世界の引き金を引く者   作:曇天もよう

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この話で黒トリガー争奪戦も終わりになります


宇野 比奈

「お疲れ〜。どうだった?」

 

会議室から少し離れてから迅が天谷に話しかける。

 

「どうもこうもないですよ。よくあんな緊張する空間で堂々としてられますね…」

 

天谷は普段は経験することのないピリついた雰囲気に、正直ヘトヘトだった。先程意見を述べたときはなんとか平常を保っていたが、内心はドキドキしっぱなしであった。そして、今でも少し心臓の鼓動が早く感じられるくらいに緊張していたのだ。

 

「ははっ、そこはまあ実力派エリートですから。天谷にも交渉とかの才能がありそうだから、将来的に俺のポジションを担ってくれたら嬉しいんだけどね?それとぼんち揚食う?」

 

一方の迅は余裕綽々で、いつものことのように笑っていた。さらにいつものようにどこからか取り出したぼんち揚の袋を開け食べ始めていた。

 

「それはしたくない役割なんですけどね。あ、ぼんち揚は貰っておきます」

ヒョイと迅の持っている袋からぼんち揚を拝借しながら天谷は返す。

しかし、普段から暗躍を趣味としている(小南談)らしい迅の後任など、真っ平御免だった。今回の一件だけでもヘトヘトなのに、他のこともやるとなるとどれだけの心労が溜まることか。改めて迅のすごさを身をもって体験したことになったのだった。

 

「あらあら、それは残念。それでも天谷はいずれ上層部の会議とかに将来的に加わる可能性もあるから経験しといた方がいいと思うぞ。少年よ、何事も経験だ!」

 

迅は天谷の方に振り返り、手を開いて言ってくる。

 

「何事も経験は積んだ方がいいですけどね?あんまり経験したくないことではありますけども」

 

「まあ、そういうことだ。これからもいろいろ参加してもらえると嬉しいんだけど?」

 

「分かりましたよ。…と言ってもその回答もどうせサイドエフェクトがそう言ってるんでしょう?」

 

「ご名答。同じサイドエフェクトの持ち主同士これからもよろしく頼むよ、天谷。苦労することはあるが、必ず天谷の将来にも役立つだろうからな」

 

「俺のは迅さんに比べたらまだ副作用が少ない気がしますけどね。協力できる限り、手は貸しますよ」

 

「それは助かる。…おっと、それじゃここら辺で!」

 

十字路に差し掛かったところで迅は俺とは違う方向に行こうとしていた。その方向には仮装訓練室へ向かう道と一部の隊の作戦室くらいしかなかった。

 

「うん?ここでですか?何かこの後あるんです?うちの作戦室でお茶でもしようかと思ってたんですけど」

 

「暗躍…と言いたいところだけど、今回は違うんだな。ちょっと太刀川さんと二宮さんと風間さんがこっちにいるから話しして行くんだ。すまないがお茶はまた今度させてもらおうかな」

 

「それなら俺も行った方がいいんじゃないです?今回の一件はかなり深く足を突っ込みましたし」

 

「いや、天谷はそれよりもした方がいいことがあるからな。真っ直ぐ隊室に帰って、柳本と剣持から話を聞くといいよ」

 

「また意味深なこと言いますね?まあ、迅目には何か未来が見えてるんでしょうから、従いますけど…」

 

「うん、素直でよろしい。それじゃまたな〜」

 

そう言うと迅は手を振りながら歩いて行ってしまった。

迅が言ったこれから起きることはなんだろうか、それを考えながら隊室に向かって歩いていると、後ろから誰かが走ってくる音が近づいて来た。

こんな時間に誰が走っているのかと思い、天谷は振り返るが、その視線の先にいたのは先ほど別れたはずの迅だった。

 

「すっかり忘れてた。話を聞く前に天谷のお土産セットを持っていく準備をしておくといいよ。それじゃ、今度こそお別れだ。おやすみ〜」

 

そう言うと迅は十字路で天谷隊の隊室とは違う方向へ向かって行ったのだった。

 

 

 

 

***

 

「ただいまーってあれ?宇野はどこ行った?」

 

迅の言ったことが一体何を示しているのか、それを考えながら天谷は隊室の扉を開けて中に入るが、中には剣持と柳本しかいなかった。壁に掛けられた時計を見てみると、あれからさらに時間が経っていて22時回ったところであった。流石に時間が遅いので先に帰ったのだろうと一度は思ったが、宇野の荷物が丁寧に机の上にまとめられているので、帰ってはいないようであった。

 

「あ、おかえりなさい。比奈ちゃんはちょっと前に犬飼くんと氷見ちゃんがやってきて、用事があるからって言われたから、二宮隊の作戦室に行ったんだよね。それと、犬飼くんが翔くんにも来て欲しいって言ってたわよ」

 

柳本から宇野がどこに行ったのか簡単に経緯を説明される。どうやら宇野は二宮隊の面々と一緒にいるとのことだ。しかしわざわざこんなタイミングで宇野を連れていくとは何事なのか?

しかし、これは迅が示唆していたことでもあるので、何か宇野の悩みに関することなのだろうと天谷は思った。

 

「分かりました。長く待たせてもあれですし、今からすぐに向かいますね」

 

迅に言われた通り、差し入れ用の「鹿のや」のお菓子詰め合わせとをお菓子の棚から取り出す。それを差し入れ用の紙袋に入れてから立ち上がったところで剣持が大きな声を上げた。

 

「あー!!!あたしが目をつけてたバターどら焼き入りのセット!なんで持ってくの!?あたしが食べようと思ってたのに!!」

 

「いや、新之助これ好物だし、二宮隊に持ってくならこれくらい良いやつじゃないと。それに、犬飼先輩とかひゃみさんの好きなお茶菓子も入ってるし、何よりこれ俺が差し入れ用に買っておいたやつだから勝手に食べていいやつじゃないんだぞ?」

 

「勝手に食べてないし!そこにあったから食べただけだし!」

 

「それを世間一般につまみ食いって言うんだよ」

 

天谷は紙袋を一旦机に置いて剣持にアイアンクローをかける。そうというのも、ここ最近天谷の買って来たお菓子を勝手に誰かが食べていたのだ。とはいえ、宇野や柳本は勝手に食べるようなことはしないため、もともと剣持が犯人としか思ってはいなかったのだが…。

 

「痛い痛い!ギブギブ!!」

 

天谷の握力は強いもので、剣持は暴れて必死に逃げようとするが、天谷が早々と逃がすわけもなく、むしろ力が増していく。

 

「ごめん、ごめんってば!もうしないから許して!」

 

あまりに痛いため、早々に剣持は根を上げて平謝りする。しばらくはどうするか悩んでいたが、これ以上待たせていたらまずいことになるため、ここで一応許しておくことにした。

 

「はあはぁ…酷い目にあった…」

 

「舞ちゃんも勝手に食べたらダメだよ?基本的に買って来た人が食べたりする権利があるんだからね。私の買ってきたものは食べてもいいけど、ダメなものもあるんだからね?」

 

「分かりましたよ…」

 

剣持が肩で息をしながら、頭を抑えていると、柳本が剣持に軽く注意をする。剣持は少しだけふて腐れた顔をしながらも返事をする。普通なら怒られそうなものだが、柳本が優しいため許されたのだった。

 

「今度からは気をつけてね、舞ちゃん。それと…翔くん、今回の会議の方はどうなったのかしら?」

 

「あっ…」

 

剣持に制裁することや、宇野がいなかったことによって、すっかりそのことを話すを天谷は忘れていたのだった。

 

「それがですね…かくかくしかじかで…」

 

「かくかくしかじか?何言ってんの?」

 

「うっさい」

 

ゴツンッ!

「いった!!!」

 

余計なことを言った剣持にゲンコツが振り落とされ、剣持が悶絶してる中、柳本にさも何もなかったように天谷は会議で起こったこと、その結果を説明した。剣持は頭を抑えてのたうち回りながらも話は聞いているようであった。

柳本はその内容に納得したようだったが、剣持は理解できなかったのかしてないのか、黙って頷いているだけであった。

 

「分かったわ。なんとか今回の戦いだけで解決できたようで良かった。これ以上内部抗争にならないようで安心したわ」

 

「ふむふむ、まあ、解決できたならよし!」

 

「本当に理解してんのか?」

 

「理解してますから!」

 

剣持は少し胸を張ってドヤ顔を浮かべる。本当に理解してるのか怪しいところだったが、解決したことだけ理解したようなので追求しないようにした。

 

「それじゃあ、時間も遅いし私は帰らせてもらうわね。舞ちゃんはどうするの?」

 

剣持がドヤ顔してる間に柳本は帰り支度をしていたようで、コートを羽織って、マフラーを巻いていた。

 

「うーん、まだランク戦したいけど、今日は疲れたし、帰ろうかな?亜美さん一緒に帰りましょ!」

 

「分かったわ。待ってるから、帰りの準備整えてね。天谷くんも遅いから気をつけね」

 

「分かりました。お疲れ様です、おやすみなさい」

 

「お疲れ様」

「お疲れ!」

 

剣持は荷物をまとめながらだったが、柳本に続いて別れの挨拶をする。

これ以上犬飼を待たせてもあれなので、先に退出させてもらうことにし、天谷は外へと出たのであった。

 

 

 

 

***

 

 

「こんばんは。犬飼先輩はいますか?」

 

天谷は自分たちの隊室に入るよりも遥かに丁寧にノック、挨拶してから二宮隊の隊室に入る。

これは以前、天谷隊の隊室に入るのと同じように隊室に入ったときに、「礼儀がなってない!」と二宮に厳しく説教を受けたことがあるからだ。それ以来、天谷は二宮隊の隊室に入室するときにとても丁寧に挨拶するようになったのだ。

 

それはさておき、天谷が中に入ると、目的にしていた犬飼と宇野はそこにはいなかった。椅子に辻が座っており、オペレータールームの方に氷見が座っているのが見えた。

 

「ん?翔か。二宮先輩は出かけてるから気楽にしたらいいと思う。それと、今ちょうど犬飼先輩が宇野に指導始めたところだよ」

「天谷くん、荷物は私の椅子の上に置いておいたらいいよ。それと、準備できたらトレーニングルームに来て欲しいって犬飼先輩が言ってたよ」

 

とりあえず、氷見の厚意に甘えて持ってきた荷物を置かせてもらって、トリガーを起動する。瞬時にトリオン体に換装を終えると、持ってきた鹿のやのお土産セットだけ辻の渡しておく。

 

「これバターどら焼きの入ってるやつじゃん!ありがとう!」

「天谷くんありがとう!後でいただくね」

 

バターどら焼きは辻の好物のため、目に見えて嬉しそうな表情を辻は浮かべる。氷見の方もちょっとだけ嬉しそうな顔を浮かべたが、犬飼から指示があったのか、すぐに作業をしていた。

 

「それと昨日任務で新之助が授業から抜けた時のノート持ってきたから、まだ残るなら写しといていいぞ。それと、ひゃみさんの抜けた授業の分も聞いて持ってきてるから、ひゃみさんの分はここに置いておくよ。こっちはまだやらないからゆっくりしてから写してもらったら大丈夫だよ」

 

「ありがとう。今のうちに早速やっておく」

「ありがとう、天谷くん。なるべく早めにやって返すね」

 

そう言うと、辻は早速カバンから筆箱などを取り出してノートを写し始めた。そんな様子を横目に見ながら、天谷はトリガーを取り出して早速起動する。

いつもの隊服に換装し終えると、早速トレーニングルームに走って向かうのであった。

 

 

 

 

***

 

「すみません、少し遅れました」

 

トレーニングルームに入ると、入ってすぐの場所に犬飼と宇野がいた。周りは住宅地を再現した作りになっているようで、家々が連なっていた。

二人は何か話しをしていたようだが、天谷が入ってきたことに気がついた犬飼がこちらに駆け寄ってくる。

 

「お、天谷も来たか。ちょうど宇野について思ったことを今から言おうとしてたところだよ。ナイスタイミング〜」

 

そう言っていると宇野もすぐにこちらは走ってやってきた。

 

「先輩、会議お疲れ様でした。犬飼先輩の方から事態は解決したと聞きました」

「うん、解決したよ。これでいつも通りだ」

 

宇野がほっと一息ついていると、犬飼が手をパンパンと叩いて、注目を集めさせる。

それによって2人は会話をやめて犬飼の方を見つめた。

 

「解決したところで今回宇野ちゃんを呼び出した要件について話そうかな。まず簡単に言うと、宇野ちゃんは戦闘のスタイルとトリガーがあってない気がするんだよね」

 

「スタイル…ですか?」

 

「うん、スタイル。宇野ちゃんは基本的にレイガストを用いた防御をウリにしたスタイルでしょ?」

 

「そうですね。私が入隊の時から使ってるトリガーですし、一番慣れてると思います」

 

宇野は「レイガスト」を選択してボーダー隊員になった。レイガストは他のアタッカー用トリガーと比較すると重く、攻撃性能も低い。そのため、他のアタッカー用トリガー、「孤月」、「スコーピオン」と比較して使用者が極端に低い。

しかし、「レイガスト」は他のアタッカー用トリガーと比較して、耐久性能が高い。その特性を生かした守備的な戦いで着実に勝ちを重ねた宇野は、そのシーズンに加入した隊員で最もポイントを稼いだ隊員、新人王になったのだった。

 

「そうだね。実際レイガストだけで新人王になったくらいだし、その実力はよく分かるよ。けど、宇野ちゃんはハンドガンでの射撃が最近は攻撃のメインだよね?」

 

「そうですね。レイガストを防御に使って、ハンドガンで削るスタイルにしてます。援護をするなら今のスタイルの方がしやすいんです」

 

「うんうん、分かるよ。剣持は基本援護を必要としない単独エース型のアタッカーだし、下手にアタッカーの連携をして剣持の邪魔をしないいい判断だし、中距離エースの天谷の近接ガードができて、尚且つ中距離の援護もできていいと判断だと思うよ」

 

「そうですよ。実際俺も色々助けてもらってますからね。いいと思うんですけど、どこがダメだって言うんです?」

 

犬飼は否定どころか肯定ばかりするので、どこが悪いのかいまいちわからない。天谷も宇野も不思議に思っていると、犬飼は続けて話す。

 

「一見したら悪くないだろって思うだろうね。チームのバランスを取るバランサーとしていいトリガー構成だ。でも、それはあくまでもバランサーとしてはの話だ。問題は宇野ちゃんが一人で戦う時の話だ」

 

そこ天谷はハッと言われたことが分かった。以前宇野はわからないようだったが、気にせず犬飼は続ける。

 

「援護をするためなら何の問題もないトリガー構成も、単体勝負だと違う。宇野ちゃんが一人で戦う時のスタイルは、どっしりと構えて守る普段のスタイルと比べると、機動力を使っての戦いに近い。そうなった時に、レイガストとハンドガンの組み合わせが親和性が低くなるんだ」

 

「なるほど…」

 

「どう言うことですか?」

 

宇野が犬飼に質問をする。すると丁寧に犬飼は答える。

 

「簡単に言えば、レイガストの重さが宇野ちゃんの機動力を低下させてると思うんだよね。C級の時はレイガスト単体でのどっしり構えたスタイルだったから問題なかったけど、新たにハンドガンを加えたことで加わった機動力が相殺されてるんだ」

 

「なるほど…」

 

「その傾向は特に今日の戦いで特に思ったんだよね。レイガストの重さで回避できるものができないから守りながら進まないといけない。それによって使える手段が減ってるんだ。今まではそれでも何とかなっていたけど、B級上位クラスになってくるとその隙を見逃す人は少ない。これが最近調子を落としてた主な理由じゃないかな?」

 

「なるほど。確かに納得がいきました。その他にも何かあるようですけど、何かあるんですか?」

 

「そうだね、宇野ちゃんがレイガストに長けた使い手ってのは話ししたよね?」

 

「はい。舞もそこがいいって言いながら連れて来ましたから、よく分かりますよ」

 

「レイガストの扱いが長けている。その弊害かな、宇野ちゃんはシールドの扱い方が他と比べるとあまり上手じゃないんだ。現に今日の戦いでシールドをほとんど使わなかった。それがもう一つの問題だと思う」

 

宇野はそれを言われて今日の戦いを思い返してみる。確かに自分が覚えている場面だけでも、シールドを使っている場面はとても少なかったように感じられた。

 

「確かにそうかもしれません。私が思い返すだけでもあまりシールドを有効活用できてないと思いました」

 

「やっぱり自分でも分かるくらいってことはそれほどってことだね。レイガストの扱いが良過ぎた故の悩みかな。これについては俺や天谷で教えるよ。撃ち合いでのシールドの教え方は俺が、天谷はそのための射撃練習相手に呼んだってわけ。2人ともやること理解できた?」

 

2人とも納得できたようで、早速距離を取る。宇野はハンドガンを、天谷はいつものようにトリオンキューブを形作る。

 

「まずは見本で俺が見せようか。ちゃんと見ててよね?」

 

その声と同時に犬飼による宇野の特訓が始まり、犬飼と天谷が遅いからと宇野を無理やり家は送り返すギリギリまで行われたのであった。




天谷隊の設定について、少なからず変更点があったので変更させていただきました。今までのものだと少し矛盾が起こる可能性があるので、すみません。
変更したものはまた『天谷隊⓪』に書いていますので、疑問に思われた方は確認ください

そして長く続いた(一時期書いてなかったけど…)黒トリガー争奪戦も終わりです。次回からは冬休み閑話を5話程度挟んで、入隊式、第二次大規模侵攻編と進めていきますので、これからもよろしくお願いします
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