ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
穂乃果ちゃん達4人から逃げ出した俺達はフロアを移動し、まずは通路の陰に隠れた。
次に俺は自分のジャケットを裏返しにして、海未ちゃんの黒髪ロングが隠れるように上から着せた。
俺自身は少々寒いがミリタリーシャツを脱ぎ、袖を使って腰に結ぶ。
お陰で上半身はTシャツ一枚になってしまった。
頭にはハンカチをバンダナ風にして巻きつけてみた。
海未ちゃんはベレー帽を脱ぎ、俺のジャケットの襟を立てた。
これならトレードマークたる黒髪ロングではなく、ショートボブにも見えるはずだ。
そして俺達はパレット街の通路に出ていたアクセサリーショップをいくつか回った。
おそらく4人は俺達がパレット街を出ると思うだろう。
その裏をかくのだ。
紫音「ごめんね海未ちゃん・・・一緒に逃げさせちゃって・・・」
海未「いいえ、いいんです・・・あの子達と一緒だと今日はずっと、からかわれて責められそうですから。明日なら学校で授業や練習がありますから、今日よりは良いはずです」
紫音「そっか・・・じゃあ明日は一人で責められちゃうかもだね・・・俺が一緒にいてフォローしてあげられれば良いんだけど・・・」
海未「まあ・・・今日二人で居て、やっと優しくしてくれたような気がします。それとあなただって、紅音さんや翠音さんに何か言われるのではありませんか?」
紫音「やっと優しくって・・・酷いな。お弁当のバッグ持ったり船乗る時手を引いてあげたり飛んだ帽子を捕まえたりしたのに・・・。あと紅音は何故か、今日俺が海未ちゃんと二人切りな事、知ってたよ」
海未「くすっ・・・そうでしたそれは確かに・・・色々と優しくしてくれてありがとうございます。しかしなぜ紅音さんが、私達の事を知っているのでしょうか?」
紫音「凛ちゃんと・・・ことりちゃんだろうね・・・たぶんだけど。あ、あの4人だよ。海未ちゃん、もっと寄って」
俺と海未ちゃんは仲睦まじい雰囲気を出すため、寄り添ってアクセサリーショップを覗き込んだ。
4人はやはりパレット街は本命ではないと思っているらしく、通路やショップをざざっと見回し、外へ出て行った。
ふ~あの4人についてこられると・・・ことりちゃんとの約束が果たせなくなる。
4人が消えたのを確認し、俺達は陳列されたアクセサリーにようやく目を合わせた。
その時ふと俺の目に止まったのは・・・弓矢のキーホルダーだった。
金色の弓や弦に青をハイライトに使った矢が美しくデザインされている。
俺は思わず手に取った。
海未「・・・それ、綺麗ですね。私も気になりました。あっ、そういえばケーキ代も出してもらってしまい・・・すみません。ケーキ代は今払います」
紫音「いいよいいよ、食べたいって言ったの俺だし」
海未「そ、そういうわけには参りません。船の料金と恩賜庭園の入園料もありますし・・・約束通り、紫音さんが欲しいものを買って差し上げます。欲しいもの、ありませんか?」
仕方なく俺はケーキ代を受け取って言った。
紫音「それじゃあこの弓矢のキーホルダー、本当は射手座の人が買うものだよね?俺はさそり座で海未ちゃんはうお座だから関係ないけど、今度の弓道の試合で二人のお守りって事にしない?」
俺はそう提案し、海未ちゃんにその弓矢のキーホルダーを二個買ってもらった。
一つは俺の、もう一つは海未ちゃんのバッグに付ける。
海未「お・・・お揃いのお守り!これは・・・よろしいのでしょうか?」
紫音「俺があげたいんだよ!恥ずかしかったらいいけど、今度の大会に持っていって欲しい」
海未「判りました・・・お守りにします。それと、急に優しくするのは・・・ズルイです」
良かった・・・断られたらかなりショックだったろうが、受け取ってもらえた。
ズルイというのは良く判らないが・・・受け取ってもらえたのだからズルでもなんでも良しとしよう。
さて、もう帰りと最終イベントの事を考えねばならない。
あの4人は去った事を確認しているが・・・これで駅に向かったら絶対に鉢合わせるだろう。
もう少し時間潰しが必要だ、と俺は判断した。
紫音「ねえ海未ちゃん、今あちこち行くとまたあの4人に見つかっちゃうからさ、観覧車に乗って時間をずらさない?」
海未「か・・・観覧車ですか。なんというか、今日はフルコースな気がします。ですが致し方ありません。次に見つかったらもっと大変な事になると思います。行きましょう」
はっきり言うと観覧車はその場の思い付きだったが、海未ちゃんの同意を得られて良かった。
俺達は観覧車の待機列に並んだ。
空はもう暮れかけており一番夕焼けが綺麗なタイミングより遅いため、俺達はそんなに長くは待たされずに乗ることができた。
ゴンドラの中で向かいに座った海未ちゃんは・・・俺に美しい横顔を見せ、窓の外を見ている。
夕焼けはほぼ終了し、夕日の残光が空を茜色から紫色に染め変えていく中、俺達の乗ったゴンドラはゆっくりと上昇する。
紫音「すっごい綺麗な紫色だね・・・ちょっと幻想的って感じじゃない?」
俺が話す間にも、茜色、薄紫、紅紫、青紫とどんどん空の色は変わっていった。
東京の空ではなかなか星は見えないが、地上を見ればまさに星の洪水が、レインボーブリッジや高層ビル群といった星座を形作っていた。
海未「すごく・・・綺麗です。この紫色は大好きです・・・あ、その、ええと・・・突然ですが紫音さんの紫の音という名前の漢字はどういう意味なのですか?」
紫音「ん?俺の名前?ああ、母さんの実家が元々楽器を作ったり演奏したりする家系でね、名前に『音』って字が付く人が多いんだよ。で俺の母さんの代からは石の名前と『音』の字を組み合わせてるんだ」
海未「石の名前?」
紫音「そう、母さんは瑠璃ってラピスラズリだね。それと『音』で瑠璃音。俺は紫水晶ってつまりアメジスト。紅音はルビーで翠音はエメラルド。そんな風に付いた名前だよ」
海未「・・・そんな意味があったのですか・・・あの・・・お話しても良いでしょうか?」
なぜか改まって海未ちゃんは切り出した。
紫音「ん?どうしたの?」
海未「まず、お誕生日、おめでとうございます。メールでも言いましたが今日は私はμ'sの代表としてお誕生会に来ているのに・・・今まで言えていませんでした」
紫音「な~んだ・・・ありがとう!海未ちゃんが来てくれて本当に嬉しかったよ」
海未「なっ!今必死で頑張っているのですから緊張するような事言わないで下さい!・・・その、ご存知かも知れませんが私は緊張すると舞い上がってしまう性格なのです」
ああ、知ってるよ~と言わないほうが良いかな・・・なんか頑張ってるようだし・・・ここは黙って聞こう。
海未「先月も緊張のあまり校内放送で園田海未役の園田海未という訳の判らない事を言ってしまい・・・恥をかきました」
ああ、そういえば確かに紅音がそんなこと言っていた気がする。
海未「それでその、今日も私の本心ではない事を言ってしまったり、言わなければいけない事を言っていなかったりするので、まとめて言おうと思いまして・・・」
海未ちゃんは俺を見つめている。
窓の外はレインボーブリッジをはじめ煌びやかな夜景が広がり、まるで海未ちゃんが星の上に居るように見えた。
空は紫紺から群青へと色を変えていく。
ゴンドラの中は照明があるが・・・それでも充分に思い出に残る光景だった。
海未「今日のコースを考えてくれて、お弁当を美味しいと言ってくれて・・・それからウェディングの写真を撮ろうと言ってくれた事、穂乃果達に責められた時助けて下さった事、本当に感謝しています」
紫音「いえいえ、どういたしまして。でもさすがにさ、穂乃果ちゃん達にあれを見られてるとは予想してなかったよね」
俺は場を和ませようと言ったのだが・・・海未ちゃんは真剣だった。
海未「そうですね・・・そして私は、誤解があるようなのでもう一度言いますが・・・あなたの事を嫌っているわけではないのです。嫌いな所がある、と言っただけです」
海未ちゃんはそこで短く深呼吸をした。
海未「むしろ穂乃果などは嫌いな所の方が多いくらいなのですが、一緒にいると安心で、一緒に居たいと思うのです。あなたは、その、頼りがいがありますし一緒にいると安心です。嫌いな点も穂乃果より全然少なくて・・・す・・・」
紫音「す?」
海未「・・・す・・・す・・・」
海未ちゃんはまた緊張しているようだ。
紫音「すす?」
海未「ススではありません!その・・・す、少なくとも嫌いな所を直して下さい!話はそれからです!」
海未ちゃんは大きな声で言い、またそっぽを向いてしまった。
話はそれからって・・・まだ何かあるのだろうか?
観覧車は16分の回転時間をもうすぐ終えようとしていた。
それはすなわち楽しかった今日が終わりを迎える事を意味していた。
俺はできるだけ明るい声で言った。
紫音「了解、頑張るよ。あのさ、もう少しだけ、時間有るかな?」
海未ちゃんはこくっと頷く。
海未「そうですね、練習や生徒会でこれくらいになる時がありますから連絡を入れれば・・・可能です」
俺はことりちゃんが用意してくれた最高の今日を、最高のまま締めくくるために提案した。
紫音「そしたら海未ちゃん、俺と弓道で勝負してくれないかな?」
観覧車を降りて俺達は電車でいつもの神田道場へ向かった。
道場には18時前にたどり着いたのだが、指導員はもう帰宅するところだった。
俺達はそれぞれ試合一週間前と二週間前である事を説明し、少しだけ練習したいと申入れた。
指導員は二つ返事で「園田さんが一緒なら」と了承してくれた。
さすがは俺の師匠の顔である・・・かわいいだけじゃない。
海未ちゃんは自宅に連絡し、道場の鍵は海未ちゃんのお母さんから明日返すという事でまとまった。
俺達はトレーニング室用に置いてある自分のジャージに着替え、備品の弓を手に取った。
今回は競射の形式だがサッカーのPK戦のように5本1セットとし、それを3回、計15本の矢を射る事とした。
待ったなしの真剣勝負である。
第1セットは1矢差で海未ちゃん、第2セットも1矢差だが、俺が取った。
第3セット・・・俺はこれ以上ないというほどに集中した。
最後もトータル1矢差で、俺は勝利した。
海未ちゃんは大層悔しそうに言った。
海未「今日は自分の弓ではなかったので遅れを取りましたが・・・自分の弓であれば負けません!」
紫音「はは、師匠、俺だって自分の弓ならもっとミスしないよ!でも楽しかったね、来週の試合の練習になってれば良いんだけど」
海未「はい、ありがとうございます!頑張れそうです!」
弓道で海未ちゃんの役に立ったのは初めてではなかろうか?俺は嬉しくなった。
海未ちゃんは爽やかな笑顔を残し着替えに行った。
俺の方が早く着替えられるのだし、二人きりなのだから更衣室を覗いてみるという手もあったのだろうが・・・その時の俺はその後の事しか考えておらず、それを全く思い付かなかった。
海未「お待たせ致しました」
着替え終わった海未ちゃんが更衣室から出て来た。
これで本当に最後である。
紫音「じゃあ今日は終わりかな。帰る前にあと15分だけ、お話良い?」
海未ちゃんは不思議そうな顔でこくっと頷いた。
俺達は道場を閉めた後、俺を先頭に神田明神まで歩いた。
境内にはまだチラホラと参拝者が居るが、いつもμ'sがトレーニングしている階段付近は運良く誰も居なかった。
俺達はそこまで歩き・・・俺は海未ちゃんを振り返った。
情けないが脚が震えているのが自分でも判る。
ことりちゃんは、どれだけ勇気がある娘なんだろう。
改めてそう思った。
しかしことりちゃんに出来て俺に出来ないとは言いたくない。
海未「紫音さん、いったいどうしたのです?顔色が良くないようですが」
海未ちゃんが大きな瞳で俺の目を覗き込む。
もう後悔はないだろうか?今日のデートでやり残した事はないだろうか?・・・いや、本当に今日は楽しかった。
そしてやっぱり、俺はこの娘が好きなんだ。
海未ちゃんの顔を見つめ、俺は覚悟を決めた。
紫音「海未ちゃん、今日は本当にありがとう。すごく楽しかった。キミが来てくれて、良かった。最後にもう一つ、聞いて欲しい事があるんだ」
海未「はい、何でしょう?改まって」
紫音「・・・ホントは今日みたいな二人きりの日がもう何回かあってからの方が良いと思うんだけど・・・海未ちゃんは部活もμ'sも生徒会も忙しいし、なかなか難しいから、今日言うね」
海未「はあ」
海未ちゃんの表情は俺が何を言い出すのか、想像がつかず不思議に思っている様子だった。
紫音「キミが俺のこと、あんまり良く思ってないことは判ってるし、さっきも悪いところを直せって言われたけど・・・」
海未ちゃんの綺麗な形の眉がわずかにひそめられる。
紫音「他の女の子に触ったり、軽はずみにかわいいとか言わないようにするし、海未ちゃんが恥ずかしくないように頑張るから、だから・・・」
俺が言葉を紡ぐごとに、海未ちゃんの表情は怪訝になっていく。
紫音「・・・だから、俺頑張るから、海未ちゃん、俺と正式に付き合って欲しい。キミが好きなんだ。俺の恋人になって欲しい・・・ダメかな?」
言った・・・ついに言ってしまった。
海未ちゃんの表情は怪訝から困惑を通り、驚愕を経て焦りへと、くるくる変わっていった。
海未「あ、あなたが何を言っているのか・・・私には判りません!私とこっ、こ・・・恋人になりたいと聞こえたように思いましたが?」
俺は昨日の自分とことりちゃんを思い出しながら、辛抱強く言った。
紫音「そうだよ、俺、海未ちゃんの事が誰よりも好きなんだ。俺の彼女になってくれないか?」
それを聞いた海未ちゃんの表情は焦りから怒りと羞恥が混ざったような・・・泣き顔になった。
目には涙が溜まっている。
海未「う、嘘です!あなたが好きなのは穂乃果です!酷いです!今日は楽しかったのに・・・本当に楽しかったのに・・・最後にそんな嘘をついて、からかって!あなたの周りには私よりかわいい女の子がいっぱいいます!」
あああ、やっぱり激しく反応してる・・・しかしパニック中の海未ちゃんに強く言うのは、逆効果だろう。
紫音「嘘じゃないよ。本当にキミが、今俺の周りに居る女の子の中で、俺の一番好きな人なんだよ」
海未「嘘!で、ではいったいいつから、私の事が好きだと言うのですか!」
この質問は自分自身でも何度と無く考え回答を用意していたので、俺はスムーズに答える事ができた。
紫音「・・・最初に道場でキミを師匠って呼んだ時・・・って本当は言いたい所だけど、その時は多分、キミの日本女性らしい部分に憧れてただけだと思う」
俺は一旦止め、涙がこぼれ落ち始めた海未ちゃんの目を見て言った。
紫音「本当に好きになったのは、ことりちゃんが留学の事で悩んでいた事をキミが知って、力になれなかった事やことりちゃんの苦しみを想像してキミが泣いた時だよ」
言いながら俺の脳裏に、あの夜の海未ちゃんの声が、俺の胸に押し付けられた海未ちゃんの頭の重みが、鮮明に蘇った。
紫音「あの時、友達の為にこんなに泣いたり怒ったりできるキミが、本当に凄いと思ったんだよ。キミにそんな風に思われたい、キミが泣かないように守ってあげたいって思ったんだ」
それを聞いた海未ちゃんは・・・完全に泣き出してしまった。
海未「う、嘘です、こんな高飛車で、暴力的で、ヒステリーで、貧相な体型で、あなたの周りの女の子の誰よりもかわいくない、こんな私をあなたが好きになるはずが、ありません!何かの間違いです!」
紫音「そんなに自分を貶める必要はないと思うけど・・・俺はそんな風には思ってないよ。キミ自身がそう思っていても、俺はキミが大好きだよ。・・・どうしても、信じてもらえない?」
海未「はい、信じられません!」
即答かよ・・・さすがに少し暗澹たる気持ちとなった。
告白しても信じてもらえなければ・・・意味がない。
この手は使いたくなかったが、使わざるを得ないだろうか・・・。
俺はことりちゃんに貰ったバッグの中にある、ことりちゃんの手紙を探し始めた。
あれ、バースデーカードが8枚も増えていて・・・暗いし、見えない。
俺がバッグを探っている間にも、海未ちゃんのすすり泣きはだんだんと大きくなってきていた。
海未「あ、あなたが何を探しているのか判りませんが、信じる、信じないの問題ではありません。私達がお互いを好きになるなんて、ダメなんです!」
海未ちゃんは数歩後退りした。
海未「・・・私は、あなたを好きになってはいけないんです!」
海未ちゃんはそう叫ぶと、そのまま身を翻えし全速力で走り出した。
紫音「あっ、海未ちゃん待って!」
バッグの中を探していた俺は完全に不意を突かれ、走りだそうとはしたものの今度は弁当箱が多数収まったトートバッグが邪魔になり、素早く走り出す事が出来なかった。
急いで体制を立て直し海未ちゃんが消えた方向へ向かったが・・・神田明神を出て見回しても、既に海未ちゃんは見えなかった。
今日は俺の17年間で一番頑張った日だと自分では思っていたのだが・・・一番大事な所で予想も出来ない結果となってしまった。
好きになってはいけないって・・・やはり恋愛禁止の事だろうか。
もしそうなら「私達は」って言ってくれても良いのでは?とも思う。
思考は完全にループとなり、見通せない暗闇に落ち込んで行くようであった。
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告白した女の子に逃げられたというあまりにも情けない現実と、思い出すら空になったように感じる弁当箱のトートバッグを持ち、俺は家路についた。
弁当箱は洗って明日、紅音に持って行ってもらうしかない。
今朝の紅音の態度から考えると、間違いなく今日の結果を聞かれるだろう。
答えた後に手痛い追い撃ちを食らう事は必至である。
しかし生まれて初めての告白だったのに、返事どころか海未ちゃんに逃げられてしまったのは・・・本当にショックだ。
誰か・・・助けて。