世界の引き金を引く者   作:曇天もよう

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お久しぶりな感じですね
寒さが強くて最近はなかなか朝が辛いです。皆さんも身体の健康にはお気をつけてくださいね

さて、今回は天谷の過去話などについてです。後半はかなり重い話になってますので、お気を付けてください


閑話 冬休み編
天谷 翔④


(今日はやることもないし、本屋にでも行こうかな…)

 

お出かけ用のカバンを肩に下げて、宇野は冷たく冷える空気の中、目的の本屋のあるショッピングモールに向かって歩いていた。ファーのついたコートに暖かそうなモコモコとして服を着て防寒対策はしているが、肌を刺す寒さは強く、吐く息はとても白く鮮明だった。

(今日はとても寒い…。あんまり休みがないとはいえ、今日出かけたのは失敗だったかも…)

 

周りの人たちも急ぎ足で目的地へと向かっているようで、歩くペースが速く見える。宇野も早く本を買ってしまって家に帰って暖を取ろう、そう思って少し歩くペースを上げて急いでショッピングモールへと向かっていると、宇野の知っている人物が先の方を歩いているのを見つけた。

普段は人見知りをよくする宇野だが、人が人なので、無視するわけにもいかなかった。少しだけ深呼吸をして、呼吸を落ち着けてから意を決して話しかけてみたのだった。

 

「お、おはようございます、橘高先輩」

 

宇野は最初の一言を噛んでしまったが、なんとか話しかけることができた。そのことに少し安堵していると、気づいた様子の橘高も近づいてきて挨拶をする。

 

「あら、おはよう、宇野さん。どうしてここに?」

 

「私は本屋に行こうと思ったんです。久しぶりに何もない休みの日なので、小説でも買いに行こうかなと思ったんです。橘高先輩は何か用事があったんですか?」

「私?私はね、明日の夜のための準備をしにきたの。ほら、明日ってクリスマスイブじゃない?」

 

「そう言えば明日ってクリスマスイブですね。明日の夜ということは、橘高先輩はケーキでも予約にきたんですか?」

 

そう言われてみると、明日は12月24日。明日はクリスマスイブだった。ショッピングモールを見渡してみると、クリスマスモード全開で、至る所にクリスマスフェアと称した看板などが存在していた。

 

「ううん、今からケーキ頼んでも予約受け付けてくれないと思うわ」

 

「あ、そうなんですね。すみません、世間知らずなもので…」

 

宇野は箱入り娘として育てられたお嬢様だった。そのため、俗世に少々疎く、そういった類のことがあまり分からないのであった。

最近は積極的に外を出歩いて、こういったことをなくそうとしてはいるが、まだまだ勘違いや知らないことが多かった。

 

「自分で買いに来ないと意外とそういうことは分からないわよね。分かるわ。私も高校生になってそういうことは知ったから大丈夫よ」

 

少しショボンとしてしまった宇野を励ますように、橘高は宇野に言葉をかける。

 

「…そうなんですか?」

 

「ええ、そうよ。今日は明日買うケーキを見にきただけなの。私の両親はあんまり甘いものが好きじゃないからホールのケーキじゃなくて、ショートを好きなものでみんな買うの。だから何があるのか確認に来てたってわけ」

 

「あっ、そうなんですね。自分で好きなもの食べられるっていうのもいいですね」

 

「そうなのよ。いいのがあったから、明日が楽しみなの。それはそうと、宇野さんは本屋に寄った後暇?」

 

「そうですね、本屋に寄った後も今日はすることがないので、適当に散歩して帰るか、本部に寄ってランク戦をするか程度にしか予定もありません」

 

「それなら今お昼時だし、一緒にお昼食べにいかない?」

 

突然の誘いに少し戸惑う。滅多にない誘いだし、見知った人ではあるため、行ってみたいと思うが、持って生まれた人見知りの一面がその誘いに答えるのを躊躇させる。

「はい、いいですか?」ただそれだけのことを言う勇気がなかなか出てこない。何も言えず黙っていると、逆に橘高が気を使ってしまっているようで、何とも申し訳ない気持ちになる。しかし、口に出すことができない。

 

「突然言われても迷惑よね?それに普段あんまり話すことがないし、困らせちゃったね。ごめんなさい」

 

ついに橘高が謝ってしまった。そして帰ろうとし始めている。

ここで断ってしまうのはやっぱりよくない。何とか言わないといけない。そう思った時、別れて帰ろうとしていた橘高に言葉を伝える。

 

「や、やっぱり行かせてください!!!」

 

いつになく大きな声になったことで、周りの人達も突然の声にびっくりした表情を浮かべていたが、何よりも橘高が一番驚いているようであった。

しかし、すぐにいつも通りの優しい顔になって、そんな宇野の言葉を受け止めてくれたのだった。

 

 

 

 

***

 

どこで食べるのか、そのようなことに疎い宇野だったが、橘高が近くにいい店があると言ったので、その店に行くことに決めたのだった。

橘高に着いていった結果、比較的近くにある和食のレストランに着いた。最初はここで本当に良かったのかと、聞かれたが、宇野も和食は好きなので、このお店で決めたのだった。

 

席に座ると、早速手慣れたように橘高は何を頼むのか決めたようだった。宇野もメニューを見て何にするか少し悩んだが、比較的即断即決なタイプの宇野はすぐに決めて早速注文をした。

明るそうな店員が注文を受けて戻っていき、しばらくすると注文したメニューが出てくる。

美味しそうな料理を二人とも美味しそうに食べ、普段の学校生活の話などをして、少し盛り上がる。橘高にとってお嬢様学校である星輪女学院の様子は物珍しいようで、特に興味深そうに聞いていた。

 

料理も食べ終わる頃には、人見知りをしてしまう性格のせいであまり人と仲良くなれない宇野もすっかり慣れていた。多くのことを聞かれていたので、今度は最近気になっていたことを橘高に質問してみることにした。

 

「天谷先輩って昔からあんな感じだったんですか?」

 

橘高は質問を受けると少し昔を回想する。そして、目に浮かんでくる光景を懐かしみ、頬杖をしながらあのにその様子を語り始めた。

 

「そうね、昔から考えることが好きだったわね。本とかを読み耽って、1日を過ごすことも普通にあったと思うわね」

 

「やっぱりそうなんですね。先輩はよく作戦室でも図書館で借りてきた本とか、ランク戦のデータとか色んなものをよく見てる気がします」

 

普段から天谷は宇野の言う通り、よく何かしらの本やデータを見ていることや読んでいることが多い。それは頻繁に見受けられるのだ。

そのため、1日本を読んで過ごしているという昔の天谷の姿は宇野にも容易に想像できたのだった。

 

「確か翔って作戦室にも本を何冊も置いてたわよね?前も作戦室に訪ねさせてもらった時にさんを読んでたわね。でもね、同じくらい話すことも好きだったんだの。多分今よりも昔の方が明るくていろんな人と話ししていたと思うわ」

 

「そうなんですか?でも確かに天谷先輩って交友関係広いですし、色んな方と話してる気がします」

 

「そうでしょう?年上、年下問わず色んな人と仲良くしてる気がするわ。私からしたら羨ましい限りだわ」

 

「分かります。私も話すことがあんまり得意じゃないので…」

 

大きく頷きながら宇野も橘高の考えに賛同する。コミュニケーションをとることが苦手な宇野はあまり友人が多い方ではない。そんな宇野からすれば、友人が多いということは羨ましかったのだ。

友人を増やしたいと思う気持ちはあるが、持って生まれた人見知りのため、あまり自分から積極的に行けない自分をもどかしく思っているのだ。

 

「宇野さんはもう少し勇気を持ってみたらいいと思うわ。今まであまり話したことなかったから分からなかったけれど、こうして実際話してみると楽しいって思えてるわ。もっと笑顔で話すことを心がけてみたら仲良くなれる人が増えると思うよ」

 

「そうですかね…?それならもう少し笑顔で話してみることを意識してみようかな…?」

 

少し宇野は笑顔を作る練習をしてようとする。しかし、普段はポーカーフェイスな宇野が無理して笑おうとしているため、その笑顔はどこか不恰好に橘高に見えてしまっていた。

 

「少し肩に力が入ってるのかも。もっと自然な笑顔をしてみよ?」

 

そう言われて一度深呼吸をしてから笑顔を作ってみる。それを見た橘高の反応を待ってみるが、すぐに意見が来ないため、やはりダメだったのかと思い一人内心落胆していると、予想外の一言が発せられた。

 

「そんな感じだよ!今の笑顔いい感じだったわ!今のは絵のいいモデルになりそう…!」

 

「…えっ…?良かったんですか…?それと絵って?」

 

「あ、絵については何も関係ないの、忘れて?それよりも!今の笑顔はとても良かったと思う!」

 

少し息巻いた様子で今の宇野の笑顔を褒める橘高。そんな様子に少し驚きつつも、良かったと言われたことが嬉しくて少し頬が緩む。

 

「今の笑顔もいいと思う!そんな宇野さんだったらもっと色んな人と仲良くなれると思うな」

 

「なんかすごい嬉しいです。なんだか自信もつきましたし、ありがとうございます」

 

あまりこう言った深い話は親友である照屋くらいにしかして来なかった宇野にとってとても新鮮な経験になったので、感謝の言葉を伝える。

 

「こんなことなら全然普通なことだし気にしないでいいのよ。それに、笑顔が苦手だったのは昔の翔も同じだったから懐かしい感じがしてたの」

 

「そうなんですか?なんだか意外な感じです」

 

宇野からしてみると、天谷は普通になように見えているため、とても笑顔が苦手だったなんて思えなかったのだ。

 

「今でこそ普通に笑うようになってるけどね。でも小さい頃はポーカーフェイスで全然表情が変わらなかったの。それでも、色んな人と接してるうちに自然と表情が出るようになってたわ。表情が出るようになってからの翔を例えるなら、出水くんや米屋くんみたいな感じかな。明るくて活発で…とても信じられないでしょう?」

 

「それは意外です…」

宇野にとって、とても橘高の話でもとても信じられない話であった。比較的冷静な天谷が、元気で活発な姿なんてとても信じれなかった。それこそ正反対な性格にすら見えてしまうのだ。

あまりに信じられないことに、目が点になっている宇野だったが、橘高は続けて話す。

 

「信じられないって顔ね、宇野さん。分かるわよ。私が宇野さんの立場だったら絶対信じられないもの」

 

「はい…とても信じられません…。何か変わるようなことがあったんですか?」

 

その質問をした瞬間、橘高の表情が一気に曇った。

何かまずい質問をしてしまったのかと不安になっていく宇野だったが、そんな宇野に橘高は一つの質問をする。

 

「そうね…宇野さんは『第一次大規模侵攻』の時のことを覚えているかしら?」

 

橘高に言われて宇野も「あの日」のことを思い返してみる。宇野の家族は幸いにしてその日、県外に出かけていたため、被害に遭うこともなく生きることができた。そして今では警戒区域とされている地域から比較的距離があったため、家も無事だった。そのため大きな被害を受けることはなかった。そのため、宇野はかなり運が良かったと思っていた。

しかし、多くの友人が行方不明となったり、死んでしまったということを後から知らされたのだった。そんなことを知らされた時の絶望感、当たり前だと思っていた日常が一瞬にして非日常に変わってしまう恐怖感。そんな苦しく悲しい日だったことは今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

 

「私は覚えています。とても…とても悲しい日でした。ボーダーの人たちが抑え込む頃には雨が降っていたことも覚えています」

 

宇野は避難所の中から外の景色を見ていた。暗い外に暗い雲が広がっており、黒煙が至る所から立ち上っていて、雨が降っていた。それだけでも嫌な予感を感じさせていたのだった。

 

「そう、あの日は雨が降っていたとても悲しい日だったわ。『あの日』、叔父さんと叔母さん…翔のお父さんとお母さんは死んでしまったわ。それも、翔を庇って…」

 

先ほどまでの楽しそうな表情とは違って憂いを帯びた表情で悲痛そうに言葉を紡ぐ橘高。その様子からもどんなに悲惨なことが起きていたのか、想像に易かった。

 

「あの日、私たち家族は無事に逃げることができたの。偶々ボーダーの人たちが参戦した地域に近かったのが大きいと思うわ。そして、すぐに避難所にたどり着いた。あの時はひとまず安心したことをよく覚えているわ。これでひとまず安心だって…思ったことを…」

 

あの日、突然の未知の襲来にどうしていいか分からず、多くの人が行き場に困った。しかし、ボーダーの隊員たちの先導により各学校などに逃げる様に誘導されたのだった。

宇野も橘高と同じであった。とりあえず家を出ようとなったときに、近くをボーダー隊員が通った。そんな彼らの先導により、無事に避難所へ到達できたのだった。

 

「…でも避難所に翔たちの家族はいなかった。お母さんたちは別の場所に避難したに違いないわって声をかけてくれたけど、翔たちが無事なのか気になって仕方なかったわ。そして、私たちが避難してからどれくらい経っていたのかしら…全身ボロボロになって、顔も涙で腫らした翔がボーダーの人たちに連れられて私たちの避難所にやってきたの」

 

「私たちはボーダー隊員の方の「知り合いがいないか?」という声を聞いて急いで確認に行ったわ。でもそこには変わり果ててしまった翔しかいなかった。その時、以前のような姿をした翔はもういなかった。そして、翔は私たちの姿を見るや否や倒れ込んでしまったの」

 

回想で思い出す橘高の脳裏には酷くやつれた様子の天谷の顔が思い出されていた。橘高や、一緒に連れてきた隊員の人が声をかけるも目は虚ろで焦点が合っていなかった。

こんな様子の天谷なんて見たことがなかった橘高はただならぬ様子に悪い予感がしていたのだった。

 

「私の両親は翔の両親のことをその時のボーダーの人に聞いてたわ。私はもう翔を抱えていたから話を聞いている余裕はなかった。その時の翔は酷く冷たく、そして身体中に怪我をしていた。とりあえず近くの負傷者手当の場所に翔を連れて行くったのだけど、その後やってきた私の両親の顔を見て察したわ。もう、叔父さんや叔母さんはいないのだって…」

 

話しをしながら握っていた手が震えているのが宇野には分かった。どんなに悔しかったのか、悲しかったのかが何も言わずとも伝わってくる。

 

「今なら分かるけど、翔ってほら…トリオン能力がずば抜けて高いじゃない?だから狙われていたと思うの。トリオン兵たちに狙われて逃げる中、捕まりそうになった翔を庇って伯父さんと叔母さんが犠牲になってしまった。そんな様子を目の前を見て精神的に限界が来ちゃったんだと思うの…。それが、『あの日』の話。そこから色んなことがあったわ。最初は酷く消耗しているから何をしても喜ばなかったし、感情を示さなかった。言うなれば廃人になってしまっていた感じを想像して貰えば分かりやすいかな。それでも、色んな人の助けもあって、今の翔になったの」

 

「そうだったんですね…全然知りませんでした…」

 

今まで何も知らなかった天谷の過去を今初めて知ったため、驚きが隠せない。自分は幸いにして被害がなかったがもしも天谷に起こったことが自分に起きていたらと思うと身の毛がよだつ。

 

「あっ…ごめんなさい…。こんな重い話をしちゃって…」

 

しばらく沈黙が場を支配していると、話を始めた橘高は謝る。

 

「こっちから話を振ったようなものですから…」

 

同じように宇野も謝る。しかし場の空気は重くなってしまった。

しばらく気まずい雰囲気になってしまうが、ここで橘高が一つ話をする。

 

「…実はね、翔が今のようになったのは剣持さんや亜美、そして宇野さんの影響が大きいの。だから私はみんなにとても感謝してるの」

 

「どういうことですか?私は何もしてない気がしますが…」

 

自分に何かした覚えがない宇野は橘高の感謝の言葉にイマイチ実感がわかない。これが剣持や柳本ならば、付き合いが長いため分かるが、まだ1年程度の自分にそんなことをした覚えはなかったからだ。

不思議そうに首をかしげる宇野。そんな宇野に橘高がその説明をする。

 

「実はね、ボーダーに翔が入ったのは最初は復讐って気持ちがあったと思うの。そんな気持ちを外には出してなかったけど、なんとなくそんな様子は分かってたの。だけど、隊を組むようになってから少しづつ考えが変わっていったと思うの」

 

「それだと私はあんまり関係のない気がするんですが…」

 

「ところが、関係あるのよ。そこではまだゆっくりと考えが変わり始めていったって感じなの。明確に変わったのは宇野さんが隊に加入してからなのよ。翔にとって後輩ができたからいろいろ意識が変わったと思うの。だからみんなにはいろいろ感謝してるの。これからもいろいろ迷惑かけちゃうと思うけど、翔のことをよろしくね」

 

橘高は頭を下げて宇野にお願いをする。そんな急なお願いに最初は戸惑った宇野だったが、天谷隊に加入した時から、みんなを支えるという気持ちは何も変わってないので、もちろん頷く。

 

「ありがとう…!」

 

「そんな、当然のことですよ。私だって色々先輩にお世話になってるんで、支えないと貰うだけになっちゃいます。これからも全力でサポートしますから!」

 

「翔もこんなステキな後輩がいて幸せ者ね。本当嬉しいわ、ありがとう。…あ、もうかなり時間経っちゃってるし、出ましょうか。お会計は私がしておくから気にしなくていいからね」

 

そう言うと、橘高はコートを羽織って伝票を持っていこうとする。しかし、お金を払おうと宇野も急いで財布を取り出すが、ここはお礼として奢らせてと言って聞かないので、大人しくお言葉に甘えさせてもらうことにしたのだった。

宇野は外に出て橘高を待っていると、しばらくして橘高が外に出てくる。奢ってもらったので、しっかりとお礼を言うと、少し照れくさそうに橘高はしていたのだった。

 

 

 

 

 

 




次回は(作者が)待ちに待った那須さんとのクリスマスデート回の予定です
作者がこの二次創作を始めたきっかけは大体が那須さんに関することなので、今からもう次の回を書くのが楽しみなんですよね

上手く表現できるように頑張ります!
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