ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
俺達は隅田川両岸の景色を眺めながら、しばらく船のデッキに居た。
紫音「海未ちゃん、今日晴れて良かったね!なかなかこういう景色見られないもんね・・・海未ちゃんはこの水上バスって初めて?」
海未「はい、初めてです。浅草にはクルマや電車で行きますので・・・。この船・・・水上バスはどこまで行くのですか?」
紫音「う~ん内緒にしておこうかと思ったけど、いずれバレるもんね。俺達はお台場まで行く予定だよ」
海未「お台場、ですか・・・その・・・お弁当は・・・?」
紫音「ふふふ~任せなさい」
不安そうな海未ちゃんに微笑みかけ、俺は海未ちゃんを促してデッキから船室に降り、空いている座席に座った。
窓側に海未ちゃんを座らせ、その隣に座る。
俺達は隅田川を下流に向かって進んでいるのだが、上流に向かう水上バスにはやけに低い、宇宙船と温室をミックスしたようなデザインのものがある。
紫音「ねえねえ、あの船すごいデザインだねえ・・・乗りたい」
海未「聞いた事があります。あの船は銀河戦艦大和や宇宙鉄道999の原作の漫画家のデザインです」
うっそ~海未ちゃん即答!?
紫音「・・・う、海未ちゃんすっげ・・・そんな事も詳しいんだね・・・さすが。もしかしてアニメヲタク?」
海未「・・・小学生の時に町について調べるという企画で勉強したんです!もう!変な事言わないで下さい!」
海未ちゃんはぷいっと窓の外を向いてしまった。
俺は窓に映る海未ちゃんの顔と、美しい黒髪を両方じっくりと眺められる素晴らしいポジションに自分が居る事に、今更ながら気付いた。
出会った頃は背の中ほどだった海未ちゃんの黒髪は、ウエストのくびれに届きそうなくらい、長くなっている。
この長さでこの美しさを保つのはどれだけの手入れが必要なのだろうか・・・想像もできない。
ことりちゃんの髪も同じくらい長さがありしかも量が海未ちゃんより多いから・・・やめよう。
ことりちゃんの事は今日は考えないようにしよう。
海未ちゃんの髪に触ってみたいが・・・殴られる要素満載なのでそれもやめるか。
そうだ・・・俺はちょっとふざけてみようと思い、海未ちゃんの頭からベレー帽を取った。
そして自分で被ってみる。
海未「ちょっ!!わ、わたしのですよっ!返して下さい!」
俺は腰に手を当て、海未ちゃんの口調をモノマネして言ってみた。
紫音「穂乃果っ!いい加減にして下さい!書類の整理が先ですよっ!もう!だらしがないのはダメですっ!」
海未ちゃんは顔を赤くして口をぱくぱくしている。
紫音「はっ恥ずかしいですっ!見ないで下さい!・・・どう?似てる??」
海未「もう!紫音さん酷いですっ!私はそんなしゃべり方しません!ほ、本気で怒りますよっ!」
紫音「もう怒ってるじゃ~ん!」
ああ~このセリフ言ってみたかったんだよ!俺も穂乃果ちゃんと同じくらい海未ちゃんと仲良くなりたいから・・・。
海未ちゃんは両手をグーにしてぽかぽかと殴りかかってくるので、俺は笑いながらベレー帽を返した。
ベレー帽の匂いをかぐのは・・・冗談でも止めたほうがいいだろう。
頭に取り返したベレー帽を被ってそのまま手で押え、涙目で俺を見ている海未ちゃんは・・・猛烈にかわいい。
紫音「ごめんよ海未ちゃん、ちょっとからかってみたくなっちゃって。そのベレー帽、ホントかわいいよね。俺が被ってもかわいかった?」
海未「・・・す、少しだけ似合ってました!でもかわいくはないです!あのものまね・・・憎たらしい!」
紫音「はは、俺のほうがベレー帽似合うからって、そんなにへこまなくていいよ、師匠!弟子は師匠を見てモノマネからスタートするんだよ」
海未「!!・・・師匠をからかう弟子は破門です!!男の子って!すぐいたずらして!」
紫音「いやまあ、いたずらに関しては穂乃果ちゃんに比べれば俺は全然少ないほうだと思うけどね!」
本気で怒らせない程度に海未ちゃんで遊んでいると、船内アナウンスが次の桟橋への到着を告げた。
浜離宮恩賜庭園に到着である。
恩賜庭園は入場料を取るので、公園というより施設と言ったほうが正しい。
初めて入ったが・・・確かにこれはお金を取られるのも仕方がないと思った。
素晴らしい景観である。
東京の紅葉は遅く、まだ色づいている木々は少ないが・・・樹木は丁寧に手入れされ、花壇には秋桜を始めとした秋の花が咲いている。
この香りは・・・金木犀だろう。
庭園から東南を見れば東京湾がキラキラと光を反射し、大小の船が行き交っている。
北西を見れば摩天楼というにふさわしい、青いガラスが美しい高層ビルが立ち並び、首都高速がビルの間を縫って走っている。
紫音「さすがに・・・すごい景色だね・・・じゃあお弁当を食べようか。歩きながら座るところを探そうよ。あ、海未ちゃんトイレ大丈夫?」
俺は海未ちゃんをトイレに行かせ、ついでに自分も用を足し飲み物のペットボトルを買った。
買い終わった頃、ちょうど海未ちゃんが戻ってきた。
海未「お待たせしました・・・あっ、飲み物まで買って頂いたのですか・・・乗船券に庭園の入場料まで出して頂いているのに・・・私が払います」
紫音「おっと~いいんだよ海未ちゃん、これはデートなんだから・・・俺に出させてよ・・・」
デートと言ってからしまった、と思った。
また海未ちゃんは俺を睨んでいる。
紫音「あっ!ち違った。え~と今日は俺の誕生日会に皆の代表として来て下さった海未様に、お金を出させるわけには行きませんよ~あはは!」
海未ちゃんはまだ睨んでいる。
紫音「だ、だってさ!俺の誕生日会に来なかった人は、俺の行きたい所に連れまわされずに済んだでしょ?来てくれた海未ちゃんだけお金出すのはヘンだよ!」
自分では、そんなにド下手な言い訳じゃないと思うのだが・・・。
海未「・・・いいえ、やはりそれは少し違うと思います。その・・・わ、私達はその・・・お、お付き合いをしているわけではないのですから・・・出してもらうのはおかしいです」
誰が経費を出すかでこれ以上揉めるのは得策ではないと判断した俺は、一旦折れた。
紫音「そっか・・・じゃあ判ったよ。とりあえず座って食べながら話そうか」
ちょうどお昼を過ぎたくらいで人も割と多かったが、俺達はうまく海が見えるベンチに腰を落ち着ける事ができた。
俺はトートバッグを海未ちゃんに返す。
海未ちゃんがバッグから色々と取り出している横顔を見ると・・・俺は急激な空腹を感じた。
良く考えたら朝、パン一個だった。
海未「何から食べますか?花陽のおにぎり、私のサンドウィッチ、凛の卵焼きとポテトサラダ、真姫とにこの唐揚げとコロッケ、絵里と希のボルシチがあります。穂乃果とことりはデザートです」
紫音「うっひゃ~すげえ・・・。じゃあもちろん、海未ちゃんのサンドウィッチから・・・」
海未「な!なぜですか!!だ、ダメです。ここは私の一存で、花陽のおにぎりと致します。新米ですよ!」
あらら・・・まあいいか。
トートバッグの中から、海未ちゃんの顔くらいある大きなおにぎりが出てきた。
ラップには花陽ちゃんのバースデーカードが付いていた。
花陽カード「紫音さん、お誕生日おめでとうございます!いつも私達を助けてくれてありがとうございます。かっこいいです。紅音ちゃんや翠音ちゃんも含め、これからもよろしくお願いします!小泉花陽」
紫音「おお・・・花陽ちゃん・・・いい娘だなあ・・・いただきます!」
俺は豪快におにぎりにむしゃぶりついた。
海未「紫音さんの分は大きいので、具は3箇所に入っているという事でした」
いや、腹減ってるからうまい!具は何だろう?
その時俺の口が、花陽ちゃんがおにぎりに埋めた一個目の具のカケラを捉えた。
紫音「う!!うごっ!!ぐおお・・ぐふっ・・・う~~!!」
海未「え?紫音さん??どうしたんですか?何かおかしな所がありましたか?」
吐き出すのも・・・さすがにここは恩賜庭園という事もあるので・・・俺は泣き出しそうになりながらなんとか口に入れた分は飲み下した。
ぐええ・・・うう~申し訳ないがダメだ。
海未「し、紫音さん・・・本当に大丈夫ですか??泣いているじゃないですか・・・」
紫音「うびちゃん・・・俺ね、うめぼし・・・ダメなんだよう~~嫌いなんだよぅ食べられないんだよ~う・・・」
海未ちゃんはしばらく俺の顔を見つめて何度かまばたきし・・・ぷっと吹き出した。
紫音「う~笑わないでよう~花陽ちゃんのおにぎりだから食べたいんだよ~!海未ちゃん・・・お願いだから梅干のところだけ、食べて下さい~」
海未ちゃんはしばらく可笑しそうにくすくすと笑っていたが・・・俺が涙目でおにぎりを差し出すと、笑いつつも受け取ってくれた。
海未「もう、仕方のない人ですね、梅干が食べられないなんて・・・私の弟と同じです。好き嫌いがあると大きくなれませんよ!・・・まあこれ以上大きくなってもちょっと困りますが」
紫音「うう・・・だって嫌いなんだもん。無理なんだもん。そこの赤くなってるところ全部海未ちゃん食べて!お願い!残りは俺食べるから~」
俺は梅干によるダメージで出た涙を拭きつつ、懇願した。
海未ちゃんは割箸を上手に使い赤い部分をとって、食べてくれた。
海未「はい、今日は食べてあげます!あ、これはあくまで嫌いな所を肩代わりしたのであって、か・・・間接キスではありませんから。勘違いしないで下さい!」
紫音「う~ありがとう、ありがとう海未ちゃん・・・花陽ちゃんごめんね。後は食べるからね~」
俺は残りの部分をおっかなびっくり食べ進んだ。
他の具は焼鮭とおかかだった・・・良かった。
俺の安堵した顔を見ていたのだろう、海未ちゃんが言った。
海未「大きな体をして・・・意外と子供ですね、あなたは。男の子なのに嫌いなものを食べて泣くなんて」
またくすくす笑っている。
紫音「ダメ!梅干だけはダメ!梅のガムや梅ののど飴は食べられるけど、他の梅関係は全部ダメ!」
海未「はい、わかりました。でも好き嫌いは本当は良くありませんよ。どうしても食べなければならない状況があるかもしれませんから」
紫音「う~努力します。じゃあ次、唐揚げ食べる!」
唐揚げとコロッケはアルミホイルに包まれていて、それにもカードが添えてあった。
真姫カード「紫音さん、ハッピーバースデー!いつもμ'sを助けてくれてありがとう。私のからあげなんて、まず食べられないレアアイテムなんだから!美味しいって言わないと許さないわよ!真姫」
にこカード「紫音、誕生日おめでとう。真姫のからあげ、にこが味付けしたから美味しいわよ。それからμ'sのメンバーに手を出したら・・・天罰が下るわよ!にこ」
・・・とりあえず食べよう。
鶏の唐揚げはお弁当の定番ではあるが、各家庭によって下味のつけ方が異なる。
にこ先輩の味付けは醤油と生姜が利いたもので確かに美味しかった。
コロッケも挽肉とポテトとコーンの定番だが、味は良い。
普段から料理をするにこ先輩が、必要以上に油を警戒している真姫ちゃんを監督しながら料理しているシーンを想像して、俺はちょっと笑ってしまった。
絶対微笑ましい光景に違いない。
海未「・・・どうしたんですか?にやにやして・・・」
紫音「いや真姫ちゃんとにこ先輩が協力して唐揚げを揚げてる所想像しちゃって・・・真姫ちゃんは海未ちゃんみたいに意地っ張りなところあるから、ケンカしながらかなって」
海未「・・・誰が意地っ張りですって?」
紫音「はっ・・・え?今俺、そんな事言った?ああ、言い間違えたよ!い・・いじ・・・いじられ慣れてない、って言おうとしたんだよ!あはは!」
海未ちゃんはまたもやジト目になってしまった。
紫音「あはは!じゃあそろそろサンドウィッチが食べたいな~俺!」
海未「・・・私は意地っ張りですからね!まだあげません!これを食べて下さい!」
海未ちゃんが差し出したのは卵焼きとポテトサラダだ。
凛ちゃんのカードが添えてある。
凛カード「しょーくんお誕生日おめでとうにゃ!マフラーは無理だったけど・・・こっちは凛の手作りにゃ!食べてね!これからも大好きにゃ!いつまでもそばにいたいにゃ 星空凛」
じ~ん・・・感激にゃ!
紫音「うんうん、凛ちゃんかわいいなあ・・・おっ卵焼き、ちょっと甘いけど・・・うまいよ!ポテトサラダも・・・胡椒が効いてる!美味しいねえ」
俺がむしゃむしゃと食べていると、海未ちゃんは凛ちゃんのカードを読んでため息を吐いている。
海未「・・・凛はかわいいです・・・本当にうらやましい。紫音さんも凛が・・・好きなのですか?」
紫音「うん凛ちゃんホントかわいいよね・・・大好きだよ。法律が許せば俺の妹になって欲しい・・・紅音とは良くケンカしそうだけど」
俺のセリフを聞いた海未ちゃんは・・・なんだか少しほっとしたように見えた。
しかしサンドウィッチが食べたい俺は、そんな事は気に留めていられなかった。
紫音「次こそ食べたい!サンドウィッチ!」
海未「な、何故そんなに期待してるんですか!!普通の味ですよっ!」
言いながら海未ちゃんが出してきたのは、保温ステンレス容器に入った見た目は少し赤いビーフシチュー、つまりボルシチだろう。
これにも絵里先輩と希先輩のカードが付いていた。
絵里カード「ショーン、ハッピーバースデー。いつも本当に助かっているわ、ありがとう。
今日は行けなくてごめんなさい。μ'sの活動が休みになったから、勉強したいのよ。決してあなたを蔑ろにしている訳ではないわ。
その代わりと言ってはおかしいのかも知れないけれど、希の部屋のキッチンを借りて、二人でボルシチを作ってみたのよ。あなたの口に合うかしら。
私がμ'sに入ってから、私自身もすごく変われたの。この4ヶ月、色々な事があったけど、穂乃果を支えてくれたあなたの存在、それは私も支えてくれたって事なのよ。
いつもわがままな女子高生を9人も相手に大変だと思うけど、これからも力を貸してね。Eri」
感動した・・・ちょっと涙が出てしまった。
希カード「紫音くん、お誕生日おめでとう!ウチな、紫音くんにはホント感謝してるんよ。
μ'sのメンバーは紫音くんが見てくれるから、皆どんどん綺麗に、かわいくなるんよ。感謝してる!ありがとな!
これからも仲良うしてな 東條希」
μ'sのメンバーが可愛くなる事は、俺は関係ない気がするけど・・・それはともかく、食べてみよう。
ステンレス容器は真空断熱が使われているらしく、まだ温かかった。
海未「私が今朝、温め直しておきました・・・シチューですから温かく食べたいと思いましたので」
海未ちゃんの素晴らしい仕事に感謝しながら、容器のゴムの蓋を取り、プラスチックのスプーンで口に運んだ。
紫音「おお!!うまいね!!海未ちゃん、これ美味しいよ!さすがに絵里先輩は何をしてもソツが無いな!!希先輩が野菜とか切ったのかな・・・野菜いっぱいだよ!」
俺は我を忘れて食った・・・おっと、忘れてる場合じゃないぞ!
紫音「海未ちゃん、ここだよ、このタイミングでサンドウィッチ、というかパンが食べたい!絶対合うよ!」
海未ちゃんは左手にボルシチの容器、右手に俺が読み終わった絵里先輩のカードを持ち、それに見入っていた。
紫音「海未ちゃんどうしたの?ボルシチ美味しいよ?冷めちゃうから食べなよ。それからサンドウィッチ・・・」
海未「・・・あ、すみません・・・ぼうっとしてしまいました・・・それではサンドウィッチを出します」
俺は一旦ボルシチをベンチに置き、海未ちゃんが作ったサンドウィッチが入ったバスケットボックスの蓋が開くのを拍手しながら見届けた。
あ、バースデーカード、ある。
俺は手を伸ばして海未ちゃんが書いてくれた(はずの)バースデーカードを取ろうとした。
海未「きゃあっ!!ダメですダメですダメです!!」
海未ちゃんは稀に見る素早い動作でカードを抜き取り、後ろに隠してしまった。
紫音「えええ!そのカード一番楽しみなカードなのに!!見せてよ!!」
海未「な!!何故このカードが一番楽しみなんですか!そんな嘘つかないで下さい!もう!」
紫音「いや、嘘じゃないよ、一番楽しみだよ!だって他の人はここに居ないけどさ、海未ちゃんは居るじゃん。直接もらえるんだから楽しみだよ」
海未「ちょ、ちょっと待って下さい。やっぱりこのカードは無しです!これは無かったモノとします!はい!サンドウィッチです!あ、あまり自信ないですが・・・」
そう言って海未ちゃんはバスケットを差し出してきた。
紫音「ちょ、それはないでしょ、海未ちゃん。皆のカード、俺感動したよ。俺、この半年間そんなに大した事してないけどさ、皆が俺の誕生日祝ってくれてるんだって、すごく気持ち伝わった」
俺は海未ちゃんの顔をじっと見つめた。
紫音「いいでしょ、海未ちゃん・・・笑ったりしないからさ・・・見せてよ?」
海未「・・・そ、その、皆がこんなにかわいいカードを書くとは思っていませんでした・・・ダメです、絶対に見せられません」
・・・こうなると、もうダメだろうな・・・仕方ない、サンドウィッチを食べて褒めまくるか。
紫音「・・・じゃあ恥ずかしくなくなったら見せてよ。バースデーカードにそんなに変な事書いてないと思うけどなあ・・・じゃあサンドウィッチ!頂きます!」
俺は海未ちゃんが作ったタマゴサンド、ツナレタスサンド、ベーコンレタスサンドを食べ、ボルシチと一緒に胃に流し込んだ。
紫音「海未ちゃん、朝早くから起きて作ってくれて、ありがとうね。美味しいよ、ほんとに。ボルシチとも合うよ・・・μ'sのシャッフルユニット作だね。ご馳走様です」
海未ちゃんは少し頬が朱くなり・・・やっぱりほっとした様子で言った。
海未「それなら、良かったです。安心しました。その・・・あまり料理は上手でなくて・・・本当にお粗末様でした。お腹いっぱいになりましたか?」
紫音「うん、なったよ!海未ちゃんは?」
見ている限り海未ちゃんが食べたのは俺用の3分の1くらいの大きさのおにぎりと、後のものはそれぞれ俺の半分くらいの量だった。
紫音「海未ちゃんも育ち盛りだからもう少し食べてもいいんじゃないかな?俺が食べ過ぎて少し足りなかった、って事はない?」
海未「・・・いえ、大丈夫です。まだ穂乃果とことりの分があります」
紫音「ああそうか、デザートって言ってたっけ?」
そう聞くと次に海未ちゃんが出したのは、いつものほむまんと、おはぎだった。
海未「はい、これは完全に穂乃果の手作りほむまん、ですよ。材料はお店のものですから味も大丈夫です」
紫音「はは、いつもの味かもだけど、期待値は2倍だね!」
俺は穂乃果ちゃんが書いたバースデーカードを見ながら、ほむまんを頬張った。
穂乃果カード「しょーくん、お誕生日おめでとう!私と同じ17歳だね!μ'sだと私と二人きりになるチャンスがないから、今度、私とデートしよっ!
にこちゃんがうるさいけどさ、好きだってお互い言ってなければ大丈夫だよ!きっとだよ!
あのね、しょーくんのお誕生日の事、私ギリギリまで知らなくて・・・おこづかい使い切ってたんだ。ごめんね。
それでみんなに相談したら手作り料理をプレゼントするって事になったんだ!私、一生懸命おまんじゅう作っていっぱい愛を込めておくからね!浮気しないでよ!高坂穂乃果」
・・・デートに誘われてしまった。
つい1時間前に浅草の水上バス乗り場で地団駄を踏んでいた穂乃果ちゃんが目に浮かぶ。
怒らせたかもしれない・・・手を振ったのはやりすぎだったか。
このカードを見た途端、穂乃果ちゃんに意地悪とも取れる行動を取ってしまった事を少し反省した・・・ごめん穂乃果ちゃん。
紫音「いつもほむまん食べてるけど・・・このカードを読むとなんか愛が込められてる気がするね。おはぎも美味しい」
海未ちゃんはほむまんが大好きなので嬉しそうに食べていたが・・・俺が読み終わった穂乃果ちゃんのカードを読むと、顔が曇った。
紫音「さっき水上バスに乗った時、穂乃果ちゃんに手を振ったのはやりすぎだったね。傷つけちゃったかな?」
海未「・・・そうです。だいたいあなたは、穂乃果に告白するような事を言っていたではありませんか・・・あんなに怒らせてしまって」
紫音「あはは、恋愛禁止令で告白はなくなったんだけどね・・・まあでも穂乃果ちゃんなら判ってくれると思うけど」
海未「・・・穂乃果の事、信頼しているのですね」
紫音「うん、信頼してる。まっすぐな良い娘だよね!普段がハメ外し過ぎだけど」
苦笑しながら俺は最後に残ったことりちゃんのかわいいポーチに手を伸ばした。
ポーチの中にはクッキーが10枚と、バースデーカードが入っていた。
ことりカード「紫音くん、こんにちは。おめでとうはもう言ったから・・・今日は楽しくしてますか?
昨日の事・・・これからもお友達って言ってくれた事、嬉しかった。このクッキーで海未ちゃんと紫音くんのデートを盛り上げる手助けが出来たら、嬉しいな。
でも、そんなの必要ないかな。だって海未ちゃんが男の子と二人きりで一緒にいるなんて、中学の時は絶対に無かった事だから。二人きりでいるだけで、紫音くんは海未ちゃんに認められてるんだよ。
自信持って・・・
ごめんなさい、これ以上書くと、ことりの心が千切れそう。弱くて、ごめんね。でも応援してます。ことり」
俺はカードから目を離せず、そのままクッキーを食べた。
チョコチップクッキーが、甘かった。
甘くて・・・苦しい。
いや、これを考えたらダメだ。
俺はことりちゃんの事を頭から振り払った。
ほむまんとおはぎを食べ終わった海未ちゃんが、ことりちゃんのクッキーを一つ、口に運んだ。
海未「あら、美味しいじゃないですか、ことりのクッキー。少し甘いですね。どうしたんですか紫音さん、黙り込んで。ことりのカードに何が書いてあるんですか?」
海未ちゃんは俺の手からことりちゃんのカードを受け取ろうと、手を伸ばしてきた。
俺はカードを引っ込めた。
紫音「海未ちゃんダメ。このカードは見せられないよ」
海未「なっ!どうしてですか!バースデーカードにそんなに変な事が書いてあるわけがない、と言ったのは、あなたですよ?」
海未ちゃんは少し拗ねたように言う。
紫音「うん、まあそんなに変な事は書いてないんだけど・・・ことりちゃんのプライバシーに関わる事が書いてあるから・・・ごめんね」
海未「・・・私よりあなたの方がことりのプライバシーを知っている、というのが納得行きませんが・・・仕方ありません。留学の時の事もありますし」
良かった、納得してくれた。
俺達はことりちゃんのクッキーを2枚ずつ食べ、残った分は道中に食べる事とした。
海未「あ、あとお金の事なのですが・・・」
紫音「そんなの気にしなくていいのに・・・そしたら、どうしても海未ちゃんが納得できないならこの後行く所で、何か俺が欲しいものできたらねだるから、プレゼントしてくれる?交通費くらいのものにするから」
海未「はい・・・判りました」
お金の事もとりあえずまとまり、お弁当を平らげ大分軽くなったトートバッグを持って、俺達は立ち上がった。
次の水上バスが来るまでの間、恩賜庭園内を二人で散策する事にした。
良く手入れされた花壇、アヒルや鯉が泳ぐ池、紅葉が始まりかけた木々、東京には珍しいトンボなどの昆虫を見ながらゆっくりと歩く。
池に掛かっている橋は木製で、この恩賜庭園自体が歴史の教科書に出てきそうな日本庭園の作りを踏襲している事が分かる。
今日の海未ちゃんは洋装だが・・・もし大正浪漫的な袴を着けた海未ちゃんをここに連れてきたら・・・たちまち撮影会になってしまうに違いない。
俺の脳裏に弓道着ではない華やかな袴を着けた海未ちゃんがはっきりと思い浮かんだ。
(スクフェス 園田海未SR<大正ロマン編>未覚醒 参照)
紫音「ね、海未ちゃん、写真撮らせてよ。お願い!」
日本庭園は海未ちゃんも落ち着くのだろう。
花や景観について話しながら歩いた後、木製の橋の欄干にもたれ鯉が泳ぐ様を見つめている海未ちゃんに、俺は頼んでみた。
海未「い、嫌です。恥ずかしいです」
紫音「そんな事言わないで!ね、1枚だけ!」
海未ちゃんは自分のバッグから手鏡を出し、前髪を触ったりしているのでまんざらでもない様子だ。
俺は「あと1枚!」攻撃を5回ほど繰り返し、永久保存版的な写真を手に入れた。
これ、アイドル写真屋に持ってったら買い取ってもらえるかな・・・絶対にしないけど。