ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
文化祭当日、俺は自分の高校の授業が終わると(土曜は午前のみなのだ)昼飯も食わずに音ノ木坂学院へ向かった。
天候は生憎の弱雨である。
校門には紅音と翠音、亜里沙ちゃんがいた。
雪穂ちゃんはもうすぐ来るそうである。
悪天候でも3人とも新曲が聴けるとルンルンの表情だ。
μ'sのライブは今日土曜が13時と15時の二回、明日の日曜は11時と13時の二回の予定である。
日曜は更に後夜祭などもあるため、俺は日曜13時の公演後にステージを速攻で片付けて、16時までに音ノ木坂から撤退する予定となっていた。
本日13時のライブはもうすぐである。
俺達は傘を持って屋上に上がった。
雨だというのに観客は結構集まっていた。
ただみんな傘を差しているので後ろの人は見難いと思われる。
少しステージを高めにして正解だった。
紅音と翠音、亜里沙ちゃんはステージすぐ前の開いている所を確保したようである。
俺はステージに上がるための階段が雨で滑らないかチェックするため、階段脇に陣取った。
先ほどまでは傘なしでもまあ行けるかな?というような雨だったが、少し強くなって来たようだ。
傘に当たる雨が音を立てるようになっていた。
ステージ後ろのμ'sの旗も、雨で湿って重く揺れている。
マジでやるのか?・・・板の段差もあるし滑ったら危険だから、今日は15時の回まで様子見るべきではないか?
そう思っているうちに、拍手と少々の歓声とともにμ'sメンバーが登場した。
いつの間にか雪穂ちゃんも来ている。
俺の作ったステージへ、9人が次々に駆け上がって行く。
今回の衣装は1,2,JumpのPVの水着を意識したのかどうか不明だが、全員がへそ出しであった。
黒か白のトップスに色とりどりの刺繍が入ったチュニックを合わせ、同じく白いミニスカートに黒とパーソナルカラーの刺繍、同色のリボンが付いた白いニーソが合わせてある・・・これはかわいい。
ただ水着とあまり変わらないこの衣装、夏ももう終盤で今日は雨・・・寒くならないかと少し心配になった。
若いし鍛えているし、これから熱く踊るのだ・・・そう思って、俺は心配を一瞬でどこかへ追いやってしまった。
全員が横に並ぶと、いよいよ新曲「No brand girls」からライブスタートである。
(スクフェス「No brand girls」プレイをおすすめ!)
正直俺は、1,2,Jumpより気持ちのいい曲が聴けるとは思っていなかった。
・・・本当にすみません。
軽快なギターの音色から始まり全員で「いっしんいっちょう!」の掛け声で踊り始めた曲は、この雨を吹き飛ばすに充分と思えた。
雨は降っている・・・むしろさっきよりも強く。
だがそれが気にならないほど、俺はこの曲にのめりこんで行くのだ・・・それが自分でも判る。
この曲は集まった全員の心の雨を吹き飛ばし、掛け声をかけて観客も盛り上がれるものだと確信した。
紫音「おーいぇい!」
思わず俺は声を出していた。
これ、観客全員で大声で一緒に叫んだら、楽しいだろうな!
μ's「ぜんしんぜんれいっ!!」
曲が終わろうとしている。
セットした髪は雨で皆のおでこに張り付き小さくなってしまっているが、キレのあるダンスは狭いステージでも、全員が大きく動いているように見えた。
次の曲なんだろう?
最後は全員で中央に集まって決めポーズを取った。
俺はこの瞬間まで、本当に次の曲に向けてわくわくしていたのだ。
中央の穂乃果ちゃんがステージに倒れこむまでは。
全員の前で穂乃果ちゃんは受身となるような手も付かず、そのまま雨水で濡れたベニヤ板に倒れた。
頭を打ったかも知れない。
倒れるのはまるでスローモーションのようにゆっくり見えたのだが・・・俺が彼女を受け止めるには、ステージの上は遠すぎた。
海未「穂乃果!」
絵里「穂乃果!大丈夫!?」
ことり「穂乃果ちゃん!!」
雪穂「お姉ちゃん!!」
絵里「!!すごい熱!!」
海未ちゃんとことりちゃんが穂乃果ちゃんを起こす。
朦朧としているようだが意識は何とかあるようで、二人が両脇に入り、穂乃果ちゃんを階段の方へ、つまり俺の方へ連れてきた。
階段はイスが一個だ・・・3人並んでは降りられない。
俺はまず3人を座らせ、穂乃果ちゃんのおでこに手を当てた。
うおっ!体は冷えてるのに額は恐ろしいほどの熱さだ。
俺は周りを見た・・・男は俺しか居なかった。
俺がやるしかない。
紫音「雪穂ちゃん、お母さんに電話!凛ちゃん花陽ちゃんはタオルをありったけ持ってきて。海未ちゃんとことりちゃんは穂乃果ちゃんの着替え!真姫ちゃん、保険室まで俺を案内して!」
俺はステージ端に座り込んでいる穂乃果ちゃんをそのままお姫様抱っこした。
紫音「絵里先輩、中断してすみません!あとお願いします!!」
絵里先輩は俺を見て頷き、観客に向けて言った。
絵里「すみません、メンバーにアクシデントがありました・・・」
にこ「続けられるわよねえ!まだあきらめたりしないわよねえ!!ねえ!!」
俺はにこ先輩の悲痛な叫びと絵里先輩の声を後ろに聞きながら、穂乃果ちゃんを抱っこし屋上の入り口まで走った。
ちなみにお姫様抱っこというのは、本来女の子が男の首に手を回し自分の体重の半分を男の背筋が支えるようにする事で、手だけでかっこよく持てているように見える。
しかし今の穂乃果ちゃんには、ほぼ意識がなく、俺に掴まる事ができない。
穂乃果ちゃんの体重はおそらく45kg前後、俺はもうすぐ70kgという所だから腕だけで彼女を持って俺が直立することはできない。
横から見るとY字型になるようにそっくり反って重心を腰で支える事が必要だ。
俺はそっくり返った大変かっこ悪い姿勢で走り、なんとか屋上の入り口に辿り着いた。
しかしそこでハタと気が付いた。
穂乃果ちゃんをお姫様抱っこしていては前が見えず、階段は下りられないのだ。
紫音「穂乃果ちゃん、穂乃果ちゃん、おんぶにするよ、一回立てる?」
穂乃果ちゃんはやはり意識が朦朧としているようで、返事はなかった。
心配そうに凛ちゃんと花陽ちゃん、ことりちゃんと海未ちゃんがこちらを見ながら追い越し、階段を下りていく。
真姫ちゃんと紅音に手伝ってもらい、俺は一旦穂乃果ちゃんを降ろし、前に回りこんで階段に腰掛け、穂乃果ちゃんを背負った。
衣装は大量の雨を吸い込んでいた。
背負った途端、ぐっしょりと背中が濡れていくのが判った。
紅音「お兄ちゃん、大丈夫?」
真姫「紫音さん・・・気をつけて」
紫音「何とか、やってみる。悪いんだけど、俺靴のまま階段下りるから、紅音は掃除してくれるか?真姫ちゃん、ゆっくり案内お願いします」
俺は穂乃果ちゃんを背負い慎重に階段を下り始めた。
もし滑ったら、俺の人生も穂乃果ちゃんの人生も、終わってしまう。
一段一段、ゆっくりと踏みしめ俺は階段を一階まで下り切った。
保健室の前にはいずれもびしょ濡れのμ's1年生、2年生が集合していた。
ことり「穂乃果ちゃん・・・」
花陽「穂乃果ちゃん・・・」
俺は保健室の中に穂乃果ちゃんを運びパイプ椅子に座らせた。
ベットに寝かせる前に全身を拭く必要がある。
紫音「俺が手伝えるのはここまでだ。全部服脱がせてよく拭いて、暖かくしてあげて。あと穂乃果ちゃんが終わったらキミらも全員体拭かないと、風邪引くよ。じゃあ俺行くね」
俺が居たらいつまでも穂乃果ちゃんは着替えられないのだ。
凛「しょー兄ぃも!体拭いて!風邪引くにゃ!」
海未「紫音さん、助かりました」
その声を聞きながら、俺は片手を上げて振り返らずに保健室を出た。
保健室の前で息を整えていると、紅音がモップを持ってやってきた。
紫音「おお紅音、すまないな、掃除させちゃって。ありがとな。お前かわいいからモップも似合うぞ」
紅音はモップの柄で俺の腹を小突きながら言った。
紅音「もう!制服でモップが似合う女の子なんてどこにいるのよ!そんな事言ったって一つ貸しなんだから!大体お姫様抱っことかカッコ付けすぎよ!私だってしてもらった事ないのに」
やっぱりちょっと機嫌悪いな。
紅音「今日は文化祭当日だから男子もどこを歩いてもいいけど、お兄ちゃんびしょ濡れだから歩くと迷惑よ。一回帰るしかないわね」
ううう、確かにそうだ。
手元にあるハンカチとティッシュだけでこの濡れは拭けない・・・かといって着替えもないから帰るしかないか。
どうせ15時からバイトである。
紫音「紅音、雪穂ちゃんに保健室の場所を教えて、穂乃果ちゃんのお母さんが保健室に来れるようにしておいてくれ。あと翠音には先帰るって言っておいて」
そういい残し、俺は一旦屋上に戻った。
ライブは中止となり屋上はガランとしていた。
音響関係、照明の電源を次々と切り、ステージにブルーシートをかける。
捨てるとは言え一応は借り物、水を吸った畳は色々と問題が出る事が予想された。
しかし畳の問題なんて、穂乃果ちゃんが出られずライブが中止になる事に比べれば、どうでも良い事だ。
明日はどうなるのだろう?俺は心配しながら実家に帰り、風呂に入ってからバイトへ向かった。
■□■
バイトが終わって携帯を見ると大量のメールが届いていた。
μ'sメンバーからの感謝のメールである。
内容はほぼ一緒で、穂乃果ちゃんを運んだ事についてだった。
倒れた時に足をひねったらしく、意識を回復した後も穂乃果ちゃんは歩けなかったらしい。
確かに女の子だけで、意識のない穂乃果ちゃんを階段で下に降ろすのはキツイに違いない。
弓道できちんと筋トレをして、足腰と大胸筋を鍛えておいて良かった・・・。
俺はみんなのメールに穂乃果ちゃんの回復を祈る内容と、明日はとりあえず予定通り文化祭に行くと書いて返信した。