ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
銀座線の列車が浅草に着くと、俺は海未ちゃんを促してホームに降りた。
かなりの乗客が一緒に浅草で降りたので、混雑の割りには降りる苦労は無かった。
紫音「結構混んでたね。大丈夫だった、海未ちゃん?」
海未ちゃんは・・・なんだかわなわなと震えていたが、周りの乗客を見て俺の腕の裾を引っ張り歩き出した。
紫音「ごめんよ海未ちゃん・・・なんか怒ってる?」
改札を抜けると海未ちゃんは背伸びし、俺の耳元に口を寄せ小さな声で言った。
海未「どうして電車内であんな恥ずかしい事を言うのですかっ!!恥ずかしくて死ぬかと思いました!!」
紫音「え?だって海未ちゃん、俺が褒めていいか聞いたら頷いたから・・・恥ずかしかったんだ・・・ごめんね。でも普通、褒められたくてお化粧するんじゃないの?」
そう言うと海未ちゃんは立ち止まり、涙目で頬を膨らませていたが、また俺の耳元で、小さい声ながら叫ぶように言った。
海未「違います!これはことりが勝手にしたんです!それにあなたに褒めてもらっても・・・その・・・」
海未ちゃんは一旦踵を下ろし、もう一回背伸びして言った。
海未「とにかく!私を褒めても、それであなたの評価が変わったりしないんですよっ!だいたいあなたは私だけでなく出会う女の子を皆、褒めるじゃないですかっ!わ・・・私がかわいいとか・・・信用できません!」
なるほど・・・俺は少し考えて言った。
紫音「じゃあ他の娘を褒めないで、海未ちゃんばっかり褒めたら・・・俺が海未ちゃんの事を本当にかわいいと思ってるって、信じてくれる?」
海未ちゃんは・・・拗ねと恥ずかしさの中間くらいの表情だろうか・・・だが怒っているのは間違いない。
海未「し!信じません!だいたいあなたの周りには私よりかわいい子がいっぱいいます!そうやって私をからかって・・・絶対に後で私を笑いものにするんです!」
紫音「え~・・・そんな事一回もしたことないのに・・・とにかく信じてもらえるまで、俺はキミを褒めるからね」
俺がやけになってそう言うと、海未ちゃんは更に意地になったようだった。
海未「!!わ、わかりました!あ・・・あなたこそ、私をく・・・口説こうとしてるんですねっ!残念ながら私を褒めても・・・あなたを好きになってなんか、絶対にあげないんですからっ!!」
その言葉で俺は海未ちゃんの考え方の一端を理解した気がした。
紫音「海未ちゃん判った。俺が海未ちゃんを褒めると怒る理由が判ったよ!俺がナンパ師みたいな男で、色々な女の子に声をかけて遊んで、飽きたらその娘を捨てる男だと思ってるんでしょ?」
海未ちゃんは黙って俺を睨みつけている。
紫音「それだったら穂乃果ちゃんや凛ちゃん、ことりちゃんもにこ先輩だって、俺の事あんなに慕ってくれたりファン兼スタッフとかにしないと思うよ?そこは、キミにだけは信用して欲しい」
そう言うと海未ちゃんの視線が、幾分力をなくしたように見えた。
紫音「まあ他人より自分の評価が大事だと思うけど、紅音がいる学校の女の子にさすがにそんな事できないよ。紅音が学校に行けなくなるから」
さすがにこの理論は理解したのか・・・また海未ちゃんは下を向いてしまった。
紫音「じゃあこの話はこれでおしまい!さあ行こうよ!」
海未ちゃんを促して歩き始める。
地下鉄ホームから地上へ出る通路と階段は狭く横並びだと迷惑なので、俺達は前後に並んで歩いた。
後ろを歩く海未ちゃんがいつの間にか怒って帰りそうな気がして、俺はちらちらと後ろを振り返りながら歩いた。
地上に出る間際、海未ちゃんを振り返った際に階段の曲がり角で、何かが慌てて引っ込んだような気がしたが、暗くて良く判らずそのまま地上へ出た。
休日の浅草はやはり混雑している。
観光、修学旅行と思しき人が多く、外国人もたくさんいる。
俺としては雷門で海未ちゃんの写真を撮りたかったが諦めた。
俺達は浅草寺の仲見世通りに並ぶ商店を、二人で順々に見ていく事にした。
紫音「浅草ってさ、日本に帰ってきてからずっと来たかったんだけど、こういう所好きっていうか分かる人が俺の周りに居なくて・・・それで今日は海未ちゃんに教えてもらいたくてさ」
俺はそう言って海未ちゃんを振り返る。
なんだか海未ちゃんのテンションは低空飛行である。
俺達は穂むらで見るような模様の手ぬぐいの店や、千代紙の店から覗き始めた。
千代紙の店では様々な形の折り紙や紙風船があり、鶴すら折り方があいまいな俺は感心し、思わず海未ちゃんに声をかけた。
紫音「海未ちゃん、これすごいね。俺、折り紙にこんな折り方があるなんて全然知らなかったよ・・・海未ちゃん、折れるのある?」
海未ちゃんは並んだ折り紙を見た。
海未「そうですね、花陽の方が折り紙は得意ですが、私もこの中の半分くらいは折れます」
紫音「うっ・・・すげえ。教えてもらいたいものだねえ~以前話したと思うけど、俺アメリカに居た時、日本人なのに日本的な事全然分からなくて」
海未「私で良ければ・・・指南しますよ」
紫音「やった!じゃあ次の店!え~っとこれは・・・招き猫?すごい派手な色使いで綺麗だね~」
次の店では木を削り漆や朱で絵付けされた招き猫や、着物を着た人形や風鈴、独楽などが飾られている。
海未「そうですね、招き猫です。職人の手で色を付けるものはやはり印刷のものと違い風情があります」
そう言われても、俺にはどれが印刷の商品かは、まるで判らなかった。
その次は扇子、団扇の店だ。
紫音「えっとこれは扇子、だよね?俺の家、夏のお祭りで配られた団扇しかないけど・・・すっごい綺麗な扇子がたくさんあるね!どうして大きさが違うのかな?」
海未ちゃんは一瞬の遅滞もなく即答し始めた。
海未「扇子には種類があります。こちらの壁にあるのは一般用で持扇と言います。紫音さんが買うなら男性用で大きいものです。このサイズが女性用ですね」
さらに海未ちゃんの手が店の奥の方を指す。
海未「あちらに飾られているのが舞扇で日舞で使います。稽古用のものと舞台に上がる時のものがありますね。その隣が仕舞扇と言い、能や狂言の舞台で使われます」
しまった・・・ついていけない。
紫音「へ~!扇子って畳めるから持ってあるくのは良いなと思ったんだけどね・・・え~と俺が買うとしたら、どれだっけ?」
海未「デザインの良し悪しもありますが、やはり骨も要も扇面も手作りな物を使って頂きたいです。大量生産品は壊れやすいですし・・・私のものを差し上げましょうか?自宅にはたくさんありますので」
紫音「え、いいの?やった!!じゃあ次の店へ・・・」
次の店は漆器の店でいわゆる重箱のような漆塗りの箱が並び、とんでもなく美しい模様が入っている。
紫音「海未ちゃん・・・これすごい綺麗な箱だね・・・俺の顔が映り込んでるよ。あとこの虹色の模様は何なの?」
海未「これは漆器の装飾の中で螺鈿という技法のものです。虹色のところは夜光貝などの貝を嵌め込んで作ります」
ひゃああ即答かよ・・・さすが日舞の家元の娘・・・ここでは知らないもの、なさそう。
俺は綺麗な箱を眺める振りをしながら横目で、漆で塗られた箸をしげしげと見ている海未ちゃんの横顔を見た。
海未ちゃんのほうが、店に並んでいる目の細い日本人形より、よっぽどかわいいと思った。
その時、俺達がいる店の並びの店で、妙な動きをしている一団がいるのに気が付いた。
11月に入ってだいぶ経つのに、その一団はサングラスをかけマスクをしている。
まあ確かに白人は色素が薄く日本の11月の日ざしでもサングラスをかける人がいるけど・・・あの娘たちは明らかに日本人だ。
あっ!!と俺は思い至った。
紫音「ね!海未ちゃん海未ちゃん、ちょっとこっち来て!」
俺は海未ちゃんに声をかけ、店に陳列されていた手鏡(裏に螺鈿で蝶がデザインされている)を手に取った。
俺は海未ちゃんにその鏡を持たせ、耳元で囁いた。
紫音「海未ちゃん、振り向いたらダメだよ。この鏡の裏のデザインを見る振りして、鏡で二軒隣のお店にいる娘を見てごらん?」
俺は海未ちゃんが持っている鏡を海未ちゃんの手ごと握り、二人で裏のデザインの話をしている風に角度を変えた。
海未「ちょ・・・紫音さん、は、恥ずかしいです・・・あっ!!」
海未ちゃんも鏡に映った妙な一団に気付いたようである。
紫音「判った?あれ、穂乃果ちゃんと凛ちゃんと・・・希先輩だよね?あと花陽ちゃんも後ろにいるかな?」
海未「あの子たち!・・・文句言ってきます!」
紫音「おっと、海未ちゃん待って。俺に考えがあるよ。もう少しこのままにしよう?」
海未ちゃんは俺の事を見上げ・・・こくっと頷いた。
しかし・・・尾行には向かない4人である。
穂乃果ちゃんと凛ちゃんはせっかく用意したサングラスとマスクがほとんど役に立っていない。
店に並ぶかわいい雑貨をいちいち手にとってあ~だこ~だとはしゃぎ、そのついでに俺と海未ちゃんを見ているようだ。
希先輩だけが俺達の動きと穂乃果ちゃん凛ちゃんの動きを把握しているが・・・ミニスカートと巨乳でモデルのようなスタイルのため目立ちまくっている。
花陽ちゃんは仲見世通りに人が多いため俺達と凛ちゃん達の両方を見るのが大変らしくあたふたしている。
(スクフェス 高坂穂乃果SR<ハロウィン編>未覚醒 参照)
(スクフェス 星空凛UR<星座編>未覚醒 参照)
(スクフェス 小泉花陽SR<星座編>未覚醒 参照)
(スクフェス 東條希SR<星座編>未覚醒 参照)
4人ともめっちゃかわいい服着て・・・それなのにあのサングラスとマスクは、センスない。
サングラスとマスクはおそらくにこ先輩の指導なのだろうが・・・それは時に、ハズレの場合がある。
俺と海未ちゃんはその後も江戸切子の店、和太鼓や笛の店、三味線の店、雷おこしや人形焼き、芋羊羹や各種だんごの店を順々に見ていった。
海未ちゃんはそのすべてに精通しており・・・俺としては非常にありがたいのだが、何か買ってあげようとしても・・・海未ちゃんが欲しがりそうな物には出会えなかった。
後ろの4人は(特に穂乃果ちゃんと凛ちゃん)はもう顔を隠すのを忘れ、明らかに楽しみに入っている。
確かに海未ちゃんは(特に俺に何か説明している時の海未ちゃんは)平素と変わりなく見え、穂乃果ちゃんも凛ちゃんも安心しているのだろう。
ちょっと悔しい。
だが俺の作戦時刻は刻々と近づいていた。
俺達は仲見世通りを一往復し、色々な店を覗きながら雷門を出て左折し隅田川の方へ歩いてきていた。
20メートルほど開けて、4人もついて来ている。
吾妻橋の交差点で向かいのビルの上にある例の金色の物体を見た後、俺は時間調整のため海未ちゃんと墨田公園を川沿いに上流方向へ歩き始めた。
海未「あの・・・紫音さん?どこに向かっているのです?墨田公園でお弁当を食べるのですか?」
紫音「ううん。違うよ。海未ちゃん、もうちょっとあの娘達を引き付けたいから・・・もう少し俺と歩いてよ」
のんびりと公園の横の道路を、海未ちゃんと先ほど見た綺麗な漆器やガラス工芸品について話しながら歩く。
しばらく歩いた後、俺は携帯の画面で時間を確認した・・・そろそろ頃合だろう。
紫音「海未ちゃん、じゃあそろそろ作戦決行だよ。俺と一緒に走ってくれる?」
海未「はい?走るってどこへです?」
紫音「じゃ行くよ!」
俺は海未ちゃんの返事を待たず、彼女の右手を自分の左手で握り、手を引いて走り始めた。
墨田公園の中に入り、吾妻橋へ戻る方向へ走る。
穂乃果ちゃんの焦った声が聞こえる。
穂乃果「あっあの二人、手を繋いで走り始めたよっ!」
凛「にゃ~~っ!!どこへ行くにゃ!!」
ふはは、もう遅い。
俺は海未ちゃんと水上バスの乗り口まで走り、乗船が始まった列の一番後ろに並んだ。
花陽「判りました!あの二人、お船に乗るつもりですよっ!」
希「あちゃ~!しもた~やるなあ紫音くん!」
休日の水上バスはなかなか人気の乗り物であり、チケットを買ってすぐ乗船という事はできない。
俺は今朝早く起こされたので、海未ちゃんとの待ち合わせ前にこの時間の乗船チケットを買っておいたのだ。
俺は海未ちゃんの手を握ったまま列に並び、ヒールのある靴を履いている海未ちゃんの乗船の際にも、手を引いて助けてあげた。
船のデッキに立ち、俺は海未ちゃんと並び墨田公園で悔しそうな顔をしている4人に手を振った。
紫音「海未ちゃん!ほら!!手を振って!」
海未「紫音さん・・・あの・・・は、恥ずかしいです・・・手を放してもらえますか?」
紫音「あ、ごめん・・・気付かなかった。俺、妹と一緒の時はいつも手を繋ぐから・・・」
俺は急いで手を放し、もう一度4人に手を振った。
あれ、希先輩、いつの間にかカメラ構えてるぞ。
穂乃果ちゃんはミニスカートなのにガニ股で片足をどんどんと地面に打ち付けている。
紫音「ねえねえ海未ちゃん、あの穂乃果ちゃんってさ、地団駄踏んでるって言うんでしょ?俺地団駄踏んでる人を生で見るの、初めてだよ!」
俺がそう言うと顔を赤くして下を見ていた海未ちゃんは顔を上げ・・・なんだか今日初めて、おかしそうに笑ってくれた。
かわいい。
穂乃果ちゃん、ナイス地団駄!サンキュ!
海未ちゃんも手を少し挙げて4人に小さく振った。
次に会った時の穂乃果ちゃんと凛ちゃんの反応が恐くもあり・・・楽しみでもある。