「………という事で、一つ目の特異点へのレイシフトの準備が整ったとのことなので、早速出発しようと思います」
ファーストオーダー終了から約一週間経ち、いよいよグランドオーダー………人理修復への第一歩が今まさに踏み出されようとしている。
カルデアスのある管制室には私を含めた出撃メンバーが揃っている。
制御室ではオペレーターや職員が忙しく動き回っているのが見てとれる。
『……え~、藍華君、聞こえるかい?』
「聞こえてますよ、ドクター」
管制室のスピーカーからドクターの声が聞こえてくる。
『まずは、現地に到着したら霊脈のある所に冬木の時と同じようにサークルを設置してほしい。
そうすればこちらからの援助もしやすくなるし、君の意味消失も高確率で防ぐことが出来る』
「前回と同じくですね、分かりました」
他の英霊の皆はサークル設置後に召喚されるらしく、まずはマシュとそれぞれのコフィンに入る。
『アンサモンプログラム スタート………
グランド オーダー 実証を開始します』
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「━━━━レイシフト、成功したみたいだね」
「そうですね、先p……いえ、マスター」
「……………………………」
軽い浮遊感を覚え、目を開けてみると私は広大な草原に仰向けで寝ていた。
青い空には、形を変えながら流れていく雲と白銀に光り輝く円環が浮かんでいた。
隣を向くとマシュとミカが同じように寝ていた。
「マスター、そろそろいいかね?」
「ん……ごめんねエミヤ、少しぼーっとしてた」
「なに、気にする事はない」
「それよりも何にもないですねぇ、民家どころか人っ子一人見えませんよ」
立ち上がって振り返るとエミヤとめぐみんが周囲を見回しながら近づいてきた。
その奥で変身後のマリアさんが白い装束についた草を払っている。
どうやら全員揃っているようで安心した。
「さてと、まずは前にもした拠点づくりをしなきゃだよね?」
『そうしてくれ、サークルが設置できれば此方からの支援がしやすくなるし観測も安定する。
なるべく大きな霊脈の上に設置してほしいね』
「分かりました、みんな行こっか!」
事前に貰った資料によれば今は百年戦争の休戦時期のようだから、いきなり鉛玉や砲弾が飛んでくることもないそうだ。
…………でもそれは正史の常識であって、この特異点では通用しないのかもしれない。
それも踏まえて移動する必要もある。
「とりあえず、まずは人探しからだね。そこからこの時代にある聖杯の所在を突き止めないとね!」
「でもマスター、こんなに広い草原を見渡しても人影が全くないわよ?」
「所々に丘陵もあったりしますので相当移動しなければいけませんね」
「私疲れるの嫌なので、マスターさんおんぶして下さい」
約一名ほどサーヴァントとは思えない発言をしたのもいるけど、確かに人影が全くと言っていいほどない。
「エミヤ、遠くの方に人影とか見える?あの丘の方とか」
「残念だか、木陰で穏やかに寝ている野兎の親子しか私には見えないな」
「…………………なんかいる」
ふと、これまで話しに入って来ないで寝ていたミカが声を出した。
そしてそのまま起き上がって北東の丘の向こうを指差してからこっちに向き直った。
「あっちの方に並んで歩いてる奴等がいる」
「ミカ、そんな事分かるの?」
「………何となく」
「何となくですか、マスターひとまず三日月さんの示した方角に行ってみましょう」
ミカを先頭にして北東の丘陵に向けて私達は歩き出した。
下は短い草が生い茂っていたけどそこまで苦にはならなかった。
これからの戦闘での役割を話し合ったり、それぞれの思い出話を順番に聞いたり、背中に乗ろうとしためぐみんの眼帯をスパーキングさせたりしながらとりあえず丘陵を越えた。
すると目の前には1本の道に隊列を組んで歩いている甲冑姿の団体を見つけた。
「あ、アレかな?ミカが感じ取ったのは」
「本当にいたとはな……あの距離で地形の影にいる兵士たちに気づくとは、凄まじい索敵能力だな」
「そう?普通でしょ?」
「取り敢えずあの人達に聞き込み調査でもしてみようか」
「マスター、フランス語話せるんですか?」
痛いところを突かれてしまった、流石は我が後輩。
フランス語なんて習ったこともないし、そもそも海外旅行(カルデアを除く)なんてものにも言ったことないし。
英語に関しては平均的な成績だし、そもそもここで英語って敵国語なんだよね?
下手したら即打首?
「分かったわ、マスターはちょっとここで待っててちょうだい」
「マリアさんフランス語喋れるんですか?」
「私……こう見えても国家エージェントだから」
そう言ってマリアは変身を解いて兵士たちの方へ歩いていった。
遠目から見ているといきなり現れたマリアさんに兵士たちが各々の武器を突きつけた。
しかしマリアさんが話しかけ始め、次第に彼等も武器を下ろし互いに会話をし始めた。
暫くしてマリアさんが兵士たちに手を振りながら戻ってきた。
「おぉ、流石国家エージェント」
「自分で言ってはみたけどそこまで大それたものじゃないわよ。
それでだけど、彼等から聞いた話だと今このフランスは戦争の真っ只中らしいわ」
「……それは妙だな。この時代、ジャンヌ・ダルクが既にイギリスに引き渡されたならこの戦争は粗方終わっているのではないか?」
「そうなのだけど、なんだか話によるとそのジャンヌ・ダルクが邪竜を率いて蘇った、との事らしいわ」
『ジャンヌ・ダルクが蘇った』
普通なら有り得ないはずの出来事、死者が生き返ることなんてこんなに大昔ではまず考えられない。
そうすると、恐らくそのジャンヌ・ダルクの一件には聖杯が絡んでる可能性が高い。
「マリアさん、それで蘇ったジャンヌ・ダルクは今どこにいるって?」
「どうやら、オルレアンの城に大量の竜種と共に君臨しているそうよ。
中でもとてつもなく強大な竜種がいて手出しができないらしいわ」
「マスター、どうします?
その城ごと我が爆裂魔法の餌食にスイマセンスパーキングダケハヤメテクダサイ」
よろしい、しかし一筋縄では行きそうにないなぁ。
今のメンバーだと消耗戦になると不利になる一方だし、でもその強大な竜種ってのがどんなものかも分からないんじゃ━━━━━━
「━━━━━━━━来る」
『愛華君、今すぐ戦闘に備えてくれ!高速で接近してくる神秘の群れがそこに迫ってくるよ!』
ミカとドクターの警告を受けた数秒後に兵士たちが慌て始め、東の空を指差し始めた。
地平線の彼方から空を背に黒い影が何十も飛んでくる。
色は緑に赤に黒と色とりどり、しかしいずれもが鋭い双眸と牙、長い尾、そして大きな翼を広げて飛翔してくる。
『ワイバーンだ!』
「エミヤとマリアさんは兵士たちのフォローに行って!
マシュとミカは私と、めぐみんは待機で!」
「先程から私の扱いが酷すぎませんか!」
「つべこべ言わずに動いた動いた!」
群れは此方に六割、兵士たちの方に四割ぐらいに分かれて飛んでくる。
マリアさんとエミヤが駆け出すと同時に腰に差してある、前もってエミヤに投影して貰った莫耶を構える。
右手には左手で持った莫耶の強度と切れ味を付与して、顔の横で構える。
「マシュ、守りは任せた!ミカはなるべく相手の翼を狙ってね!」
「分かりました!
マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!」
「わかった」
ミカの撃つ拳銃の発砲音を背に低空飛行している一匹の噛みつきを身体強化した敏捷性で躱し、柔らかそうな喉元に莫耶を振り下ろす。
エミヤ製の武器はそのまま喉元を一文字に切り裂き、ワイバーンがバランスを崩して地面に叩きつけられるようにして沈む。
上空にいる何匹かのワイバーンにミカの射撃が命中し、暴れながら高度を下げてくる。
そこへマシュが盾の縁を脳天に叩きつけ、地面に沈める。
うん、我が後輩ながらアグレッシブ。
「よし、このまま押し切るよ!」