているのに私にとってはるか彼方にあるようだった。
そうして幼稚園の時にも外で遊ぶ友達を見ていることしかできなかった。外でみんな揃ってドッジボールや鬼ごっこをしている様子はとてもうらやましく思っていた。何も考えなくても遊べるからだ。このころ私はよくお母さんやお父さんに聞いていた。どうして私は自由に体を動かせないのか。私も外で遊びたい、と。
そんな私の願いはかなうはずもなく、小学生になった。幼稚園と比べ、さらに身体が丈夫になったみんなはさらにいろんなことをしていた。私はその様子をまた見ていることしかできなかった。小学生というのは自分と違う人をいじめるようになる。現に私がそうだった。とある男の子がある日私に言ってきた。
お前は体が弱いとか俺らとは違うんじゃね?こいつが運動してるとこ見たことないし。お前怪物かなんかだろ!
その言葉はとっても悲しかった。私だって好きでこんな身体を持って生まれたくなかった。普通の身体がよかった。その悪口を言った男の子は後日私の家にその子の両親と謝りに来た。謝ってこそいたが彼は不服そうな顔をしていたのを私は今でも覚えている。
それ以来学校で外を見るのが怖くなった。外を見ているとまた嫌なことを言われてしまうのでは?と思うようになってしまった。学校ではずっと持って行っていた小説などを読むようになっていた。小説は普段外へ出ることのできない私に面白い世界を見せてくれるものだった。
そんな生活をしていたが、再びそんな生活は変わってしまった。
ネイバーによる第一次侵攻だった。偶然にも隣町の蓮乃辺市に出かけていた私は無事だった。しかし、友達だった子や私をいじめていた子が死んでしまったり、行方不明になったと聞いてとても悲しくなった。
その日以来私は今まで以上に外へ出ることができなくなっていた。走ることのできない私はネイバーの格好の的だからだ。
私の人生で最も大きな転機になったのは私のいとこである透くんが久しぶりにうちにやってきた時だった。透くんは私にとある提案をしたのだ。
『ボーダーに入ってみないか』と。
ボーダーの存在はテレビなどで見たりしていたため知っていた。ネイバーを倒し三門市を守るために活動している組織であるのだと。
なぜ身体の弱い私なんかにボーダーに入らないか、なんていうのか私は疑問に思った。
そしてその理由を聞いたとき私は心が躍った。
私が体を自由に動かせるかもしれない、と聞いたからだ。それは今まで夢に思っていたことだった。自由に体を動かせる。今までどんなことよりも願っていたことだった。
私はもちろんボーダーに入りたいと言った。しかしお父さんに猛反対された。それもそうだ、私は人体実験の被検体としてボーダーに入ることとなるからだ。私がもしもお父さんの立場に立っていたのならば反対しただろう。しかし私は必死に説得をした。何度も何度もした結果、何とかボーダーに入隊するのを認めてもらえた。これは実際にボーダーに入り、隊員として働いていた透くんの説得が大きかったのだろう。
その後トリオンという戦うときに必要な力を測定されたが、これも基準値よりも高く無事にボーダーへと入隊することができた。
初めてトリガーを起動するときには多くの人に見られていた。ボーダーの上層部の方々やお母さん、そして最後まで反対していたお父さんも見にきていた。
みんなに見られながら私はトリガーを引いた。あっという間にトリオン体へと変換されたようだったが、私にはとても長く感じた。
もしもトリオン体になっても体を動かすことができなかったら…そう考えていたのを覚えている。
しばらくして私は恐る恐る動いてみた。体は今までと全く違って軽かった。いつもならば走ろうとして息が上がり、走れなかった。
しかし、今回は違っていた。いくら走ろうとも息が上がることはなく、どこまでも走れるようだった。
私が楽しそうに走り回っているのを見て、ボーダーの上層部の方々も嬉しそうにしていたが、何よりもお母さんとお父さんが嬉しそうにしていたのが一番印象に残っている。
こうして初めてのトリガーの起動は成功したのだが、ボーダー隊員になるということはしなければならないことがあった。異世界から攻めて来るというネイバーを倒し、三門市を守るということだ。
だが、本格的に三門市を守るのはB級隊員という、訓練を受けてその中でも成績がとても優秀な人たちになってからだと聞いた。
私は病弱な人でもこうして戦いに出れるほど健康になる、ということを示すためになるべく早めにB級隊員とならねばならなかった。
といっても何をすればいいのか?何を使うのか?全く分からなかった私に、上層部は専門の師匠を付けると言った。
その師匠と初めて会うため、訓練室の前へとそのとき私はやってきていた。これからやって来るという師匠はどんな人物なのだろうか?やっぱり上層部が直々に言われてやって来るような人だからすごい人なのだろう、と思いながら待っていると、1人の男性が私の元へとやってきた。
最初はぶっきらぼうな人だと思った。やってきてから特に私に話しかけてくることもなく、お互いに黙り込んでいた。
でも彼は最初から訓練をするとは言わなかった。まずは私と世間話をした。彼は私と同い年の人だった。同い年でも上層部に信頼されるほどの実力を持っていることにとても驚いた。
世間話をしたことでお互いに緊張が解け、笑顔で話すようになった。第一印象とは全く違って優しい人なのだと思った。
しばらくして、彼はいくつかの質問をしてきた。
集中力は続くほうなのか、学校の成績がいいかなど数多くの質問を受けた。
最初は何を聞いているのかと思っていたが、それはポジションの選定に必要なのだと言われた。その後私はどうやら中距離で戦うガンナー、シューターに向いていると言われた。
それからは様々な訓練をした。基本的なトリオン体を使った運動や、悪路走行、隠密行動、敵探知などをまずはした。戦闘がどうこうの前にこれが出来なければダメらしい。
全ての訓練で満点が取れるようになってから初めての戦闘用のトリガーを持った。
今はアステロイドとメテオラ、ハウンドという三種のトリガーがあるらしい。アステロイドは普通の弾丸で威力が高くらメテオラは炸裂弾で、着弾点で爆発する弾丸だ。そして、ハウンドは相手を追尾する弾丸だと聞かされた。
聞いたところによるとハウンドが、戦いやすそうだと思ったけど、アステロイドが使えなければB級になることなど夢のまた夢だと言われた。
だから私もアステロイドを確実に当てる練習をした。
最初は立ち止まっている相手に、続けて動く相手に。そして自分も動きながら当てれるように私はなった。
その様子を見て、彼はネイバーと戦ってみようと言ってきた。
いきなりネイバーと戦うなんてできるはずがないと私は思った。私が武器を手にとってまだまだ時間は経っていなかった。それなのに戦うなんて無謀だと言った。すると彼はこれから戦うのは訓練用のネイバーで、もしやられても怪我もしないから大丈夫だと言った。
それでも心配だった私は、彼に戦ってみてほしいと頼んだ。
彼はすんなりと受け入れ、訓練室へと入った。私はその姿に驚いた。現れたバンダーと呼ばれる私たち三門市民にとって良く知られているネイバーを一瞬にして蜂の巣にしたその姿は、今でも覚えている。なんて鮮やかで、かっこいいんだろうと思った。
その後私も戦うこととなった。彼の戦っていた様子を考えて動いてみた。彼のようには動かないかもしれない。それだとしても彼の動きは洗練されたもので、実際に戦っていく上で参考になると思った。
結果として私は37秒で倒すことができた。
訓練室から出てくると彼は私をとても褒めてくれた。この訓練では1分を切るととても優秀なのだ、と彼は教えてくれた。実感はわかないけど、褒められたことは嬉しかった。
だが、彼が訓練室で倒したタイムは2秒だった。わずか2秒であの大きなネイバーを蜂の巣にしてしまうなんてすごいことなのだと改めてその日に感じたのだった。
それから私はネイバーとの仮装訓練をしながら、個人ランク戦をしていくようになっていった。もちろん、ネイバーと戦うのが私たちの仕事だ。だが実戦で戦えるようになるためには、手の甲のところに表示されているポイントが4000を超えなければならないらしい。
私のポイントは最初2560だった。
普通は1000からのスタートらしいのだが、元のトリオン能力の高さから最初から少しプラスされているらしい。
根付ボーダーメディア対策室長は最初から4000ポイント与えようと言っていたらしいのだが、彼がその意見を一蹴したらしい。
確かにいきなり実戦配備されても私も困っていたと思うため良かったと思っている。
彼と訓練をしながら合間にランク戦をする日々が1ヶ月を過ぎた頃、私は順調に3800ポイントを稼ぐようになっていた。やはり彼の教えは的確で、私はかなりの高確率でランク戦に勝てるようになってきていた。
しかし、この頃になって新しい問題が起こっていた。
それは、『最初から現役隊員に教えてもらっているのだから当然だ』、『少しかわいいからって言って調子に乗ってる』などと陰口を言われるようになっていた。
彼は『羨ましいから嫉妬しているんだ。気にせず自分なりの戦いをすればいい』と言ってくれたが、昔にされていたいじめを思い出してしまうようで私は辛かった。
このような言葉を言われるようになってからというもの、勝率も悪くなり、ポイントも同じところを彷徨うようになっていた。
ポイントが伸びなくなっていった私は焦りを感じていた。もっと勝たないといけない、そう言った考えが余計に自分の動きを悪くしていたのだ、と今では感じる。
しばらくして彼はとある提案をしてきた。『この前出来たばかりの新作トリガーで気持ちを落ち着かせてみたらどうか?』
新しいトリガーを使うということは、ポイントを最初の1000ポイントからのやり直すことになるということであったため、最初は私は拒否した。
しかし、この悪循環を取り除くために私はそのトリガー、『バイパー』を手に取った。
『バイパー』は今までの弾丸トリガーとは一線を画する物だった。自分の指定したコースを思い通りに飛んでいく弾であった。アステロイドでは対処できないコースであろうとも、バイパーではできた。
バイパーは自分ととても合っていた。今まで、どんなに体を自由に動かせたら…、と考えていた私はイメージをする力が優れていたらしい。他にも客観的視点、空間認識能力も必要とされるらしいが、そこも私にはあったらしく、バイパーを扱うようになってから3週間足らずで私は4000ポイントに届くことができた。
正式にボーダー隊員として働くことができるようになったため、私はテレビに出演して、宣伝をしたり、実際に戦闘をするようになっていった。
ボーダーの正式な隊員となってからは忙しい日々だったけれども、これも彼が根気よく教えてくれたからなんだと思っている。
今までは教えてもらうばかりだったけど、今度からは私から教えてあげるね、天谷くん。