今回はかなり力入れて書いたので、1万字超えてしまいました。
冬の冷たい風が頬を吹き抜けるクリスマスイブ。雪こそ降ってはいなかったが、通り行く人の吐く息が辺りを白くしていた。
そんな多くの人が行き来する広場の一角にあるベンチ。そこに座っている一人の少女に往来する人たちは目を惹かれていた。
他の女性と比べても華奢な体格。今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気。寒さで少し顔が赤くなっている端正な顔立ちが周囲の人間の注目を集めていた。
(少し早く来すぎちゃったかな…。まだ待ち合わせの時間より20分も早く来ちゃったし…。それになんだかすごく周りの人に見られてるみたいで嫌だな…)
近くの時計は10時40分を指している。少女は待ち合わせの時間を11時にしていたのだが、楽しみの余りに早く来すぎてしまったのだ。 これが普通の日ならまだしも、今日は一段と冷えが強く、待っている者としては早くどこか室内に入りたいと思うほどであった。それに加えて周りからの強い視線。少女は早く待ち合わせの人物と合流してこの場から離れたいと思っていた。
(あと少し…。ドキドキが止まらないよ…)
胸を押さええみると、心臓がドキンドキンッと強く鼓動している。時間が近づくにつれてその鼓動は早さを増して行き、待っている少女もソワソワとして来る。早く逢いたいけど、ドキドキが止まらないそんなドキドキを抑えようと深呼吸をしたりしてみるが、なかなか胸の高まりは止まってくれない。そんなことをしていると、横の方から待ち合わせをしてる人物がついに歩いてやってきた。
「悪い那須、待たせた!」
待ち合わせをしていた人物、天谷が駆け足でやってきた。時計を見てみると50分を指しているため、天谷は遅れてなどいないのだが、着くなりすぐに謝ってくるので、そんなことはないと那須は伝える。
「わ!私もちょっと前に着いたばかりだから大丈夫だよ、翔くん」
「っ!急に大きな声で話すからびっくりした。那須にしては大きな声だね?」
緊張のあまり最初の声が大きくなってしまった。恥ずかしさで伏し目がちになってしまった。そんな那須の姿に少し困った表情を浮かべる天谷。
そんな二人の間に少しの間気まずそうな雰囲気が漂っていたが、しばらくすると、この沈黙に耐えられなくなった天谷が話を切り出す。
「今日は突然誘ったのにすまん。しかし、出かけることになったけど、本当に体調は大丈夫なのか?無茶してないよな?」
「うん、今日は家でゆっくりするくらいしか予定はなかったから大丈夫だよ。それに、お母さんや病院、ボーダーにも外出することは伝えたし、トリオン体でいるから大丈夫だよ」
普段は身体が弱いため外出がほとんどできない那須だが、今日は両親やボーダー、病院に許可を取って外出していた。実を言うと久しぶりになる本当に自由な外出。それだけでも嬉しいものであったが、今回は自分の気になる天谷からの誘いもあって余計に楽しみだったのだ。
「それなら良かった。それにしても寒いし、早く暖かいところに行った方が体調的にもいいかもな。それになんだか周りの人たちがめっちゃ見てくるし…」
ボーダーの中でも有数の美人とされる那須だが、その特殊な入隊事情により、テレビに出ることもあった。そのため、多くの市民からその存在を知られている。
そんな那須が男と待ち合わせしているとなって周りの男たちから天谷に向けて羨望や嫉妬の視線が向けられていたのだ。しかし、そんな事情を知らない天谷はなぜそんな視線を向けられるのか気づいていない様子であった。
「そうだね。最初は雑貨屋に行きたいんだっけ?すぐそこにあるから行こう!」
最初の目的地の雑貨屋は待ち合わせ場所から目と鼻の先の距離なので、二人は足早にその場を後にして雑貨屋に入っていくのであった。
***
「こんなマグカップなんてどうかな?」
「うーん、こっちの方が女子は喜ぶかも。こっちの方が柄があって可愛いと思うよ」
「イマイチこういうのは分からないや。でも那須が言ってくれるんだし、これにしとこうかな。それに色も何色もあってみんなで分けて使うのにも良さそうだしいいかも」
そういうと、天谷は自分の手に取っていたマグカップを商品棚に戻して、那須のオススメしてくれた花の描かれたマグカップを4つ買い物カゴの中に入れる。
「あとは何を買うつもりだったっけ?」
「次は取り皿を買おうかなって思ってるんだよね。えっと…あっちこな?」
天谷が次に向かうコーナーの場所へと先導して歩いていく。その横を那須が付いて歩いていく。
今回雑貨屋にやってきた主な理由、それは天谷隊の作戦室のマグカップや取り皿などを買い足しにきたのだった。元々天谷隊のメンバーのマグカップは常備されていたが、誰かが作戦室に遊びにきた時用の物がないことに気づいた天谷は買っておこうと思ったのだった。
しかし、天谷はこの手の物を選ぶセンスが皆無だと従姉妹の橘高に昔から言われ続けてきた。実際、天谷は無地のものなどを好むため、自分でもセンスはないと思っているため、自覚はしていた。
しかし、自室のものであるので、剣持や柳本、宇野それに橘高などと買いに行こうかと思ったのだが、三人ともすでに予定が埋まってしまっていたのだ。
困った天谷だったが、そこで白羽の矢が立ったのが那須だったのだ。あまり外に出かけることが出来ない那須だったので、流石にダメかと思ったが、意外にも食い気味に行きたいと言われたので、今回の話がまとまったのであった。
「皿って一括りに言ってもいろんな種類があるなー。機能面とかしか気にしないからこういう時に困るんだよな…」
話をしながら移動して、皿の売っているコーナーにやって来ると、そこには様々な柄の施された皿が陳列されていた。まずはお互いに分かれてどんなものがあるのか物色していたが、こういったものに疎い天谷にとってどれが良いのかイマイチ分からず、とりあえず近くにあったものを手にとって見比べをしてみるが、どれがセンスのいいものなのかわからない。
どちらでも変わらないんじゃないかとさえ思えてしまっているのと、いいものが見つかったのか、那須が手招きしていたので、那須の方へ向かって行ってみる。
「これとかどうかな?お菓子を取り分けるときにいいと思うよ」
那須が紹介してくれる皿の中でとりわけ天谷が気に入ったのは、皿の中心に様々な模様の描かれたものであった。様々なデザインのものがあって、どれにしようかと話し合ったが、結局那須が選んだものに決めたのだった。
***
欲しかった食器も無事に買うことができ、ボーダー本部への郵送の手続きもした二人は、昼に二宮に教えてもらったおしゃれなレストランで食事をしたのだった。そして、二人は食事を終えると今度は作戦室に置いておくお菓子を買いに「鹿のや」に向かっていた。
「鹿のや」は今いる場所から離れた場所に立地しているので、二人はいろんな話をしながら向かっていた。学校での話、勉強の話などを話していると、反対側から歩いてきた剣持とその母親と出くわしたのであった。
「あれ!翔と那須さんじゃん!偶然だね!何してるの?」
剣持は天谷と那須を見つけると、すぐに走って駆け寄ってきた。そして、いつものように朗らかに話しかけてきた。
「剣持さんおはよう。私たちは買い物に行ってたの」
「ん?舞じゃん。俺たちは作戦室の雑貨を買いに行ってたんだよ。そんで、買い終わったから鹿のやにお菓子でも買いに行こうとしてたところなんだよ」
そんな剣持に那須と天谷は二人同時に説明をし始める。話を聞き終えると納得したようで何度も縦に頷いていた。そうしていると、後ろからゆっくり歩いてきた剣持の母親が合流したのであった。
「あら?翔くんじゃない!久しぶりね!こんなところで偶然ね!」
「あ、おばさんこんにちは。偶然ですね」
「本当そうよね!またうちに来てね。ご馳走するから!それにしてもこんなところでどうしたの?」
猛烈な勢いで話し出す剣持の母親。その勢いに完全に置いてきぼりを那須は受けていた。
顔自体は剣持と似ているようには感じなかったが、その話す時のマシンガンのような勢い、話している時の姿勢や表情などはこれぞ親子と思えるようであった。
「また機会あれば行かせてもらいますよ。俺はこっちにいる那須と一緒に買い物をしていたんですよ。これから鹿のやに行こうとしてたところです」
そんなマシンガントークを気にもせず話す天谷。そんか天谷は二人の勢いに押され気味で困っている様子の那須を自然に紹介する。
「は、初めまして、那須玲と言います。よろしくお願いします」
那須も紹介されたので、丁寧にお辞儀をして自己紹介をする。
そんな様子をまじまじと剣持の母親は見つめていた。そんな視線に少々もどかしさを覚えながらも反応を待っていると、剣持が話しかける。
「買い物ってなんで那須さんと行ったの?柳本さんとか比奈ちゃんは?」
「それが二人とも予定入ってるからダメって。それで、俺が仲良くしてて、こういった買い物をするときに楽しんででそうなのは誰か考えた時に思いついたのが那須だったってわけ」
「あー、なるほどね!那須さんなら確かにセンスよさそうだし、いいの買えたんじゃない?」
「そりゃもちろん。色々アドバイスしてもらって買ったよ。郵送で届くようにしてるから、明後日には見れるからな」
褒められたこと、そして一緒に買い物をしてて楽しいって思われていたことに少し照れくさく感じ、髪の毛をくるくるといじって視線を逸らしている那須。そんな那須の様子を見ていた剣持の母の目がキランと光ったような気が天谷にはした。
直感的に嫌な予感が天谷の脳内によぎった瞬間、天谷の予想通り剣持の母は口角を少し上げながら爆弾発言をしたのであった。
「ところで翔くん、いつになったら舞と付き合ってくれるのかしら?」
その瞬間、仲良く話しをしていた3人の口が一斉に止まり、静寂が空間を支配する。
そしてその言葉を全員が理解した瞬間、各々がそれぞれの反応を示したのだった。
「…は?」
「そんな約束あったっけ?」
「つつ…付き合うっ…!!??」
天谷は剣持の母のいつもの様に人をからかっていることに気づいていたため、何かしてくるとは思っていたが、思わぬ方向性の嘘のため驚いて言葉が出なくなっていた。
対して剣持は純粋にそんな話があったのかと疑問に思っていた。自分の記憶をたどってそんな話があったのかを思い出そうと腕を組んで考えていたが、そんな話をされた記憶は思い浮かばなかった。そのため、不思議そうな顔を浮かべていた。
そして、この突然の剣持の母親の言葉を間に受けてしまったのが那須であった。言葉を聞いて以降顔がどんどんと紅潮していき、慌てた様子でテンパっていた。
そんな三者三様の様子を面白がりながら、剣持の母親は続けてからかいにかかる。
「あら、翔くんは舞の許嫁だもんね?早く付き合ってくれないと私は安心できないんだけどな?いつになったら安心させてくれるのかしら?」
ケラケラと笑いながら話し出す剣持の母。そんな様子に呆れて溜息をついている天谷だったが、剣持はついに思い出すことができなかったのでそんな話があったのか問うことにしたのであった。
「母さん、あたしそんな約束されてたっけ?そんな記憶覚えてないけど?」
頭の上にハテナマークを浮かべたような表情聞く剣持。そんな気づいていない様子の剣持に、剣持の母は騙す様に言葉を意気揚々と並べる。
「あんたはすぐ記憶力が低いから忘れてるだけよ。ずっと昔に翔くんのご両親と約束したんだから。ねえ、翔くん?」
「うーん…そんな話しされたっけ?記憶にないけどなぁ…」
相変わらず楽しそうな笑みを浮かべながら嘘を並べる剣持の母。言われたものの、違和感によって頭を唸らせる剣持だったが、そんな剣持は放置して天谷が呆れた様子で話し始めた。
「はぁ…おばさんはそうやってすぐに人をからかいたがるんだから…。そんな嘘をついて何が楽しいんです?」
「あら、翔くんには通じないのね。残念だわ。こうして反応を見るのが楽しいのにね?」
嘘をついてもあっけらかんとしている剣持の母にさらに溜息をつく天谷だったが、その言葉を聞いていた剣持が嘘だと知って、顔を少し赤くしながら急に迫ってきた。
「また母さん騙したの!?これで何回目よ!?」
「うーんとね、数えきれないかしらね?」
「ひどい!娘のことなんだと思ってるの!?」
剣持が文句を言っているにも関わらず、「悪い悪い」と適当に返しながらけらけらと剣持の母は笑っている。そんな母に、剣持は何を言っても無駄だと思ったのか諦めて項垂れてしまった。
天谷はこの間那須が何も話さないのでどうしたのだろうと思って振り返ってみると、顔が紅潮していつもの那須らしからぬ様に慌てているようであった。
「ん?那須?どうした?」
普段は冷静で物静かな那須にしては珍しい慌てた様子にどういうことか困惑している天谷。そんな天谷の疑問に思っている様子も気にならないようで、那須は慌てて話し始めた。
「あっ…いや…その…翔くんと剣持さんがそんなご関係なんて知らなかったから…」
話しを聞くに、那須はどうやら完全に剣持の母の嘘に騙されてしまっている様であった。さらに何故か翔と目を合わさずに、さっきからずっと目線が下の方を向いてしまっている。それにどこか落ち込んでしまっている様にも天谷には見えた。
このままだと話が進まない上に、剣持の母がずっと笑っていそうな気がしたので、天谷は那須の誤解を解くことにした。
「あー…那須、今の話は全部嘘だ。剣持の母さんは人をからかうのが好きなんだ。だから、今の話は全部作り話なんだよ」
「えっ…本当…?翔くんと宇野さんって許嫁じゃないの!?」
ずっと下の方を向いていた那須が少し食い気味にこちらに近づいてきて肩を掴んで話を聞いてくる。
先ほどまでの落胆している様な様子からの突然の那須の変わり様に少々驚かされながらも、それを証明するために剣持にも嘘だと言ってもらうために話を聞く。
「あぁ、本当だよ、なあ舞?」
剣持は母に騙されたことに不貞腐れて、地団駄を踏んでいたが天谷に聞かれたので、天谷の方に歩いてきて天谷の話を肯定する。
「本当だよ、那須さん。あたしの母さんはこうやってすぐに嘘をついて人があたふたしたりしてる様子を見て楽しむんだから!第一、あたしは翔のことタイプじゃないし、もしも仮に、万が一だよ?告白されても絶対に断るから!」
「なんかそれはそれで俺に失礼じゃね?」
「別に翔だしいいでしょ。無礼講って感じで!」
幼馴染故に特に天谷も意識したことなどなかったが、そこまで強く否定されるとやはり傷つくものがある。天谷が内心傷ついていたのだが、そんなことも意に介さず剣持は天谷との関係について否定していた。
「ごめんなさいね、那須さん。からかっちゃって」
「い、いえ、大丈夫です…。少々驚かされましたが…」
しばらくすると、騙した張本人の剣持の母が那須に直接謝罪しにやってきた。内心つかれた嘘が嘘なのでちょっと思うところが那須にもあったが、表面上は意に介していないという様にしておく。
「ふふっ、信じてたみたいでからかい甲斐があったわ。応援してるわよ、貴女の気持ち。翔くんにいつか伝えられるといいわね。でも翔くんは鈍感だからちょっとのことじゃ気付かないから、もっと積極的に行かないとね?」
「えっ…?」
「それじゃ、二人とも楽しんでね〜」
そんな言葉を残して剣持の母親は、剣持を連れて嵐のように去って行ってしまったのであった。
そして、残された二人は呆然としていたのだが、那須は隠していた想いをすんなりと看破されたことでようやく顔から引いていっていた紅潮が一気にぶり返してきたのであった。
***
「今日は1日付き合ってくれてありがとう。色々買い足すことが出来たし、1日楽しかった」
「私も楽しかったよ。翔くんと休みの日に出かけたことなかったから最初は緊張してたけど、途中からもう楽しくて仕方なかったよ」
陽はすでに山の向こうへと姿を消しつつあり、二人の後ろに伸びる影は辺りの暗さに同化し始めていた。
買い物を全てを終えた二人はゆっくりと帰路についていた。予め持っていた天谷のカバンには今日買ったものがいっぱいに詰められていて、そんなカバンを満足そうな顔で見つめながら話す天谷。
そんな嬉しそうな天谷の姿を和やかな表情で見つめる那須。そんな那須の視線に気づいたのか、天谷が振り返って那須の顔を見つめ返す。
自分が見つめていたのに、いざ自分が見つめられると気恥ずかしさが全身を駆け巡り、那須は視線をそらしてしまう。そんな那須の顔は今まさに沈みゆく夕陽のように紅く染まっていた。
そして、しばらく黙り込んでしまった那須を気遣って黙って歩く天谷。しばらくの間カラスが鳴く声のみが閑静な住宅地に響いていた。
そんな中歩いていると、ついに那須の家が視界に見えてきてしまう。楽しかった時間が終わりを告げるように太陽も山の向こうへと消えてしまっていた。
「わざわざ送ってくれてありがとう。楽しい時間ってあっという間だね」
家の門の前に着くと那須は振り返って天谷に家まで送ってもらったことを感謝する。
「付き合ってもらったんだし、当然のことだよ。それに俺も那須と一緒に出かけられて嬉しかった。俺たちって普段は戦ってるけど、普通の高校生なんだよな。すっかり忘れちゃってたわ」
「ふふっ、そうだね。私たちって普通の高校生だもん。休みの日は友達と遊びに出かけたくなるし、戦いの合間に他愛もない話をしたりする。それに勉強だってしないといけないもんね?」
「勉強のことは触れたくないな…」
勉強の話となると少し天谷の目が泳いでしまった。実はこの前の期末試験の英語の成績があまり良くなかったのだ。そのため、英語の課題が担当教員から特別課題を出されていたのだ。
「翔くんは英語のテストがあんまり良くなかったんだよね?」
「ああ…特別課題出されちゃったし、次のテストは挽回しないといけないんだよな…」
それを話す天谷の顔は少し暗い。天谷は比較的勉強ができる方だが、英語だけは例外なのだ。そのため、英語に限ってはあまりしたがらないため、このようになってしまっているのだ。
そんな天谷の顔を見ていた那須は一つの提案をする。
「明後日の防衛任務終わりに一緒に勉強するのはどうかな?確か翔くんたちも明後日は朝からのシフトだよね?」
天谷はそう言われると、自分のスマートフォンの予定帳を確認する。確認すると、朝からの勤務になっていて、その後も予定が入っていない。それなので天谷も喜んでその提案に乗ることにした。
「一緒にしてくれたらこちらとしてはめっちゃ嬉しい。那須の説明って分かりやすくて、課題が早く進むんだよな」
「そんなことないよ。翔くんの理解が早いからだと思うよ?」
那須はそんなことはないと謙遜する。しかし、素直に褒められたことが嬉しかったらしく、少し髪の毛を左手の人差し指でいじっていた。
「あっ、もう遅くなっちゃったし、翔くんも帰らないといけないだろうし、またSNSで話そう?」
「それもそうだな。ちょっと寒くなってきたし、那須も疲れてるだろうしな…ってあっ!ちょっと待って!」
帰るようなそぶりを見せていた天谷が何かを思い出したように自分のカバンの中をごそごそと探し出す。
しかし、買ったものが多すぎるせいで、目的のものがなかなか見つけられないらしく、しばらくの間その目的のものを探していた。
「うん…?どうしたの?もしかして何か買い忘れた物でもあったの?」
なかなか見つからない様子から、買い忘れをしたのかと那須は思ったが探している様子からどうやら違うらしい。一体何を探しているのだろうか、そう不思議に思いながら目的の物が見つかるのを待っていると、ようやく見つけられたようで、カバンの中から綺麗に閉じられた袋を天谷は取り出したのであった。
「はい、これ。今日1日ずっと付き合ってくれたお礼と、クリスマスプレゼントなんだ。大切に使ってくれたら嬉しいな?」
突然の天谷からのプレゼントに驚く那須。驚きのあまり声が出なかったが、天谷からの渡されたプレゼントを受け取ると、意外と大きさの割に重さがない。一体何が入っているのか気になっていると、天谷が何を買ったのか言い始めた。
「ほら、ちょっと前に、学校に行った時に膝下が寒いって言ってたから、膝掛けを買ってみたんだ。ちょっと薄く見えるけど、凄くあったかいやつだから、大丈夫だと思う。那須がどんな柄を好きなのか知らなかったから、俺のセンスで買ったけど、どうかな?あんまりいいデザインじゃないかもしれないけど…」
天谷も少し照れくさそうに顎を手で触りながら那須に説明する。実は那須との今日のデートが決まった時に、お礼として買いに出かけていたのだった。
あまりこういったものを買うことがない天谷はかなり悩んだのだったが、悩んだ末に今那須に渡した膝掛けを選んだのであった。
「これって前に少し世間話で話したことだけど…覚えててくれたの?」
「この時期女子は寒くて大変ってよく言うし…少しでもそれがなくなったら…って思ったんだ。気に入ってもらえると嬉しいんだけど…」
「もちろん嬉しいよ!大事にするね」
少し前に話しした些細なことを覚えていてくれたこと、そして、天谷がわざわざ自分のために買ってくれたことが那須にとって何よりも嬉しかった。
手に持った袋を少しぎゅっと抱きしめながら感謝の言葉を伝える。
「…あれ?もう一つ小さな袋が入ってる…。これは何?」
膝掛けの入っている袋の中にもう一つ小さな袋が入っていることに気がついた。何だろうと思って取り出してみるとそこから出てきたのは、今日の昼に訪れた雑貨屋の包み袋であった。
「今日雑貨屋に行ったときにそのストラップをしきりに見てたから、トイレに行ってる間に買っておいたんだ。今日手伝ってもらったお礼と思って受け取ってほしいな」
那須は言われてその時のことを思い出す。確かに那須はとあるストラップのことを見ていた。テレビなどで紹介されていたもので、普段はそういったものを見ても食指が動かないのだが、物がものであったため、気になっていたのだった。
しかし、値段が少々高かったこと、そして、そのストラップがペアストラップで、意中の相手に渡すと恋が成就すると言われていたものであったが、それを買っても天谷に渡す勇気がどうしても出なかったので諦めたのだった。
そんなストラップを天谷が買ってくれたこと、それは神様がくれたチャンスだと那須は思った。けれども、そんな意中に思っているなんてことは今の自分じゃとても言えないとも思った。
「ありがとう、天谷くん!ところでね、このストラップって仲のいい友達と分け合ってお互いに使うといいって言われてるやつなの」
「確かにペアストラップみたいだな。黒地のやつと白地のやつで対照的になってるし、そうなのか。那須は誰と分け合うんだ?やっぱり熊谷?」
言えないからこそ、仲の良い友達に渡すものだと那須は咄嗟に嘘をついた。今はまだ言えないけど、いつかは必ず伝えたい。そう思いながらも、天谷に不思議に思われないように話を続ける。
「くまちゃんとも分けたいけど………」
「…けど…?」
「もしも良かったなら、翔くんと分け合えたら嬉しいな…って。受け取ってくれるかな…?」
途中から恥ずかしくて下の方を向いてしまったが、黒地に青の星があしらわれたストラップを天谷に向けて渡そうとする。もう一つは白地にピンク色の星があしらわれているため、女性向けなので必然的にそちらが男性向けになっているのだ。
「本当に俺でいいのか?そうなら俺は嬉しい。那須に仲がいいって思われているのはとても嬉しいんだ」
そう言って那須の手からストラップを受け取る。そして、それを嬉しそうな表情で見つめていた。
そんな天谷の表情を見ていると、那須な方も嬉しくなってきた。
そんな那須にもう一つお願いしたいことが出てきた。それはずっと奥手で一歩が踏み出すことができなかった那須にとってとても勇気のいることだったが、この流れに乗って言えなければもう2度と言い出すことなんでできないと思ったため、一気に言ってしまう。
「あのさ!その…私って、ほら…翔くんのことを下の名前で呼んでるよね?だけど、翔くんって私のことを苗字で呼ぶじゃない…?」
「うん、確かにそうだな。けれど、それがどうしたんだ?」
呼び止められた理由が分からず不思議そうな顔を浮かべる天谷。そんな天谷に那須は今出せる限りの勇気を振り絞って天谷にお願い事をする。
「私だけ下の名前の呼ぶのって変な気がするから…翔くんも私のことを下の名前で呼んでくれたら…嬉しい…んだけど……どう…かな…?」
精一杯の勇気を振り絞ってお願いする那須。しかし、勇気を振り絞ったにも関わらず、後から気恥ずかしさが全身を襲ってくる。恥ずかしさの余り語尾がドンドンと小さくなってしまう。
そんな羞恥心によって下を向いて遂に黙ってしまった那須。しかし、天谷が話す。
「寧ろ俺が下の名前で呼んでもいいのか?ほら、女子の名前を呼ぶのってあんまりこう…あれじゃん?」
天谷の方も少し照れくさそうに話しているのが那須にはわかった。天谷は本当に照れくさい時には左手を頭に当てて話す癖があるのだが、今まさにそうしていたのだ。
「確かに普通の人なら嫌だけど…翔くんなら普段から仲良くしてるし…それに…」
「それに?」
「…うんうん、何でもないよ。翔くんはちょっと特別なだけ。だって色々こうやってお話しするし、ボーダーでも教えてもらってるし…。お世話になってるから!」
自分の今言えるだけの想いを那須は精一杯伝える。言っているときに顔がまた熱く火照っているような感覚がしたが、なんとか言い切ることができた。
「那須がそう言うのなら……玲、これからもよろしくな」
そんな那須の様子に少し釣られてか、天谷も少し気恥ずかしそうに小さくだが那須のことをした名前で呼んだのであった。
「…うん、よろしくね、翔くん」
こうして、二人のクリスマスデートは終わったのだったが、那須は自室に入ると、想い人に初めて名前を呼んでもらえた嬉しさ、そして恥ずかしさでベッドの上でしばらくの間で悶えていたのであった。
実はもうワンシーン書こうと思っていたのですが、流石に長すぎると思ったのでカットしたんですよね。それでも平均文字数の倍以上になってしまいましたが…
それと、那須さん英語とかの文系科目得意そうだから教えてもらいたい…
次回は別作品を書いてたから出す予定なので、また遅れてしまうかもしれませんので、予め伝えさせていただきます